ミステリの感想 新着順

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桜木紫乃にしか書けない、凶悪犯の関係者の救いのない苦悶。

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1979年(昭和54年)の三菱銀行人質立てこもり事件に材をとったドキュメント・フィクション風ノワール。犯人と同じ30歳の新聞記者が事件の動機や背景だけでなく、犯人と家族、交際相手に焦点を当てて犯人像を追求するプロセスがリアルでダイナミックに迫ってくる傑作エンタメ作品である。三菱銀行支店で起きた事件の現場に駆けつけ、記事を書いた海原は事件終結後、新聞記事ではなく出版物としてまとめる仕事を任される。ベテラン上司の近藤にシゴカレながら、単なる事件報道ドキュメントではなく、同い年だった犯人の人間を問う作品にしたいと苦心する。犯人の遺骨を持ち帰る母親ににじり寄り、最後の交際相手だった女性を追いかけ、犯人のリアルに近付こうとするのだが、取材を進めるほどに犯人より母や交際相手の女性たちの生き様が海原の頭を占領してくるのだった…。現実の事件は実に醜悪で、それこそ異常な人物の犯行と解釈しないと収まりが悪いのだが、そこを敢えて「異常に非ず」と構えることで小説としての深みが出てきている。こういう男女、親子関係を描かせると桜木紫乃は実に味わいがある。サブストーリーの海原と妻の関係性の波風も、よいアクセントになっている。ドキュメント・ノベル、ノワールのファンにオススメする。

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一冊で二作品が読めるのが評価されたのかな?

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「カササギ殺人事件」で大ブレイクしたホロヴィッツ「スーザン・ライランド」シリーズ(と呼ばれてるらしい)の第2作。カササギの2年後、スーザンが再び「アティカス・ピュント」シリーズの一作をヒントに二重殺人の謎を解く、アガサ・クリスティへのオマージュ溢れる本格ミステリーである。クレタ島に移住し、婚約者とホテルを経営しているスーザンのもとにイギリスで豪華ホテル「ブロンロウ・ホール」を持つ裕福な夫妻が訪れてきた。アティカス・ピュントの「愚行の代償」を読んで、8年前にホテルで起きた殺人事件の真相を掴んだと言った娘・セシリーが直後、突然姿を消したので探して欲しいという。しかも報酬は極めて高額で、自分のホテル経営に四苦八苦するスーザンには到底断れるはずはなかった。自分のホテルはパートナーに任せ、勇躍イギリスに飛んだスーザンだったが、調査は思うようには進まず、セシリーの姉・リサからはとっとと帰るように厳命された。窮地に陥ったスーザンが再び「愚行の代償」を読み返してると、突然、真相が明らかになってきた…。カササギ同様、現在進行形の物語と旧作小説の謎解き、二つの犯人当てミステリーが一冊に収められたスタイルである。しかも二つのミステリーがそれぞれに完成度が高く、そこが一番評価されたのだろう。ただ、個人的には2つの話の連関がめんどくさく、スムーズに楽しめなかった。カササギを堪能した方、英国の古き良き謎解きを愛する方にオススメする。

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他人の悲劇をエンタメにしてるのは、無自覚なあなたではないか。

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短編の名手とされるマカーイの長編ミステリー。母校から短期講師に招かれたポッドキャスターが20年以上前に殺されたルームメイトの事件の真相を探る謎解きミステリーである。映画論のポッドで有名になったボディは母校である寄宿制高校の講師に招かれ、二十数年ぶりに母校を訪れた。学生時代、ボディのルームメイトで美貌の少女・サリアが殺害され、プールに浮いているのが見つかった事件があった。黒人のトレーナー・オマーが逮捕されて事件は終わったとされたのだが、明確な物証がなかったため、いまだにオマー犯人説を疑う素人探偵たちが引きも切らずネット上を賑わせていた。事件の現場に戻ったボディは、オマーは冤罪ではないかとの疑問を持ち、当時を回想すると共に関係者を訪ね歩く・・・。悲劇の犠牲者、とりわけ白人少女を偶像化し、エンターテイメントとして消費する風潮はSNS時代になって過熱する一方で、素人探偵たちの妄想、暴走は止まることがない。ポッドキャスターであるボディは、その当事者であるとともに被害者の関係者でもある点が物語に深みを生んでいる。学生時代の自分を回顧するときのヒリヒリする痛み、未熟ゆえの後悔、無意識に身につけていた偏見など、ボディの心の揺れは読者を揺さぶらずにはいない。殺人の謎を解くミステリーとしても完成度が高く、さらにジェンダー不平等、人種差別、正義の暴走などさまざまな課題にも切り込んでいる。最初はモタモタして読みづらいが、終盤になってからはどんどん面白くなってくる。諦めずに読み進めることをオススメしたい。

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今回も大満足!

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レネイ・バラード・シリーズ第6作。主役はバラードだが、いつものメンバーに加えてボッシュとボッシュの娘のマデリンまで活躍する豪華絢爛の警察ミステリーである。早朝サーフィン中に車上荒らしに逢い、大事なバッジ、拳銃、IDカードまで盗まれたバラード。同僚や上層部に知られる前に取り返すべく奮闘するのだが上手くいかずボッシュに助けを求めた。また、本来の仕事である未解決事件捜査では、20年以上前の連続強姦殺人のDNA検査で浮かび上がったのはなんと上級裁判所長官だった。さらに、ボランティアを志願してチームに加わったマデリンが独自捜査であのブラック・ダリア事件の犯人を特定できたという。三つの重要事件を並行して進めるバラードは警察・検察内部の政治力学に悩まされながも奮闘し、全ての真相解明に近付いていく・・・。74歳になるボッシュが少しも衰えず、さらに娘のマデリンが鋭い捜査センスを発揮し、これまで以上にワクワクするサスペンス・ミステリーである。バラードの未解決班指揮もずいぶんこなれてきて、癖が強すぎるメンバーを使いこなしているのが微笑ましい。最後、バラードの身辺に大きな変化がありそうなエピソードを配置し、次への期待を高めているのもお見事!マイクル・コナリーのファンには文句なしのオススメである。

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交換殺人に新機軸、読み応えあり!

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「弁護士の血」以来、11年ぶりに邦訳されたキャヴァナー作品。交換殺人というありがちな設定に新機軸を導入した傑作サスペンスである。一人娘を誘拐殺人され、それに責任を感じた夫まで自殺で失ったアマンダは、有力容疑者でありながら金と権力で法の裁きを免れたウォレスに復讐を試みるも失敗。それでも諦めきれず、グループセラピーで出会った同じような経験を持つナオミに交換殺人を持ちかける。ナオミは承諾し、お互いにチャンスを窺ううちに、ナオミから「ウォレスを殺した」と告げられた。アマンダは約束を守るため、ナオミに依頼されたクウィンを殺害しようとする。一方、不動産業に勤務するルースは夫が留守にした夜、暴漢に襲われ瀕死の重傷を負い、その恐怖から夫と共にホテルに閉じこもっていたのだが、気晴らしに出たレストランで犯人と同じ目をした男を目撃しパニックになる。ナオミとルース、二人の女性がそれぞれの復讐を果たす二つのエピソードが交互に展開し、どんどんサスペンスが高まっていく。さらに途中から誰が正義で、誰が騙しているのかが錯綜し、謎は深まっていく。名作「見知らぬ乗客」へのオマージュであり、それを越えるサスペンスを生み出した大傑作。交換殺人ものに新たな地平を開く作品として、多くのミステリー、サスペンスファンにオススメしたい。

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ミステリーというより、家族を見直す人間ドラマかな

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美術学修士で大学で創作を教えている女性のデビュー作。母親の介護のために故郷に戻った鳥類画家が、ずっと心にわだかまっていた父親の死にまつわる謎を解き、家族の関係を変化させる物語である。スミソニアン博物館で鳥類画家として活躍していたロニは母が介護施設に入ったため、介護休暇を使ってふるさとのフロリダに戻らざるを得なくなる。2週間で戻るつもりだったのだが、母の荷物を片付けていて25年前に溺死した父親の死に不明瞭な点があることを示唆するメモを発見。漁業局の野生動物保護観察官でフロリダの湿地を知り尽くしていた父が溺死したことにかねてから疑問を抱いていたロニは実情を探ろうとする…。自殺したとされ、家族でも話題にすることを避けていた父の死。長年の疑問を解くためにロニが頼るのは関係者たちの証言のみ。捜査権限はなく、捜査の知識もないためロニの調査は遅々として進まない。事態の朧げな姿が見えるまでの展開がスロー過ぎてサスペンスはゼロ。ギクシャクする母親や歳の離れた弟、その妻との人間関係、父親コンプレックスが事細かく描写され、はっきり言って半ばまでは退屈。最後の真相究明もあまり説得力はない。ミステリーというより、家族とは何かを模索する女性の人間ドラマとして読むことをオススメする。

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期待が高まる新シリーズが始まった

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日本では「警部ヴィスティング」シリーズで知られるノルウェーの人気作家ホルストが新たに若い作家と組んで発表した新シリーズの幕開け作。犯罪関連のポッドキャスターが15年前の少女失踪の謎を解くP.I.ミステリーである。ノルウェーの田舎町でポッドキャスト番組「クライムキャスト」を聞いていた地元紙の臨時記者・マチルデは、15年前に7歳の少女が行方不明になった事件に興味を引かれた。少女の死体は発見されなかったのだが、父親が逮捕され、服役中に自殺したという。番組は「次回の予告」を最後に更新されておらず、気になったマチルデは番組ホストのマルクスに問い合わせたのだが相手にされなかった。めげないマチルデは独自に調査を始め、判明したことをしつこくマルクスに報告して来た。煩わしく感じていたマルクスだったが、マチルデ山で遭難死したのをきっかけに自分でも調査を再開する。そこで情報を頼ったのが、3人を殺害した罪で服役中の実父・フランクだった…。警察ではない、ただのポッドキャスターが粘り強く関係者に聞き込みを続け真相に辿り着くまでがリアルで熱い。さらに父親の食ないキャラクターが、単なる探偵ものではない彩りを添えて味わい深い。謎解きの展開は論理的で分かりやすく、スイスイ読み進められる。事件は解決するのだが、主人公のマルクス、父親のフランクにまつわる謎は残されたままで、次回をお楽しみに。未解決事件に挑戦するのは「警部ヴィスティング」シリーズ同様だが、またひと味違うテイストで楽しめる。ヴィスティングのファンをはじめ、北欧ミステリーのファンにオススメする。

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一作目よりテンポもよく、キャラに好感が持てて良かった

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ドイツの人気警察ミステリー「トム・バビロン刑事」シリーズの第二作。国際映画祭のオープニングで上映されたスナッフ・フィルムにまつわる深い闇を手探りで解明するノワール・ミステリーである。ベルリン国際映画祭の開会式場で、若い女性が殺されるスナッフ・フィルムが上映された。しかも殺されたのは女優を目指すベルリン市長の娘であることが判明した。フィルムは目出し帽の男が持ち込み、映写技師を脅迫して上映させたという。誰が、何のために上映させたのか? さらに、関係者の娘が誘拐される事件も発生し、捜査は混迷を深めて行く…。捜査を担当するのは、前作で相棒となったトムと臨床心理士のジータ。まだギクシャクしたところは残るものの、前回よりは息が合ったコンビとなり、バディものとして完成度が高くなっている。事件の謎を解く鍵はフィルムに写っていた19という数字で、そこにはジータの古傷に繋がる18年前の出来事が絡んでいたという、前作を彷彿させる構成だが、事件の背景も犯行動機も複雑かつ精緻になり、前作の数倍読み応えがあった。トムとジータだけでなく同僚のヨー・モルテン、上司のブルックマンもキャラがくっきりして存在感を発揮しているのも高評価できる。事件は解決しても、トムとジータの過去にまつわる謎は残されたままで、次作が待ち遠しい。警察ミステリーファンには絶対のオススメだ。

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現役判事にして連続殺人犯? 驚きの犯人に圧倒される

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法廷サスペンスの第一人者・グリシャムの新作(2021年。翻訳版は2026年)。司法審査会調査官という大した捜査権限がない職員が、現役判事が連続殺人として告発された事件の謎を解く、新趣向のミステリー・サスペンスである。フロリダ州司法審査会のベテラン調査官・レイシーは匿名電話を受け、仕方なく面会した女性ににわかには信じがたい告発を告げられる。ジェリと名乗った女性は大学教授で、22年前に父親を殺害されたのだが、その犯人を突き止めたという。しかも犯人は父親以外にも複数の殺人を犯しながら、捜査の網をかい潜って逃げおおせているという。まさかの話に仰天したレイシーだが、ジェリの熱意と推しの強さに降参し、持てる範囲の権限を使った調査に乗り出さざるを得なくなった。逮捕権すらない身分で狡猾で用意周到な犯人を追い詰めることができるのか?なんといっても、判事がシリアルキラーという度肝を抜く設定だけでミステリー・サスペンスとしては成功したと言える。さらに20年以上を掛けて犯人を探し出した告発者・ジェリの狂気とも言える熱意が恐ろしい。犯人のキャラクターが圧倒的で、他の要素は全て付け足しに思えた。ノワール、サイコ・サスペンスとP.I.的調査ミステリーの両方を備えた一級品のエンタメ作品であり、多くの人を満足させること間違いなし! オススメする。

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どんどんカッコよくなってきた、ろくでなし刑事たち

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ナポリを舞台にした人気警察シリーズの第5作。パン屋殺害事件と奇妙なストーカー事件を「ろくでなし刑事」たちが素晴らしい捜査力で解決する警察集団捜査小説である。街の住民から愛されている実直なパン職人のグラナートが店の裏で射殺された。現場に駆けつけたP分署のロヤコーノとロマーノはろくに捜査が出来ないうちに、スター検察官・ブッファルディ率いるマフィア対策班に主導権を奪われてしまった。最近、グラナートがマフィアの犯罪を目撃した証言を撤回するという因縁があり、マフィアが口封じしたというのがブッファルディの主張だった。しかし、現場の状況からマフィアの犯行ではないと確信するロヤコーノはマフィア対策班に対抗し、独自の捜査を決意する…。パン屋殺しをメインに、サブとして冴えない外見の若いカップルが訴えてきた奇妙なストーカー事件が並行して展開される。二つの事案に対するP分署の面々の鋭い捜査、息のあったチームワークは、まるで87分署を見るようで一作ごとに成長するメンバーが有能な頼もしい警察官に見えてくる。同時に、各人が抱える人生のあれこれもさまざまな変化をみせ、人間ドラマとして味わい深くなっているのもシリーズならでは読みどころだ。本国では11作目まで刊行され、連続テレビドラマ放送も始まったという。次作が待ち遠しい。

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ドイツ・ミステリーの新たな注目シリーズが始まった

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ドイツ・ミステリー界の新星、マルク・ラーべの日本デビュー作。ドイツでベストセラーになった全4部作の第1作で、組織からはみ出した刑事がサイコパスを追い詰める警察ミステリーである。ベルリン大聖堂の丸天井から女性牧師が吊り下げられていた。捜査に臨場したベルリン州刑事局刑事のトムは死体の首にかけられた鍵に衝撃を受ける。それは19年前、トムが少年時代に川で発見した死体のそばにあった、17という数字が刻まれた鍵と同じものに見えた。その鍵は当時10歳だった妹のヴィオーラが行方不明になった時に持ち出したままで、それがなぜ、今頃出現したのか? 鍵の謎を追うトムの捜査は19年前から続いている深い闇に迷い込んでしまうのだった。主人公のトムは組織になじまない一匹狼でルールも倫理も無視してひたすらターゲットを追い詰める猟犬タイプ。相棒となる臨床心理士のジータは冷静沈着、度胸十分なクールビューティ。警察ミステリーにはよくあるタイプのバディものである。犯行の動機、犯罪の構成要素はサイコ・キラー色が濃く、しかも刑事・トム自体が常に妹の幻影を纏っているサイコ気質とあって、ストーリー展開を把握するのに時間がかかる。事件の舞台は壁崩壊前後のベルリンで、東ドイツ時代の組織が登場するのも味がある。警察ミステリーの宝庫、ドイツ・ミステリーの中でも出色の快作。残りのシリーズ3作が気になる新シリーズの登場である。

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主役をつとめるエリンボルクが良い。

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アイスランドの捜査官「エーレンデュル」シリーズの第7作。エーレンデュルは登場せず、いつもは脇役の女性警官・エリンボルクが主役になった謎解き警察ミステリーである。レイプ・ドラッグを飲ませて自宅に連れ込んで強姦を繰り返していた若い男・ルノルフルが自宅で殺害された。鋭い刃物で喉を掻き切られ床を血染めにして倒れた男は女性のTシャツを身につけ、その口には大量のレイプ・ドラッグが詰め込まれていた。現場に残されていたスカーフには微かにインド料理のスパイスの香りが残っていた。エーレンデュル不在で捜査の中心を担うエリンボルクは数少ない証言を拾い集め、関係者に尋問を重ね、ルノルフルの人間像を明らかにしていく。そして辿り着いた真相は…。ずっと脇役を通してきたエリンボルクが主役で、これまでさほど言及されなかった彼女の家庭が取り上げられ、その家族生活が描写されるのが面白かった。もちろん事件の謎解きはオーソドックスで破綻がなく、納得できる結末を迎える。シリーズ愛読者には新鮮なインパクトがあり、未読の方が読んでも違和感がなく、どなたにも安心してオススメできる警察ミステリーの傑作である。