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bamboo さんのレビュー一覧

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レビュー数48

全48件 21~40 2/3ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

手術の場面は臨場感たっぷり。他は空虚

心臓手術を行うロボット、ミカエル。そのロボットを使う第一人者である医師、西條が主人公の物語です。西條は、ミカエルを使い、あらゆる手術をこなしてきました。だからミカエルに対する信頼も厚い。けれど、そんなミカエルに欠陥がある疑いを聞き、本当にミカエルを使って大丈夫だろうかと、葛藤しながらオペに臨むのが粗筋です。
本書を読んで一番お見事と思ったのは、終盤の手術シーンでした。医療事故を引き起こしやすいロボットを使い、患者の命を救えるかという緊張感が伝わってきましたし、緻密な手術の描写が、とてもリアルでした。手術の用語が羅列していて、相当調べ、力を入れたのだろうと推測できます。
ただ、他は空虚と感じられました。改行が多く、不要な描写も多いです。読書が苦手な人には読みやすい本といえるでしょうが、改行が多いせいで本が厚くなってしまってる始末です。いろいろ削れば、400ページくらいに収まったと思いました。
また、細かいようですが、逆説の"が"を多用しており、気になりました。『〜だった。"が"、〜だった』というふうに。"しかし"や、"だが"、"けれど"など、いろいろ接続詞はあるのに、"が"に固執するのはなぜだろうと、少し目につきました。
展開が予想どおりなのも残念と感じました。なぜ、あの場面で、あんなことが起こったのかについて、説得力ある説明がほしかったです。
ミステリ要素は皆無のヒューマンストーリーの作品です。かといって登場人物の個性は少ないです。
辛辣なレビューをしたかもしれませんが、手術の場面のリアルさを総合し、可もなく不可もなくの☆5評価としました。
ミカエルの鼓動 (文春文庫)
柚月裕子ミカエルの鼓動 についてのレビュー
No.27: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

警察の無能っぷりが目立つ連続殺人

ミステリにおいて、探偵を引き立てなくてはならないので、多少、刑事が役立たずになるのは仕方ないにせよ、本作はかなりそれが目立つ作品でした。なにしろ、殺人が起こっているのに容疑者の動きを制限せず、呑気にお茶を飲んでいるのですから。
本書は、かなり異色の作品だと思います。外部と交通が遮断されず、常に現場には刑事やら監察医が出入りするなかで起こる連続殺人。犯人の大胆さに驚かされます。また、中盤で探偵役らしき人物が登場するも、意外な展開を見せたりと、なかなか常識外れの作品でした。
現実味を欠いているのはエンタメなのであまり気にせず楽しむと良いと思います。なぜ、犯人は連続殺人の屍体近くにトランプを置いていくのか、なぜ、殺害方法に一貫性がないかなど、散逸した疑問が綺麗に回収されていくのはお見事と思いました。
登場人物が多いので、できれば最初に登場人物一覧を載せてほしかったです。
リラ荘殺人事件 (角川文庫)
鮎川哲也りら荘事件 についてのレビュー
No.26: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

不気味で、かなり重たい話

本書を初めて読んだのは、私が高校生のときでした。そのときの印象はかなり不気味な物語というものでした。
特別ホラーチックな凄惨な描写はありません。主人公が、昔付き合っていた彼女と共に、廃屋のような長年使われていない家を訪れ、その家で何が起こったか、推理していく話です。かつてその家に住んでいた少年の残された日記を手がかりに、この家の住人が、なぜいなくなったのか、かつてその家にいたはずの主人公の元彼女がなぜ小学校以前の記憶を失ったのか、徐々に繙いてゆきます。
物語の大半が、電気の通っていない廃屋のような家にいるためか、かなり暗い内容でした。そして、〇〇という本書のテーマは、かなり重たいものです。
ミステリ小説の多くは、作中に日記が出てきた場合、そこに手がかりが仕掛けられていることが多いので、まだ未読の方は注意深く読むことをお勧めします。
ミステリ要素もあり、ホラーの要素もあり、かなり良い読書体験でした。久しぶりに読み返し、断片的にしか覚えていなかった内容を思いだしました。やっぱり、読み返すことも大事ですね。

時折、この家を出よう、でもやっぱり戻ることにしようという流れがくどいことと、物語終盤の、主人公の元彼女が異常なほど、主人公に詰め寄る態度が、少しマイナス評価でした。
暑い夏に少し涼しい気分を味わいたい方は是非。
むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)
東野圭吾むかし僕が死んだ家 についてのレビュー
No.25:
(4pt)

1か月後には内容を忘れるような、心に残らない短編集

有栖川有栖の国名シリーズの一つである本作は、短編集の形式。
タイトルと表紙に惹かれ、久しぶりに有栖川作品を読みました。感想はタイトルのとおり、パッとしない話ばかりでした。
物語の導入はおもしろいけれど真相がイマイチという竜頭蛇尾な作品ばかりで、暫くしたら内容を忘れてるだろう短編集です。
一番良かった話は『妄想日記』でした。ですが、その話もスッキリとした謎の答えになっておらず、やや消化不良です。
表題作においてはホワイ・ダニットの答が明示されておらず、完全に名前負けした作品でした。
マジックの種明かしをされてガッカリということがよくありまして、本作もそういう印象です。火村と有栖川コンビのキャラクターの魅力を考慮し、☆4としました。
ブラジル蝶の謎 (講談社文庫)
有栖川有栖ブラジル蝶の謎 についてのレビュー
No.24: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

超ユニークで超メタ的小説

7つの答があるミステリー小説というテーマだけで、興味を惹かれました。さすがメフィスト賞出身の作家だけに、超ユニークな小説です。他の誰も書かないような挑戦的なミステリは好きなので、高評価となりました。文体も軽妙で読みやすいです。
マルチエンディング・ミステリー(複数の結末のある作品)という少し長ったらしいタイトルですが、改題前の『犯人選挙』の方がスッキリしていて、私は好みでした。おそらく、同じく多重解決モノの、作者の『ミステリー・アリーナ』と方向性が同じなので、タイトルを片仮名で揃えたのでしょうね。
舞台は大泰荘というシェアハウス。主人公は純文学の作家を目指す文学青年。住人の一人、ボディビルダーを目指す、マッチョの男が密室で殺され、一体誰が、どうやって殺したかを推理します。
容疑者は主人公を除いた他の住人六名。それぞれ犯人の場合と、犯人が外部の者という、計七通りの解答が提示されます。珍妙な解答もありますが、なかには説得力のある解答もあり、なかなか楽しめます。

一つ、評価が分かれるとしたら、本書は本格ミステリと呼べるか怪しく、脱力的な話ということでしょうか。なので、冒頭に"本書は三人の人物が殺されるので、殺人が嫌いで日常ミステリを楽しみたい方は本を閉じてください"と注意書きされていますが、あまり気負わず読むとよいでしょう。そして、三人目に誰が殺されるか、予想しながら読んでみてください。
こういう話があるからこそミステリは面白いと実感できる小説です。きっと作者は、楽しみながら執筆されたのだと思います。
超ユニークで超メタ的、脱力できる良作でした。メタ的描写は、以前に読んだ瀬名秀明さんの『八月の博物館』と類似していました。登場人物の存在についてフォーカスしていて、かなり面白いです。

登場人物の若い刑事が、頓珍漢なことを言って上司に叱られるという描写は、軽妙すぎるきらいがあります。実際、こんな刑事がいて事件が迷宮入りしてないことを望みますが、、、。
マルチエンディング・ミステリー (講談社文庫)
No.23: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

一筋縄ではいかない挑戦的作品

登場人物全員、同じ名前――。過去に、これほど意欲的な作品を書いた作家はいたでしょうか。
残虐な殺人を犯した男と同姓同名で苦しむ人たちを描いた作品です。男は少年法により顔を公開されず、名前だけ知れ渡ってしまった状態で、そのせいで名前だけで就活や進学に支障をきたした人物たちが登場します。
メッセージ性が強く、作者の主張に一つ一つ共感ができ、とても良作です。加えて、物語の真相に意外性をもたしてもいて、読者をこれでもかと翻弄させる内容に、作者のサービス精神を感じました。
未読の方は、一つ一つ疑ってかかって読んでみてください。

辛くレビューするとすれば、地の文が平易に感じられたことです。"血で染まったような夕焼け"、"身を切る風はナイフのよう"など、ありふれた表現だと思いました。
人物のミスリーディングを明かす種明かしも、少し強引ではないかと思いました。

ですが一方で、登場人物のセリフの説得力と、ネット上の罵倒文句はリアルでした。
5段階評価すると、アイデア5、セリフ5、地の文2、ミステリ要素4
久しぶりに読み応えのある作品に満足できました。
同姓同名 (幻冬舎文庫)
下村敦史同姓同名 についてのレビュー
No.22: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

殺伐とした世界観と、ほのぼのとした話のギャップに違和感

小惑星が地球に衝突し、あと三年で人類が滅亡する設定の世界観で、同じ団地に住む住人たちの生き方に焦点を当てた作品です。
八年後に人類が滅亡すると知らされ、人々はパニックに陥ります。ルールは破られ、生きていくために殺すことが日常となった世界ですが、滅亡まで三年とカウントダウンしていくと、人々は小康状態になります。滅亡までの余生の過ごしたが各々異なっていて、おもしろかったです。同じ地域の住民がそれぞれの話で主人公となった短編集の形式なので、それそれの話に少し繋がりもありました。
全体に重くはなく、喜劇のような話が多いです。なので、気軽に読むことはできますが、その軽さが世界観と一致せず、違和感が拭えません。ほのぼのした話に、突如、『〇〇さんは見知らぬ人に襲われて死んだ』と、あっさり書かれていて、殺伐とした設定とギャップがあり残念でした。
加えて、この作品のメッセージ性も漠然としていて、求めていた作品と違いました。
終末のフール (集英社文庫)
伊坂幸太郎終末のフール についてのレビュー
No.21:
(6pt)

ツナグ 想い人の心得の感想

前作では少年だったツナグが、成長して青年になったという設定で、5つの話を収録した短編集です。シリーズ物なので、前作を知っていないと設定が飲み込めないと思います。
私は、1話目がお気に入りでした。前作の続きで、ツナグは青年のはずなのに、1話目に登場するツナグは少女で、どういうことだろうかと思いながら読み進め、少し意外な答えがあり、おもしろかったです。前作との繋がりも感じられ、懐かしさもありました。
ただ、全体を通して評価すれば、平凡といわざるをえないです。せっかく死者と再会できるという美味しい設定でありながら、感動できなかったです。
話の途中、驚きの展開がありますが、それを通じてのツナグの変化もありがちで、小学生向けの道徳的作品になってました。
作中、前の短編に登場した人物と偶然再会していて、"ご縁"という言葉で片付けていますが、作為的で白けてしまいました。
もう少し感動や意外性を求めていただけに、ハードルを越えられなく残念な印象でした。前作で設定に虜になり、ツナグの成長を楽しみに思った方なら高い評価になると思います。
ツナグ 想い人の心得
辻村深月ツナグ 想い人の心得 についてのレビュー
No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

異なる2つの世界線、どちらが真実か

主人公の崇史は、友人の智彦から恋人を紹介されます。その女性は、かつて崇史が偶然見かけ、一目惚れした相手。ところがある日、目を覚ますと、その女性は崇史と同棲していました。そんな二つの世界線が交互に描写されます。
どちらの話が本当かという大きな謎。そして、話が進むにつれて行方を眩ませる登場人物。何が起こっているのか丁寧に描かれ、とても良作です。
恋が人を狂わせるというのが、よくわかる作品でした。一度、一目惚れすると、絆で結ばれていたはずの親友でさえ裏切ってしまう。そして、かつてなら考えなかっただろう邪な感情を、友人に抱いてしまう。そんな、主人公、親友、女性を巡る三角関係が丁寧に描かれ、とてもリアルでした。
残念だったのは、あのとき、一体何があってそうなったのか、種明かしのほうにももう少し詳述してほしかったことです。
パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
No.19:
(6pt)

圧倒的知識と説得力で構築されたSF中編集

本作は4つの話を収録しています。3つはSF、もう1つはミステリの仕掛けを施したサスペンスです。タイトルの罪人の選択は、ピンチから脱するために正しいほうを選ぶというサスペンス作品です。

それぞれ毛色の異なる内容なので、読む人によって好きな作品は異なると思います。私は2編目の『呪文』が好みでした。
とある惑星の話で、主人公の男は、その惑星で信仰されている宗教について調査します。普通、困ったときの神頼みという言葉にあるように、神を崇めるはずが、この惑星では、神様に悪感情を抱いてます。そして、その惑星の住民は平然と不敬な行為を行うのです。
なぜ。そして、どうしてこの惑星にら次々と災いが降りかかるのか。ミステリ的要素とホラー要素、SFを上手くミックスさせたディストピア小説で好みでした。

4編目の『赤い雨』もSFです。著者の『新世界より』を彷彿させる作品でした。長編にしなかったのが惜しいほど、おもしろい作品で、こちらもお勧めです。架空の胞子、チミドロに蹂躙された未来。この世界では、スラムとドームの住人とで格差が発生し、互いに悪感情を持っています。チミドロによる赤い雨という侵略を防ぐべく、主人公の女性が立ち向かう話です。こちらはS少し法廷ものの要素も楽しめるSF作品です。
感心したのは、チミドロという胞子、そしてRAINという疫病の、説得力をもった描写です。ゼロから生み出したものに圧倒的知識で肉付けしているのが魅力的で、著者らしさが発揮されています。

どれも読み応えある作品でした。ただ、かつての長編と比較すると、少しカタルシスを得づらかったです。
215ページ5行目、改行しているのに一マス空けてないという校正ミスが少し気になりました。また、過去作では"えんか"とルビを振っていた嚥下という字に、今作では"えんげ"とルビを振ってあり、著者のこだわりの変化が新しい発見でした。
罪人の選択
貴志祐介罪人の選択 についてのレビュー
No.18: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

罪人の人生転落を描いた力作

終業式の日、担任の女教師はクラスの生徒たちに告白します。娘を殺されたこと。そして娘を殺したのは、この生徒であること――。
本作は、すべて登場人物の独白、あるいは日記や手紙により描写されているのが特徴です。視点人物による絶望や怒りなどがダイレクトに伝わり、とても読みやすいです。出版された当時、中高生の人気を集めたのは、この圧倒的に読みやすい文章と巧みな構成、そして罪人への制裁という大義名分の基、いじめを行ってしまうという危険性が、共感を呼んだのでしょう。
第一章で、娘を殺した生徒である犯人二人を告発します。第二章で、後任の教師がやってきて、事態は最悪な方向へ進み、第三章で、悲劇が起こります。そして、悲劇を起こした人物の心情の吐露が、続く第四章で行われ、、、というふうに、読者は一度読み始めたらページを捲る手が止まりません。
なぜ、こうも最悪な事態が連鎖してしまうのか、さりげなく謎が回収され、とても力作でした。
私はイヤミスはあまり読んだことがないですが、本書はトップクラスの後味の悪さを誇る作品だと思います。告白というタイトルから安易な青春恋愛小説と侮っていると、痛い目をみます。

未成年者の犯罪に対する提起も行われており、興味深かったです。犯人Aは救いようがないとしても、私は個人的に犯人Bに同情してしまいました。本来なら心優しく素直な性格。けれど臆病さと劣等感という短所が災いし、道を誤ってしまいます。なにもここまで、容赦のない仕打ちをしなくていいじゃないかと同情するほど、彼は人生のどん底に落ちてしまうのです。
私は、女教師の性格に共感を持てませんでした。単純に、娘を殺され鬼となったとは解釈できません。自分の受け持つクラスの生徒より娘が大事と、安易に秤にかけて告白していることから推測するに、極論、娘一人と生徒三十人どちらを選べと言われたら、きっとこの教師は、娘を躊躇なく選ぶのでしょう。その身勝手さが透けて、人間性に欠き、共感できなかったです。その証拠に、最後のシーン、いかに娘を殺され感情が麻痺していたとしても、無関係な多くの人を巻き添えにする方法をとっていることや、復讐に無関係な一人の生徒の死に、あまり後悔してないことから察せられます。
なので、教師に対する共感は覚えづらく、いかに罪人が人生を転落していくかという同人誌的内容となってしまったのがマイナスです。

ですが、最初に挙げたように読みやすい文章、巧みな構成を評価して☆7にしました。
告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
湊かなえ告白 についてのレビュー
No.17: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

真実は一つ、推理は無限

本書は多重解決ミステリの先駆的作品として有名です。事件の概要はシンプルながら、事件に登場するあらゆる人物が容疑者として推理が並べられ、奥深いものとなっています。
ミステリのジャンルの一つである多重解決を初めてテーマにした作品として有名です。私は深水黎一郎氏の『ミステリー・アリーナ』しか多重解決作品を読んだことがありませんでした。同作が非常におもしろかったため、同じ系統の本作を読もうと思った次第です。
ミステリー・アリーナのレビューは、いずれ改めて読み返した際に行いたいと思います。

本書を読み終えた感想は、うーん、なんだか残念だなというものでした。先のレビューで、非常に文章が読みやすいとありましたが、私にはそんなことなかったです。いかにもな古典的作品であり、とっつきにくい文章でした。直訳的な文章が、頭に入ってこなかったからでしょうか。ホームズ作品を読んでいる気分でした。
登場人物に魅力が乏しく、誰の名前のどの推理を指摘しているか伝わってきません。一文が長く、セリフが多すぎ、指示語が多いことも難点でしょう。訳者は本当に頭で理解しながら翻訳してるのかと懐疑的に感じました。そのため少し辛い読書体験でした。
洋書慣れしてない方は苦痛に感じると思います。少なくともエラリー・クイーンや、クリスティーの作品で感じた感動はありませんでした。

本書はアンチ・ミステリの要素もあります。前に披瀝された推理の欠点を指摘し、六人がそれぞれまったく異なる人を犯人として挙げる趣向はおもしろかったです。特に、限定型と開放型のミステリという着眼点には、なるほど、おもしろいと思いました。

多重解決の先駆的作品であることへの敬意とアンチ・ミステリとしてのおもしろさを総合したとしても、私は☆4の評価止まりでした。期待が大きかったせいかもしれません。
毒入りチョコレート事件【新訳版】 (創元推理文庫)
No.16: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

蘇る15年前の悲劇

綾辻氏の囁きシリーズ第三弾の本作は、『緋色の囁き』や『暗闇の囁き』と比べて好みでした。なにより表紙がお洒落です。黄昏時に遊ぶ5人の子供の人影、牧歌的な光景の表紙で、まず好みでした。
さて、そんな牧歌的な光景に、一つの悲劇がありました。
主人公である大学生の翔ニは、冒頭で兄を喪いました。そして、記憶の奥に封じ込めていた15年前の悲劇を、徐々に思いだしていきます。その緩やかに思いだしていく過程は非常に遅く、焦れったさを感じずにはいられませんが、とても惹きつけます。いったい、過去にどんな悲劇があったのだろうかと。これまでの綾辻作品にある独特の表現技法が、本作でも燦いて感じられました。

犯人当てとしても一読の価値があり、まだ読んだことのない方は、ぜひ挑戦してください。私は、この人が怪しいと睨み、見事当たったと思いきや、なんと、どんでん返しがあり、やられた、と思いました。
正直、辛めにレビューをすれば、偶然がすぎる、犯人の動機が弱いと、幾つか挙げることはできます。ですが、まんまとミスリードに引っかかった悔しさから、☆7の評価にしました。

シリーズものになっていますが、緋色の囁きや、暗闇の囁きを読んでいなくても、充分楽しめます。
あとがきで、いつか、囁きシリーズの第四弾『空白の囁き』を執筆したいと書いているので、楽しみに待ちたいと思います。
その前にまずは『双子館の殺人』ですね。いつか文庫で読めることを楽しみに待ちたいです。
黄昏の囁き 〈新装改訂版〉 (講談社文庫)
綾辻行人黄昏の囁き についてのレビュー
No.15: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

異常心理の極致〜痛みという感情がいかに大切かわかる小説

相変わらず久坂部ワールド全開の小説でした。
惨たらしく描写される死体、人間のどす黒い欲望、異常心理、医療が無力というメッセージ。これまで読んできた久坂部作品に共通するキーワードが、ふんだんに描かれた一作でした。

無痛というタイトルのとおり、本作には痛みを自覚できない人物が登場します。それゆえ、相手が痛みに恐怖する感情も理解できません。一種のサイコパスを相手に、主人公である医師が立ち向かいます。
この主人公もなかなかの特殊能力を持っており、外見だけで相手の病気の徴候を見つけることができます。一見馬鹿馬鹿しいようですが、丁寧に描かれ、説得力を感じます。主人公の特徴として申し分なく、本作を評価したポイントの一つです。
さて、本作におけるサイコパスは痛みの感情を知りません。それもある種、魅力といえるでしょうか。こちらは『先天性無痛症』という病気で、現に存在します。怪我をしたとき、痛みという感情がなければいいのにと、思ったことが何度かあると思いますが、痛みを知らなければ、危険かどうかがわかりません。朧げな記憶ですが、ずいぶん前に、痛みという感情のない子供が、自分をスーパーマンだと思い、高所から飛び降りたニュースがあったと聞いたことがあります。痛いという感情はなくても確実に体にダメージは与えられるので、知らないうちに命を落とすのでしょう。
また、本作にはもう一つ、刑法39条に対し問を投げかけるメッセージが込められています。心神喪失者は犯した罪を無効とし、心神耗弱者は、減刑にする。遺族からしたら、とても理不尽な法律です。本作は、精神障害を詐病し、簡単に精神障害のお墨付きを貰うという危険性も描いており、いかに刑法39条が歪んだ法律であるか思い知らせてくれます。
本作はミステリ要素はほとんどなく、ホラー要素が強いです。並のホラー小説より怖さを体験できます。グロ耐性のない方は、控えたほうがよいでしょう。
そういえば、とある明治の文豪が、作品の参考にと、人体解剖に立ち会ったというエピソードを聞いたことがあります。その点、現役の医師というのは優位なのでしょうね。(何を言いたいか、うっすら察してもらえたでしょうか)
少なくとも、以前レビューした同氏の『介護士K』よりは出来栄えが良く、少し評価を上げました。続編もあるそうなので、いずれ読みたいと思います。
無痛 (幻冬舎文庫)
久坂部羊無痛 についてのレビュー
No.14: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

映像化は不可能、けれど映像向きのサスペンス群像劇

警察は頭を働かせて犯人逮捕に繋がる手がかりを得ようと必死になりますが、犯人サイドは奸智を巡らせます。両サイドの頭脳バトルが見ものなので、ハラハラしながら読めます。ですが、両サイドは互角ではなく、犯人サイドが一枚も二枚も計算が立つため、もう少し手に汗握る攻防戦を読みたかったです。
二時間ドラマの脚本を読んでいる気分で、年末年始年始に読むのにうってつけの作品だと思います。ですが、本作は、絶対に映像化は不可能でしょう。メディアへの皮肉満載なところもありますが、とあるショッキングな内容や暴力的な描写があり、表現規制の厳しい今のテレビには、受け入れられない内容を含んでいます。
ショッキングな死体が発見されるシーンがあります。この誘拐サイトが悪戯ではないことを証明させるためかと思いきや、そこには深い犯人側の計算があります。なので必要不可欠な描写で、ミステリ要素があります。"○○○の論理"の答としては、少し陳腐な印象を持ちましたが、、、。

本作を読みながら、ドラマでありますが、相棒の『ピエロ』という作品を思いだしました。そちらの作品も誘拐劇を扱っており、かつ、ホームレスの物語も関係します。また、もう一つ、なぜ、誘拐した人物の一人を映像に映さなかったかという謎が、本作と似ている気がしました。もちろん、その答はまったく違いますが。『ピエロ』を観て楽しめた方は、本作にも満足できるかもしれません。
(ピエロの方は主人公の警部が優秀で、手に汗握る攻防戦という面で軍配が上がりますが、、、。ちなみに脚本は太田愛で、馴染みのある方もいると思います。)

本作の魅力は、なんといってもホームレスのバックグラウンドと群像劇です。ホームレスたちには、めいめいホームレスになってしまった悲劇的な出来事があり、同情を感じます。
また、この作品には数多くの人物が登場する群像劇で、それぞれの立場からの考え、台詞にリアリティがあり、感心しました。

一方で地の文には魅力が薄く、余計な登場人物も多かった印象です。
強引な展開も幾つか散見されます。細かい箇所も緻密に描けていたら完璧だったと思います。
野良犬の値段
百田尚樹野良犬の値段 についてのレビュー
No.13: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

介護の過酷さとミステリを融合させた模範作

本作は、大雑把に書くと、1.介護の過酷さ、2.介護士の不条理さ、3.主人公が推理していく過程、4.どんでん返し、という構成です。

再読し、デビュー作と思えないくらい文章力があると思いました。初めて読んだのが学生時代、まだあまり犯人当て小説に目が肥えておらず、本作がミステリとも思っていなかったので、明かされた犯人に驚きました。今読み返せば、綾辻氏の『十角館の殺人』に似た要素を感じました。小説ならではのトリックだと思います。
犯人を惑わす要素はワンアイデアと思えなくないですが、介護の過酷さが強烈に描かれ、上手に機能しています。最後の最後まで犯人をミスリードし、結末に犯人を明かし、頭が?になったところを、その疑問を華麗に回収します。とてもお見後です。ミステリ初心者にお勧めできるし、ミステリ通も騙される人がいるかもしれません。
本作を評価したもう一つのポイントは、文章の読みやすさです。とても頭に入ってきやすく、物語の構成も上手です。
途中に出てくる薬物やら詐欺やらは蛇足な気もしますが、、、。

お勧めしづらいとすれば、冒頭の介護生活の地獄絵図と、主人公の魅力の薄さでしょうか。
先日レビューした『明日なき暴走』で、ミステリ要素が関係するなら暗い話も許容できると書きましたが、本作の冒頭は、眉を顰めたくなるほど描写がグロテスクです。私は頭の中で想像しながら読んでいくタイプなので、想像しただけで気持ち悪くなってしまいました。食前後に読まないほうがよいでしょう。
二つ目の主人公の魅力の薄さですが、本作の主人公は、正義感と熱血に溢れ、性善説を信じる検察官ですが、いまひとつ魅力が乏しかった印象です。信じていた性善説をロストさせるためにそういう特徴にしたのでしょうが、私には熱血感が過ぎて共感もしづらかったです。嫌なことがあると耳の奥が疼くとありましたが、後の作品に登場する奥貫綾乃にも似た特徴があったはずで、あまり個性がないです。

ですが、社会小説としてもミステリ小説としても充分ですし、文章も巧みで満足できる作品でした。
ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中顕ロスト・ケア についてのレビュー
No.12: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

テレビ業界への痛烈な皮肉が込められた風刺小説

本作のテーマは、ずばりテレビ業界への皮肉です。
主人公はテレビ業界で下請けのような仕事をさせられている男で、彼は日頃から、やらせの報道を行っていました。不良少年らの非行をカメラに収めるのですが、実は彼らは主人公の悪友。しかし、スクープを連発する主人公を怪しむ同僚に身の潔白を証明しようと、巷で騒がれているシリアルキラーを捕まえようと調査していく内容です。
全体を通して暗いトーンの調子の話です。なので、ほのぼのした内容が好きな方には勧められません。ですが、私はバッドエンドだろうと内容が暗かったとしても、ミステリ要素があれば気にならないので、楽しく読めました。
若い読者をターゲットにしているためか、若者言葉が頻出していました。ネットと疎遠な年齢高めの方には、不向きかもしれません。YouTubeをツベと呼んでいたり、お疲れを乙と略していたり。テレビの偏向報道などへの皮肉も満載で、読んでいてリアルさがあり、とてもおもしろかっです。
本格ミステリ出身の作者なので、このようなサスペンス的作品は珍しいと思いますが、最後に驚きの結末があります。ただ、それが痛快なオチと思えず、あまりカタルシスを得られませんでした。後付けの結末ではないと思いますが、少し納得がいかなかったです。なので、評価は☆6としましたが、内容的には☆7でもよいくらいです。
何より作者が旧ツイッターの特徴を勉強していたり、根暗なシリアルキラーの心情を緻密に描写していたり、若者言葉を多用していたりで、とてもリアルです。おそらく挑戦的な内容なのでしょう。
ネットでテレビへの不信が募っている昨今、私と同じような世代の読者が読んだらどれほど心にささるのか、気になるところです。
明日なき暴走 (幻冬舎文庫)
No.11: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

テーマは遺伝子と家族の絆

三度目か四度目の再読となりました。
とても内容が充実していました。放火やDNA、グラフィティアートなど要素が多いですが、家族の絆がメインテーマに思えました。
放火された現場近くに残されるグラフィティアート。その共通点を主人公が見つけたときは、あまりなんとも思いませんでしたが、さらに遺伝子の謎を追求し、アミノ酸の暗号を調べるうちに一つのメッセージが浮かび上がったとき、少し感動しました。作者はここまで計算して話を作り出していたのかと。
また、登場人物の個性が豊かで気に入りました。特に私は、病室で癌と闘う父親の人となりが気に入りました。兄弟と一緒に放火とグラフィティアートの関連を調べる姿に微笑ましさを感じましたし、何より、最後のシーン。「お前は、俺に似て嘘をつくのが下手だからな」何げない一言のようですが、この小説を読む前と読んだ後とで印象ががらりと変わり感動します。

伊坂作品は少し奇を衒った文章を書くことが多いですが、本作は私は好みでした。
ただ、あまり話を逆算して描いているため、途中に出てくる"橋Ⅰ"、"橋Ⅱ"は、なんの話をしているのか初読のときはわかりづらいかなと思います。
ところで、橋Ⅱに登場した謎の男が、ある島で不思議な島で、未来を預言するカカシなど奇妙な体験をしたとありましたが、ひょっとして過去作と繋がっているのでしょうか。そちらも読んでみたいと思いました。
伊坂作品にはぶっ飛んだ設定の作品が多い印象で少し苦手意識がありますが、本作はとてもお薦めです。
重力ピエロ (新潮文庫)
伊坂幸太郎重力ピエロ についてのレビュー
No.10: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

心理分析により犯人を導く斬新な推理手法、、、なのだけど

初めて著者の本を読みました。
本書は、作者と同名のヴァン・ダインが、シャーロック・ホームズにおけるワトソン助手よろしくファイロ・ヴァンス氏の推理を記録した形式をとっています。
事件は証券会社の経営者・ベンスン氏が、額を銃で撃ち抜かれたというもの。警察は、現場に残された犯人の遺留物らしきハンドバッグやアリバイ、動機などから犯人を絞ります。対してヴァンス氏は、この事件の特性から犯人の性格を予想し、推理していきます。
作中で検事に対し、アリバイや動機など信用できないなど持論を見せていて、珍しい探偵だなと思いました。
若干不満だったのは、探偵小説の性(さが)だからでしょうか、ヴァンス氏が、なかなか推理を披露しないことでした。最後になって、「私は、事件現場を訪れてすぐ、犯人の目星がついてました」ようなことを言ってるのですが、それならそれまでの話はなんだったのだと、思ってしまいます。探偵の天才性、変人さを表現するためか、ほかの作品でも度々散見されますが、中弛みする原因にもなるので、あまり良い手法とは思えないです。
2点目、作品を記録してるはずのヴァン・ダインが、まったく話に登場しないこと。一言も発言することなく、まるで幽霊視点なのかと勘ぐってしまいました。

決しておもしろくないわけではないですが、事件が小規模で、総じて話に派手さが少なく、記憶に残りづらい凡庸な作品でした。
とはいえヴァンス氏の人柄には魅力あるので、これ以降に書かれた作品も読んでみたいと思いました。
ベンスン殺人事件 (創元推理文庫 103-1)
ヴァン・ダインベンスン殺人事件 についてのレビュー
No.9: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

トランクの行方とアリバイ崩し〜論理を突き詰めた究極のパズル小説

本作は、刑事である鬼貫が主人公となって、事件を追います。よくある刑事小説とは違って鬼貫刑事には刑事臭さがなく、純粋に謎を追うため機能してくれます。
事件の舞台は九州。溜まっていた有給を消化して、顔見知りの婦人の依頼によって事件の調査を引き受けることになります。
出版されたのが1950年とあるので、半世紀以上も前の作品なのですが、とっつにきにくい文章は少なく、意外とスラスラ読むことができました。ですが、他のレビュアーさんの意見にあるとおり本書が読みづらくさせる要因は、事件の複雑さでしょう。
トランクの行方を追ったり、死体の行方や、犯人と協力者の行動を追わなければならず、頭がこんがらがってしまいます。
途中、参考のために図や時刻表を挟んであったのは、作者なりの配慮で助かりましたが。しかし、時刻表も細かく時刻が書いており、私など読み飛ばしてしまったので、鬼貫の推理のときのみ役に立ちましたが。(推理パート前に時刻表を仔細に読み、事前に謎を看破できる読者がいるのでしょうか?)
ただ、解決パートはなるほどと納得できました。鬼貫の推理の過程、矛盾、解決まで丁寧に描かれていました。
登場人物が少なかったのも親切だったと思います。実質、容疑者は二人ですが、私は絶対に犯人はこの人だろうと思い、見事的中していました。フーダニット小説ではないので、読者の八割近くは犯人を当てることができると思います。
次に再読するときにはメモ帳とペンを用意して、トランクの流れと犯人の行動を整理しながら読もうと思います。

それにしても、マッチ棒をいじっている合間に、このトリックを思いついたと自著解説にあるので、凄いと思いました。
黒いトランク (創元推理文庫)
鮎川哲也黒いトランク についてのレビュー