ミステリの感想 新着順

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ため息を誘う、極限の暴力!

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アメリカの暴力を描き続けてきたコスビーの最新作は「ついに、ここまで」とため息を漏らしてしまう、暴力とノワールの極致である。アトランタで投資コンサルとして成功している35歳のローマンは、妹から「父さんが事故で昏睡状態になった」と知らされ、ヴァージニアの寂れた町で火葬場を営む実家に5年ぶりに帰ってきた。すぐに仕事に戻るつもりだったのだが、父の事故は、弟と地元の悪辣なギャングとのトラブルが原因の脅迫だったと知り、愛する家族を守るために交渉するも話が通じる相手ではなかった。無慈悲な暴力で痛めつけられたローマンは、やるかやられるかの戦いを決意する…。効率の良い投資知識と説得力を武器に相手を打ち負かす作戦だったのだが、悪事に長けたギャングのボスに嵌められて否応なく自分の手を血に染めたローマンが復讐のために暴力世界に堕ちていくプロセスが凄まじい。「家族か敵かなら家族を選ぶ」と断言し、躊躇なく相手を殺す主人公は「正義の暴力は許される」というアメリカの根っこが剥き出しの姿で見える。とても日本人には書けないノワールである。泥沼の展開の背景には父と母、兄と妹と弟の関係から生まれた家族の秘密、麻薬がはびこる町、没落する一方の田舎町の悲哀が見え隠れし、病めるアメリカのため息が聞こえてくる。強烈な暴力シーンがあり、救いになるはずの家族愛も砂上の楼閣のようで頼りない。まるで救いのない物語だが、今という時代をヒリヒリ感じるノワールであり、一読をオススメしたい。

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街角ハルシネーション 探偵AIのリアル・ディープラーニングの感想

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ひさびさの探偵AIシリーズ。AIが現実世界で使われるようになった今、そのAIを題材として、ちゃんとした本格ミステリに仕上げているシリーズの作風が凄いなと思います。今回もしっかりとした本格ミステリでした。今回の題材は画像生成AIです。写真家が撮影した一枚の風景写真に、どう考えてもAIで生成されたとしか思えない光景が写っている。6本指のウェイトレス、スパゲティを両手でつかむ客、そして奇妙な転び方をした男。画像生成AIでよく耳にする「指をうまく描けない」「食事をする姿を描けない」といった問題点が、そのまま現実の風景として現れたような写真でした。ところが、AIの判定では、それは現実の風景を写した写真だという。では、この写真に写っている奇妙な光景は何なのか。そこから写真の調査に乗り出すという始まりです。AIが作った偽物の中から不自然な部分を見つけるのではなく、「AIが作ったようにしか見えない現実」をどう説明するのか。この発想の反転が面白く、画像生成AIという題材を単なる流行のネタで終わらせず、きちんと本格ミステリの謎にしているところが本作ならではの魅力がありました。一見するとあり得ない光景に現実的な解答を与えていく展開は、どことなく昔の島田荘司作品を思わせます。奇想から始まりながら、最後には現実の側へ着地させる。その構造からも、本格ミステリへの愛を感じました。ただ、ここ最近のシリーズにあった大掛かりな仕掛けや奇想と比べると、今回はずいぶん小さくまとまった印象です。真相へ近づいていく過程にも、もう一段階くらい驚きが欲しかったところ。せっかく魅力的な謎なのに、その答えがさらっと明かされてしまい、十分に味わう前に終わってしまったような物足りなさが残りました。とはいえ、AIをめぐる新しい題材から、また本格ミステリの謎を作ってみせる。そんな探偵AIシリーズの健在ぶりを確認できたことが、何より嬉しかったです。

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桜木紫乃にしか書けない、凶悪犯の関係者の救いのない苦悶。

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1979年(昭和54年)の三菱銀行人質立てこもり事件に材をとったドキュメント・フィクション風ノワール。犯人と同じ30歳の新聞記者が事件の動機や背景だけでなく、犯人と家族、交際相手に焦点を当てて犯人像を追求するプロセスがリアルでダイナミックに迫ってくる傑作エンタメ作品である。三菱銀行支店で起きた事件の現場に駆けつけ、記事を書いた海原は事件終結後、新聞記事ではなく出版物としてまとめる仕事を任される。ベテラン上司の近藤にシゴカレながら、単なる事件報道ドキュメントではなく、同い年だった犯人の人間を問う作品にしたいと苦心する。犯人の遺骨を持ち帰る母親ににじり寄り、最後の交際相手だった女性を追いかけ、犯人のリアルに近付こうとするのだが、取材を進めるほどに犯人より母や交際相手の女性たちの生き様が海原の頭を占領してくるのだった…。現実の事件は実に醜悪で、それこそ異常な人物の犯行と解釈しないと収まりが悪いのだが、そこを敢えて「異常に非ず」と構えることで小説としての深みが出てきている。こういう男女、親子関係を描かせると桜木紫乃は実に味わいがある。サブストーリーの海原と妻の関係性の波風も、よいアクセントになっている。ドキュメント・ノベル、ノワールのファンにオススメする。

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全編にわたり不快指数が高い、、、けど圧倒的リーダビリティで読ませる本

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評判は以前から耳にしていて楽しみにしていました。一つは、ユーチューブで、ドンデン返しやイヤミスの代表として紹介されていたこと。そして母から、読んで後悔したと言われたこと。帯にも9億人が騙されたと宣伝文句があり、読み始めた時期も夏真っ盛りで、タイミングも相まって楽しみにしていました。いろいろな要素がミックスした作品です。死亡した少年が転生したというSF要素から始まり、犯人と目する人物と対峙するサスペンス要素、死体消失から始まるミステリ要素。だけでなく、毒親や性的虐待、犬猫の無残な死骸など、容赦ない描写が数々描かれます。表紙のような爽やかな初夏ではなく、湿度の高い不快な夏のような作品です。読みやすい文体に、緊張感のある描写など、読書入門者に向いてるでしょう。けれど前述した内容のとおり、人に勧められる作品ではないです。ミステリとしてフェアじゃない気もしました。伏線はあるにはありますが、それに気づく人はいないと思います。核心を言えば、人物誤認のトリックなのですが、これを言っても見抜ける人はいないでしょう。主人公の行動の不可解さもあり、減点して☆6としました。記憶に残る作品でありました。(何気に、S君の書いた『悪い王様』という作中作がかなり好きな内容でした。)

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一冊で二作品が読めるのが評価されたのかな?

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「カササギ殺人事件」で大ブレイクしたホロヴィッツ「スーザン・ライランド」シリーズ(と呼ばれてるらしい)の第2作。カササギの2年後、スーザンが再び「アティカス・ピュント」シリーズの一作をヒントに二重殺人の謎を解く、アガサ・クリスティへのオマージュ溢れる本格ミステリーである。クレタ島に移住し、婚約者とホテルを経営しているスーザンのもとにイギリスで豪華ホテル「ブロンロウ・ホール」を持つ裕福な夫妻が訪れてきた。アティカス・ピュントの「愚行の代償」を読んで、8年前にホテルで起きた殺人事件の真相を掴んだと言った娘・セシリーが直後、突然姿を消したので探して欲しいという。しかも報酬は極めて高額で、自分のホテル経営に四苦八苦するスーザンには到底断れるはずはなかった。自分のホテルはパートナーに任せ、勇躍イギリスに飛んだスーザンだったが、調査は思うようには進まず、セシリーの姉・リサからはとっとと帰るように厳命された。窮地に陥ったスーザンが再び「愚行の代償」を読み返してると、突然、真相が明らかになってきた…。カササギ同様、現在進行形の物語と旧作小説の謎解き、二つの犯人当てミステリーが一冊に収められたスタイルである。しかも二つのミステリーがそれぞれに完成度が高く、そこが一番評価されたのだろう。ただ、個人的には2つの話の連関がめんどくさく、スムーズに楽しめなかった。カササギを堪能した方、英国の古き良き謎解きを愛する方にオススメする。

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女性刑事の思考と行動が評価を大きく下げる

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本書は二つの視点が交互に切り替わっていく構成です。一つは、死刑判決を言い渡された浅沼聖悟が法廷で表現した「最後の一件の犯行は俺じゃない」という言葉を信じ、女性刑事が単独捜査するもの。もう一つは視聴回数の少ない陰キャ中学生ユーチューバーが、配信者仲間と共に死体を捜すというものです。プロローグ、女性が変質者から命を狙われ、追い詰められたときに「俺はお前の旦那に殺害を依頼された」という台詞があり、被害者の夫は犯人なのかが本書における一番の謎となっています。ユーチューバー視点での物語の進め方は上手だと思いました。陰キャ特有のネガティブな感情はリアルだし、家庭に蟠りがあって内緒で仲間と死体捜しをするという、冒険小説的内容となっています。一方で、女性刑事の視点は正直不要だったと思います。途中、命を狙われるシーンがあるのですが読み返してみれば物語解決に意味はなく、遺族に、じつは死刑判決を言い渡された男が犯人でないと思ってるなんて言わないだろうし、被害者の夫に直接疑惑をぶつけたりしていて印象が悪かったです。おまけに、被害者の夫に対して、妻が家事に専念するという家庭事情について、時代錯誤だと食ってかかるシーンがあり、意味不明でした。総じて見れば、ミステリー的仕掛けがありましたが、ミスリードの強引さや、女性刑事に対するマイナス評価、相変わらずのカビの生えたような使い古しの比喩表現(血で染めたような赤い夕日など)を諸々勘案し、☆5としました。

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