山妣



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初公開日(参考)1996年11月
分類

長編小説

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山妣〈上〉 (新潮文庫)

1999年12月27日 山妣〈上〉 (新潮文庫)

明治末期、文明開化の波も遠い越後の山里。小正月と山神への奉納芝居の準備で活気づく村に、芝居指南のため、東京から旅芸人が招かれる。不毛の肉体を持て余す美貌の役者・涼之助と、雪に閉ざされた村の暮らしに倦いている地主の家の嫁・てる。二人の密通が序曲となり、悲劇の幕が開いた―人間の業が生みだす壮絶な運命を未曾有の濃密さで描き、伝奇小説の枠を破った直木賞受賞作。(「BOOK」データベースより)




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山妣の総合評価:9.35/10点レビュー 31件。Sランク


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No.1:
(10pt)
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山が下した裁きの物語

明治末期の越後の山奥の村、明夜村へ江戸から二人の客が訪れる。扇水とその弟子の涼之助は村の領主、阿部長兵衛に神社への奉納芝居のために村人に芸指導をするよう招かれた、浅草の小さな芝居小屋を経営している役者だった。
借金の山を抱え、芝居小屋の経営難に陥っていた扇水に取って、越後の山奥での一仕事は、借金取り連中から一旦逃げ隠れる事が出来、その上、金稼ぎが出来るという好機であった。一方、女形を担っていた涼之助はその女性と見まがうほどの美貌を持っていたが、扇水の慰み物となり、小さい頃から芸を仕込まれていた扇水の許を離れないでいた。
阿部の屋敷には長兵衛の息子夫婦も同居していた。涼之助は不思議な魅力のもった息子の嫁のてるに惹かれる何かを感じ、いつしか密通を重ねるようになる。
また婿である鍵蔵は妻てるの魔性のような美貌の虜になり、妻が誰かと浮気してどこかに行ってしまうのではないかという不安に常に苛まれていた。
また近くの狼吠山には閉山した鉱山町跡があり、そこには山妣(やまんば)が棲むという言い伝えがあった。
山神様への奉納芝居に向けて稽古が続けられる中、それぞれの思いに変化も起き、やがて芝居当日を迎える。それは新たな悲劇の幕開けでもあった。

ああ、物語、物語。
凄まじいほどの物語の力だ。

上に概要を纏めようとしてもほんの一部を語るのに精一杯だという物語の密度の濃さだ。
上に書いた芝居の幕開けはこの壮大な物語の序章に過ぎなく、また登場人物もほんの氷山の一角に過ぎない。この序章を過ぎた後、目くるめく物語世界が開けるのだ。

特に閉山前の鉱山町の物語が始まる第二部からが本作の本当の始まりといえるだろう。この二部から出てくる遊女の君香=いさこそがこの物語の主役なのだから。第一部は単に布石に過ぎない。
第一部の物語は妙という少女から始まる。最初この少女を軸に語られると思ったがさにあらず、この少女と瞽女という歌い手として生涯独身、処女を突き通す盲目の姉琴の二人は単なるバイプレイヤーに過ぎなかったのが勿体無い。特に琴は通常ならば主人公級の人物像なのだが、その扱い方はあまりにも無残だ。琴の行く末こそこの物語が明るい色なのか暗い色なのかを決定付けているように思う。

そして第二部。これがなんともいいようがないすごい話である。遊女の身から盗みを働いて山中に篭り、渡り又鬼を手篭めにして、仮初めの夫婦となり、人の暮らしを捨て、山で暮らしていく事を決意して、又鬼から狩りを教わるいさ。女の強さをまざまざと見せつける存在感である。
20年もの間、山奥で暮らしてきたいさには人恋しさとか我が子への愛情、男女間の愛情をもはや超越した存在として語られる。しかし読者は彼女がそれらを捨て去ったのではなく心の奥に秘め、他人に決してあからさまに見せたりしないのだという事に気付かされるのだ。
これはほとんど男のストイックさ以外何物でもない。いさという女性の強さは母親の強さではなく、自然と共生する事で得た一人で生きていく事から来る強さなのだ。この強さを女性に持たせた作者の意図が面白いと思った。

翻ってこの物語に出てくる男供はどうかというと、これが対照的にどの男も弱さを抱えている。
したたかに振舞いつつ、芝居小屋復興を目指し、大きな夢を語るが実質が伴わない扇水。
世の中を斜に構えて見つめながらも、扇水の呪縛から離れる事が出来ず、また一人で生きていく術がないと惑う涼之助。
領主の息子という地位よりも村人同様の暮らしを望みながら、貧乏暮らしを選択できず、しかも妻の機嫌をいつも伺っている鍵蔵。
そして病持ちの鉱夫としてふがいない人生を送りながらもいさと山主の金を盗んで逃亡しながらも山の暮らしに耐え切れず、金を持ち去って逃げる文助。
渡り又鬼として山中を徘徊している最中に凍死寸前のいさを拾い、山神への畏れを抱きながらもいさと離れられない重太郎。
男は弱さを抱え、しかもそれを克服する事の出来ない弱い存在だとして物語は語られていく。
そしてこれら登場人物の過去と現在が語られる中、物語は獅子山という熊狩りを軸に引き寄せられるように各々、山へと向かい、そこでそれぞれの愛憎がものすごい結末へと収斂していく。

ところで本書の紹介文や帯には人の業が織成す運命悲劇というような文句がさかんに謳われている。確かに人の業の深さゆえに起こる運命劇・怪異譚は坂東氏の十八番であるが、私は本書に関してはさほど人の業が主幹として扱われているとは思えなかった。
私にはむしろこれは山という大自然が愚かな人間どもに下す鉄槌の物語だという印象が強い。いさという女を作ったのは山の厳しさである。そして山の厳しさと共存できる者、それに負ける者の物語だと強く感じた。
その証拠としてふたなりである涼之助が救われる「山ではお前なんかは珍しい事ではない」といういさの言葉を挙げたい。
自然の摂理に逆らう者、山の神に敬意を抱く者、山が下した裁きの物語。私はそう強く感じた。

直木賞受賞作の名に恥じない傑作であるのは間違いない。これで直木賞を取れなかったらどんな物語が受賞できるのかとまで思った次第だ。

Tetchy
WHOKS60S
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No.30:
(5pt)

もう1度読みたくて

板東真砂子の本はこれが初めてですが、10年程前足の骨折で入院した時この本が有り読みました。とても面白い本だったので欲しくなり購入しました。
私より5歳も下なのにもうなくなってるなんて、、、。
山妣(やまはは)Amazon書評・レビュー:山妣(やまはは)より
410414701X
No.29:
(3pt)

可の可

30年以上前の本なのでカバーに多少のスレがあるのは致し方ないとして、本体の日焼け黄ばみが他で購入した上巻よりひどかった。汚れや傷みはないけれど。
山妣〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:山妣〈下〉 (新潮文庫)より
4101323232
No.28:
(5pt)

最初にやまんばと遭遇する場面は冷や汗が出る

越後の鉱山町に伝わるやまんばの言い伝えを基軸に進む長編小説。書名の読みは「やまはは」。ねっとりとした描写でストーリーが練り上げられていき、読み応え十分。最初にやまんばと遭遇する場面は冷や汗が出る。さすがホラーが主戦場の作家。
山妣〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:山妣〈上〉 (新潮文庫)より
4101323224
No.27:
(4pt)

完成度は非常に高いが…

恐らく坂東真砂子最大?の長編。
しかも明治初期の越後の寒村が舞台で方言満載と読みにくさマックスにも関わらず、迫力満点かつ情念たっぷりの文章と、ミステリアスな構成、ハードな展開の連続で一気に読ませるのが凄い。

坂東真砂子といえば四国ネタだが、その真逆の東北の世界、しかも旅芸人や瞽女、鉱夫、遊女、マタギと閉ざされた世界をここまで緻密に描きるとは。やはりすさまじい作家。
これを読むと、「子猫殺し」の印象もガラッと変わる。ただの変人ではない。出産に対して並々ならない想いを持ってることがわかる。
冬に読んだのもあって、白銀の雪舞台と身を着るような寒さが伝わった。

ただ……坂東真砂子といえば救いのない結末が多いから、今回も覚悟はしてたのだが……大長編でビターエンドは正直言って辛い。報われない、主人公も読者も。
スケールや緻密さ、迫力の面では最高傑作と言われるのもわかるが、そういう点では推しにくいかも。狗神が一番好きかな。
山妣(やまはは)Amazon書評・レビュー:山妣(やまはは)より
410414701X
No.26:
(4pt)

山妣

明治末期、東京からやって来た旅芸人が静かな越後の山村に嵐を巻き起こした。その男の肉体に隠された秘密、そして地主の若夫婦との間に芽生えた密やかな三角関係が、伝説の中から山妣の姿を浮かび上がらせる。明らかになっていく山妣の凄絶な過去。そして熊狩りの日、山神の叫ぶ声が響き、白雪を朱に染める惨劇の幕が開いた―。
山妣〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:山妣〈上〉 (新潮文庫)より
4101323224



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