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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数359件
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1作目で完結していた物語に、まさかの2作目が登場。とても嬉しい読書でした。
本作は前作のファンに向けたボーナス的な作品で、いわばおまけストーリーです。ミステリーを用いた要素はありますが、冒険ファンジー寄りの小説となります。 設定自体はどこかで見たようなエピソードが並びますが、何故か読書中はすごく面白い。登場人物たちの熱い想いがとても心に響いてくるのが不思議。これは著者の表現力や文章力によるものでしょう。優しさ溢れる作風が好み。キャラクターの魅力や、読後感の良さもまた心地よいです。 前作が素晴らしかったため、蛇足にならないかと懸念していましたが、見事に物語が繋がっていて驚かされました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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新鮮な読書体験でした。奇抜な設定による古代エジプトを舞台としたミステリー。面白かったです。
主人公は蘇ったミイラというのがまず面白い。古代エジプトの死生観が活用されており、ミイラとして保存された肉体は死者の魂が戻るとされている。なので、主人公が蘇っても普通に村になじんでいる奇妙さが印象的です。 ミステリーとしても、主人公の心臓が欠けている謎や、ピラミッドからのミイラ消失など、あまり目にしたことがない珍しい設定に惹き込まれ、興味津々で読み進めました。 登場人物が全員カタカナなので、最初は少し取っつきにくかったものの、物語が分かりやすく登場人物の配置も整っているので、すぐに慣れることができました。 あまり多くは語れないのですが、要素要素の設定が実はそうだったのかという驚きもあり、かなり満足のミステリーでした。物語としても読後感が良かった点が好みのポイントです。 他思う所として小言になりますが、タイトルに"密室"と書かれているので密室ネタに期待してしまう次第ですが、その密室については物足りなかったです。ミステリー好きに興味をもってもらうタイトルとしてはアリなのかな。応募作時点のタイトル『欠けのある心臓(イブ)』の方が好み。 本書をミステリーとして期待すると物足りなさが出てしまうかも。ただし古代エジプトを舞台とした物語を楽しみ、ちょっとミステリー要素があるぐらいの感覚で読むと楽しめると思います。個人的には物語の面白さを楽しみました。 そして装丁については、表紙絵がナイス。そしてタイトルや見返しに金の装飾を使ったり等、こだわりを感じる内容でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2024年度のメフィスト賞受賞作。
読書前にあらすじを読んだ印象では、転生もので、転生先がスピーカーという面白い設定だな~、ぐらいの気持ちでした。しかし読み終えてみるとラノベによくある転生ものとは違い、奥深いテーマを持った作品だと感じました。個人的に感じたテーマは「思春期の悩み」、そして「生」と「死」についてでした。 ミステリー要素はほんの少しですが、男子高校生の学校生活を舞台とした青春小説となります。そのぐらいの気持ちで手に取ると良いです。 小説の傾向としては、文学小説に近い印象です。 男子高校生たちのノリが面白く、下ネタやくだらない話、そしてテンション高めの会話が絶妙に味を出しています。ここは好みが分かれる部分かもしれませんが、個人的には大いに楽しめました。彼らがバカをやっている姿が日常パートとしての平和であり、毎日の普通が「生」であるという事をワザとバカバカしく描いていると感じました。声だけの山田視点による同級生達とのやり取り、独り言のラジオパート、描き方が文学的で普段読むことが多いミステリーとは違う文章で面白かったです。 本書、実は昔からよくある「幽霊もの」の作品だと感じました。スピーカーへの転生や、男子高校生たちの会話が今風の雰囲気を醸し出していますが、昔からある地縛霊による幽霊もの作品のジャンルであります。 山田はすでに死んでいる為、学校を舞台にすると、卒業などを通じて必然的に「別れ」が訪れます。幽霊作品における別れの描き方。ここをどうするのだろうと読書の序盤から気になっていたのですが、その演出や構成、そしてテーマを文学的なタッチで見事に表現していた作品でした。 読後に著者を調べたところ、純文学を志している方だと知り、非常に納得しました。 下ネタもばかばかしいノリも狙い通り。その後に訪れる「死」というテーマとのギャップが強い印象を与え、効果的に心に響きます。高校生達との「仲間」と「生」に対する、スピーカー山田の「孤独」と「死」。その間に若者の喜怒哀楽の叫びが盛り込まれている感覚です。いろいろな側面から深く考えさせられる読書体験でした。読後感としては、少し気持ちが沈む部分もありますが、だからこそこの作品が読者の心に深く残る、独特の魅力を持っているのだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作の続編がまさかの登場。
世界観が前作の延長にあるため、爆弾事件後の物語が描かれています。前作を読んでおくことを強くおすすめします。 爆弾魔かつ愉快犯の「スズキタゴサク」という人物設定がかなり魅力的であり、今作も良い味を出していました。いわゆる「無敵の人」である知能犯。相手を不愉快にさせる言動や行動は今作も健在。特徴的なセリフ回しが、キャラクターを際立たせています。前作を楽しんだ方や、この犯人に興味を持った方は、今作も間違いなく楽しめるでしょう。 裁判所を舞台とした立てこもり事件。100名近い人質をコントールしているという事に納得できる文章の緊迫した雰囲気が見事でした。この手の作品では、文章が軽いとどうしても現実味が薄れたり、無理のある展開に感じてしまうことが多いですが、本作はそうした不安を感じさせない圧倒的な緊張感で引き込まれます。 犯人が明かされているミステリーながら、犯行理由や目的が謎に包まれており、その点が非常に興味を引きます。キャラクター造形や警察ものとしての要素も楽しめる作品でした。 ミステリーの仕掛けや社会的テーマが現代的な要素に巧みに絡んでおり、まさに今の時代にふさわしいミステリー作品だと感じました。"スズキタゴサク"の今後の展開が非常に楽しみです。 余談ですが、この爆弾シリーズの装丁が好みでした。表紙画像だとわからないですが、実物はモノトーンの写真にツルツルした加工の飛沫が施されており、その触り心地が面白い。こだわりを感じる表紙でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今年の江戸川乱歩賞受賞作。
本作は乱歩賞作品の中では、新人賞とは思えないぐらい大変読み易い文章であり、明るい雰囲気で楽しめる作品でした。 物語はアイドルがたった3カ月間のトレーニングでボディビル大会で上位入賞を果たすのですが、「そんな短期間ではあの筋肉ができるわけがない」とドーピング疑惑でSNS炎上する始まり。 SNSの炎上から始まる展開が現代的で面白いです。本書は新人記者がその疑惑を調査するため、アイドルが運営するパーソナルジムに潜入するという、潜入調査ものの作品です。 乱歩賞作品に対する個人的なイメージは社会派で難しい印象だったのですが、本書は気軽に楽しめる雰囲気で、その点に驚きました。 「筋肉は本物なのか?」というわかりやすい謎かけ。潜入調査ものながら、内容は大変コミカルで、主人公の行動には思わずクスッとさせられます。コツコツ筋トレして努力は人を裏切らない的な、成長小説にも感じる作品であり、読後感がとても良い作品でした。欲を言えば成長性をより感じさせる為に、失敗や苦難も描いてほしかったかな。トントン拍子で進むのでちょっと物足りなかったです。ただその分スピード感を優先したのかもですね。 一方で、雰囲気や読みやすさは抜群ですが、ミステリとしての要素、特に謎解きや社会派のテーマといった従来の乱歩賞作品をイメージする部分においては、物足りなさを感じるかもしれません。ミステリに対する正直な感想としまして、何か驚きやテーマを感じさせて欲しかったです。仕掛けの面でもやや弱さを感じ、提示された謎に対する解答にも少し問題があるように思いました。この点については、ネタバレ側で記載します。 個人的には、乱歩賞作品というよりも「メフィスト賞」や「このミステリーがすごい!大賞」の印象を受けました。ユーモアミステリではなくライトミステリの部類かと思います。しかし、ポジティブに考えますと、乱歩賞の苦手な部分のイメージが払拭でき、気軽に楽しめる万人向けなミステリーとして、多くの読者を獲得できる可能性がある作品だと感じました。 読みやすく、楽しめる作品であることは間違いありません。また、作者はこれまでに何度か乱歩賞に応募している方なので、今後の作品にも期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイムループを用いたファンタジーミステリとしてかなり面白い作品でした。
物語は母の危篤を知った長男のヒースクリフが数年ぶりに生家となる永劫館に訪れる始まり。葬儀に絡む遺言状の公開、集まる親戚や胡散臭い者達、舞台は洋館で海外の雰囲気なのですが、どことなく日本の古典作品を思わせるフォーマットが馴染みやすいだけでなく新鮮に映り面白いです。そして大嵐で陸の孤島となった舞台で連続殺人が発生する流れ。 定番の面白いミステリ要素を用いつつも独自の世界を構築しているのは魔女のルールとタイムループ(死に戻り)の存在。この設定が加わることで、読者に馴染みのある密室や館もの、クローズドサークルといった装置が新鮮に活用されており、その巧みさが見事でした。 シリーズ展開が期待できそうな含みを持たせた終盤も好印象でした。続編が出るなら、ぜひまた読みたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今作も奇想に満ちた仕掛けを楽しむことができました。前作の3作目同様にAI探偵シリーズだから可能かつ納得できる大仕掛けです。前作は素晴らしい作品でしたが、今作もそれに劣らず奇想天外なミステリでした。作者の発想は本当に凄い。
あらゆるものが浮遊する館という舞台の斬新さや、魔法を用いた頭脳戦の様子など、一見するとなんでもアリなトンデモ設定ですが、しっかりとミステリーの面白さも兼ね備えています。推理に必要な手掛かりが散りばめられた謎解きと驚きが楽しめる作品でした。 初期の頃に『RPGスクール』という作品がありましたが、今回の作品はそれに比べて格段にゲームとしての面白さが味わえる読みやすくて楽しい作品でした。 人工知能やVRの要素として触覚による入力の扱いを取り入れているのが面白い。テキストや音声だけでなく未来では触覚による入力インターフェイスやフィードバックがユーザーに提供されるようになるでしょう。この作品はそうした未来的な要素も取り入れています。 今作では人工知能探偵の相以が体を手に入れ、初めて触覚を堪能するシーンがあります。その喜びがとても可愛らしく微笑ましいです。また相以と輔は今回ゲームクリアを目指すライバル関係でしたが、互いに信頼し合っている良いコンビで、その関係性がとても心地よく感じられました。 シリーズを重ねるごとに読者の期待を上回る作品が生まれてきます。今後の展開も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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扱われる要素の数々が無駄なく配置されており、完成度の高い作品でした。若い世代向けの表現がライトなクライムノベルであり、文章も読み易く面白いです。読後感が良いのもポイントです。
物語は崩壊寸前の3人組の地下アイドルのお話。メンバーの1人が人を殺してしまい、相談の結果、3人は死体を山中に埋める事を決意するという流れ。本書はこの犯人視点の倒叙ミステリです。 アイドルが犯人という倒叙ミステリにおいて、読者が犯人に共感できるように芸能の闇を扱う点が上手かったです。その闇の表現がドロドロしたものではないため、嫌な気持ちにならずに読めるのもよいです。また、感情の扱いや表現がとても巧みで、アイドルを応援したい気持ち、同情や共感したい気持ちが芽生え、3人組の物語に惹かれていくのを感じました。 ミステリー的な仕掛けを期待する作品ではないのですが、配役や設定や、ちょっとした驚きなど、作品のまとめ方がとても巧くラストの切り方も好みでした。 |
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シリーズ3作目。このシリーズは1作目から順に読む事が必須です。
1作目は少し好みと違う作品でしたが、その後の2作目、3作目は期待通りの面白い作品となっています。4部作なので、次巻も楽しみです。 シリーズを通して感じる「名探偵とは」のテーマは今回も健在です。さらにそのテーマに負けないくらいミステリ要素が豊富なのが魅力的でした。地震&落石によるクローズド・サークル、交換殺人、序盤は片側の犯人視点による倒叙ミステリ、後半は館で起こる連続殺人。ミステリ好きにはたまらない展開です。ただ、豊富なミステリ要素は大好物ですが、数が多すぎて事件の把握に難航しました。加えて、600ページ超の長さなので読了までかなりの時間がかかったのが少し大変でした。読みやすく面白かったのですが、読書中は先が気になる面白さというより、犯人や結末をなんとなく予感してしまい、答え合わせまでの道のりが長く感じました。 とはいえ、3人組のキャラや元名探偵との間柄も好みですし、近年のミステリの新作の中では期待のシリーズです。次巻の災害は嵐をテーマにしたものでしょうか。とても楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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96年に書かれたコンピューターウィルスを用いたサイバーミステリー。
MS-DOSやパソコン通信時代が描かれており、その時代ですでに人工知能を巧く絡めた作品となっているのが驚きでした。 90-00年代のパソコン好きやエンジニアの方にとても楽しめる作品となっております。ミステリーやサスペンス的な要素や構成については今読んでも十分に面白く、コンピューターやウィルスの進化の目的は今読んでも違和感がないのが素晴らしいです。著者の当時からのコンピューターの知識量が垣間見れる作品でした。 MS-DOSやフロッピー、モデムなど、機材や環境については古い単語である事は否めませんが、それを気にしなければコンピューターのベーシックな要素で物語が進むため、ネットワークやコンピューターの原理など初心者エンジニアの方にはそういう面でも楽しめそうです。 ウィルスは何故広まるのか、どこへ到達するのか、終盤の1つの解については現代のAIとの関りの考え方と違和感のない道を示しています。著者の先見性に驚かされました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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かなり好みの作品でした。92年の作品ですが今も問題なく楽しめます。
冒頭は宗教施設や反対運動の過激なデモ模様がレトロな村を舞台とするホラーを感じさせました。そこから監視カメラで囲まれた宗教施設の火災の謎、教祖の死、そしてそれを切っ掛けに生まれた主人公の頭の中に入り込んだ意思。という具合にどんな物語に展開するのか予想できないワクワク感のある読書でした。 あらすじにある通り、SF、ミステリー、恋愛、など当時には珍しいジャンルミックスの作品です。所々に生まれる奇妙な違和感がホラーやSFでの演出と思いきや、ミステリー的な解法で巧く繋がるスッキリ感もあり、かなり巧妙な作品だと感じました。 恋愛要素についてはとても好みなのですが、惜しむべきはもう少し男性と女性が惹かれ合う切っ掛けを描いて欲しかったです。あまり説明がないので一目惚れ感が凄くて、そんなご縁でこの行動力は違和感です。ベタですが男性側に頼りがいがあったり、知的な要素があったり、女性を助けたとか何かしらのエピソードがちゃんとあれば個人的に非の打ち所がないと感じる作品でした。 |
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2024年の本屋大賞超発掘本に選ばれたきっかけで読書。
1994年の作品であり、その年代を考えればやはり先駆け的存在の1つだと感じます。思い返せば90-00年代ごろこのネタが流行りました。そのままの単語が使われている映画も頭によぎるぐらいです。とはいえ本書のテーマが分かってしまっても先が気になる面白さの作品である事は間違いありませんでした。 読者はワープロで打たれた54個の文書ファイルを読み進めるという構成です。 複数名によって書かれた文書を読み進めるうちに奇妙な違和感が起きてきて、序盤は誰かの勘違い?こういう事なのでは?と思ったらそんなの想定済みですよと言わんばかりにその考えをボツにする展開が発生し、この作品はホラーなのか?SFなのか?一体これはどういう事なのだ?と先が気になる物語で楽しみました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本書は事前の予習が必要な作品。
対象読者は野﨑まど作品が好きな人、そして野﨑まどが脚本を手掛けた『正解するカド』を視聴している人向けとなります。その内容を知っている人に向けて仕掛けられた予想外の展開の物語となります。狭い読者層向けの作品なのですが、該当する方に楽しめる作品です。ファンの期待に応えている作品と言えるでしょう。 本書はアニメオリジナル作品となった野﨑まどの『正解するカド』のスピンオフ作品を、野﨑まどファンである作者の乙野四方字が依頼を受けて執筆するという物語です。アニメのストーリーを小説化した作品ではなく、完全オリジナルの物語です。 物語の主人公は乙野四方字自身。大ファンの野﨑まど作品に関われる依頼に喜ぶ一面もあれば、その期待故にプレッシャーでまったく書けなくなる悩みが描かれます。登場人物や出版社とのエピソードが本当の事のようにリアルに描かれているのが面白く、どこまでが本当の事でどこから創作なのか不思議な感覚での読書でした。その雰囲気が続いていく中で、まったく執筆できずに病んでいる作者の前にアニメ作品に登場するキャラクターが現れるという流れです。 ジャンルとしてはSFメタフィクション小説。現実や虚構やその他いろいろな要素が入り混じる作品です。そして要素として何を混ぜているかというと、野﨑まどの作風や、アニメの『正解するカド』の内容なので本当に読者は限定的です。ただそれらを知っている人にはわかると思いますが、野﨑まどが最後にどんでん返しのように仕掛ける構成やユーモアを本書特有の世界で行われているのが見事でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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メフィスト賞受賞の『線は、僕を描く』の続編。前作は必読。本作は完全に非ミステリの青春小説です。
前作同様、文章の表現力が凄まじく素晴らしい読書体験でした。 物語の好みとしては良い面と悪い面があり、ちょっと悩ましい方が強かったのが正直な気持ちです。 1作目はサクセスストーリーの展開でゴールが綺麗に決まっていた為、その続きとなる本書はどう始まるのだろうと手に取りました。あらすじにありますが序盤は主人公の苦悩が描かれたスタートでした。進路に悩み優柔不断な主人公の姿が描かれます。正直な気持ちとして、読んでいてあまり良い気持ちではありませんでした。ウジウジした主人公の姿を見て、一作目のあの姿はどこに行ったんだと思う次第。きっと1作目で盛り上がったゴールを描いたので、一度その雰囲気をリセットする為に主人公を逆境に立たせたんだろうという構成の都合を感じてしまった次第。1作目と2作目の物語の繋がりが弱く、急に逆境だったから変に感じたのかもしれません。その感覚だった為、終盤近くまではどんよりした気持ちを感じながらの読書でした。1作目のような水墨画での新しい知的好奇心は得づらく刺激を変える事が少ない為、読者は最初に得た気分のまま読み進めるんじゃないかなと思いました。 と、気になる事はありましたが、その苦悩が伝わるぐらい文章表現が巧い。関わる人のちょっとした全てを語らないセリフや想いなど、読書体験としては素晴らしかったです。好みと合わない点は多いのですが作品の水準はとても高いです。逆境からスタートである構成も相まって終盤の力強いシーンは圧巻でした。揮毫会や水墨画家達の大団円も見事で映像化が期待されます。 主人公の決断は好みと違うものだったり、ラストから感じる画家たちとの関係性もなんだかピンと来ないので、個人的には物語は1作目で完結な気持ちでした。 |
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まずは小言を。帯や宣伝コピーが意図しない内容で過剰です。
「反転」やら「伏線」やらそういうのを期待して読むと思っていたのと違うという感想になりますのでご注意を。 売る為とはいえ作品が不当な評価に繋がるので残念な気持ちになりました。作品に罪はないので評価はちゃんと別扱いです。 正しい作品のテーマをお伝えすると、本書は身体醜形障害という自分が醜いと思い込んでしまう精神障害を扱った青春ミステリです。SNSの誹謗中傷により自分がブスで醜いと思い込んで悩む姿が描かれています。アイドル活用やSNSや動画配信など、顔を出す活動の現代的な要素を絡めていきます。 物語は大御所ミステリ作家の遺稿を読むという作中作の構成であり、遺稿では何を伝えたいのかが読者に考えさせる謎となります。ミステリーとして上記のテーマをちゃんと絡めた内容であったのが見事でした。 帯で感じるような一発ネタの仕掛けを楽しむ作品ではなく、障害を含むルッキズムをテーマとして扱い、それがどのようなものかを読者に伝え、悩みや希望ある物語へ変化していきます。読後感は良く面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』のスピンオフ作品。
別の並行世界を描いた作品であり、SFやミステリ成分は特になく物語の補完的位置づけです。 3作品を通して一番印象に残り良かったポイントは、別の並行世界の幸せを描いた事だと思いました。 世の中にこの手の作品は豊富にありますが、これ系の愛読者には隠しテーマが存在します。それは並行世界の恋愛もの作品もしくは恋愛アドベンチャーゲームにおいて、選ばれなかった側はどうなるのかという事です。作品によっては選ばれなかった側の不幸を描いたり、メタ要素で読者やプレイヤーを悩ませる作品の方が世に多い中、全てをハッピーエンドのように描いているのは中々の特徴的な要素だと思いました。著者の優しさかと感じます。 小説2作品と映画も観てから本書を読みました。描かれなかった所を優しい雰囲気で補間された内容です。新たな展開というのは無いのでシリーズ作品が気に入った人向けの作品。本書だけや最初に読むのはオススメしません。 3作どれも面白く物語を堪能しました。良かったです。 |
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並行世界の存在が実証された世界におけるSF恋愛小説。☆8(+1好み)
2つの作品『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』で1セット。上下巻という意味ではなく、どちらから読んでも楽しめる作品です。 私の読書順序は『僕愛』→『君愛』の順で読んだ後、→もう一度『僕愛』を読みました。 どちらから読むかの参考として 『僕愛』の方は作品の構造を曖昧とし、登場人物達のドラマをメインで楽しめます。 『君愛』の方は作品の構造が明確になり、世界設定を把握して楽しむ作品となります。 ミステリ―好きの人は『僕愛』→『君愛』の順序が良いかと思います。普段から序盤は謎で最後に真相がわかるような作品を読み慣れていますのでこの順序の方で問題なく楽しめます。一方、よく分からない事が苦手で全容がわかった上で作品を楽しみたい方は『君愛』→『僕愛』となります。 時間ものの恋愛作品において、本書の特徴として面白いなと感じたのは、並行世界が全員に認識されている事です。その設定で恋愛要素が含まれると、違う世界線での恋愛に抱く感情はどのようになるのかが興味深く読めました。今の時間軸の恋人と、違う時間軸の恋人を大切にした場合、並行世界を認識している恋人の視点からは嫉妬や羨みの感情はどのような形で納得するのかとか、夜の関係や結婚の瞬間に対してはどうかなど、なかなか踏み込んだSF作品として楽しめました。表紙はライトノベルっぽいですがしっかりと早川書房のSFだなと感じた次第です。 全てを読んだあとでハッピーエンドなのか、そうではないのか、読者に委ねられます。読者がどの世界やキャラをメインで考えるのかで変わる事でしょう。恋愛アドベンチャーゲーム(ある意味平行世界)やSF作品、特に某有名なSF映画の結末に近しいものもあるので、この手の作品はそういう所に落ち着くのかなと感じる次第でした。何はともあれこの手の作品は好みなのでとても楽しい読書でした。 単体でそれぞれ2作品の結末を楽しみ、両方を読むとその関係性をメタ的に俯瞰できる面白い試みの作品でした。 |
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圧巻の作品でした。
単純なパニック小説かと思いきや、人類の進化論に関する著者なりの説を描いた作品。 デビュー作の『QJKJQ』は好みに合わなくて著者の作品を敬遠してしまっていたのですが、その後数々の賞を受賞している事から改めて作品に触れた次第。著者の作品イメージが変わりました。凄く面白かったです。 ジャンルはSF+パニック小説から始まり、その原因に触れる一端として、チンパンジーの霊長類研究やAIの研究まで範囲を広げていく流れ。知識的欲求が降り注いでくる物語なので文庫600ページの厚い本ですが飽きさせない読書でした。ただ万人向けではなく人により好みが分れるかと思います。人によっては論文に近しい固い物語を読まされているように感じてしまうかもしれません。 ざっくり傾向を他作品で例えると、軽いライト向けの鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』のような著者なりの新説を伝える中、描き方はジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』の様に帰結するイメージ。ちょっと誇大かもしれませんが、少しでも興味を持ってもらえればと。そんな新説をミステリとして体験できた内容でした。 人類の進化はこのように起きたのではないか。今のなお人間の無意識に起きている反応はこういう事でないか。神話の物語は実はこういう事ではないのか。などなど、著者なりの説とそれを面白く体験できる物語が素晴らしかったです。 読んだら誰かに話したくなる。そんなエピソードでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本書はあらすじや帯に書かれている通り、内容や展開の情報を伝える事が禁止されている作品。その為それ以外の所で感想をお伝えです。
まず本書はマニア向けの作品です。 ミステリをある程度読み慣れており、普通の謎では満足できず、新しい刺激を求めている人向け。話の整合性や多少展開がおかしくても気にせず、とにかく変なものが読みたい人に刺さります。一方、ミステリはあまり読んでいなくて普段は一般文芸をたしなみ、なんだか話題になっているからと著者の事を知らずに本書をいきなり手に取るような方には印象が悪い作品になるので要注意です。 本書を手に取った切っ掛けは『2024年度 本格ミステリベスト10』にて1位になった事からです。このランキングは一般文芸以上にミステリに重きが置かれるランキングです。著者の前作の『名探偵のいけにえ』に続いて1位な訳です。これは気になります。『名探偵のいけにえ』は白井智之作品の中では少し著者成分がマイルドで一般の方にも楽しめるような整ったミステリでした。続く本書はどういう傾向になったのかなと思いながらの読書でしたが、それは早々にいつもの白井智之作品と感じた次第(笑)。むしろ前作で抑圧されていたんじゃないかと思うぐらい、本書では大爆発しています。倫理感が欠如しており、ミステリの為なら何でも活用してしまおうという意気込みをとても感じた作品でした。※誉め言葉です。 万人には薦められないのですが、個性的なものが体験できる記憶に残る一冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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児童書向けの本格ミステリ。
子供達にミステリを読ませたい。推理を楽しんでもらいたい。そういうコンセプトの作品です。その思いに対する作品の品質はとても高いものでした。 扱うミステリは学校のプールに放たれた大量の金魚の謎。誰が何のために?というもので、小学生の3人組がこの謎に挑みます。 登場人物達のやりとりや、学校内での出来事が最後の謎解きに向けての手掛かりとして活用されています。本書には『読者への挑戦』があり、ちゃんと謎解きの推理が楽しめる作りになっているのが見事でした。 読み終わってみれば無駄がないエピソードで作られており、手がかりの散りばめ方がとてもうまく、児童に読ませる謎解き本としての完成度は高いものでした。他、表紙の主人公が海外ミステリを読んでおり、その作品紹介が巻末に掲載されています。この巻末紹介で次の読書へ繋げようとするなど、ミステリの読者層を広げようとする気持ちをとても感じました。イラストも豊富で絵柄はとても可愛いです。本書のイラストとデザイン力はとても高い為、手に取りやすいでしょう。この作品によって小学生読者が増えると良いなと思いました。 ~~~ さて、以下は点数とは関係ない、個人的に気になる所です。 推理をする作品としての問題と解答はよかったのですが、問題自体の魅力が弱いのが難点に感じました。児童向けという事を理由に軽い謎では読後の心に残る作品にはなり辛いです。簡単な問題を解いたようなお話なので、シリーズとしてもっと続きが読みたい!という気持ちにはならなかったのが正直な気持ち。何か作品を象徴するぐらいのインパクトがあれば良いなと思いました。 小学校内の部活動のような設定について。 ミステリクラブとして学校の中に自由に使える部室がある設定ですが、小学校でこの設定は違和感です。中学生の部活動なら納得ですが、この設定は奇妙に映りました。もともと中学生のお話から小学校向けへと変わってしまったのでしょうか。あと、たまたまだと思いますがこの設定は青崎有吾の『体育館の殺人』という有名所と被ってしまっています。探偵役の名前も"天馬"で同じなので気になりました。 値段設定について。 これは版元の悩みになりますが、子供にミステリを楽しませたい気持ちは分かりますが、値段設定が1,210円(税込)というのは悩ましい価格設定です。講談社青い鳥文庫、角川つばさ文庫、集英社みらい文庫などの700-800円代の子供の為の価格設定を考えると、本書はちょっと商売っ気があります。児童書ミステリは他にも手ごろな価格で存在する中、本書がどこまで広がるのか気になる次第。可愛く今風なデザインにして本屋大賞にノミネートされるなど作品作りと営業販促は強そうなので本書がどのような立ち位置に行くのか今後の展開に興味を持った次第でした。 |
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