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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数239

全239件 101~120 6/12ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.139:
(6pt)

殺人作家同盟の感想

アマチュア作家サークル内での事件。娘に、もう少し外に出た方がよいよと促されて訪れたサークルで事件に巻き込まれてしまった主人公のボブ。サークル面々とまだ深い関係がないのをいいことに、客観的立場で事件の相談を受ける事になる。

主人公と読者の視点が合っており、怪しい容疑者達との関りが面白い。著者の作品に出てくる登場人物は個性とユーモアがあるので殺人事件であれど雰囲気が重くならないのが好みです。

ミステリとしては犯人当てになります。どことなく古典作品を思わせる展開であり、少し言葉が悪いですが古い印象。大きな展開があるわけではないですが、丁寧な古き良きミステリといった印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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殺人作家同盟 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ピーター・ラヴゼイ殺人作家同盟 についてのレビュー
No.138:
(6pt)

君は月夜に光り輝くの感想

難病・余命ものの恋愛小説。
死期が近づくと体が発光する発光病というものが存在する世界。余命わずかな彼女と青年の物語。
発光病という設定について何かしら意味があるかと言われれば余りなく、現実的に例えると癌と変わらない。本書は設定どうこう言ったり既視感を述べて比較するものではないと感じます。余命ものでよくある話と感じてしまうのですが、本書の良さは雰囲気というか話の流れの切なさがとても沁みる作品でした。

MW文庫で電撃小説大賞作品より。ターゲット層にとても合った作品です。発光病の扱いも映像にしたくなる要素です。
主人公が余命わずかな彼女の為に何でも実行してくれる流れはピンと来なかったのですが、最後まで読んで主人公の心情を知ってみると思春期の危うさ、儚さ、葛藤、など、複雑な心を感じられて悪い事は言えない感じになりました。

雰囲気や流れがとても綺麗なので、中高生に向けた余命ものの恋愛小説として楽しみました。
君は月夜に光り輝く (メディアワークス文庫)
佐野徹夜君は月夜に光り輝く についてのレビュー
No.137:
(6pt)

さみしさの周波数の感想

著者の切ない話を集めた短編集。
本作に収録されている作品は『未来予報』『手を握る泥棒の物語』『フィルムの中の少女』『失はれた物語』の4編。個人的に楽しめたのが『手を握る泥棒の物語』と『失はれた物語』の2作でした。
この2作は短編集『失はなれる物語』にも含まれています。この2作を読みたい場合は本書よりもそちらを手に取るとよいです。

著者はあとがきが面白く、そこには『未来予報』と『フィルムの中の少女』は生活の為に出版社から依頼されたテーマで書かれた作品であると書かれていました。まぁ、そんな気はします。面白くないわけではないですが、切ないテーマや怖いテーマを感じる事もなく、綺麗に描かれたシーンはありますが重苦しい読書でした。あまり心に残りませんでした。

以下は、『手を握る泥棒の物語』と『失はれた物語』の感想を。

▼以下、ネタバレ感想
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さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)
乙一さみしさの周波数 についてのレビュー
No.136: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

そして、君のいない九月がくるの感想

ベースはひと夏の青春小説。そこに幽霊+プチミステリを加えた感じ。表紙買いでしたが中身は印象と違いちょっと重かったです。感動する評判を聞いていたのですが、個人的には総じて喪失感とやるせなさが纏う雰囲気でして、読後の気分は曇り空と言った所。

物語は仲良し5人組の中で一番のエースであるケイタが死んでしまった所から始まります。
残りの4人の喪失感がすさまじく、5人の人間関係の事、ケイタに言えなかった事、知りたかった事、後悔の気持ちが立ち込めています。そんな時に生前仲が良かった人にしか見えないというケイタにそっくりな幽霊が現れ、ケイタの最後の願いを叶えるべく皆で亡くなった現場となる山へ向かう流れとなります。

設定が巧いなと思った所として、幽霊は物理的なものを透かしてしまう為に電車に乗れない事。目的地へ向かうのに歩いて行く理由が出来ているのが巧いです。4人が歩いて向かう中でそれぞれの想いが独白されます。何となく恩田陸『夜のピクニック』を感じる流れです。構造は面白く読めました。

内容はよくあるような青春模様で可もなく不可もなくと言った所。後半のケイタの願いにおける真相は驚きましたがちょっと急展開過ぎるかな。そうきたか!という驚きや納得ではなく、なんか辻褄が合わないような疑問が増えてしまいモヤモヤ。世の評判通り最後は綺麗にまとまってはいますが、事実となる結果を想像するとやっぱり悲しいものではないでしょうか。ちょっと好みに合わずでした。

▼以下、ネタバレ感想
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そして、君のいない九月がくる (メディアワークス文庫)
天沢夏月そして、君のいない九月がくる についてのレビュー
No.135: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎の感想

閻魔堂沙羅の推理奇譚の第5弾。
相変わらずの読みやすさと安定した物語で面白い。。。のですが、今回は厳しめでこの点数。
正直な所、第1弾で楽しかったミステリ要素はもうないですね。テンプレート化した話の流れが悪いわけではないですが、ミステリとしての伏線やら社会的メッセージなどまったくなく単純な他人のドラマを読む小説になったと感じました。良く言えばサクッとライトに楽しめる。悪く言えば中身がないです。心に残る何かがありませんでした。
1話目、2話目とも、推理ではなく、思いつきでかつそれが正しい前提で解決していきます。手がかりや謎もクイズ問題みたいで新鮮さは皆無。読んでいて新しい刺激を得る事がなかったです。

登場するキャラクター達の意識の高さは良くて好みですが、他のエピソードと被ったキャラ造形で新鮮さもない。
例えば本書3話目の土橋昇と2巻3話目の浦田俊矢は同じ社長設定で思考がほぼ同じで書き分けが感じられないです。2巻目はこの性格も含めて意味のあるストーリー展開でしたが、今回は必要性が特になく、なんとなくさを感じます。

刊行ペースが速いのはドラマ化など狙って話数を増やしているのかなと感じてしまいます。ミステリ要素はどんどん薄味になっているのは残念ですが、個々のストーリーは面白いのでそこは作者の手腕で見事。メディア化狙いや売り上げの為に量産が大事なのは今の出版状況から察する所ではありますが、著者には内容の濃いデビュー以降の代表作を作り上げてほしいなとも感じる次第でした。もっと面白い作品ができるはずと期待します。

▼以下、ネタバレ感想
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閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎 (講談社タイガ)
No.134:
(6pt)

君の色に耳をすましての感想

学園青春小説+プチミステリ。
主人公は共感覚にて相手の声から発言の感情が読み取れる。それが嘘だったり、後ろめたさだったり、怒りだったり、遠慮だったり。相手の本音が見えてしまう為、人の顔を見て話す事を避けている。そこへ言葉が喋れない女の子と芸大課題の映像制作をする事になる流れ。

著者作品3作読みましたが、どの作品も青春の1コマを綺麗に描きます。本書は芸大が舞台。変態の先輩に付き合わされての映像制作。でもそれが嫌じゃない立ち位置。声の出ない女の子との出会い。主人公の内面の感情。などなど青春模様を楽しみます。中盤まで学生生活が続くので青春小説の印象が強いです。終盤でミステリ的に事件やまとめに入るのは毎回の事で面白い。ただ終盤に期待する作品でもないです。主人公と女の子の物語。結末も綺麗にまとまるのは好みでした。

余談。
やはり1作目が抜きん出ている。2-3作目は最後で楽しい。1作目のように序盤からイベントや盛り上がるポイントを散りばめれば2-3作目もより良くなり人気がでそうなもどかしさを感じます。全作品文章は綺麗で青春模様や結末の作りも好き。次の作品早くでないかな。
君の色に耳をすまして (メディアワークス文庫)
小川晴央君の色に耳をすまして についてのレビュー
No.133:
(4pt)

IQの感想

アイゼイア・クィンターベイ。通称IQ。探偵役となるこの黒人青年は非常に魅力的でした。一見冷めた性格のようで内情は熱い一面もある。彼の行動を読む所はとても楽しめました。
個人的に馴染みのない黒人社会が描かれており、会話テンポのノリやラップ調なども含めて新鮮な世界観でした。ただ、文化的内容と事件が密接に絡んでくるかというとそういうのではないので、事件外の内容が楽しめるかが好みの別れどころかと思います。自身があまり興味を持てなかったのでノイズに感じたり頭に入らなくて楽しみ辛かったです。
シリーズ化を狙った1作目の為か、主人公の過去や伏線的に気になる内容が未解決で幕を閉じているのも気になるところ。1作で完結しているものが好きなので、色々と好みと逸れていた作品でした。
IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョー・イデIQ についてのレビュー
No.132:
(6pt)

女王ゲームの感想

著者作品は初めての読書。デスゲームなのに非常にサッパリした作品。
命のやり取りなのに鬱屈さはなし。どちらかというとギャグ・エンタメ寄り。頭脳・心理戦も軽い感じです。
だからと言って物足りないわけではなく、これはこれで面白い物語。設定がどうこう言うのではなく物語のテンポと展開を楽しむ感じでした。

デスゲーム内容は非常にシンプル。誰もが知るババ抜きです。ルールで読者が置いてけぼりになる事はありません。イカサマありのババ抜き。勝てば大金、負ければ死。この設定ですと、相手との頭脳戦や心理戦を楽しむ話かなと思う所なのですが、ゲーム内容の描写はほとんどなくパパっと決着がつきます。攻防に期待すると肩透かしをくらいます。なのでゲーム内容を楽しむというよりゲーム参加者の物語が見所になります。なぜゲームに参加するのか。各々の目的は何なのか。そこが見所です。

"女王ゲーム"の名前通り、女性側がなかなか個性的で良かったです。特に主人公の恋人役の今日子が面白いです。この子が関わると何が起きるのか。どう話が進むのか。そっちの方が気になって楽しみました。

デスゲーム系は好みで、著者作品はサクッと読める事がわかったので他の作品も手に取ってみようと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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女王ゲーム (文春文庫 き 37-1)
木下半太女王ゲーム についてのレビュー
No.131: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

アリバイ崩し承りますの感想

アリバイ崩しに特化した7つの物語の短編集。
200ページ台の本なので1話辺り30ページ程度。サクサク読めます。

本書は、著者の特性と時代の隙間産業的な戦略が見事にマッチした作品というか商品に見えました。
どういう意味かと言いますと、まず著者の作品は物語よりもトリックや仕掛けが主立っている傾向にあります。30ページ代の短い短編の中には、登場人物の紹介は無し、動機や舞台背景もなし、事件と容疑者の状況説明が書かれたシンプルな問題文章。そして、隙間産業というのはアリバイもの小説が近年減っているというかほぼない状態である事。そんな市場でアリバイ崩しに特化させた作品を世に出したタイミングが巧いと思いました。

さて、個人的にアリバイもの作品は好みではありません。
時間軸における登場人物の居場所を把握したり、数分程度の時間を頭に入れて読むことを求められるので疲れるのです。一昔前の時刻表トリック含む、アリバイを扱う作品ってなんだか古臭いイメージがあるのです。
ですが本書の良い所は、アリバイものが把握しやすい短編であり、短編なので著者のトリック主体が活き、さらに探偵役は女の子となっており、ラノベ風...もとい現代風になっていて読みやすい事。ここは好感です。

…という具合でして、難を敢えて言うとトリック集です。深みを感じたり強烈な驚きを与える事はありません。解答編も推理ではなく答えを直接提示される感覚です。人によっては物足りなく感じると思います。ここらへんが好みの別れどころになります。個人的に印象に残る作品がなかったのが残念。
アリバイ崩し承ります
大山誠一郎アリバイ崩し承ります についてのレビュー
No.130:
(5pt)

ロジック・ロック・フェスティバル 探偵殺しのパラドックスの感想

学園ミステリ。
正直な所、これと言った特徴がなく感想が書き辛い。可もなく不可もなくという所。
主人公+男+女2の仲良し4人組が文化祭の実行補佐に命ぜられ学園の事件を解決する話。
仲良しメンバーの女の子、"鋸りり子"は元名探偵。なぜ元なのかといった名探偵を辞めた過去のエピソードや主人公との関係性が紹介されます。本作はシリーズ化を狙った1作目として登場人物達の紹介を兼ねていました。

物語の中盤を過ぎてからメインの事件が始まります。皆で事件を解決しようとする推理合戦が展開されるのが見所。最後に導き出された真実によるカタストロフィもなかなかです。
学園もの新本格ミステリとして気軽に楽しめる作品でした。ただ、何か印象付ける個性が欲しかったです。

▼以下、ネタバレ感想
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ロジック・ロック・フェスティバル  ~Logic Lock Festival~ 探偵殺しのパラドックス (星海社FICTIONS)
No.129:
(6pt)

終わらない夏のハローグッバイの感想

非ミステリ。青春SF小説でした。
書店で積まれて目に止まったのと、広報・帯で泣ける!という宣伝につられて購入。
中身はそういう泣ける話ではなかったので、期待と結果がそぐわない過剰な広告で残念な気持ちを得つつも、物語は面白かったのでそういう本との出会いもいいかなと思う。表紙綺麗ですね。

物語は人間の神経と直結して五感を再現できるデバイスが存在する世界。空間上に配置された物体はそこにあるように見え、触れるし、食べれるし、味も再現可能、そのように脳が認識する。その原理となる説明も大規模演算するのではなく、入力と出力のデータベースを用いて再現しているだけという近未来でできそうな設定も巧い。ほんの少しだけの近未来という感覚がよく、舞台となる現代の街の漁港と重なってもそんなに違和感なくイメージできました。舞台作りはとても良いです。
一方、SF・ゲーム・アニメ的な感覚がないと、文章を読んでもスフィヤやデバイス操作など細かい表現はないので、想像し辛い内容であると思いました。アニメ映画で見てみたいです。

本書、実は恋愛ものではなく、〇〇物だったという流れは帯とは違うじゃん!という気持ちでいっぱいなのですが、ここ数年における世界の流れに合った作品ともいえます。夏の物語の定番は、主人公の成長物語。出会いと別れ。今とは違う所への旅立ち。これらの要素が近代SFのオリジナルな世界観でうまく描かれ楽しめました。

▼以下、ネタバレ感想
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終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)
本田壱成終わらない夏のハローグッバイ についてのレビュー
No.128:
(4pt)

首無館の殺人の感想

表紙の雰囲気とタイトルは抜群に良いです。世のミステリ好き読者を釣り上げる事間違いなし!と感じます。
中身は、、、好みの問題でちょっと名前負けしている気がしました。
読後に知りましたが本書は『使用人探偵シズカシリーズ』2作目でした。シリーズという事はあえて隠している気がします。知らずに本書から読んでも問題ありません。

切断される首の謎というのはミステリのテーマとして興味津々でした。
定番の首切り理由の数々を挙げながら何処に着地するのかがミステリとして楽しめました。
探偵役のシズカはアクが強く、犯人が首を切りたいなら首が切れないように対策しましょうとか、身元を隠すのが目的なら予め皆の顔を潰して犯人を困らせましょう、という具合に、ぶっ飛んだ発言をするのが面白い。あえての極論を提示しているのはわかります。既存の首無しミステリとは違った個性を感じました。
本書の特徴として感じたのは、犯行現場から真実をロジカルに解決するのではなく、犯人の次の手を予想し、対策したり犯人を挑発したりする点。この探偵は連続殺人を前提に話を進めており、場違いな傍観者をとても感じました。その為、読んでいて館の連続殺人にドキドキするような緊迫感はなく、他人事に感じる作品で惹きこまれませんでした。

真相の首無しテーマについては面白い所を突いてきて良かったのですが、そこに至るまでの全体像が把握し辛いのが難点。場景や登場人物が分り辛い為、もう少し読みやすくする為に、館の見取り図と登場人物一覧は欲しかったです。また、舞台となる1800年代に合わせてか、回復⇒恢復 という具合に難しい漢字を使い、人物名も読み辛くなっています。ページ後半では慣れかもしれませんが現代語に感じる為、序盤の読み辛さが緩和されて内容の把握がしやすければ、もっと作品に惹き込まれると思いました。
過去に著者の『月光蝶』を読んでおりますが、その時の読みやすさが本書では感じられなかったのが残念でした。

▼以下、ネタバレ感想
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首無館の殺人
月原渉首無館の殺人 についてのレビュー
No.127: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

最後にして最初のアイドルの感想

表紙で驚かれるが星雲賞受賞作。ハヤカワからの出版作品。かなり癖があるが読んだら納得の個性が光る作品でした。
Amazonの電子書籍で話題になり、SNSで拡散され大いに注目された作品。内容もアイドル・アニメ・ソシャゲ・声優といった現代のオタク文化をベースにSFの広大な世界へ悪乗りしながら融合させ、想像しえない飛んでもない結末へ物語を展開させていきます。
現代的な内容・ネット拡散が巧く働いた作品ともいえ、今風なSF作品が世に出るきっかけを感じました。

何だか話題になっているという情報を得て、予備知識なしの読書。
アイドル活動から始まるが、20~30Pからまさかの急展開。ネタばれ控えて言えませんが、ん?これホラー?グロ?化学もの?え、SF?あ、跳躍系?ん?どこへいくのこの話?っていう感覚で跳んでいきます。予備知識なかったので、この本が何なのか不思議な読書体験でした。
なんだか読みながら、そもそもSFってなんだろう。なんて考えていました。科学技術や生物学やら宇宙やら環境がそうさせるのか。用語が難しかったらSFを感じるのか。ジャンルの定義の曖昧さを感じながら、物語は駆け抜けていきました。
ま、内容のベースはオタクネタなんです。本書は短編3作ある作品集なのですが、『ラブライブ』や『けものフレンズ』や『マクロス』とかそういうのを感じる中で、SFネタを融合させていきます。で、文章のテンポが非常に良いので、何だかおかしい気がするけれど、その変な所を考えさせないように、どんどんネタを投下して場面転換する剛腕が凄く巧いのです。

この本の楽しみ方は、SFは知らないでよく、アニメネタが好きで2次創作で突き抜けてしまった本書を一人で読んで刺激を受け、他に読んだ人がいればその人と、変だけど凄いよね。と共有して仲間を見つける、そんな体験本です。面白い漫画やアニメや映画やゲームを体験したけど、ちょっと人には言えない、だけど同じ人と出会えた時に嬉しくなる。そんな感覚の作品。
アニメネタに全く興味がなければ、SFネタだけ映し出され、それだと過去のハードSFであるような結末じゃん。という結論で終わってしまいます。まったく関係なさそうなアニメネタを過大解釈してSFと融合させる物語作りを楽しむ本かと思いました。
また、先に書きましたが、ジャンルについては広義のSFやら広義のミステリやらで、現代の出版作品は他ジャンルの融合で壁はなく、面白いかどうか、そして今の時代で売れるか。という事が昔からですが改めて感じさせる。そんな事を思いました。

3作品それぞれの点数は
『最初にして最後のアイドル』☆8。
『エヴォリューションがーるず』☆6。
『暗黒声優』☆4。
という感じでした。
最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)
草野原々最後にして最初のアイドル についてのレビュー
No.126:
(6pt)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニットの感想

閻魔堂沙羅の推理奇譚の第3弾。
相変わらず面白いのですが今回は厳しめでこの点数にします。

まずミステリとしての感想ですが、すべての手がかりが提示されてはいるのですが、主人公達の突飛な発想を前提とした論理展開である為、納得し辛いものとなっています。1巻では、読者と主人公の頭の中の手がかりの準備と、その手がかりを元にした推理展開がとてもシンクロしていたのですが、本作は読者置いてけぼりで推理している事を感じます。読んでいて一緒に考えるのではなく、解答を眺める物語となっています。作品と読者の距離感がとても離れていると感じました。突飛な発想とはいえ、神の視点となる沙羅に正解が与えられればそういう物語なので納得せざるを得ないのですが、スッキリしません。複雑な謎を作り上げようとした気がしますが、これじゃない感がとても感じる物語でした。

ドラマの内容について。著者の思想がとても強くでています。登場するキャラクター達に政治や社会の考えを代弁させたセリフが多すぎます。2巻の『負け犬たちの密室』で登場した浦田も同じ傾向でしたが、このキャラクターは世間を見下した自己が確立した人物だったので、社会へのメッセージや思想多きセリフも浦田の改心へ繋がる物語として役割を果たしていて意味を感じましたが、本作の場合はただの著者の想いの発散の為、謎解きのノイズに感じました。必須ではない文章が多くカットしても問題ない所が多いです。1巻のように些細な会話が解決の手がかりとなるような無駄のない文章で謎を解き明かす品質を望みます。

本作品集の中では最初の『外園聖蘭』の章が面白く読めました。表題含めた他の作品は煮詰まってなくて複雑で長い物語に感じてしまいました。
2巻から続けて作品を書き続けているのでしょうね。物語の文章の流れの傾向から筆がのっている感じはとてもします。
何だかんだ不満を溢しましたが、総じては面白いので次回作も楽しみです。
閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット (講談社タイガ)
No.125: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

毎年、記憶を失う彼女の救いかたの感想

2017年のメフィスト賞受賞作。
毎年記憶を無くしてしまう女性の元に現れた謎の男性からゲームを持ち掛けられる話。

恋愛ミステリとしてのキャッチフレーズの本書。ミステリ仕掛けを多少期待するわけですが中身は終始恋愛小説でした。
正直な所、記憶喪失モノの恋愛小説としてみた時、世の中たくさんあるこの手の中で本書の特徴的な要素は見当たりませんでした。小説や映画やゲーム等で思い浮かぶ先行作品を超える点がないので、結末も予想の範囲内で収まりました。たまにある講談社系ミステリの帯コピーって、タイトルと帯とジャンルから結末が読めちゃう下手さがありますね。売る為の帯文句なのはわかりますが、読んだらそのままだったという刺激がないです。売れるかもしれないですが、読者へ印象が残りづらいので、作品の評価が上がり辛い勿体なさを感じます。
一応良いと思う点としては文章が非常に軽いライトな小説です。小説を普段読まない読者層が手に取るには丁度良いかと思います。内容も分かりやすく読みやすいのは好感でした。
余談ですが、メフィスト賞の出版が講談社ノベルスではなく講談社タイガへ移っているので若者向けへ傾向を変えているのを感じました。
毎年、記憶を失う彼女の救いかた (講談社タイガ)
No.124:
(6pt)

断片のアリスの感想

ログアウト不能のVR空間。仮想空間には存在しないはずの痛覚が発生し、閉じ込められた館内で殺人事件が発生。
現実世界は災害により退廃し、仮想空間内で暮らす近未来のSF模様。ログアウト不能により状況の手掛かりを得る為に館まで向かう話は冒険ファンタジー。たどり着いた館内での事件はデスゲーム+ミステリ。と言った具合に色んなジャンルが展開します。
ここは好みの分かれ所だと思う点で、多ジャンルが読めて好きという人もいれば削って内容を濃くした方が良いと思う人もいるはず。私は後者。館まで向かう前半は必要ないのでは?制作途中で物語の方向転換をしたのかなという印象を受けました。設定が繋がっておらずバラバラな印象です。
VR空間内のルールが不明なのでミステリとして読むのも難しい。殺人で返り血を浴びたとしてもアバターの着せ替え機能でクリーンニングできる為犯人が特定できないなど仮想空間を利用した設定は面白いが、こういったゲーム感覚を知らない人はチンプンカンプンかと思う。場面の想像がし辛い文章なので個人的になんとなく『ソードアートオンライン』『不思議の国のアリス』、その他デスゲーム、バトルロワイヤル系の作品の景色を頭に浮かべながらの読書でした。

300P台の本中、200P過ぎるまでしっくり来ない作品でした。ですが終盤の結末は見事。この結末を最初に構想してから本作を描いたのかなと思うぐらいよく出来てます。SFやゲーム作品で結構見慣れておりますが、終わりよければ印象良しという作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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断片のアリス (新潮文庫nex)
伽古屋圭市断片のアリス についてのレビュー
No.123: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

博識な深水黎一郎作品と、お茶目な深水黎一郎作品の2編が納められた中編集。

1作目『ドン・キホーテ・アラベスク』はあらすじ通りバレエを舞台とした作品。過去作の芸術ミステリ同様に、得意のフランス語を含めたバレエの知識を得ながら楽しめた作品でした。著者の勉強にもなるミステリは毎回面白い。シリーズキャラクターも交えて良い感じ。明かされた真相も気分の良いもので好み。短編作品+バレエ知識で中編ボリュームの作品です。
2作目は前知識なしで読んでもらいたいので、あらすじは割愛。

ふと、1作目と2作目、どちらのネタを先に思いついたんだろうと思う。2作目かな。中編集と言えどこの2作は2つで意味を成す体裁を得ている。それぞれ単体で見ると、そこまで際立ったネタではないと思う。ただ、2つ合わせる事で効果的に活用されている。こういう意味のある使い方は本当に巧いと思う。

ま、後は好みのお話なので、個人的には楽しめたけど、読みたい気分の内容とは違った作品だった次第。
バカミスは好きなんですけど、本格ミステリを読みたいと思って手に取るのと、バカミスを読みたいと思って手に取るのでは印象が異なる。今回はタイミングが悪かった模様。面白くて良い意味でくだらないwって感じなんですけどね。
と、なんだかんだ言っても質が高いのは流石です。

あと、著者はとてもお茶目で楽しい人なんだろうなっていう印象が本作ではとても感じました。ある種、本作はテーマをもった作品ではあるのですが、それよりも著者の人柄をよく表している作品であると感じました。勝手な想像ですが、自己紹介本の感覚で、どんな作品を書く人ですか?と尋ねられたら、本書を渡して、真面目な所とお茶目な所を感じてもらうような作品。そんな事を思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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虚像のアラベスク
深水黎一郎虚像のアラベスク についてのレビュー
No.122:
(6pt)

僕と彼女の左手の感想

これはとてもピュアな青春恋愛小説。なんというか眩しい。悪意がまったくない作品でした。
登場人物は主に男女2名のみ。過去のトラウマで医者の道を諦め悩む医学生の男性と、右手麻痺で左手だけでピアノを演奏する女性の恋物語。

著者の本は初読書。『このミス』大賞出身作家さんで、同賞のピアノを題材した作品群より、浅倉卓弥『四日間の奇蹟』や中山七里『さよならドビュッシー』を深層心理で感じながらの読書でした。読み終われば、これらとは違う位置づけにある作品であり、内容は「恋愛要素8:ミステリ2」ぐらいで、音楽+恋愛小説を求めている方にはアリな作品です。

序盤の率直な感想としては恋模様の展開が早すぎ!出会って直ぐにあれよあれよとデートして心惹かれてと純情過ぎる事に違和感。急展開に感じるのは、女性の行動力に対して主人公の反応が冷静過ぎて読者と気持ちがリンクし辛い為、話の先行だけが目立ちました。
主人公も女性の行動に驚いて読者と共感すれば違和感ないのですが、彼も驚いたりする事なく『翻弄されてばかりだな…… 』と冷静に呟いて、この展開が普通な世界なのかと話の先行が目立ちました。
ただ、終盤でのまとまりは巧くて納得するので、そこまでの道をもう少し違和感なく進むと良かったのにと思いました。

話は綺麗に終わるので、1つの恋愛物語として楽しめた作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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僕と彼女の左手 (単行本)
辻堂ゆめ僕と彼女の左手 についてのレビュー
No.121:
(6pt)

設定や主人公達の想いは好みなので次作に期待

死ぬ人が分かる少女と、その能力を参考に人を死なせないように行動する僕のお話。
コンセプトとなっている"人を死なせないようにする"という作品が珍しいかというと、ループ物作品にて多くあるのでこの設定自体は真新しいものではないのですが、能力設定は面白い。人が死に近づくにつれて顔にモザイクが濃くなっていくというのはミステリ仕掛けを色々期待できます。今すぐは殺される心配はないとか。直ぐに助けなくてはいけないとか。活用方法は多いでしょう。ただ本作については期待する仕掛けの作品という趣向ではなく、設定や人物紹介の割合が多い為、ミステリとして読む本ではなく青春小説という印象を受けました。
過去に起きた学園での転落事件の検証も推理というより、関わっていた人達の心理を告白し受け止めるようなお話です。ハヤカワ出版なのでもっとミステリした物を期待してしまった気持ちでした。死なないミステリである為か全体的に緩い雰囲気ですが、次作にて、死までのタイムリミットの緊張感や、舞台の性質を活かしたり、事件の真相も推理により導かれるような作品を読みたいと思いました。志緒と僕のキャラクターは好きなので、このコンビによる次作の活躍を期待します。
誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)
井上悠宇誰も死なないミステリーを君に についてのレビュー
No.120:
(4pt)

空ろの箱と零のマリアの感想

学園ループもの。シリーズ作品ですが続巻へ続く事なく本書単品で楽しめる作品です。
本作の特長はSFではなくファンタジー寄りのループ作品。
何でも願い事を叶えてくれる『箱』が存在する世界で、誰かがループ世界を実行している。表紙に描かれている転校生の音無彩矢が転校してくる日に閉じ込められた生徒の物語で、序盤は何故ループしているのか?何が起点と終点となっているのか?の謎を感じつつ、ループの世界に閉じ込められ何をしてもうまくいかない定番の失意を味わいながら物語は進行します。
世界の枠組みの謎がキーとなりますが、正直な所そのネタを楽しむ為には複雑過ぎるというか、理解し辛いのが難点でした。『箱』の存在が何でもありに感じられるとルールは意味がなくなる為、没入感は消えてどうでもよくなったような気持でした。

▼以下、ネタバレ感想
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空ろの箱と零のマリア (電撃文庫)
御影瑛路空ろの箱と零のマリア についてのレビュー