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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数896

全896件 741~760 38/45ページ

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No.156:
(8pt)

文字通り燃え尽きます。

個人的な感想で恐縮だが、公安の絡む『新宿鮫』は私は余り好きではない。従って世評高い『氷舞』も私はそんなに高く評価しなかった。政治的なしがらみが鮫島に制約をかけ、ブレーキがかかるからだ。
本書もその1つで、プロット自体は非常によく練られており、高い水準にあるのだが、公安が絡むおかげで、ストーリーが流れようとするとノッキングを起こすきらいがあるのだ。そういった意味ではやはり前作の方が地味ながらも鮫島らしさが横溢していて良かったように思う。
ただ今回もタイトルが素晴らしい。これしかないと云わざるを得ない。
灰 夜 (光文社文庫)
大沢在昌灰夜 新宿鮫VII についてのレビュー
No.155:
(7pt)

静の鮫

前作『毒猿』が出色の出来だっただけにトーンダウンの印象が。それでも水準以上ではある。
屍蘭―新宿鮫〈3〉 (光文社文庫)
大沢在昌屍蘭 新宿鮫III についてのレビュー
No.154:
(7pt)

評価に困る短編集

短編集というのは評価がしにくい。平均的な水準の作品ばかりが並んでいると、つまらない印象を受けた1編ないし数編が妙に目立ってしまい、評価を下げるような結果に繋がるし、またつまらない作品が数編あっても傑作と呼べる極上の1編があれば評価は俄然高くなるから困りものだ。
そこでこの短編集は、と云えば前者に含まれる。
「殺人助手」という登場人物が乱雑に出てくる1編のつまらなさが頭に残っていてあと一歩という感じ。でも目次を見ると結構好感の持てる作品があるのも確かだから…。ああ、困った、困った。
スペイドという男―ハメット短編全集 (2) (創元推理文庫 (130‐5))
No.153:
(8pt)

70年代に書かれたストーカー小説

スピルバーグの「激突」を思い起こさせるような設定でストーカーの恐怖を描いた本作において特筆されるべきことは本作が’73年に書かれた物であることだ。日本に「ストーカー」という言葉が上陸したのは恐らく’90年代初頭であろうからその先駆性は素晴らしい。
ただやはりクーンツ特有の瑕というのは本作にもある。
まずはホウヴァルなる刑事をただの狂言回しとしてしか機能させなかった事。多分クーンツはこのキャラクターを持て余したのだろう。
もう1点はソランドの精神病が何に起因するかが明白でない事。これは小説の設定において必要不可欠ではないだろうか?
とは云え、スリルとサスペンスを十分に織込んだ本書はやはり愉しめたというのが本音であろう。
ストーカー (創元推理文庫)
ディーン・R・クーンツストーカー についてのレビュー
No.152: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

泡坂マジック炸裂

泡坂版「奇妙な味」短編集で全く以って一筋縄ではいかない作品群である。
不能な自分の代わりに若者に自分の妻を抱かせる歪な愛をモチーフにした「雨女」を始め、「蘭の女」、「三人目の女」は何とも云えない読後感を残す二編だ。
そして次は当初青春小説かと思わせ、ファンタジックなパラレル・ワールドを展開させ、最後は見事論理的に着地する「ぼくらの太陽」、そして六篇中どちらかといえばまともな本格物に位置する最後の二編と、誠に幅広いマジックを展開させてくれた。
雨女 (光文社文庫)
泡坂妻夫雨女 についてのレビュー
No.151:
(7pt)

高度経済成長期の犠牲者

メインの事件がいつの間にかサブに回る構成でそれも現代の事件が24年前の事件に繋がる事になり、24年前の事件無くしては現代の事件が成立たなかったという凝ったプロットになっている。
そして作者が今回選んだモチーフは「オリンピック」。この世界の祭りに新幹線開通を絡ませ、高度経済成長の荒波に人生を翻弄される姿を描きたかったのか。
そしてやはり本作でも東京という「都市」に憧れ、殺人を犯してしまうという島田荘司氏の追い続ける都市の魔力というものが暗示されている。派手さはないが、やはりこのシリーズも読み逃せない。
夜は千の鈴を鳴らす (光文社文庫)
島田荘司夜は千の鈴を鳴らす についてのレビュー
No.150:
(7pt)

本格めいた作品のあります。

結局、玉石混交の短編集といった感じ。
私のお気に入りは「夜の銃声」。二段構えの皮肉な結末に思わずニヤリとさせられた。ヴォリュームも30ページ前後と、引き締まった内容で読みやすい。
かと思えば「新任保安官」のように登場人物が多すぎて収拾がつかない物もあり、一長一短がある。
面白かったのは、一般にハードボイルドと呼ばれるハメット作品もサプライジング・エンディングを踏まえた本格テイストを備えている事。ただ、解決へ至る手掛かりが探偵のみに与えられているアンフェアな所が腑に落ちないが…。
フェアウェルの殺人―ハメット短編全集 (1) (創元推理文庫 (130‐4))
No.149:
(7pt)

唯一シリーズになり得なかった作品

美術館学芸員であるクリス・ノーグレンシリーズがあるのに何故新たにベン・リディアという主人公を要して絵画のミステリを執筆するのか?まずこれが本書を手に取った際に念頭に浮かんだ疑問文だった。
だが読了後、本格ミステリでなくサスペンスという形式をとるために新たにシリーズを打ち立てたかったという回答に行き当たった。
エルキンズの作品はしかし安心して読める。エンタテインメントに対して忠実な下僕であるからだ。
しかしクリス・ノーグレン同様、本主人公の顔が今は見えない。エルキンズ作品に似つかわしくない邦題と共に消えてしまわないか心配だ。
略奪 (講談社文庫)
アーロン・エルキンズ略奪 についてのレビュー
No.148:
(8pt)

島田荘司のショートショートが読めるのは本書だけ!

これは珍しい!島田荘司のショートショートなんて初めて読んだ。従来書いているミステリとは違い、論理的帰結のない、SF小説というか幻想文学めいた内容であるのは興味深い。つまりいわゆる幻想的・魅惑的な謎の下地がここにある。
その他の短編も島田荘司ならではの着想がやっぱり面白い。ページを繰る手がもどかしいとはこのことで、その疾走感はたまらない。
名作名高い「糸ノコとジグザグ」もメタ御手洗物でなかなか良かった。
改訂完全版 毒を売る女 (河出文庫)
島田荘司毒を売る女 についてのレビュー
No.147:
(7pt)

安心印のミステリ。

キャラクターに魅力があるとそれだけで作者の勝ちは決まったものである。私の場合はそれに文体が加わってくるのだがこのギデオン・オリヴァーシリーズ、いやアーロン・エルキンズ一連の作品群の醸し出す独特のユーモアとウィットに溢れた作品は本当に毎回心地よく愉しませてくれる。
またミステリを読む楽しみの1つに自分の知識を増やしてくれる事というのがあるが、この骨の専門家のお話にはその辺が横溢しており、かつ全体のユーモアのスパイスとして十分に活かされているのが良い。
眠気のせいで物語に没入できなかったこともあったが、今回も十分満足できた。
洞窟の骨 (ミステリアス・プレス文庫)
アーロン・エルキンズ洞窟の骨 についてのレビュー
No.146:
(7pt)

期待したものの、何か違ってました。

前半、軽妙なリズムで話が流れて、主人公ネド・ボーモンの曲者振りがいかんなく発揮され、かなりの手ごたえを感じた。特にネドが敵役のシャドの手下達にリンチを受けるシーンは徹底した第三者視点の描写ながら、その執拗な攻撃に身震いを起こしてしまった。
だが後半になると、人物間のドロドロした話となり、いささか辟易してしまった。
ガラスの鍵 (創元推理文庫 130-3)
ダシール・ハメットガラスの鍵 についてのレビュー
No.145:
(8pt)

解ってても心が引っ張られる。

俺は女に弱い。
特に明るい女に弱い。

事件には派手さはないが奇矯で、解決は実にアクロバティックであり、つまり島田荘司色を今回も見せてくれるが、それよりも茂野恵美の存在である。
最初の登場シーンから、このキャラが物語の情の部分を支えるキープレイヤーなのだとは承知していたが、頭が判っていてもやはり心が動くのである。これは『異邦の騎士』の石川良子に一脈通ずるものがある。
やはり島田氏はこの上もなくロマンティストなのだ。

▼以下、ネタバレ感想
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灰の迷宮 (光文社文庫)
島田荘司灰の迷宮 についてのレビュー
No.144:
(7pt)

サーヴィス満点です。

良くも悪くもサーヴィス精神旺盛である。畳み掛けるようにこれでもか、これでもかとばかりに山場を積み重ねていく。
主人公に他の皆とは違う特異性を持たせるのがクーンツの特色だが、『殺人プログラミング』同様、その根拠というか蓋然性はいまいち説得力に欠ける。そこが瑕と云えば瑕だが、これだけエンタテインメントしてれば良しとしよう。
闇の殺戮 (光文社文庫)
ディーン・R・クーンツ闇の殺戮 についてのレビュー
No.143: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

メインの謎よりもあの人が気になる!

G・K・チェスタトンの『ブラウン神父』シリーズと並び称されるほど、世評の高い本書は、私の期待値が高過ぎたためか抱いた感慨は世間のそれとは隔たりを生じてしまった。
1つ1つの短編については、今になってみれば過去の名作へのオマージュのように受け取れなくも無い。特に最後の「黒い霧」はブラウン神父の「青い十字架」の裏返しといった作品である。ただ真相解明に至った時のパンチ力が無い。理路整然とし過ぎているのだ。
しかし、私の本シリーズへの関心はもっと別の所にある。各編に登場する「三角顔の老婦人」、この人は果たして何者なのかという事である。

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)
泡坂妻夫亜愛一郎の狼狽 についてのレビュー
No.142:
(8pt)

マルタの鷹の正体とは?

エラリー・クイーンやエルキュール・ポアロ、さらにHM卿が活躍していた時代にサム・スペードのようなリアルな探偵が出てきたことは正に衝撃だったろう。事件を解決して自らの何かを失う探偵なぞ当時の本格派の探偵にいただろうか?
社会の裏側で生きる者たちに対抗するには探偵それ自身がその手を、その身を汚さなければならない。己が生きるためにはかつて愛を交わした女でさえも売らなければならない、こんな探偵は存在しなかったはずである。
生きることのつらさと厳しさ、そして卑しさをまざまざと見せ付けた本書は、自身が探偵であったハメットでなければ描き得なかった圧倒的なまでのリアリティがある。
故に本書の軸となる黄金の鷹像の存在が妙に浮いた感じを受けるのである。
マルタの鷹は何かの象徴か?マルタの鷹は存在したのか?私にはマルタの鷹が誰もが抱く富の憧れが生み出した歪んだ幻想だと思えてならない。
マルタの鷹【新訳版】 (創元推理文庫)
ダシール・ハメットマルタの鷹 についてのレビュー
No.141:
(7pt)

漠とした余韻の正体とは?

本作のメインとなる殺人事件は、実はさほど興味深いものではなく、真相もショッキングではあるが、私自身が予想していたそれとほぼ同じだった。だが読後の余韻は漠とした何かを残した。
菊池刑事の、木山法子が瀕死の重体であるにも拘らず、傍にいられない無念さか、古川教諭の、生徒を思う心か、鳥越ゆかりの孤独か、それ以外かどうか判らない。それらは所謂ステレオタイプな設定だと思うからだ。
しかし、何かは確かにある。

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Yの構図 (光文社文庫)
島田荘司Yの構図 についてのレビュー
No.140:
(7pt)

多様化した現代ではもう驚かない?

『乱れからくり』と並んで初期の泡坂の代表作と評される本書は、やはり時代の流れか、当時の読者諸氏を唸らせた衝撃はもはや薄れてしまっていた。価値の多様化が顕著になった昨今では、特に奇抜さを齎さなくなってしまった。

しかし、それでも尚、作者は手練手管を使って読者を煙に巻く。

しかし本作を読んで痛感したのは、時代がオープンになればなるほど、我々の常識が崩され、謎という暗闇が小さくなってしまう事だった。

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湖底のまつり (創元推理文庫)
泡坂妻夫湖底のまつり についてのレビュー
No.139:
(7pt)

歴史的名作よりもコチラ

正直云えば、歴史に残る名作とされている『黄色い部屋の謎』よりも数倍面白かった。短編であるが故、贅肉が削ぎ落とされ、主題が明確だったからだ(尤も、登場人物達の芝居がかった台詞回しは相変わらずだが…)。
各短編共、それぞれ持ち味があり、個性豊かなのだが、好みで選ぶとすれば「金の斧」と「蝋人形館」の2編。前者は結末が結構意外で現代ならば絶対に書けないオチだから。後者は、身震いするような蝋人形の描写と、皮肉なラストを賞して。
ガストン・ルルーの恐怖夜話 (創元推理文庫 (530‐1))
No.138: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

原題が素晴らしいので邦題が陳腐に感じます。

今までミステリとは、事件が起こり、その事件に関する犯人、動機、手法といった様々な謎を主人公とともに探り当てる、その過程を愉しむものだと思っていたが、本書を読んでいる最中はそういう風には思わなかった。
ミステリとはある事件をきっかけに、それに纏わる人々を活写し、またそれによって起こる登場人物達の様々なドラマを読み解く物なのだな、そういう風に感じた。
前者は「推理」小説であり、後者は推理「小説」となるのだろう。しかし本作はその双方の魅力を兼ね備えていた事を、結末で思い知らされた。
デイジイという人物の位置付けは結末に至る前には判ってしまったが、それでも尚、本作は面白い。
原題「ガンナーの娘にキスをする」その警句が「ガンナー」=「拳銃使い」=「サム・ホガース」という暗示めいた等式に歪められ、皮肉な響きを胸に残した。
眠れる森の惨劇―ウェクスフォード警部シリーズ (角川文庫)
ルース・レンデル眠れる森の惨劇 についてのレビュー
No.137:
(7pt)

吉敷と通子の序章

今回起こる事件が単に吉敷刑事と加納通子とを再開させるきっかけに過ぎない事からも判るように、あくまで主題は吉敷と通子の2人の関係の修復である。いや、正確には吉敷は通子の忌まわしい過去を取り払う憑物落しの役割を果たしている。
最近特に見かけない純愛を扱っているだけに通子の結婚恐怖症の重要なファクターとなっている麻衣子の自殺に関する解明が、どうも飛躍した発想に思えてならない。非常に勿体無いと感じた。
島田の提唱する魅力的な謎の提示とその論理的解明が仇になってしまった。そんな印象を覚えた。
羽衣伝説の記憶 (光文社文庫)
島田荘司羽衣伝説の記憶 についてのレビュー