ミステリの感想 新着順

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怪奇ホラーの手前で踏みとどまっているのが良い。

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デイリーミラー紙の新人賞とCWA新人賞で最終候補になり、いくつかの賞を受賞したイギリス女性作家のデビュー作。犯罪史や生物学、解剖学に没頭する13歳の少女が同級生の死体を発見したことから街を震撼させた猟奇殺人の謎を解くダーククライム・ミステリーである。交通事故で死んだ動物を収集した死体置き場を作り、死がもたらす変化を冷静に観察・記録するエイヴァが見つけたのは同級生でいじめっ子のミッキーの死体だった。放置して置けないと思ったエイヴァは大人の声色を使って警察に通報する。デライエ刑事部長が指揮するチームが捜査に乗り出したのだが、ほどなく行方不明だった少年の死体が見つかった。さらに奇妙なことに、どちらの死体にも首に深い咬み傷がつけられていた。その後も同様の事件が発生し連続猟奇殺人事件の様相を呈してきた。さらに街では人間とも獣ともつかぬ怪物の目撃情報が相次ぎ…。自分の知識だけを武器に真相解明に乗り出すエイヴァの存在が際立つ。従順な親友のジョンを助手に独自の調査と推理を展開し、ときにデライエ刑事部長に的確なアドバイスを送るだけでなく、いざとなると自ら渦中に飛び込んでいく。それでいながら、時折は思春期の少女らしさも垣間見せる。これまでのミステリーにはなかった特異なキャラクターで強烈な印象を残す。さらに怪物としか言えない犯人の性格が形作られる過程の解明も、また考えさせられるものがあった。怪奇ホラーに堕することなく、社会派ミステリーの味わいもあるエンタメ作品として、自信を持ってオススメしたい。

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人はそれぞれの過去を背負って生きていく

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「元刑事コーク・オコナー」シリーズで人気のクルーガーのシリーズ外作品。ミネソタの森林地帯の田舎町を舞台に、まだ戦争の傷が癒えていない人々のドラマを描いたヒューマン・ミステリーである。1958年、ミネソタの田舎町の川で大地主であるジミーの射殺死体が発見された。ジミーは町一番の悪名高い男で、その死を残念がる人はいなかったのだが、ジミーの農場で働いていた先住民のノアが容疑者に浮上すると人々は一転し、町は一気に憎悪に包まれた。保安官・ブロディの調べにノアは一切応えようとはせず、無実を主張することもなかった。状況証拠は圧倒的にノアの有罪を示しているのだがブロディは納得できず、事件を起こした要因を丁寧に掘り起こして行く…。まだ戦争の記憶が生々しく残る時代、ミネソタの田舎町でも人々はそれぞれの傷跡、葛藤を抱えつつ必死で生きようとしていた。そこで生まれる緊張や憎悪、軋轢、あるいは情愛を作者はドラマチックに描き出し、静かながらも奥深いストーリーが展開される。物語の基調には社会的不公平、不正義、戦争への強い怒りが窺える、骨太の社会派ミステリーである。読み終わった後、さまざまな思いが生まれる傑作であり、多くの人にオススメしたい。

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26年ぶりに復活!

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久しく邦訳が途切れていた「マイロン・ポライター」シリーズの第12作。日本では第7作「ウィニング・ラン」以来の復活で、オールド・ファンには懐かしく、シリーズ未読の人にも違和感なくその世界に入っていける極上ミステリーである。スポーツエージェント兼探偵であるマイロンの事務所に来たFBI捜査官が「グレグ・ダウニングの居場所を教えろ」と言ってきた。グレグは三年前に東南アジアで死亡し、マイロンは追悼式に出ている。戸惑うマイロンに、FBI捜査官はグレグは元スーパーモデル殺害の容疑者で、現場には彼のDNAが残されていたと告げた。やむを得ずマイロンはグレグが死を偽装して身を隠したのか否か、共同経営者のウィン、元同僚で弁護士のエスペランサの手を借りながら真相を探り始める…。学生時代からバスケットのライバルで私生活でもさまざまな因縁があるグレグは、なぜ姿を消したのか? 同時に元スーパーモデル殺害から徐々に明らかになってくる連続殺人の犯人は誰か? 二つの真相解明ストーリーが絡み合いながらテンポ良く繰り広げられ、先が読めない展開にワクワクさせられる。さらにマイロン個人やグレグの家族関係・人間関係が話の奥行きを広げ、物語性を深めている。シリーズ未読でも戸惑うことはない。P.I.もの王道を行くエンターテイメント作品であり、多くの人にオススメしたい。

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華やかなスタート、しょぼいクライマックス

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2023年のネロ・ウルフ賞最終候補になった作品。南アジア系女性作家・カーンのブレイク作で、「イスラム教徒の女性刑事・イナヤ」シリーズの第1作である。コロラド州の田舎町で、シリアからの移民イスラム教徒の少女が磔にされて殺されているのが発見された。担当するデンヴァー警察地域対応班の女性刑事・イナヤが捜査を進めると、さらに二人のソマリア移民の少女が行方不明になり、家出として処理されているのが分かった。二つの事件は繋がっていると確信したイナヤは地元イスラム移民のコミュニティを頼りに捜査を進めるのだが、白人至上主義者である地元保安官は非協力的で、さらに街を支配する白人至上主義者たちや福音教会からも妨害される…。イスラムの少女がモスクの扉に磔にされるという派手なオープニング、捜査の出だしからイスラム女性刑事が白人至上主義者の地元保安官と対立し、さらに福音派教会やその配下のバイカー集団も加わり、先の読めない警察ミステリーへの期待が高まる。がしかし、話に恋愛要素が入り始めた途中からは、どうにも締りがない展開でがっかり。白人が支配する街にどんどん流入する移民、難民の苦悩と闘いという重要なテーマがぼやけてしまったのが残念。そんな中で、弱い立場の人たちのために奮闘する3人の女性、刑事イナヤ、メキシコ系の同僚刑事でプロファイラーのキャット、黒人弁護士のアリーシャは強く印象に残った。アメリカで絶賛されたとのも納得できる。人種、民族、宗教間対立という日本人には馴染みが薄い背景に戸惑うが、現代社会が抱える難問に正面から挑んだ意欲作であり、一読をオススメする。

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差別と暴力が支配する街で戦う二人の女性警官のバディもの

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叔父も兄も警察官という血筋に導かれて警官になった、貧乏白人街育ちのマギー。裕福な地区育ちながらベトナムで新婚の夫を亡くし、自立するために警官になったケイト。対照的な二人が反発し合いながらも力を合わせて連続警官殺人の正体を暴く、警察ミステリーである。1974年のアトランタ、3ヶ月間に4人の警官が殺され、犯人は警察内部では「アトランタ・シューター」と呼ばれていたのだが、5人目の被害者となったのはマギーの兄・ジミーの相棒だった。事件現場にいたジミーも疑われる状況になり、マギーは兄の無実を証明しようと躍起になる。そんな最中に配属された新人警官ケイトは外見も態度もおよそ警官らしくなく「羊」とあだ名を付けられ、周囲からは「1週間持たないだろう」と言われた。だが、マギーと組まされたケイトは意外な対応力を発揮し、女性差別や人種差別が大手を振ってまかり通る警察内部では公然と「女は警官になるな」と言われていたのだが、マギーとケイトが独自の視点から捜査を進め、犯人を追い詰めて行く。警官のバディ物語はいくらでもあるが、70年代のアトランタという保守的な街での女性バディものというのが目を引く。さらに犯人探しの謎解きも破綻がない。後年のスローターに特徴的な被害の残酷さが強調されていないのも良い。シリーズ外の単発作品なので、スローターの世界の入り口に最適とオススメする。

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最後の魔法の感想

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どういう話になるのかまったくわからないまま読み進めていたのですが、結末は見事でちょっと感動しました。作者の『誰が勇者を殺したか』と同じく、ミステリーではないものの、物語にミステリー的な技法を取り入れることで読者の印象に残る構成になっています。最後まで読んで、ぐっと評価が上がった作品。タイトルにもなっている「最後の魔法」とは何なのか。その問いが最後まで読む力になっている一方で、本書の本当の良さは、作者の作品らしい「人を想う気持ち」の描き方にあると思います。その部分がとても綺麗に描かれていて好みです。一方で、『誰が勇者を殺したか』と近いテーマや構造を感じる作品でもありました。主要人物を勇者から魔法使いへ置き換え、その成長を周囲の視点から描いていく構成には、かなり近い味わいがあります。ただ、本作はファンタジーやライトノベル好きに向けた作品というより、読書が好きな小中学生にも読んでもらいたくなるような、児童文学的な良さがあります。その点で似た構造を持ちながらも、きちんと違う魅力を持った作品でした。努力することの大切さや、日常の尊さも再認識させてくれる、とても良い作品でした。

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