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bamboo さんのレビュー一覧
bambooさんのページへ| 書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点6.07pt | ||||||||
レビュー数42件
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『皇帝と拳銃と』に次ぐシリーズ第二弾である本作。前作と話の繋がりはないので、本作から読みはじめても問題ないないです。
このシリーズは、刑事に追い詰められる犯人視点で物語が進む倒叙形式です。衝動的だったり計画的だったり、いずれにせよ上手くやり遂げたはずの犯行がどう見破られるのかが注目ポイントでしょう。 シリーズを通しての主人公役を務めるのは刑事二人。現実の刑事とは人物像がほど遠く、一人は死神のような容貌魁偉、もう一人はアイドル並みにルックスの良い刑事で、かなりユニークな設定かと思います。死神のような見た目の刑事が上司で、彼を表す文章は様々、死神だったりゾンビだったり、葬儀に参列する弔問客に喩えられます。そんな刑事から追及されるので、犯人の穏やかならぬ心情が伝わってきます。 ただ、本書も前作同様短編集なのですが、どの章においても刑事を死神と喩えており、幾分退屈になってきます。表現を変えども、死神のような奇妙なルックスという読者のイメージは変わらないだろうから、少しくどいと思いました。また、どの事件においてもパターンが似通っていて、退屈に感じさせる要素の一つです。 犯行→犯人への聞き込み→第三者Aへの聞き込み→犯人への聞き込み→第三者Bへの聞き込み→犯人への聞き込み、、、が続くのです。 本シリーズにおける見どころの一つが、死神刑事(名前は乙姫というこれまたイメージギャップを狙った名前)が、犯人に最初に会った瞬間から目をつけていて、どこが見破られたポイントだったのが物語の最後に明かす形式なので仕方ないにせよ、刑事二人が事件の謎に直面し苦労する描写がないので、これも退屈にさせる理由でした。 本作に収録してあるのは『愚者の選択』、『一等星かく輝けり』、『正義のための闘争』、『世界の望む静謐』で、なかでも表題作に関しては犯人を特定した論理的推理、あっと思わせる伏線回収が上手だと思いました。ただ、残念ながら総じて凡作の域は出ず、☆5という無難な点数となってしまいました。 ところで、それぞれの章ごとのタイトル、なかなかオシャレで好みでした。解説を読んで知ったのですが、前作を含めて本作も、それぞれのタイトルが、おるものを指しているのだそうです。 だとすれば、続編が出る可能性が高いとのこと。次のシリーズ作品が出たときには、かなりエッジの利いた変化球を期待したいです。 |
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田舎町で起こった少女の死を出発点として物語は始まります。殺されたのは都会から越してきた少女、エミリちゃん。
4人の友だちとプール際で遊んでいたところ、男に声をかけられます。困っているから誰か一人、助けてくれないか。エミリちゃんが指名され、時間が経てど戻ってこないことを心配した一人が見に行くと、変わり果てた姿のエミリちゃんが、、、。 かなり胸くそ悪い事件で幕を開け、湊かなえらしい作品と思いました。物語の本筋は、エミリちゃんを連れ去った男を目撃した四人の少女ら、彼女らがエミリちゃんの母親から償えと言われ、その後どういう人生を選んだのか。 第一作の『告白』同様、視点人物の台詞や手記形式で物語は進みます。 四人の少女には、すべて不幸が訪れます。そのなかにも胸くそ悪いエピソードが豊富で、イヤミスの女王と呼ばれるだけのことはあります。なかでも『くまの兄妹』は、かなり後味が悪い話でした。 そして最後、エミリちゃんの母親視点の語り。ここが一番の見どころです。都心から田舎へ、仕事の都合で引越し、地域ギャップにより周囲と馴染めない葛藤、娘を無惨にに殺され発狂した心情などなど、丁寧に描写されていました。と同時に、なぜエミリちゃんが狙われたのか知ります。ここが、本書での驚かせポイントでしょう。 四人の少女に不幸が連鎖した理由がそれっぼく描かれていましたが、こじつけっぽく思えたのがマイナスでした。それと、スカッとした騙されたという感覚も覚えなかったのもマイナス点です。 エミリちゃんの母親の心境の変化も理解しがたかったです。そもそも、わずか小学生の少女らに、面と向かって「償え」と言うのもやり過ぎだと思いますが、、、。 レビューを見れば、いろいろと深い考察をされている方がいて、なるほどなと思いました。本書に描かれていない裏のストーリーを考察していて、深読み必至の小説かもしれません。 今回が二度目の再読となりまして、最初に読み終わってから何年も経ち、ストーリーを忘れているところがあったので、新鮮な気持ちで読み進めました。ただ、三度目の再読はもうないでしょう。かなり重たい話なので、イヤミスに飢えてる方はどうぞ。 |
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辺りは雪一面、死体の第一発見者の足跡しかない、いわば雪上の密室。数多くある雪の密室の古典ミステリです。
現代のミステリ作品にも数多く影響を与えている雪上の密室という題材、私は足跡そのものにトリックが仕掛けられているのかと疑って読み進めました。金田一少年の事件簿や名探偵コナンにあるような、足跡に細工をするものが脳裏にあったからです。 ですが本作のトリックの主眼は実は足跡そのものになく、真相に驚きました。同じ題材を扱っていてもトリックが被らないように作家は苦心するので、おもしろいと思うと同時に、アイデアの被らないように作るのは大変だろうなと思いました。 本作も、『ユダの窓』同様、H.M卿が活躍する話です。H.M卿の甥視点でストーリーが進み、終盤に差し掛かったところでH.M卿登場、推理を披露するという流れです。 本作においても、翻訳物の欠点のためか、文章がわかりづらい箇所が多い印象でした。また、誰が話してるのか見失うことも多かったです。そのため話の全容は理解しづらかったですが、メイントリックになるほどと思いました。 本書を知ったきっかけが法月綸太郎氏の『雪密室』でした。本書の真相に触れてるため、未読の方はご注意くださいと但し書きされていて気になっていたので、ようやく『雪密室』の該当部分を読み直すことができました。 まだ2作とも読んでない方は、本書から読み始めるのをお勧めします。 |
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昨年、鈴木光司氏の刊行した『ユビキタス』の内容に興味が湧き、本作を手に取ってみました。ユビキタスのインタビューで、単なるホラーに留まらず超次元的な世界を描いたらしく、怖さのみを追求する作家ではないのだなと知りました。ユビキタスを読む前に他の作品も読んでみようと思い、デビュー作である今作を手に取った次第です。
ジャパニーズホラーの代表ともいえる本作。映画を観たことがなく、長い黒髪を振り乱した女性の怨念とバトルする作品と思っていたので敬遠してました。けれど読み終わって、そういう内容ではないことを知りました。 主人公、浅川は、姪が不審死した同一時刻、同じ年頃の少年が異様な死を遂げたことに興味を持ちます。二人の死は心臓麻痺による突然死で事件性なし。けれど調べると他にも二人、計四人が同じ時刻に突然死していて、何があったのか調べていくストーリーです。 不気味な表紙、巷で怖いと評判の本作ですが、どちらかというと怖い描写は控えめでした。なのでホラー慣れしてない方も安心して読めます。けれど、登場人物の異常な嗜好、怨念と化した女性の壮絶な過去、異形など、何やら不気味な演出は多かったです。 ページ数は少ないですが描写が緻密で情景描写、心情が多めで高ポイントです。昨今の、台詞ばかり多用するラノベ作家に見習ってほしいところです。 ただ、肝心のホラー描写について、やや控えめ、もう少し背筋を凍らせる物語を希望してた身として、評価を落とし、☆6としました。 |
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読み終わって、どっと疲れる作品でした。
スコットランドのとある平和な村で立て続けに起こる猟奇殺人。人間業と思えない怪力で犠牲者はバラバラにされていたり、魔人を思わせる不気味な咆哮が聞こえてきたりと、かなり恐ろしい内容でした。 美点は、丹念に描かれた新約聖書の内容と、読者を驚かせようという作者の企みでした。力作だと思いました。 ですが正直、それらの良かったところを打ち消すほど、全体的に内容が好みではなかったです。 一つ、死体の一部が見つかって猟奇的だと警察が騒ぐ→新たな死体の一部が見つかったのループが多く、飽きが多かったです。 死体の一部の棄てられた場所が重要となってくるのですが、犯人を特定するものではなく、ふーんそれで?って感じでした。 読んでるあいだ抱いていた嫌な予感が当たりました。以前に読んだ『暗闇坂の人喰いの木』同様、謎や猟奇的殺人のオンパレードで惹きつけながら、真相はガッカリという作品です。 ダイイングメッセージも強引さが否めません。 島田荘司作品をある程度読んでいない方は評価が低くなると思います。私にはまだ早かったようです。 |
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エラリー・クイーンの国名シリーズを幾つか読んできましたが、本作はこれまでの作品と毛色が違うと思いました。
一つは、何をおいても事件の猟奇性。丁字路に磔にされた死体――それだけでも猟奇的じみてますが、その死体には頭部がありません。それまでのクイーンの作品でこれほどまで残虐な死体は出てこなかったので、かなり珍しいと思いました。 思えば、手術を受ける患者がオペ前に殺されていた『オランダ靴の謎』や、劇の最中に観客の一人が殺されていた『ローマ帽子の謎』同様、読者の好奇心を見事に誘う出だしだと言えましょう。 二つ目は、スリリングな要素。エラリーが、次なる犠牲を阻止しようと駆けめぐる描写に、かなり惹き込まれました。 エジプト要素がないから国名シリーズに相応しくないというレビューがありました。たしかに、現場はアメリカで、エラリーがエジプト要素を持ち出すも、結果的に関係ないという話が序盤で明らかとなります。けれど私が初めて読んだオランダ靴の謎で、オランダ要素が皆無とわかっていたので、そこはご愛嬌と、あまり気になりませんでした。むしろ、エラリーがエジプトの蘊蓄を並べたことが、結果的にオチに繋がっていて、なかなか凝ってるし遊び心を感じられます。 ただ、ミステリ要素としては、ありがちだなと辛めにレビューしておきます。当時は珍しい仕掛けだったのでしょうか。けれど本作の仕掛けが幾つもある推理小説において、結末を予想でき、やっぱりなと思った読者は多いと思います。 古典小説なのだから現代人に通じるドンデン返しを求めるのは贅沢と言われるかもしれませんが、少々強引かなと思いました。 古典ついでに言えば、監視カメラが数多く設置されてる現在、死体を堂々と道標に磔にする大胆さは、古典小説ならではの発想の柔軟さだと思いました。監視カメラやらあらゆる技術の進化が、現在のミステリ作家を苦労させるなと、同情しました。 ついでに、エラリーやら検事やらが警戒するなか、みすみす連続殺人を起こさせてしまったのがマイナス評価でした。 探偵といえど完璧でない、けれど、次に狙われる可能性がある人物を殺されるのは、間が抜けてると言わざるをえません。 本書は創元推理文庫で読みました。直訳のような堅苦しい文章ですが、角川版と違って表紙が好みなので、創元推理文庫を贔屓にしてます。国名シリーズの未読は『ギリシャ棺の謎』を残すのみ。他の国名シリーズも文庫化をゆっくり待ち続けてます。 |
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殺人犯を犠牲にしなければ皆が脱出することはできない――事前情報なしで読んだので正体不明の人物に監禁されるデスゲームかと思いきや、かなりリアルな設定に目を見張りました。
とある宗教団体が昔作り上げた地下施設――方舟。突如発生した災害により脱出不可能となった人物たち。浸水による全滅はのタイムリミットは刻々と訪れ、その前に脱出しなければならないけど、その為には、出入り口を塞ぐ大岩を一人が地下に落とす必要があり、落とした人物はその大岩が障害となって脱出できなくなる。誰を選択するか。そんな折に殺人が発生する。当然ながら犠牲は犯人が負うのが相応しい。 なかなか凝った設定でした。 本作を評価したのは、その特殊設定と、犠牲者(犯人)を絞る論理的な推理、そして、なぜ、第一の殺人を犯したのかという問に対する説明でした。地下施設に閉じ込められた人物たちの、生存欲求やら、猜疑心もリアルで、見ものでした。 本書は、最後にドンデン返しがあるということで有名で、私は結末を予想しながら読み進めました。 実は犯人は違うんではないか、突然地下施設を訪れた三人の家族は謎だし、本書において探偵役を務める主人公の従兄弟は明らかに怪しいし、なかなか翻弄される作品でした。 未読の方のためにネタバレは無論伏せますが、結末はあまり好みではありませんでした。消化不良といった感じです。 たしかに、なぜ殺人を行ったのかという問にはすべて答えられています。けれど、これほど無慈悲なことができるだろうかという素朴な疑問です。自らが助かるためという究極的な生存欲求でしょうか、本書では殺人鬼的に扱っていますが、かなり人物像とギャップがあり、違和感が拭えませんでした。 おもしろい設定で論理的な推理、意外な犯人、、、と、魅力的な要素はありますが、ちょっと消化不良でした。 まだ未読の方は、登場人物が無事に生還できるか、誰を犠牲者に選択するか、固唾を飲んで読み進めることをお勧めします。 |
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本書は冒頭から不可解な謎が提示され、ページを捲る手が止まらなくなる魅力的な小説です。様々な不思議な出来事、複雑な人物関係、証言の矛盾が提示され、一体この小説は、どんな結末を迎えるのだろうと楽しみながら読み進められました。
真相はやや拍子抜けさせられました。魅力的なマジックを見て、種明かしされてこんなことだったのかと呆れ、拍子抜けするのに近しい感覚です。ですが、伏線がしっかり張られており、力作だと思いました。本書は一人称視点でフロッピーに書かれた日記形式であり、きちんとギミックの役割を果たしているので感心させられます。 本格的な謎解き小説を期待すると肩透かしを食らいますが、構成の緻密さ、人物の描き分け等、工夫が凝らしてある作品です。 以前に読んだ同氏の『オルファクトグラム』よりは好みでした。 |
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初めて岡嶋二人の作品を読みました。
タイトルにしたとおり、かなり退廃的で暗い内容でした。主人公の男性が、息子の不登校の原因を探り、息子の同級生の謎の死や、息子が不登校になった理由など調査していく内容です。 裏表紙の説明にもあるとおり、親の苦悩が描かれ、子を持つ親は一層、共感して読むことができるのではないでしょうか。 描かれたのが1986年ということもあり、ラジカセが登場したりして、時代を感じさせる作品でした。登場人物、特に女性の台詞や反抗期の少年の悪態のつき方も一昔前といいますが、演劇のようで、今読むと少し違和感が否めません。 トリックも陳腐で、新鮮味はありませんでした。 ただ、チョコレートゲームの意味するものが何か、そして今の時代にも通じるモンスターペアレントの実態、我が子を想う親心の強さなど、丁寧に描かれているところもあり、そこは良かったです。 |
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いかにもメフィスト小説という一筋縄でいかない小説でした。
主人公の女子学生が大学仲間と心理実験に参加することから物語は始まります。実験の目的は、自分と無関係の人に悪意が働くか。 参加者はスマホにスイッチのアプリをインストールさせられ、スイッチを押せば、善良なパン屋の一家が破滅する。押すも押さなくても自由、実験の報酬は変わりません。彼らはパン屋の一家に恨みなどないはずですから、当然、押そうとするはずないですが、、、。 この設定で後半まで引っ張るのかと思いきや予想は裏切られ、デスゲーム→SF→宗教観→人怖など、あらゆるジャンルに読者は翻弄されます。突っ込みたいところはあるにしても、きちんとミステリの体を成していて、新鮮な読書体験でした。 ただ、なんか、いろいろと残念だなって思った作品でした。 一つは、文体。軽妙すぎて、同人誌的だなと思いました。良く言えば読みやすいので、読書嫌いな中高生にはお勧めかもしれません。 そして、宗教観についていけないことと、主人公のキャラクター性。魅力に乏しい登場人物も考えものですが、本書の主人公の特殊能力が突飛で、よくわかりませんでした。頭の中でコイントスする←なんだそれって感じでした。 あまり感情移入できる魅力的な登場人物はいませんでしたが、伏線の妙と、読者の予想をいい意味で裏切るサービス精神に、今後の作品が楽しみとなりました。 |
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湊かなえのデビュー作『告白』と肩を並べるほど評価される本作。一文に驚かされるドンデン返し小説という評判で、かなりワクワクして読み進めました。
湊かなえにしては珍しく主人公は若い男性。あまり陽気なキャラではなく、かといって根が暗いキャラでなく、みんなにコーヒーを振る舞うのが楽しみという支え役です。彼は、大学のサークルのメンバーと共に信州の高原へバーベキューをしに出かけます。 仲間と共に昼食を摂ったり、バーベキューをしたりして楽しんでいたところ、悲劇が起こります。その悲劇は、かなりリアリティがあり、日常よくある悲劇です。 不幸な事故です。仲間のうちの誰かが殺人を起こすはずがない。けれど、"殺人を起こしたのはお前だ"という告発文が相次いでメンバーに送られます。一体、誰が告発文を送っているのか、そして、あの悲劇は本当に事故だったのか、主人公が調査していく内容です。 まず、主人公を含め若い男性が多く登場するのですが、彼らの発言、動作、心情などにまったく違和感がなく、一つ評価したポイントです。 そしてもう一つの高評価ポイントは、見事に騙されたということ。これは、後に述べることとします。 密告状を送ったのが誰かは、私はすぐ当てられました。犯人当て小説に目が肥えてるからでしょうか、直感的に怪しいと思いました。 終盤、密告状を送った人の正体が明かされ、なんだと少し唖然としました。見事に騙されたという評判は、こんな程度なのかと。 しかし、最後の最後、物語は予想を超える結末を迎えます。思わず、なるほど! と、思いました。そして、いかにも湊かなえらしい作品だと思いました。本作が高評価されているのも納得の出来栄えてす。 惜しいのは、やはり密告状の送り主が誰か、もう少しわかりづらくしてよかったのではないかという点です。そのせいで、どうせこの人なんだろうなという先入観で読んでしまい、多少中弛みした感が否めません。おそらく、すべては最後のドンデン返しを引き立てるためだったのでしょう。そうだとわかっていたとしても中弛みしたのは正直な感想です。そのぶん、ドンデン返しのインパクトは絶大でした。 評価どおり、私のなかでは告白より本作のほうが好みです。 |
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代々医師である土岐一族。彼らは、なぜか皆、早死にしているという特徴があります。それぞれ、どういった理由で死を遂げたのか、5つの章に分けて描かれる話です。
長生きしすぎることへの是非を問うことの多い作者、本作においても同じメッセージ性が強かったです。あらすじを読めば、それぞれの一族の死に首謀者が関与しているミステリを期待したいところですが、残念ながらそういった話ではありません。元々、作者がミステリを書くイメージがなかったので、ある意味予想どおりでした。 ただ、章によっては嫉妬や憎悪など、醜い人間ドラマの要素があり、読み応えかありました。 特に、『希望の御旗』という章の話が私は好みでした。 絶対的正義はなく、見方を変えればどちらも正義に思える場面はよくあります。一見酷いことでも、ある意味その人のことを想ってした行為など。このお話は、がん検診に対する二つの主張が対立して描かれ、しかも医療の雑学なども詳細に述べられ、とても面白かったです。相手のことを想ってしているのに、結果的に悲惨な事態を招き、生かそうとすることが殺してしまう皮肉な話で、恐ろしい内容です。 ですが、全体を通してみれば、やはり物語としての満足度は低かったのが残念です。どうせなら、描かれていない他の早死にした人の死の顛末も描いてほしかったです。 |
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仕事先で濡れ衣を着せられ、転職するも失敗し、遂には犯罪に手を染めて刑務所に入れられた青年・玲斗の物語です。ですが、弁護士が接見し、玲斗の伯母を名のる女性に助けてもらい、クスノキの番人を務めてほしいという頼みを、訳もわからず引き受けることから物語は始まります。
クスノキにはどんな秘密があるのか。そしてクスノキの祈念に訪れる人の、祈念日には法則性があり、、、。など、クスノキそのものにまつわる謎から始まって、どうして伯母が玲斗に依頼を頼んだのかなど、あらゆる謎が解明されます。東野作品らしい内容でした。 本書では、主に3つのストーリーが同時進行され描かれます。 1.伯母の務めるグループのホテル経営にまつわる対立。 2.チャラい青年が、会社の秘書のような人を伴って何度もクスノキの祈念に訪れる理由。 3.同じく祈念に訪れる男性の娘が、父親の行動を怪しみ、玲斗と共に探る話。 これらが平行に描かれます。そのため本書がページ数が多くなってる理由でしょう。『マスカレード・ホテル』でも思いましたが冗長に感じられました。1と3は必要かもしれないけど、2の内容は省いてよかったのではないのかと。 加えて、伏線の張り方が上手に感じられるけれど、回収されたときの気持ちよさがなかったです。負け惜しみに思えるかもしれませんが、読中、少し疑問に思いました。ですが、真剣に考えませんでした。それは、別の理由だからだと解釈できたからです。(詳しくはネタバレ注意の場所にコメントします) ただ、主人公の頼りなさげな仕草、口調、考え方は、今の若い人にいそうだなと思えました。玲斗は、運に見放された出自で生き方をして、流れに身を任せようとし、伯母からは厭世的と評価されてますが、純真な心を持っていて、魅力あるキャラクターでした。口が達者なのは、少し人物像とギャップがありますが。 SF要素がありますが、『ナミヤ〜』ほどの魅力はなく、"ナミヤの劣化版"という別のレビュアーの方の意見に賛同です。 ナミヤは中高生向けのSF強め作品で、本書は、大人向けの道徳小説なのでしょうね。考えさせられはしますが、内容の魅力は乏しいです。 いつもどおり手厳しく書いたかもしれませんが、普通よりは上だけど満足ではなく、☆6にしました。 それにしても、本作もクスノキシリーズとして続編があるようです。玲斗の成長が楽しみですが、シリーズものが多すぎやしませんかね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本書はカーター・ディクスンのH.M卿シリーズの1作品です。
男が恋人の女性との婚約の許しを得るため、女性の父親の家へ赴きウイスキーを饗されたところ、途中で意識を失い、目を覚ましたら目の前で義父が矢で射殺されていたという内容です。 本書における大きな謎は、1.犯人が主人公の男でなければ、どうやって犯人は密室の書斎で犯行を成し遂げたのか。2.義父が、主人公の男と会ったとき、憎んでいるようだったのはなぜか。 H.M卿が主人公の無罪を立証するために法廷で論述するという、密室モノの法廷ミステリでした。 密室のトリックは言わずもがなですが、なぜ、被害者が主人公に敵愾心を持っていたかの答もしっかりとしていて、なるほどなと思いました。 そして何より、タイトルの素敵さが良かったです。 一見なんのことかわからないタイトルの作品は手に取りたくなります。簡潔で、ミスリーディングの要素がありました。序文の評論家の言葉どおり、『クロスボウの殺人』なんて直截的なタイトルではなく、『ユダの窓』というタイトルのほうが数倍好みでした。 ただ、ハウダニット小説あるあるなのですが、犯行の仕掛けが、なんとなくしか理解できませんでした。そもそも、あんな方法で、目的の人物を確実に殺せるのだろうかと。もし被害者が仕掛けに気がついたらどうするのだろうかと。あまり野暮なことは言いたくないですが、せめて仕掛けの図式がほしかったです。 一応、H.M卿初登場回ではありませんが、特に不都合はなかったです。過去の事件には触れており、そちらも読んでみたいと思いました。 ジョン・ディクスン・カーと同じ作者が別のペンネームで書いたようですね。私は、カーは、『盲目の理髪師』や『夜歩く』を読んでいて、少し合わなかったのですが、本作は読みやすくお勧めです。 |
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心臓手術を行うロボット、ミカエル。そのロボットを使う第一人者である医師、西條が主人公の物語です。西條は、ミカエルを使い、あらゆる手術をこなしてきました。だからミカエルに対する信頼も厚い。けれど、そんなミカエルに欠陥がある疑いを聞き、本当にミカエルを使って大丈夫だろうかと、葛藤しながらオペに臨むのが粗筋です。
本書を読んで一番お見事と思ったのは、終盤の手術シーンでした。医療事故を引き起こしやすいロボットを使い、患者の命を救えるかという緊張感が伝わってきましたし、緻密な手術の描写が、とてもリアルでした。手術の用語が羅列していて、相当調べ、力を入れたのだろうと推測できます。 ただ、他は空虚と感じられました。改行が多く、不要な描写も多いです。読書が苦手な人には読みやすい本といえるでしょうが、改行が多いせいで本が厚くなってしまってる始末です。いろいろ削れば、400ページくらいに収まったと思いました。 また、細かいようですが、逆説の"が"を多用しており、気になりました。『〜だった。"が"、〜だった』というふうに。"しかし"や、"だが"、"けれど"など、いろいろ接続詞はあるのに、"が"に固執するのはなぜだろうと、少し目につきました。 展開が予想どおりなのも残念と感じました。なぜ、あの場面で、あんなことが起こったのかについて、説得力ある説明がほしかったです。 ミステリ要素は皆無のヒューマンストーリーの作品です。かといって登場人物の個性は少ないです。 辛辣なレビューをしたかもしれませんが、手術の場面のリアルさを総合し、可もなく不可もなくの☆5評価としました。 |
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ミステリにおいて、探偵を引き立てなくてはならないので、多少、刑事が役立たずになるのは仕方ないにせよ、本作はかなりそれが目立つ作品でした。なにしろ、殺人が起こっているのに容疑者の動きを制限せず、呑気にお茶を飲んでいるのですから。
本書は、かなり異色の作品だと思います。外部と交通が遮断されず、常に現場には刑事やら監察医が出入りするなかで起こる連続殺人。犯人の大胆さに驚かされます。また、中盤で探偵役らしき人物が登場するも、意外な展開を見せたりと、なかなか常識外れの作品でした。 現実味を欠いているのはエンタメなのであまり気にせず楽しむと良いと思います。なぜ、犯人は連続殺人の屍体近くにトランプを置いていくのか、なぜ、殺害方法に一貫性がないかなど、散逸した疑問が綺麗に回収されていくのはお見事と思いました。 登場人物が多いので、できれば最初に登場人物一覧を載せてほしかったです。 |
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本書を初めて読んだのは、私が高校生のときでした。そのときの印象はかなり不気味な物語というものでした。
特別ホラーチックな凄惨な描写はありません。主人公が、昔付き合っていた彼女と共に、廃屋のような長年使われていない家を訪れ、その家で何が起こったか、推理していく話です。かつてその家に住んでいた少年の残された日記を手がかりに、この家の住人が、なぜいなくなったのか、かつてその家にいたはずの主人公の元彼女がなぜ小学校以前の記憶を失ったのか、徐々に繙いてゆきます。 物語の大半が、電気の通っていない廃屋のような家にいるためか、かなり暗い内容でした。そして、〇〇という本書のテーマは、かなり重たいものです。 ミステリ小説の多くは、作中に日記が出てきた場合、そこに手がかりが仕掛けられていることが多いので、まだ未読の方は注意深く読むことをお勧めします。 ミステリ要素もあり、ホラーの要素もあり、かなり良い読書体験でした。久しぶりに読み返し、断片的にしか覚えていなかった内容を思いだしました。やっぱり、読み返すことも大事ですね。 時折、この家を出よう、でもやっぱり戻ることにしようという流れがくどいことと、物語終盤の、主人公の元彼女が異常なほど、主人公に詰め寄る態度が、少しマイナス評価でした。 暑い夏に少し涼しい気分を味わいたい方は是非。 |
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有栖川有栖の国名シリーズの一つである本作は、短編集の形式。
タイトルと表紙に惹かれ、久しぶりに有栖川作品を読みました。感想はタイトルのとおり、パッとしない話ばかりでした。 物語の導入はおもしろいけれど真相がイマイチという竜頭蛇尾な作品ばかりで、暫くしたら内容を忘れてるだろう短編集です。 一番良かった話は『妄想日記』でした。ですが、その話もスッキリとした謎の答えになっておらず、やや消化不良です。 表題作においてはホワイ・ダニットの答が明示されておらず、完全に名前負けした作品でした。 マジックの種明かしをされてガッカリということがよくありまして、本作もそういう印象です。火村と有栖川コンビのキャラクターの魅力を考慮し、☆4としました。 |
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7つの答があるミステリー小説というテーマだけで、興味を惹かれました。さすがメフィスト賞出身の作家だけに、超ユニークな小説です。他の誰も書かないような挑戦的なミステリは好きなので、高評価となりました。文体も軽妙で読みやすいです。
マルチエンディング・ミステリー(複数の結末のある作品)という少し長ったらしいタイトルですが、改題前の『犯人選挙』の方がスッキリしていて、私は好みでした。おそらく、同じく多重解決モノの、作者の『ミステリー・アリーナ』と方向性が同じなので、タイトルを片仮名で揃えたのでしょうね。 舞台は大泰荘というシェアハウス。主人公は純文学の作家を目指す文学青年。住人の一人、ボディビルダーを目指す、マッチョの男が密室で殺され、一体誰が、どうやって殺したかを推理します。 容疑者は主人公を除いた他の住人六名。それぞれ犯人の場合と、犯人が外部の者という、計七通りの解答が提示されます。珍妙な解答もありますが、なかには説得力のある解答もあり、なかなか楽しめます。 一つ、評価が分かれるとしたら、本書は本格ミステリと呼べるか怪しく、脱力的な話ということでしょうか。なので、冒頭に"本書は三人の人物が殺されるので、殺人が嫌いで日常ミステリを楽しみたい方は本を閉じてください"と注意書きされていますが、あまり気負わず読むとよいでしょう。そして、三人目に誰が殺されるか、予想しながら読んでみてください。 こういう話があるからこそミステリは面白いと実感できる小説です。きっと作者は、楽しみながら執筆されたのだと思います。 超ユニークで超メタ的、脱力できる良作でした。メタ的描写は、以前に読んだ瀬名秀明さんの『八月の博物館』と類似していました。登場人物の存在についてフォーカスしていて、かなり面白いです。 登場人物の若い刑事が、頓珍漢なことを言って上司に叱られるという描写は、軽妙すぎるきらいがあります。実際、こんな刑事がいて事件が迷宮入りしてないことを望みますが、、、。 |
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登場人物全員、同じ名前――。過去に、これほど意欲的な作品を書いた作家はいたでしょうか。
残虐な殺人を犯した男と同姓同名で苦しむ人たちを描いた作品です。男は少年法により顔を公開されず、名前だけ知れ渡ってしまった状態で、そのせいで名前だけで就活や進学に支障をきたした人物たちが登場します。 メッセージ性が強く、作者の主張に一つ一つ共感ができ、とても良作です。加えて、物語の真相に意外性をもたしてもいて、読者をこれでもかと翻弄させる内容に、作者のサービス精神を感じました。 未読の方は、一つ一つ疑ってかかって読んでみてください。 辛くレビューするとすれば、地の文が平易に感じられたことです。"血で染まったような夕焼け"、"身を切る風はナイフのよう"など、ありふれた表現だと思いました。 人物のミスリーディングを明かす種明かしも、少し強引ではないかと思いました。 ですが一方で、登場人物のセリフの説得力と、ネット上の罵倒文句はリアルでした。 5段階評価すると、アイデア5、セリフ5、地の文2、ミステリ要素4 久しぶりに読み応えのある作品に満足できました。 |
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