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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数370

全370件 21~40 2/19ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.350:
(7pt)

密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリックの感想

シリーズ3作目。単体では楽しめないのでシリーズを読んできた人向けです。
本作は、通常のミステリでは扱いづらい非現実的な密室トリックを次々と繰り出す作品です。
作中では登場人物のセリフを通じて、読者の心情を代弁するような呆れた反応も示されており、それも作者の計算のうちでしょう。
細かい現実性にとらわれず、純粋に奇想天外なトリックを楽しむ作品です。
そうした視点で読めば、堪能できます。

トリック以外の要素には特に重きが置かれていません。
登場人物の名前も分かりやすく記号的で、ストーリーや舞台もあくまでトリックを引き立てるためのもの。
物語として何か深く感じ取るような内容ではなく、純粋に仕掛けを楽しむ作品です。

内容とは別に、2作目から急に値段が上がっている点が残念でした。ファンなら購入することを見越した価格設定ですし、それ自体は理解できます。ただ本作はトリック重視でストーリーの面白さを求める作品ではないため、価格に対してやや割高に感じてしまうのも否めません。とはいえ、不思議と次回作も手に取ってしまう魅力があるシリーズなのが悩ましいところです。
密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.349:
(7pt)

滅茶苦茶の感想

コロナ禍を背景に、他人の転落人生を描いた作品です。
複数の視点で展開される群像劇となっており、場面が適度に切り替わるため、テンポよく読めて最後まで飽きることなく楽しめました。
群像劇の構成は、仕掛けミステリーを狙ったものというより、読者がスムーズに読み進められるよう工夫されたものです。なおミステリー要素はあまりありません。

転落人生や不幸を描いた作品なので、あまり気持ちの良い読書ではないです。なのでそういうのが苦手な方は事前にご注意を。

個人的に本書で感じた感想は、コロナ禍で孤立した人々への救済物語です。
コロナ禍で人との接触が減り、一人で孤独や不幸を感じていた人に、他人の強烈な不幸を描いた物語を届けることで、共感や「自分はまだマシ」と感じたり、少しでも前向きに生きるきっかけを与えたい。そんな思いも込められているように感じました。
さらに、不幸に陥る人物たちのパターンや、浅はかな思考が描かれる様子は、ある意味で半面教師的な教訓としても受け取れる部分があります。そのため、若いうちに読んでもらいたい作品とも思えました。
滅茶苦茶 (講談社文庫)
染井為人滅茶苦茶 についてのレビュー
No.348:
(7pt)

リカの感想

ネットでの出会い系トラブルを題材とした現代ホラー作品です。
インターネットが一般に普及し始めた2001年の作品であり、当時の時代背景を巧みに取り入れた作品だと感じます。

ネットや出会い系といった要素や設定自体は特に特別なものではありませんが、読ませる文章に引き込まれた読書でした。
今読んでも古臭さを感じさせない面白さには驚きました。携帯やネット環境などの話は昔のものですし、ネットトラブルを用いた作品は世に沢山あり見慣れてしまっているのですが、古臭さを感じず惹き付けられます。なんといいますか、変に奇を衒わない王道のホラーとして無駄のない話構成で高い完成度を感じた次第。主人公やリカの人物像も現実にいそうなリアルさがあり、身近で現実的な怖さをジワジワ感じる魅力的な作品でした。

幻冬舎文庫版では、ラストに結末が追加された完全版となっています。この追加エピソードが、物語の結末をさらに際立たせており、ホラー作品としてよい後味でした。
シリーズ化されていますが、本作内に無理にシリーズ化を狙ったような伏線はなく、この一作目だけで無駄なく完結している点に好感です。
リカ (幻冬社文庫)
五十嵐貴久リカ についてのレビュー
No.347: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

小説の感想

作者買いしている一人なので、新刊が出たことが素直に嬉しいです。点数には好み補正が入っています。

今回は「小説とは何か?」そして「読者」がテーマとなっている作品です。
作者はこれまでもテーマ性のある作品を多く手がけており、『know』では「知る」とは何か、『タイタン』では「働く」とは何かを描いてきました。本作では『小説』というタイトルで「読者」をテーマとして描かれています。『アムリタ』から『2』の頃は「創作」に関する作り手側の視点を描いていましたが、本作ではそれを受け取る側に焦点を当てた作品だと感じます。

本を読むことが好きな人ほど、心に刺さる言葉があるのではないでしょうか。
「そんなに本が好きなら自分で作らないの?」から受けるネガティブとか、「読むだけじゃ駄目なのか」という問いは、読み手側の心情を代弁しており、かつその問いに対して野﨑まど流の哲学的な考えが展開される物語です。今回も「解法」や「解放」となる考え方に触れることができとてもよかったです。小説に対する見え方が変わる一作でした。
小説
野﨑まど小説 についてのレビュー
No.346:
(8pt)

変な家2~11の間取り図~の感想

あまり期待せずに手に取った為か、予想以上にミステリーとして巧みに仕上がった物語に驚かされました。※誤解しないように言うと驚き系ではないです。
本作はシリーズ第2作目ですが、単体でも十分に楽しめます。1作目はYoutubeネタでミステリーとして小粒な感じでしたが、本書はミステリとしてしっかりとした読み応えがあります。
不動産ミステリーというユニークなコンセプトのもと、間取りを題材にした謎解きと推理が見事でした。間取りの不自然な違和感を手掛かりに、そこに隠された意図をホラーやドキュメンタリーの雰囲気で描き出しています。解釈がやや強引な部分もありますが、ホラー調の緊張感が物語に深く引き込んでくれるので、読書中は不自然なく読めました。

本作は短編集の形式で、11編の物語から構成されています。
どの物語も適度な長さで、謎解きと推理がテンポよく進むため、間延びすることなく最後まで飽きずに楽しめました。
そして間取りを用いた図解ベースの構成になっているため、普段読書をしない人にも楽しみやすい構造になっているのが作品の大きな魅力だと感じました。サクサク読める面白さがあります。

さらに、あらすじや帯に書かれている通り、11の物語を読むと、それぞれの繋がりが見えてくる構造が一品。
「実はこういう話なのではないか」、「あれとあれが繋がって……」と、最終章がなければ、深読み・考察系の小説としてネットで話題になれることでしょう。本書は最後にその構造の真相が丁寧に明かされるため、読後感も非常にすっきりします。

多くの伏線も然ることながら、『間取り』という題材を見事に昇華したミステリーが素晴らしかったです。
期待値としてはパズラー寄りの内容で、ストーリーの面白さよりも、間取りを活用した各物語の繋がりや伏線を楽しんだ作品でした。
一般読者を多く生み出した話題作になるのも頷ける作品でした。
変な家2 〜11の間取り図〜
雨穴変な家2~11の間取り図~ についてのレビュー
No.345:
(7pt)

死に髪の棲む家の感想

今年の横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作。
ホラーとミステリが巧みに組み合わされた、まさに賞の趣旨にふさわしい作品でした。

文章や扱われる言葉がオカルトや民俗・伝承の要素を取り入れた雰囲気のあるもので、とても魅力的でした。髪の毛を題材にした怪異的なホラー小説として存分に楽しめた一方で、単なる怪異ホラーにとどまらず、密室や死体の入れ替わりといった要素を取り入れた本格ミステリ寄りの構成も見事でした。

怪異的なホラー小説というジャンルが現代でどれほど通用するのか気になるところではありますが、本作においては、閉ざされた富豪の屋敷という舞台設定が非常によく考えられていると感じました。広大な屋敷内で展開される物語だからこそ、多様な条件や空間の存在に説得力が生まれており、納得感のある作品に仕上がっていると感じます。少し気になった点を挙げると、終盤の展開で事件の全容がやや分かりづらく、スッキリとした読後感が得られない部分もありました。ただ、これは私自身の読解力の問題かもしれません。

ホラー×ミステリー作品として雰囲気もライトで読みやすい作品でした。シリーズ化するなら次作も読んでみたいと思います。
死に髪の棲む家 (角川ホラー文庫)
織部泰助死に髪の棲む家 についてのレビュー
No.344:
(7pt)

蛇影の館の感想

奇想の物語による特殊設定ミステリ。
ミステリの為の物語ともいえるし、物語の為のミステリともいえる一作です。複雑な構成なのですが、新しい物語の体験として心に残る印象的な作品でした。

物語は古来より存在していた人間に寄生する生命体『蛇』の物語。
『蛇』は無敵の存在。人に寄生し、その人の記憶を継承して人間に成りすまして生活している。宇宙生物的な感覚で捉えるとイメージしやすいです。
そしてこの蛇は死なない蛇。死んでも蘇る。ただし死んだり消滅する時にはそれなりのデメリットがある。現代では5匹存在しており、その5匹の「衣装変え」という名の人間の寄生先を変えるイベントで事件が発生するという展開です。

正直なところ「ミステリの謎を解く事を楽しみにする」という視点で読むには向かない作品です。
その理由は、物語があまりにも奇抜で現実的に考えられないからです。ただし、訳が分からないから楽しめないのかというとそうではなく、複雑で難解な内容ながらも、読んでいると不思議と面白いのが不思議な味。人間を殺したり乗っ取ったりと倫理感に欠ける部分もありますが、どこか青春ミステリーのような味わいがある奇妙な味わいでした。

特殊設定ミステリとしても適当な特殊性なのではなく、この物語の設定だから可能とするミステリが見事でした。
発想は物語が先なのかミステリの仕掛けが先なのかわかりませんが、絡み合った構造が非常に巧妙でした。

前半の1章・2章ぐらいまでは内容が把握しやすく楽しめたのですが、3章からはかなり複雑な事件模様となり、理解するのが難しくなりました。
ミステリの内容については「整合性がとれているのか」や「他に可能性がないのか」といった点を気にするのはやめ、あまり考えず物語の雰囲気を楽しむ読書となりました。

普通のミステリは読み慣れてしまっていて、新しい変わった特殊設定もの作品を求める方にオススメです。
蛇影の館
松城明蛇影の館 についてのレビュー
No.343:
(7pt)

お梅は呪いたいの感想

心温まる物語で楽しめました。
500年の時を経て現代に目覚めた呪いの人形・お梅。呪いで人を殺そうと奮闘するものの、思うようにはいかず……。むしろ、お梅に関わる人々は人生の転機を迎えることに――そんなお話です。
作者の人柄が感じられ、読者を楽しませながら笑顔にさせる物語作りがとても巧みです。心地よい気持ちで読み進められ、思わず一気読みでした。
帯には『伏線回収』とありますが、ミステリー的な要素は弱いので、気軽に楽しめるハートフルストーリーとして手に取ると良いと思います。
お梅は呪いたい(祥伝社文庫ふ12-2)
藤崎翔お梅は呪いたい についてのレビュー
No.342: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

にわか名探偵 ワトソン力の感想

謎解きを主軸にしたパズラー小説。
本書はミステリの物語における登場人物たちの感情や背景、深刻さが排除されており、設定や要素が純粋に謎解きの為に活用されています。前作同様に気軽に読めて楽しめるミステリの為、純粋に謎解き堪能しました。
やはり『ワトソン力』という設定が発明もので面白いです。『ワトソン力』は周囲の人物に対して推理能力を飛躍的に高めて発言したくなる能力を付与します。発生した事件に対して色んな可能性の推理を登場人物達が皆で言い合う推理合戦が見どころです。

個人的には『服のない男』が好み。パズラー小説なのでリアルさや感情は抜きで考えた時、行われた理由や背景などがユーモアあふれる謎解き作品として決まっていると感じました。
にわか名探偵 ワトソン力
大山誠一郎にわか名探偵 ワトソン力 についてのレビュー
No.341:
(8pt)

不夜島(ナイトランド)の感想

読書前は400ページ上下2段組みという密度に躊躇しましたが、今年の推理作家協会賞受賞作という事で手に取りました。
結果、濃密な読書体験を得られた嬉しい読書でした。ページ数が気にならないというか、この世界観にずっと浸って楽しみたい感覚。
要素はSFのサイバーパンクもの。人体改造、アクション、警察、スパイ、などなど近未来での描き方が豊富。でも物語中の時代設定は第二次世界大戦後という不思議な設定であり、我々のいる世界とは異なるパラレルワードを堪能できます。

個人的にサイバーパンクの小説をあまり読んだ事がなかったので、より一層新鮮な読書でした。
ゲームの『サイバーパンク2077』が好きなので、そのイメージもあったと思うのですが、読書中は体験したことのない世界観なのに、まるで画が浮かんでくるような魅力的なシーンと描写の数々に圧倒されました。
表紙の装丁も素敵。面白かったです。おすすめ。
不夜島(ナイトランド)
荻堂顕不夜島(ナイトランド) についてのレビュー
No.340: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

奇岩館の殺人の感想

かなり個性的な作品で新鮮な読書体験でした。あまり経験していない部類の作品で、とても好み。

世の中には、登場人物になりきって事件を体験する「マーダー・ミステリー」というゲームがあります。本作はそれを富裕層の娯楽として実際に殺人が行われる「リアル・マーダー・ミステリー」を舞台に描いた作品です。物語は2つの視点で構成されており、1つ目は、この娯楽に巻き込まれた役割不明の主人公視点。もう1つは運営側の視点で倒叙ミステリ模様です。
娯楽としての「マーダー・ミステリー」を取り入れることで、密室トリックや見立てに対しての「何故それを行うのか?」という疑問が不要になり、すべてが演出として楽しむためという形で成立しているのが斬新で発明ものです。おかげで、お約束のミステリー要素を純粋に味わえる構造になっています。

読者がマーダー・ミステリーのゲームを体験した事がある場合、それぞれのキャラクターが持つ情報や役割の感覚がゲームで体験していると思うので馴染みやすく、楽しめる作品だと思います。一方、ゲームを体験していない読者にとっては、役割のキャラが不自然で「何でこんな行動をするのだろう?」と違和感を覚えるかもしれません。そのあたりの事情を、本作は巧みにコミカルかつユーモラスに描いているのが面白いポイントです。作品全体の雰囲気は主人公視点だと深刻ですが、運営者視点ではあえてユーモアが強調されており、これが本作の味の1つだと感じました。実際の殺人を行うという不謹慎なゲームが舞台でありながら、嫌にならないで楽しめる雰囲気が絶妙です。

話のネタが分っても、最後までどうなるのか楽しめるのも良い。結末はちょっと物切れ感ありますが、物語の着地点は好みでした。
奇岩館の殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
高野結史奇岩館の殺人 についてのレビュー
No.339:
(7pt)

誰が勇者を殺したか 預言の章の感想

1作目で完結していた物語に、まさかの2作目が登場。とても嬉しい読書でした。
本作は前作のファンに向けたボーナス的な作品で、いわばおまけストーリーです。ミステリーを用いた要素はありますが、冒険ファンジー寄りの小説となります。
設定自体はどこかで見たようなエピソードが並びますが、何故か読書中はすごく面白い。登場人物たちの熱い想いがとても心に響いてくるのが不思議。これは著者の表現力や文章力によるものでしょう。優しさ溢れる作風が好み。キャラクターの魅力や、読後感の良さもまた心地よいです。
前作が素晴らしかったため、蛇足にならないかと懸念していましたが、見事に物語が繋がっていて驚かされました。

▼以下、ネタバレ感想
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誰が勇者を殺したか 預言の章 (角川スニーカー文庫)
駄犬誰が勇者を殺したか 預言の章 についてのレビュー
No.338: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ファラオの密室の感想

新鮮な読書体験でした。奇抜な設定による古代エジプトを舞台としたミステリー。面白かったです。

主人公は蘇ったミイラというのがまず面白い。古代エジプトの死生観が活用されており、ミイラとして保存された肉体は死者の魂が戻るとされている。なので、主人公が蘇っても普通に村になじんでいる奇妙さが印象的です。
ミステリーとしても、主人公の心臓が欠けている謎や、ピラミッドからのミイラ消失など、あまり目にしたことがない珍しい設定に惹き込まれ、興味津々で読み進めました。
登場人物が全員カタカナなので、最初は少し取っつきにくかったものの、物語が分かりやすく登場人物の配置も整っているので、すぐに慣れることができました。
あまり多くは語れないのですが、要素要素の設定が実はそうだったのかという驚きもあり、かなり満足のミステリーでした。物語としても読後感が良かった点が好みのポイントです。

他思う所として小言になりますが、タイトルに"密室"と書かれているので密室ネタに期待してしまう次第ですが、その密室については物足りなかったです。ミステリー好きに興味をもってもらうタイトルとしてはアリなのかな。応募作時点のタイトル『欠けのある心臓(イブ)』の方が好み。
本書をミステリーとして期待すると物足りなさが出てしまうかも。ただし古代エジプトを舞台とした物語を楽しみ、ちょっとミステリー要素があるぐらいの感覚で読むと楽しめると思います。個人的には物語の面白さを楽しみました。

そして装丁については、表紙絵がナイス。そしてタイトルや見返しに金の装飾を使ったり等、こだわりを感じる内容でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ファラオの密室 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
白川尚史ファラオの密室 についてのレビュー
No.337: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

死んだ山田と教室の感想

2024年度のメフィスト賞受賞作。

読書前にあらすじを読んだ印象では、転生もので、転生先がスピーカーという面白い設定だな~、ぐらいの気持ちでした。しかし読み終えてみるとラノベによくある転生ものとは違い、奥深いテーマを持った作品だと感じました。個人的に感じたテーマは「思春期の悩み」、そして「生」と「死」についてでした。
ミステリー要素はほんの少しですが、男子高校生の学校生活を舞台とした青春小説となります。そのぐらいの気持ちで手に取ると良いです。

小説の傾向としては、文学小説に近い印象です。
男子高校生たちのノリが面白く、下ネタやくだらない話、そしてテンション高めの会話が絶妙に味を出しています。ここは好みが分かれる部分かもしれませんが、個人的には大いに楽しめました。彼らがバカをやっている姿が日常パートとしての平和であり、毎日の普通が「生」であるという事をワザとバカバカしく描いていると感じました。声だけの山田視点による同級生達とのやり取り、独り言のラジオパート、描き方が文学的で普段読むことが多いミステリーとは違う文章で面白かったです。

本書、実は昔からよくある「幽霊もの」の作品だと感じました。スピーカーへの転生や、男子高校生たちの会話が今風の雰囲気を醸し出していますが、昔からある地縛霊による幽霊もの作品のジャンルであります。
山田はすでに死んでいる為、学校を舞台にすると、卒業などを通じて必然的に「別れ」が訪れます。幽霊作品における別れの描き方。ここをどうするのだろうと読書の序盤から気になっていたのですが、その演出や構成、そしてテーマを文学的なタッチで見事に表現していた作品でした。
読後に著者を調べたところ、純文学を志している方だと知り、非常に納得しました。

下ネタもばかばかしいノリも狙い通り。その後に訪れる「死」というテーマとのギャップが強い印象を与え、効果的に心に響きます。高校生達との「仲間」と「生」に対する、スピーカー山田の「孤独」と「死」。その間に若者の喜怒哀楽の叫びが盛り込まれている感覚です。いろいろな側面から深く考えさせられる読書体験でした。読後感としては、少し気持ちが沈む部分もありますが、だからこそこの作品が読者の心に深く残る、独特の魅力を持っているのだと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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死んだ山田と教室
金子玲介死んだ山田と教室 についてのレビュー
No.336: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

法廷占拠 爆弾2の感想

前作の続編がまさかの登場。
世界観が前作の延長にあるため、爆弾事件後の物語が描かれています。前作を読んでおくことを強くおすすめします。

爆弾魔かつ愉快犯の「スズキタゴサク」という人物設定がかなり魅力的であり、今作も良い味を出していました。いわゆる「無敵の人」である知能犯。相手を不愉快にさせる言動や行動は今作も健在。特徴的なセリフ回しが、キャラクターを際立たせています。前作を楽しんだ方や、この犯人に興味を持った方は、今作も間違いなく楽しめるでしょう。

裁判所を舞台とした立てこもり事件。100名近い人質をコントールしているという事に納得できる文章の緊迫した雰囲気が見事でした。この手の作品では、文章が軽いとどうしても現実味が薄れたり、無理のある展開に感じてしまうことが多いですが、本作はそうした不安を感じさせない圧倒的な緊張感で引き込まれます。

犯人が明かされているミステリーながら、犯行理由や目的が謎に包まれており、その点が非常に興味を引きます。キャラクター造形や警察ものとしての要素も楽しめる作品でした。
ミステリーの仕掛けや社会的テーマが現代的な要素に巧みに絡んでおり、まさに今の時代にふさわしいミステリー作品だと感じました。"スズキタゴサク"の今後の展開が非常に楽しみです。

余談ですが、この爆弾シリーズの装丁が好みでした。表紙画像だとわからないですが、実物はモノトーンの写真にツルツルした加工の飛沫が施されており、その触り心地が面白い。こだわりを感じる表紙でした。

▼以下、ネタバレ感想
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法廷占拠 爆弾2
呉勝浩法廷占拠 爆弾2 についてのレビュー
No.335: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

フェイク・マッスルの感想

今年の江戸川乱歩賞受賞作。
本作は乱歩賞作品の中では、新人賞とは思えないぐらい大変読み易い文章であり、明るい雰囲気で楽しめる作品でした。

物語はアイドルがたった3カ月間のトレーニングでボディビル大会で上位入賞を果たすのですが、「そんな短期間ではあの筋肉ができるわけがない」とドーピング疑惑でSNS炎上する始まり。
SNSの炎上から始まる展開が現代的で面白いです。本書は新人記者がその疑惑を調査するため、アイドルが運営するパーソナルジムに潜入するという、潜入調査ものの作品です。

乱歩賞作品に対する個人的なイメージは社会派で難しい印象だったのですが、本書は気軽に楽しめる雰囲気で、その点に驚きました。
「筋肉は本物なのか?」というわかりやすい謎かけ。潜入調査ものながら、内容は大変コミカルで、主人公の行動には思わずクスッとさせられます。コツコツ筋トレして努力は人を裏切らない的な、成長小説にも感じる作品であり、読後感がとても良い作品でした。欲を言えば成長性をより感じさせる為に、失敗や苦難も描いてほしかったかな。トントン拍子で進むのでちょっと物足りなかったです。ただその分スピード感を優先したのかもですね。

一方で、雰囲気や読みやすさは抜群ですが、ミステリとしての要素、特に謎解きや社会派のテーマといった従来の乱歩賞作品をイメージする部分においては、物足りなさを感じるかもしれません。ミステリに対する正直な感想としまして、何か驚きやテーマを感じさせて欲しかったです。仕掛けの面でもやや弱さを感じ、提示された謎に対する解答にも少し問題があるように思いました。この点については、ネタバレ側で記載します。
個人的には、乱歩賞作品というよりも「メフィスト賞」や「このミステリーがすごい!大賞」の印象を受けました。ユーモアミステリではなくライトミステリの部類かと思います。しかし、ポジティブに考えますと、乱歩賞の苦手な部分のイメージが払拭でき、気軽に楽しめる万人向けなミステリーとして、多くの読者を獲得できる可能性がある作品だと感じました。
読みやすく、楽しめる作品であることは間違いありません。また、作者はこれまでに何度か乱歩賞に応募している方なので、今後の作品にも期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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フェイク・マッスル
日野瑛太郎フェイク・マッスル についてのレビュー
No.334: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにしたの感想

タイムループを用いたファンタジーミステリとしてかなり面白い作品でした。

物語は母の危篤を知った長男のヒースクリフが数年ぶりに生家となる永劫館に訪れる始まり。葬儀に絡む遺言状の公開、集まる親戚や胡散臭い者達、舞台は洋館で海外の雰囲気なのですが、どことなく日本の古典作品を思わせるフォーマットが馴染みやすいだけでなく新鮮に映り面白いです。そして大嵐で陸の孤島となった舞台で連続殺人が発生する流れ。

定番の面白いミステリ要素を用いつつも独自の世界を構築しているのは魔女のルールとタイムループ(死に戻り)の存在。この設定が加わることで、読者に馴染みのある密室や館もの、クローズドサークルといった装置が新鮮に活用されており、その巧みさが見事でした。

シリーズ展開が期待できそうな含みを持たせた終盤も好印象でした。続編が出るなら、ぜひまた読みたいと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした (星海社FICTIONS)
No.333: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

VR浮遊館の謎 探偵AIのリアル・ディープラーニングの感想

今作も奇想に満ちた仕掛けを楽しむことができました。前作の3作目同様にAI探偵シリーズだから可能かつ納得できる大仕掛けです。前作は素晴らしい作品でしたが、今作もそれに劣らず奇想天外なミステリでした。作者の発想は本当に凄い。

あらゆるものが浮遊する館という舞台の斬新さや、魔法を用いた頭脳戦の様子など、一見するとなんでもアリなトンデモ設定ですが、しっかりとミステリーの面白さも兼ね備えています。推理に必要な手掛かりが散りばめられた謎解きと驚きが楽しめる作品でした。
初期の頃に『RPGスクール』という作品がありましたが、今回の作品はそれに比べて格段にゲームとしての面白さが味わえる読みやすくて楽しい作品でした。

人工知能やVRの要素として触覚による入力の扱いを取り入れているのが面白い。テキストや音声だけでなく未来では触覚による入力インターフェイスやフィードバックがユーザーに提供されるようになるでしょう。この作品はそうした未来的な要素も取り入れています。
今作では人工知能探偵の相以が体を手に入れ、初めて触覚を堪能するシーンがあります。その喜びがとても可愛らしく微笑ましいです。また相以と輔は今回ゲームクリアを目指すライバル関係でしたが、互いに信頼し合っている良いコンビで、その関係性がとても心地よく感じられました。

シリーズを重ねるごとに読者の期待を上回る作品が生まれてきます。今後の展開も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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VR浮遊館の謎:探偵AIのリアル・ディープラーニング
No.332:
(8pt)

推しの殺人の感想

扱われる要素の数々が無駄なく配置されており、完成度の高い作品でした。若い世代向けの表現がライトなクライムノベルであり、文章も読み易く面白いです。読後感が良いのもポイントです。

物語は崩壊寸前の3人組の地下アイドルのお話。メンバーの1人が人を殺してしまい、相談の結果、3人は死体を山中に埋める事を決意するという流れ。本書はこの犯人視点の倒叙ミステリです。

アイドルが犯人という倒叙ミステリにおいて、読者が犯人に共感できるように芸能の闇を扱う点が上手かったです。その闇の表現がドロドロしたものではないため、嫌な気持ちにならずに読めるのもよいです。また、感情の扱いや表現がとても巧みで、アイドルを応援したい気持ち、同情や共感したい気持ちが芽生え、3人組の物語に惹かれていくのを感じました。

ミステリー的な仕掛けを期待する作品ではないのですが、配役や設定や、ちょっとした驚きなど、作品のまとめ方がとても巧くラストの切り方も好みでした。
推しの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
遠藤かたる推しの殺人 についてのレビュー
No.331: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

黄土館の殺人の感想

シリーズ3作目。このシリーズは1作目から順に読む事が必須です。
1作目は少し好みと違う作品でしたが、その後の2作目、3作目は期待通りの面白い作品となっています。4部作なので、次巻も楽しみです。

シリーズを通して感じる「名探偵とは」のテーマは今回も健在です。さらにそのテーマに負けないくらいミステリ要素が豊富なのが魅力的でした。地震&落石によるクローズド・サークル、交換殺人、序盤は片側の犯人視点による倒叙ミステリ、後半は館で起こる連続殺人。ミステリ好きにはたまらない展開です。ただ、豊富なミステリ要素は大好物ですが、数が多すぎて事件の把握に難航しました。加えて、600ページ超の長さなので読了までかなりの時間がかかったのが少し大変でした。読みやすく面白かったのですが、読書中は先が気になる面白さというより、犯人や結末をなんとなく予感してしまい、答え合わせまでの道のりが長く感じました。

とはいえ、3人組のキャラや元名探偵との間柄も好みですし、近年のミステリの新作の中では期待のシリーズです。次巻の災害は嵐をテーマにしたものでしょうか。とても楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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黄土館の殺人 (講談社タイガ)
阿津川辰海黄土館の殺人 についてのレビュー