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梁山泊 さんのレビュー一覧
梁山泊さんのページへレビュー数136件
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弁護士御子柴礼司シリーズ第2段。
強烈でした。 それにしてもこの作者さんは出し惜しみという言葉を知らないのだろうか。 豪腕で無理難題をひっくり返す悪辣弁護士御子柴、しかも今回の相手はあの岬洋介の父という。 それだけで十分に楽しめるというのに・・・ 今作のラストは、どんでん返しなんてもんじゃない。 こんな衝撃を受けたのは数多くミステリを読んできて初めてだったかもしれない。 鳥肌が立ちました。 この衝撃を味わうには「贖罪の奏鳴曲」を先に読んでおく必要がありますね。 |
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ユニークなタイトルと装丁とリーダビリティの良さ、そして意外な犯人。
その派手さ軽さから忘れられがちだが、カエルは刑法39条を扱った作品だった。 そして、この作品は猟奇的な少年犯罪や保険金殺人、医療事故、裁判員裁判、障害者問題などなど、詰め込みすぎだろ、と思えるほどに作者のメッセージが込められた作品だといえる。 どうしても岬洋介シリーズの印象の強い作者さんだが・・・個人的にはこちらの方が断然に好みである。 カエルは途中ドタバタになったが、この作品は最後までビシっと締まっている。 その立役者が主役の弁護士御子柴礼司だろう。 誰もが知ってるあの事件のあの犯人を想像せざるを得ないキャラ設定。 冒頭のシーンといい、何をしでかすか分からないという見せ方は非常に上手いと思うし、こちらの食欲もわく。 こういった社会性の高い作品にはドンピシャのキャラだろう。しかも今までいなかったタイプではないだろうか。 正直この手の作品にどんでん返しは必要ないように思えるが、作者の得意技だから仕方ないか。 まぁこの作品は読中から何となく結末は読めていたが・・・ カエルが飯能、そしてこの作品の舞台が狭山って事で、ド近所。宣伝乙。 作者は埼玉出身でもないのに・・・と思っていたら、渡瀬、古手川の刑事コンビはカエルにも出てたのね。 じゃあ次は所沢か川越で。 |
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未発表であるルソーの絵画の真贋を男女二人の若い研究者が7日間という限られた期間で解明していくという物語です。
その真贋の見極め方が変わっていて、その絵を描いた時期のルソーについて書かれた(世間一般には公表されていない)「本」を読む事で行います。 作中作という形で登場します。 その「本」ですが、絵の技巧的なもの(特に素人が聞いても理解できそうにないもの)は一切含まれておらず、二人の対決者は、そんな日記のような内容から、その絵画が描かれるに至った経緯や背景を読み解く事で真贋判定を行います。 真贋対決を行う二人もその道のプロ、そして作者の原田マハさんも元キュレータ、美術に関してはプロでありながら、読み手を置いてけぼりにするような薀蓄披露に走っていないのはいいですね。 (読み手に)美術に関して興味を持ってもらいたい、的な作者の優しさ、気遣い、そして上手さを感じることが出来ました。 恐らく技巧的な話をされたのでは、真贋の判定という同じプロットだったとしても、ここまで印象に残る作品にはならなかったでしょう。 私はこの世界には全くの素人な訳で、ルソーやピカソの名前こそ知っているものの・・・という程度です。 ただ読了後は、全くのゼロの状態から新しい世界に一歩踏み込ませてもらった気分でいます。 少し知った気分にさせてくれる。そういう感覚を味わせてくれる作品だと思います。 素晴らしい教科書だと思いました。 まぁ今彼らの作品を見てもどこが素晴らしいのかはさっぱり分かりませんが・・・ 今までこういう作品に出会ったことがあったかな、って考えましたが・・・ないですね。 自信をもってお薦めできる作品です。 |
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「中国残留孤児」と「生体腎移植」というかなり重いテーマを扱った作品です。
更に主人公の視点人物が全盲の老人という事で、作品に色がないと思えるくらいに「暗い」というか最早「黒い」です。 これは上手いと言うべきなのだろうか。 ただ、そんな彼の視点は、描写がどこか「手探り」で、かなりくどいところがあり読んでいてイライラさせられる事もしばしばでした。 「一体何が真実で何が嘘なのか、そして誰が味方で誰が敵なのか」 主人公は、暗い闇の中、色々な人達の嘘に翻弄されます。 「見えない」という事が、人間不信を生み、一つの疑問から疑心暗鬼の底にズブズブとハマっていくのですが、やがて一つの真実から全ての謎が明らかになった時、綺麗に何もかもが反転します。 見方を変えれば悪も善に、というこの構成は見事で、初めに「暗い」と表現した小説の世界観に一気に光がさします。それは眩しいほどに。 乱歩賞受賞作品。 トリック自体は驚くほどのものではないのですが、構成力は凄いと思いましたし、デビュー作にこんな難解なテーマを取り上がる事自体、作者の懐の深さを窺い知ることが出来ます。 少し取っ付きづらい作品ですが、国と時代を超えた家族の愛と感動の物語です。お薦めします。 |
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時代小説です。
この作品、一言で言ってしまうと「生き様」 タイトルからも想像できると思いますが、ある人物の「影」となって生きるということ。 まさに光と影、相手に悟られることなく命をかけ影に徹したた究極の自己犠牲と言っていいでしょう。 日本人が共感しやすい物語と言えると思いますが、これを現代の設定で描いたらどうだったでしょうか。 私は「白夜行」の亮司を思い浮かべてしまいましたが、このようにどうしても黒さ、暗さがつきまとってしまうか、或いは、ちょっと嘘っぽいペラペラの薄い話にしかならなかったのではないでしょうか。 「ここまで自己犠牲に徹し影の存在になる」という動機の点でも、この時代設定であればしっくり来ます。 下流身分の下士ながらも、次男である自分よりも、という事でしょうか。 現代人にはとても真似のできない生き様、というより厳しい時代でした、というしかないですね。 このテーマの作品を読ませるならこの時代設定、という事なのでしょう。 その時点で作者の勝ちですわ。 時代小説を敬遠している人にでも十分楽しめる作品です。 |
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二部構成になっています。
一部が探偵役の良き理解者である三橋荘一郎視点、二部が名探偵瀬川みゆき視点になるのですが、この視点の切り替えにも意味があります。 第一部は、作中作である「メルヘン小人地獄」の見立て殺人。 見立て殺人を乗っ取りアリバイ工作するというプロットは面白いと思ったのですが、名探偵によりあっけなく解決に導かれてしまう点、容疑者と思しき人物が相当に限定されてしまっている点、そして何より凶器となる毒薬の(異常なほど)ユニークな属性がどこにも活かされていない点・・・ 解説によると第一部は後付けらしいのですが、何処かもったいないですね。 第二部では、第一部で名探偵ぶりを遺憾なく発揮してみせた瀬川みゆき視点。 「事件を解決する事が、全ての人を幸せにする訳ではない」 この手の探偵の苦悩を描いた作品はこれまでにも何度か目にした事はあります。 この作品の場合、読中から名探偵自身にとって辛い結末になる事は目に見えていたのですが、二転三転の末、最も辛い結果になりましたかね。 表面的には相変わらずの冷静っぷりですが、探偵視点でこれを描くことにより、心理状況が読み手に筒抜けになっています。 この見せ方は面白いと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
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F県警強行犯捜査第一課を舞台にした連作短編集。
上司である捜査第一課長田畑に 「この3人と同時期に現場にいなくて良かった」とまで言わせる個性的でデキる常勝軍団3人の班長。 理論派朽木、冷血漢楠見、直感の鬼村瀬。 班長が視点となる作品もあるが、部下を視点にする作品が多く、そうする事で、班長の次元の違う存在感をより際立たせている。 特に楠見には、柳広司氏のシリーズに登場する結城中佐のような絶対的な存在感を感じた。 横山さんの警察小説には、人事や広報や似顔絵捜査官など、一風変わった人物を主人公にする作品が多い。 彼らは、現場の刑事とは違う臭いを持っている事もあり本来の警察小説とは違った切り口を味わうことが出来て、それはそれで面白いのですが、個人的には、やはりこちらに軍配。 更に言えば3人はライバルでもあるわけで、お互いを意識した駆け引き、腹の探り合いが、たまらなく面白い。 「横山秀夫の短編にハズレなし」という意見は色んなサイトで見かけます。 確かにその通りであり、その横山氏の短編集の中でもこの作品がNo.1だと私は思う。 どの作品が1番良かったか、と聞かれても困ってしまう。 それくらい全てのレベルが高い。 |
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これは読み手は選ぶと思いますが斬新な作品かと。
それにしてもこの作者は変わった作品を描く人ですね。 まぁ作者名を知らずに読んだら「麻耶雄嵩」と断言したとは思いますが・・・ 問題編にて小出しに情報が与えられ、交互に登場する解決編で、我こそはのミステリマニア達が早押し形式による推理合戦を行うというもの。 題材は、嵐の館での密室殺人という典型的なグローズドサークル。 賞金をゲットできるのは最初に正解した人のみという事で、まだまだ物語も序盤、事件の全容も明らかにされていない段階であるにも関わらず、どんどん推理が披露されていく。 マニア達が、これまでの経験から、これから起こるだろう事を推測し予想を披露していくのですが、ほぼほぼ叙述トリックの打破が主眼に置かれます。 様々な解決が提示される多重解決ものになりますが、驚くべきは、その数がなんと15パターンにまで及び、そこには「ハサミ」「葉桜」「人形館」などなど、ミステリ好きならみんながよく知る、あんな事そんな事が、てんこ盛りなのです。 情報量が増える度に、新しい推理が展開されるのですが、当然、以前に提示された情報に対しても辻褄が合っている必要があります。 15種類といっても、15回の連鎖が必要な訳で、これは半端な労力ではないでしょう。 よく考えたもんだと感動すらおぼえます。 満点にしなかったのはラストの収束のさせ方ですかね。 臓器移植云々をどうこう言うレビュアーの方もいて、私もそれには否定はしないのですが、 ついでなんでいっその事、「樺山桃太郎は不可謬ですので、僕の結論も当然無謬です」と鮎さんよろしくブラックで押し通して欲しかった。 |
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当然ながら高いハードルを設定して読ませていただきました。
軽くとは行かないまでも、それをクリアしてくれた作品です。 昭和64年に起きた未解決の誘拐事件の話だという前知識はあり、さぁガッツリ誘拐事件、と思っていたのですが、そうではありませんでした。 物語の核となるのは、寧ろ、捜査の主役刑事部と事務方警務部の衝突です。 主人公の三上は、元刑事の広報官で事務方に属しています。 この「元刑事」というのがミソで、かつて所属し今も復職したいと願う刑事部と現在の所属である警務部の板挟みにあい自分の立場を見失いそうになります。 この手の警察小説の主人公は、自分の信念を曲げないビシっと1本筋の通った人物が多いのですが、三上はそうではなく、正直格好良くありません。 また事件解決に力を発揮できるポジションでないだけでなく、実際に彼の視点では今捜査状況がどうなっているのかも分かりません。 他の主要登場人物は筋が通っているだけに余計に・・・という感じです。 そんな人物の視点で彼の内面が長々語られる前半は少々退屈ですし、ラストのおいしいところも持って行かれます。 寧ろ奥さんの方が最後印象的な言葉を吐きます。 正直異色の切り口だとは思いましたが、個人的には正解だったのか若干疑問でした。 それでもこの作品に満足できたのは、ラスト100ページを切ってからの怒涛の展開。 一気に回収される伏線だけでなく、一つの事件に賭ける関係者の執念が爆発する。 残った者、去った者、去らざるを得なかった者、そして廃人にしか見えなかった者までが・・・ 読んでるこちらまで、グワーッと込み上がってくる。 この作者の作品に泣きの要素を入れたら無敵だと思った。 ここでも主人公は蚊帳の外だった気がせんでもないが・・・まぁいいか。 |
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新聞記者としてノンフィクションを書いてきた横山秀夫さんの処女作。
元新聞記者という先入観がそうさせるのか、横山さんの描く警察小説の緊張感や迫力は、フィクションだとは分かっていてもノンフィクションだと錯覚させられるような説得力を感じていました。 しかし、この作品は、これまで読んできた横山作品とは全く違う。 やはり処女作というところか。 が、面白くないのではない。 寧ろ凄く面白い。 ただ「らしくない」というか、落ち着いて考えてみると、正直この作者らしくない突拍子もないプロットだと思えます。 「処女作にしてさすが」なんていうレビューも散見されますが、それはちょっと違うんじゃないかな。 全然らしくないですよね。 もしかしたら、とてつもなく貴重な作品なのかもしれない、と個人的に感じております。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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静かで優しい時間が流れている作品です。
博士と家政婦と家政婦の息子の物語です。 息子は、博士から「ルート」というあだ名を授かっています。 「どんな数字にも身分を与えることができる」という数学記号のルートです。 まぁ元々阪神ファンに悪人はいないんだけどね。 「泣いた」というレビューをよく見かけます。 ページ数も多くなく数時間で読めてしまう作品で、お涙頂戴的なわざとらしい描写もありません。 寧ろ作者は意識的にそういう描写を省いているようにも思えます。 あっと驚くようなイベントが起こるわけでもありませんし、ましてや奇跡が起こるわけでもありません。 全編通して淡々としています。 ただ、その分、登場人物たちの何てことのない言葉、行為に、読み手が、文字として描かれていない何かを考えたり想像したりする余裕があるのでしょうね。 レビュアーの多くがどこで何を感じて泣けたのかは分かりません。恐らく感じ方は人それぞれでしょう。 でも泣かせどころは満載な気がします。 上っ面だけ読む人は恐らく泣けない。でもそうじゃない人は色んなところでいっぱい泣ける。そんな作品だと思いました。 ただ私を含め多くのレビュアーの方々が「ここは泣けたはず」なのがやはりラストでしょう。 そのシーンには衰弱していく博士の姿など作者は一切描いていない。 しかし読み手は必ず脚色して読んでいるはず。(でしょ?) そこに 「ルートが数学の先生になるんです」 実際これだけで十分過ぎるほど十分。 悲しみとか喜びとか安堵とか・・・そんな様々な感情が上手く均衡を保った状態で終わった、そんなきれいな終わり方だった。 |
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エイジとツカちゃんとタモツくんそしてタカやん。
「ちゃん」と「くん」と「やん」 何となくだがエイジとの距離感を上手く表せている気もしました。 で、「やん」が少年Aに。 被害を受ける側を気遣うツカちゃんに対して被害を与える側の気持ちが気になるエイジ。 そして無関心なタモツくん。 エイジは少年Aを可哀想な奴とも思わないし、許せない奴とも思わない。 そして、心の中では相手の背中にコンパスの針を刺しているエイジ。 心の中に潜在意識として存在している「キレる」が表に出たか出ていないか。 少年Aと自分の差はわずかこれだけ。 「ぼくもいつかキレてしまうんだろうか?」 設定が中学生の妙だろう。 精神的にクラスメートよりも少し先に大人になりかけているのですが、「多感」という2文字では表現しきれないくらい不安定なのです。 半分大人、半分子供。 そして幼い連中が多く残るなかでエイジの葛藤が際立っています。 また、自分を束縛するものに何とか贖おうと親、特に母親には冷ややかな態度を取ってしまう一方で好意を寄せる異性に対する接し方の幼さ。 そうそう、この青さが中学生なんだよ。 自分もそうだったかなぁ・・・なんて思い出しながら読みました。 |
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「グリコ・森永事件」から着想を得て書かれた作品らしい。
中心に添えられるのは「企業テロ」なのですが、そこに同和問題や企業と総会屋の癒着問題や仕手筋による株価操作など企業を取り巻く様々な社会問題が取り上げられます。 当然そこに警察やマスコミも絡んでくるわけで兎に角登場人物が多いです。 そしてそれら多数の登場人物の視点に頻繁に切り替えられながら物語は展開していきます。 最初はこの視点の切替の多さに戸惑うのですが、その分登場人物一人一人を非常に丁寧にそして深く描けておりそこにまず感心します。 レディージョーカーとは犯人たちの呼称なのですが、社会から「ババ」を掴まされた男たちの反逆という背景をよく表せていると思います。 彼らは20億円もの大金をせしめる訳ですが、そこに歓喜はなく、読む方にも爽快感や痛快感はまるでないです。全編どこか息苦しいのです。 題材から一見サスペンスものと思っていたのですが、読み進める内に違うなーって思えてきます。 社会悪、組織悪・・・この作品には悪が充満しています。 悪とは何か、本当の敵は何なのか、そして人間の尊厳とは何なのか。 そんな高尚な文学的要素を兼ね備えた・・・というより、もう文学作品と言ってしまってもいいのかも。 想像していた作品とはまるで違いました。 一個人の存在など組織の前では単なる歯車の一部にしか過ぎない。 しかし大企業の社長誘拐という未曾有の大事件を核としたこの大作、2人の人間の個人の尊厳をかけた戦いという想定外のラストを迎えます。 「合田VS半田」 警察という巨大な組織から外れ(いい意味で言えば)「孵化」した2人の戦いに置き換えられるのです。 読み手にも意味不明なほど、物語前半から執拗に互いを意識しあっていた2人。 水と油、裏と表。性格は全く正反対な印象を受けますが、組織に従順ではない、どこか反骨心を持っていたという点では同じ。 どこかお互いに感じる何かがあったのだろう。 このラスト、後からじわじわきた。 最後の最後に、何となくだが作者がこの作品を通じて一番何が言いたかったのか分かったような気がした。 競馬のシーンがよく登場しますが、G1馬だけでなく条件戦に登場する馬に至るまでが実在した馬です。 競馬歴25年の私にとっては懐かしいことしかり。 高村薫さんは女性ながらに相当の競馬好きなのだろうか。 競馬好きでないのだとしたらこの取材力は半端ない。 |
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作中「アマゾン牢人」「棄民」という言葉で揶揄されるブラジル移民の悲劇、ずしりと重い歴史問題がまず提示されます。
そして、そこから生き延びた人間たちが日本に戻り国に復讐するという物語。 スケールの大きいクライムノベルです。 冒頭の100ページ余りの地獄絵図の描写は読むのに多少の苦痛を伴いますが、復讐者達に感情移入するには相当に効果的です。 ハードボイルドまたはバイオレンスとも言えなくはない。 確かに、その手の作品にありがちな暴力とセックスの描写もある。 ただ、ガチガチの・・・ではなく、復讐劇と言うには全編どこか軽く読みやすい。 派手にぶちかますのかと思いきや彼らのやり方はどこか紳士的。ここで更に読み手を味方につける。 読み終えて感じたのだが、この軽さが最後の爽快感を生んでいるのではないかと思った。 3人の実行犯。 それぞれが違った結末を迎えるというのも凝っている。 特筆すべきはケイと松尾のキャラクター。 負の境遇を共有し目指すところは同じでも、何もかもが正反対。 人間の人格は育ちの環境が形成するのだなと興味深く彼らの活躍を楽しんだ。 まぁ彼らと比べると日本の女子アナのなんと稚拙なこと。 |
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読み進めていくうちに、その作品のスケールのデカさというか奥行きの深さに圧倒されていく作品。
筆致自体は終始淡々としているのになぁ。 その時代を代表する女達の力強さって事なのかな。男にはない強さってやつ。 万葉、毛鞠、瞳子・・・製鉄一家に嫁いだ、或いは産まれた女三代の物語です。 読み出してしばらくは「何これ?日記?単なる伝記?」だったのですが、次第にはまっていきました。 自分が真ん中、2代目毛鞠世代な事も大きかったのかも知れませんね。 「男の時代」「可能性と進出の時代」そして作中の言葉を借りれば「語るべき物語を持たない時代」 それぞれの時代の女の生き方を描きつつ、製鉄産業の栄枯盛衰の物語もその脇を添えています。 男性陣も各世代個性的な人物が登場するのですが、時代の流れに乗れなかった男たちは自然と淘汰され、時代の流れに乗り仕事に全てをかけた男たちも、その存在感をなくしいつの間にか死んでいる。 どこか哀れだ。 今の日本を作ってきたのは男たちだが、時代を作ってきたのは女なんだな。 なんて思いながら読みました。 第3部になっていきなりミステリ的な展開があり、「おっ!」と思って期待したが、ミステリとしては正直大したことないです。 そんな事より、第3部が始まると否応なしに押し寄せてくるリアリズム。 自分の時代がはるか昔であるかのような錯覚に襲われてしまいました。 何なんだこのギャップは。 さすがこれが「語るべき物語を持たない時代」ということなのか。 これまでの「時代を作ってきた」という印象が一転「時代に支配され翻弄されている」という感じかなー。 一見「自由で奔放」に見えますが、どこか抑圧されてるような。 明らかに浮いてるぞ現代。 第3部のちょっとしたミステリチックな趣向は、これまでの物語の流れから浮いている現代と過去を上手くつなげるのに大きな役割を果たしていたように思います。 大したミステリである必要なかったというか、もっと大切な役割を担っていたのではないかと。 万葉の千里眼の「謎」も最後上手くおさまりましたしね。そのための千里眼だったんでしょうね。 今から数年後、今の若者達は何か時代を築け残せているんでしょうか? 作者のそんな皮肉もどこか伺える気がしましたけど・・・違うかな。 |
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【ネタバレかも!?】
(10件の連絡あり)[?]
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ミステリではないですが、ハズレのない短編集です。
人を石にしたり、妄想により創りだされた人物が具現化したり、ぬいぐるみが動いたり、刺青で描かれた犬が生きていたり・・・ 何れも非現実的なおとぎ話のような設定なのですが、子供だましで終わらない。 大人が読んでも、そんな世界観に引き込まれてしまいます。 読中は、少女やぬいぐるみに心を動かされてしまう。大人がですよ。 どんな生き物にも心の奥の奥の方には必ず優しさが潜んでいて、この作者は、そんな優しさを表まで引っ張り出してくる。 読み手はそれに触れてグッときてしまう。 「暗いところで待ち合わせ」もそんな作品だったなぁ・・・とか思い出しながら。 そして、単なるハッピーエンドなお話で終わらせないのがまた上手いんだろうなぁ。 何れもどこか儚く、虚しく、悲しい終わり方をします。 せつないです。 余韻が半端ない。 個人的には「BLUE」がお薦めです。 |
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久しぶりに気持ちのいい作品だった。良著。
物語の舞台は18世紀後半のロンドン。 貧富格差が大きく、正義でさえ金で買えてしまう醜い時代背景。 まだまだその社会的地位が高くなかった医療界、その中でも宗教的理由からか卑下されていた解剖医達が主人公。 日の当たらない職業に従事する仕事バカ達だが、みな優秀、だがみなどこか不器用でみな程よく不幸だったりする。 誰もが容易に感情移入できるタイプだ。愛すべきバートンズの面々。 この作品の好感度が高い第一の理由だ。 そして、解剖学という馴染みがなく取っ付きにくいテーマながら、専門用語の羅列で困惑させることもなく、その描写により不快感を与えてしまうこともない。 難解なテーマをライトに描いていて読みやすい。しかし軽くはないのだ。作者の表現力が高いのだろうと思う。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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呪力を持った人類の千年後の未来が舞台の物語。
主人公である女性の手記の形式をとっているが、作中でその女性は「後世へ伝えるために書いた」と言っている。 千年後の「新世界より」千年前を生きる我々読み手に届けられた手紙というわけだ。 千年後というと余りにかけ離れた未来であり、しかも呪力ときてるもんだから、何でもありなのかと思いきや、そこにあるのはリアリズムだった。 この作品の素晴らしいのはまずそこだろう。 人類史における戦乱や差別による悲劇の繰り返しの果ての世界がそこにある。 生態系の頂点に立つ我々人類がさらに進化していく過程で理想を追求するが故に選択してしまうかもしれない過ちの結果がそこにある。 読み進めていくうちに「有り得る」と考えさせられてしまうのだ。読後の余韻も深い。 また、千年後の未来という事で生態系も大きく変化しており、その世界観はファンタジーに近いものになっているのだが、異型の生物の描写はさすがである。 ホラー作家なんだなと実感させられる。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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青春ミステリ。
前半はまぁ当然かも知れないが青春一色で、しかもラノベっぽい軽さを感じてしまい退屈でした。 主人公を取り巻く状況、特に人間関係、その扱われ方とかセリフ等には、読み出した時点からどことなく違和感を感じてはいました。 しかし、そんなどこか理屈っぽい男女関係の描写も「ラノベだな~」で片付けて読み進めてしまいました。 そんな違和感がことごとく伏線だった事には「やっぱり」よりも驚きの方が大きかったですが・・・まぁ兎に角計算尽くされた作品でした。 物語の核となるのはヒロインの転落、消失事件です。 校内には監視カメラが張り巡らされており且つ衆人環視による言わば「密室状態」だと。 実際密室には程遠い穴だらけだった気がしますが、やたらとその「密室」を強調しているので少し苦笑でした。 この不可能w状況からのハウダニットを前面に押し出すのですが結果的に正直小粒です。 「作品に仕込まれた最大の仕掛けから読み手の目を背ける事に成功している」なんてレビューも散見されますが、私はそうは思いません。 そんな事しなくても読み手は騙せます。それくらい良く出来ています。 そうです、この作品の見せ所は別にあるのです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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