■スポンサードリンク


bamboo さんのレビュー一覧

bambooさんのページへ

レビュー数5

全5件 1~5 1/1ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.5: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

殺意なき殺人。さり気なく描かれた描写に伏線あり

湊かなえのデビュー作『告白』と肩を並べるほど評価される本作。一文に驚かされるドンデン返し小説という評判で、かなりワクワクして読み進めました。
湊かなえにしては珍しく主人公は若い男性。あまり陽気なキャラではなく、かといって根が暗いキャラでなく、みんなにコーヒーを振る舞うのが楽しみという支え役です。彼は、大学のサークルのメンバーと共に信州の高原へバーベキューをしに出かけます。
仲間と共に昼食を摂ったり、バーベキューをしたりして楽しんでいたところ、悲劇が起こります。その悲劇は、かなりリアリティがあり、日常よくある悲劇です。
不幸な事故です。仲間のうちの誰かが殺人を起こすはずがない。けれど、"殺人を起こしたのはお前だ"という告発文が相次いでメンバーに送られます。一体、誰が告発文を送っているのか、そして、あの悲劇は本当に事故だったのか、主人公が調査していく内容です。

まず、主人公を含め若い男性が多く登場するのですが、彼らの発言、動作、心情などにまったく違和感がなく、一つ評価したポイントです。
そしてもう一つの高評価ポイントは、見事に騙されたということ。これは、後に述べることとします。

密告状を送ったのが誰かは、私はすぐ当てられました。犯人当て小説に目が肥えてるからでしょうか、直感的に怪しいと思いました。
終盤、密告状を送った人の正体が明かされ、なんだと少し唖然としました。見事に騙されたという評判は、こんな程度なのかと。
しかし、最後の最後、物語は予想を超える結末を迎えます。思わず、なるほど! と、思いました。そして、いかにも湊かなえらしい作品だと思いました。本作が高評価されているのも納得の出来栄えてす。

惜しいのは、やはり密告状の送り主が誰か、もう少しわかりづらくしてよかったのではないかという点です。そのせいで、どうせこの人なんだろうなという先入観で読んでしまい、多少中弛みした感が否めません。おそらく、すべては最後のドンデン返しを引き立てるためだったのでしょう。そうだとわかっていたとしても中弛みしたのは正直な感想です。そのぶん、ドンデン返しのインパクトは絶大でした。
評価どおり、私のなかでは告白より本作のほうが好みです。
リバース (講談社文庫)
湊かなえリバース についてのレビュー
No.4: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

一筋縄ではいかない挑戦的作品

登場人物全員、同じ名前――。過去に、これほど意欲的な作品を書いた作家はいたでしょうか。
残虐な殺人を犯した男と同姓同名で苦しむ人たちを描いた作品です。男は少年法により顔を公開されず、名前だけ知れ渡ってしまった状態で、そのせいで名前だけで就活や進学に支障をきたした人物たちが登場します。
メッセージ性が強く、作者の主張に一つ一つ共感ができ、とても良作です。加えて、物語の真相に意外性をもたしてもいて、読者をこれでもかと翻弄させる内容に、作者のサービス精神を感じました。
未読の方は、一つ一つ疑ってかかって読んでみてください。

辛くレビューするとすれば、地の文が平易に感じられたことです。"血で染まったような夕焼け"、"身を切る風はナイフのよう"など、ありふれた表現だと思いました。
人物のミスリーディングを明かす種明かしも、少し強引ではないかと思いました。

ですが一方で、登場人物のセリフの説得力と、ネット上の罵倒文句はリアルでした。
5段階評価すると、アイデア5、セリフ5、地の文2、ミステリ要素4
久しぶりに読み応えのある作品に満足できました。
同姓同名 (幻冬舎文庫)
下村敦史同姓同名 についてのレビュー
No.3: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

介護の過酷さとミステリを融合させた模範作

本作は、大雑把に書くと、1.介護の過酷さ、2.介護士の不条理さ、3.主人公が推理していく過程、4.どんでん返し、という構成です。

再読し、デビュー作と思えないくらい文章力があると思いました。初めて読んだのが学生時代、まだあまり犯人当て小説に目が肥えておらず、本作がミステリとも思っていなかったので、明かされた犯人に驚きました。今読み返せば、綾辻氏の『十角館の殺人』に似た要素を感じました。小説ならではのトリックだと思います。
犯人を惑わす要素はワンアイデアと思えなくないですが、介護の過酷さが強烈に描かれ、上手に機能しています。最後の最後まで犯人をミスリードし、結末に犯人を明かし、頭が?になったところを、その疑問を華麗に回収します。とてもお見後です。ミステリ初心者にお勧めできるし、ミステリ通も騙される人がいるかもしれません。
本作を評価したもう一つのポイントは、文章の読みやすさです。とても頭に入ってきやすく、物語の構成も上手です。
途中に出てくる薬物やら詐欺やらは蛇足な気もしますが、、、。

お勧めしづらいとすれば、冒頭の介護生活の地獄絵図と、主人公の魅力の薄さでしょうか。
先日レビューした『明日なき暴走』で、ミステリ要素が関係するなら暗い話も許容できると書きましたが、本作の冒頭は、眉を顰めたくなるほど描写がグロテスクです。私は頭の中で想像しながら読んでいくタイプなので、想像しただけで気持ち悪くなってしまいました。食前後に読まないほうがよいでしょう。
二つ目の主人公の魅力の薄さですが、本作の主人公は、正義感と熱血に溢れ、性善説を信じる検察官ですが、いまひとつ魅力が乏しかった印象です。信じていた性善説をロストさせるためにそういう特徴にしたのでしょうが、私には熱血感が過ぎて共感もしづらかったです。嫌なことがあると耳の奥が疼くとありましたが、後の作品に登場する奥貫綾乃にも似た特徴があったはずで、あまり個性がないです。

ですが、社会小説としてもミステリ小説としても充分ですし、文章も巧みで満足できる作品でした。
ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中顕ロスト・ケア についてのレビュー
No.2: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

テーマは遺伝子と家族の絆

三度目か四度目の再読となりました。
とても内容が充実していました。放火やDNA、グラフィティアートなど要素が多いですが、家族の絆がメインテーマに思えました。
放火された現場近くに残されるグラフィティアート。その共通点を主人公が見つけたときは、あまりなんとも思いませんでしたが、さらに遺伝子の謎を追求し、アミノ酸の暗号を調べるうちに一つのメッセージが浮かび上がったとき、少し感動しました。作者はここまで計算して話を作り出していたのかと。
また、登場人物の個性が豊かで気に入りました。特に私は、病室で癌と闘う父親の人となりが気に入りました。兄弟と一緒に放火とグラフィティアートの関連を調べる姿に微笑ましさを感じましたし、何より、最後のシーン。「お前は、俺に似て嘘をつくのが下手だからな」何げない一言のようですが、この小説を読む前と読んだ後とで印象ががらりと変わり感動します。

伊坂作品は少し奇を衒った文章を書くことが多いですが、本作は私は好みでした。
ただ、あまり話を逆算して描いているため、途中に出てくる"橋Ⅰ"、"橋Ⅱ"は、なんの話をしているのか初読のときはわかりづらいかなと思います。
ところで、橋Ⅱに登場した謎の男が、ある島で不思議な島で、未来を預言するカカシなど奇妙な体験をしたとありましたが、ひょっとして過去作と繋がっているのでしょうか。そちらも読んでみたいと思いました。
伊坂作品にはぶっ飛んだ設定の作品が多い印象で少し苦手意識がありますが、本作はとてもお薦めです。
重力ピエロ (新潮文庫)
伊坂幸太郎重力ピエロ についてのレビュー
No.1: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

予定調和で終わらないカードマジック

学生時代以来、2度目の再読をしました。
本格ミステリで第1位だっただけあり、とても面白かったです。意外と展開やら結末やら忘れていたので、初読のときと同じ新鮮な気持ちで楽しめました。
まず、四重交換殺人という発想に敬服します。私は実験的なミステリが好きなので、誰も書いたことのないアイデアを起点に進行していく話に評価が高くなります。そして、物語は予定調和で終わりません。序盤から少し物語が進行したベージで、犯人側にとって不測の事態が起こります。その、本流を裏切る流れは、東野圭吾氏の疾風ロンドを思い起こさせました。
私は、今回再読したとき、犯人のハンドルネーム4つと、殺すターゲット、殺す順番を、それぞれメモしていました。未読の方にもお勧めです。そうすることで、次に(♡◯)、誰が、どのターゲットを(♤◯)殺すか流れを追えるだけでなく、自然と作者の術中に嵌まってしまうのです。
途中、カードの引く順番と、自分が殺したいターゲットを自分が殺せない問題について、作者が探偵法月氏の口を借りて(作者も本書の探偵と同名なので紛らわしい)講釈する場面があります。その思考は、まさしく四重殺人という特殊ケース故に発生しうる問題で、若干小難しくなっているきらいがあります。まさしく論理的思考の極地に感じられました。
さて、最後にタイトルにも書いたカードマジックについて。本書がカードを用いているからだけでなく、結末で明かされる真相が、たしかになるほどと唸らせられるのですが、どうしても、他のレビュアーさんが評価しているように小粒に思えて仕方ありません。冒頭の伏線が回収され、終盤、罪が軽くなるよう弄した犯人の一人の策略など、なるほどと思わせられますが、いかんせんパンチが弱い。もう少し話を壮大にできる余地はありそうです。
なので例えれば、大脱出マジックではなく、マジシャンの手元で驚かされるカードマジックという表現が相応しいです。
けれど、読み応え抜群、ミステリ好きにお薦めできる一級品でした。
キングを探せ (講談社文庫)
法月綸太郎キングを探せ についてのレビュー