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トラ さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.00pt

レビュー数47

全47件 1~20 1/3ページ
123>>

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.47: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

「王とサーカス」の感想

前作の「満願」が好評だったことあって、出版直後に本書を購入し、早速読み始めましたが、3分の1ほどのところで挫折してしまいました。
2001年頃のネパールの様子を知りたいわけでも無いし、またその頃に勃発した王族殺害事件が詳しく書かれているわけでも無く、そのことに興味も持てませんでした。
もっとも、この本の内容は、王族殺害事件の話ではなく、それは単にこの小説の背景にすぎなかったのですが・・・。

カトマンズの街の様子や、ここからどこそこに行く近道の様子を書かれても、面白くも何ともありません。
カトマンズと言えば、まだネパールではマリファナが合法だった頃に作られた映画で、ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールが共演していた「カトマンズの恋人」(1969年上映)で見た風景が記憶の底にあります。
さすがに、2001年頃には、その当時のようなユートピアを求めてやってきた白人の若者たちが、ホームレスのようにたむろって、あてもなくさまよい、クスリに溺れ、誰とは無しに抱き合っている・・・といった、そんな退廃的で自堕落な姿はすでに無くなっているにせよ、本書に書かれている街の様子とほぼ変わりばえのないイメージだったので、なおさら興味も持てませんでした。

ところで、12月になって、各紙のミステリベストテンを見て驚きました。三紙で1位、残りの一紙で3位です。
そこで、再度頑張って読み直しました。

海外旅行雑誌の取材の下見に行った時に出会った王族殺害事件を、日本で記事にするために取材を続けていくという話なんですが、その過程で殺人事件に遭遇してしまいます。
殺人事件が起こってからは、それなりに読み応えはありました。でも、身の安全が保証できない地域で、大きな事件を取材している途中に戒厳令もひかれ、緊迫している状況下なので女性ジャーナリストの身の危険を心配しながら私は読んでいるのですが、危険と隣り合わせになって居るという様子が伝わって来ません。
彼女が簡単に殺されてしまっても、おかしくない状況なのに、そんなに危険な目に遭わないし、その上、本書で初めて出会う女性と言う事もあって、なかなか感情移入できないので困りました。
私としては、この本をミステリとして評価するのは、ちょっと違うのではないかと思って居ますが、「広義の」というところでは、仕方が無いのかも知れません。

余談ですが、年明けに本屋さんに行ったら、本書が山積みされていました。帯には、「2015年度ミステリベストワン」と書かれています。
それを見て2000円ほどの本書を買われる方も居られるのかと思うと、こういったベストテンにはいささか疑問を感じてしまいます。
王とサーカス (創元推理文庫)
米澤穂信王とサーカス についてのレビュー
No.46:
(6pt)

「帰ってきた腕貫探偵」の感想

4編の連作短編集です。

「氷結のメロディ」
鳥遊(とかなし)葵という、女装男子が登場します。それにしても、いつもながらの難しい名字です。小鳥遊(たかなし)とうのは知っていましたが、鳥遊(とかなし)は初めて知りました。
さて話は、櫃洗大学でバンド活動をしていた仲間4人が、次々と墜落死や自殺してしまい、一人残った女装男子の鳥遊葵が悩んでいるところに、住吉ユリエが声をかけ、彼女の「だ~りん」こと、腕貫さんの所へ連れていくという話です。
話を聞いただけで、腕貫さんが事の真相にたどり着くと言うことは、私たち読者も、腕貫探偵と条件が同じなので、よく読めば気がつきそうなんですが、ある程度の想像力が必要となるので、難しいですね。
一年半ぶりのシリーズなので、楽しみながら読みました。

「毒薬の輪廻」
婚約者が毒殺され、結婚できなくなった女性・新田目(あらため)美絵が、20年ぶりにその元婚約者の母親に会ったところ、突然切りつけられたと言う話です。
警察の判断では、おそらく、息子を毒殺した犯人が美絵だと思っての犯行だ・・・と言うことですが、その言葉に納得できない美絵が、いきさつを腕貫探偵に話していると、意外な結末が・・・。
話の中で、ちょっと複雑な家庭の事情が出てきますので、私にとってはあまり興味を引く話ではありませんでした。

「指輪もの騙(がた)り」
この話には、腕貫探偵が登場しません。
住吉ユリエ、鳥遊葵、阿藤江梨子の三人に、突然出会った刑事・氷見と水谷川(みやかわ)がランチにさそわれ、そこで30年ほど前の未解決事件を話すことになります。
5人でその事についていろいろ話していき、それぞれが少しずつ気がついたことをつなぎ合わせていくと、いつの間にか真相らしきものが見えてくるという流れです。
数人で、一つのことについて話し込むことで、意外な方向に話が進んでいくものなんですね。それにしても、この作者は、こういった話の作り方って上手いです。
30年前の未解決事件の犯人がわかっても、以前は時効というのがありましたが、今では殺人については時効がなくなっているので、検挙できそうです(笑)

「追憶」
一週間前に死んだ女性が、成仏できない理由を腕貫探偵に相談するという話です。
幽霊の視点で、腕貫さんとのやり取りが進んでいくというのも面白い所です。
読み返すと、謎を解くためのキーになる言葉が、あちこちに入って居るのに、気がつかないのは情けないですね。
帰ってきた腕貫探偵
西澤保彦帰ってきた腕貫探偵 についてのレビュー
No.45: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

「屋上の道化たち」の感想

御手洗潔シリーズ50作目と言う事で、早速購入しました。
このところの島田荘司のミステリは、大層なトリックと見せかけて、実はそうでも無かった・・・というのが多く、少しずっこけ美味でしたが、本作は久々の御手洗潔の登場と言うことで、期待して読みました。

内容を一言で言えば、「自殺するはずのない人たちが、次々に飛び降りる屋上の謎」と言うことなのでしょうが、話がだらだらしすぎて、長編にする必要があったのだろうかと思えてしまいます。
謎解きだけなら、中編で十分です。余計な部分が多すぎて、ちょっと中だるみもしました。

また、大阪の女性が登場しますが、変な大阪弁ですね。私は大阪に住んでいますが、あのような大阪弁を使う女性に会ったことがありません。
時代が違うのかとも思ったりしましたが、時代設定は1991年1月で、舞台は神奈川県T見市と言う事です。
別に大阪弁を使う女性を登場させなくっても良いような展開ですが、終始気になって仕方がありませんでした。
また、変なラーメン屋のおじさんの話なんて、どうでも良い感じです。

それでも、260ページを過ぎたあたりからやっと、御手洗潔と石岡和己の掛け合いも登場し、それ以降は読む速度も早まりましたが、何かドタバタ喜劇の裏側を読んでいるような感じで、今回もずっこけながら読み終えました。

余談です。
読後に知ったことですが、作者の島田荘司さんが、NHKの朝ドラ・「あさが来た」を欠かさず見ていたそうです。
それで本作に最初に登場する女性が大阪出身で、神奈川に行っても大阪弁を話すと言う事は、もしかして朝ドラの影響なのでしょうか?
なので、登場する女性が、今はもう使わなったような、昔の大阪弁を使っているのかも知れないですね(笑)
屋上 (講談社文庫)
島田荘司屋上(屋上の道化たち) についてのレビュー

No.44:

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ

佐藤究

No.44: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

「QJKJQ 」の感想

2016年度・第62回の江戸川乱歩賞受賞作です。
内容を読むと、父、母、兄が猟奇殺人鬼という家庭で育った高校生の話と言うことで、買うのをしばらく躊躇して居ました。
あまり気分の良い内容じゃなさそうだし、現実と虚構が交錯すると言う、私の苦手な展開の話だからです。

冒頭から繰り広げられる残虐な殺し方の描写に、ちょっと吐き気を感じながらも、読み進める事が出来ました。と言うのも、何より、文章が上手いです。
十七歳の女子高生・市野亜李亜(いちのありあ)の視点で書かれているのですが、全く違和感が無く、話しに引きつけられていきます。

読みながら、疑問に思うところは多々ありましたが、最後にそれらがすべて納得できるような形で話が繋がって行き、新人とは思えない力量に、感心しながら読んでいきました。

ただ、読みながら感じていたのは、どこまでが現実で、どこからが虚構なのかがよくわからない事です。でも、読み終えた時には、ひょっとしたら、すべてが虚構だったのではないのかと言う気がしましたが、はたして・・・。

本書をミステリという枠に当てはめるのは、少々疑問な所もありますが、こういうミステリも有りなんでしょうね。
感想を書くにも、どこまで書くとネタバレになるのかわからないまま書き進めていきましたが、衝撃を受けた作品であるというのは間違いがありません。
あまりオススメは出来ませんが、私は途中で辞められず、時間を取って一気に読んでしまいました。
QJKJQ (講談社文庫)
佐藤究QJKJQ についてのレビュー
No.43: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「怪談のテープ起こし」の感想

短編の間に、「序章」「幕間(一)」「幕間(二)」「終章」と入って居ます。
ここでは、作者・三津田信三と、『怪談のテープ起こし』の連載を担当した女性編集者・時任美南海が登場します。

「自殺する間際に、家族や友人や世間に向けて、カセットテープにメッセージを吹き込む人が、たまにいる。それを集めて原稿に起こせればと・・・」と言う事で、三津田信三の手に渡った取材テープ。
その怪談話を収録した取材テープを三津田信三から借りた編集者の時任は、作者・三津田信三の執筆のヒントになるからとテープ起こしを始めます。
しかし、その彼女に、次第に異変が・・・。
この幕間(まくあい)がなかなかユニークで、良く出来ています。

一つ一つの短編も、それなりに面白いですが、作者と編集者との絡みを、短編の間に挟むことで、一つの長編を読んでいるような気分になりました。
また、この本に収められた6つの短編は、どれも作家・三津田信三が取材したり、自分で体験したりした話をもとに執筆されている(と言う事になっている)ので、この編集者との会話の部分は、ひょっとすると実話なのでは・・・といった感じを読者に与えるという効果もあります。

三津田信三のホラーの中には、それなりにミステリーとしても読み解ける話が多いのですが、今回は、全くオチのない話しになって居ます。(と言う事で、各短編の感想は、省略させて戴きます)
良く出来た話なので、興味深く読み進めることは出来ますが、読み終えた後は、なぜか背筋が寒くなってくる・・・、そんな話が詰まった短編集です。
オススメします。
怪談のテープ起こし (集英社文庫)
三津田信三怪談のテープ起こし についてのレビュー
No.42: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「黒面の狐」の感想

刀城言耶シリーズのような、ホラーとミステリの融合なのかと思いながら読んでいきましたが、本格ミステリでした。
主人公の物理波矢多(もとろい・はやた)が、探偵とワトソン役(物語の語り部)の両方を演じているので、推理の筋道がわかりやすく、一緒に謎解きを楽しめました。

戦後すぐの炭鉱を舞台にした話なのですが、戦中・戦後における、日本と朝鮮との関わりが、作者の視点で書かれおり、その点でも興味を持って読みました。
読まれる人によっては、作者の視点に異を唱える人も居るのではないかとは思いますが、私はほぼその通りだと思いながら読みました。

戦争中に、朝鮮人が日本の炭鉱という閉鎖的な場所で、どういう扱いをされていたのか、そしてそのことが、この本の舞台である炭鉱で起きた連続殺人に、どう繋がって行くのか・・・。
最後には、ちょっと驚きの結末が待って居て、息もつかせないまま読了しました。

最終章で、物理波矢多が犯人を指摘するところは、推理が二転三転するという、刀城言耶を主人公とするシリーズでよく見られるパターンと同じでしたので、それなりに楽しめました。
連続殺人が起こり、密室が登場し、もう一つ、良くミステリで登場するトリックが使われ、最後にはどんでん返しが・・・となれば、面白く無いはずがありません。
黒面の狐 (文春文庫)
三津田信三黒面の狐 についてのレビュー
No.41: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

「危険なビーナス」の感想

発行店のHPに本書の紹介として書かれていた文章を読んだとき、(主人公の)伯朗と、弟の妻・楓との間に、なにやら変な関係が出来てしまうのでは・・・と勘ぐってしまいますが、そういう話ではありませんでした。

ということで、ネタバレに気をつけながら、少しあらすじも書いてみたいと思います。

池田動物病院の院長代理・手島伯朗(てじま はくろう)の視点で話が進んでいきますので、とても読み易く、その気になれば一日で読めてしまいそうです。

伯朗の父は、彼が幼いころに亡くなっており、父の死後、母は、資産家の御曹司であり、医者の矢神康治という男性と再婚します。
その再婚相手との間に出来た子どもが、弟の“明人”で、ある日突然、「(伯朗の弟の)明人の妻だ」と名乗る女性・楓(かえで)が、伯郎のまえに登場することから話が始まります。

父・康治が危篤であると聞いた明人と楓は、アメリカのシアトルから日本に帰国しますが、帰国後すぐに明人が失踪したということで、(義兄の)伯郎に相談しに来た・・・と言う事です。

母の死後、伯郎は、矢神家の人たちや弟の明人とは疎遠状態になって居たので、明人が結婚していたことを知らされていなくても、違和感は感じなかったようです。
楓の話によると、明人は母の死に疑問を持っていて、矢神家には気をつけるようにと言って居たと言うことですが、伯郎は、楓から、明人の失踪について一緒に調べて欲しいと頼まれます。
父・康治の見舞いに行き、矢神家の遺産相続の話し合いの場に参加させられていくうちに、少しずつ矢神家と父・康治に関する驚くべき事実が次々と明らかになっていきます。

でも、弟・明人の「失踪のヒミツ」と言う事が、前半の焦点になっていたはずなのに、途中から、伯郎の母の死についての謎や、伯郎の父の死についての経過などが明らかになっていきますが、いったい何がこの話の焦点なのかがよくわからない流れになっていきます。

伯郎が、動物病院勤務なので、動物病院内での治療の様子や看護師との会話などが時々出てきますが、その部分が結構楽しかった割には、本筋の話はイマイチでした。
また、ラストのどんでん返しは、ちょっとズッコケる感じの結末でした。

でも、看護師の女性が指摘したように、「女性に惚れっぽい」伯郎の心境などは面白かったので、複雑な家庭環境を背景に持って来て、込み入った話にしなくても良かったのではないでしょうか。
私的には、伯郎の義妹・楓よりも、看護師の女性が魅力的だったので、この話にどう関わってくるのかと興味を持っていたのですが・・・。
危険なビーナス (講談社文庫)
東野圭吾危険なビーナス についてのレビュー
No.40:
(7pt)

「探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて」の感想

全4話の連作短編集です。
神奈川県川崎市にある街・溝ノ口と、その周辺で起きる事件の話なので、関西在住の私としては、地図(路線図)とにらめっこしながら読みました(笑)

第1話「名探偵、溝ノ口に現る」
「なんでも屋タチバナ」を始めた、橘良太の視点で書かれています。
彼が絵の(全裸)モデルをして居る間に、その画家の父親が殺されていると言う事件に遭遇します。
第1話では、「なんでも屋」を始めたいきさつと、両親が共に名探偵という10歳の少女・アリサとの出会いが書かれていますが、両親同様、アリサもまた名探偵だったと言う話です。
アリサと橘良太の掛け合いも、楽しく読みました。

第2話「名探偵、南武線に迷う」
特に路線図とにらめっこをしながら読んだ話です。
「はじめてのお使い」に駆り出されたアリサが、父から頼まれた物を届けた相手が、駅前で起きた殺人事件の容疑者という話です。
電車の時間トリックが登場しますが、地元の者で無いとわからないのではと思われるトリックでした(笑)

第3話「名探偵、お屋敷で張り込む」
良太とアリサが監視している離れの部屋の中での事件で、誰も出入りはしていないと言う事で、密室殺人か・・・という騒ぎになります。
トリックとしては、良くある話なのですが、この連作短編の中では、良く出来ていると思います。

第4話「名探偵、球場で足跡を探す」
良太が町内会の野球に参加して、ヒンシュクをかってしまいますが、その後、再戦となった野球のグランドで起こった事件です。
大胆すぎるトリックは、少々いただけませんが、ルートを使ったややこしい計算が出てくるのには驚きました(笑)が、ちょっとおかしな計算でした。
作者は、野球については詳しくないのかも知れません。

新シリーズになりそうな連作短編集でした。久しぶりに楽しめました。
古典ミステリの事なども、チラリと登場してくるので、そういうことも知っていないとユーモアミステリは楽しめないようですね。
探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて
No.39: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

「虹を待つ彼女」の感想

第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞した作品です。
表紙の絵が、何とも言えないほど良い感じです。裏表紙も良いですね。
ミステリと言うよりは、甘い恋愛小説をイメージさせる表紙になって居ますが、手に取られた方は、帯を取って、裏もしっかり見て欲しいと思います。

さて、本書ですが、いくつかのエピソードが書かれていますが、それがラストにどう繋がって行くのかがわからないまま終わってしまいました。
話としては面白いのですが、なにか取って付けたようなエピソードになって居ます。

また、舞台が2020年という、近未来に設定されていますが、数年後という近未来を話の舞台に設定する理由がイマイチわかりませんでした。
「現在(いま)」と言う事でも、全然違和感が無いような気がしました。

一つのエピソードとして、囲碁のプロと人工知能との対決という場面が登場します。
人工知能については、グーグルが開発した囲碁ソフトが韓国のプロ棋士に勝つなど、チェスや将棋の世界でも、人工知能がその道の最高峰の人間に勝利すると言う時代になってきました。
これからは逆に、人工知能を使ったトレーニングで、人間の能力を高めていくというような、共存の時代になっていくと思うのですが、それにしても、最新の人工知能に囲碁で勝てる棋士って、2020年にはホントに現れるのでしょうか?

本書では、この人工知能についての解説があり、中盤にサスペンス風の展開になり、最後には恋愛小説になってしまうという感じの流れです。
「横溝正史ミステリ大賞」を受賞したと言う冠を考えると、肩すかしを食いそうです。

いろんな人の書評を読むと、本書はそれなりに評判が良さそうですが、ミステリとしてはいろんな疑問点が残ってしまい、未消化の部分が多いような気がします。
まぁ、退屈しないで読めたのは良かったですが、人間と人工知能の恋愛物と考えれば良いのかも知れないですね。
虹を待つ彼女 (角川文庫)
逸木裕虹を待つ彼女 についてのレビュー
No.38: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

「赤い博物館」の感想

「著者初の本格警察小説!」と書かれていますが、警察組織が舞台となった警察小説を期待して購入されると、ちょっとがっかりするかも知れません。
でも、トリックやロジックを楽しんで読まれると、期待以上に読み応えがあると思います。
話は、“警視庁付属犯罪資料館”、通称「赤い博物館」の館長が、捜査一課から左遷されてこの資料館に配属されてきた巡査部長と共に、時効となった未解決事件に挑むという連作ミステリです。

過去の事件の資料に疑問点が見つかると、巡査部長がその事件の再捜査が行い、それを元にして館長が事件の真相を推理していくという手法は、読者にも手がかりがすべて提示されているということで、読むのにもチョット力が入ってしまいます(笑)
どの短編も、(私の)予想を覆す展開で、最後には驚くような結論が用意されている・・・と言う事で、それぞれが標準以上の出来だと思います。
今年度、私が読んだミステリのベスト3以内に入ってくるのは間違いない・・・、と思えるようなミステリです。
ストーリーをヘタに書いてしまうと、ネタバレしてしまいそうなので、全く書かないことにします。
本格ミステリ好きにはたまらない短編集です。ぜひ手にとって読んでみてください。オススメです。

館長がエリートコースをはずれたキャリアで、彼女の過去に何かがあったようなことをさりげなく描いているので、今後このコンビで続編が書かれるのかも知れませんが、楽しみなシリーズになりそうです。
赤い博物館 (文春文庫)
大山誠一郎赤い博物館 についてのレビュー
No.37:
(7pt)

「中野のお父さん」の感想

子どもが持ち込んできた事件のあらましを聞いて、その謎を親が解決するという話は、都筑道夫の「退職刑事」や、ジェイムズ・ヤッフェの「ママは何でも知っている」と言ったミステリが有名ですが、本書も同じような傾向(安楽椅子探偵もの)の話になっています。
ただ、それらの二作と違うところは、殺人事件の犯人探しでは無く、日常の謎を扱っていると言うところです。

出版社につとめる娘が持ち込んできた話を、あっという間に解決してしまう(作者が創った謎を作者が解くのだから当たり前)のは良いとしても、その話が発端となって、思いもかけない広がりを見せてくれるというのは、読んでいて大変楽しくなります。

特に、「闇の吉原」には、感心してしまいました。
「闇の夜は吉原ばかり月夜哉」と言う俳句の、切る場所で意味が違ったり、接続詞が変われば大きく意味が変わったりするという話は、興味を引くものでした。
この話は、泡坂妻夫さんの短編集「煙の殺意」に収録されている「椛山訪雪図」(未読です)でも扱われていると言うことなので、この際に読んでみたくなりました。

ただ、一話ずつの話が短いので、何か物足りなさを感じてしまいますが、読後感は悪くありません。むしろ、シンプルな謎なので、話しもわかりやすく、いろんな人に受け入れられるのではないでしょうか?
ただ、この表紙の絵はいただけません。
シャレじゃ無いですが、この表紙を見て、拍子抜けをしてしまい、一度は購入するのを躊躇したほどです。

感想では無いですが・・・、
本を読むときにはほとんどの場合、主人公の視点で読んでいくことが多いのですが、読み進めていく内に、いつの間にか主人公の父親に感情移入して、読んでしまっていました。
好きな本について語り合える娘が居たら、楽しいでしょうね・・・。
中野のお父さん
北村薫中野のお父さん についてのレビュー
No.36:
(5pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

「道徳の時間」の感想

2015年度の江戸川乱歩賞受賞作品です。
以前のある時期には、受賞作と言ってもあまり面白くない作品が続いたこともありましたが、このところ、「カラマーゾフの兄妹」や「闇に香る嘘」といった、レベルの高い作品が受賞したと言う事もあって、本屋さんで見つけて、すぐに買ってきて読み始めました。
タイトルの「道徳の時間」と言うのも、なかなか良いですね。

話は、いろんな謎が次々に出てきて、なかなか面白かったです。この散らばっている謎を、どのように収束させるのかが楽しみで、一気に読んでしまいました。
読ませる筆力もあるなぁと、ちょっと感心して読んでいましたが、最後になってそれらが上手く一つに収束できずに、どこかに不時着してしまった・・・というのが読後感です。

主人公のビデオジャーナリスト・伏見が、休業に追い込まれた(らしい)と言う過去の事件を引きずっており、それが少しずつ明らかになっていきますが、どう考えてもそんな事で休業してしまうとは思えません。
また、13年前の事件で、裁判では黙秘を続けていたという容疑者の背景や動機も、なにか肩すかしを食った様な感じですし、最後の落ちについても、予想が付いていた(誰にでもわかる)事なので、驚くほどのことではありませんでしたし、逆にちょっとがっかりしたと言うのが、率直な感想です。

残念ながら、江戸川乱歩賞の受賞作も、以前のレベルに戻ってしまった様で、これなら「受賞作なし」でも良いのに・・・と思いました。
むりやり受賞作を作ってしまったという印象です。
道徳の時間 (講談社文庫)
呉勝浩道徳の時間 についてのレビュー
No.35: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

「雨月荘殺人事件 」の感想

1988年度の第42回推理作家協会賞を受賞した作品です。
本屋さんで見たときは、ちょっと読みにくそうな内容だったので、文庫が出れば・・・と思ってスルーしたところ、すっかり忘れてしまい、気がついた時には、中央公論社から出されていた文庫も絶版になっていました。
いろいろ探したところ、双葉文庫から出されている「日本推理作家協会賞受賞作全集」の中に本書を見つけ、やっと読むことが出来ました。

この本が書かれたときはまだ、日本には欧米のような陪審員制度が無かったので、一般の人が裁判の公判調書を目にすることも無かったでしょうが、裁判員制度が2009年から導入されたので、もし選出されたら、こんなややこしいものを読まないとダメなんだろうなぁ・・・と思いながら、ページを開きました。

小説の構成は、100ページの市民セミナーの部分と、450ページほどの公判調書の部分に分けられています。(単行本の初版では、2分冊でした)
元裁判官だった方が講師となり、市民セミナーに参加している人に、実際に起こった裁判の様子なり公判調書の見方を解説するという方法で、話が進んでいきます。
市民セミナーは6回に分けられていて、講師が「次回のセミナーまでに、何ページまで読んでおいてください・・・」と言う指示に従って、公判調書の部分を読んでおき、次の講座でその内容の解説をしてくれるという流れになります。

市民セミナーに参加している人と一緒になって、実際の調書を見て、裁判の進め方やら調書の読み方などを学習しているような感じで、面白く読めましたし、公判調書の「証人尋問」のところはとても迫力がありました。
第9回公判調書を読み終え、4回目のセミナーは、「みなさんが裁判官になったつもりで、どういう判決を下すべきか、次回までに考えてください・・・」と言う講師の話で終わります。

第10回公判調書と第5、第6回のセミナーの部分は、単行本では袋とじになっていたそうです。
読まれる方は、ここで本を閉じ、裁判の結果と事件の顛末を考えてみてください。

最後の第10回公判調書で、事件の判決を読み、解説部分である第5回市民セミナーで、その判決について話し合われます。
その後、次回の予告と言うことで、「この裁判の判決が出されたあと、(どちらかが)それに意義を申し立てて控訴しますが、高等裁判所での審理中に、いろいろ真実が暴露される・・・」と言う説明があり、もう一度公判調書を読み直して、結果がどうなったのかを考えておくように言われます。

市民セミナーの最終回で、それぞれの推理が出されるという筋立てですが、公判調書をしっかり読むと、いろいろな矛盾点も発見でき、驚く結末が用意されていました。本格ミステリとしても、とても良く出来ていると思います。

実際の裁判の公判調書にそって、事件が進んでいくという形式には驚きましたが、セミナーの一員になったつもりで、講師の方が指示された通りに読んで行くと、最初に本書を手にしたときは、ちょっと取っつきにくいように思えた裁判の公判調書も、そんなに苦にせず読むことが出来たことも驚きです。
最初はおっかなびっくりで読み始めましたが、読み出したら面白くて、そのまま一気に読み終えてしまいました。
オススメです。
雨月荘殺人事件―公判調書ファイル・ミステリー (中公文庫)
和久峻三雨月荘殺人事件 についてのレビュー
No.34:
(7pt)

「あいにくの雨で」の感想

最初のページを開くと、「13」と書いてあったので、これは何だ・・・と、考えながら読んで行きましたが、「13章」という意味の「13」ということで、1章の前に13章が掲載されていると言う構成でした(と、少し立ってからわかりました)。
この章で、最後の殺人が起きて、その構成された密室の謎を三人の高校生が解明する・・・と言うところから始まります(が、その時点では、犯人はわかっていません)。
でも、それまでに登場する人物名などが当たり前のように書かれているので、誰が誰だかわからないところもあって、途中の章から読むって言うのは、なかなか大変でした。

話は、如月烏兎(きさらぎ うと)の視点で語られますが、探偵役はどうやら獅子丸という烏兎の友人のよう(だと、最初に書かれている13章から推測されます)です。

最初から順に章を負うごとに、三人の関係や高校生活の実態などが明らかになっていきますが、なかなか青春ミステリとはほど遠い内容でした。高校生が主役で、その学校生活の様子が書かれているので、「青春ミステリ」なのでしょうが、どうも私たちが経験してきたような学校生活の様子じゃなさそうです。
作者を知らずに、そのコピーにだまされて本書を購入した読者は、驚いたことでしょうね(笑)

話としては、塔の内部で起こった密室殺人の犯人捜しと言う事になるのでしょうが、(ちょっとネタバレになりそうですが)こういった構成の仕方で、読む側(私も含めて)は上手くミスリードされていくんでしょうね。
やはり一筋縄では行かない作者のようです。

ただ、1章から13章までの話は、大変わかりやすく読みやすかったですが、最後の方は何かバタバタした感じで真相が明らかになっていったのは、ちょっと気に入りませんでしたし、話の中で、高校の生徒会組織に関する話も出てきて、その方の解決も気になる所なんですが、その後、どうなったのかわからないまま、何かあやふやな感じで終わっていたのも気になりました。
あいにくの雨で (集英社文庫)
麻耶雄嵩あいにくの雨で についてのレビュー
No.33:
(4pt)

「天才たちの値段」の感想

「東京帝大叡古教授」が、153回直木賞の候補になったことで、この作者の名前を知りました。
と言う事で、最初の作品集から読んでみようと、本書を購入しました。
美術関係のことについては門外漢の私なので、中学校の美術の本などでも紹介されているような絵が登場すればそれなりに理解は出来ますが、未知の絵についての説明をされると、上手くイメージが出来ません。
特に、『天才たちの値段』に登場する、ボッティチェッリの「春」と対をなす作品らしき贋作で、「秋」であろうと思われる作品の説明では、「葡萄畑で饗宴が繰り広げられている」「側に居るのはディオニソス」だとか、『早朝ねはん』に登場する仏陀の涅槃図の説明が、「お釈迦様はエアロビクスをするような不思議な格好で悶絶して死んでおり」「絵の周りにバラバラの七福神が描かれていた」と書かれているのですが、はたまたこれがどんな絵なのか、全くイメージできないので困ってしまいました。

でも、真贋を「舌」で判断できるという神永美有(みゆう)の特技(?)を、うまく読者を煙に巻く方法として使っているのは感心しました。
また、それぞれの短編は、(難しい漢字が使われているという評判でしたが、そんなに苦も無く読めましたので)それなりに面白かったと思いますが、読後にはほとんどその余韻が残ってきませんでした。読み終えても、「あっ、そうなの・・・」と言う程度の印象でした。
一番残念だったのは、主人公であるはずの美術講師・佐々木先生と美術コンサルタントの神永美有の人物像が全くイメージ出来ないし、彼らの行動や言動に共感が出来なかったと言うことです。
登場人物(特に主人公のワトソン役と探偵)に魅力が無いと、ミステリって面白くないですね。
天才たちの値段―美術探偵・神永美有 (文春文庫)
門井慶喜天才たちの値段 についてのレビュー
No.32:
(5pt)

「難民探偵」の感想

文庫新刊の平台に並んでいたのを見つけたので買って来ました。
「就職難民」となった窓居証子の視点で話が進んでいきますが、その彼女がどうして就職難民になってしまったのかという話が、延々と続きます。
全部で425ページにわたる長い話なんですが、事件の概要がわかってくるのは、第4章の162ページ以降になって、難民探偵こと根深陽義が捜査に乗り出そうとするところから徐々に知らされてきます。
殺された人物は一人で、容疑者は二人のみ。
しかも、捜査に乗り出したにも関わらず、結局、難民探偵・根深陽義には犯人を(わかっているのだけれども、証拠が無いので)特定できないまま時間切れ寸前となるところで、窓居証子があることに気がついて(それが何かは書けません)、難民探偵が出した答えの根拠を見つけるという流れです。
このような事なら、警察の鑑識課でも発見できるような内容なので、ミステリとして真面目に読んでいくと、ちょっと肩すかしを食ったような気になってしまいます。
そのうえ、読者には犯人が特定できないというのも、ちょっといただけません。

でも、話の流れや本筋とは関係の無いセリフが楽しくって、ほぼ一気読みでした。いくつか私のツボにはまってしまった気に入ったセリフもあります。

もっとも、最初に書いたように、本書は文庫で買ったので、本腰を入れずに気楽な感じで読む分には、なかなか楽しい本だと思いましたが、これを単行本(税込み1728円)で買っていたら、ちょっとむかついていたかも知れないですね(笑)。
難民探偵 (100周年書き下ろし)
西尾維新難民探偵 についてのレビュー
No.31:
(5pt)

「君と過ごした嘘つきの秋」の感想

シリーズ第2弾と言うことですが、第1弾は読んでいません。
話は、人体模型が花壇に落下した事件の犯人を調べるというところから始まります。
その人体模型は、映画研究部にあった物で、屋上で撮影をしていた時に、その中の誰かが落としたのでは・・・という濡れ衣を晴らすために、その時の様子をいろいろ調べていきます。
その中で、過去に同じ場所で生徒の落下事件が起こった事がわかり、その落下事件の原因を突き止めるという話に展開していきます。

主要な登場人物5人(宙太、ユカリ、友樹、響、紀衣)のそれぞれの視点で話が進んでいきますが、その書き分けが上手く出来ていないのか、誰の視点なのかよくわからない章が時々ありますし、文中には、名前だけでは無く姓も出てきますので、誰がどの姓なのかこんがらがってしまいました。
最初のページに、登場人物の紹介がありましたが、顔のイラストと下の名前だけなので姓がよくわかりませんでした。

その後、人体模型は、屋上から落とされた物じゃ無く、そのように見せかけてばらまかれた物だと言うことが判明しますが、過去の転落事件との関係が徐々に明らかになっていき、最後には過去の転落事件の真相を、宙太(そらた)が推理するという展開です。
途中、少し中だるみはするものの、高校生活を面白おかしく描いた、爽やかな青春ドラマだと思いながら読んでいきましたが、あまり爽やかとは言えない転落事件の真相に、ちょっと引いてしまいました。
君と過ごした嘘つきの秋 (新潮文庫)
水生大海君と過ごした嘘つきの秋 についてのレビュー
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

「恋と禁忌の述語論理」の感想

2015年度のメフィスト賞受賞作です。
数理論理学を用いた解決だと言うことで、ちょっと興味があったので購入しました。
最初の3話は、大学生・詠彦(えいひこ)の知り合いの探偵たちが解決した事件を、叔母である天才数理論理学者の硯(すずり)さんの所に持ち込み、解決済みであるはずの事件について検証して貰うという話です。
ちなみに、3話とも違う探偵さんです。

最初の所に、論理式を使った例題のようなものがあるので、記号の仕組みを確認しながら解きましたが、それほどややこしい例題ではありませんでした。
でも、硯さんが推理するミステリの真の解決に、ここで紹介されている数理論理学を適用しなくっても良いような感じなので、ちょっと肩すかしを食った感じもしないではありません。
最初に、硯さんの甥の大学生・詠彦(えいひこ)の話に登場する探偵が解決する、推理の不完全な部分を指摘したり、足りない所を補足したと言う程度の物なので、推理した後で、それに論理式を当てはめるというような展開でした。
文中に、物々しい感じで、数理論理学で用いる記号の羅列が登場しますが、ほとんどスルーしても話の流れとしても問題ないようなので、読み飛ばして読み終えました(笑)

最終話では、最初の3話に隠された仕掛けが指摘されると言うような内容で上手くまとめられていますが、読み終えて全体を振り返ってみても、数理論理学が登場しなくっても全然問題の無い話の様な気がします。この数理論理学の解説部分が無ければ、ページ数が半分ぐらいになるのではないでしょうか?
もっとも、古来の名探偵たちは、意味不明の蘊蓄や独りよがりの知識をひけらかす・・・というのが毎度のことなので、そういった物と同じだと思えば良いかって感じでした。

それにしても、アラサーの数理論理学者・硯さんのキャラクターがユニークだったので、ちょっと気に入って居ますが、表紙のイラスト(まるで、一緒に勉強をしている中学生か高校生の男女のよう)は、ちょっといただけません(笑)
恋と禁忌の述語論理 (講談社文庫)
No.29:
(5pt)

「私情対談」の感想

前作の第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞した「神様の裏の顔」が結構良く出来た話だったので、受賞第一作目を期待して、発売日を待って購入しました。

雑誌の対談の中で、表の顔と裏の顔が登場し、その中で登場人物の秘密が徐々にわかってくると言う流れは、なかなか面白い設定なので、楽しく読みました。
対談の司会(取材と文)を担当しているのがいつも同じ人物なので、後々このことが話の流れの中でどう絡んでくるのだろうかと思いながら読み進めていきましたが、こちらの方はうまく処理をしているように感じました。
ただ、対談に登場してくる人物たちが、都合良く繋がってきて居るのはあまりにも出来すぎだし、最後のエピローグの所はイマイチのような気がします。

ところで、本の帯の所に、「数々の裏切りはやがて快感に変わる」「革新的嫌ミス」とありましたが、嫌ミスと言うほどの話でも無いし、読後も快感にも変わりませんでした。むしろ、最後になってちょっとドタバタしてきたので、笑ってしまうほどでした。

でも、この表紙の絵はちょっと面白いですね。
カバーでは仮面を半分被っていますが、表紙をめくると、扉絵には仮面を外した二人のイラストがあったので、思わず表紙カバーを外して見たところ、仮面だけがありました。
イラストレーターは、加藤木(かとうぎ)麻莉(まり)さんと言う方だそうです。
私情対談
藤崎翔私情対談 についてのレビュー
No.28:
(6pt)

「イーハトーブ探偵 山ねこ裁判」の感想

前作・「イーハトーブ探偵 ながれたりげにながれたり」と同様に、宮沢賢治を探偵役、彼の親友・藤原嘉藤治(ふじわら かとうじ)がワトソン役として書かれた、5編の連作短編ミステリ(文庫オリジナルと書き下ろし)です。

本書の舞台は、大正12年と言う事なので、前作より一年後(前作は大正11年の話で、その間に、賢治の妹・トシが亡くなっていた)の話です。
前作のような、大がかりなトリックはありませんが、知り合いの人が持ち込んできた事件を解決すると言った話や、ちょっと小耳に挟んだ事柄から事件を推理していくと行った話などです。
いわゆる「犯人捜し」となっているのは、「山ねこ裁判」と「赤い焔がどうどう」のみで、それも読んでいる内に犯人の予想がつくような内容です。
いずれも、この時代や、この地方独特の雰囲気を感じさせる内容で、全作とも、宮沢賢治の著作と絡めて上手く話を作られており、つい「青空文庫」で宮沢賢治を読んでみたくなりました(笑)

実際の宮沢賢治がどんな方だったのかは知りませんが、教科書の写真で見る様な優しいまなざしから想像出来る、彼の人となりが良く伝わってくる話で、気持ちよく読み終えました。
この作者(鏑木蓮さん)は、宮沢賢治が好きなんだなぁ・・・と感じさせられる内容になって居ます。
イーハトーブ探偵 山ねこ裁判: 賢治の推理手帳II (光文社文庫)


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