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bamboo さんのレビュー一覧
bambooさんのページへレビュー数23件
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『皇帝と拳銃と』に次ぐシリーズ第二弾である本作。前作と話の繋がりはないので、本作から読みはじめても問題ないないです。
このシリーズは、刑事に追い詰められる犯人視点で物語が進む倒叙形式です。衝動的だったり計画的だったり、いずれにせよ上手くやり遂げたはずの犯行がどう見破られるのかが注目ポイントでしょう。 シリーズを通しての主人公役を務めるのは刑事二人。現実の刑事とは人物像がほど遠く、一人は死神のような容貌魁偉、もう一人はアイドル並みにルックスの良い刑事で、かなりユニークな設定かと思います。死神のような見た目の刑事が上司で、彼を表す文章は様々、死神だったりゾンビだったり、葬儀に参列する弔問客に喩えられます。そんな刑事から追及されるので、犯人の穏やかならぬ心情が伝わってきます。 ただ、本書も前作同様短編集なのですが、どの章においても刑事を死神と喩えており、幾分退屈になってきます。表現を変えども、死神のような奇妙なルックスという読者のイメージは変わらないだろうから、少しくどいと思いました。また、どの事件においてもパターンが似通っていて、退屈に感じさせる要素の一つです。 犯行→犯人への聞き込み→第三者Aへの聞き込み→犯人への聞き込み→第三者Bへの聞き込み→犯人への聞き込み、、、が続くのです。 本シリーズにおける見どころの一つが、死神刑事(名前は乙姫というこれまたイメージギャップを狙った名前)が、犯人に最初に会った瞬間から目をつけていて、どこが見破られたポイントだったのが物語の最後に明かす形式なので仕方ないにせよ、刑事二人が事件の謎に直面し苦労する描写がないので、これも退屈にさせる理由でした。 本作に収録してあるのは『愚者の選択』、『一等星かく輝けり』、『正義のための闘争』、『世界の望む静謐』で、なかでも表題作に関しては犯人を特定した論理的推理、あっと思わせる伏線回収が上手だと思いました。ただ、残念ながら総じて凡作の域は出ず、☆5という無難な点数となってしまいました。 ところで、それぞれの章ごとのタイトル、なかなかオシャレで好みでした。解説を読んで知ったのですが、前作を含めて本作も、それぞれのタイトルが、おるものを指しているのだそうです。 だとすれば、続編が出る可能性が高いとのこと。次のシリーズ作品が出たときには、かなりエッジの利いた変化球を期待したいです。 |
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田舎町で起こった少女の死を出発点として物語は始まります。殺されたのは都会から越してきた少女、エミリちゃん。
4人の友だちとプール際で遊んでいたところ、男に声をかけられます。困っているから誰か一人、助けてくれないか。エミリちゃんが指名され、時間が経てど戻ってこないことを心配した一人が見に行くと、変わり果てた姿のエミリちゃんが、、、。 かなり胸くそ悪い事件で幕を開け、湊かなえらしい作品と思いました。物語の本筋は、エミリちゃんを連れ去った男を目撃した四人の少女ら、彼女らがエミリちゃんの母親から償えと言われ、その後どういう人生を選んだのか。 第一作の『告白』同様、視点人物の台詞や手記形式で物語は進みます。 四人の少女には、すべて不幸が訪れます。そのなかにも胸くそ悪いエピソードが豊富で、イヤミスの女王と呼ばれるだけのことはあります。なかでも『くまの兄妹』は、かなり後味が悪い話でした。 そして最後、エミリちゃんの母親視点の語り。ここが一番の見どころです。都心から田舎へ、仕事の都合で引越し、地域ギャップにより周囲と馴染めない葛藤、娘を無惨にに殺され発狂した心情などなど、丁寧に描写されていました。と同時に、なぜエミリちゃんが狙われたのか知ります。ここが、本書での驚かせポイントでしょう。 四人の少女に不幸が連鎖した理由がそれっぼく描かれていましたが、こじつけっぽく思えたのがマイナスでした。それと、スカッとした騙されたという感覚も覚えなかったのもマイナス点です。 エミリちゃんの母親の心境の変化も理解しがたかったです。そもそも、わずか小学生の少女らに、面と向かって「償え」と言うのもやり過ぎだと思いますが、、、。 レビューを見れば、いろいろと深い考察をされている方がいて、なるほどなと思いました。本書に描かれていない裏のストーリーを考察していて、深読み必至の小説かもしれません。 今回が二度目の再読となりまして、最初に読み終わってから何年も経ち、ストーリーを忘れているところがあったので、新鮮な気持ちで読み進めました。ただ、三度目の再読はもうないでしょう。かなり重たい話なので、イヤミスに飢えてる方はどうぞ。 |
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辺りは雪一面、死体の第一発見者の足跡しかない、いわば雪上の密室。数多くある雪の密室の古典ミステリです。
現代のミステリ作品にも数多く影響を与えている雪上の密室という題材、私は足跡そのものにトリックが仕掛けられているのかと疑って読み進めました。金田一少年の事件簿や名探偵コナンにあるような、足跡に細工をするものが脳裏にあったからです。 ですが本作のトリックの主眼は実は足跡そのものになく、真相に驚きました。同じ題材を扱っていてもトリックが被らないように作家は苦心するので、おもしろいと思うと同時に、アイデアの被らないように作るのは大変だろうなと思いました。 本作も、『ユダの窓』同様、H.M卿が活躍する話です。H.M卿の甥視点でストーリーが進み、終盤に差し掛かったところでH.M卿登場、推理を披露するという流れです。 本作においても、翻訳物の欠点のためか、文章がわかりづらい箇所が多い印象でした。また、誰が話してるのか見失うことも多かったです。そのため話の全容は理解しづらかったですが、メイントリックになるほどと思いました。 本書を知ったきっかけが法月綸太郎氏の『雪密室』でした。本書の真相に触れてるため、未読の方はご注意くださいと但し書きされていて気になっていたので、ようやく『雪密室』の該当部分を読み直すことができました。 まだ2作とも読んでない方は、本書から読み始めるのをお勧めします。 |
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昨年、鈴木光司氏の刊行した『ユビキタス』の内容に興味が湧き、本作を手に取ってみました。ユビキタスのインタビューで、単なるホラーに留まらず超次元的な世界を描いたらしく、怖さのみを追求する作家ではないのだなと知りました。ユビキタスを読む前に他の作品も読んでみようと思い、デビュー作である今作を手に取った次第です。
ジャパニーズホラーの代表ともいえる本作。映画を観たことがなく、長い黒髪を振り乱した女性の怨念とバトルする作品と思っていたので敬遠してました。けれど読み終わって、そういう内容ではないことを知りました。 主人公、浅川は、姪が不審死した同一時刻、同じ年頃の少年が異様な死を遂げたことに興味を持ちます。二人の死は心臓麻痺による突然死で事件性なし。けれど調べると他にも二人、計四人が同じ時刻に突然死していて、何があったのか調べていくストーリーです。 不気味な表紙、巷で怖いと評判の本作ですが、どちらかというと怖い描写は控えめでした。なのでホラー慣れしてない方も安心して読めます。けれど、登場人物の異常な嗜好、怨念と化した女性の壮絶な過去、異形など、何やら不気味な演出は多かったです。 ページ数は少ないですが描写が緻密で情景描写、心情が多めで高ポイントです。昨今の、台詞ばかり多用するラノベ作家に見習ってほしいところです。 ただ、肝心のホラー描写について、やや控えめ、もう少し背筋を凍らせる物語を希望してた身として、評価を落とし、☆6としました。 |
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読み終わって、どっと疲れる作品でした。
スコットランドのとある平和な村で立て続けに起こる猟奇殺人。人間業と思えない怪力で犠牲者はバラバラにされていたり、魔人を思わせる不気味な咆哮が聞こえてきたりと、かなり恐ろしい内容でした。 美点は、丹念に描かれた新約聖書の内容と、読者を驚かせようという作者の企みでした。力作だと思いました。 ですが正直、それらの良かったところを打ち消すほど、全体的に内容が好みではなかったです。 一つ、死体の一部が見つかって猟奇的だと警察が騒ぐ→新たな死体の一部が見つかったのループが多く、飽きが多かったです。 死体の一部の棄てられた場所が重要となってくるのですが、犯人を特定するものではなく、ふーんそれで?って感じでした。 読んでるあいだ抱いていた嫌な予感が当たりました。以前に読んだ『暗闇坂の人喰いの木』同様、謎や猟奇的殺人のオンパレードで惹きつけながら、真相はガッカリという作品です。 ダイイングメッセージも強引さが否めません。 島田荘司作品をある程度読んでいない方は評価が低くなると思います。私にはまだ早かったようです。 |
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エラリー・クイーンの国名シリーズを幾つか読んできましたが、本作はこれまでの作品と毛色が違うと思いました。
一つは、何をおいても事件の猟奇性。丁字路に磔にされた死体――それだけでも猟奇的じみてますが、その死体には頭部がありません。それまでのクイーンの作品でこれほどまで残虐な死体は出てこなかったので、かなり珍しいと思いました。 思えば、手術を受ける患者がオペ前に殺されていた『オランダ靴の謎』や、劇の最中に観客の一人が殺されていた『ローマ帽子の謎』同様、読者の好奇心を見事に誘う出だしだと言えましょう。 二つ目は、スリリングな要素。エラリーが、次なる犠牲を阻止しようと駆けめぐる描写に、かなり惹き込まれました。 エジプト要素がないから国名シリーズに相応しくないというレビューがありました。たしかに、現場はアメリカで、エラリーがエジプト要素を持ち出すも、結果的に関係ないという話が序盤で明らかとなります。けれど私が初めて読んだオランダ靴の謎で、オランダ要素が皆無とわかっていたので、そこはご愛嬌と、あまり気になりませんでした。むしろ、エラリーがエジプトの蘊蓄を並べたことが、結果的にオチに繋がっていて、なかなか凝ってるし遊び心を感じられます。 ただ、ミステリ要素としては、ありがちだなと辛めにレビューしておきます。当時は珍しい仕掛けだったのでしょうか。けれど本作の仕掛けが幾つもある推理小説において、結末を予想でき、やっぱりなと思った読者は多いと思います。 古典小説なのだから現代人に通じるドンデン返しを求めるのは贅沢と言われるかもしれませんが、少々強引かなと思いました。 古典ついでに言えば、監視カメラが数多く設置されてる現在、死体を堂々と道標に磔にする大胆さは、古典小説ならではの発想の柔軟さだと思いました。監視カメラやらあらゆる技術の進化が、現在のミステリ作家を苦労させるなと、同情しました。 ついでに、エラリーやら検事やらが警戒するなか、みすみす連続殺人を起こさせてしまったのがマイナス評価でした。 探偵といえど完璧でない、けれど、次に狙われる可能性がある人物を殺されるのは、間が抜けてると言わざるをえません。 本書は創元推理文庫で読みました。直訳のような堅苦しい文章ですが、角川版と違って表紙が好みなので、創元推理文庫を贔屓にしてます。国名シリーズの未読は『ギリシャ棺の謎』を残すのみ。他の国名シリーズも文庫化をゆっくり待ち続けてます。 |
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初めて岡嶋二人の作品を読みました。
タイトルにしたとおり、かなり退廃的で暗い内容でした。主人公の男性が、息子の不登校の原因を探り、息子の同級生の謎の死や、息子が不登校になった理由など調査していく内容です。 裏表紙の説明にもあるとおり、親の苦悩が描かれ、子を持つ親は一層、共感して読むことができるのではないでしょうか。 描かれたのが1986年ということもあり、ラジカセが登場したりして、時代を感じさせる作品でした。登場人物、特に女性の台詞や反抗期の少年の悪態のつき方も一昔前といいますが、演劇のようで、今読むと少し違和感が否めません。 トリックも陳腐で、新鮮味はありませんでした。 ただ、チョコレートゲームの意味するものが何か、そして今の時代にも通じるモンスターペアレントの実態、我が子を想う親心の強さなど、丁寧に描かれているところもあり、そこは良かったです。 |
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いかにもメフィスト小説という一筋縄でいかない小説でした。
主人公の女子学生が大学仲間と心理実験に参加することから物語は始まります。実験の目的は、自分と無関係の人に悪意が働くか。 参加者はスマホにスイッチのアプリをインストールさせられ、スイッチを押せば、善良なパン屋の一家が破滅する。押すも押さなくても自由、実験の報酬は変わりません。彼らはパン屋の一家に恨みなどないはずですから、当然、押そうとするはずないですが、、、。 この設定で後半まで引っ張るのかと思いきや予想は裏切られ、デスゲーム→SF→宗教観→人怖など、あらゆるジャンルに読者は翻弄されます。突っ込みたいところはあるにしても、きちんとミステリの体を成していて、新鮮な読書体験でした。 ただ、なんか、いろいろと残念だなって思った作品でした。 一つは、文体。軽妙すぎて、同人誌的だなと思いました。良く言えば読みやすいので、読書嫌いな中高生にはお勧めかもしれません。 そして、宗教観についていけないことと、主人公のキャラクター性。魅力に乏しい登場人物も考えものですが、本書の主人公の特殊能力が突飛で、よくわかりませんでした。頭の中でコイントスする←なんだそれって感じでした。 あまり感情移入できる魅力的な登場人物はいませんでしたが、伏線の妙と、読者の予想をいい意味で裏切るサービス精神に、今後の作品が楽しみとなりました。 |
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代々医師である土岐一族。彼らは、なぜか皆、早死にしているという特徴があります。それぞれ、どういった理由で死を遂げたのか、5つの章に分けて描かれる話です。
長生きしすぎることへの是非を問うことの多い作者、本作においても同じメッセージ性が強かったです。あらすじを読めば、それぞれの一族の死に首謀者が関与しているミステリを期待したいところですが、残念ながらそういった話ではありません。元々、作者がミステリを書くイメージがなかったので、ある意味予想どおりでした。 ただ、章によっては嫉妬や憎悪など、醜い人間ドラマの要素があり、読み応えかありました。 特に、『希望の御旗』という章の話が私は好みでした。 絶対的正義はなく、見方を変えればどちらも正義に思える場面はよくあります。一見酷いことでも、ある意味その人のことを想ってした行為など。このお話は、がん検診に対する二つの主張が対立して描かれ、しかも医療の雑学なども詳細に述べられ、とても面白かったです。相手のことを想ってしているのに、結果的に悲惨な事態を招き、生かそうとすることが殺してしまう皮肉な話で、恐ろしい内容です。 ですが、全体を通してみれば、やはり物語としての満足度は低かったのが残念です。どうせなら、描かれていない他の早死にした人の死の顛末も描いてほしかったです。 |
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仕事先で濡れ衣を着せられ、転職するも失敗し、遂には犯罪に手を染めて刑務所に入れられた青年・玲斗の物語です。ですが、弁護士が接見し、玲斗の伯母を名のる女性に助けてもらい、クスノキの番人を務めてほしいという頼みを、訳もわからず引き受けることから物語は始まります。
クスノキにはどんな秘密があるのか。そしてクスノキの祈念に訪れる人の、祈念日には法則性があり、、、。など、クスノキそのものにまつわる謎から始まって、どうして伯母が玲斗に依頼を頼んだのかなど、あらゆる謎が解明されます。東野作品らしい内容でした。 本書では、主に3つのストーリーが同時進行され描かれます。 1.伯母の務めるグループのホテル経営にまつわる対立。 2.チャラい青年が、会社の秘書のような人を伴って何度もクスノキの祈念に訪れる理由。 3.同じく祈念に訪れる男性の娘が、父親の行動を怪しみ、玲斗と共に探る話。 これらが平行に描かれます。そのため本書がページ数が多くなってる理由でしょう。『マスカレード・ホテル』でも思いましたが冗長に感じられました。1と3は必要かもしれないけど、2の内容は省いてよかったのではないのかと。 加えて、伏線の張り方が上手に感じられるけれど、回収されたときの気持ちよさがなかったです。負け惜しみに思えるかもしれませんが、読中、少し疑問に思いました。ですが、真剣に考えませんでした。それは、別の理由だからだと解釈できたからです。(詳しくはネタバレ注意の場所にコメントします) ただ、主人公の頼りなさげな仕草、口調、考え方は、今の若い人にいそうだなと思えました。玲斗は、運に見放された出自で生き方をして、流れに身を任せようとし、伯母からは厭世的と評価されてますが、純真な心を持っていて、魅力あるキャラクターでした。口が達者なのは、少し人物像とギャップがありますが。 SF要素がありますが、『ナミヤ〜』ほどの魅力はなく、"ナミヤの劣化版"という別のレビュアーの方の意見に賛同です。 ナミヤは中高生向けのSF強め作品で、本書は、大人向けの道徳小説なのでしょうね。考えさせられはしますが、内容の魅力は乏しいです。 いつもどおり手厳しく書いたかもしれませんが、普通よりは上だけど満足ではなく、☆6にしました。 それにしても、本作もクスノキシリーズとして続編があるようです。玲斗の成長が楽しみですが、シリーズものが多すぎやしませんかね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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心臓手術を行うロボット、ミカエル。そのロボットを使う第一人者である医師、西條が主人公の物語です。西條は、ミカエルを使い、あらゆる手術をこなしてきました。だからミカエルに対する信頼も厚い。けれど、そんなミカエルに欠陥がある疑いを聞き、本当にミカエルを使って大丈夫だろうかと、葛藤しながらオペに臨むのが粗筋です。
本書を読んで一番お見事と思ったのは、終盤の手術シーンでした。医療事故を引き起こしやすいロボットを使い、患者の命を救えるかという緊張感が伝わってきましたし、緻密な手術の描写が、とてもリアルでした。手術の用語が羅列していて、相当調べ、力を入れたのだろうと推測できます。 ただ、他は空虚と感じられました。改行が多く、不要な描写も多いです。読書が苦手な人には読みやすい本といえるでしょうが、改行が多いせいで本が厚くなってしまってる始末です。いろいろ削れば、400ページくらいに収まったと思いました。 また、細かいようですが、逆説の"が"を多用しており、気になりました。『〜だった。"が"、〜だった』というふうに。"しかし"や、"だが"、"けれど"など、いろいろ接続詞はあるのに、"が"に固執するのはなぜだろうと、少し目につきました。 展開が予想どおりなのも残念と感じました。なぜ、あの場面で、あんなことが起こったのかについて、説得力ある説明がほしかったです。 ミステリ要素は皆無のヒューマンストーリーの作品です。かといって登場人物の個性は少ないです。 辛辣なレビューをしたかもしれませんが、手術の場面のリアルさを総合し、可もなく不可もなくの☆5評価としました。 |
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有栖川有栖の国名シリーズの一つである本作は、短編集の形式。
タイトルと表紙に惹かれ、久しぶりに有栖川作品を読みました。感想はタイトルのとおり、パッとしない話ばかりでした。 物語の導入はおもしろいけれど真相がイマイチという竜頭蛇尾な作品ばかりで、暫くしたら内容を忘れてるだろう短編集です。 一番良かった話は『妄想日記』でした。ですが、その話もスッキリとした謎の答えになっておらず、やや消化不良です。 表題作においてはホワイ・ダニットの答が明示されておらず、完全に名前負けした作品でした。 マジックの種明かしをされてガッカリということがよくありまして、本作もそういう印象です。火村と有栖川コンビのキャラクターの魅力を考慮し、☆4としました。 |
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小惑星が地球に衝突し、あと三年で人類が滅亡する設定の世界観で、同じ団地に住む住人たちの生き方に焦点を当てた作品です。
八年後に人類が滅亡すると知らされ、人々はパニックに陥ります。ルールは破られ、生きていくために殺すことが日常となった世界ですが、滅亡まで三年とカウントダウンしていくと、人々は小康状態になります。滅亡までの余生の過ごしたが各々異なっていて、おもしろかったです。同じ地域の住民がそれぞれの話で主人公となった短編集の形式なので、それそれの話に少し繋がりもありました。 全体に重くはなく、喜劇のような話が多いです。なので、気軽に読むことはできますが、その軽さが世界観と一致せず、違和感が拭えません。ほのぼのした話に、突如、『〇〇さんは見知らぬ人に襲われて死んだ』と、あっさり書かれていて、殺伐とした設定とギャップがあり残念でした。 加えて、この作品のメッセージ性も漠然としていて、求めていた作品と違いました。 |
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前作では少年だったツナグが、成長して青年になったという設定で、5つの話を収録した短編集です。シリーズ物なので、前作を知っていないと設定が飲み込めないと思います。
私は、1話目がお気に入りでした。前作の続きで、ツナグは青年のはずなのに、1話目に登場するツナグは少女で、どういうことだろうかと思いながら読み進め、少し意外な答えがあり、おもしろかったです。前作との繋がりも感じられ、懐かしさもありました。 ただ、全体を通して評価すれば、平凡といわざるをえないです。せっかく死者と再会できるという美味しい設定でありながら、感動できなかったです。 話の途中、驚きの展開がありますが、それを通じてのツナグの変化もありがちで、小学生向けの道徳的作品になってました。 作中、前の短編に登場した人物と偶然再会していて、"ご縁"という言葉で片付けていますが、作為的で白けてしまいました。 もう少し感動や意外性を求めていただけに、ハードルを越えられなく残念な印象でした。前作で設定に虜になり、ツナグの成長を楽しみに思った方なら高い評価になると思います。 |
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本作は4つの話を収録しています。3つはSF、もう1つはミステリの仕掛けを施したサスペンスです。タイトルの罪人の選択は、ピンチから脱するために正しいほうを選ぶというサスペンス作品です。
それぞれ毛色の異なる内容なので、読む人によって好きな作品は異なると思います。私は2編目の『呪文』が好みでした。 とある惑星の話で、主人公の男は、その惑星で信仰されている宗教について調査します。普通、困ったときの神頼みという言葉にあるように、神を崇めるはずが、この惑星では、神様に悪感情を抱いてます。そして、その惑星の住民は平然と不敬な行為を行うのです。 なぜ。そして、どうしてこの惑星にら次々と災いが降りかかるのか。ミステリ的要素とホラー要素、SFを上手くミックスさせたディストピア小説で好みでした。 4編目の『赤い雨』もSFです。著者の『新世界より』を彷彿させる作品でした。長編にしなかったのが惜しいほど、おもしろい作品で、こちらもお勧めです。架空の胞子、チミドロに蹂躙された未来。この世界では、スラムとドームの住人とで格差が発生し、互いに悪感情を持っています。チミドロによる赤い雨という侵略を防ぐべく、主人公の女性が立ち向かう話です。こちらはS少し法廷ものの要素も楽しめるSF作品です。 感心したのは、チミドロという胞子、そしてRAINという疫病の、説得力をもった描写です。ゼロから生み出したものに圧倒的知識で肉付けしているのが魅力的で、著者らしさが発揮されています。 どれも読み応えある作品でした。ただ、かつての長編と比較すると、少しカタルシスを得づらかったです。 215ページ5行目、改行しているのに一マス空けてないという校正ミスが少し気になりました。また、過去作では"えんか"とルビを振っていた嚥下という字に、今作では"えんげ"とルビを振ってあり、著者のこだわりの変化が新しい発見でした。 |
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本書は多重解決ミステリの先駆的作品として有名です。事件の概要はシンプルながら、事件に登場するあらゆる人物が容疑者として推理が並べられ、奥深いものとなっています。
ミステリのジャンルの一つである多重解決を初めてテーマにした作品として有名です。私は深水黎一郎氏の『ミステリー・アリーナ』しか多重解決作品を読んだことがありませんでした。同作が非常におもしろかったため、同じ系統の本作を読もうと思った次第です。 ミステリー・アリーナのレビューは、いずれ改めて読み返した際に行いたいと思います。 本書を読み終えた感想は、うーん、なんだか残念だなというものでした。先のレビューで、非常に文章が読みやすいとありましたが、私にはそんなことなかったです。いかにもな古典的作品であり、とっつきにくい文章でした。直訳的な文章が、頭に入ってこなかったからでしょうか。ホームズ作品を読んでいる気分でした。 登場人物に魅力が乏しく、誰の名前のどの推理を指摘しているか伝わってきません。一文が長く、セリフが多すぎ、指示語が多いことも難点でしょう。訳者は本当に頭で理解しながら翻訳してるのかと懐疑的に感じました。そのため少し辛い読書体験でした。 洋書慣れしてない方は苦痛に感じると思います。少なくともエラリー・クイーンや、クリスティーの作品で感じた感動はありませんでした。 本書はアンチ・ミステリの要素もあります。前に披瀝された推理の欠点を指摘し、六人がそれぞれまったく異なる人を犯人として挙げる趣向はおもしろかったです。特に、限定型と開放型のミステリという着眼点には、なるほど、おもしろいと思いました。 多重解決の先駆的作品であることへの敬意とアンチ・ミステリとしてのおもしろさを総合したとしても、私は☆4の評価止まりでした。期待が大きかったせいかもしれません。 |
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相変わらず久坂部ワールド全開の小説でした。
惨たらしく描写される死体、人間のどす黒い欲望、異常心理、医療が無力というメッセージ。これまで読んできた久坂部作品に共通するキーワードが、ふんだんに描かれた一作でした。 無痛というタイトルのとおり、本作には痛みを自覚できない人物が登場します。それゆえ、相手が痛みに恐怖する感情も理解できません。一種のサイコパスを相手に、主人公である医師が立ち向かいます。 この主人公もなかなかの特殊能力を持っており、外見だけで相手の病気の徴候を見つけることができます。一見馬鹿馬鹿しいようですが、丁寧に描かれ、説得力を感じます。主人公の特徴として申し分なく、本作を評価したポイントの一つです。 さて、本作におけるサイコパスは痛みの感情を知りません。それもある種、魅力といえるでしょうか。こちらは『先天性無痛症』という病気で、現に存在します。怪我をしたとき、痛みという感情がなければいいのにと、思ったことが何度かあると思いますが、痛みを知らなければ、危険かどうかがわかりません。朧げな記憶ですが、ずいぶん前に、痛みという感情のない子供が、自分をスーパーマンだと思い、高所から飛び降りたニュースがあったと聞いたことがあります。痛いという感情はなくても確実に体にダメージは与えられるので、知らないうちに命を落とすのでしょう。 また、本作にはもう一つ、刑法39条に対し問を投げかけるメッセージが込められています。心神喪失者は犯した罪を無効とし、心神耗弱者は、減刑にする。遺族からしたら、とても理不尽な法律です。本作は、精神障害を詐病し、簡単に精神障害のお墨付きを貰うという危険性も描いており、いかに刑法39条が歪んだ法律であるか思い知らせてくれます。 本作はミステリ要素はほとんどなく、ホラー要素が強いです。並のホラー小説より怖さを体験できます。グロ耐性のない方は、控えたほうがよいでしょう。 そういえば、とある明治の文豪が、作品の参考にと、人体解剖に立ち会ったというエピソードを聞いたことがあります。その点、現役の医師というのは優位なのでしょうね。(何を言いたいか、うっすら察してもらえたでしょうか) 少なくとも、以前レビューした同氏の『介護士K』よりは出来栄えが良く、少し評価を上げました。続編もあるそうなので、いずれ読みたいと思います。 |
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本作のテーマは、ずばりテレビ業界への皮肉です。
主人公はテレビ業界で下請けのような仕事をさせられている男で、彼は日頃から、やらせの報道を行っていました。不良少年らの非行をカメラに収めるのですが、実は彼らは主人公の悪友。しかし、スクープを連発する主人公を怪しむ同僚に身の潔白を証明しようと、巷で騒がれているシリアルキラーを捕まえようと調査していく内容です。 全体を通して暗いトーンの調子の話です。なので、ほのぼのした内容が好きな方には勧められません。ですが、私はバッドエンドだろうと内容が暗かったとしても、ミステリ要素があれば気にならないので、楽しく読めました。 若い読者をターゲットにしているためか、若者言葉が頻出していました。ネットと疎遠な年齢高めの方には、不向きかもしれません。YouTubeをツベと呼んでいたり、お疲れを乙と略していたり。テレビの偏向報道などへの皮肉も満載で、読んでいてリアルさがあり、とてもおもしろかっです。 本格ミステリ出身の作者なので、このようなサスペンス的作品は珍しいと思いますが、最後に驚きの結末があります。ただ、それが痛快なオチと思えず、あまりカタルシスを得られませんでした。後付けの結末ではないと思いますが、少し納得がいかなかったです。なので、評価は☆6としましたが、内容的には☆7でもよいくらいです。 何より作者が旧ツイッターの特徴を勉強していたり、根暗なシリアルキラーの心情を緻密に描写していたり、若者言葉を多用していたりで、とてもリアルです。おそらく挑戦的な内容なのでしょう。 ネットでテレビへの不信が募っている昨今、私と同じような世代の読者が読んだらどれほど心にささるのか、気になるところです。 |
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初めて著者の本を読みました。
本書は、作者と同名のヴァン・ダインが、シャーロック・ホームズにおけるワトソン助手よろしくファイロ・ヴァンス氏の推理を記録した形式をとっています。 事件は証券会社の経営者・ベンスン氏が、額を銃で撃ち抜かれたというもの。警察は、現場に残された犯人の遺留物らしきハンドバッグやアリバイ、動機などから犯人を絞ります。対してヴァンス氏は、この事件の特性から犯人の性格を予想し、推理していきます。 作中で検事に対し、アリバイや動機など信用できないなど持論を見せていて、珍しい探偵だなと思いました。 若干不満だったのは、探偵小説の性(さが)だからでしょうか、ヴァンス氏が、なかなか推理を披露しないことでした。最後になって、「私は、事件現場を訪れてすぐ、犯人の目星がついてました」ようなことを言ってるのですが、それならそれまでの話はなんだったのだと、思ってしまいます。探偵の天才性、変人さを表現するためか、ほかの作品でも度々散見されますが、中弛みする原因にもなるので、あまり良い手法とは思えないです。 2点目、作品を記録してるはずのヴァン・ダインが、まったく話に登場しないこと。一言も発言することなく、まるで幽霊視点なのかと勘ぐってしまいました。 決しておもしろくないわけではないですが、事件が小規模で、総じて話に派手さが少なく、記憶に残りづらい凡庸な作品でした。 とはいえヴァンス氏の人柄には魅力あるので、これ以降に書かれた作品も読んでみたいと思いました。 |
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分厚い小説でした。何しろ600ページを超える長篇です。そのため満足感が相当得られました。ページ数を確認せずAmazonで注文したので、こんなにも重厚な本だとは思いませんでした。
本作はSF要素を孕んだ奇書だといえます。あらすじとしては、主人公である少年が、学校帰りに、いつも通らない道に寄り、不思議な博物館を訪れます。そこはミュージアム・ミュージアムと紹介されるとおり、世界各地、しかも時を超えて昔のミュージアムの作品を見られるという、魅力的な場所です。そこで出会った少女と冒険をします。一方、古代エジプトの考古学者のパートも並行して描かれます。 そのエジプトの蘊蓄が凄まじかったのが、私に難解に感じさせた一つです。聞き馴染みのないカタカナ語が並べられ、元々エジプトの地理やら歴史やら知識がないと、頭に入って来づらいです。作中、二度ほど藤子不二雄先生の「恐竜の話を描くんだったら、恐竜博士になるくらい恐竜について勉強しなさい」という名言が引用されており、それを忠実に守っているのだとわかります。 そして、もう一つのパートは、とある作家の執筆風景です。物語の前半では執筆パートは少なめですが、後半になると執筆パートが増えていきます。 この物語を奇書だと表現したのは、これらのパートの構造です。あまり語るとネタバレになりますし、読み終えて消化不良の私自身、まだ物語の仕組みがイマイチ理解できていません。ただ、作者が、物語の創作そのものに苦悩して書き上げたのだろうことは伝わってきました。研究者というバックグラウンドがあるだけに、頭の構造が凡人には伝わりづらい難点がありました。 ただ、作中の主人公の夏休みの風景は昔懐かしさを思わせる美点があります。推理小説を読んだり、友人と雑誌を作って推理小説の共作をしたり、充実した夏休みを過ごしていて羨ましかったです。私の小学生時代の夏休みなどボケっとしていたので、もう少し遊んでおけば良かったと、しみじみ思いました。 どうして博物館に不思議な力があるか、科学的に説明もされていてプラス評価にもなります。 タイトルから子供向けのファンタジー作品だと侮るなかれ、読解困難な難解小説です。ラノベ過ぎるのも良くないですが、読者を置いてけぼりにするような設定も考えものだと思いました。 設定はおもしろいのに巧く活かせなかった惜しい小説という印象です。複雑な小説や、古代エジプトについて造詣の深い方はぜひ。 蛇足ですが、文中に、国語の問題について、筆者が何を主張したいかわかるわけないという意見に、大きく賛同しました。 蛇足ついでに、河出文庫から新しく発売された本作を読んだのですが、482ページに、亨(主人公の名前)は"美学"の両手を振り払ったとあり気になりました。"美学の両手"なんて表現があるのだろうかと疑問に感じ調べても出てきません。ひょっとしてこれは、"美宇"という少女の名前ではないか、誤植ではないでしょうか。 |
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