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bamboo さんのレビュー一覧
bambooさんのページへ| 書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点6.04pt | ||||||||
レビュー数48件
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ここ最近読んだなかで抜群に良作でした。
設定は核シェルターに閉じ込められた主人公を含めた四人の男女。誰が閉じ込めたかはわかっています。三か月前に死亡した女性の母親で、彼女は娘の死が四人の誰かによるものと確信し、睡眠薬を盛って閉じ込めたのでした。警察は車ごと海に落ちたことによる事故死と断定した。だから殺人のはずがない。そう思っていたはずの主人公たちですが、あの日何があったのか推理していくクローズドサークル・ミステリです。 近年評判をかっ攫った方舟と似たシチュエーションだと思いました。評価したとおり私は本作のほうが好みです。三か月前の嫉妬やら浮気といった人間の醜さのリアルな表現、閉じ込められた核シェルターから脱出を試みる足掻き、共に災難に見舞われたと思っていたはずの四人のうち誰かが殺人犯ではないのかという疑心暗鬼なと、丁寧に描写されています。なにより解決編の驚愕。見抜けなかったことに脱帽でした。 オチは方舟とまったく対照的です。まだ両者とも未読の方は二作とも読んで比較していただきたいです。 |
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ファイロ・ヴァンスシリーズの二作目。
カナリアというあだ名を持つ女優が部屋で殺害され、例によってヴァンスが、心理学的推理によって犯人を導く作品です。 警察を悩ませたのは現場が密室だったから。死体現場の家に入るには、電話交換手の目が光っており、証言によると家を行き来した人物はなし。裏口の扉は、アパートの管理人が鍵をかけており、死体発見時はしっかり鍵がかかっていた。 電話交換手の証言により浮上する容疑者たちを、ヴァンスが推理していきます。 魅力的な謎に思えましたが、真相はやっぱりなという感じでした。ただ、他の作品と違って、珍しいと思える点が幾つかありました。ヴァンスが指摘したポイントが、内容をよりミステリアスにさせていて良かったです。 途中、容疑者のうちの一人にヴァンスが心理学的アプローチで聴取する場面があり、そこなどはヴァンスのキャラクター性が活きていたシーンだと思いました。 でもどうせなら、たとえばヴァンスが得意とする心理学的罠にかけて犯人を追いつめてよかったかなと。 本作もいつかもう一度読んでみて復習しようと思います。 |
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数年ぶりに読み返しました。
推理小説作家のアリスと、探偵を務める臨床犯罪学者火村英生シリーズの記念すべき一作目。二人の漫才のようなやり取りがおもしろく、文体も七割ほど軽妙であり、なかなか読みやすかったです。 肝心の密室については、他のレビュアーさんの意見どおり、平凡で使い古されたトリックであり、タイトルとは裏腹に拍子抜けでした。このストーリーのメインは、物理トリックではなく、なぜ被害者を殺したのかに力点が置かれていたように思います。その"なぜ"に関わる伏線も、やや強引な気がします。 それと、私が一番釈然としなかったのは、プロローグの描写でした。 冒頭起こる火事の描写が、この物語の核心に触れるかと思いきや、あまり関係なかったのがマイナス点です。火村の助手、アリスが、見当違いのミスリードをするために必要な描写だとは思うけれど、わざわざプロローグに持っていくほどのことかなと。 以前にレビューしたブラジル蝶の謎よりはおもしろかったですが、やはり今作も平凡な話の印象です。 |
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裁判所書記官の青年を主人公とする、SFと法廷モノを掛け合わせた作品の本作。主人公は、父親が犯罪者だという触れられたくない過去を持っていました。ある日、タイムスリップして現在と過去を行き来し、もしかしたら冤罪の疑いのある父親の無実を証明しようと、奮闘する物語です。
かなり凝った内容だなというのが第一感想です。タイムスリップの条件、過去を変えれば未来が変わること等々、頭がこんがらがる内容に感じました。何度か読み返さないと物語が細部までわからないかなと、そのくらい複雑な内容でした。 文章は読みやすかったです。一文が簡潔、余計な文章が少なく修飾語も控えめでした。作者さんが弁護士のためでしょうか、文章が堅く、無機質な印象を受けました。 主人公のキャラクターも高評価です。裁判所書記官という、小説であまりフォーカスされないキャラを主人公に据えるユニークさ、主人公が法曹関係の仕事に就こうと思った動機のおもしろさなど、なかなか良く描けてます。裁判の雑学が所々で書かれていて、勉強にもなりました。一回の公判が意外と短いこと、被告人に偽証罪は適用されないことなど、新しい発見がありました。 一方で、過去にタイムスリップして行なったことが現在に影響するというのが理解が難しかったです。タイムスリップして過去をやり直したことが未来に影響を与えたとしても、現在は変わらないのではないかと。過去に行ってやり直しして、現在に戻ると、主人公は一人暮らしのはずなのに彼女と同棲していたり、読んでいて頭がこんがらがること請け合いです。さらに、物語は複雑になっていき、父親に無罪判決が出たら別の悲劇が待っているので、またやり直そうとしたり、他にもタイムスリップする人が現れたり、、、。 SF好きだからと安易に手を伸ばせるタイプではないです。賢い人が頭の体操として描いてみたという感じです。物語を理解できるのは、同じく賢くて作者と波長の合う読者。 一回読んだだけだと評価は低めですが、二度読みして細部まで理解できれば、もう少し評価は上がるかもしれません。 |
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この作者さんの本を読むのは以前にレビューした『スイッチ』に次ぎ二作目となります。発表は三冊目。『時空版』はおもしろそうな内容なので、先に本作を読んでみました。
本作もテーマは興味を惹かれました。他界した作家である姉の遺作が、自殺肯定派に利用され、自殺肯定派VS主人公である弟含めた否定派が討論したりする内容から始まり、ミステリ色を帯びてきたりします。目新しいテーマなので、どんなふうに物語が展開しておくのかワクワクしながら読んでいきましたが、、、。 感想は見出しどおりです。肝心の自殺肯定派VS否定派の討論が、空虚に感じられました。話を早く展開させたいからか、あっさりしていた、というか空虚な議論だった、というか。自殺否定派の意見が一つしかなく、それもかなり低レベルに思えました。 もちろんジャンルはミステリなので、そんな議論は些末だからいいじゃないかという意見もあるでしょうけど、少しずつ期待が萎んでいきます。 それに、スイッチのときにレビューしましたが、文体が性に合わなかったです。軽い文体がラノベ感があって残念でした。 とあるトリックは高評価でした。新型コロナを話題に出さなくてよいというアマゾン評価がありましたが、とあるトリックが、主人公が真相に至るキッカケともなっていて、必要な要素だったと思います。コロナによる若者の苦しみも、まあまあ上手く書いてあり、メッセージ性があって良かったです。 けど、読み終わって脱力しました。警視が出てきたり、しかもその警視がリアリティないキャラクターで突飛だったり、いろいろと好みに合いませんでした。 |
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主人公の青年、成瀬純一はある日、事件に巻き込まれたことをキッカケとして性格が変容します。かつての穏やかで優しい性格が徐々に凶暴化していき、彼に何が起こったのかわかっていく物語です。
『変身』というタイトルですが、某作品と異なり主人公の姿形は変わりません。変わるのは性格と嗜好。かつては絵を描くのが好きだったはずが絵に興味を失い、乱暴な男に変容するのです。徐々に性格が変わっていく描写や、残虐な描写など、とても惹き込まれました。初めて読んだたとき、とても怖い内容と思いました。今回再読したときも感想は同じで、東野圭吾の全作品のうち半分くらい読んできたなかで、ホラー要素がピカイチだと思いました。 要素としてはSF2:ミステリー1:ホラー7といった感じです。メインは成瀬に何が起こったのかという謎を基に物語が進行しますが、種明かしの前に察する読者は多いと思います。同氏の『分身』同様、わかりやすい謎だなと思いました。分身同様、科学者の好奇心が恐ろしい事態を招く物語です。 本作は初期に出版されたもので、今と比べると後半の荒削りな描写が少し目立ちました。完全に異常犯罪者となった青年の逃避行がドタバタしていて、最後の最後まで丹念に描写してほしかったのがマイナスポイントでした。 文章力はさすがで、特に主人公の思考が変容していくさまや、一人称の変化など、高ポイントな面も多いです。 作者の関心事である脳の原点だろう本作、久しぶりに怖さを堪能できてお勧めです。 |
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『皇帝と拳銃と』に次ぐシリーズ第二弾である本作。前作と話の繋がりはないので、本作から読みはじめても問題ないないです。
このシリーズは、刑事に追い詰められる犯人視点で物語が進む倒叙形式です。衝動的だったり計画的だったり、いずれにせよ上手くやり遂げたはずの犯行がどう見破られるのかが注目ポイントでしょう。 シリーズを通しての主人公役を務めるのは刑事二人。現実の刑事とは人物像がほど遠く、一人は死神のような容貌魁偉、もう一人はアイドル並みにルックスの良い刑事で、かなりユニークな設定かと思います。死神のような見た目の刑事が上司で、彼を表す文章は様々、死神だったりゾンビだったり、葬儀に参列する弔問客に喩えられます。そんな刑事から追及されるので、犯人の穏やかならぬ心情が伝わってきます。 ただ、本書も前作同様短編集なのですが、どの章においても刑事を死神と喩えており、幾分退屈になってきます。表現を変えども、死神のような奇妙なルックスという読者のイメージは変わらないだろうから、少しくどいと思いました。また、どの事件においてもパターンが似通っていて、退屈に感じさせる要素の一つです。 犯行→犯人への聞き込み→第三者Aへの聞き込み→犯人への聞き込み→第三者Bへの聞き込み→犯人への聞き込み、、、が続くのです。 本シリーズにおける見どころの一つが、死神刑事(名前は乙姫というこれまたイメージギャップを狙った名前)が、犯人に最初に会った瞬間から目をつけていて、どこが見破られたポイントだったのが物語の最後に明かす形式なので仕方ないにせよ、刑事二人が事件の謎に直面し苦労する描写がないので、これも退屈にさせる理由でした。 本作に収録してあるのは『愚者の選択』、『一等星かく輝けり』、『正義のための闘争』、『世界の望む静謐』で、なかでも表題作に関しては犯人を特定した論理的推理、あっと思わせる伏線回収が上手だと思いました。ただ、残念ながら総じて凡作の域は出ず、☆5という無難な点数となってしまいました。 ところで、それぞれの章ごとのタイトル、なかなかオシャレで好みでした。解説を読んで知ったのですが、前作を含めて本作も、それぞれのタイトルが、おるものを指しているのだそうです。 だとすれば、続編が出る可能性が高いとのこと。次のシリーズ作品が出たときには、かなりエッジの利いた変化球を期待したいです。 |
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田舎町で起こった少女の死を出発点として物語は始まります。殺されたのは都会から越してきた少女、エミリちゃん。
4人の友だちとプール際で遊んでいたところ、男に声をかけられます。困っているから誰か一人、助けてくれないか。エミリちゃんが指名され、時間が経てど戻ってこないことを心配した一人が見に行くと、変わり果てた姿のエミリちゃんが、、、。 かなり胸くそ悪い事件で幕を開け、湊かなえらしい作品と思いました。物語の本筋は、エミリちゃんを連れ去った男を目撃した四人の少女ら、彼女らがエミリちゃんの母親から償えと言われ、その後どういう人生を選んだのか。 第一作の『告白』同様、視点人物の台詞や手記形式で物語は進みます。 四人の少女には、すべて不幸が訪れます。そのなかにも胸くそ悪いエピソードが豊富で、イヤミスの女王と呼ばれるだけのことはあります。なかでも『くまの兄妹』は、かなり後味が悪い話でした。 そして最後、エミリちゃんの母親視点の語り。ここが一番の見どころです。都心から田舎へ、仕事の都合で引越し、地域ギャップにより周囲と馴染めない葛藤、娘を無惨にに殺され発狂した心情などなど、丁寧に描写されていました。と同時に、なぜエミリちゃんが狙われたのか知ります。ここが、本書での驚かせポイントでしょう。 四人の少女に不幸が連鎖した理由がそれっぼく描かれていましたが、こじつけっぽく思えたのがマイナスでした。それと、スカッとした騙されたという感覚も覚えなかったのもマイナス点です。 エミリちゃんの母親の心境の変化も理解しがたかったです。そもそも、わずか小学生の少女らに、面と向かって「償え」と言うのもやり過ぎだと思いますが、、、。 レビューを見れば、いろいろと深い考察をされている方がいて、なるほどなと思いました。本書に描かれていない裏のストーリーを考察していて、深読み必至の小説かもしれません。 今回が二度目の再読となりまして、最初に読み終わってから何年も経ち、ストーリーを忘れているところがあったので、新鮮な気持ちで読み進めました。ただ、三度目の再読はもうないでしょう。かなり重たい話なので、イヤミスに飢えてる方はどうぞ。 |
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辺りは雪一面、死体の第一発見者の足跡しかない、いわば雪上の密室。数多くある雪の密室の古典ミステリです。
現代のミステリ作品にも数多く影響を与えている雪上の密室という題材、私は足跡そのものにトリックが仕掛けられているのかと疑って読み進めました。金田一少年の事件簿や名探偵コナンにあるような、足跡に細工をするものが脳裏にあったからです。 ですが本作のトリックの主眼は実は足跡そのものになく、真相に驚きました。同じ題材を扱っていてもトリックが被らないように作家は苦心するので、おもしろいと思うと同時に、アイデアの被らないように作るのは大変だろうなと思いました。 本作も、『ユダの窓』同様、H.M卿が活躍する話です。H.M卿の甥視点でストーリーが進み、終盤に差し掛かったところでH.M卿登場、推理を披露するという流れです。 本作においても、翻訳物の欠点のためか、文章がわかりづらい箇所が多い印象でした。また、誰が話してるのか見失うことも多かったです。そのため話の全容は理解しづらかったですが、メイントリックになるほどと思いました。 本書を知ったきっかけが法月綸太郎氏の『雪密室』でした。本書の真相に触れてるため、未読の方はご注意くださいと但し書きされていて気になっていたので、ようやく『雪密室』の該当部分を読み直すことができました。 まだ2作とも読んでない方は、本書から読み始めるのをお勧めします。 |
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昨年、鈴木光司氏の刊行した『ユビキタス』の内容に興味が湧き、本作を手に取ってみました。ユビキタスのインタビューで、単なるホラーに留まらず超次元的な世界を描いたらしく、怖さのみを追求する作家ではないのだなと知りました。ユビキタスを読む前に他の作品も読んでみようと思い、デビュー作である今作を手に取った次第です。
ジャパニーズホラーの代表ともいえる本作。映画を観たことがなく、長い黒髪を振り乱した女性の怨念とバトルする作品と思っていたので敬遠してました。けれど読み終わって、そういう内容ではないことを知りました。 主人公、浅川は、姪が不審死した同一時刻、同じ年頃の少年が異様な死を遂げたことに興味を持ちます。二人の死は心臓麻痺による突然死で事件性なし。けれど調べると他にも二人、計四人が同じ時刻に突然死していて、何があったのか調べていくストーリーです。 不気味な表紙、巷で怖いと評判の本作ですが、どちらかというと怖い描写は控えめでした。なのでホラー慣れしてない方も安心して読めます。けれど、登場人物の異常な嗜好、怨念と化した女性の壮絶な過去、異形など、何やら不気味な演出は多かったです。 ページ数は少ないですが描写が緻密で情景描写、心情が多めで高ポイントです。昨今の、台詞ばかり多用するラノベ作家に見習ってほしいところです。 ただ、肝心のホラー描写について、やや控えめ、もう少し背筋を凍らせる物語を希望してた身として、評価を落とし、☆6としました。 |
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読み終わって、どっと疲れる作品でした。
スコットランドのとある平和な村で立て続けに起こる猟奇殺人。人間業と思えない怪力で犠牲者はバラバラにされていたり、魔人を思わせる不気味な咆哮が聞こえてきたりと、かなり恐ろしい内容でした。 美点は、丹念に描かれた新約聖書の内容と、読者を驚かせようという作者の企みでした。力作だと思いました。 ですが正直、それらの良かったところを打ち消すほど、全体的に内容が好みではなかったです。 一つ、死体の一部が見つかって猟奇的だと警察が騒ぐ→新たな死体の一部が見つかったのループが多く、飽きが多かったです。 死体の一部の棄てられた場所が重要となってくるのですが、犯人を特定するものではなく、ふーんそれで?って感じでした。 読んでるあいだ抱いていた嫌な予感が当たりました。以前に読んだ『暗闇坂の人喰いの木』同様、謎や猟奇的殺人のオンパレードで惹きつけながら、真相はガッカリという作品です。 ダイイングメッセージも強引さが否めません。 島田荘司作品をある程度読んでいない方は評価が低くなると思います。私にはまだ早かったようです。 |
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エラリー・クイーンの国名シリーズを幾つか読んできましたが、本作はこれまでの作品と毛色が違うと思いました。
一つは、何をおいても事件の猟奇性。丁字路に磔にされた死体――それだけでも猟奇的じみてますが、その死体には頭部がありません。それまでのクイーンの作品でこれほどまで残虐な死体は出てこなかったので、かなり珍しいと思いました。 思えば、手術を受ける患者がオペ前に殺されていた『オランダ靴の謎』や、劇の最中に観客の一人が殺されていた『ローマ帽子の謎』同様、読者の好奇心を見事に誘う出だしだと言えましょう。 二つ目は、スリリングな要素。エラリーが、次なる犠牲を阻止しようと駆けめぐる描写に、かなり惹き込まれました。 エジプト要素がないから国名シリーズに相応しくないというレビューがありました。たしかに、現場はアメリカで、エラリーがエジプト要素を持ち出すも、結果的に関係ないという話が序盤で明らかとなります。けれど私が初めて読んだオランダ靴の謎で、オランダ要素が皆無とわかっていたので、そこはご愛嬌と、あまり気になりませんでした。むしろ、エラリーがエジプトの蘊蓄を並べたことが、結果的にオチに繋がっていて、なかなか凝ってるし遊び心を感じられます。 ただ、ミステリ要素としては、ありがちだなと辛めにレビューしておきます。当時は珍しい仕掛けだったのでしょうか。けれど本作の仕掛けが幾つもある推理小説において、結末を予想でき、やっぱりなと思った読者は多いと思います。 古典小説なのだから現代人に通じるドンデン返しを求めるのは贅沢と言われるかもしれませんが、少々強引かなと思いました。 古典ついでに言えば、監視カメラが数多く設置されてる現在、死体を堂々と道標に磔にする大胆さは、古典小説ならではの発想の柔軟さだと思いました。監視カメラやらあらゆる技術の進化が、現在のミステリ作家を苦労させるなと、同情しました。 ついでに、エラリーやら検事やらが警戒するなか、みすみす連続殺人を起こさせてしまったのがマイナス評価でした。 探偵といえど完璧でない、けれど、次に狙われる可能性がある人物を殺されるのは、間が抜けてると言わざるをえません。 本書は創元推理文庫で読みました。直訳のような堅苦しい文章ですが、角川版と違って表紙が好みなので、創元推理文庫を贔屓にしてます。国名シリーズの未読は『ギリシャ棺の謎』を残すのみ。他の国名シリーズも文庫化をゆっくり待ち続けてます。 |
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殺人犯を犠牲にしなければ皆が脱出することはできない――事前情報なしで読んだので正体不明の人物に監禁されるデスゲームかと思いきや、かなりリアルな設定に目を見張りました。
とある宗教団体が昔作り上げた地下施設――方舟。突如発生した災害により脱出不可能となった人物たち。浸水による全滅はのタイムリミットは刻々と訪れ、その前に脱出しなければならないけど、その為には、出入り口を塞ぐ大岩を一人が地下に落とす必要があり、落とした人物はその大岩が障害となって脱出できなくなる。誰を選択するか。そんな折に殺人が発生する。当然ながら犠牲は犯人が負うのが相応しい。 なかなか凝った設定でした。 本作を評価したのは、その特殊設定と、犠牲者(犯人)を絞る論理的な推理、そして、なぜ、第一の殺人を犯したのかという問に対する説明でした。地下施設に閉じ込められた人物たちの、生存欲求やら、猜疑心もリアルで、見ものでした。 本書は、最後にドンデン返しがあるということで有名で、私は結末を予想しながら読み進めました。 実は犯人は違うんではないか、突然地下施設を訪れた三人の家族は謎だし、本書において探偵役を務める主人公の従兄弟は明らかに怪しいし、なかなか翻弄される作品でした。 未読の方のためにネタバレは無論伏せますが、結末はあまり好みではありませんでした。消化不良といった感じです。 たしかに、なぜ殺人を行ったのかという問にはすべて答えられています。けれど、これほど無慈悲なことができるだろうかという素朴な疑問です。自らが助かるためという究極的な生存欲求でしょうか、本書では殺人鬼的に扱っていますが、かなり人物像とギャップがあり、違和感が拭えませんでした。 おもしろい設定で論理的な推理、意外な犯人、、、と、魅力的な要素はありますが、ちょっと消化不良でした。 まだ未読の方は、登場人物が無事に生還できるか、誰を犠牲者に選択するか、固唾を飲んで読み進めることをお勧めします。 |
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本書は冒頭から不可解な謎が提示され、ページを捲る手が止まらなくなる魅力的な小説です。様々な不思議な出来事、複雑な人物関係、証言の矛盾が提示され、一体この小説は、どんな結末を迎えるのだろうと楽しみながら読み進められました。
真相はやや拍子抜けさせられました。魅力的なマジックを見て、種明かしされてこんなことだったのかと呆れ、拍子抜けするのに近しい感覚です。ですが、伏線がしっかり張られており、力作だと思いました。本書は一人称視点でフロッピーに書かれた日記形式であり、きちんとギミックの役割を果たしているので感心させられます。 本格的な謎解き小説を期待すると肩透かしを食らいますが、構成の緻密さ、人物の描き分け等、工夫が凝らしてある作品です。 以前に読んだ同氏の『オルファクトグラム』よりは好みでした。 |
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初めて岡嶋二人の作品を読みました。
タイトルにしたとおり、かなり退廃的で暗い内容でした。主人公の男性が、息子の不登校の原因を探り、息子の同級生の謎の死や、息子が不登校になった理由など調査していく内容です。 裏表紙の説明にもあるとおり、親の苦悩が描かれ、子を持つ親は一層、共感して読むことができるのではないでしょうか。 描かれたのが1986年ということもあり、ラジカセが登場したりして、時代を感じさせる作品でした。登場人物、特に女性の台詞や反抗期の少年の悪態のつき方も一昔前といいますが、演劇のようで、今読むと少し違和感が否めません。 トリックも陳腐で、新鮮味はありませんでした。 ただ、チョコレートゲームの意味するものが何か、そして今の時代にも通じるモンスターペアレントの実態、我が子を想う親心の強さなど、丁寧に描かれているところもあり、そこは良かったです。 |
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いかにもメフィスト小説という一筋縄でいかない小説でした。
主人公の女子学生が大学仲間と心理実験に参加することから物語は始まります。実験の目的は、自分と無関係の人に悪意が働くか。 参加者はスマホにスイッチのアプリをインストールさせられ、スイッチを押せば、善良なパン屋の一家が破滅する。押すも押さなくても自由、実験の報酬は変わりません。彼らはパン屋の一家に恨みなどないはずですから、当然、押そうとするはずないですが、、、。 この設定で後半まで引っ張るのかと思いきや予想は裏切られ、デスゲーム→SF→宗教観→人怖など、あらゆるジャンルに読者は翻弄されます。突っ込みたいところはあるにしても、きちんとミステリの体を成していて、新鮮な読書体験でした。 ただ、なんか、いろいろと残念だなって思った作品でした。 一つは、文体。軽妙すぎて、同人誌的だなと思いました。良く言えば読みやすいので、読書嫌いな中高生にはお勧めかもしれません。 そして、宗教観についていけないことと、主人公のキャラクター性。魅力に乏しい登場人物も考えものですが、本書の主人公の特殊能力が突飛で、よくわかりませんでした。頭の中でコイントスする←なんだそれって感じでした。 あまり感情移入できる魅力的な登場人物はいませんでしたが、伏線の妙と、読者の予想をいい意味で裏切るサービス精神に、今後の作品が楽しみとなりました。 |
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湊かなえのデビュー作『告白』と肩を並べるほど評価される本作。一文に驚かされるドンデン返し小説という評判で、かなりワクワクして読み進めました。
湊かなえにしては珍しく主人公は若い男性。あまり陽気なキャラではなく、かといって根が暗いキャラでなく、みんなにコーヒーを振る舞うのが楽しみという支え役です。彼は、大学のサークルのメンバーと共に信州の高原へバーベキューをしに出かけます。 仲間と共に昼食を摂ったり、バーベキューをしたりして楽しんでいたところ、悲劇が起こります。その悲劇は、かなりリアリティがあり、日常よくある悲劇です。 不幸な事故です。仲間のうちの誰かが殺人を起こすはずがない。けれど、"殺人を起こしたのはお前だ"という告発文が相次いでメンバーに送られます。一体、誰が告発文を送っているのか、そして、あの悲劇は本当に事故だったのか、主人公が調査していく内容です。 まず、主人公を含め若い男性が多く登場するのですが、彼らの発言、動作、心情などにまったく違和感がなく、一つ評価したポイントです。 そしてもう一つの高評価ポイントは、見事に騙されたということ。これは、後に述べることとします。 密告状を送ったのが誰かは、私はすぐ当てられました。犯人当て小説に目が肥えてるからでしょうか、直感的に怪しいと思いました。 終盤、密告状を送った人の正体が明かされ、なんだと少し唖然としました。見事に騙されたという評判は、こんな程度なのかと。 しかし、最後の最後、物語は予想を超える結末を迎えます。思わず、なるほど! と、思いました。そして、いかにも湊かなえらしい作品だと思いました。本作が高評価されているのも納得の出来栄えてす。 惜しいのは、やはり密告状の送り主が誰か、もう少しわかりづらくしてよかったのではないかという点です。そのせいで、どうせこの人なんだろうなという先入観で読んでしまい、多少中弛みした感が否めません。おそらく、すべては最後のドンデン返しを引き立てるためだったのでしょう。そうだとわかっていたとしても中弛みしたのは正直な感想です。そのぶん、ドンデン返しのインパクトは絶大でした。 評価どおり、私のなかでは告白より本作のほうが好みです。 |
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代々医師である土岐一族。彼らは、なぜか皆、早死にしているという特徴があります。それぞれ、どういった理由で死を遂げたのか、5つの章に分けて描かれる話です。
長生きしすぎることへの是非を問うことの多い作者、本作においても同じメッセージ性が強かったです。あらすじを読めば、それぞれの一族の死に首謀者が関与しているミステリを期待したいところですが、残念ながらそういった話ではありません。元々、作者がミステリを書くイメージがなかったので、ある意味予想どおりでした。 ただ、章によっては嫉妬や憎悪など、醜い人間ドラマの要素があり、読み応えかありました。 特に、『希望の御旗』という章の話が私は好みでした。 絶対的正義はなく、見方を変えればどちらも正義に思える場面はよくあります。一見酷いことでも、ある意味その人のことを想ってした行為など。このお話は、がん検診に対する二つの主張が対立して描かれ、しかも医療の雑学なども詳細に述べられ、とても面白かったです。相手のことを想ってしているのに、結果的に悲惨な事態を招き、生かそうとすることが殺してしまう皮肉な話で、恐ろしい内容です。 ですが、全体を通してみれば、やはり物語としての満足度は低かったのが残念です。どうせなら、描かれていない他の早死にした人の死の顛末も描いてほしかったです。 |
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仕事先で濡れ衣を着せられ、転職するも失敗し、遂には犯罪に手を染めて刑務所に入れられた青年・玲斗の物語です。ですが、弁護士が接見し、玲斗の伯母を名のる女性に助けてもらい、クスノキの番人を務めてほしいという頼みを、訳もわからず引き受けることから物語は始まります。
クスノキにはどんな秘密があるのか。そしてクスノキの祈念に訪れる人の、祈念日には法則性があり、、、。など、クスノキそのものにまつわる謎から始まって、どうして伯母が玲斗に依頼を頼んだのかなど、あらゆる謎が解明されます。東野作品らしい内容でした。 本書では、主に3つのストーリーが同時進行され描かれます。 1.伯母の務めるグループのホテル経営にまつわる対立。 2.チャラい青年が、会社の秘書のような人を伴って何度もクスノキの祈念に訪れる理由。 3.同じく祈念に訪れる男性の娘が、父親の行動を怪しみ、玲斗と共に探る話。 これらが平行に描かれます。そのため本書がページ数が多くなってる理由でしょう。『マスカレード・ホテル』でも思いましたが冗長に感じられました。1と3は必要かもしれないけど、2の内容は省いてよかったのではないのかと。 加えて、伏線の張り方が上手に感じられるけれど、回収されたときの気持ちよさがなかったです。負け惜しみに思えるかもしれませんが、読中、少し疑問に思いました。ですが、真剣に考えませんでした。それは、別の理由だからだと解釈できたからです。(詳しくはネタバレ注意の場所にコメントします) ただ、主人公の頼りなさげな仕草、口調、考え方は、今の若い人にいそうだなと思えました。玲斗は、運に見放された出自で生き方をして、流れに身を任せようとし、伯母からは厭世的と評価されてますが、純真な心を持っていて、魅力あるキャラクターでした。口が達者なのは、少し人物像とギャップがありますが。 SF要素がありますが、『ナミヤ〜』ほどの魅力はなく、"ナミヤの劣化版"という別のレビュアーの方の意見に賛同です。 ナミヤは中高生向けのSF強め作品で、本書は、大人向けの道徳小説なのでしょうね。考えさせられはしますが、内容の魅力は乏しいです。 いつもどおり手厳しく書いたかもしれませんが、普通よりは上だけど満足ではなく、☆6にしました。 それにしても、本作もクスノキシリーズとして続編があるようです。玲斗の成長が楽しみですが、シリーズものが多すぎやしませんかね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本書はカーター・ディクスンのH.M卿シリーズの1作品です。
男が恋人の女性との婚約の許しを得るため、女性の父親の家へ赴きウイスキーを饗されたところ、途中で意識を失い、目を覚ましたら目の前で義父が矢で射殺されていたという内容です。 本書における大きな謎は、1.犯人が主人公の男でなければ、どうやって犯人は密室の書斎で犯行を成し遂げたのか。2.義父が、主人公の男と会ったとき、憎んでいるようだったのはなぜか。 H.M卿が主人公の無罪を立証するために法廷で論述するという、密室モノの法廷ミステリでした。 密室のトリックは言わずもがなですが、なぜ、被害者が主人公に敵愾心を持っていたかの答もしっかりとしていて、なるほどなと思いました。 そして何より、タイトルの素敵さが良かったです。 一見なんのことかわからないタイトルの作品は手に取りたくなります。簡潔で、ミスリーディングの要素がありました。序文の評論家の言葉どおり、『クロスボウの殺人』なんて直截的なタイトルではなく、『ユダの窓』というタイトルのほうが数倍好みでした。 ただ、ハウダニット小説あるあるなのですが、犯行の仕掛けが、なんとなくしか理解できませんでした。そもそも、あんな方法で、目的の人物を確実に殺せるのだろうかと。もし被害者が仕掛けに気がついたらどうするのだろうかと。あまり野暮なことは言いたくないですが、せめて仕掛けの図式がほしかったです。 一応、H.M卿初登場回ではありませんが、特に不都合はなかったです。過去の事件には触れており、そちらも読んでみたいと思いました。 ジョン・ディクスン・カーと同じ作者が別のペンネームで書いたようですね。私は、カーは、『盲目の理髪師』や『夜歩く』を読んでいて、少し合わなかったのですが、本作は読みやすくお勧めです。 |
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