旅涯ての地



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    初公開日(参考)2001年06月
    分類

    長編小説

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    旅涯ての地〈上〉 (角川文庫)

    2001年06月01日 旅涯ての地〈上〉 (角川文庫)

    13世紀、イタリア。元王朝クビライ・ハンに仕えたマルコ・ポーロ一族がヴェネチアに帰郷した時、一行の中に宋人と倭人の血を引く奴隷がいた。名は夏桂。密貿易に失敗した彼は奴隷に身を堕とし、マルコたちに買い取られたのだった。その運命は、偶然手にした一枚のイコンによって大きく変転する。イコンは当時、邪教と呼ばれたキリスト教・異端カタリ派の所有するものであり、それはキリストの「聖杯」でもあったのだ。そして夏桂は謎の女伝道師マッダレーナに導かれ、信者たちの隠れ住む“山の彼方”へと旅立つが…。荘厳な歴史ロマン大作。(「BOOK」データベースより)




    書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

    旅涯ての地の総合評価:9.00/10点レビュー 11件。Aランク


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    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (9pt)

    信仰の危うさ

    上下巻820ページ弱の本書は、13世紀の日本、中国、モンゴル、ペルシア、イタリア、そしてアルプスの村落と舞台は移りゆく。日本の古き因習に囚われた業の深い人間とその怪異現象を村や町といった閉鎖空間で物語を紡ぎ出してきたこの作家にしては珍しい作品である。

    13世紀の街並みを匂いすら感じさせるほど緻密に描いた本書はしかし、当初私はなかなかその物語世界に没入できなかった。似たような名前が多いのと、外国の街並み・生活風景がなかなかイメージと結びつかなく、特に第1章は正直、字面を追うような感じだった。また夏桂の人物像、特に物事の考え方に共感しがたいものがあったのも一因だったのかもしれない。
    しかし物語が急転する第2章以降はそんな事は気にならなくなり、のめりこむことが出来た。特に第3章からはアルプスの麓の村落での生活という閉鎖空間での話になったのが大きな要因だったように思う。

    特に第1,2章を合わせたヴォリュームで語られる第3章の印象は強烈で、第1章で出て来た主要人物は吹っ飛んでしまった。上の梗概を書くために紐解いた時にああ、こういう人物もいたなあと思ったくらいだ。実際、坂東氏もここから筆が乗ってきたように思う。
    本書の時系列は第1章→第3章→第2章という構成になっている。第2章では<善き人>たちの安住の地<山の彼方>が今や廃墟になり、そこに一人、老人となった夏桂が住んでいる様子が描かれ、つまり事が起こったその後が語られる。そこではかつて異端審問者として<善き人>どもを排除しようとしたヴィットリオが現れ、マルコ・ポーロが逃亡した夏桂たちの追跡行が書簡の形で語られる。ここでの結末を読んだ時、私はこの小説が上下巻ではなく、1冊のみだと錯覚してしまった。上巻のみで物語は完結してもいいぐらいだった。しかし下巻で語られる逃亡した夏桂の<善き人>の里<山の彼方>での暮らしぶりと、何故のこの里が退廃するに至ったかが語られるに至って、最後の隠された謎、何故夏桂が老後にこの地に戻ってきたのかが解るのだ。

    この上手さには参った。私の中でここで俄然評価が高まった。
    しかし、個人的にはここで夏桂が何を待っているかを述べて欲しくはなかった。読者に悟らせる形を取って欲しかった。その方が心に深く残る。これが惜しかった。

    物語の核となる「マリアの福音書」には男女が交わる事の神聖さ、尊さを謳っていた。これは肉の慾を穢れと忌み嫌う<善き人>の信仰を根本から覆す物であった。
    しかしこれは全く以って当然のことである。全ての生きとし生けるものは子孫繁栄を第一義としておいてあるからだ。しかし信仰が過剰すぎるとそういう万物の原理そのものが目くらましになり、汚らわしい所のみクローズアップされ、歪められる。マッダレーナが末期に述べるように、男女が交わる事は決して穢れではなく、それを淫らに、奔放に娯楽として楽しむ事こそが穢れなのだ。

    読中、人は生まれたその瞬間から死に向かっている、という言葉をふと思い出した。だからこそ人はいかに生きるかが大切なのだが、ここに出てくる<善き人>たちはいかに生きるかよりもいかに死ぬか、死んだ時に救済が得られるよう、信仰の教義に従って己を殺して生きている。
    しかし、それが実は己の欲望を際立たせ、強く自覚させている事に他ならない事を最後に気付くのだ。生きる事は欲望の闘いの連続である。だからこそ自分を正当化するためにごまかしたりもする。それを他人から知らされた時に人は自分の信じていた基盤を失う。信仰というものが人が生きる支えであると同時にいかに脆い物かをここで作者は語りたかったのだろう。これは土俗的な信仰が根強く残る村社会で起こる悲劇を描いてきた坂東氏にとって新たなる展開であると思う。

    しかし作者は信仰に囚われない夏桂その人も自由人としては描かない。むしろ自分で気付かない何物かに縛られて、流されてきた人物として描く。教義に従って欲望を抑圧して生きる者たちを嘲笑しながらも、完全に否定出来ない、むしろ何故これほどまでに真摯なのかと思い惑うのだ。
    そして彼も最後には囚われの身として彼の地<山の彼方>に帰ってくる。マッダレーナの遺言を全うする事、それこそ彼が唯一得た信仰だったのかもしれない。そしてその信仰は、やはりマッダレーナへの愛情だったのだろう。

    惚れてはいないが魂の尻尾が縛り付けられている。
    それは恋ではなく愛であったことを彼なりに不器用に表現していると私は思うのだ。


    Tetchy
    WHOKS60S
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    ※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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    No.10:
    (3pt)

    読みにくい

    上巻は非常に読み難い。遅々として進まない。さほど面白くもない。ネットで調べると、マルコ・ポーロの遺書にはタルタル人奴隷を解放しなさいと書いてあったとか。なんですと、夏桂は実在の人物かモデルがいるわけ?
    旅涯ての地〈上〉 (角川文庫)Amazon書評・レビュー:旅涯ての地〈上〉 (角川文庫)より
    4041932068
    No.9:
    (3pt)

    下巻は読みやすいし面白い

    リズムに文体、夢の跡にひとり残った夏桂の瞑想場面など船戸与一の小説を読んでいるのかと錯覚しました。キリスト教裏面史みたいなのが絡むと俄然物語が面白くなる。
    旅涯ての地〈下〉 (角川文庫)Amazon書評・レビュー:旅涯ての地〈下〉 (角川文庫)より
    4041932076
    No.8:
    (5pt)

    圧巻

    最終章であるマッダレーナの最期を看取るシーンから、主人公が老いてマッダレーナを回想し永遠の安らぎと幸福を実感するまでの文章は圧巻。主人公と一体になってその安らぎと幸福を自分にもたらすこの美しい文章をぜひあなた自身で体験して欲しい。人生が一段と豊かになった気分の読後感です。ありがとうございました。
    旅涯ての地〈下〉 (角川文庫)Amazon書評・レビュー:旅涯ての地〈下〉 (角川文庫)より
    4041932076
    No.7:
    (5pt)

    対比の中で描かれる性・文化・宗教など

    物語の主眼は第三部にあります。宗教・民族・文化といったマクロな要素と、人間の性愛と良心といったようなミクロな要素の複雑な絡み合いの中で、東方から来た主人公夏桂と異端のカタリ派に帰依したマッダレーナを対比していきます。

     ローマ教会の異端審問官一行の到来という最大の危機を前に、続々と城を離れる信徒たちをよそに、慫慂として居残り、一人死を迎えるマッダレーナを見て、夏桂は何を思ったか。「マリアによる福音書」の記述は、彼女にどのような影響を与えたのか。
     アルプスの山間の村ののどかな暮らしの描写から始まった第三部は、極めて荘厳な終結を迎えます。展開のおもしろさ以上に、いろいろ考えさせられる作品です。
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    4041932076
    No.6:
    (5pt)

    東の果てから西の果てへ

    初めて海外を舞台にした坂東作品を読みました。日本人の作家が、この時代のこの地域を舞台にして小説を書くのは、決して容易なことではなかったでしょう。
     浮き沈みの大きい人生を送ってきた、日本人の血を引く主人公夏桂が、大都からの帰還中のマルコ・ポーロ一行に同行し、ベニスで奴隷として働き始めるところから話が始まります。この設定だけで私は相当な新奇さを覚えました。
     歴史上実在した人物は出てくるものの、先の展開が全く読めないまま、引きずられるように読み進みました。相変わらずな即物的な表現は、多少気になりますが。
     全体の構成も斬新です。第1部と第3部はそれぞれベニスとアルプスの麓を舞台に夏桂が語りますが、間の第2部は、「マリアによる福音書」をめぐるローマ教会と異端のカタリ派との抗争に巻き込まれた夏桂が、運命に翻弄されるかのように逃げ回る様子が、追う側の往復書簡の形で綴られています。

     日本人を母に、漢人を父に持つ主人公が、ルネッサンスの足音が聞こえてくる中世末期のヨーロッパをさまよいながら、様々な素性の人たちと出会い、交流し、議論し、そして別れていく。何ともわくわくするような展開です。同行する、禁欲的で敬虔な女性マッダレーナとの対比も非常に印象的です。
     「狗神」や「死国」といった一般受けする作品を読んで喜んでいた頃の自分がほろ苦く思い出されるような、スケールと深さのいずれにおいても圧倒される大作です。
    旅涯ての地〈上〉 (角川文庫)Amazon書評・レビュー:旅涯ての地〈上〉 (角川文庫)より
    4041932068



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