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bamboo さんのレビュー一覧

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レビュー数5

全5件 1~5 1/1ページ

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No.5: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

早死にの医師一族

代々医師である土岐一族。彼らは、なぜか皆、早死にしているという特徴があります。それぞれ、どういった理由で死を遂げたのか、5つの章に分けて描かれる話です。
長生きしすぎることへの是非を問うことの多い作者、本作においても同じメッセージ性が強かったです。あらすじを読めば、それぞれの一族の死に首謀者が関与しているミステリを期待したいところですが、残念ながらそういった話ではありません。元々、作者がミステリを書くイメージがなかったので、ある意味予想どおりでした。
ただ、章によっては嫉妬や憎悪など、醜い人間ドラマの要素があり、読み応えかありました。
特に、『希望の御旗』という章の話が私は好みでした。
絶対的正義はなく、見方を変えればどちらも正義に思える場面はよくあります。一見酷いことでも、ある意味その人のことを想ってした行為など。このお話は、がん検診に対する二つの主張が対立して描かれ、しかも医療の雑学なども詳細に述べられ、とても面白かったです。相手のことを想ってしているのに、結果的に悲惨な事態を招き、生かそうとすることが殺してしまう皮肉な話で、恐ろしい内容です。

ですが、全体を通してみれば、やはり物語としての満足度は低かったのが残念です。どうせなら、描かれていない他の早死にした人の死の顛末も描いてほしかったです。
祝葬 (講談社文庫)
久坂部羊祝葬 についてのレビュー
No.4:
(4pt)

1か月後には内容を忘れるような、心に残らない短編集

有栖川有栖の国名シリーズの一つである本作は、短編集の形式。
タイトルと表紙に惹かれ、久しぶりに有栖川作品を読みました。感想はタイトルのとおり、パッとしない話ばかりでした。
物語の導入はおもしろいけれど真相がイマイチという竜頭蛇尾な作品ばかりで、暫くしたら内容を忘れてるだろう短編集です。
一番良かった話は『妄想日記』でした。ですが、その話もスッキリとした謎の答えになっておらず、やや消化不良です。
表題作においてはホワイ・ダニットの答が明示されておらず、完全に名前負けした作品でした。
マジックの種明かしをされてガッカリということがよくありまして、本作もそういう印象です。火村と有栖川コンビのキャラクターの魅力を考慮し、☆4としました。
ブラジル蝶の謎 (講談社文庫)
有栖川有栖ブラジル蝶の謎 についてのレビュー
No.3:
(4pt)

真実は一つ、推理は無限

本書は多重解決ミステリの先駆的作品として有名です。事件の概要はシンプルながら、事件に登場するあらゆる人物が容疑者として推理が並べられ、奥深いものとなっています。
ミステリのジャンルの一つである多重解決を初めてテーマにした作品として有名です。私は深水黎一郎氏の『ミステリー・アリーナ』しか多重解決作品を読んだことがありませんでした。同作が非常におもしろかったため、同じ系統の本作を読もうと思った次第です。
ミステリー・アリーナのレビューは、いずれ改めて読み返した際に行いたいと思います。

本書を読み終えた感想は、うーん、なんだか残念だなというものでした。先のレビューで、非常に文章が読みやすいとありましたが、私にはそんなことなかったです。いかにもな古典的作品であり、とっつきにくい文章でした。直訳的な文章が、頭に入ってこなかったからでしょうか。ホームズ作品を読んでいる気分でした。
登場人物に魅力が乏しく、誰の名前のどの推理を指摘しているか伝わってきません。一文が長く、セリフが多すぎ、指示語が多いことも難点でしょう。訳者は本当に頭で理解しながら翻訳してるのかと懐疑的に感じました。そのため少し辛い読書体験でした。
洋書慣れしてない方は苦痛に感じると思います。少なくともエラリー・クイーンや、クリスティーの作品で感じた感動はありませんでした。

本書はアンチ・ミステリの要素もあります。前に披瀝された推理の欠点を指摘し、六人がそれぞれまったく異なる人を犯人として挙げる趣向はおもしろかったです。特に、限定型と開放型のミステリという着眼点には、なるほど、おもしろいと思いました。

多重解決の先駆的作品であることへの敬意とアンチ・ミステリとしてのおもしろさを総合したとしても、私は☆4の評価止まりでした。期待が大きかったせいかもしれません。
毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)
No.2:
(4pt)

作者の苦悩が伝わってくる難解小説

分厚い小説でした。何しろ600ページを超える長篇です。そのため満足感が相当得られました。ページ数を確認せずAmazonで注文したので、こんなにも重厚な本だとは思いませんでした。
本作はSF要素を孕んだ奇書だといえます。あらすじとしては、主人公である少年が、学校帰りに、いつも通らない道に寄り、不思議な博物館を訪れます。そこはミュージアム・ミュージアムと紹介されるとおり、世界各地、しかも時を超えて昔のミュージアムの作品を見られるという、魅力的な場所です。そこで出会った少女と冒険をします。一方、古代エジプトの考古学者のパートも並行して描かれます。
そのエジプトの蘊蓄が凄まじかったのが、私に難解に感じさせた一つです。聞き馴染みのないカタカナ語が並べられ、元々エジプトの地理やら歴史やら知識がないと、頭に入って来づらいです。作中、二度ほど藤子不二雄先生の「恐竜の話を描くんだったら、恐竜博士になるくらい恐竜について勉強しなさい」という名言が引用されており、それを忠実に守っているのだとわかります。
そして、もう一つのパートは、とある作家の執筆風景です。物語の前半では執筆パートは少なめですが、後半になると執筆パートが増えていきます。
この物語を奇書だと表現したのは、これらのパートの構造です。あまり語るとネタバレになりますし、読み終えて消化不良の私自身、まだ物語の仕組みがイマイチ理解できていません。ただ、作者が、物語の創作そのものに苦悩して書き上げたのだろうことは伝わってきました。研究者というバックグラウンドがあるだけに、頭の構造が凡人には伝わりづらい難点がありました。

ただ、作中の主人公の夏休みの風景は昔懐かしさを思わせる美点があります。推理小説を読んだり、友人と雑誌を作って推理小説の共作をしたり、充実した夏休みを過ごしていて羨ましかったです。私の小学生時代の夏休みなどボケっとしていたので、もう少し遊んでおけば良かったと、しみじみ思いました。
どうして博物館に不思議な力があるか、科学的に説明もされていてプラス評価にもなります。

タイトルから子供向けのファンタジー作品だと侮るなかれ、読解困難な難解小説です。ラノベ過ぎるのも良くないですが、読者を置いてけぼりにするような設定も考えものだと思いました。
設定はおもしろいのに巧く活かせなかった惜しい小説という印象です。複雑な小説や、古代エジプトについて造詣の深い方はぜひ。

蛇足ですが、文中に、国語の問題について、筆者が何を主張したいかわかるわけないという意見に、大きく賛同しました。
蛇足ついでに、河出文庫から新しく発売された本作を読んだのですが、482ページに、亨(主人公の名前)は"美学"の両手を振り払ったとあり気になりました。"美学の両手"なんて表現があるのだろうかと疑問に感じ調べても出てきません。ひょっとしてこれは、"美宇"という少女の名前ではないか、誤植ではないでしょうか。
八月の博物館
瀬名秀明八月の博物館 についてのレビュー
No.1: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

短めの話を13個収録した豪華な短編集・・・

初めてレビューをします。
本書は、見出しのとおり13個の話を収録した短編集です。13個も収めてあるので豪華と感じる人もいれば、その分、1話あたりの話が短く、物足りなく思う人もいるでしょう。
私は本書を読み終え、ドイルのホームズを思いだしました。本書における探偵、ミス・マープルが、火曜クラブに集った面々からの話を聞き終え、すぐに真相を見抜くのです。超人といってよいでしょう。私はホームズシリーズを齧ったほどしか読んでいませんが、謎が提示され、すぐに解決してしまうのですから、読者に推理させる暇がありません。なので、推理するよりかはマープルの推理のキレの良さを楽しむことに力点を置いて読むほうがよいかもしれません。
13個の話を平均して星4つとしましたが、際立っておもしろいと思ったものもありました。『聖ペテロの指のあと』は、英語ならではのアイデアが活かされていると思いましたし、『溺死』は、より一層、マープルの慧眼に畏れ入りました。

ところで、作中に『卵の黄身"が"白いか、それとも、卵の黄身"は"白いか』と問う文章が気になりました。いわゆる助詞にスポットを当てていると思いますが、英語圏に助詞など関係あるのでしょうか。いずれもisで表せそうですが、、、。原文が気になるところです。
火曜クラブ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティ火曜クラブ についてのレビュー