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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数694

全694件 581~600 30/35ページ

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No.114:
(7pt)

遠い記憶にある物語。

相変わらずの複雑な人間関係が眼の前で繰り広げられるため、元々の発端を見失いがちだったが、途中で簡単な人物相関図を描いたため、字面を追うだけの読書にはならずにすみ、作品世界に没入は出来た。が、しかし、カタルシスは得られなかった。
この小説の最大のポイントはジニー・ファブロンなる一見無垢な美人を巡って周辺の男女―その父母までもが!―が運命に翻弄され、やがて無垢だと思われていたジニーが実は…という所にあるのにタイトルが腑に落ちない。「脱税した金」という意味を持つタイトルは相応しくないのだ。
この話にそっくりな御伽噺を私は知っている。しかし、それが何だったのか思い出せない。
ブラック・マネー (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-8)
ロス・マクドナルドブラック・マネー についてのレビュー
No.113:
(7pt)

静の鮫

前作『毒猿』が出色の出来だっただけにトーンダウンの印象が。それでも水準以上ではある。
屍蘭―新宿鮫〈3〉 (光文社文庫)
大沢在昌屍蘭 新宿鮫III についてのレビュー
No.112:
(7pt)

評価に困る短編集

短編集というのは評価がしにくい。平均的な水準の作品ばかりが並んでいると、つまらない印象を受けた1編ないし数編が妙に目立ってしまい、評価を下げるような結果に繋がるし、またつまらない作品が数編あっても傑作と呼べる極上の1編があれば評価は俄然高くなるから困りものだ。
そこでこの短編集は、と云えば前者に含まれる。
「殺人助手」という登場人物が乱雑に出てくる1編のつまらなさが頭に残っていてあと一歩という感じ。でも目次を見ると結構好感の持てる作品があるのも確かだから…。ああ、困った、困った。
スペイドという男―ハメット短編全集 (2) (創元推理文庫 (130‐5))
No.111:
(7pt)

高度経済成長期の犠牲者

メインの事件がいつの間にかサブに回る構成でそれも現代の事件が24年前の事件に繋がる事になり、24年前の事件無くしては現代の事件が成立たなかったという凝ったプロットになっている。
そして作者が今回選んだモチーフは「オリンピック」。この世界の祭りに新幹線開通を絡ませ、高度経済成長の荒波に人生を翻弄される姿を描きたかったのか。
そしてやはり本作でも東京という「都市」に憧れ、殺人を犯してしまうという島田荘司氏の追い続ける都市の魔力というものが暗示されている。派手さはないが、やはりこのシリーズも読み逃せない。
夜は千の鈴を鳴らす (光文社文庫)
島田荘司夜は千の鈴を鳴らす についてのレビュー
No.110:
(7pt)

本格めいた作品のあります。

結局、玉石混交の短編集といった感じ。
私のお気に入りは「夜の銃声」。二段構えの皮肉な結末に思わずニヤリとさせられた。ヴォリュームも30ページ前後と、引き締まった内容で読みやすい。
かと思えば「新任保安官」のように登場人物が多すぎて収拾がつかない物もあり、一長一短がある。
面白かったのは、一般にハードボイルドと呼ばれるハメット作品もサプライジング・エンディングを踏まえた本格テイストを備えている事。ただ、解決へ至る手掛かりが探偵のみに与えられているアンフェアな所が腑に落ちないが…。
フェアウェルの殺人―ハメット短編全集 (1) (創元推理文庫 (130‐4))
No.109:
(7pt)

唯一シリーズになり得なかった作品

美術館学芸員であるクリス・ノーグレンシリーズがあるのに何故新たにベン・リディアという主人公を要して絵画のミステリを執筆するのか?まずこれが本書を手に取った際に念頭に浮かんだ疑問文だった。
だが読了後、本格ミステリでなくサスペンスという形式をとるために新たにシリーズを打ち立てたかったという回答に行き当たった。
エルキンズの作品はしかし安心して読める。エンタテインメントに対して忠実な下僕であるからだ。
しかしクリス・ノーグレン同様、本主人公の顔が今は見えない。エルキンズ作品に似つかわしくない邦題と共に消えてしまわないか心配だ。
略奪 (講談社文庫)
アーロン・エルキンズ略奪 についてのレビュー
No.108:
(7pt)

安心印のミステリ。

キャラクターに魅力があるとそれだけで作者の勝ちは決まったものである。私の場合はそれに文体が加わってくるのだがこのギデオン・オリヴァーシリーズ、いやアーロン・エルキンズ一連の作品群の醸し出す独特のユーモアとウィットに溢れた作品は本当に毎回心地よく愉しませてくれる。
またミステリを読む楽しみの1つに自分の知識を増やしてくれる事というのがあるが、この骨の専門家のお話にはその辺が横溢しており、かつ全体のユーモアのスパイスとして十分に活かされているのが良い。
眠気のせいで物語に没入できなかったこともあったが、今回も十分満足できた。
洞窟の骨 (ミステリアス・プレス文庫)
アーロン・エルキンズ洞窟の骨 についてのレビュー
No.107:
(7pt)

期待したものの、何か違ってました。

前半、軽妙なリズムで話が流れて、主人公ネド・ボーモンの曲者振りがいかんなく発揮され、かなりの手ごたえを感じた。特にネドが敵役のシャドの手下達にリンチを受けるシーンは徹底した第三者視点の描写ながら、その執拗な攻撃に身震いを起こしてしまった。
だが後半になると、人物間のドロドロした話となり、いささか辟易してしまった。
ガラスの鍵 (創元推理文庫 130-3)
ダシール・ハメットガラスの鍵 についてのレビュー
No.106:
(7pt)

サーヴィス満点です。

良くも悪くもサーヴィス精神旺盛である。畳み掛けるようにこれでもか、これでもかとばかりに山場を積み重ねていく。
主人公に他の皆とは違う特異性を持たせるのがクーンツの特色だが、『殺人プログラミング』同様、その根拠というか蓋然性はいまいち説得力に欠ける。そこが瑕と云えば瑕だが、これだけエンタテインメントしてれば良しとしよう。
闇の殺戮 (光文社文庫)
ディーン・R・クーンツ闇の殺戮 についてのレビュー
No.105: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

メインの謎よりもあの人が気になる!

G・K・チェスタトンの『ブラウン神父』シリーズと並び称されるほど、世評の高い本書は、私の期待値が高過ぎたためか抱いた感慨は世間のそれとは隔たりを生じてしまった。
1つ1つの短編については、今になってみれば過去の名作へのオマージュのように受け取れなくも無い。特に最後の「黒い霧」はブラウン神父の「青い十字架」の裏返しといった作品である。ただ真相解明に至った時のパンチ力が無い。理路整然とし過ぎているのだ。
しかし、私の本シリーズへの関心はもっと別の所にある。各編に登場する「三角顔の老婦人」、この人は果たして何者なのかという事である。

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)
泡坂妻夫亜愛一郎の狼狽 についてのレビュー
No.104:
(7pt)

漠とした余韻の正体とは?

本作のメインとなる殺人事件は、実はさほど興味深いものではなく、真相もショッキングではあるが、私自身が予想していたそれとほぼ同じだった。だが読後の余韻は漠とした何かを残した。
菊池刑事の、木山法子が瀕死の重体であるにも拘らず、傍にいられない無念さか、古川教諭の、生徒を思う心か、鳥越ゆかりの孤独か、それ以外かどうか判らない。それらは所謂ステレオタイプな設定だと思うからだ。
しかし、何かは確かにある。

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Yの構図 (光文社文庫)
島田荘司Yの構図 についてのレビュー
No.103:
(7pt)

多様化した現代ではもう驚かない?

『乱れからくり』と並んで初期の泡坂の代表作と評される本書は、やはり時代の流れか、当時の読者諸氏を唸らせた衝撃はもはや薄れてしまっていた。価値の多様化が顕著になった昨今では、特に奇抜さを齎さなくなってしまった。

しかし、それでも尚、作者は手練手管を使って読者を煙に巻く。

しかし本作を読んで痛感したのは、時代がオープンになればなるほど、我々の常識が崩され、謎という暗闇が小さくなってしまう事だった。

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湖底のまつり (創元推理文庫)
泡坂妻夫湖底のまつり についてのレビュー
No.102:
(7pt)

歴史的名作よりもコチラ

正直云えば、歴史に残る名作とされている『黄色い部屋の謎』よりも数倍面白かった。短編であるが故、贅肉が削ぎ落とされ、主題が明確だったからだ(尤も、登場人物達の芝居がかった台詞回しは相変わらずだが…)。
各短編共、それぞれ持ち味があり、個性豊かなのだが、好みで選ぶとすれば「金の斧」と「蝋人形館」の2編。前者は結末が結構意外で現代ならば絶対に書けないオチだから。後者は、身震いするような蝋人形の描写と、皮肉なラストを賞して。
ガストン・ルルーの恐怖夜話 (創元推理文庫 (530‐1))
No.101:
(7pt)

吉敷と通子の序章

今回起こる事件が単に吉敷刑事と加納通子とを再開させるきっかけに過ぎない事からも判るように、あくまで主題は吉敷と通子の2人の関係の修復である。いや、正確には吉敷は通子の忌まわしい過去を取り払う憑物落しの役割を果たしている。
最近特に見かけない純愛を扱っているだけに通子の結婚恐怖症の重要なファクターとなっている麻衣子の自殺に関する解明が、どうも飛躍した発想に思えてならない。非常に勿体無いと感じた。
島田の提唱する魅力的な謎の提示とその論理的解明が仇になってしまった。そんな印象を覚えた。
羽衣伝説の記憶 (光文社文庫)
島田荘司羽衣伝説の記憶 についてのレビュー
No.100:
(7pt)

謎を巡る道中はよかったのだが…。

読みやすいというのが第一印象。

所謂主人公が病床で史料にあたり、歴史に隠された謎を繙くという『時の娘』の設定そのままのアームチェア・ディテクティヴ。


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信長殺すべし (講談社文庫)
岩崎正吾信長殺すべし についてのレビュー
No.99:
(7pt)

前作のヒーローの凋落ぶりが痛々しくてショック!

前作『推定無罪』で主人公サビッチの弁護人として快刀乱麻の活躍ぶりを見せたスターンが今回の主人公だが、前作とは打って変わって妻の自殺で始まる冒頭から肉欲に溺れていく凋落ぶり、はたまた長男ピーターに鼻で笑われるダメ親父ぶりをこれでもかこれでもかと見せつけ、結局スターンも“人”に過ぎないのだなと思わせる。
人間ドラマとして本書は最高の部類に入るだろう。それは人物描写の緻密性、物語としての結構を見ても間違いない。
しかし、私は今回求めたのは“切れ味”だった。前作『推定無罪』に九ツ星を付けさせる原動力となったスターンの、弁護士としてのそれ、物語としてのそれである。
ディクスンの、スターンに対する羨望は中盤で判った。だからその点では胸を打つものは無かった。ただ、解説の北上次郎の云うように、私が初老の域に達した時に本書を読み返せばまた全く違った感慨を抱き、採点も(良い方向に)変わるであろうことは想像に難くない。
立証責任〈上〉 (文春文庫)
スコット・トゥロー立証責任 についてのレビュー
No.98:
(7pt)

異国情緒とロマンスと。

光文社による裏表紙の紹介文によると本書は「異色の旅行推理集」となっている。確かに“異色”である。収録された3編全てにおいて主人公は名前すらない男で、しかも「早見優」、「カトリーヌ・ドヌーブ」といった実在の人物が出てくるあたり、実話のような錯覚を憶える。
だが“推理集”というのは些か大袈裟だろう。確かに各編において謎はある。しかし本書は異国での恋を主体にした短編集であると私は認識した。恋愛にはある程度謎はつきものである。ここに収められている謎はその範疇を超えるものではないし、ミステリへと昇華しているものでもない。従って私は「異色の旅行恋愛集」と呼びたい。
翻って内容について述べると、ほとんど実体験に基づいたエッセイに近く、それに現地女性との交流を絡めた恋愛短編集といった感。3編全てに共通するのは『異邦の騎士』に脈絡するある種の喪失感。この作家、根っからのロマンティストらしい。

見えない女 (光文社文庫)
島田荘司見えない女 についてのレビュー
No.97:
(7pt)

ウェクスフォード物の短編が秀逸。

短編集とは云えど、いまや絶版となった角川文庫の短編集から選りすぐりを選んで編まれた物で、全くさらの作品集でないところが残念。前半7編がノン・シリーズ物で後半4編がウェクスフォード物。率直に云えば、順番は逆の方が読後感は良かったように思うし、評価も星1つ上がっただろう。
ウェクスフォード物については措くとして、ノン・シリーズ物について云うと、長編におけるそれは、砂の一粒一粒までを描くような木目細やかな心理描写を幾度となく畳み掛ける“重量感”があり、時にはそのために辟易してしまう所があるが短編のそれはほぼ20ページ前後の長さに集約された“切れ味”が際立っており、心地良い。久々にレンデルを読むならば長編だろうが、レンデル漬けになるとこういった短編が息抜きとなってちょうどいい。
女を脅した男―英米短編ミステリー名人選集〈1〉 (光文社文庫)
ルース・レンデル女を脅した男 についてのレビュー
No.96:
(7pt)

古書狂たちのラプソディ

ミステリとしての骨格はごく普通で謎はあるが、その一点のみで読者の興味を魅いていくものではない。寧ろ明らかにわざとらしい演出で犯人を露呈してしまっているだけだ。
この本の魅力は前作『古本屋探偵の事件簿』同様、古書に纏わる人達の各々の個性を軸にしたエピソードにあるのだ。
本に歴史を見出す者や純然たる収集欲を満足させる者、又はそういった人達を金蔓に単なる金の成る木として扱う者。
前作のインパクトよりは劣るものの、やはり捨て難い一品。
古本街の殺人 (創元推理文庫)
紀田順一郎古本街の殺人(鹿の幻影) についてのレビュー
No.95:
(7pt)

奇術師泡坂の独壇場

大傑作『11枚のとらんぷ』でもそうだが、奇術をミステリに絡ませた泡坂作品は、やはり物語自体に躍動感があって、しかも形式美に溢れている。
今回7作品中、表題作が最も優れていた。そのあまりにもシンプルな題名から連想される内容は、正に連想通りの展開を見せるのだが、結末はG・K・チェスタトンばりの逆説で鮮やかに決めてみせる。
あとは「虚像実像」の犯人消失ネタも捨て難いが、これはある程度の水準の奇術の知識が必要なのが残念な所だった。
花火と銃声 (講談社文庫)
泡坂妻夫花火と銃声 についてのレビュー