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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数699件
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いかな名作と云えど、やはりそれを読む時期というものがあって、本作も例外ではない。
この『シャーロック・ホームズの冒険』はオールタイム・ベスト選出に必ず上位5作の内に入る逸品ではあるが、四十路を控えた我が身にはやはり幼少の頃のように純粋に愉しめたとは云えない。ホームズが依頼人の特徴を瞬時に捉えて職業を云い当てる件は、今読むと滑稽だし、ワトスンも医者の割には脳が足りないように見える。 しかし、今の目で見ても収められている短編の内容はヴァラエティに富んでいる。 幼少の頃読んで以来、手にしなかったホームズ譚を改めて大人になった今、じっくり読み直そう。 |
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曾我佳城とヨギ ガンジーと並んで広く読者に今でも愛されているキャラクター、亜愛一郎シリーズの完結編である。
本作についてはもう寧ろチェスタトンばりの逆説論理を縦横無尽に展開するといった印象は薄れ、大人の読み物としての洒脱さが結びの部分に窺われ、作者の老練な筆捌きに酔いさせられる感が強い。そしてそれがまた来たるべき幕引きへ徐々に徐々に向かっていく読者の別れ難き喪失感を促すような効果をあげているように思えるのだ。 さらば亜愛一郎。そして今までありがとう。 |
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前作『鬼女の鱗』の印象が悪かったせいか、今回も同様の危惧を抱いていたが、意外にも読めた。
1つは前回は日本の情緒を過大に期待していたような姿勢があり、肩透かしを食らった感じが強かった事。 もう1つは専門的な知識に翻弄された事。 しかし今回は免疫が出来たのか、すんなり物語世界に入る事が出来た。そして気付いたのは簡素な文体に宝引の辰の優しさが見え隠れすること。また江戸町人の日々を生きる逞しさが存分に描かれている事。やはり泡坂妻夫は粋な作家だ。 |
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コンセプトがないオムニバス作品集。理屈では解明できない奇怪な出来事を軸に展開する普通小説もあれば、些末な事が実に意外な真相を孕んでいるミステリめいた小説もあり、話の流れに身を委ねるような純文学作品もある。
ミステリとしては「藤棚」が一番それらしいのだが、やはり人間関係が瞬時に裏返り、深い余韻を残して掉尾を飾る「子持菱」がベストか。奇妙な印象が残るのは「るいの恋人」。結末が少々あざといのが瑕。 全体としては『蔭桔梗』、『折鶴』ほどの日本色が豊かでなかった所が薄く感じた。 |
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“差別”が本書の一貫したテーマになっている。
事件の本筋のように人種差別は元より、軽い物では女が男を養うことへの抵抗を示した女性蔑視、老人の記憶は当てにならないという先入観、醜い者を見ると苛めたくなる心理。差別は心に悪戯をする。それが時には人の死に至るまでの事になる。 内容はウェクスフォードの推理が神がかり過ぎるところが多々あるが、明かされる真実が痛々しく、心を打つ。 最後の最後で明らかになるタイトルの意味は簡単な物だが、別の意味で一人の人間の尊厳を謳っているように思える。 |
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相変わらずの複雑な人間関係が眼の前で繰り広げられるため、元々の発端を見失いがちだったが、途中で簡単な人物相関図を描いたため、字面を追うだけの読書にはならずにすみ、作品世界に没入は出来た。が、しかし、カタルシスは得られなかった。
この小説の最大のポイントはジニー・ファブロンなる一見無垢な美人を巡って周辺の男女―その父母までもが!―が運命に翻弄され、やがて無垢だと思われていたジニーが実は…という所にあるのにタイトルが腑に落ちない。「脱税した金」という意味を持つタイトルは相応しくないのだ。 この話にそっくりな御伽噺を私は知っている。しかし、それが何だったのか思い出せない。 |
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前作『毒猿』が出色の出来だっただけにトーンダウンの印象が。それでも水準以上ではある。
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短編集というのは評価がしにくい。平均的な水準の作品ばかりが並んでいると、つまらない印象を受けた1編ないし数編が妙に目立ってしまい、評価を下げるような結果に繋がるし、またつまらない作品が数編あっても傑作と呼べる極上の1編があれば評価は俄然高くなるから困りものだ。
そこでこの短編集は、と云えば前者に含まれる。 「殺人助手」という登場人物が乱雑に出てくる1編のつまらなさが頭に残っていてあと一歩という感じ。でも目次を見ると結構好感の持てる作品があるのも確かだから…。ああ、困った、困った。 |
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メインの事件がいつの間にかサブに回る構成でそれも現代の事件が24年前の事件に繋がる事になり、24年前の事件無くしては現代の事件が成立たなかったという凝ったプロットになっている。
そして作者が今回選んだモチーフは「オリンピック」。この世界の祭りに新幹線開通を絡ませ、高度経済成長の荒波に人生を翻弄される姿を描きたかったのか。 そしてやはり本作でも東京という「都市」に憧れ、殺人を犯してしまうという島田荘司氏の追い続ける都市の魔力というものが暗示されている。派手さはないが、やはりこのシリーズも読み逃せない。 |
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結局、玉石混交の短編集といった感じ。
私のお気に入りは「夜の銃声」。二段構えの皮肉な結末に思わずニヤリとさせられた。ヴォリュームも30ページ前後と、引き締まった内容で読みやすい。 かと思えば「新任保安官」のように登場人物が多すぎて収拾がつかない物もあり、一長一短がある。 面白かったのは、一般にハードボイルドと呼ばれるハメット作品もサプライジング・エンディングを踏まえた本格テイストを備えている事。ただ、解決へ至る手掛かりが探偵のみに与えられているアンフェアな所が腑に落ちないが…。 |
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美術館学芸員であるクリス・ノーグレンシリーズがあるのに何故新たにベン・リディアという主人公を要して絵画のミステリを執筆するのか?まずこれが本書を手に取った際に念頭に浮かんだ疑問文だった。
だが読了後、本格ミステリでなくサスペンスという形式をとるために新たにシリーズを打ち立てたかったという回答に行き当たった。 エルキンズの作品はしかし安心して読める。エンタテインメントに対して忠実な下僕であるからだ。 しかしクリス・ノーグレン同様、本主人公の顔が今は見えない。エルキンズ作品に似つかわしくない邦題と共に消えてしまわないか心配だ。 |
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キャラクターに魅力があるとそれだけで作者の勝ちは決まったものである。私の場合はそれに文体が加わってくるのだがこのギデオン・オリヴァーシリーズ、いやアーロン・エルキンズ一連の作品群の醸し出す独特のユーモアとウィットに溢れた作品は本当に毎回心地よく愉しませてくれる。
またミステリを読む楽しみの1つに自分の知識を増やしてくれる事というのがあるが、この骨の専門家のお話にはその辺が横溢しており、かつ全体のユーモアのスパイスとして十分に活かされているのが良い。 眠気のせいで物語に没入できなかったこともあったが、今回も十分満足できた。 |
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前半、軽妙なリズムで話が流れて、主人公ネド・ボーモンの曲者振りがいかんなく発揮され、かなりの手ごたえを感じた。特にネドが敵役のシャドの手下達にリンチを受けるシーンは徹底した第三者視点の描写ながら、その執拗な攻撃に身震いを起こしてしまった。
だが後半になると、人物間のドロドロした話となり、いささか辟易してしまった。 |
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良くも悪くもサーヴィス精神旺盛である。畳み掛けるようにこれでもか、これでもかとばかりに山場を積み重ねていく。
主人公に他の皆とは違う特異性を持たせるのがクーンツの特色だが、『殺人プログラミング』同様、その根拠というか蓋然性はいまいち説得力に欠ける。そこが瑕と云えば瑕だが、これだけエンタテインメントしてれば良しとしよう。 |
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G・K・チェスタトンの『ブラウン神父』シリーズと並び称されるほど、世評の高い本書は、私の期待値が高過ぎたためか抱いた感慨は世間のそれとは隔たりを生じてしまった。
1つ1つの短編については、今になってみれば過去の名作へのオマージュのように受け取れなくも無い。特に最後の「黒い霧」はブラウン神父の「青い十字架」の裏返しといった作品である。ただ真相解明に至った時のパンチ力が無い。理路整然とし過ぎているのだ。 しかし、私の本シリーズへの関心はもっと別の所にある。各編に登場する「三角顔の老婦人」、この人は果たして何者なのかという事である。 |
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正直云えば、歴史に残る名作とされている『黄色い部屋の謎』よりも数倍面白かった。短編であるが故、贅肉が削ぎ落とされ、主題が明確だったからだ(尤も、登場人物達の芝居がかった台詞回しは相変わらずだが…)。
各短編共、それぞれ持ち味があり、個性豊かなのだが、好みで選ぶとすれば「金の斧」と「蝋人形館」の2編。前者は結末が結構意外で現代ならば絶対に書けないオチだから。後者は、身震いするような蝋人形の描写と、皮肉なラストを賞して。 |
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今回起こる事件が単に吉敷刑事と加納通子とを再開させるきっかけに過ぎない事からも判るように、あくまで主題は吉敷と通子の2人の関係の修復である。いや、正確には吉敷は通子の忌まわしい過去を取り払う憑物落しの役割を果たしている。
最近特に見かけない純愛を扱っているだけに通子の結婚恐怖症の重要なファクターとなっている麻衣子の自殺に関する解明が、どうも飛躍した発想に思えてならない。非常に勿体無いと感じた。 島田の提唱する魅力的な謎の提示とその論理的解明が仇になってしまった。そんな印象を覚えた。 |
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