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bamboo さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.22pt

レビュー数36

全36件 1~20 1/2ページ
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No.36: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

新しい形のクローズドサークル・ミステリ

殺人犯を犠牲にしなければ皆が脱出することはできない――事前情報なしで読んだので正体不明の人物に監禁されるデスゲームかと思いきや、かなりリアルな設定に目を見張りました。
とある宗教団体が昔作り上げた地下施設――方舟。突如発生した災害により脱出不可能となった人物たち。浸水による全滅はのタイムリミットは刻々と訪れ、その前に脱出しなければならないけど、その為には、出入り口を塞ぐ大岩を一人が地下に落とす必要があり、落とした人物はその大岩が障害となって脱出できなくなる。誰を選択するか。そんな折に殺人が発生する。当然ながら犠牲は犯人が負うのが相応しい。
なかなか凝った設定でした。

本作を評価したのは、その特殊設定と、犠牲者(犯人)を絞る論理的な推理、そして、なぜ、第一の殺人を犯したのかという問に対する説明でした。地下施設に閉じ込められた人物たちの、生存欲求やら、猜疑心もリアルで、見ものでした。
本書は、最後にドンデン返しがあるということで有名で、私は結末を予想しながら読み進めました。
実は犯人は違うんではないか、突然地下施設を訪れた三人の家族は謎だし、本書において探偵役を務める主人公の従兄弟は明らかに怪しいし、なかなか翻弄される作品でした。
未読の方のためにネタバレは無論伏せますが、結末はあまり好みではありませんでした。消化不良といった感じです。

たしかに、なぜ殺人を行ったのかという問にはすべて答えられています。けれど、これほど無慈悲なことができるだろうかという素朴な疑問です。自らが助かるためという究極的な生存欲求でしょうか、本書では殺人鬼的に扱っていますが、かなり人物像とギャップがあり、違和感が拭えませんでした。
おもしろい設定で論理的な推理、意外な犯人、、、と、魅力的な要素はありますが、ちょっと消化不良でした。
まだ未読の方は、登場人物が無事に生還できるか、誰を犠牲者に選択するか、固唾を飲んで読み進めることをお勧めします。
方舟 (講談社文庫)
夕木春央方舟 についてのレビュー
No.35: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

真相は陳腐。けれどギミックに唸らされる小説

本書は冒頭から不可解な謎が提示され、ページを捲る手が止まらなくなる魅力的な小説です。様々な不思議な出来事、複雑な人物関係、証言の矛盾が提示され、一体この小説は、どんな結末を迎えるのだろうと楽しみながら読み進められました。
真相はやや拍子抜けさせられました。魅力的なマジックを見て、種明かしされてこんなことだったのかと呆れ、拍子抜けするのに近しい感覚です。ですが、伏線がしっかり張られており、力作だと思いました。本書は一人称視点でフロッピーに書かれた日記形式であり、きちんとギミックの役割を果たしているので感心させられます。
本格的な謎解き小説を期待すると肩透かしを食らいますが、構成の緻密さ、人物の描き分け等、工夫が凝らしてある作品です。
以前に読んだ同氏の『オルファクトグラム』よりは好みでした。
プラスティック (講談社文庫)
井上夢人プラスティック についてのレビュー
No.34: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

中学生の死、不登校、暴力、、、退廃的な内容でした

初めて岡嶋二人の作品を読みました。
タイトルにしたとおり、かなり退廃的で暗い内容でした。主人公の男性が、息子の不登校の原因を探り、息子の同級生の謎の死や、息子が不登校になった理由など調査していく内容です。
裏表紙の説明にもあるとおり、親の苦悩が描かれ、子を持つ親は一層、共感して読むことができるのではないでしょうか。

描かれたのが1986年ということもあり、ラジカセが登場したりして、時代を感じさせる作品でした。登場人物、特に女性の台詞や反抗期の少年の悪態のつき方も一昔前といいますが、演劇のようで、今読むと少し違和感が否めません。
トリックも陳腐で、新鮮味はありませんでした。
ただ、チョコレートゲームの意味するものが何か、そして今の時代にも通じるモンスターペアレントの実態、我が子を想う親心の強さなど、丁寧に描かれているところもあり、そこは良かったです。
チョコレートゲーム 新装版 (講談社文庫)
岡嶋二人チョコレートゲーム についてのレビュー
No.33: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

読者を翻弄するジェットコースター的小説

いかにもメフィスト小説という一筋縄でいかない小説でした。
主人公の女子学生が大学仲間と心理実験に参加することから物語は始まります。実験の目的は、自分と無関係の人に悪意が働くか。
参加者はスマホにスイッチのアプリをインストールさせられ、スイッチを押せば、善良なパン屋の一家が破滅する。押すも押さなくても自由、実験の報酬は変わりません。彼らはパン屋の一家に恨みなどないはずですから、当然、押そうとするはずないですが、、、。
この設定で後半まで引っ張るのかと思いきや予想は裏切られ、デスゲーム→SF→宗教観→人怖など、あらゆるジャンルに読者は翻弄されます。突っ込みたいところはあるにしても、きちんとミステリの体を成していて、新鮮な読書体験でした。

ただ、なんか、いろいろと残念だなって思った作品でした。
一つは、文体。軽妙すぎて、同人誌的だなと思いました。良く言えば読みやすいので、読書嫌いな中高生にはお勧めかもしれません。
そして、宗教観についていけないことと、主人公のキャラクター性。魅力に乏しい登場人物も考えものですが、本書の主人公の特殊能力が突飛で、よくわかりませんでした。頭の中でコイントスする←なんだそれって感じでした。

あまり感情移入できる魅力的な登場人物はいませんでしたが、伏線の妙と、読者の予想をいい意味で裏切るサービス精神に、今後の作品が楽しみとなりました。
スイッチ 悪意の実験 (講談社文庫)
潮谷験スイッチ 悪意の実験 についてのレビュー
No.32: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

殺意なき殺人。さり気なく描かれた描写に伏線あり

湊かなえのデビュー作『告白』と肩を並べるほど評価される本作。一文に驚かされるドンデン返し小説という評判で、かなりワクワクして読み進めました。
湊かなえにしては珍しく主人公は若い男性。あまり陽気なキャラではなく、かといって根が暗いキャラでなく、みんなにコーヒーを振る舞うのが楽しみという支え役です。彼は、大学のサークルのメンバーと共に信州の高原へバーベキューをしに出かけます。
仲間と共に昼食を摂ったり、バーベキューをしたりして楽しんでいたところ、悲劇が起こります。その悲劇は、かなりリアリティがあり、日常よくある悲劇です。
不幸な事故です。仲間のうちの誰かが殺人を起こすはずがない。けれど、"殺人を起こしたのはお前だ"という告発文が相次いでメンバーに送られます。一体、誰が告発文を送っているのか、そして、あの悲劇は本当に事故だったのか、主人公が調査していく内容です。

まず、主人公を含め若い男性が多く登場するのですが、彼らの発言、動作、心情などにまったく違和感がなく、一つ評価したポイントです。
そしてもう一つの高評価ポイントは、見事に騙されたということ。これは、後に述べることとします。

密告状を送ったのが誰かは、私はすぐ当てられました。犯人当て小説に目が肥えてるからでしょうか、直感的に怪しいと思いました。
終盤、密告状を送った人の正体が明かされ、なんだと少し唖然としました。見事に騙されたという評判は、こんな程度なのかと。
しかし、最後の最後、物語は予想を超える結末を迎えます。思わず、なるほど! と、思いました。そして、いかにも湊かなえらしい作品だと思いました。本作が高評価されているのも納得の出来栄えてす。

惜しいのは、やはり密告状の送り主が誰か、もう少しわかりづらくしてよかったのではないかという点です。そのせいで、どうせこの人なんだろうなという先入観で読んでしまい、多少中弛みした感が否めません。おそらく、すべては最後のドンデン返しを引き立てるためだったのでしょう。そうだとわかっていたとしても中弛みしたのは正直な感想です。そのぶん、ドンデン返しのインパクトは絶大でした。
評価どおり、私のなかでは告白より本作のほうが好みです。
リバース (講談社文庫)
湊かなえリバース についてのレビュー
No.31: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

早死にの医師一族

代々医師である土岐一族。彼らは、なぜか皆、早死にしているという特徴があります。それぞれ、どういった理由で死を遂げたのか、5つの章に分けて描かれる話です。
長生きしすぎることへの是非を問うことの多い作者、本作においても同じメッセージ性が強かったです。あらすじを読めば、それぞれの一族の死に首謀者が関与しているミステリを期待したいところですが、残念ながらそういった話ではありません。元々、作者がミステリを書くイメージがなかったので、ある意味予想どおりでした。
ただ、章によっては嫉妬や憎悪など、醜い人間ドラマの要素があり、読み応えかありました。
特に、『希望の御旗』という章の話が私は好みでした。
絶対的正義はなく、見方を変えればどちらも正義に思える場面はよくあります。一見酷いことでも、ある意味その人のことを想ってした行為など。このお話は、がん検診に対する二つの主張が対立して描かれ、しかも医療の雑学なども詳細に述べられ、とても面白かったです。相手のことを想ってしているのに、結果的に悲惨な事態を招き、生かそうとすることが殺してしまう皮肉な話で、恐ろしい内容です。

ですが、全体を通してみれば、やはり物語としての満足度は低かったのが残念です。どうせなら、描かれていない他の早死にした人の死の顛末も描いてほしかったです。
祝葬 (講談社文庫)
久坂部羊祝葬 についてのレビュー
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

大人向けの道徳小説

仕事先で濡れ衣を着せられ、転職するも失敗し、遂には犯罪に手を染めて刑務所に入れられた青年・玲斗の物語です。ですが、弁護士が接見し、玲斗の伯母を名のる女性に助けてもらい、クスノキの番人を務めてほしいという頼みを、訳もわからず引き受けることから物語は始まります。
クスノキにはどんな秘密があるのか。そしてクスノキの祈念に訪れる人の、祈念日には法則性があり、、、。など、クスノキそのものにまつわる謎から始まって、どうして伯母が玲斗に依頼を頼んだのかなど、あらゆる謎が解明されます。東野作品らしい内容でした。

本書では、主に3つのストーリーが同時進行され描かれます。
1.伯母の務めるグループのホテル経営にまつわる対立。
2.チャラい青年が、会社の秘書のような人を伴って何度もクスノキの祈念に訪れる理由。
3.同じく祈念に訪れる男性の娘が、父親の行動を怪しみ、玲斗と共に探る話。
これらが平行に描かれます。そのため本書がページ数が多くなってる理由でしょう。『マスカレード・ホテル』でも思いましたが冗長に感じられました。1と3は必要かもしれないけど、2の内容は省いてよかったのではないのかと。
加えて、伏線の張り方が上手に感じられるけれど、回収されたときの気持ちよさがなかったです。負け惜しみに思えるかもしれませんが、読中、少し疑問に思いました。ですが、真剣に考えませんでした。それは、別の理由だからだと解釈できたからです。(詳しくはネタバレ注意の場所にコメントします)

ただ、主人公の頼りなさげな仕草、口調、考え方は、今の若い人にいそうだなと思えました。玲斗は、運に見放された出自で生き方をして、流れに身を任せようとし、伯母からは厭世的と評価されてますが、純真な心を持っていて、魅力あるキャラクターでした。口が達者なのは、少し人物像とギャップがありますが。

SF要素がありますが、『ナミヤ〜』ほどの魅力はなく、"ナミヤの劣化版"という別のレビュアーの方の意見に賛同です。
ナミヤは中高生向けのSF強め作品で、本書は、大人向けの道徳小説なのでしょうね。考えさせられはしますが、内容の魅力は乏しいです。
いつもどおり手厳しく書いたかもしれませんが、普通よりは上だけど満足ではなく、☆6にしました。
それにしても、本作もクスノキシリーズとして続編があるようです。玲斗の成長が楽しみですが、シリーズものが多すぎやしませんかね。


▼以下、ネタバレ感想
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クスノキの番人 (実業之日本社文庫)
東野圭吾クスノキの番人 についてのレビュー
No.29: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まず、タイトルの素晴らしさに☆+1

本書はカーター・ディクスンのH.M卿シリーズの1作品です。
男が恋人の女性との婚約の許しを得るため、女性の父親の家へ赴きウイスキーを饗されたところ、途中で意識を失い、目を覚ましたら目の前で義父が矢で射殺されていたという内容です。
本書における大きな謎は、1.犯人が主人公の男でなければ、どうやって犯人は密室の書斎で犯行を成し遂げたのか。2.義父が、主人公の男と会ったとき、憎んでいるようだったのはなぜか。
H.M卿が主人公の無罪を立証するために法廷で論述するという、密室モノの法廷ミステリでした。

密室のトリックは言わずもがなですが、なぜ、被害者が主人公に敵愾心を持っていたかの答もしっかりとしていて、なるほどなと思いました。
そして何より、タイトルの素敵さが良かったです。
一見なんのことかわからないタイトルの作品は手に取りたくなります。簡潔で、ミスリーディングの要素がありました。序文の評論家の言葉どおり、『クロスボウの殺人』なんて直截的なタイトルではなく、『ユダの窓』というタイトルのほうが数倍好みでした。
ただ、ハウダニット小説あるあるなのですが、犯行の仕掛けが、なんとなくしか理解できませんでした。そもそも、あんな方法で、目的の人物を確実に殺せるのだろうかと。もし被害者が仕掛けに気がついたらどうするのだろうかと。あまり野暮なことは言いたくないですが、せめて仕掛けの図式がほしかったです。

一応、H.M卿初登場回ではありませんが、特に不都合はなかったです。過去の事件には触れており、そちらも読んでみたいと思いました。
ジョン・ディクスン・カーと同じ作者が別のペンネームで書いたようですね。私は、カーは、『盲目の理髪師』や『夜歩く』を読んでいて、少し合わなかったのですが、本作は読みやすくお勧めです。
ユダの窓 (創元推理文庫)
カーター・ディクスンユダの窓 についてのレビュー
No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

手術の場面は臨場感たっぷり。他は空虚

心臓手術を行うロボット、ミカエル。そのロボットを使う第一人者である医師、西條が主人公の物語です。西條は、ミカエルを使い、あらゆる手術をこなしてきました。だからミカエルに対する信頼も厚い。けれど、そんなミカエルに欠陥がある疑いを聞き、本当にミカエルを使って大丈夫だろうかと、葛藤しながらオペに臨むのが粗筋です。
本書を読んで一番お見事と思ったのは、終盤の手術シーンでした。医療事故を引き起こしやすいロボットを使い、患者の命を救えるかという緊張感が伝わってきましたし、緻密な手術の描写が、とてもリアルでした。手術の用語が羅列していて、相当調べ、力を入れたのだろうと推測できます。
ただ、他は空虚と感じられました。改行が多く、不要な描写も多いです。読書が苦手な人には読みやすい本といえるでしょうが、改行が多いせいで本が厚くなってしまってる始末です。いろいろ削れば、400ページくらいに収まったと思いました。
また、細かいようですが、逆説の"が"を多用しており、気になりました。『〜だった。"が"、〜だった』というふうに。"しかし"や、"だが"、"けれど"など、いろいろ接続詞はあるのに、"が"に固執するのはなぜだろうと、少し目につきました。
展開が予想どおりなのも残念と感じました。なぜ、あの場面で、あんなことが起こったのかについて、説得力ある説明がほしかったです。
ミステリ要素は皆無のヒューマンストーリーの作品です。かといって登場人物の個性は少ないです。
辛辣なレビューをしたかもしれませんが、手術の場面のリアルさを総合し、可もなく不可もなくの☆5評価としました。
ミカエルの鼓動 (文春文庫)
柚月裕子ミカエルの鼓動 についてのレビュー
No.27: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

警察の無能っぷりが目立つ連続殺人

ミステリにおいて、探偵を引き立てなくてはならないので、多少、刑事が役立たずになるのは仕方ないにせよ、本作はかなりそれが目立つ作品でした。なにしろ、殺人が起こっているのに容疑者の動きを制限せず、呑気にお茶を飲んでいるのですから。
本書は、かなり異色の作品だと思います。外部と交通が遮断されず、常に現場には刑事やら監察医が出入りするなかで起こる連続殺人。犯人の大胆さに驚かされます。また、中盤で探偵役らしき人物が登場するも、意外な展開を見せたりと、なかなか常識外れの作品でした。
現実味を欠いているのはエンタメなのであまり気にせず楽しむと良いと思います。なぜ、犯人は連続殺人の屍体近くにトランプを置いていくのか、なぜ、殺害方法に一貫性がないかなど、散逸した疑問が綺麗に回収されていくのはお見事と思いました。
登場人物が多いので、できれば最初に登場人物一覧を載せてほしかったです。
リラ荘殺人事件 (角川文庫)
鮎川哲也りら荘事件 についてのレビュー
No.26: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

不気味で、かなり重たい話

本書を初めて読んだのは、私が高校生のときでした。そのときの印象はかなり不気味な物語というものでした。
特別ホラーチックな凄惨な描写はありません。主人公が、昔付き合っていた彼女と共に、廃屋のような長年使われていない家を訪れ、その家で何が起こったか、推理していく話です。かつてその家に住んでいた少年の残された日記を手がかりに、この家の住人が、なぜいなくなったのか、かつてその家にいたはずの主人公の元彼女がなぜ小学校以前の記憶を失ったのか、徐々に繙いてゆきます。
物語の大半が、電気の通っていない廃屋のような家にいるためか、かなり暗い内容でした。そして、〇〇という本書のテーマは、かなり重たいものです。
ミステリ小説の多くは、作中に日記が出てきた場合、そこに手がかりが仕掛けられていることが多いので、まだ未読の方は注意深く読むことをお勧めします。
ミステリ要素もあり、ホラーの要素もあり、かなり良い読書体験でした。久しぶりに読み返し、断片的にしか覚えていなかった内容を思いだしました。やっぱり、読み返すことも大事ですね。

時折、この家を出よう、でもやっぱり戻ることにしようという流れがくどいことと、物語終盤の、主人公の元彼女が異常なほど、主人公に詰め寄る態度が、少しマイナス評価でした。
暑い夏に少し涼しい気分を味わいたい方は是非。
むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)
東野圭吾むかし僕が死んだ家 についてのレビュー
No.25:
(4pt)

1か月後には内容を忘れるような、心に残らない短編集

有栖川有栖の国名シリーズの一つである本作は、短編集の形式。
タイトルと表紙に惹かれ、久しぶりに有栖川作品を読みました。感想はタイトルのとおり、パッとしない話ばかりでした。
物語の導入はおもしろいけれど真相がイマイチという竜頭蛇尾な作品ばかりで、暫くしたら内容を忘れてるだろう短編集です。
一番良かった話は『妄想日記』でした。ですが、その話もスッキリとした謎の答えになっておらず、やや消化不良です。
表題作においてはホワイ・ダニットの答が明示されておらず、完全に名前負けした作品でした。
マジックの種明かしをされてガッカリということがよくありまして、本作もそういう印象です。火村と有栖川コンビのキャラクターの魅力を考慮し、☆4としました。
ブラジル蝶の謎 (講談社文庫)
有栖川有栖ブラジル蝶の謎 についてのレビュー
No.24: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

超ユニークで超メタ的小説

7つの答があるミステリー小説というテーマだけで、興味を惹かれました。さすがメフィスト賞出身の作家だけに、超ユニークな小説です。他の誰も書かないような挑戦的なミステリは好きなので、高評価となりました。文体も軽妙で読みやすいです。
マルチエンディング・ミステリー(複数の結末のある作品)という少し長ったらしいタイトルですが、改題前の『犯人選挙』の方がスッキリしていて、私は好みでした。おそらく、同じく多重解決モノの、作者の『ミステリー・アリーナ』と方向性が同じなので、タイトルを片仮名で揃えたのでしょうね。
舞台は大泰荘というシェアハウス。主人公は純文学の作家を目指す文学青年。住人の一人、ボディビルダーを目指す、マッチョの男が密室で殺され、一体誰が、どうやって殺したかを推理します。
容疑者は主人公を除いた他の住人六名。それぞれ犯人の場合と、犯人が外部の者という、計七通りの解答が提示されます。珍妙な解答もありますが、なかには説得力のある解答もあり、なかなか楽しめます。

一つ、評価が分かれるとしたら、本書は本格ミステリと呼べるか怪しく、脱力的な話ということでしょうか。なので、冒頭に"本書は三人の人物が殺されるので、殺人が嫌いで日常ミステリを楽しみたい方は本を閉じてください"と注意書きされていますが、あまり気負わず読むとよいでしょう。そして、三人目に誰が殺されるか、予想しながら読んでみてください。
こういう話があるからこそミステリは面白いと実感できる小説です。きっと作者は、楽しみながら執筆されたのだと思います。
超ユニークで超メタ的、脱力できる良作でした。メタ的描写は、以前に読んだ瀬名秀明さんの『八月の博物館』と類似していました。登場人物の存在についてフォーカスしていて、かなり面白いです。

登場人物の若い刑事が、頓珍漢なことを言って上司に叱られるという描写は、軽妙すぎるきらいがあります。実際、こんな刑事がいて事件が迷宮入りしてないことを望みますが、、、。
マルチエンディング・ミステリー (講談社文庫)
No.23: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

一筋縄ではいかない挑戦的作品

登場人物全員、同じ名前――。過去に、これほど意欲的な作品を書いた作家はいたでしょうか。
残虐な殺人を犯した男と同姓同名で苦しむ人たちを描いた作品です。男は少年法により顔を公開されず、名前だけ知れ渡ってしまった状態で、そのせいで名前だけで就活や進学に支障をきたした人物たちが登場します。
メッセージ性が強く、作者の主張に一つ一つ共感ができ、とても良作です。加えて、物語の真相に意外性をもたしてもいて、読者をこれでもかと翻弄させる内容に、作者のサービス精神を感じました。
未読の方は、一つ一つ疑ってかかって読んでみてください。

辛くレビューするとすれば、地の文が平易に感じられたことです。"血で染まったような夕焼け"、"身を切る風はナイフのよう"など、ありふれた表現だと思いました。
人物のミスリーディングを明かす種明かしも、少し強引ではないかと思いました。

ですが一方で、登場人物のセリフの説得力と、ネット上の罵倒文句はリアルでした。
5段階評価すると、アイデア5、セリフ5、地の文2、ミステリ要素4
久しぶりに読み応えのある作品に満足できました。
同姓同名 (幻冬舎文庫)
下村敦史同姓同名 についてのレビュー
No.22: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

殺伐とした世界観と、ほのぼのとした話のギャップに違和感

小惑星が地球に衝突し、あと三年で人類が滅亡する設定の世界観で、同じ団地に住む住人たちの生き方に焦点を当てた作品です。
八年後に人類が滅亡すると知らされ、人々はパニックに陥ります。ルールは破られ、生きていくために殺すことが日常となった世界ですが、滅亡まで三年とカウントダウンしていくと、人々は小康状態になります。滅亡までの余生の過ごしたが各々異なっていて、おもしろかったです。同じ地域の住民がそれぞれの話で主人公となった短編集の形式なので、それそれの話に少し繋がりもありました。
全体に重くはなく、喜劇のような話が多いです。なので、気軽に読むことはできますが、その軽さが世界観と一致せず、違和感が拭えません。ほのぼのした話に、突如、『〇〇さんは見知らぬ人に襲われて死んだ』と、あっさり書かれていて、殺伐とした設定とギャップがあり残念でした。
加えて、この作品のメッセージ性も漠然としていて、求めていた作品と違いました。
終末のフール (集英社文庫)
伊坂幸太郎終末のフール についてのレビュー
No.21:
(6pt)

ツナグ 想い人の心得の感想

前作では少年だったツナグが、成長して青年になったという設定で、5つの話を収録した短編集です。シリーズ物なので、前作を知っていないと設定が飲み込めないと思います。
私は、1話目がお気に入りでした。前作の続きで、ツナグは青年のはずなのに、1話目に登場するツナグは少女で、どういうことだろうかと思いながら読み進め、少し意外な答えがあり、おもしろかったです。前作との繋がりも感じられ、懐かしさもありました。
ただ、全体を通して評価すれば、平凡といわざるをえないです。せっかく死者と再会できるという美味しい設定でありながら、感動できなかったです。
話の途中、驚きの展開がありますが、それを通じてのツナグの変化もありがちで、小学生向けの道徳的作品になってました。
作中、前の短編に登場した人物と偶然再会していて、"ご縁"という言葉で片付けていますが、作為的で白けてしまいました。
もう少し感動や意外性を求めていただけに、ハードルを越えられなく残念な印象でした。前作で設定に虜になり、ツナグの成長を楽しみに思った方なら高い評価になると思います。
ツナグ 想い人の心得
辻村深月ツナグ 想い人の心得 についてのレビュー
No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

異なる2つの世界線、どちらが真実か

主人公の崇史は、友人の智彦から恋人を紹介されます。その女性は、かつて崇史が偶然見かけ、一目惚れした相手。ところがある日、目を覚ますと、その女性は崇史と同棲していました。そんな二つの世界線が交互に描写されます。
どちらの話が本当かという大きな謎。そして、話が進むにつれて行方を眩ませる登場人物。何が起こっているのか丁寧に描かれ、とても良作です。
恋が人を狂わせるというのが、よくわかる作品でした。一度、一目惚れすると、絆で結ばれていたはずの親友でさえ裏切ってしまう。そして、かつてなら考えなかっただろう邪な感情を、友人に抱いてしまう。そんな、主人公、親友、女性を巡る三角関係が丁寧に描かれ、とてもリアルでした。
残念だったのは、あのとき、一体何があってそうなったのか、種明かしのほうにももう少し詳述してほしかったことです。
パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
No.19:
(6pt)

圧倒的知識と説得力で構築されたSF中編集

本作は4つの話を収録しています。3つはSF、もう1つはミステリの仕掛けを施したサスペンスです。タイトルの罪人の選択は、ピンチから脱するために正しいほうを選ぶというサスペンス作品です。

それぞれ毛色の異なる内容なので、読む人によって好きな作品は異なると思います。私は2編目の『呪文』が好みでした。
とある惑星の話で、主人公の男は、その惑星で信仰されている宗教について調査します。普通、困ったときの神頼みという言葉にあるように、神を崇めるはずが、この惑星では、神様に悪感情を抱いてます。そして、その惑星の住民は平然と不敬な行為を行うのです。
なぜ。そして、どうしてこの惑星にら次々と災いが降りかかるのか。ミステリ的要素とホラー要素、SFを上手くミックスさせたディストピア小説で好みでした。

4編目の『赤い雨』もSFです。著者の『新世界より』を彷彿させる作品でした。長編にしなかったのが惜しいほど、おもしろい作品で、こちらもお勧めです。架空の胞子、チミドロに蹂躙された未来。この世界では、スラムとドームの住人とで格差が発生し、互いに悪感情を持っています。チミドロによる赤い雨という侵略を防ぐべく、主人公の女性が立ち向かう話です。こちらはS少し法廷ものの要素も楽しめるSF作品です。
感心したのは、チミドロという胞子、そしてRAINという疫病の、説得力をもった描写です。ゼロから生み出したものに圧倒的知識で肉付けしているのが魅力的で、著者らしさが発揮されています。

どれも読み応えある作品でした。ただ、かつての長編と比較すると、少しカタルシスを得づらかったです。
215ページ5行目、改行しているのに一マス空けてないという校正ミスが少し気になりました。また、過去作では"えんか"とルビを振っていた嚥下という字に、今作では"えんげ"とルビを振ってあり、著者のこだわりの変化が新しい発見でした。
罪人の選択
貴志祐介罪人の選択 についてのレビュー
No.18: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

罪人の人生転落を描いた力作

終業式の日、担任の女教師はクラスの生徒たちに告白します。娘を殺されたこと。そして娘を殺したのは、この生徒であること――。
本作は、すべて登場人物の独白、あるいは日記や手紙により描写されているのが特徴です。視点人物による絶望や怒りなどがダイレクトに伝わり、とても読みやすいです。出版された当時、中高生の人気を集めたのは、この圧倒的に読みやすい文章と巧みな構成、そして罪人への制裁という大義名分の基、いじめを行ってしまうという危険性が、共感を呼んだのでしょう。
第一章で、娘を殺した生徒である犯人二人を告発します。第二章で、後任の教師がやってきて、事態は最悪な方向へ進み、第三章で、悲劇が起こります。そして、悲劇を起こした人物の心情の吐露が、続く第四章で行われ、、、というふうに、読者は一度読み始めたらページを捲る手が止まりません。
なぜ、こうも最悪な事態が連鎖してしまうのか、さりげなく謎が回収され、とても力作でした。
私はイヤミスはあまり読んだことがないですが、本書はトップクラスの後味の悪さを誇る作品だと思います。告白というタイトルから安易な青春恋愛小説と侮っていると、痛い目をみます。

未成年者の犯罪に対する提起も行われており、興味深かったです。犯人Aは救いようがないとしても、私は個人的に犯人Bに同情してしまいました。本来なら心優しく素直な性格。けれど臆病さと劣等感という短所が災いし、道を誤ってしまいます。なにもここまで、容赦のない仕打ちをしなくていいじゃないかと同情するほど、彼は人生のどん底に落ちてしまうのです。
私は、女教師の性格に共感を持てませんでした。単純に、娘を殺され鬼となったとは解釈できません。自分の受け持つクラスの生徒より娘が大事と、安易に秤にかけて告白していることから推測するに、極論、娘一人と生徒三十人どちらを選べと言われたら、きっとこの教師は、娘を躊躇なく選ぶのでしょう。その身勝手さが透けて、人間性に欠き、共感できなかったです。その証拠に、最後のシーン、いかに娘を殺され感情が麻痺していたとしても、無関係な多くの人を巻き添えにする方法をとっていることや、復讐に無関係な一人の生徒の死に、あまり後悔してないことから察せられます。
なので、教師に対する共感は覚えづらく、いかに罪人が人生を転落していくかという同人誌的内容となってしまったのがマイナスです。

ですが、最初に挙げたように読みやすい文章、巧みな構成を評価して☆7にしました。
告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
湊かなえ告白 についてのレビュー
No.17:
(4pt)

真実は一つ、推理は無限

本書は多重解決ミステリの先駆的作品として有名です。事件の概要はシンプルながら、事件に登場するあらゆる人物が容疑者として推理が並べられ、奥深いものとなっています。
ミステリのジャンルの一つである多重解決を初めてテーマにした作品として有名です。私は深水黎一郎氏の『ミステリー・アリーナ』しか多重解決作品を読んだことがありませんでした。同作が非常におもしろかったため、同じ系統の本作を読もうと思った次第です。
ミステリー・アリーナのレビューは、いずれ改めて読み返した際に行いたいと思います。

本書を読み終えた感想は、うーん、なんだか残念だなというものでした。先のレビューで、非常に文章が読みやすいとありましたが、私にはそんなことなかったです。いかにもな古典的作品であり、とっつきにくい文章でした。直訳的な文章が、頭に入ってこなかったからでしょうか。ホームズ作品を読んでいる気分でした。
登場人物に魅力が乏しく、誰の名前のどの推理を指摘しているか伝わってきません。一文が長く、セリフが多すぎ、指示語が多いことも難点でしょう。訳者は本当に頭で理解しながら翻訳してるのかと懐疑的に感じました。そのため少し辛い読書体験でした。
洋書慣れしてない方は苦痛に感じると思います。少なくともエラリー・クイーンや、クリスティーの作品で感じた感動はありませんでした。

本書はアンチ・ミステリの要素もあります。前に披瀝された推理の欠点を指摘し、六人がそれぞれまったく異なる人を犯人として挙げる趣向はおもしろかったです。特に、限定型と開放型のミステリという着眼点には、なるほど、おもしろいと思いました。

多重解決の先駆的作品であることへの敬意とアンチ・ミステリとしてのおもしろさを総合したとしても、私は☆4の評価止まりでした。期待が大きかったせいかもしれません。
毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)


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