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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数359

全359件 81~100 5/18ページ

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No.279:
(7pt)

時計屋探偵の冒険: アリバイ崩し承ります2の感想

第75回日本推理作家協会賞の『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』を含む短編集。

『アリバイ崩し承りますシリーズ』の2作目ですが、本作から読んでも問題ありません。前作同様に物語は"容疑者が特定できているがアリバイがある為に逮捕できない謎"を探偵役に相談するというアリバイ×安楽椅子探偵の短編集です。

個人的に著者の作品は物語よりもパズル的な謎解きに主立った印象を持っているのですが、本作も変わらずその傾向でした。大きく何か心に響く内容がないのが正直な所。その為、謎解きの問題が面白いかどうかが決め手となる次第。本短編集には5作品の短編があります。その中では推理作家協会賞を受賞した『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』と『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』の2作品が楽しめました。

『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』は500人が参加するパーティで目撃情報がある中でのアリバイもの。
『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』は2か所離れた所で起きた事件の容疑者がどちらも同じ。両方の犯人である事はありえないのだが。という変化球的な謎です。
どちらも謎解きのミステリとして楽しめました。

アリバイ崩しのミステリなので似たような仕掛けに感じるのが物足りなさを感じましたが、『二律背反のアリバイ』の方は一歩秀でて巧い仕掛けがあり受賞に納得の短編作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2
No.278:
(7pt)

五つの季節に探偵はの感想

第75回日本推理作家協会賞の『スケーターズ・ワルツ』を含む短編集。

短編集とはいえバラバラの内容ではなく、タイトル"五つの季節"が示す通り、主人公の高校時代、大学時代、社会人という具合でその時々での謎の物語を描いた作品です。ミステリとして派手さがあるものではないのですが、成長していく中での主人公の心情や人との接し方、探偵として謎を解く苦悩などが味わい深く描かれており印象的でした。受賞作品である『スケーターズ・ワルツ』も然ることながら個人的には『解錠の音が』がかなりお気に入り。

『解錠の音が』は防犯に絡めたミステリであり現実的な犯行の手口を物語にした作品。ミステリに興味がない一般読者もこの物語は防犯の意味で一読した方がよいような日常の謎が一品でした。他の作品も総じて面白かったです。
五つの季節に探偵は (角川文庫)
逸木裕五つの季節に探偵は についてのレビュー
No.277: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

真夏の方程式の感想

個人的に人気がある本は何故か疎遠になってしまう傾向があり、本書もその感覚のシリーズ作品でした。
読んでみるとやはり安定していて面白かったです。

著者の作品はミステリや謎が主体というのではなく、人や家族の物語を描くと感じていますが、本書は特にテーマが「子供」だと感じました。人としての子供を描き、ミステリとしての子供、さらには子供嫌いの湯川との関わり方でシリーズに面白味を持たせるなど、要素の絡み合わせ方が絶妙で見事な作品でした。

一方、過去の物語が合わなかったのが正直な気持ち。

▼以下、ネタバレ感想
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真夏の方程式 (文春文庫)
東野圭吾真夏の方程式 についてのレビュー
No.276: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

月灯館殺人事件の感想

本格ミステリ作家を集めた館を舞台にした雪の山荘クローズド・サークル作品。

本書は久々のシリーズもの以外での長編作品。シリーズ固有の設定に縛られずに、自由に好きなミステリを書いたと感じる要素満載で良かったです。

特に登場人物達によるミステリを描く考え方が楽しく読めました。
例えば日向寺というキャラ。濫造な作品を量産しているが結果として読者が好み、売れて、出版社の売り上げに繋がるというのは商品として大事な要素。横暴な態度なキャラですが締め切りがあるので執筆の為部屋に戻るなど真面目な一面も印象的。
対象には黒巻というキャラ。偽本格ミステリを許せず本物をもとめ分厚い本を描き、誰が買うんだと言われてしまう。これらは商品と作品の考え方の違いで物作りにおいて見られる意見の違い。などなど今の時代で本格ミステリを描く事の意味などを述べているのが面白い。

密室、見立て、館もの、etc...ミステリ要素が満載なので、ミステリ初心者にとって本書は贅沢に感じる作品。一方読み慣れている方には定番を行う事による毒気も楽しめる作品。あえてやる事の意味やテーマを感じる面白さがありました。

著者の作品を多く読んでいる程、ニヤリとする場面が多いと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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月灯館殺人事件 (星海社FICTIONS)
北山猛邦月灯館殺人事件 についてのレビュー
No.275: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

此の世の果ての殺人の感想

これは面白かったです。
2022年度の江戸川乱歩賞受賞作品。

地球に小惑星が衝突し滅びる定めとなった終末もの。主人公はそんな世界の中で自動車教習所に通い運転を学んでいる。という始まり。

世界崩壊を舞台になんで教習所?というチグハグさがまず印象的でした。
江戸川乱歩賞は昨年『老虎残夢』の特殊設定ミステリが受賞した事から、今年も特殊設定ミステリを採用しエンタメ系の流行に乗る変わり種かと思った次第です。
ですが先に伝えておきますと、中身は災害小説としての日常や社会的テーマも絡めた堅実な本格ミステリでした。

災害小説における死体が道端に転がっているなどの非現実的要素が日常化されており、生きる希望を失った者、最後まで生き抜こうとする人々のドラマを感じる物語。教習中の車に乗り不慣れな運転で街を移動する様はロードノベルのような味わいも感じられました。主人公は著者と同じ23歳の女性。社会に出たての者の不安や、弟の面倒を見る姉としてしっかりしなくてはいけない気張った心境など主人公の等身大が描かれているのが印象的でした。
総じて文章が大変読み易く情景が浮かびやすいのでドラマや映画を見ているような気分にも感じた次第です。

ミステリとしては大きなインパクトがある訳ではないのですが、作り方が巧いと感じる所が多くてそれでこうなっているのか~と印象に残る所がしばしばありました。
終末ものと自動車教習の組み合わせは最初不思議でしたが、読み終わってみれば納得。
結末&読後感も良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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此の世の果ての殺人
荒木あかね此の世の果ての殺人 についてのレビュー
No.274:
(7pt)

謎を買うならコンビニでの感想

コンビニエンスストアを舞台としたミステリ。
サクッと気軽に日常の謎でも読もうかなと手に取ったのですが、読んでみると謎やテーマがしっかりとした本格寄りのミステリでした。

物語はコンビニのトイレで起きた店員の不審死をアルバイトとして潜入調査をしていく流れ。
大筋の謎を置きつつ、アルバイトとして働く中で生まれた小規模の謎を短編集のように散りばめられているので飽きる事無く楽しめました。ミステリに用いられる謎の要素はコンビニ特有のもの。レジなどの設備。店員と客。クレーム問題など。コンビニの舞台裏が豊富に描かれており、テーマが一貫してコンビニに合わせているのが新鮮でした。

ミステリの中では変化球的な作品で、館もの・限られた登場人物のシチュエーションをコンビニ(見取り図付き)・店員と客で表現しているのが面白い。雰囲気はミステリの館内で推理しているのを感じます。それでいてちゃんと今いる場所はコンビニなんだと読者に再認識させる為に会話文で時折「いらっしゃいませ~」と入るのも巧いと思いました。

少し難点として感じた事は、文章力なのか説明不足なのか情景や展開が読みにくかったです。ミステリの謎やテーマ性、青春ミステリ模様、主人公の成長とラストの結末まで内容はとても面白い。コンビニに特化した物語を描く気持ちはとても感じるので、今後は惹きこまれる文章に期待。

表紙について。
コンビニ愛に溢れる作品ですが、主人公が行儀悪くレジ棚に座って足を載せているのはどうなのかなと思いました。作品内では店員の真面目な姿を描いたり、クレーム問題の社会的テーマを描いている中で、この表紙は"コンビニ探偵"の印象でキザっぽく描いてしまっていてミスマッチに感じました。

コンビニエンスストアの要素に特化させたミステリというのは新鮮で、不満点以上に面白さが勝りました。
シリーズものとして期待できる終わり方なので、続編希望です。
謎を買うならコンビニで (講談社タイガ)
秋保水菓謎を買うならコンビニで についてのレビュー
No.273: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ナキメサマの感想

ホラーとミステリの見事な融合。かなり好みの作品でした。
『横溝正史ミステリ&ホラー大賞・読者賞』の名にピッタリの作品です。

舞台は音信不通となってしまった知人の状況を探る為に訪れた村。
知人は23年に一度行われる『ナキメサマ』の儀式の巫女に選ばれた為、儀式開催の日までは誰とも会えないという事で、暫く村に滞在する事に。
滞在して間もなく異様な人影に遭遇したり、さらには無残な死体が発見されて……この村で何が起きているのか?という流れ。

田舎・集落を舞台にしたホラー作品ですが、よくあるホラーと違うのは怪異というものの存在の解釈です。
他作家を例に説明すると、三津田信三や京極夏彦の作品群ではそれが存在しているかどうかを曖昧にしたり、科学的、現実的に解明を試みたりします。本書の場合は現実には存在しない怪異というものが実在すると前提条件として決めており、その怪異はどんな特性なのか理論的に考えている様が新鮮でした。その為ホラー小説としての雰囲気や恐怖感を楽しみつつ、ミステリとしてのロジックや驚きまでも味わえる為、2度美味しく飽きさせない面白さでした。

賞の応募作なので出し惜しみせずやり切っている表現も好感。後半なんて正にそうで、ホラーとしての演出、後味、そしてそれがミステリとして機能させた着地など、物語の内容としては好みが分かれそうですが個人的には大好物でした。今後のシリーズ展開に期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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ナキメサマ (角川ホラー文庫)
阿泉来堂ナキメサマ についてのレビュー
No.272: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

兇人邸の殺人の感想

特殊な設定をきちんと活用した、斬新な本格ミステリを堪能できました。
あらすじにて予め提示されている通り、"異形の存在"による無慈悲な殺戮が発生する舞台での本格ミステリです。
読者の期待するシリーズの特性をちゃんと踏まえているのは好感。特殊な状況の面白さと、剣崎比留子と葉村譲の関係など期待する要素がちゃんと楽しめました。

ミステリとしてはとても面白かったのですが、難点としては内容の把握が困難でした。
1作目と反して人物が分り辛い。そして館が複雑な構造をしているので、誰が何処にいて今どんな状況なのかが分り辛い読書でした。登場人物一覧と館の見取り図を何度も見直しました。その為、没入感がとても薄れたのが残念でした。事件の状況やミステリ要素もかなり込み入っています。正直な気持ちとして、本書は推理したり登場人物と一緒に悩んだりドキドキしたりという感覚が生まれ辛く、監視カメラで話を傍観しているような読書感でした。何か複雑で大変な事をしているなという感覚で終わってしまった気分です。

誤解なく言うと、ちゃんと特殊な設定を用いたミステリとして素晴らしいです。ただ把握しながら読書できる人は多くはないだろうと感じた次第です。
映像で補完できる要素が多い為、もしかしたら映像化を狙った構成とも感じました。時期的に『ネメシスI』がドラマ化向けの描き方だったので、そのような文章になったのかもしれないかなと勝手に感じました。

ちょっと小言が多くなってしまいましたが、それだけ期待して楽しみなシリーズである事は変わらず。次回作も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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兇人邸の殺人
今村昌弘兇人邸の殺人 についてのレビュー
No.271: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

神薙虚無最後の事件の感想

書店で沢山並んでおり、表紙と帯に惹き付けられて購入。装丁のワクワク感が凄い。これだけ装丁に力を入れているということはそれだけ自信があるのだろうと思った次第。
読んだ結果、ミステリ要素が豊富な作品で面白かったです。

表紙の雰囲気から館もののコテコテ堅物の本格ミステリかと思いきや、中身はライト寄りのミステリ。本格物を期待すると中身はアニメ調の名前やセリフ運びなので合わない人が出てくるかもと思いました。それが気にならなければPRに偽りなく作中作を用いた多重解決ものの作品が楽しめます。作中作を用いた多重解決ものの構造や"最後の事件"にちゃんと意味があり、真相および読後感が良い作品でした。近年のミステリで再流行なのか、名探偵の存在理由も扱われています。本書における名探偵や"名探偵"を生み出すために必要な怪盗王の役割など、扱うテーマをいろいろ感じた読書でした。
著者は城平京作品がとても好きなのだろうと感じる内容になっており、随所にオマージュを感じました。

▼以下、ネタバレ感想
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神薙虚無最後の事件 (講談社タイガ)
紺野天龍神薙虚無最後の事件 についてのレビュー
No.270: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

イクサガミ 天の感想

普段読まない時代小説。明治時代×デスゲームの宣伝に釣られて購入。
結果はとても面白い作品でした。

ただ、本書全3巻のシリーズものでした。本作だけでは完結しません。
そういうのは分かりやすく明記してほしかった。上中下巻なら手に取っていたか判断が悩む所なので版元としてはそれも戦略なのかもしれません。

物語は明治11年。廃刀令により帯刀しなくなった時期。
争いは銃や砲弾になり、武士だった者達の生き方が変革される時代。そこに「武技に優れるものは大金を得られる機会がある」という文書が出回り、身に覚えのあるものが集まった所、デスゲームに巻き込まれるという流れ。

突然のゲーム参加により逃げ出す者、追う者、共闘する者といったパニック感はとてもよかったです。主人公が強キャラなのですが、過去がどんな人物だったのか徐々に明かになっていく展開も面白い。その時代の武士たちや藩や警察の背景なども合わさり、エンタメの読み物としてとても楽しい読書でした。

本書は1巻にあたるという事で、舞台説明や巻き込まれ系のパニック感、登場人物の紹介を主に感じました。デスゲームものとして頭脳戦に行くのか、各キャラの武技(能力)バトルものになるのかは未定な状況。今後も楽しみな作品ですが完結してから続きを読みたいと思います。

余談ですが『無限の住人』『るろうに剣心』『甲賀忍法帖』ここらへんも好きなので、そのイメージを含めて読んでました。最後のくるくる回す強敵表現好き。キャラクター性もあるので漫画やアニメにもなりそうです。オススメですがまだ未完結なのでご注意。
イクサガミ 天 (講談社文庫)
今村翔吾イクサガミ 天 についてのレビュー
No.269: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

出版禁止 いやしの村滞在記の感想

出版禁止シリーズ3作目。シリーズではありますが、それぞれ単独の本なのでどれから読んでも大丈夫。
取材記事となる ルポルタージュを用いたミステリとして、前作同様に仕掛けを堪能できました。

本シリーズの特色としては、深読み・考察を楽しむミステリです。
全ての謎の解答が明らかになっておらず、最後まで読んだ手がかりを元に何度か読んで真実を自分で見つけるのが好きな人向けの作品となります。

個人的な完成度の好みとしては2作目が素晴らしい出来だったので本作はちょっと霞んでしまいますが、それでも一定の水準を超えた作品ではあるので、終盤読者は唖然とするでしょう。

呪いや民俗学を取り扱い、非現実的な恐怖、ホラーの雰囲気は抜群。
終盤にはプチ解説がある事により、本作で何が起きているかは何となく分かりやすくなっています。ただ個人的にはその解説なしで謎のまま終わった方がSNSなどで真相当ての考察で盛り上がっただろうなと思う次第。

前作との比較になってしまいますが、前作は隠された真実を読者自身が気づく事により、偏向報道など社会的なメッセージや注意喚起の意味付けに気づかされるテーマを感じましたが、本作の隠された真実には特にメッセージ性があるわけではなく、単に真相を書いていない謎解き本に感じてしまった所が個人的に物足りなかったです。
実はもっと気づいていない謎があるのかもしれませんが。。。と思わせる作品になっているのが良いです。なんだかんだで楽しんだ読書でした。

▼以下、ネタバレ感想
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出版禁止 ろろるの村滞在記
No.268: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

しあわせ、探しての感想

女性の秘めたる思いを描くのが巧い著者。そしてライトなミステリの手法で物事の繋がりが見えてくるのも良い。

本書はタイトルが示す通り、幸せがテーマ。
主人公の女性は夫の転勤に合わせて、仕事を辞め、知り合いのいない新しい土地で家事に勤しむ毎日。子供もいない為、夫の帰りが遅ければ誰とも話さない日がある。何もない日常。でも平和な日常。

幸せを表現する為には逆の表現となる不幸や悩みを描くパターンがある。本書に登場するキャラクター達は各々の心の隙間を抱えており、それに対しての自身の考え方、他者からの見え方が巧く表現されている。他人に対して『羨ましい』や『かわいそう』という要素は、本人にとっては実は違う見え方が存在するかもしれない。そういう心情が描かれた作品でした。

読者の好みとして、登場するキャラクターの闇の部分に対して共感するか嫌悪するかは人それぞれだと思し、それがこの本に対する好みに直結するかもしれない。実際、個人的には主人公の女性の思考回路の波長に合わない事が多かったです。ただ後半につれて何故そういう考えになっているのか理解できる一面も出てくる為、他人に対しての印象と実際との違いを考えさせられた次第。自身が考える『幸せ』と『不幸』は、他人から見たら『不幸』と『幸せ』に映っているかもしれない。結局はそれらをどう受け止めて考えるかは自分次第の問題だったりする。

青い鳥のように身近にあるかもしれない幸せの探し方を現代的な女性視点で描かれた作品。
各々の考えや理解が深まり、幸せに向けて帰結する展開はよく、読後感も良かったです。
しあわせ、探して (光文社文庫)
三田千恵しあわせ、探して についてのレビュー
No.267: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

黒牢城の感想

とても素晴らしい作品でした。

まず著者名が伏せられていたら米澤穂信と気づかないぐらい、文体まで時代小説に変えているのに驚きます。文章作りにまで拘る、これぞ作家の作品という意気込みを感じました。

物語は、史実に基づき"黒田官兵衛"が幽閉されていた期間、有岡城での出来事をミステリ仕立てで描かれた作品です。
第一章『雪夜灯籠』では、捕らえていた人質が雪に囲まれた納戸で殺されたという雪密室。何故どのように行われたのか不明。このままでは城内で混乱が起きる。有岡城の当主、荒木村重が苦肉の策として幽閉した黒田官兵衛に助言を仰ぐという流れは安楽椅子探偵もの。牢獄の中の名探偵役いう構造は『羊たちの沈黙』のレクター博士を想起させました。

その後も短編作品のように各章ミステリ物語が展開します。
どれもこの時代ならではの武士や民の心情を活かした構造に驚かされた作品集でした。
そして最終章は、史実上謎とされる『そもそも何故、荒木村重が織田信長を裏切ったのか』、そして『黒田官兵衛が殺されず幽閉されていた時に何が起きていたのか』。それらの1つの解法として物語が見えてくるのが見事。ミステリ的な演出や戦国時代の背景など複雑に絡まった物語は本当に圧巻でした。そして一言では説明できない重く深みある物語なのが凄い。

読み終えて絶賛ではありますが、実は初読30ページ程で挫折しそうになったのも本音です。
私は歴史や時代ものが超苦手。人物や当時の土地勘がさっぱりで、最初のページから頭に入らずでした。

同じような人への参考です。

なのでひとまず"黒田官兵衛"で検索して出てくるページをざっと下調べ。
史実となる有岡城での幽閉とその後を先に把握しました。
再び本書を開くと史実通りの展開から始まるのですんなり世界に入り込めました。そのうち文体にも慣れて没入です。本当に序盤は苦手な人は苦手だと思うので、歴史が苦手な方はちょっとだけで十分なので下調べ推奨です。

読後はこの時代の歴史に興味が沸き、wikiを巡回。
苦手な歴史もこういう作品に出合えると興味が沸きます。素晴らしい作品でした。
黒牢城 (角川文庫)
米澤穂信黒牢城 についてのレビュー
No.266: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

教室が、ひとりになるまでの感想

著者の着眼点とそれを投げかけるメッセージ性に驚かされた作品でした。
テーマの内容から中高生に刺さる話であり、大人が読んでも学生の頃を回想し何かを感じてしまう事でしょう。雰囲気の部類としては気分が晴れるものではないので、イヤミスに近しい内容でずっしりとさせます。

前情報は少ない方がよい為、あらすじの範囲内で簡単に紹介しますと、本書の分類としては今でいう所の特殊設定ミステリ。
“他人を自殺させる力”の存在を感じさせる事で、非現実的な舞台とした新たなルール設定の場において、誰がどのような方法で、何故行われているのかの謎をミステリとしての求心力としています。

ただ個人的には本書はミステリとして読むよりも、ミステリを活用した暗黒面の青春小説という印象の方が強い。主人公や犯人の動機に共感はしたくないんだけど、なんか分かってしまう。そのバランスの描き方やテーマの選出が著者の凄い所だと感じます。

著者の作品を読むのは本書で2冊目なのですが、どちらも伏線や仕掛けは楽しむもの以上に伝えたいテーマを印象付ける作用で使われており強く心に響いた作品でした。他の本も読んでみたくなりました。
教室が、ひとりになるまで (角川文庫)
浅倉秋成教室が、ひとりになるまで についてのレビュー
No.265: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

甘い鞭の感想

勝手に感じる著者の持ち味が十分に堪能できた作品でした。

内容はあらすじ通りの凌辱・暴力・官能作品なのでそれらが苦手な人には不向き。というか著者の作品はこれらを扱う作風です。で、何が魅力かというと、それをどう表現して読ませるか、文章で読者を惹き込む小説としての作品が面白いのです。本作は映画化もされており、そちらは痛さエロさの映像での魅力作品。それとは違い、本書は主人公女性を中心に異常な場を覗き見るような、体現する魅力を感じる作品となっていました。惹きこまれて止め時が見つからず一気読みでした。

小説として意味があり、読まないと伝えづらい内容なので、ちょっと視点を変えて印象に残った箇所の感想です。

文章作りで『一行空け』が多くみられた作品でした。
一区切りとなる文章が数ページ単位の章区切りではなく、1-2ページ内で細かく一行空けをして場面や視点がコロコロ変わる印象を受けました。また、同じシチュエーションを二者から描いている所もありました。勝手な想像ですが、全体像の物語が先に決まっており、思いついたシーンからバラバラに文章化して枚数を重ねたような作り方に感じました。一見すると読書のブツ切り感で集中力が途切れそうなのですが、本作はそれが効果的に使われています。また後述。

対義する要素が多く散りばめられていると感じました。
拉致監禁され生き残った少女の過去と現在。加害者と被害者。現在の仕事における医師としての表、M嬢としての裏。不妊治療として医者と患者。内面と外面。やさしさと暴力。生者と死者。という具合で所々に対義するものが散りばめらているのを感じました。
それらを一行空けの多い場面転換により、色々なシチュエーションで読ませ、バラバラに断片的に得る情報の繋がりの面白さがあり、結果として読者を惹き付けるプラスの構造に感じた次第です。読書序盤は文章がよく途切れるなと思っていたのが、終盤はこの先どうなるのかハラハラドキドキに代わった次第。
ラストの締め方も巧いです。

あらすじ通り物語の内容としては万人薦めるものではないのですが、小説のフィクションだからこその、怖いもの見たさで異常な世界を覗き見る欲望の作品としては著者作品は癖になる次第です。新しい刺激を受けた作品でした。
甘い鞭 (角川ホラー文庫)
大石圭甘い鞭 についてのレビュー
No.264: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

invert 城塚翡翠倒叙集の感想

前作必読。必読理由は前作がとても名作でありそれを楽しんでもらいたいからです。シリーズ2作目の本書は前作のネタバレが含む為、せっかくならシリーズ最初から読んでもらいたいです。

本書は倒叙ミステリを題材とした3作品が収録。
犯人視点のミステリ。犯人を追い詰める探偵役が前作同様の城塚翡翠。キャラクターがもう出来上がってますね。華やかさ、外見、性格、口癖、とても個性的で魅力ある探偵でかなり好みです。映像映えもするので、そのうちドラマや映画になりそうだと感じました。
キャラクターも然ることながら、話の内容はしっかりとした本格ミステリ。決してキャラだけの本ではなく謎解きがとても面白いのが魅力でした。本文に作者の想いが書かれていましたが、ミステリの評価はどれだけ驚かせたかという分かりやすい指針になりやすい傾向があります。地味でもちゃんとロジカルな推理を描いてこそ推理小説・ミステリなんだという気持ちが感じられる内容でした。

オマージュ・パロディとして古畑任三郎を演じる城塚翡翠も面白い。倒叙ミステリにも分類が色々ありますが、正に古畑任三郎構成で、探偵が犯人を追い詰める系の内容です。何が手がかりになったのか、どう追い詰めるのか、推理要素1つとっても複数の手がかりが散りばめられていたのが見事でした。また、それだけでは終わらせない著者の仕掛けもナイスで、短編集だから軽めの作品かなと思いきやしっかりとした仕掛けにヤラれました。

カクテルで"サンドリオン"とか、自身の作品(デビュー作のタイトル)を小ネタで挟んでいるのも気づくと楽しい。女子高生ネタは今回自粛してましたね。※気づかなかっただけかも。百合に行ったのかな。。。

などなど楽しい読書でした。シリーズ化で続編希望です。
invert 城塚翡翠倒叙集
相沢沙呼invert 城塚翡翠倒叙集 についてのレビュー
No.263: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

掟上今日子の挑戦状の感想

3つの事件の短編集。
本作に関してはキャラものではなく、本格ミステリ寄りの推理と謎解きが楽しめる作品集でした。
著者の作品はとても読み易く言葉遊びも楽しいので気軽にサクサク読めます。

収録作は以下3編。
1話目『掟上今日子のアリバイ証言』
2話目『掟上今日子の密室講義』
3話目『掟上今日子の暗号表』

1話目は倒叙ミステリ。
何かの計画的犯行を進行中、アリバイを作る為に喫茶店で印象付けをした相手が記憶を1日しか保持できない掟上今日子だったというもの。犯人視点の倒叙とアリバイにならなかったアリバイ工作から導きだされた推理と結末は中々見事。シンプルに面白い物語でした。

2話目は洋服屋の試着室が現場となった密室もの。これは面白かったです。
洋服屋の特性。試着室という狭い箱の中。お客さんが行き来する衆人環視の中で、どのようになぜ犯行が行われたのか?掟上今日子さん流の密室講義を交えて推理する本格ミステリでした。"密室"というちょっと古臭いテーマを現代的な要素で扱われているのが好感。短編ボリュームに合った仕掛けであり、とても面白い物語でした。

3話目は倒叙+ダイイング・メッセージ+暗号もの。
これは好みではありませんでした。
犯行後、被害者が最後の力を振り絞って描いたダイイング・メッセージは意味不明の文章だった。これを暗号と見立てて解く話。ただこの話の本筋は別の所にあるのが捻くれていて面白い。

1,2作目の流れからキャラ主体の話かと思いきや、しっかり謎解きミステリだったので嬉しい誤算でした。
サクッとミステリを味わいたい時に触れるには良いシリーズです。
掟上今日子の挑戦状 (講談社文庫)
西尾維新掟上今日子の挑戦状 についてのレビュー
No.262: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。の感想

戦時中にタイムトラベルしてしまう戦争×恋愛小説。ミステリではありませんでしたがとてもよい作品でした。

中学2年生の女子生徒。思春期・反抗期。学校では不良模様。母親とケンカをして家を飛び出した先で、意図せず戦時中にタイムトラベルしてしまったという流れ。

戦時中を描いた作品で、私が直ぐに思い浮かぶのは『はだしのゲン』『火垂るの墓』という70-90年代の昔から名前が挙がる作品があります。そういう名作と並ぶかは分かりませんが、現代の思春期の子たちに受け入れやすい戦争もの作品としてとても良い内容であり、2000年以降の戦争ものとして名が挙がるような作品に感じました。

思春期の悩みや不安を持った主人公が戦時中にタイムトラベルする様子は現代作品っぽいですし、現代を知っているからこそ、戦時中の不便さ・辛さをよりよく痛感する主人公の心境がとても感じられます。戦時中にタイムトラベルして混乱している時に助けてもらった少し年上の男性への恋心。ただし彼は特攻隊員であったという、その意味を感じる展開など、戦時話と恋愛小説を巧く絡めて描かれており惹きこまれます。

とても読み易く鬱屈する内容ではない為、戦争ものを中高生が触れる1冊としてオススメです。
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
No.261:
(8pt)

蒼海館の殺人の感想

『紅蓮館の殺人』に続くシリーズ2作目。1作目は読んでおいた方が良いです。
前作では名探偵の苦悩が描かれ、すっきりしない読書模様でしたが、本作はその逆境からの成長を感じる前向きな展開。その名探偵復活にふさわしいミステリ要素が豊富な館ものの本格ミステリです。

圧巻となるのが幾重にも重なる事件模様。600ページのボリュームの本書ですが数冊分の仕掛けを盛り込み、ロジカルに解き明かす展開には驚かされました。館で起こる連続殺人。所々に海外古典のオマージュを感じ気づけた所は純粋に楽しい。そして巧く現代的に扱われているのが見事で、コテコテの本格ミステリを現代風に楽しめた作品でした。

前作が好みに合わなかった人でも本格ミステリが好きなら本書はとても楽しめる作品です。むしろ1作目を読んでいるなら本作は外せない一作です。おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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蒼海館の殺人 (講談社タイガ)
阿津川辰海蒼海館の殺人 についてのレビュー
No.260: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人狼サバイバル 絶望街区! 生存率1%の人狼ゲームの感想

シリーズ3作目。
人狼ルールは、村人2名。占い師1名。狼2名。今回追加された役職は誰が狼か知る事ができる占い師。
昼は無人の街にて指定時間までに目的地にたどり着かなければいけない『集合ゲーム』。夜は今まで通り誰が狼かを投票する『人狼ゲーム』。この2つを合わせたデスゲームが本作の内容となります。

大人が読む分にはちょっと物足りなくて緊迫感は薄いですが、レーベル通りの児童書ミステリとしてはとても良いバランス作品。小学生が読者ターゲットとしてみれば、何をしてもいい無人の街で拾い食いしたり、火を扱ったりする事は、ちょっとイケない事するドキドキ感がありますし、他にはコンパスを手作りしたりと、年齢層に合ったサバイバル展開。子供に読ませても問題ないサバイバル&デスゲーム内容なのが良いです。さらにミステリのように意外性のある仕掛けをいれてくるシリーズで侮れません。疑心暗鬼の攪乱戦と●●ものの仕掛けが見事に決まり、本作も楽しめました。

少しだけ難を言うとサブタイトル『絶望街区 生存率1%』が中身と合っていないと思いました。まったく絶望感はありませんし、生存率を問われる感覚もないです。むしろ無人となった街で小学生の皆がのびのびと冒険を楽しんでいるようにも感じました。

次回作もどんな仕掛けを取り入れてくるのか楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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人狼サバイバル 絶望街区! 生存率1%の人狼ゲーム (講談社青い鳥文庫)