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bamboo さんのレビュー一覧

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レビュー数7

全7件 1~7 1/1ページ

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No.7: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

大人向けの道徳小説

仕事先で濡れ衣を着せられ、転職するも失敗し、遂には犯罪に手を染めて刑務所に入れられた青年・玲斗の物語です。ですが、弁護士が接見し、玲斗の伯母を名のる女性に助けてもらい、クスノキの番人を務めてほしいという頼みを、訳もわからず引き受けることから物語は始まります。
クスノキにはどんな秘密があるのか。そしてクスノキの祈念に訪れる人の、祈念日には法則性があり、、、。など、クスノキそのものにまつわる謎から始まって、どうして伯母が玲斗に依頼を頼んだのかなど、あらゆる謎が解明されます。東野作品らしい内容でした。

本書では、主に3つのストーリーが同時進行され描かれます。
1.伯母の務めるグループのホテル経営にまつわる対立。
2.チャラい青年が、会社の秘書のような人を伴って何度もクスノキの祈念に訪れる理由。
3.同じく祈念に訪れる男性の娘が、父親の行動を怪しみ、玲斗と共に探る話。
これらが平行に描かれます。そのため本書がページ数が多くなってる理由でしょう。『マスカレード・ホテル』でも思いましたが冗長に感じられました。1と3は必要かもしれないけど、2の内容は省いてよかったのではないのかと。
加えて、伏線の張り方が上手に感じられるけれど、回収されたときの気持ちよさがなかったです。負け惜しみに思えるかもしれませんが、読中、少し疑問に思いました。ですが、真剣に考えませんでした。それは、別の理由だからだと解釈できたからです。(詳しくはネタバレ注意の場所にコメントします)

ただ、主人公の頼りなさげな仕草、口調、考え方は、今の若い人にいそうだなと思えました。玲斗は、運に見放された出自で生き方をして、流れに身を任せようとし、伯母からは厭世的と評価されてますが、純真な心を持っていて、魅力あるキャラクターでした。口が達者なのは、少し人物像とギャップがありますが。

SF要素がありますが、『ナミヤ〜』ほどの魅力はなく、"ナミヤの劣化版"という別のレビュアーの方の意見に賛同です。
ナミヤは中高生向けのSF強め作品で、本書は、大人向けの道徳小説なのでしょうね。考えさせられはしますが、内容の魅力は乏しいです。
いつもどおり手厳しく書いたかもしれませんが、普通よりは上だけど満足ではなく、☆6にしました。
それにしても、本作もクスノキシリーズとして続編があるようです。玲斗の成長が楽しみですが、シリーズものが多すぎやしませんかね。


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クスノキの番人 (実業之日本社文庫)
東野圭吾クスノキの番人 についてのレビュー
No.6:
(6pt)

ツナグ 想い人の心得の感想

前作では少年だったツナグが、成長して青年になったという設定で、5つの話を収録した短編集です。シリーズ物なので、前作を知っていないと設定が飲み込めないと思います。
私は、1話目がお気に入りでした。前作の続きで、ツナグは青年のはずなのに、1話目に登場するツナグは少女で、どういうことだろうかと思いながら読み進め、少し意外な答えがあり、おもしろかったです。前作との繋がりも感じられ、懐かしさもありました。
ただ、全体を通して評価すれば、平凡といわざるをえないです。せっかく死者と再会できるという美味しい設定でありながら、感動できなかったです。
話の途中、驚きの展開がありますが、それを通じてのツナグの変化もありがちで、小学生向けの道徳的作品になってました。
作中、前の短編に登場した人物と偶然再会していて、"ご縁"という言葉で片付けていますが、作為的で白けてしまいました。
もう少し感動や意外性を求めていただけに、ハードルを越えられなく残念な印象でした。前作で設定に虜になり、ツナグの成長を楽しみに思った方なら高い評価になると思います。
ツナグ 想い人の心得
辻村深月ツナグ 想い人の心得 についてのレビュー
No.5:
(6pt)

圧倒的知識と説得力で構築されたSF中編集

本作は4つの話を収録しています。3つはSF、もう1つはミステリの仕掛けを施したサスペンスです。タイトルの罪人の選択は、ピンチから脱するために正しいほうを選ぶというサスペンス作品です。

それぞれ毛色の異なる内容なので、読む人によって好きな作品は異なると思います。私は2編目の『呪文』が好みでした。
とある惑星の話で、主人公の男は、その惑星で信仰されている宗教について調査します。普通、困ったときの神頼みという言葉にあるように、神を崇めるはずが、この惑星では、神様に悪感情を抱いてます。そして、その惑星の住民は平然と不敬な行為を行うのです。
なぜ。そして、どうしてこの惑星にら次々と災いが降りかかるのか。ミステリ的要素とホラー要素、SFを上手くミックスさせたディストピア小説で好みでした。

4編目の『赤い雨』もSFです。著者の『新世界より』を彷彿させる作品でした。長編にしなかったのが惜しいほど、おもしろい作品で、こちらもお勧めです。架空の胞子、チミドロに蹂躙された未来。この世界では、スラムとドームの住人とで格差が発生し、互いに悪感情を持っています。チミドロによる赤い雨という侵略を防ぐべく、主人公の女性が立ち向かう話です。こちらはS少し法廷ものの要素も楽しめるSF作品です。
感心したのは、チミドロという胞子、そしてRAINという疫病の、説得力をもった描写です。ゼロから生み出したものに圧倒的知識で肉付けしているのが魅力的で、著者らしさが発揮されています。

どれも読み応えある作品でした。ただ、かつての長編と比較すると、少しカタルシスを得づらかったです。
215ページ5行目、改行しているのに一マス空けてないという校正ミスが少し気になりました。また、過去作では"えんか"とルビを振っていた嚥下という字に、今作では"えんげ"とルビを振ってあり、著者のこだわりの変化が新しい発見でした。
罪人の選択
貴志祐介罪人の選択 についてのレビュー
No.4: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

異常心理の極致〜痛みという感情がいかに大切かわかる小説

相変わらず久坂部ワールド全開の小説でした。
惨たらしく描写される死体、人間のどす黒い欲望、異常心理、医療が無力というメッセージ。これまで読んできた久坂部作品に共通するキーワードが、ふんだんに描かれた一作でした。

無痛というタイトルのとおり、本作には痛みを自覚できない人物が登場します。それゆえ、相手が痛みに恐怖する感情も理解できません。一種のサイコパスを相手に、主人公である医師が立ち向かいます。
この主人公もなかなかの特殊能力を持っており、外見だけで相手の病気の徴候を見つけることができます。一見馬鹿馬鹿しいようですが、丁寧に描かれ、説得力を感じます。主人公の特徴として申し分なく、本作を評価したポイントの一つです。
さて、本作におけるサイコパスは痛みの感情を知りません。それもある種、魅力といえるでしょうか。こちらは『先天性無痛症』という病気で、現に存在します。怪我をしたとき、痛みという感情がなければいいのにと、思ったことが何度かあると思いますが、痛みを知らなければ、危険かどうかがわかりません。朧げな記憶ですが、ずいぶん前に、痛みという感情のない子供が、自分をスーパーマンだと思い、高所から飛び降りたニュースがあったと聞いたことがあります。痛いという感情はなくても確実に体にダメージは与えられるので、知らないうちに命を落とすのでしょう。
また、本作にはもう一つ、刑法39条に対し問を投げかけるメッセージが込められています。心神喪失者は犯した罪を無効とし、心神耗弱者は、減刑にする。遺族からしたら、とても理不尽な法律です。本作は、精神障害を詐病し、簡単に精神障害のお墨付きを貰うという危険性も描いており、いかに刑法39条が歪んだ法律であるか思い知らせてくれます。
本作はミステリ要素はほとんどなく、ホラー要素が強いです。並のホラー小説より怖さを体験できます。グロ耐性のない方は、控えたほうがよいでしょう。
そういえば、とある明治の文豪が、作品の参考にと、人体解剖に立ち会ったというエピソードを聞いたことがあります。その点、現役の医師というのは優位なのでしょうね。(何を言いたいか、うっすら察してもらえたでしょうか)
少なくとも、以前レビューした同氏の『介護士K』よりは出来栄えが良く、少し評価を上げました。続編もあるそうなので、いずれ読みたいと思います。
無痛 (幻冬舎文庫)
久坂部羊無痛 についてのレビュー
No.3: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

テレビ業界への痛烈な皮肉が込められた風刺小説

本作のテーマは、ずばりテレビ業界への皮肉です。
主人公はテレビ業界で下請けのような仕事をさせられている男で、彼は日頃から、やらせの報道を行っていました。不良少年らの非行をカメラに収めるのですが、実は彼らは主人公の悪友。しかし、スクープを連発する主人公を怪しむ同僚に身の潔白を証明しようと、巷で騒がれているシリアルキラーを捕まえようと調査していく内容です。
全体を通して暗いトーンの調子の話です。なので、ほのぼのした内容が好きな方には勧められません。ですが、私はバッドエンドだろうと内容が暗かったとしても、ミステリ要素があれば気にならないので、楽しく読めました。
若い読者をターゲットにしているためか、若者言葉が頻出していました。ネットと疎遠な年齢高めの方には、不向きかもしれません。YouTubeをツベと呼んでいたり、お疲れを乙と略していたり。テレビの偏向報道などへの皮肉も満載で、読んでいてリアルさがあり、とてもおもしろかっです。
本格ミステリ出身の作者なので、このようなサスペンス的作品は珍しいと思いますが、最後に驚きの結末があります。ただ、それが痛快なオチと思えず、あまりカタルシスを得られませんでした。後付けの結末ではないと思いますが、少し納得がいかなかったです。なので、評価は☆6としましたが、内容的には☆7でもよいくらいです。
何より作者が旧ツイッターの特徴を勉強していたり、根暗なシリアルキラーの心情を緻密に描写していたり、若者言葉を多用していたりで、とてもリアルです。おそらく挑戦的な内容なのでしょう。
ネットでテレビへの不信が募っている昨今、私と同じような世代の読者が読んだらどれほど心にささるのか、気になるところです。
明日なき暴走 (幻冬舎文庫)
No.2: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

異常者はどこにいる?

本作は、兄妹と兄弟の視点で並行して物語が進められます。
兄妹は母親を交通事故で亡くし、父親から暴力を振るわれ、兄が密かに父親を殺害しようと計画することから始まります。
兄弟も同じく母親を海で亡くし、その死に継母が一枚噛んでいるのではと疑います。
二つの視点で物語が進む場合、意外な所で繋がりがあっておもしろいのが醍醐味でしょう。まったく別の事柄と考えられていた二つのエピソードが、実はリンクしていたら高評価したくなります。

では、本作はどうか。それぞれの話が独立していて、残念ながら意外な繋がりは見つけられませんでした。正直、一方のエピソードをそこまで深掘りした意図がわかりませんでした。
ですが、意外性は充分にあり、ミステリ好きには堪らないと思います。私自身、作者のミスリードにひっかかり、真相の一歩手前までは騙されていました。読んでいて違和感が生じた箇所があったので、少し悔しかったです。
真相が判ったとき、実はあのとき、何が起こっていたのか明かされ、驚きました。そして、本作の犯人の異常性、、、。
とても読み応えがあり満足できる一作でした。

☆7にするか揺れましたが、先に挙げた一方のエピソードの付属的な要素と、度々文中に登場する龍の唐突さが理解できず、マイナス1した評価としました。

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龍神の雨 (新潮文庫)
道尾秀介龍神の雨 についてのレビュー
No.1: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

序盤は『キングを探せ』を想起させるパズル小説

複数の人物が犯罪に加担するが途中で犯人側に不測の事態が発生する、、、。最近、キングを探せのレビューをした際、『疾風ロンド』に似ていると書きましたが、本作こそまさしく類似していました。
『ブルータスの心臓』では、3人の男が死体をリレー方式で運び、アリバイも担保するというもの。本作では第一章の終わりに、犯人にとっての不測の事態が起こります。こういう展開だとおもしろいなと予想しながら読んでいた私は、想像が当たり、思わずニヤリ。さすが東野圭吾、読者を驚かしてくれるなと思いました。
そして、主人公の疑心暗鬼。顔もわからない人物から狙われサスペンスに満ち、これは当たりだと思いました。

ではなぜ私が評価を☆6にしたか。
本作は、殺人リレーに加担することになる主人公の男、同じ職場に勤務する女性社員、事件を捜査する刑事の3人の視点で物語は進められます。なんといっても見ものは主人公の視点ですが、刑事の視点になると、どうも、話が冗長とでもいうのか、すでに読者の知っていることをなぞって事実がわかるのが退屈に感じられました。(これは、キングを探せを読んでいるときも思いました)これが倒叙物の欠点なのでしょうか。それでも刑事の視点に意味があると思い、結末まで読みましたが、やっぱり刑事視点の描写はいらなかったと思います。刑事の口調にも違和感がありました。刑事小説ではないので目は瞑りますが、若手とはいえ、刑事が自分のことを僕なんて言うのかなと。聞込みの前に私的な買物をする描写もどうかと思います。
それから登場人物が多い故に誰が誰だかわからなくなる点。あまり細かすぎる描写は不要ですが、人物の相関関係が複雑で理解しづらかったです。
そして結末の尻切れトンボ感。終盤駆け足になって、これで終わりなのと唖然としました。皮肉ある結末でしたが、では最後の、専務と宗方のやり取りは、なんだったのだろう。ひたすら上を目指し、逆玉の輿を狙い、関係を持っていた女性を捨てるという非情な男が、簡単に見捨てられるという、これまた皮肉なのだろうか。
第一章を読んだ時点での期待との落差があり、少し残念でした。
ブルータスの心臓 新装版 (光文社文庫)