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bamboo さんのレビュー一覧
bambooさんのページへレビュー数15件
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代々医師である土岐一族。彼らは、なぜか皆、早死にしているという特徴があります。それぞれ、どういった理由で死を遂げたのか、5つの章に分けて描かれる話です。
長生きしすぎることへの是非を問うことの多い作者、本作においても同じメッセージ性が強かったです。あらすじを読めば、それぞれの一族の死に首謀者が関与しているミステリを期待したいところですが、残念ながらそういった話ではありません。元々、作者がミステリを書くイメージがなかったので、ある意味予想どおりでした。 ただ、章によっては嫉妬や憎悪など、醜い人間ドラマの要素があり、読み応えかありました。 特に、『希望の御旗』という章の話が私は好みでした。 絶対的正義はなく、見方を変えればどちらも正義に思える場面はよくあります。一見酷いことでも、ある意味その人のことを想ってした行為など。このお話は、がん検診に対する二つの主張が対立して描かれ、しかも医療の雑学なども詳細に述べられ、とても面白かったです。相手のことを想ってしているのに、結果的に悲惨な事態を招き、生かそうとすることが殺してしまう皮肉な話で、恐ろしい内容です。 ですが、全体を通してみれば、やはり物語としての満足度は低かったのが残念です。どうせなら、描かれていない他の早死にした人の死の顛末も描いてほしかったです。 |
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仕事先で濡れ衣を着せられ、転職するも失敗し、遂には犯罪に手を染めて刑務所に入れられた青年・玲斗の物語です。ですが、弁護士が接見し、玲斗の伯母を名のる女性に助けてもらい、クスノキの番人を務めてほしいという頼みを、訳もわからず引き受けることから物語は始まります。
クスノキにはどんな秘密があるのか。そしてクスノキの祈念に訪れる人の、祈念日には法則性があり、、、。など、クスノキそのものにまつわる謎から始まって、どうして伯母が玲斗に依頼を頼んだのかなど、あらゆる謎が解明されます。東野作品らしい内容でした。 本書では、主に3つのストーリーが同時進行され描かれます。 1.伯母の務めるグループのホテル経営にまつわる対立。 2.チャラい青年が、会社の秘書のような人を伴って何度もクスノキの祈念に訪れる理由。 3.同じく祈念に訪れる男性の娘が、父親の行動を怪しみ、玲斗と共に探る話。 これらが平行に描かれます。そのため本書がページ数が多くなってる理由でしょう。『マスカレード・ホテル』でも思いましたが冗長に感じられました。1と3は必要かもしれないけど、2の内容は省いてよかったのではないのかと。 加えて、伏線の張り方が上手に感じられるけれど、回収されたときの気持ちよさがなかったです。負け惜しみに思えるかもしれませんが、読中、少し疑問に思いました。ですが、真剣に考えませんでした。それは、別の理由だからだと解釈できたからです。(詳しくはネタバレ注意の場所にコメントします) ただ、主人公の頼りなさげな仕草、口調、考え方は、今の若い人にいそうだなと思えました。玲斗は、運に見放された出自で生き方をして、流れに身を任せようとし、伯母からは厭世的と評価されてますが、純真な心を持っていて、魅力あるキャラクターでした。口が達者なのは、少し人物像とギャップがありますが。 SF要素がありますが、『ナミヤ〜』ほどの魅力はなく、"ナミヤの劣化版"という別のレビュアーの方の意見に賛同です。 ナミヤは中高生向けのSF強め作品で、本書は、大人向けの道徳小説なのでしょうね。考えさせられはしますが、内容の魅力は乏しいです。 いつもどおり手厳しく書いたかもしれませんが、普通よりは上だけど満足ではなく、☆6にしました。 それにしても、本作もクスノキシリーズとして続編があるようです。玲斗の成長が楽しみですが、シリーズものが多すぎやしませんかね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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心臓手術を行うロボット、ミカエル。そのロボットを使う第一人者である医師、西條が主人公の物語です。西條は、ミカエルを使い、あらゆる手術をこなしてきました。だからミカエルに対する信頼も厚い。けれど、そんなミカエルに欠陥がある疑いを聞き、本当にミカエルを使って大丈夫だろうかと、葛藤しながらオペに臨むのが粗筋です。
本書を読んで一番お見事と思ったのは、終盤の手術シーンでした。医療事故を引き起こしやすいロボットを使い、患者の命を救えるかという緊張感が伝わってきましたし、緻密な手術の描写が、とてもリアルでした。手術の用語が羅列していて、相当調べ、力を入れたのだろうと推測できます。 ただ、他は空虚と感じられました。改行が多く、不要な描写も多いです。読書が苦手な人には読みやすい本といえるでしょうが、改行が多いせいで本が厚くなってしまってる始末です。いろいろ削れば、400ページくらいに収まったと思いました。 また、細かいようですが、逆説の"が"を多用しており、気になりました。『〜だった。"が"、〜だった』というふうに。"しかし"や、"だが"、"けれど"など、いろいろ接続詞はあるのに、"が"に固執するのはなぜだろうと、少し目につきました。 展開が予想どおりなのも残念と感じました。なぜ、あの場面で、あんなことが起こったのかについて、説得力ある説明がほしかったです。 ミステリ要素は皆無のヒューマンストーリーの作品です。かといって登場人物の個性は少ないです。 辛辣なレビューをしたかもしれませんが、手術の場面のリアルさを総合し、可もなく不可もなくの☆5評価としました。 |
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有栖川有栖の国名シリーズの一つである本作は、短編集の形式。
タイトルと表紙に惹かれ、久しぶりに有栖川作品を読みました。感想はタイトルのとおり、パッとしない話ばかりでした。 物語の導入はおもしろいけれど真相がイマイチという竜頭蛇尾な作品ばかりで、暫くしたら内容を忘れてるだろう短編集です。 一番良かった話は『妄想日記』でした。ですが、その話もスッキリとした謎の答えになっておらず、やや消化不良です。 表題作においてはホワイ・ダニットの答が明示されておらず、完全に名前負けした作品でした。 マジックの種明かしをされてガッカリということがよくありまして、本作もそういう印象です。火村と有栖川コンビのキャラクターの魅力を考慮し、☆4としました。 |
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小惑星が地球に衝突し、あと三年で人類が滅亡する設定の世界観で、同じ団地に住む住人たちの生き方に焦点を当てた作品です。
八年後に人類が滅亡すると知らされ、人々はパニックに陥ります。ルールは破られ、生きていくために殺すことが日常となった世界ですが、滅亡まで三年とカウントダウンしていくと、人々は小康状態になります。滅亡までの余生の過ごしたが各々異なっていて、おもしろかったです。同じ地域の住民がそれぞれの話で主人公となった短編集の形式なので、それそれの話に少し繋がりもありました。 全体に重くはなく、喜劇のような話が多いです。なので、気軽に読むことはできますが、その軽さが世界観と一致せず、違和感が拭えません。ほのぼのした話に、突如、『〇〇さんは見知らぬ人に襲われて死んだ』と、あっさり書かれていて、殺伐とした設定とギャップがあり残念でした。 加えて、この作品のメッセージ性も漠然としていて、求めていた作品と違いました。 |
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前作では少年だったツナグが、成長して青年になったという設定で、5つの話を収録した短編集です。シリーズ物なので、前作を知っていないと設定が飲み込めないと思います。
私は、1話目がお気に入りでした。前作の続きで、ツナグは青年のはずなのに、1話目に登場するツナグは少女で、どういうことだろうかと思いながら読み進め、少し意外な答えがあり、おもしろかったです。前作との繋がりも感じられ、懐かしさもありました。 ただ、全体を通して評価すれば、平凡といわざるをえないです。せっかく死者と再会できるという美味しい設定でありながら、感動できなかったです。 話の途中、驚きの展開がありますが、それを通じてのツナグの変化もありがちで、小学生向けの道徳的作品になってました。 作中、前の短編に登場した人物と偶然再会していて、"ご縁"という言葉で片付けていますが、作為的で白けてしまいました。 もう少し感動や意外性を求めていただけに、ハードルを越えられなく残念な印象でした。前作で設定に虜になり、ツナグの成長を楽しみに思った方なら高い評価になると思います。 |
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本作は4つの話を収録しています。3つはSF、もう1つはミステリの仕掛けを施したサスペンスです。タイトルの罪人の選択は、ピンチから脱するために正しいほうを選ぶというサスペンス作品です。
それぞれ毛色の異なる内容なので、読む人によって好きな作品は異なると思います。私は2編目の『呪文』が好みでした。 とある惑星の話で、主人公の男は、その惑星で信仰されている宗教について調査します。普通、困ったときの神頼みという言葉にあるように、神を崇めるはずが、この惑星では、神様に悪感情を抱いてます。そして、その惑星の住民は平然と不敬な行為を行うのです。 なぜ。そして、どうしてこの惑星にら次々と災いが降りかかるのか。ミステリ的要素とホラー要素、SFを上手くミックスさせたディストピア小説で好みでした。 4編目の『赤い雨』もSFです。著者の『新世界より』を彷彿させる作品でした。長編にしなかったのが惜しいほど、おもしろい作品で、こちらもお勧めです。架空の胞子、チミドロに蹂躙された未来。この世界では、スラムとドームの住人とで格差が発生し、互いに悪感情を持っています。チミドロによる赤い雨という侵略を防ぐべく、主人公の女性が立ち向かう話です。こちらはS少し法廷ものの要素も楽しめるSF作品です。 感心したのは、チミドロという胞子、そしてRAINという疫病の、説得力をもった描写です。ゼロから生み出したものに圧倒的知識で肉付けしているのが魅力的で、著者らしさが発揮されています。 どれも読み応えある作品でした。ただ、かつての長編と比較すると、少しカタルシスを得づらかったです。 215ページ5行目、改行しているのに一マス空けてないという校正ミスが少し気になりました。また、過去作では"えんか"とルビを振っていた嚥下という字に、今作では"えんげ"とルビを振ってあり、著者のこだわりの変化が新しい発見でした。 |
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本書は多重解決ミステリの先駆的作品として有名です。事件の概要はシンプルながら、事件に登場するあらゆる人物が容疑者として推理が並べられ、奥深いものとなっています。
ミステリのジャンルの一つである多重解決を初めてテーマにした作品として有名です。私は深水黎一郎氏の『ミステリー・アリーナ』しか多重解決作品を読んだことがありませんでした。同作が非常におもしろかったため、同じ系統の本作を読もうと思った次第です。 ミステリー・アリーナのレビューは、いずれ改めて読み返した際に行いたいと思います。 本書を読み終えた感想は、うーん、なんだか残念だなというものでした。先のレビューで、非常に文章が読みやすいとありましたが、私にはそんなことなかったです。いかにもな古典的作品であり、とっつきにくい文章でした。直訳的な文章が、頭に入ってこなかったからでしょうか。ホームズ作品を読んでいる気分でした。 登場人物に魅力が乏しく、誰の名前のどの推理を指摘しているか伝わってきません。一文が長く、セリフが多すぎ、指示語が多いことも難点でしょう。訳者は本当に頭で理解しながら翻訳してるのかと懐疑的に感じました。そのため少し辛い読書体験でした。 洋書慣れしてない方は苦痛に感じると思います。少なくともエラリー・クイーンや、クリスティーの作品で感じた感動はありませんでした。 本書はアンチ・ミステリの要素もあります。前に披瀝された推理の欠点を指摘し、六人がそれぞれまったく異なる人を犯人として挙げる趣向はおもしろかったです。特に、限定型と開放型のミステリという着眼点には、なるほど、おもしろいと思いました。 多重解決の先駆的作品であることへの敬意とアンチ・ミステリとしてのおもしろさを総合したとしても、私は☆4の評価止まりでした。期待が大きかったせいかもしれません。 |
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相変わらず久坂部ワールド全開の小説でした。
惨たらしく描写される死体、人間のどす黒い欲望、異常心理、医療が無力というメッセージ。これまで読んできた久坂部作品に共通するキーワードが、ふんだんに描かれた一作でした。 無痛というタイトルのとおり、本作には痛みを自覚できない人物が登場します。それゆえ、相手が痛みに恐怖する感情も理解できません。一種のサイコパスを相手に、主人公である医師が立ち向かいます。 この主人公もなかなかの特殊能力を持っており、外見だけで相手の病気の徴候を見つけることができます。一見馬鹿馬鹿しいようですが、丁寧に描かれ、説得力を感じます。主人公の特徴として申し分なく、本作を評価したポイントの一つです。 さて、本作におけるサイコパスは痛みの感情を知りません。それもある種、魅力といえるでしょうか。こちらは『先天性無痛症』という病気で、現に存在します。怪我をしたとき、痛みという感情がなければいいのにと、思ったことが何度かあると思いますが、痛みを知らなければ、危険かどうかがわかりません。朧げな記憶ですが、ずいぶん前に、痛みという感情のない子供が、自分をスーパーマンだと思い、高所から飛び降りたニュースがあったと聞いたことがあります。痛いという感情はなくても確実に体にダメージは与えられるので、知らないうちに命を落とすのでしょう。 また、本作にはもう一つ、刑法39条に対し問を投げかけるメッセージが込められています。心神喪失者は犯した罪を無効とし、心神耗弱者は、減刑にする。遺族からしたら、とても理不尽な法律です。本作は、精神障害を詐病し、簡単に精神障害のお墨付きを貰うという危険性も描いており、いかに刑法39条が歪んだ法律であるか思い知らせてくれます。 本作はミステリ要素はほとんどなく、ホラー要素が強いです。並のホラー小説より怖さを体験できます。グロ耐性のない方は、控えたほうがよいでしょう。 そういえば、とある明治の文豪が、作品の参考にと、人体解剖に立ち会ったというエピソードを聞いたことがあります。その点、現役の医師というのは優位なのでしょうね。(何を言いたいか、うっすら察してもらえたでしょうか) 少なくとも、以前レビューした同氏の『介護士K』よりは出来栄えが良く、少し評価を上げました。続編もあるそうなので、いずれ読みたいと思います。 |
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本作のテーマは、ずばりテレビ業界への皮肉です。
主人公はテレビ業界で下請けのような仕事をさせられている男で、彼は日頃から、やらせの報道を行っていました。不良少年らの非行をカメラに収めるのですが、実は彼らは主人公の悪友。しかし、スクープを連発する主人公を怪しむ同僚に身の潔白を証明しようと、巷で騒がれているシリアルキラーを捕まえようと調査していく内容です。 全体を通して暗いトーンの調子の話です。なので、ほのぼのした内容が好きな方には勧められません。ですが、私はバッドエンドだろうと内容が暗かったとしても、ミステリ要素があれば気にならないので、楽しく読めました。 若い読者をターゲットにしているためか、若者言葉が頻出していました。ネットと疎遠な年齢高めの方には、不向きかもしれません。YouTubeをツベと呼んでいたり、お疲れを乙と略していたり。テレビの偏向報道などへの皮肉も満載で、読んでいてリアルさがあり、とてもおもしろかっです。 本格ミステリ出身の作者なので、このようなサスペンス的作品は珍しいと思いますが、最後に驚きの結末があります。ただ、それが痛快なオチと思えず、あまりカタルシスを得られませんでした。後付けの結末ではないと思いますが、少し納得がいかなかったです。なので、評価は☆6としましたが、内容的には☆7でもよいくらいです。 何より作者が旧ツイッターの特徴を勉強していたり、根暗なシリアルキラーの心情を緻密に描写していたり、若者言葉を多用していたりで、とてもリアルです。おそらく挑戦的な内容なのでしょう。 ネットでテレビへの不信が募っている昨今、私と同じような世代の読者が読んだらどれほど心にささるのか、気になるところです。 |
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初めて著者の本を読みました。
本書は、作者と同名のヴァン・ダインが、シャーロック・ホームズにおけるワトソン助手よろしくファイロ・ヴァンス氏の推理を記録した形式をとっています。 事件は証券会社の経営者・ベンスン氏が、額を銃で撃ち抜かれたというもの。警察は、現場に残された犯人の遺留物らしきハンドバッグやアリバイ、動機などから犯人を絞ります。対してヴァンス氏は、この事件の特性から犯人の性格を予想し、推理していきます。 作中で検事に対し、アリバイや動機など信用できないなど持論を見せていて、珍しい探偵だなと思いました。 若干不満だったのは、探偵小説の性(さが)だからでしょうか、ヴァンス氏が、なかなか推理を披露しないことでした。最後になって、「私は、事件現場を訪れてすぐ、犯人の目星がついてました」ようなことを言ってるのですが、それならそれまでの話はなんだったのだと、思ってしまいます。探偵の天才性、変人さを表現するためか、ほかの作品でも度々散見されますが、中弛みする原因にもなるので、あまり良い手法とは思えないです。 2点目、作品を記録してるはずのヴァン・ダインが、まったく話に登場しないこと。一言も発言することなく、まるで幽霊視点なのかと勘ぐってしまいました。 決しておもしろくないわけではないですが、事件が小規模で、総じて話に派手さが少なく、記憶に残りづらい凡庸な作品でした。 とはいえヴァンス氏の人柄には魅力あるので、これ以降に書かれた作品も読んでみたいと思いました。 |
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分厚い小説でした。何しろ600ページを超える長篇です。そのため満足感が相当得られました。ページ数を確認せずAmazonで注文したので、こんなにも重厚な本だとは思いませんでした。
本作はSF要素を孕んだ奇書だといえます。あらすじとしては、主人公である少年が、学校帰りに、いつも通らない道に寄り、不思議な博物館を訪れます。そこはミュージアム・ミュージアムと紹介されるとおり、世界各地、しかも時を超えて昔のミュージアムの作品を見られるという、魅力的な場所です。そこで出会った少女と冒険をします。一方、古代エジプトの考古学者のパートも並行して描かれます。 そのエジプトの蘊蓄が凄まじかったのが、私に難解に感じさせた一つです。聞き馴染みのないカタカナ語が並べられ、元々エジプトの地理やら歴史やら知識がないと、頭に入って来づらいです。作中、二度ほど藤子不二雄先生の「恐竜の話を描くんだったら、恐竜博士になるくらい恐竜について勉強しなさい」という名言が引用されており、それを忠実に守っているのだとわかります。 そして、もう一つのパートは、とある作家の執筆風景です。物語の前半では執筆パートは少なめですが、後半になると執筆パートが増えていきます。 この物語を奇書だと表現したのは、これらのパートの構造です。あまり語るとネタバレになりますし、読み終えて消化不良の私自身、まだ物語の仕組みがイマイチ理解できていません。ただ、作者が、物語の創作そのものに苦悩して書き上げたのだろうことは伝わってきました。研究者というバックグラウンドがあるだけに、頭の構造が凡人には伝わりづらい難点がありました。 ただ、作中の主人公の夏休みの風景は昔懐かしさを思わせる美点があります。推理小説を読んだり、友人と雑誌を作って推理小説の共作をしたり、充実した夏休みを過ごしていて羨ましかったです。私の小学生時代の夏休みなどボケっとしていたので、もう少し遊んでおけば良かったと、しみじみ思いました。 どうして博物館に不思議な力があるか、科学的に説明もされていてプラス評価にもなります。 タイトルから子供向けのファンタジー作品だと侮るなかれ、読解困難な難解小説です。ラノベ過ぎるのも良くないですが、読者を置いてけぼりにするような設定も考えものだと思いました。 設定はおもしろいのに巧く活かせなかった惜しい小説という印象です。複雑な小説や、古代エジプトについて造詣の深い方はぜひ。 蛇足ですが、文中に、国語の問題について、筆者が何を主張したいかわかるわけないという意見に、大きく賛同しました。 蛇足ついでに、河出文庫から新しく発売された本作を読んだのですが、482ページに、亨(主人公の名前)は"美学"の両手を振り払ったとあり気になりました。"美学の両手"なんて表現があるのだろうかと疑問に感じ調べても出てきません。ひょっとしてこれは、"美宇"という少女の名前ではないか、誤植ではないでしょうか。 |
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本作は、兄妹と兄弟の視点で並行して物語が進められます。
兄妹は母親を交通事故で亡くし、父親から暴力を振るわれ、兄が密かに父親を殺害しようと計画することから始まります。 兄弟も同じく母親を海で亡くし、その死に継母が一枚噛んでいるのではと疑います。 二つの視点で物語が進む場合、意外な所で繋がりがあっておもしろいのが醍醐味でしょう。まったく別の事柄と考えられていた二つのエピソードが、実はリンクしていたら高評価したくなります。 では、本作はどうか。それぞれの話が独立していて、残念ながら意外な繋がりは見つけられませんでした。正直、一方のエピソードをそこまで深掘りした意図がわかりませんでした。 ですが、意外性は充分にあり、ミステリ好きには堪らないと思います。私自身、作者のミスリードにひっかかり、真相の一歩手前までは騙されていました。読んでいて違和感が生じた箇所があったので、少し悔しかったです。 真相が判ったとき、実はあのとき、何が起こっていたのか明かされ、驚きました。そして、本作の犯人の異常性、、、。 とても読み応えがあり満足できる一作でした。 ☆7にするか揺れましたが、先に挙げた一方のエピソードの付属的な要素と、度々文中に登場する龍の唐突さが理解できず、マイナス1した評価としました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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複数の人物が犯罪に加担するが途中で犯人側に不測の事態が発生する、、、。最近、キングを探せのレビューをした際、『疾風ロンド』に似ていると書きましたが、本作こそまさしく類似していました。
『ブルータスの心臓』では、3人の男が死体をリレー方式で運び、アリバイも担保するというもの。本作では第一章の終わりに、犯人にとっての不測の事態が起こります。こういう展開だとおもしろいなと予想しながら読んでいた私は、想像が当たり、思わずニヤリ。さすが東野圭吾、読者を驚かしてくれるなと思いました。 そして、主人公の疑心暗鬼。顔もわからない人物から狙われサスペンスに満ち、これは当たりだと思いました。 ではなぜ私が評価を☆6にしたか。 本作は、殺人リレーに加担することになる主人公の男、同じ職場に勤務する女性社員、事件を捜査する刑事の3人の視点で物語は進められます。なんといっても見ものは主人公の視点ですが、刑事の視点になると、どうも、話が冗長とでもいうのか、すでに読者の知っていることをなぞって事実がわかるのが退屈に感じられました。(これは、キングを探せを読んでいるときも思いました)これが倒叙物の欠点なのでしょうか。それでも刑事の視点に意味があると思い、結末まで読みましたが、やっぱり刑事視点の描写はいらなかったと思います。刑事の口調にも違和感がありました。刑事小説ではないので目は瞑りますが、若手とはいえ、刑事が自分のことを僕なんて言うのかなと。聞込みの前に私的な買物をする描写もどうかと思います。 それから登場人物が多い故に誰が誰だかわからなくなる点。あまり細かすぎる描写は不要ですが、人物の相関関係が複雑で理解しづらかったです。 そして結末の尻切れトンボ感。終盤駆け足になって、これで終わりなのと唖然としました。皮肉ある結末でしたが、では最後の、専務と宗方のやり取りは、なんだったのだろう。ひたすら上を目指し、逆玉の輿を狙い、関係を持っていた女性を捨てるという非情な男が、簡単に見捨てられるという、これまた皮肉なのだろうか。 第一章を読んだ時点での期待との落差があり、少し残念でした。 |
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初めてレビューをします。
本書は、見出しのとおり13個の話を収録した短編集です。13個も収めてあるので豪華と感じる人もいれば、その分、1話あたりの話が短く、物足りなく思う人もいるでしょう。 私は本書を読み終え、ドイルのホームズを思いだしました。本書における探偵、ミス・マープルが、火曜クラブに集った面々からの話を聞き終え、すぐに真相を見抜くのです。超人といってよいでしょう。私はホームズシリーズを齧ったほどしか読んでいませんが、謎が提示され、すぐに解決してしまうのですから、読者に推理させる暇がありません。なので、推理するよりかはマープルの推理のキレの良さを楽しむことに力点を置いて読むほうがよいかもしれません。 13個の話を平均して星4つとしましたが、際立っておもしろいと思ったものもありました。『聖ペテロの指のあと』は、英語ならではのアイデアが活かされていると思いましたし、『溺死』は、より一層、マープルの慧眼に畏れ入りました。 ところで、作中に『卵の黄身"が"白いか、それとも、卵の黄身"は"白いか』と問う文章が気になりました。いわゆる助詞にスポットを当てていると思いますが、英語圏に助詞など関係あるのでしょうか。いずれもisで表せそうですが、、、。原文が気になるところです。 |
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