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トラ さんのレビュー一覧
トラさんのページへレビュー数21件
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【ネタバレかも!?】
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2016年度・第62回の江戸川乱歩賞受賞作です。
内容を読むと、父、母、兄が猟奇殺人鬼という家庭で育った高校生の話と言うことで、買うのをしばらく躊躇して居ました。 あまり気分の良い内容じゃなさそうだし、現実と虚構が交錯すると言う、私の苦手な展開の話だからです。 冒頭から繰り広げられる残虐な殺し方の描写に、ちょっと吐き気を感じながらも、読み進める事が出来ました。と言うのも、何より、文章が上手いです。 十七歳の女子高生・市野亜李亜(いちのありあ)の視点で書かれているのですが、全く違和感が無く、話しに引きつけられていきます。 読みながら、疑問に思うところは多々ありましたが、最後にそれらがすべて納得できるような形で話が繋がって行き、新人とは思えない力量に、感心しながら読んでいきました。 ただ、読みながら感じていたのは、どこまでが現実で、どこからが虚構なのかがよくわからない事です。でも、読み終えた時には、ひょっとしたら、すべてが虚構だったのではないのかと言う気がしましたが、はたして・・・。 本書をミステリという枠に当てはめるのは、少々疑問な所もありますが、こういうミステリも有りなんでしょうね。 感想を書くにも、どこまで書くとネタバレになるのかわからないまま書き進めていきましたが、衝撃を受けた作品であるというのは間違いがありません。 あまりオススメは出来ませんが、私は途中で辞められず、時間を取って一気に読んでしまいました。 |
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短編の間に、「序章」「幕間(一)」「幕間(二)」「終章」と入って居ます。
ここでは、作者・三津田信三と、『怪談のテープ起こし』の連載を担当した女性編集者・時任美南海が登場します。 「自殺する間際に、家族や友人や世間に向けて、カセットテープにメッセージを吹き込む人が、たまにいる。それを集めて原稿に起こせればと・・・」と言う事で、三津田信三の手に渡った取材テープ。 その怪談話を収録した取材テープを三津田信三から借りた編集者の時任は、作者・三津田信三の執筆のヒントになるからとテープ起こしを始めます。 しかし、その彼女に、次第に異変が・・・。 この幕間(まくあい)がなかなかユニークで、良く出来ています。 一つ一つの短編も、それなりに面白いですが、作者と編集者との絡みを、短編の間に挟むことで、一つの長編を読んでいるような気分になりました。 また、この本に収められた6つの短編は、どれも作家・三津田信三が取材したり、自分で体験したりした話をもとに執筆されている(と言う事になっている)ので、この編集者との会話の部分は、ひょっとすると実話なのでは・・・といった感じを読者に与えるという効果もあります。 三津田信三のホラーの中には、それなりにミステリーとしても読み解ける話が多いのですが、今回は、全くオチのない話しになって居ます。(と言う事で、各短編の感想は、省略させて戴きます) 良く出来た話なので、興味深く読み進めることは出来ますが、読み終えた後は、なぜか背筋が寒くなってくる・・・、そんな話が詰まった短編集です。 オススメします。 |
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刀城言耶シリーズのような、ホラーとミステリの融合なのかと思いながら読んでいきましたが、本格ミステリでした。
主人公の物理波矢多(もとろい・はやた)が、探偵とワトソン役(物語の語り部)の両方を演じているので、推理の筋道がわかりやすく、一緒に謎解きを楽しめました。 戦後すぐの炭鉱を舞台にした話なのですが、戦中・戦後における、日本と朝鮮との関わりが、作者の視点で書かれおり、その点でも興味を持って読みました。 読まれる人によっては、作者の視点に異を唱える人も居るのではないかとは思いますが、私はほぼその通りだと思いながら読みました。 戦争中に、朝鮮人が日本の炭鉱という閉鎖的な場所で、どういう扱いをされていたのか、そしてそのことが、この本の舞台である炭鉱で起きた連続殺人に、どう繋がって行くのか・・・。 最後には、ちょっと驚きの結末が待って居て、息もつかせないまま読了しました。 最終章で、物理波矢多が犯人を指摘するところは、推理が二転三転するという、刀城言耶を主人公とするシリーズでよく見られるパターンと同じでしたので、それなりに楽しめました。 連続殺人が起こり、密室が登場し、もう一つ、良くミステリで登場するトリックが使われ、最後にはどんでん返しが・・・となれば、面白く無いはずがありません。 |
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全4話の連作短編集です。
神奈川県川崎市にある街・溝ノ口と、その周辺で起きる事件の話なので、関西在住の私としては、地図(路線図)とにらめっこしながら読みました(笑) 第1話「名探偵、溝ノ口に現る」 「なんでも屋タチバナ」を始めた、橘良太の視点で書かれています。 彼が絵の(全裸)モデルをして居る間に、その画家の父親が殺されていると言う事件に遭遇します。 第1話では、「なんでも屋」を始めたいきさつと、両親が共に名探偵という10歳の少女・アリサとの出会いが書かれていますが、両親同様、アリサもまた名探偵だったと言う話です。 アリサと橘良太の掛け合いも、楽しく読みました。 第2話「名探偵、南武線に迷う」 特に路線図とにらめっこをしながら読んだ話です。 「はじめてのお使い」に駆り出されたアリサが、父から頼まれた物を届けた相手が、駅前で起きた殺人事件の容疑者という話です。 電車の時間トリックが登場しますが、地元の者で無いとわからないのではと思われるトリックでした(笑) 第3話「名探偵、お屋敷で張り込む」 良太とアリサが監視している離れの部屋の中での事件で、誰も出入りはしていないと言う事で、密室殺人か・・・という騒ぎになります。 トリックとしては、良くある話なのですが、この連作短編の中では、良く出来ていると思います。 第4話「名探偵、球場で足跡を探す」 良太が町内会の野球に参加して、ヒンシュクをかってしまいますが、その後、再戦となった野球のグランドで起こった事件です。 大胆すぎるトリックは、少々いただけませんが、ルートを使ったややこしい計算が出てくるのには驚きました(笑)が、ちょっとおかしな計算でした。 作者は、野球については詳しくないのかも知れません。 新シリーズになりそうな連作短編集でした。久しぶりに楽しめました。 古典ミステリの事なども、チラリと登場してくるので、そういうことも知っていないとユーモアミステリは楽しめないようですね。 |
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「著者初の本格警察小説!」と書かれていますが、警察組織が舞台となった警察小説を期待して購入されると、ちょっとがっかりするかも知れません。
でも、トリックやロジックを楽しんで読まれると、期待以上に読み応えがあると思います。 話は、“警視庁付属犯罪資料館”、通称「赤い博物館」の館長が、捜査一課から左遷されてこの資料館に配属されてきた巡査部長と共に、時効となった未解決事件に挑むという連作ミステリです。 過去の事件の資料に疑問点が見つかると、巡査部長がその事件の再捜査が行い、それを元にして館長が事件の真相を推理していくという手法は、読者にも手がかりがすべて提示されているということで、読むのにもチョット力が入ってしまいます(笑) どの短編も、(私の)予想を覆す展開で、最後には驚くような結論が用意されている・・・と言う事で、それぞれが標準以上の出来だと思います。 今年度、私が読んだミステリのベスト3以内に入ってくるのは間違いない・・・、と思えるようなミステリです。 ストーリーをヘタに書いてしまうと、ネタバレしてしまいそうなので、全く書かないことにします。 本格ミステリ好きにはたまらない短編集です。ぜひ手にとって読んでみてください。オススメです。 館長がエリートコースをはずれたキャリアで、彼女の過去に何かがあったようなことをさりげなく描いているので、今後このコンビで続編が書かれるのかも知れませんが、楽しみなシリーズになりそうです。 |
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子どもが持ち込んできた事件のあらましを聞いて、その謎を親が解決するという話は、都筑道夫の「退職刑事」や、ジェイムズ・ヤッフェの「ママは何でも知っている」と言ったミステリが有名ですが、本書も同じような傾向(安楽椅子探偵もの)の話になっています。
ただ、それらの二作と違うところは、殺人事件の犯人探しでは無く、日常の謎を扱っていると言うところです。 出版社につとめる娘が持ち込んできた話を、あっという間に解決してしまう(作者が創った謎を作者が解くのだから当たり前)のは良いとしても、その話が発端となって、思いもかけない広がりを見せてくれるというのは、読んでいて大変楽しくなります。 特に、「闇の吉原」には、感心してしまいました。 「闇の夜は吉原ばかり月夜哉」と言う俳句の、切る場所で意味が違ったり、接続詞が変われば大きく意味が変わったりするという話は、興味を引くものでした。 この話は、泡坂妻夫さんの短編集「煙の殺意」に収録されている「椛山訪雪図」(未読です)でも扱われていると言うことなので、この際に読んでみたくなりました。 ただ、一話ずつの話が短いので、何か物足りなさを感じてしまいますが、読後感は悪くありません。むしろ、シンプルな謎なので、話しもわかりやすく、いろんな人に受け入れられるのではないでしょうか? ただ、この表紙の絵はいただけません。 シャレじゃ無いですが、この表紙を見て、拍子抜けをしてしまい、一度は購入するのを躊躇したほどです。 感想では無いですが・・・、 本を読むときにはほとんどの場合、主人公の視点で読んでいくことが多いのですが、読み進めていく内に、いつの間にか主人公の父親に感情移入して、読んでしまっていました。 好きな本について語り合える娘が居たら、楽しいでしょうね・・・。 |
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1988年度の第42回推理作家協会賞を受賞した作品です。
本屋さんで見たときは、ちょっと読みにくそうな内容だったので、文庫が出れば・・・と思ってスルーしたところ、すっかり忘れてしまい、気がついた時には、中央公論社から出されていた文庫も絶版になっていました。 いろいろ探したところ、双葉文庫から出されている「日本推理作家協会賞受賞作全集」の中に本書を見つけ、やっと読むことが出来ました。 この本が書かれたときはまだ、日本には欧米のような陪審員制度が無かったので、一般の人が裁判の公判調書を目にすることも無かったでしょうが、裁判員制度が2009年から導入されたので、もし選出されたら、こんなややこしいものを読まないとダメなんだろうなぁ・・・と思いながら、ページを開きました。 小説の構成は、100ページの市民セミナーの部分と、450ページほどの公判調書の部分に分けられています。(単行本の初版では、2分冊でした) 元裁判官だった方が講師となり、市民セミナーに参加している人に、実際に起こった裁判の様子なり公判調書の見方を解説するという方法で、話が進んでいきます。 市民セミナーは6回に分けられていて、講師が「次回のセミナーまでに、何ページまで読んでおいてください・・・」と言う指示に従って、公判調書の部分を読んでおき、次の講座でその内容の解説をしてくれるという流れになります。 市民セミナーに参加している人と一緒になって、実際の調書を見て、裁判の進め方やら調書の読み方などを学習しているような感じで、面白く読めましたし、公判調書の「証人尋問」のところはとても迫力がありました。 第9回公判調書を読み終え、4回目のセミナーは、「みなさんが裁判官になったつもりで、どういう判決を下すべきか、次回までに考えてください・・・」と言う講師の話で終わります。 第10回公判調書と第5、第6回のセミナーの部分は、単行本では袋とじになっていたそうです。 読まれる方は、ここで本を閉じ、裁判の結果と事件の顛末を考えてみてください。 最後の第10回公判調書で、事件の判決を読み、解説部分である第5回市民セミナーで、その判決について話し合われます。 その後、次回の予告と言うことで、「この裁判の判決が出されたあと、(どちらかが)それに意義を申し立てて控訴しますが、高等裁判所での審理中に、いろいろ真実が暴露される・・・」と言う説明があり、もう一度公判調書を読み直して、結果がどうなったのかを考えておくように言われます。 市民セミナーの最終回で、それぞれの推理が出されるという筋立てですが、公判調書をしっかり読むと、いろいろな矛盾点も発見でき、驚く結末が用意されていました。本格ミステリとしても、とても良く出来ていると思います。 実際の裁判の公判調書にそって、事件が進んでいくという形式には驚きましたが、セミナーの一員になったつもりで、講師の方が指示された通りに読んで行くと、最初に本書を手にしたときは、ちょっと取っつきにくいように思えた裁判の公判調書も、そんなに苦にせず読むことが出来たことも驚きです。 最初はおっかなびっくりで読み始めましたが、読み出したら面白くて、そのまま一気に読み終えてしまいました。 オススメです。 |
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最初のページを開くと、「13」と書いてあったので、これは何だ・・・と、考えながら読んで行きましたが、「13章」という意味の「13」ということで、1章の前に13章が掲載されていると言う構成でした(と、少し立ってからわかりました)。
この章で、最後の殺人が起きて、その構成された密室の謎を三人の高校生が解明する・・・と言うところから始まります(が、その時点では、犯人はわかっていません)。 でも、それまでに登場する人物名などが当たり前のように書かれているので、誰が誰だかわからないところもあって、途中の章から読むって言うのは、なかなか大変でした。 話は、如月烏兎(きさらぎ うと)の視点で語られますが、探偵役はどうやら獅子丸という烏兎の友人のよう(だと、最初に書かれている13章から推測されます)です。 最初から順に章を負うごとに、三人の関係や高校生活の実態などが明らかになっていきますが、なかなか青春ミステリとはほど遠い内容でした。高校生が主役で、その学校生活の様子が書かれているので、「青春ミステリ」なのでしょうが、どうも私たちが経験してきたような学校生活の様子じゃなさそうです。 作者を知らずに、そのコピーにだまされて本書を購入した読者は、驚いたことでしょうね(笑) 話としては、塔の内部で起こった密室殺人の犯人捜しと言う事になるのでしょうが、(ちょっとネタバレになりそうですが)こういった構成の仕方で、読む側(私も含めて)は上手くミスリードされていくんでしょうね。 やはり一筋縄では行かない作者のようです。 ただ、1章から13章までの話は、大変わかりやすく読みやすかったですが、最後の方は何かバタバタした感じで真相が明らかになっていったのは、ちょっと気に入りませんでしたし、話の中で、高校の生徒会組織に関する話も出てきて、その方の解決も気になる所なんですが、その後、どうなったのかわからないまま、何かあやふやな感じで終わっていたのも気になりました。 |
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このシリーズの二作目・「黒龍荘の惨劇」を先に読んでいましたが、シリーズの一作目が文庫で発売されたと言うことで、購入しました。
二作目の「黒龍荘の惨劇」は、取って付けたような時代背景でしたが、本書は、明治憲法発布を見据えた頃という時代の様子も興味深く書かれており、それなりに良く出来ているように思います。 登場人物には、伊藤博文だけで無く、津田うめや大山捨松だったり、半玉時代の川上貞奴までが顔を出していますが、調べて見ると、津田うめが伊藤への英語指導や通訳のため雇われて、伊藤家に滞在していたと言うことも事実だったそうで、日本初のチャリティーバザーでの資金をもとに、日本初の看護婦学校を設立した等々・・・、そういうこともストーリーに上手く取り入れてあり、明治という時代を何気なく感じてしまう話になっています。 ミステリとしては、殺人のトリックもイマイチだし、メインとなるトリックも何度も使われたようなものだったうえに、読者には犯人探しが出来ないようになっている点は少し残念でした。 そう言った意味では、ミステリとしての評価は、二作目の「黒龍荘の惨劇」よりは低いのかも知れませんが、小説としては、時代背景を上手く絡めて話が進められているのにも感心しました。 私はこちらの方が面白かったし、楽しく読みました。 |
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一年で辞めると決めて就職した田舎の町役場で、新藤結子が配属された部署は「広報課」。
最初は勝手がわからず、嫌々ながらしていた仕事なのに、回を重ねるごとにその魅力にとりつかれていくという話です。 五編の連作短編からなっていますが、最終話以外は、広報を発刊するために取材に行ったさきで、ちょっとした謎に遭遇し、それとなくその謎を結子が解いてしまう・・・と言う展開です。 最終話に、それまで各話に散らばっていた伏線を総括したような話が展開しますが、それぞれの短編には、興味を引くような謎があるわけでも無く、なにかバタバタしながら話が進んでいくので、それほど面白い話ではありませんでした。 ずいぶん前のことですが、私自身が「ガリ版」で小冊子を作っていたこともあり、その頃の緊張感を思い出しながら読んでいましたので、広報作りの楽しさだけじゃ無く、苦しさも十分伝わって来ましたし、その反面、やりがいを感じると言うことも、良く理解できました。 本書に、「(広報が)鍋敷きにちょうど良い」と言う台詞が出てきたのには、思わず笑ってしまいました。私もそんなことを言われた経験がありましたので・・・(笑) ということで、私は結構好きな作品です。 |
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【ネタバレかも!?】
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ちょっとしたきっかけで、ふと「妖異金瓶梅」を思い出してしまいましたので、1984年に購入した本書を再読しました。
現在発売されている角川文庫版には、単行本未収録の異稿版「人魚灯篭」も含まれているようですが、私が所持している本には、残念ながら含まれておりませんでした。 さて、本書は、中国四大奇書の一つに数えられる「金瓶梅」(「水滸伝」のスピンオフ物語)の登場人物を使って書かれたミステリ(なので18禁)で、14編の連作短編です。 豪商・西門慶(せいもんけい)は世の乱れをよそに、その邸内に8人の愛妾を住まわせ、楽しい日々を過ごしていますが、その中で殺人事件が起きるという設定です。 探偵役には、西門慶の元悪友で、今は落ちぶれて太鼓持ちをして居ると言う応伯爵(おうはくしゃく)。 彼は事件の真相を見抜きますが、なぜか真犯人を告発しないで黙っていると言う、ちょっとユニークな探偵です。 第一話の「赤い靴」では、謎解きを中心に据えた普通のミステリだと思って読んでいましたが、第二話の「美女と美童」以降、ちょっと変わった形式になって行きます。 二話以降では、第一話からの話の流れで、読者には犯人だろうと思われる人物が予想できるように描かれていて、倒叙ミステリのような犯罪小説のような話でした。 初めて読んだ時は、あまりにも簡単な動機で殺人が行われてしまうし、その方法も中国の話には良く出てくるような残酷な様子なので、あまり気持ちよく読める作品ではありませんでした。 でも、今回読み返して見て、探偵役の応伯爵がちょっとユニークな人物だし、主人公の一人・潘金蓮(はんきんれん)と言う女性が、とても生き生きと描かれているので、(30年前と較べると、許容範囲が広くなっているのか)結構面白く読みました。 ただ「凍る歓喜仏」以降の4編は、それまでの短編とちょっと様子が違い、梁山泊のメンバーも登場し、西門慶の死をきっかけに、その愛妾たちも亡くなってしまい、崩壊していく様子が書かれています。ちょっとした長編を読んでいるような感じです。 今回、30年ぶりの再読ですが、今でも十分楽しめました。 |
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横溝正史ミステリ大賞受賞の受賞第1作として書かれたミステリで、そのときのタイトルは「たゆたいサニーデイズ」でした。文庫化に際して、このタイトルになったと言うことですが、こちらの方が良いタイトルだと思います。
さて、本書ですが、「春のしずく」、「夏のにおい」、「秋のとばり」、「冬のむこう」と言うタイトルがつけられた四つの季節ごとの章と「エピローグ」から出来ていて、それぞれの章に、ちょっとした謎が入って居ます。 部員が二人しか居ない合唱部の一人で、二年生になったばかりの葉音梢(はおと こずえ)の視点で話が進んでいきます。 作者は男性のはずなのに、女子高校生の目線で書かれていることに読んでいても違和感が無く、しかも高校生の気持ちの揺れようがとても上手く書かれているように感じました。 探偵役となる、合唱部の三年生・部長の宮本耕哉の描き方も、本気なのかおとぼけなのかよくわからないような態度ですが、なかなか良い味を出しています。 学校を舞台にした話って、高校生の目線では無く、大人の目線で高校生を書いている場合が多いので、あまり好きでは無いのですが、本書を読んでいると、ふと自分たちの世代の高校生活を思い出してしまいました。(そういう意味では今の時代には合わないのかも知れませんが・・・) 何か特別なことがあるのでも無く、誰にでもあるごく普通の高校生活を送っている様子が、ほのぼのと感じらます。 最後に、各章に書かれていたちょっとした謎が一つにまとまってきて、違った解釈がなされてきますが、この話も、少し間違えばどろどろした変な感じの話になってしまいそうな流れなのですが、とても爽やかにまとめられているのも良いです。 ミステリとすれば、少し物足りないところはありますが、少し前に読んだ「夕暮れ密室」でも感じたことですが、高校生たちの世界が興味深く書かれているのに感心しました。 読みやすい文体で、最初から最後まで気持ち良く読みました。オススメとまでは行きませんが、私はけっこう気に入って居ます。 |
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寝てしまうと、それまでの記憶を無くしていまうという、「忘却探偵・掟上今日子(おきてがみ きょうこ)」が登場する、五編の連作短編ミステリです。
語り手は、いつも事件に巻き込まれると、自分が犯人だと疑われてしまうという青年・隠館厄介(かくしだて やくすけ)で、彼が事件に巻き込まれてしまったときに役立つように、携帯電話には名探偵の名前がぎっしり詰まっているそうです。 事件解決率100%という有名な名探偵も登録されているそうですが、このシリーズでは、解決するのが最速の探偵(朝起きてから、夜眠るまでに解決する)である、掟上今日子に事件の解決を依頼します。 でも、そのたびに、彼女と依頼主の厄介とは初対面と言うことになってしまうところが面白いですね。 一話と二話は、厄介が依頼した個別の事件を書いたものですが、三話から五話までは、あるミステリ作家の新作に関する、一連の事件についての話になります。 朝に目覚めると記憶がリセットされているので、彼女の記憶のバックアップとして、左腕に油性のペンで、「私は掟上今日子。25歳。置手紙探偵事務所所長。白髪、眼鏡。記憶が一日ごとにリセットされる」と書かれており、毎朝これを見て自分を思い出していると言うことです。 でも、読みながら気になっていたのは、どの時点の記憶までが残っているのかと言うことでしたし、なぜ、眠ってしまうと記憶がなくなってしまうのかと言うところも不思議なところです。 しかも、なぜ探偵をしているのかという事もよくわからないまま話が進んでいくだけではなく、話が進んでいくと、実際には、彼女が何歳で、どういう人物なのかと言うことまでわからなくなっていきます。 事件の謎もちょっとユニークでしたが、それよりも、彼女の謎の方が面白いミステリでした。 このあと、「忘却探偵シリーズ」として、続編が書かれるのでしょうか? ちょっと楽しみにしています。 |
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第一回の「新潮ミステリ-大賞」の受賞作と言うことですが、本書を本屋さんでたまたま見かけるまで、こういう賞が新設されていたのを全く知りませんでした。
以前、新潮社が主催した公募の長編ミステリーの新人賞で、1996年から2000年まで全5回実施された「新潮ミステリー倶楽部賞」というのがありましたが、その後継として創設されたのでしょうね。 ちなみに、この「新潮ミステリ-大賞」の選考委員でもある伊坂幸太郎氏は、『オーデュボンの祈り』で、第五回(2000年)の「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞されています。 さて本書ですが、ます冒頭から驚かされました。 旧仮名遣いで書かれたホラー小説ような章(しかも最終章)に、思わず引きつけられてしまいました。 この部分は、戦前から「在庭冷奴(あらばれいど)」のペンネームで、売れない怪奇小説などを書いていた、主人公の荊庭紅(いばらばこう)の祖父・零(れい)が書いた「サナキの森」という小説の一節だと言うことが後ほど判明します。 でも、こういう話が旧仮名遣いで書かれていると、雰囲気があって興味を引きますね。 亡き祖父の本棚から紅に宛てた、「遠野市の佐代村の神社に隠してあるべっ甲の帯留めを探し、自分の墓に供えてほしい」と書かれた手紙が見つかります。 その意をくんで、祖父が書いた小説・「サナキの森」に書かれていたような凄惨な事件があったという遠野の旧家・東条家を訪れ、そこで中学生の泪子(るいこ)と出会います。 二人は、紅の祖父が書いた小説を手がかりに、現実に、泪子の家・東条家の庭にあった納屋で起きた80年前の「密室殺人」の謎を追って行きます。 この密室を構成しているのは、ちょっとした盲点を突くような謎でした。言われてみて、初めて気づかされましたが、読んで居るときには全く気がつきませんでした。 祖父が書いた旧字体の「サナキの森」と、紅の視点で書かれた話が交互に登場しますが、十代の泪子と二十代の紅の掛け合いがなかなか面白くって、この年頃の女性の雰囲気が良く出ています。 また、読後に、旧仮名遣いの部分・「サナキの森」だけ通して読んでみましたが、ホラー小説としても良く出来ているのには感心しました。 二つの異なった文体が登場し、どちらも上手く書かれているのには脱帽です。 ベースになっている話は、悲惨な怪奇小説なのですが、紅が思いを寄せる「陣野せんせー」や十代の泪子との関係も楽しくって、なぜか読後感が爽やかでした。 また、個人的にも、共感できるところが多々あって、楽しく読みました。 余談ですが、私の学生の頃は、戦前のミステリ(例えば「黒死館殺人事件」など)を読むと、ほとんどが旧仮名遣いで書かれていましたので、本書のその部分はさほど苦にはなりませんでしたが、旧仮名遣いに慣れていない読者には大変だったろうと想像します。 でも、だからといって、その作品がダメだって事になってしまうと、ちょっと残念です。 |
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日本推理作家協会賞の候補には幾度となく挙がってくるのですが、やっと短編「暗い越流」で受賞されました。
その受賞作を中心に、5編の短編を集めた短編集です。 1作目の「蠅男」と5作目の「道楽者の金庫」は、「プレゼント」という連作短編集に登場してきた女性の探偵・葉村晶が活躍する話となっています。 1作目の「蠅男」を除いては、最後の数行であっと言わせるような仕掛けがされていますが、これがなかなか面白いです。 表題作の「暗い越流」では、登場人物の性別が良くわからないまま話が進んでいきましたが、最後でその落ちとともに性別が明らかにされ、ちょっと驚かされました。確かに良く出来ている作品です。 でも、私としては「幸せの家」と「狂酔」がなかなか気に入っています。 特に、「幸せの家」は、これからの高齢社会では起こりそうな話のような気がしますし、あってもおかしくない話です。でも、犯罪に結びつかないような形で収まれば良いのかなとか思ったりしました。 「狂酔」は、過去にこういう事件があったような、なかったような・・・と、そういう話です。 読んでいて、宮部みゆきさんの「ペテロの葬列」をふと思い出しましたが、最後のところはちょっとゾ~とする落ちになっています。 それにしても、久々に若竹七海さんの(ずいぶん旧作を読み返していました)新作を読み、やはり話の持って行き方がうまいなぁと、改めて感心しました。 |
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葉村晶が登場する、久々の長編ミステリです。
第66回日本推理作家協会賞の短編賞を受賞した作品を収めた短編集・「暗い越流」の中にも、葉村晶を主人公にした二編の短編が収めてありましたが、これまで、葉村晶が主人公として登場した本は、「プレゼント」(1996年短編集)「依頼人は死んだ」(2000年短編集)「悪いうさぎ」(2001年長編)の三作です。 長編作品としては、「悪いうさぎ」以来となる13年振りの登場ですが、今回は文庫書き下ろしだということもあって、出版後すぐに購入しました。 話の中心となるのは、元スター女優から依頼された、20年前に失踪した彼女の娘探しです。 冒頭からチョットしたトラブルが発生し、そのことがきっかけで、元女優から娘捜しを依頼をされると言うことになりますが、その娘を探す過程で、次々に様々なトラブルや謎が発生し、それをその都度解決すると言う展開です。 登場人物が、それぞれ一癖も二癖もあるような人ばかりで、最初は、ハードボイルドのような感じで進んでいきましたが、小さな事件が上手く絡み合って、最後に事件の真相が判明するという流れで、いろんな謎が次々登場してくるので、途中で退屈することなく、楽しく読み終えました。 それにしても、話の流れと言いテンポと良い、今更ですが、さすがに上手いです。 失踪事件から殺人事件に発展し、その話の展開の中で、登場人物たちがそれぞれ引き起こす事件やトラブルが発生するといった面白さが、一杯詰まった話になっています。 話が、葉山晶の視点で書かれて居るので、一緒に事件を追って行けるというのも、読んでいて楽しかったところです。 でも、こんなのが文庫書き下ろしで提供されるとは・・・、チョット感激です。 ということで、オススメの一冊です。 余談ですが、本文中に、「三大倒叙ミステリ」の一つ、リチャード・ハルのミステリのタイトルが、東京創元社では「伯母殺人事件」で、早川書房では「伯母殺し」と訳されていると言う話がありましたが、他にも、エラリークイーンの「中途の家」と「途中の家」や、アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」と「アクロイド殺害事件」などがあります。 早川ポケットミステリよりも、創元推理文庫の方が手頃な値段だったので、私は、両方から出版されている本は創元推理文庫の方を買っていました。そのせいで、「アクロイド殺し」というタイトルには、未だに違和感があります。 |
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文化祭当日の朝、森下栞が女子シャワールームで死体となって発見されます(第二章)が、彼女の視点で、その二週間前に行われたバレー部の大会でのエピソードが語られていくところ(第一章)から物語が始まります。
第二章以降、森下栞の死体発見の様子やその後のことが、各章ごとにクラスメートたちの視点で語られて行くという構成になっています。 第一章から感じられる森下栞は、爽やかで聡明な女子高生だったので、こんな高校生だったら男女の別なく、みんなから好かれるんだろうなぁ・・・と思いながら第一章を読んでいましたが、その二週間後の第二章で、森下栞が死体で見つかるのは、ちょっとショックでした。 というのも、第一章を読む限りでは、てっきりこの少女が今回の探偵役だと、勝手に想像していたからです。 章を追って、同じ場面がいろんな生徒の目から再現されて語られていきますが、クラスメートそれぞれが、自分が探偵にでもなったように、密室の謎を考え、犯人を捜し出す作業をしているという様子は、なかなか面白く読みました。 殺人事件が起きてから、犯人が特定できるまでの二週間、警察や学校は何をしていたんだ・・・という気もしますし、密室トリックについては、いささか疑問点もないわけじゃありません。 でも、高校生たちの世界(友情や受験、恋愛など・・・)が興味深く描かれており、事件が起こった前後の人間模様も含めて、よく書けているのじゃないかと思います。 このミステリは、第23回の横溝正史大賞に応募されましたが、その23回は「受賞作なし」という年でした。 翌年、本書の作者・村崎さんは「風の歌、星の口笛」で第24回横溝正史ミステリ大賞を受賞されています。 ちなみに、過去を振り返ると、岡嶋二人氏の江戸川乱歩賞受賞作「焦茶色のパステル」より、その前年に佳作となった「明日天気になれ」の方が面白く読みましたし、第四回サントリーミステリー大賞を受賞した黒川博行氏の「キャッツアイころがった」よりも、第一回佳作になった「二度のお別れ」の方が私は好きです。 こういうところは、選出者の好みもあるので、必ずしもいい作品が大賞となることはないですね。 江戸川乱歩賞の最終候補まで行き、賞をとらなかったものでは、中井英夫氏の「虚無への供物」や島田荘司氏の「占星術殺人事件」などもあります。誰が審査員かと言うことも大きいのではないでしょうか。 ミステリ新人賞の最終候補に残った作品が、手を加えられて新たに出版されるのはうれしいです。 |
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【ネタバレかも!?】
(4件の連絡あり)[?]
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文庫書き下ろしと言うことです。
作家名を知らずに読めば、石持作品とはわからない内容でした。 舞台が、鳥羽湾に浮かぶ島・・・と言うことなので、クローズドサークルなのかとも思いましたが、そんな感じじゃありませんでした。 作者曰く、 「これまではわりと毛色の変わったものを書く作家として認識されていたと思うので、今後はベタなものも書いていきたいですね。ベタでもちゃんと水準のものを書けると認識されたい」と言うことです。 たしかに、舞台設定などはあまり特徴が無く、良くある話といった感じの内容でしたが、それでも、探偵役の人物が、ある人物のたった一言の発言から、疑いの目を向け、犯人を指摘していくところは、作者のこれまでのいくつかの作品をふと思い出させるものでした。 読み始めても、なかなか大きな事件が起きず、ほぼ半分のあたりで初めて殺人事件が起きますが、話の展開も面白く、途中で退屈もしないで一気読みしてしまいました。 ただ、犯人が殺人を犯した時の心理状況はよくわからなかったし、犯人を指摘した後の、他のメンバーの対応にも疑問が残りました。 今回は、あまり特徴の無い人物が、探偵役として登場してきましたが、他殺死体になれているのか、殺人現場に出くわしても、冷静に適切な対処が出来るのはどうしてなのかと言うことなど、全く書かれていませんでした。正体不明の人物です。 この人物を探偵役として、この先、シリーズ化され話が続いていく中で、いろいろ明らかにされて行くのでしょうか・・・? ところで、新見某という名で登場する人物の名前は、「新見久高」なのでしょうね? |
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作者(三津田信三であろうと思われる)が語り手となっている「序章」と「終章」の間に、彼の知り合いで、利倉成留(とくら しげる)が語った話をまとめた「覗き屋敷の怪」と、民族研究家の四十澤想一(あいざわ そういち)が残したノートに書かれてあった、彼が学生時代に体験した話「終い屋敷の凶」が挟まれています。
時系列で行くと、「終い屋敷の凶」が昭和初期の話で、「覗き屋敷の怪」は昭和の終わりごろと言うことなので、順序は逆になっています。 「覗き屋敷の怪」は、四人の学生がリゾート地でのアルバイト先で、管理人から禁止されている事柄を破ったために、奇怪な出来事に遭遇するというホラー小説になっています。 何の解答もなく、おそらく「のぞきめ」によると思われる不可解な現象だけが書かれています。 ところで、作中に奈良の杏羅町の「拝み屋」で、五十歳前後だというの女性が登場しますが、若い頃は美人であったらしくって、驚くほど口が悪い・・・と言うことから、「死相学探偵」シリーズに登場する弦矢俊一郎の祖母の事なんでしょうね。 全体のほぼ3分の2ほどが、「終い屋敷の凶」になっています。 四十澤の友人で、民俗学調査の途中に亡くなった学生・鞘落(さやおとし)惣一の故郷に、弔問に行った際に体験した事柄が綴られたノートという内容です。 村八分状態にされた鞘落家の、過去の忌まわしい伝承が背景にあり、横溝正史のミステリを連想させますが、探偵も犯人も特定されないまま、大量殺人が起こり、話が終わります。 「終章」では、「終い屋敷の凶」に書かれていた、一部の不可解な怪奇現象を除き、腑に落ちない点を八つに分けて、それなりの説明がつけられて居るところは、刀城言耶シリーズのような展開でした。「のぞきめ」についても、それなりの解答がされているようです。 でも、そこでもう一度昭和の終わりの話・「覗き屋敷の怪」に戻ってみると、いろいろ想像をたくましくして、いろんなパターンの結論が出そうなのですが・・・。 |
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