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トラ さんのレビュー一覧

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レビュー数5

全5件 1~5 1/1ページ

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No.5:
(6pt)

「帰ってきた腕貫探偵」の感想

4編の連作短編集です。

「氷結のメロディ」
鳥遊(とかなし)葵という、女装男子が登場します。それにしても、いつもながらの難しい名字です。小鳥遊(たかなし)とうのは知っていましたが、鳥遊(とかなし)は初めて知りました。
さて話は、櫃洗大学でバンド活動をしていた仲間4人が、次々と墜落死や自殺してしまい、一人残った女装男子の鳥遊葵が悩んでいるところに、住吉ユリエが声をかけ、彼女の「だ~りん」こと、腕貫さんの所へ連れていくという話です。
話を聞いただけで、腕貫さんが事の真相にたどり着くと言うことは、私たち読者も、腕貫探偵と条件が同じなので、よく読めば気がつきそうなんですが、ある程度の想像力が必要となるので、難しいですね。
一年半ぶりのシリーズなので、楽しみながら読みました。

「毒薬の輪廻」
婚約者が毒殺され、結婚できなくなった女性・新田目(あらため)美絵が、20年ぶりにその元婚約者の母親に会ったところ、突然切りつけられたと言う話です。
警察の判断では、おそらく、息子を毒殺した犯人が美絵だと思っての犯行だ・・・と言うことですが、その言葉に納得できない美絵が、いきさつを腕貫探偵に話していると、意外な結末が・・・。
話の中で、ちょっと複雑な家庭の事情が出てきますので、私にとってはあまり興味を引く話ではありませんでした。

「指輪もの騙(がた)り」
この話には、腕貫探偵が登場しません。
住吉ユリエ、鳥遊葵、阿藤江梨子の三人に、突然出会った刑事・氷見と水谷川(みやかわ)がランチにさそわれ、そこで30年ほど前の未解決事件を話すことになります。
5人でその事についていろいろ話していき、それぞれが少しずつ気がついたことをつなぎ合わせていくと、いつの間にか真相らしきものが見えてくるという流れです。
数人で、一つのことについて話し込むことで、意外な方向に話が進んでいくものなんですね。それにしても、この作者は、こういった話の作り方って上手いです。
30年前の未解決事件の犯人がわかっても、以前は時効というのがありましたが、今では殺人については時効がなくなっているので、検挙できそうです(笑)

「追憶」
一週間前に死んだ女性が、成仏できない理由を腕貫探偵に相談するという話です。
幽霊の視点で、腕貫さんとのやり取りが進んでいくというのも面白い所です。
読み返すと、謎を解くためのキーになる言葉が、あちこちに入って居るのに、気がつかないのは情けないですね。
帰ってきた腕貫探偵
西澤保彦帰ってきた腕貫探偵 についてのレビュー
No.4:
(6pt)

「イーハトーブ探偵 山ねこ裁判」の感想

前作・「イーハトーブ探偵 ながれたりげにながれたり」と同様に、宮沢賢治を探偵役、彼の親友・藤原嘉藤治(ふじわら かとうじ)がワトソン役として書かれた、5編の連作短編ミステリ(文庫オリジナルと書き下ろし)です。

本書の舞台は、大正12年と言う事なので、前作より一年後(前作は大正11年の話で、その間に、賢治の妹・トシが亡くなっていた)の話です。
前作のような、大がかりなトリックはありませんが、知り合いの人が持ち込んできた事件を解決すると言った話や、ちょっと小耳に挟んだ事柄から事件を推理していくと行った話などです。
いわゆる「犯人捜し」となっているのは、「山ねこ裁判」と「赤い焔がどうどう」のみで、それも読んでいる内に犯人の予想がつくような内容です。
いずれも、この時代や、この地方独特の雰囲気を感じさせる内容で、全作とも、宮沢賢治の著作と絡めて上手く話を作られており、つい「青空文庫」で宮沢賢治を読んでみたくなりました(笑)

実際の宮沢賢治がどんな方だったのかは知りませんが、教科書の写真で見る様な優しいまなざしから想像出来る、彼の人となりが良く伝わってくる話で、気持ちよく読み終えました。
この作者(鏑木蓮さん)は、宮沢賢治が好きなんだなぁ・・・と感じさせられる内容になって居ます。
イーハトーブ探偵 山ねこ裁判: 賢治の推理手帳II (光文社文庫)
No.3:
(6pt)

「柳生十兵衛秘剣考 水月之抄」の感想

男装の女剣士・毛利玄達と柳生十兵衛が、諸国を回りながら過去の剣豪たちの逸話や秘伝に付いての考察を行うと言う話で、3話の連作短編です。
「柳生十兵衛秘剣考」の続編になりますが、今回も玄達と十兵衛の掛け合いも面白く、剣術小説としても興味深い話になっています。

「一刀流“夢想剣”」
伊東一刀斎にまつわる逸話に関しての話です。
玄達と十兵衛が、一刀斎の後を継いだ小野次郎右衛門の墓前で偶然に出会った老人が、一刀流の継承を争った、次郎右衛門と善鬼の決闘に立ち会っていた同門の一人だったことから、一刀斎の経歴に異説が多いのはなぜか・・・と言う事を探っていくという話です。
この一刀流の継承を争った決闘は、私でも知っている有名な話ですが、その後の一刀斎については、何の話も残って居らず、その後どうなったのかという事も含めて、大胆な仮説を十兵衛が立てるという流れです。
剣術の流派の世界には、こういうこともあったのだろう・・・と思わせるような興味深い推理でした。

「新陰流“水月”」
一羽流の諸岡一羽の元で同門だった、根岸兎角と岩間小熊の「常盤橋の決闘」の話だそうですが、私はこの話は全く知りませんでした。
岩間小熊が根岸兎角を「常盤橋の決闘」で破ったことから、小熊は兎角が創設した微塵流道場の師範として迎えられますが、ある日、小熊は湯殿の中で血まみれで発見されます。
中からかんぬきが掛けられていたことから、密室の殺人と言うことになりますが、「実は、微塵流道場の者が、根岸兎角の敵討ちとして、丸腰で裸同然の小熊を殺害した」ということで、その後、微塵流道場の門弟が狙われることになります。
たまたまそういう現場に出くわした玄達と十兵衛が、その抗争に巻き込まれてしまい、密室殺人の謎を十兵衛が推理しますが、なぜ密室で殺人が起こったのかと言うところが面白い話になっています。

「二階堂流“心の一方”」
二階堂平法の松山主水(もんど)の謎にまつわる話です。
ちなみに、二階堂平法とは、初伝を「一文字」、中伝を「八文字」、奥伝を「十文字」とし、これら「一」「八」「十」の各文字を組み合わせた「平」の字をもって平法と称した・・・と言うことですが、私はこの話を中学生の頃に読んだ、白土三平のマンガ・「真田剣流」と「風魔」で知りました。
また、タイトルにある「心の一方」とは、瞬間催眠術のような秘術だということらしいです。
玄達は、「心の一方」の前では、どんな剣豪でもかなわないのではと考えますが、十兵衛は主水の奇怪な行動からある仮説を立てる・・・と言う話です
後日談ですが、松山主水は「荘林十兵衛」という人物によって、簡単に暗殺されてしまいます。
このような秘術を持った人物が、なぜ簡単に暗殺されてしまうのかと言う事も納得させられてしまう話になっていますが、この後日談を知らない人にとっては、中途半端な終わり方になっているので、ちょっと不親切な話ではないでしょうか。
柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)
高井忍柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 についてのレビュー
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(6pt)

「七色の毒 刑事犬養隼人」の感想

長編作の『切り裂きジャックの告白』で登場した、警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人が主人公の七編の連作短編集です。
「小説野性時代」に掲載された6話に、書き下ろしの1話が追加されて刊行されたと言う事です。『切り裂きジャックの告白』は未読なので、犬養隼人については予備知識はありませんでした。
目や唇の動きを見ただけで嘘を見抜く鋭い観察眼を持っており、男の犯人に限るなら検挙率は本庁で1,2位を争う捜査一課のエースだと言う事ですが、女には騙されてばかりいる・・・と1作目の「赤い水」で紹介されています。

全作ともホントに短い話です。
その中にどんでん返しが入って居るという事で、興味を持って読んでいきましたが、あっと驚くような「どんでん返し」では無く、事件を追っていく内に、捜査の流れの中で違う事実が判明した・・・と言う程度のものでした。しかも、一作目を読めば、その他の作品の展開もだいたい予想が出来てしまいます。
7作を一息に読んでしまったので、面白さが半減したのかも知れませんし、話が短すぎます。
不定期な形で、一作ずつ雑誌に掲載されている方が、それぞれの印象が良いのかも知れません。

また、主人公である警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人の特徴(というか特技)が、この話ではほとんど生かされていないように感じました。
自分が気になった事件には、管轄外であっても何処にでも顔を出してくる、出しゃばりの刑事だというだけの印象です(笑)

ただ、最終話の書き下ろしの話は、それまでの話(どの話かは言えません)の続編という形で書かれていたので、ちょっと面白く読みました。
一度読んだ後、この話だけ2作続けて読みましたが、やはり、これぐらいの長さが無いと、話の深みが出てこないのかも知れないですね。

この短編集で興味深かったのは、「黄色いリボン」です。
性同一性障害の話を扱っていますが、1日に1度だけ女の子の格好をして、「ミチル」と言う名で外出しても良いと両親に許されている少年・桑島翔の視点で話が進んでいるのもユニークです。
でも、最後のどんでん返しが「普通」だったのが残念でした。
七色の毒 刑事犬養隼人 (角川文庫)
中山七里七色の毒 刑事犬養隼人 についてのレビュー
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(6pt)

「高座の上の密室」の感想

本書は、「神楽坂謎ばなし」の続編と言うことで、文庫書き下ろしとして刊行されましたが、前作の「神楽坂謎ばなし」は未読です。
前作は、江戸落語と落語家の話と言うことだったのでスルーしましたが、本書は、「手妻」と「太神楽」ということで、ちょっと興味があったので購入しました。

前作のだいたいの流れは、本書でも説明されているので、読んでいなくっても困らなかった・・・というよりむしろ、前作は人間関係がややこしいような感じだったので、読まなくて良かったと思っています。
ところが、前作の流れとして、少しどろどろした話が絡んで来るので、ちょっと水を差されたような気分になりかけましたが、その話はいつの間にかどこかに消えてしまいました。
おそらく、その絡みは、また次作に続いていくんでしょうね。
舞台で行われる芸事の話と、それにまつわるちょっとした謎だけで終われば楽しく読めたのですが、主人公の武上希美子の周辺で起きた出来事が突然出てくるので、ちょっとしらけた部分もありました。

それぞれの中編では、「手妻」と「太神楽」の舞台での様子が面白く描かれ、それを読むだけでも楽しかったのですが、そのうえにちょっとした謎が含まれているので、楽しく読みました。
「高座の上の密室」では、手品と手妻の違いについて理解できましたし、二重の(葛篭と舞台上の)密室状態の中で、少女が消えてしまうと言う謎も、なかなかユニークでした。
また、「鈴虫と朝顔」では、舞台上で、一人前の太神楽師としてやっていけるのかというテストをし、希美子にその判断を任されると言う話ですが、海老一染之助・染太郎さんの傘回しを思い出しながら読みましたし、その歴史にも触れることが出来て楽しかったです。
高座の上の密室 (文春文庫)
愛川晶高座の上の密室 についてのレビュー