密やかな結晶
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| 古びない名作。本当に素晴らしい。 | ||||
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| 講談社にも連絡済みで次回重版で正しい表記に変更されるそうですが、Amazonで購入した2022年3月30日第7刷62頁の後ろから4行目に「瓜切り」とあり、文脈的に「爪切り」だと思う誤植が残念でした。 | ||||
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| 相変わらず静かな物語 消失を書くことによって 消えゆくことのない結晶を 明らかにしたのだと思う | ||||
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| 私の中ではまさしく小説が消滅しているのかもしれないです。 美しい文章だと思うのですが、無味無臭の鉱物でも噛んでいるような感じで、最後まで憂鬱でした。 おじいさんの存在だけが救いでした。 | ||||
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| 物とそれにまつわる記憶がすこしずつ消失していく島に暮らす語り手=小説家が、記憶を保持する少数派の存在である編集者を自宅に匿い、記憶を保持する者を狩る秘密警察から守ろうとする……という筋書きである。すこしずつ何かが喪われていくという世界観自体、ある種甘美な響きがあり、淡々と喪失を受け入れながらも編集者の世話を甲斐甲斐しくする小説家の姿には、純愛に似た感動をもたらすかもしれない。だが、この小説はそれにとどまらない。 そもそも小説家と編集者の関係はすこしおかしい。独身女性である小説家は編集者にたいして敬語で接し、まもなく子供が生まれる妻帯者の編集者は小説家にたいして余裕のあるタメ口で接する。ここに非対称関係があるうえ、小説家はどうやら編集者に恋愛感情をもっているらしいということも早い段階でわかる。そのような存在である編集者を、小説家はいかにも献身的な素振りで自宅に匿うのだが、これはかならずしも純粋に無私の行為であるとはいえず、編集者を妻子から引き離し「監禁」するものとしても読める。事実、編集者を「飼育」に近いかたちで世話をしながら、主導権の多くは自身にあるにもかかわらず脆く弱い存在として編集者に頼り、小説家は情愛を深めていく。ここに男女の力の非対称性を逆転する、倒錯的な性愛を見出すことができる。 いわば小説家は「信頼できない語り手」の一種であり、彼女が編集者を保護するのは献身なのか欲望なのかじつは曖昧であるというのが、この物語のキモでもあるだろう。そもそも世界から消えていくもののリストがおかしいのだ。エメラルドに香水に、ハーモニカにラムネに乗車券に、鳥に写真にカレンダーに……とそれは、いかにも「少女趣味的」な対象であり、そのリストにけっして水虫や梅毒や白血病や、トコジラミやバクテリアや性具や鼻糞が入り込む余地はない。あたかも世界が消失する対象を意図的に選んでいるかのようで、それは語り手=小説家の趣味にいかにも近く、この語り手がどこまで正直に語っているのか読者には判断がつかない。 さらに、小説家が書き進めている小説内小説の筋書きともシンクロする。小説内小説では本筋の物語とは逆に(というかオーソドックスに)、タイピングの教師である男が受講生である女をしだいにコントロールし、声を奪い、ある部屋に監禁して支配するというものだ。これが反転したかたちで、本筋の小説家(支配する側)と編集者(支配される側)の関係性を形作っているともいえる。 小説内小説では最後、声を奪われた女は支配された末に監禁部屋のなかで存在を消すが、本筋の物語では、支配されていた男(編集者)が、声だけ残された支配者である女(小説家)から解放されて、女の肉体をさまざまな物品とともに残したまま監禁部屋から外に出る。谷崎潤一郎『刺青』のように、支配する側がいつのまにか支配される側に転化するようなフェティシズムをここに感じることもできるだろう(足にたいするこだわりも谷崎を思わせる)。だが、あくまでも一見、非力である女が、潜在的に男を閉じこめ、支配し、愛でたすえに、肉体を失いながら男に記憶のコレクションのひとつとして部屋に取り残されるという点に、谷崎にはない、性愛のあらたな展開がある。『密やかな結晶』をたんなる美しいディストピア小説で終わらせない魅力はここにある。 | ||||
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