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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数529

全529件 121~140 7/27ページ

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No.409: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

今度もしゃべる、食う、暴れる、絶好調の二人

堀内と伊達のヤメ刑事コンビ・シリーズの第4作。金塊強奪事件で消えた5億円の金塊を追って大阪から淡路島、福岡、湯布院、名古屋まで二人が走り回る痛快なバディ・ノワールである。
競売で落札した物件の占有者排除に向かった伊達は、現場にいたチンピラが金塊密輸と金塊強奪事件に関係していたこと知る。しかも、白昼堂々と実行された犯行が狂言強盗らしいと読んだ伊達は相棒・堀内を誘い、消えた金塊を横取りしようと計画した。しかし、事件に関係するのは半グレグループ、ヤクザ、怪しげなブローカーなど一筋縄ではいかない奴らばかり。はったりと暴力・知力では決して引けを取らない堀内・伊達コンビも苦戦を強いられ、二人とも負傷する羽目に陥った。それでも目には目を、歯には歯をで警察や暴力団の伝手を頼り、金塊を手に入れるのだった…。
実際に起きた事件を想起させるストーリー、いつもながらの強烈なキャラクター、テンポのいい会話とユーモアなど、読み進めるのが実に楽しい一級品のエンターテイメントである。さらに本作では、一人で暮らす堀内の自由さの影の一抹の不安も垣間見え、しみじみした味わいも加わっている。
シリーズのファン、黒川ファンには絶対のオススメ。バディもの、ハードボイルドのファンにもオススメする。
熔果 (新潮文庫 く 18-6)
黒川博行熔果 についてのレビュー
No.408:
(8pt)

予想以上に面白かった!

中国で大ヒットし、ドラマ化もされて社会現象になったという長編サスペンス。中学生たちが企んだ完全犯罪が成功するかどうか、最後までハラハラドキドキさせる傑作ミステリーである。
成績抜群の優等生の中学二年生・朱朝陽の家に、幼馴染の丁浩と妹分だという女の子・普普が突然現れた。孤児院から脱走してきた二人は行く当てもなく、朝陽は仕方なく匿うことになった。三人でハイキングに出かけた山で撮ったビデオを見た彼らは、殺人の動かぬ証拠となる衝撃的なシーンを目撃することになった。事件は、義父母の財産を狙う入り婿・張東昇が事故に見せかけて殺害したもので、警察は張の目論見通り事故として処理したのだった。警察に通報すべきなのだが、通報すると丁浩と普普が孤児院に戻される懸念があるため三人は躊躇する。さらに、丁浩と普普が安全に暮らすための資金を、殺人犯を恐喝して得ようと三人は考えた。こうして、殺人犯と中学生の虚々実々の駆け引きが始まり、家族や警察も巻き込んで事態は泥沼化していくのだった。
張と三人の完全犯罪の企みは成功するのか否か? 一筋縄ではいかない展開で、最後まで引き付ける。さらに事件の背景となる中国現代社会のひずみがリアリティたっぷりで、「東野圭吾作品にインスパイアされた」というのがよく分かる社会派エンターテイメント・ミステリーに仕上がっている。面倒な中国人名もルビ付きで読みやすく、本文のリーダビリティがよいのも好感度が高い。華文ミステリー、侮るなかれである。
東野圭吾ファンなら高評価間違いなし。国内海外を問わず現代社会派ミステリーのファンにオススメする。
悪童たち 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
紫金陳悪童たち についてのレビュー
No.407: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

桜木ワールドの萌芽が見られる初期作品

2008年に刊行された単独作品。認知症の母が漏らした地名から自らの出生の秘密を探ろうとした女性書家の行動が国境の港町の暗部につながっていく、ヒューマン・ノワール・ミステリーである。
釧路で書道教室を営む夏紀は、新聞の短歌欄に出てきた「涙香岬」の名前に驚き、作者である根室在住の元教師・沢井徳一を訪ねることにした。というのも、初期認知症を患う母・春江が「ルイカミサキに行かなくちゃ」とつぶやくのを耳にしていたからだった。母一人子一人で父親を知らない夏紀は、自分の出生にかかわる何事かが涙香岬にあるのではないかと疑問を持ったからだった。現地では何もわからないまま帰った夏紀だったが、案内した沢井徳一は夏紀を一目見て激しい衝撃を受けていた。夏紀は、徳一が若い時に救えなかった教え子の少女に瓜二つだったのだ。この運命的な出会いは、ソ連との国境で密猟を巡る暗闘が繰り広げらていた時代の根室の街に隠されていた秘密を暴き出すことになった…。
夏紀の出生の秘密、徳一の教え子に対する後悔、さらに徳一の息子・優作の現在直面している悩みという、三つのエピソードが少しずつ重なり合い、悲しい物語が紡がれていく。欲を言えば事件の動機、犯人像にもう少し深みが欲しいが、まさに桜木ワールドの原型が見れれるヒューマンドラマであり、文庫200ページ余りの中編だがずしりと重い読みごたえがある。
桜木紫乃ファンなら必読。ヒューマンドラマ要素が強いノワールのファンにもオススメしたい。
風葬 (文春文庫)
桜木紫乃風葬 についてのレビュー
No.406: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

またも力強い歴史ミステリーだ

「戦場のアリス」がヒットしたクインの第二次大戦ミステリーの第2弾。ポーランドにいた冷酷な女殺人者を追うナチス・ハンター物語。主要な登場人物は「ザ・ハントレス」と呼ばれた女、彼女に弟を殺害されたジャーナリスト、戦場カメラマンを夢見る女子学生、戦時中は爆撃機に乗っていたロシア人女性の4人で、時代はロシア革命後の1920年代から50年代まで、舞台はシベリアからヨーロッパ、さらにボストンにまで広がっていく壮大な歴史ミステリーである。
戦後のウィーンでナチ・ハンターとして活動している英国人の元ジャーナリスト・イアンには、是が非でも捕まえたい女がいた。ポーランドでイアンの弟をはじめ幼い難民の子供たちを殺した「ザ・ハントレス」と呼ばれる女で、その所在を知る手がかりはまったくなかったが、ハントレスの魔手を逃れたロシア人女性ニーナにも協力を仰ぎ執拗に追い詰めようとしていた。同じころ、ボストンの女子学生・ジョーダンは父の再婚相手・アンネリーゼに不信感を抱いていた。
登場人物の背景を知ると分かる通りアンネリーゼがハントレスなのだが、それが判明するまでのプロセスが緻密で、クライマックスへのストーリー展開も緊迫感がある。しかし、何といっても魅力的なのがロシア人女性・ニーナである。バイカル湖畔で飲んだくれの暴力おやじのもとでサバイバル技術を身に着け、ロシア空軍の爆撃部隊に所属し、ポーランド戦線で脱出し独力で生き延びたという野生児で、粗野な言動と強烈なキャラクターは一読、忘れ難い。ニーナの造形に成功しただけで、本作は傑作と呼べる。
前作同様に第二次大戦にテーマを取った歴史ミステリーだが、前作以上の傑作で、現代史ミステリーのファンには自信をもってオススメする。
亡国のハントレス (ハーパーBOOKS)
ケイト・クイン亡国のハントレス についてのレビュー
No.405:
(8pt)

悪役の圧倒的な存在感に注目!

アメリカ・ミステリー界の巨匠の長編第7作。ベトナム戦争時の南部の町を舞台にした社会派であり、家族小説でもあるサスペンス・ミステリーである。
1972年のノース・カロライナ州シャーロットの街に、ジェイソン・フレンチが帰ってきた。ベトナムに従軍し不名誉除隊になったあと、麻薬で服役していたのが出所したのだった。出来の悪い息子の帰還は、警官である父・ビル、母・ガブリエル、弟・ギビーの一家に不吉な影を及ぼした。さらに、若い女性の凄惨な殺害事件が起き、ジェイソンが容疑者と目されたことから一家崩壊の危機にさらされる。警官の立場と父親の立場で板挟みになるビル、兄の無実を信じるギビー、二人はそれぞれの信念で事件の真相を追い求めるのだが、事件の裏には想像を絶する悪の存在があった…。
物語の通奏低音にはジェイソンがベトナム戦争で壊れてしまった理由があり、父、兄、弟の三者三様にそこに絡めとられているのが悲劇的。当時のアメリカの泥沼化したベトナム戦争による閉そく感と絶望がひしひしと伝わってくる。しかし、何といっても本作で最も強いインパクトを与えるのは刑務所に収容されている大量殺人犯・Xである。冷酷非情、頭脳明晰、肉体強健のみならず大富豪でもあり、地下二階の特別室から刑務所を支配しているという、いわばレクター博士とメキシコ麻薬カルテルのボスを合わせた悪役と言える。このXとジェイソンの関わりが物語のキーポイントになるのだが、その部分の理由付けが弱いのが全体の評価を下げる要因になっているのが惜しい。
家族小説的ミステリー、社会派サスペンス・ドラマのファンにおススメする。
帰らざる故郷 (ハヤカワ・ミステリ)
ジョン・ハート帰らざる故郷 についてのレビュー
No.404: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ろくでなし刑事たちの熱い思いと衝撃のラスト

イタリアの87分署シリーズと評価が高い「P分署シリーズ」の第2作。富豪一族の少年がされた誘拐事件を巡って、ろくでなし集団が奮闘する警察小説である。
高級マンションに住む夫妻から空き巣が入ったと通報があり、ロヤコーノとアレックスが出動したのだが現場の様子が明らかにおかしく、事件は自作自演ではないかと疑われた。同じ頃、美術館見学に訪れていた10歳の少年・ドドが行方不明になったと電話があり、ロマーノとアラゴーナが駆けつけた。一緒にいた同級生から「ドドは金髪の女性に手招きされて付いていった」との証言を得る。さらに、ドドがナポリでも有数の富豪の孫である事が判明し、捜査班は身代金目当ての誘拐ではないかと緊張する。空き巣と誘拐、二つの難事件を抱えた捜査班は「ろくでなし刑事たち」という外部の評価とは裏腹に使命感に燃え、すべてを投げうって捜査を進めていった。そして最後、犯人を突き止めた捜査班が見たものは…。
前作以上に、登場人物たちのキャラが立ち上がり、事件捜査も警察ものの王道を行く緻密な展開でミステリー度を高めている。イタリアではテレビドラマ化される人気だというのも納得の傑作エンターテイメントである。
前作が気に入った読者はもちろん、警察ミステリー・ファンには安心してオススメできる作品と言える。
誘拐 (創元推理文庫 M テ 19-2 P分署捜査班)
No.403: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

鬼才・ルメートルの新たな到達点

フランス・ミステリー界の鬼才が本領を発揮したノン・シリーズ長編。12歳の少年が犯した殺人を題材に、犯罪と償いの微妙な関係を描いた心理サスペンスである。
フランスの片田舎で母親と二人で暮らす12歳の少年・アントワーヌはふとしたはずみで隣家の6歳の少年レミを殺してしまい、動転して死体を森の中の穴に隠してしまう。当然のことながら村は大騒ぎとなり、警察やマスコミも駆けつけて捜索と事情聴取、取材が始まった。いつも身に着けていた腕時計を現場に残してきたのではないかと気が気でないアントワーヌだったが、死体を隠した森の捜査が行われようとした前日、村が大嵐に襲われ事態は急変した。
事態が発覚することの恐怖と犯した罪の大きさに生きた心地がしない12歳の少年は、その後の人生をどう生きていくのか? 思いがけない偶然や些細な誤解から状況が変化していくプロセスは、まさにサスペンスそのもの。全編、緊張感がみなぎっている。罪の意識におびえる少年の心理だけで最後まで読者を離さないクオリティの高さは、さすがにルメートルである。
心理サスペンスのファンには絶対のオススメ作である。
僕が死んだあの森
ピエール・ルメートル僕が死んだあの森 についてのレビュー
No.402: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

公の自分、個人としての自分、そして秘密の自分

現在フランスで最も売れているミステリー作家というミュッソの長編ミステリー。25年前にコートダジュールの名門高校で起きた魅惑的な美少女失踪事件に起因する愛憎劇を描いた、サスペンスたっぷりのヒューマンドラマである。
作家として成功しているトマは昔からの親友であるマキシムに呼ばれて、母校の50周年式典のためにコートダジュールに帰ってきた。それというのも、トマとマキシムは25年前にある秘密を共有しており、それが暴露されれば間違いなく二人は破滅することになるからだった。25年前、魅惑的な少女・ヴィンカが忽然と姿を消すという出来事があり、周囲は同時期に行方が分からなくなった教師・アレクシスと駆け落ちしたみなしたのだが、実はトマとマキシムが深く関係しており、しかも二人は証拠の死体を建設中の体育館の壁に隠していたのだった。だが、体育館が解体されることになり、トマとマキシムは絶体絶命の窮地に追い込まれる。さらに、二人の元に何者かが「復讐」と書かれた脅迫状を送り付けてきた。
完全に隠したはずの過去に裏切られるというのはよくある物語だが、ミュッソはそこにもう一ひねりを加え、あっと驚く結末を見せてくれる。誰が善人で誰が悪人かという単純な話ではなく、登場人物すべてに複数の顔があることから生まれるミステリーとサスペンスは、さすがのベストセラー作家の力技である。
人間くささが濃厚なミステリーのファンに自信をもってオススメする。
夜と少女 (集英社文庫)
ギヨーム・ミュッソ夜と少女 についてのレビュー
No.401: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

老いることの強さと悲しみと

デビュー作ながら様々なミステリー賞にノミネートされたという、英国ミステリーの大型新人のデビュー作。リタイア族が暮らす施設の趣味のクラブメンバーが現実の殺人事件の謎に挑戦する、ユーモラスだが王道をゆく謎解きミステリーである。
暇に飽かせて元警察官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルを基に未解決事件を解き明かそうという「木曜殺人クラブ」。元看護師、元労働運動家、元精神科医、経歴不詳の切れ者女性など、メンバーは全員癖のある老人ばかりが集まって楽しんでいたのだが、施設運営者の一人が撲殺されるという事件が発生し、自分たちで犯人を捜そうと張り切りだした。推理には自信があるものの情報に乏しいため、現役の巡査を丸め込み捜査情報を手に入れようとする。機動力や科学的捜査力はないものの人生経験と人間観察力に優れた彼らの調査は、警察には想像できなかったルートで真相に迫っていく…。
老人(高齢者)が主役のミステリーは今や立派に一ジャンルとして確立されているが、本作はそれに新たな華を添えるインパクトがある作品である。犯人捜し、動機の解明というミステリー要素はきちんと押さえられ、さらに高齢者ならではのユーモアと悲哀が効果的にちりばめられており、味わい深いエンターテイメント作品となっている。
王道の英国ミステリーのファン、ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。
木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ(1971))
リチャード・オスマン木曜殺人クラブ についてのレビュー
No.400:
(8pt)

いい年なのに体を張りすぎてるよ、ヴィク

4年ぶりに邦訳が出たV.I.ウォーショースキー・シリーズの第19作。身近な人々が巻き込まれたトラブルを解決するためにヴィクが体を張って駆け巡る、アクション・サスペンスである。
敬愛するロティの甥の大学生が殺人犯の容疑をかけられたとして、ヴィクに助けを求めてきた。頑迷な保安官を相手に四苦八苦しているところに、さらに元夫の姪が「シカゴにいる姉が行方不明になったので探すのを助けてほしい」と頼み込んできた。どちらも金にならない事件だが、正義を求めるヴィクは困っている人を放っておけず調査を進めることにした。気乗りしない調査だったが事件の中身を知るほどに巨悪の姿が見え隠れし、さらにヴィク自身の身体の危険も迫り、全身全霊をかけて真相に迫ることになった…。
もうとっくに50歳を過ぎたヴィクだが激しい気性と行動力は変わらないというか、ますます激しさを増し、次から次へと命を賭けたアクションが展開される。しかも、そのアクションの背骨になっているのが社会的不公正に対する激しい怒りなので、正義が貫かれる最後はすっきりと気持ちがいい。
シリーズ愛読者には文句なしのオススメ。ハードボイルドファン、社会性のあるアクション・サスペンスのファンにもオススメしたい。
クロス・ボーダー 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ・パレツキークロス・ボーダー についてのレビュー
No.399: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さらに重苦しくなった、異色の刑事ハードボイルド

マンチェスター市警エイダン・ウェイツシリーズの第3作。エイダンが警備中に病院で殺害された殺人犯を巡る謎に、エイダン自身の過去が絡んできて先が見えないサスペンスが続く警察小説であり、権力と暴力の醜悪な関係を映したノワールである。
12年前の一家惨殺事件で服役していた男が末期がんと分かり、病院に収容された。エイダンと相棒のサティは厳重な警備を命じられていたのだが、男が火炎瓶で襲撃されて死亡し、サティも重体に陥った。しかも、男は死ぬ間際にエイダンに「俺じゃない」という一言を残していた。エイダンは新たに相棒となったナオミ・ブラック刑事とともに事件を解明しようとするのだが、それは男を殺害した犯人捜しであると同時に、12年前の事件の謎を解くことでもあり、両方の事件に関係する人物たちの秘密を暴いていく困難な作業だった。さらに、捜査の途中からエイダンは何者かに監視され、命を狙われていることに気が付いた…。
過去の事件の関係者が殺されて再度捜査が進められるという警察捜査小説の王道の謎解きに、エイダンの過去と現在にまつわる因縁の人間関係から生まれるハードボイルドな展開が加えられた、非常に重厚で複雑なサスペンス・ミステリーである。前2作の登場人物やエピソードが重要な役割を果たすこともあり、ぜひとも第1作から読むことをオススメする。
スリープウォーカー マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ (新潮文庫)
No.398: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

老嬢たちのバディ・ハードボイルド

本作品が長編3作目というアメリカの新進作家の本邦デビュー作。ひょんなことから友人になった老嬢二人が孫娘も巻き込んで、マフィアの金を横取りして逃げるバディもののハードボイルドである。
マフィア幹部の未亡人・リナは言い寄ってきた隣人の男をガラスの灰皿で殴りつけ、男の車を奪って娘の家に逃げ込もうとしたのだが、もともと折り合いが悪かった娘・エイドリアンはリナを追い返そうとする。そこに娘の隣家に住む引退したポルノ女優・ウルフスタインが声をかけ、隣家に入れてくれ、ほっと一息つく。だが、エイドリアンの愛人のリッチーがマフィアの金を強奪して逃げたため、リッチーを殺そうとするマフィアの殺し屋が襲ってきて、エイドリアン、リッチーと15歳の孫娘・ルシアが逃げ込んできた。さらに、ウルフスタインが金をだまし取った男も登場し、カオス状態になった現場からリナとルシア、ウルフスタインの3人は問題の金を奪い、車も奪って逃げ出した。深夜のハイウェイを必死で逃げる三人組とそれを追いかける男たちのサスペンス・アクションは予想を覆すドラマを生み出した…。
まず第一に、登場人物が魅力的。主役の三人はもちろん周辺人物もキャラが際立ち、生き生きと動き回っている。物語のメインは逃亡する女たちと追いかける男たちの追っかけっこなのだが、話の展開がスピーディでぐんぐん引き込まれて行く。さらに舞台に選ばれたニューヨークの街や映画を中心にしたポップカルチャーにも味わいがある。
熟女が主役のハードボイルドであり、バディものであり、しかもアクション・サスペンス。ハリウッドのコメディタッチのアクション映画が好きなら、絶対のオススメだ。
わたしたちに手を出すな (文春文庫 ホ 11-1)
No.397: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

SNSネイティブ世代の青春ミステリー

イギリスの新人のデビュー作。女子高校生がSNSを駆使して事件の真相に迫る謎解きミステリーであり、児童文学賞候補になった青春小説の傑作でもある。
平和で楽しい家庭で暮らす元気な女子高校生・ピップが自由研究のテーマに選んだのは、5年前に町を騒がせた17歳の女子高生・アンディ失踪事件だった。死体は見つかっていないものの、アンディの恋人だったサル・シンが警察の事情聴取の後で睡眠薬を飲み、頭からビニール袋を被った死体で発見されたことから、サルがアンディを殺して自殺したとされてきた。しかし、サルと親しかったピップはサルが犯人とは思えず、サルの無実を証明するために関係者へのインタビューを行い、それをレポートにまとめようとするのだった。何の権限もない高校生のピップだが、徹底的にSNSを調べ上げ、サルの弟のラヴィの助けも借りて事件関係者が隠してきた真実を次々に明らかにする。そしてたどり着いた結末は……。
誰もが顔見知りの小さな町での少女失踪事件は、昔から繰り返されてきた話だが、本作は探偵役が女子高校生ということで新鮮な作品となっている。特に、SNSを駆使して真相に迫るプロセスはユニークで軽快、ピップのキャラクターの良さもあり、爽やかな読後感をもたらしてくれる。また謎解きの部分も高レベルである。
若い世代だけでなく、幅広い年齢層の謎解きミステリーファンにオススメしたい。
自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)
No.396: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

今は亡き「民主警察」への挽歌

昭和29年の大阪を舞台にした書き下ろし長編ミステリー。新人刑事が堅物の上官と組んで連続猟奇殺人事件を追う、バディものの警察小説である。
代議士の秘書が頭に麻袋をかぶせられて殺害されるという猟奇事件が発生し、捜査班に組み込まれた大阪市警視庁(当時は存在した)の新人刑事・新城は、テロ事犯を疑う国警から派遣されてきた警部補・守屋とコンビを組むことになった。上級公務員で東京から転勤してきたばかりの守屋はすべてに四角四面で融通が利かず、新城とは正反対の性格で、新城は先が思いやられるのだった。担当する聞き込みに回ると案の定、守屋は不器用で新城はしりぬぐいに汗をかかされるのだった。事件は、同様の手口で殺害された遺体が次々に発見され連続殺人の様相を呈してきたのだが、被害者の共通点が見つからず
捜査は難航した。それでも、新城たちの粘り強い聞き込みから、戦前の満州にさかのぼる背景が浮かび上がってきた……。
堅物上司と人情派の部下という、よくあるパターンのバディもので、そこに新味はない。しかし、かつて戦後の一時期だけ存在した自治警察と国家警察という歴史的背景が上手くいかされていて、なかなか読みごたえがある。
警察小説のファン、近代史ミステリーのファンなら十分に楽しめる作品としておススメだ。
インビジブル
坂上泉インビジブル についてのレビュー
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(8pt)

勘違い(先入観)だけで、これだけ面白くできるのか!

2020年に週刊誌連載された長編小説。家族を守るために秘密を抱えた人々の葛藤と謎解きの面白さを兼ね備えたヒューマン・ミステリーである。
小料理屋を営む藤原幸人のもとにある日、脅迫電話がかかってきた。一人娘・夕見を守るために、幸人が必死で隠してきた秘密を知っており、金を渡さなければ娘にばらすという。脅迫のストレスに耐えきれずダウンした幸人はしばらく店を休業し、気分転換のために夕見と出かけることにしたのだが、夕見が行きたいといった場所は、30年前に幸人家族が逃げるようにして出てきた故郷だった。そこには幸人の母の死、さらに幸人と姉の事故を巡る深い闇が残されているのだった…。
主人公が隠していた秘密は物語の最初に明らかにされ、謎解きの本題は「母の死を巡る」一連の出来事である。母の死と、その一年後に起きた毒キノコによる殺人事件の責任はだれにあるのか? 素人探偵が地道に聞き込みと推理を重ねて行くプロセスは、もどかしいもののサスペンスがある。そして、最初の脅迫という伏線の回収もあっけないが面白い。
家族の秘密をテーマにした人間ドラマのファンにオススメする。
雷神 (新潮文庫 み 40-23)
道尾秀介雷神 についてのレビュー
No.394: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

こういうどんでん返しなら納得!

「時計仕掛けの歪んだ罠」で日本でも人気が出始めた「サム&モリー」シリーズの第2作。前作以上に複雑な展開で読者を驚かすサスペンス・ミステリーである。
前作の結末から警察を退職したサム・ベリエルが収容されていた精神科病院から脱走を試みるが失敗し、サムを捜索していた公安警察に逮捕されるという衝撃のオープニングだが、すぐに元警察官のサムとは別人であることが判明する。そのころ元警官のサム・ベリエルはスウェーデンの最深部、電話の電波も届かない北極圏にあるロッジで元公安警察の潜入捜査官だったモリーに匿われ、絶対に警察の検索網にかからないようにひっそりと暮らしていたのだが、かつての相棒であるディアが訪ねてきたことから事態は一変する。ディアは、彼らが関わった事件で捜査ミスがあったことを示唆する手紙を受け取り、そこには無視できない事実が書かれているというのだ。犯人が逮捕され、すでに終結した事件であり、公式には再捜査できないため自由に動けるサムとモリーに非公式の捜査を依頼したいというのだった。あくまで私立探偵として捜査に協力し始めたサムとモリーだったが、すぐに連続殺人事件に巻き込まれ、公安警察に加えて見えない犯人からの危機にさらされることになった……。
ストーリー(謎解きのプロセス)がどんでん返しの連続で、どう書いてもネタばらしになりかねない作品である。ただ、どんでん返しに無理がなく、ジェフリー・ディーヴァー作品のようなあざとさが無いので、展開のスピードとサスペンスに心地よく身をゆだねることができる。
北欧ミステリーのファンには絶対のおススメ。またサイコ・サスペンスのファンにもオススメしたい。
狩られる者たち (小学館文庫 タ 1-2)
アルネ・ダール狩られる者たち についてのレビュー
No.393: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

幸せな日々を守るために小さな嘘、大きな嘘、そして誠実な嘘

「容疑者」、「生か、死か」がちょっと話題になったロボサムの邦訳第4作。出産を間近に控えた二人の女性の出会いから起きた悲劇を描いた、サイコ・サスペンスである。
成功している夫と二人の子供を持ち、裕福に暮らしているメグは三人目の子供を妊娠していた。専業主婦でありながらブロガーとしても充実した日々を過ごしているメグをうらやみ、密かにストーカー的行動をとるアガサはパート店員で、恋人の子供を妊娠しているものの恋人は逃げ腰で、日々不安を募らせていた。不幸な少女時代を過ごしたアガサは子供を中心にした家庭生活にあこがれを募らせており、生まれてくる赤ちゃんがすべてを変えてくれるものと一途に思い込んでいた。メグを崇拝するあまりアガサは偶然を装ってメグに接近し、友達になることに成功する。しかしその出会いは、お互いの嘘を重ね合わせることで取り返しのつかない結末を招くのだった…。
出産を控えた二人の女性のドラマという設定から想像できるように、赤ちゃんを巡る悲劇になるのだが、そこに至る対照的なヒロイン二人のドラマが実に面白い。起きたことは犯罪だが、犯人を単純に断罪すれば済む話ではなく、読者が犯人に肩入れしたくなるドラマ作りが成功していて、ぐんぐん引き込まれていく。幸せを守るためには嘘も必要なのか、隠し事がないことが誠実なのか、人間の性(さが)について考えさせられる作品である。
ミステリーというよりサイコ・サスペンスとしてオススメする。
誠実な嘘 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
マイケル・ロボサム誠実な嘘 についてのレビュー
No.392: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

「グラント郡」と「ウィル・トレント」をつなぐ超大作

「ウィル・トレント」シリーズの最新作であると同時に「グラント郡」シリーズを締めくくる、カリン・スローターの転回点となるであろう力強い警察ミステリーである。
8年前、サラの元夫であるジェフリー・トリヴァー署長が捜査した事件で逮捕された服役囚・ネズビットが「冤罪である」と訴えてきた。事件は極めて残虐な連続レイプ殺害で、ネズビットが逮捕されてからは同じような事件が発生していなかったため警察は本気にしなかったのだが、同様の手口によるレイプ殺害事件が発生し、ウィルとフェイスたちは否応なく再捜査することになった。捜査が進むにつれ、トリヴァー署長たちの捜査には欠点があり、ネズビットは誤認逮捕ではないかと思われてきた。このことは、いまだにジェフリーを愛しているサラを傷つけ、それは同時にサラを愛するウィルを苦しめることでもあった。
捜査を進めるにつれて同一犯による犯行の疑いが濃くなる連続レイプ事件について、8年前のトリヴァーの捜査と現在のウィルたちの捜査が交互に展開し、しかも二つの時代をつなぐサラの動揺が激しく、ストーリー全体にきわめて緊張感がある。また、いつも通り事件の態様は暴力全開で読む側に緊張を強いてきて、740ページほどの長編を読み終えるとぐったりさせられる。読み終わってもカタルシスを覚えることはないのだが、確実に次作を読みたくなる不思議な引力を持つ作品である。
カリン・スローターのファンには必読。激しい暴力シーンに耐えられる警察ミステリーファンにもおススメだ。
スクリーム (ハーパーBOOKS)
カリン・スロータースクリーム についてのレビュー
No.391: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ヴァランダー・マニアは必読・必携

ヴァランダー・シリーズの最終作(書かれたのは最後ではないが)となる未訳の中編小説と、著者自身によるシリーズの説明と索引を併録した「ヴァランダー解題」である。
中編「手」は、田舎に引っ越したいと願うヴァランダーが候補物件を見に行き、庭で人骨の手につまずいたことから難解な過去の事件を解明していく正統派ミステリー。地道な捜査で真相に迫るヴァランダー・シリーズの特性が十分に発揮されるとともに、中年の危機を迎えたヴァランダーの人間臭さが色濃くみられるしみじみとした作品である。
後半3分の2を占める紹介、索引は実に細かく、ヴァランダー・シリーズの誕生の裏話などもあって、ファンには思いがけないボーナスである。
シリーズを何度も何度も読み返すような、ファンというよりマニアには必携の一冊としておススメする。
手/ヴァランダーの世界 (創元推理文庫)
No.390: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さらに深みを増した第3作。絶対に第1作から読むべし!

老弁護士「トム・マクマートリー」シリーズの第3作。前2作同様というか、更に更に胸を熱くするリーガル・サスペンスの傑作である。
アラバマ州タスカルーサの川岸で射殺死体で発見された男性は、トムとリックたちと因縁深い(第1作)元運送会社経営者のジャック・ウィリストーンだった。さらに、容疑者として逮捕されたのは、ウィリストーンの裁判で最後に証言を翻してトムたちを苦境に追い込んだ元ストリッパーのウィルマだった。パートナーのリックが父親を亡くし、残された母親のために故郷に帰っていたため一人で事務所を預かっていたトムは、「母の弁護をして欲しい」と依頼して来た14歳の少女ローリー・アンがウィルマの娘だと知って驚愕する。しかも、法廷で戦うことになるのが古くからの友人のコンラッド検事、リッチー捜査官であり、さまざまな証拠もウィルマの犯行を示唆するものばかりだった。トム自身に体調不安があり、しかも圧倒的に不利な状況だけに、周囲は弁護を引受けることに反対するのだが、ローリー・アンの情にほだされたトムは、最後の法廷に臨む決意でチャレンジすることにした・・・。
前2作も圧倒的に不利な状況からの逆転劇がカタルシスを呼ぶ情熱的なストーリーだったが、本作はさらにトムの癌の進行などもあり、さらにさらに老弁護士の不屈の精神が強調されている。また、謎解きミステリーとしても最後まで犯人が分からず、終盤のどんでん返しには驚かされる。加えて、これまでトムの周囲に登場した人物たちが再登場し、重要な役割りを果たしているのもシリーズ物としての読みどころである。しかも、第1作で中途半端な印象を残したエピソードが、実は伏線であり本作でしっかり回収されているのにも驚かされる。
リーガル・ミステリーのファン、情熱的なヒューマン・ストーリーのファンには絶対の自信を持ってオススメ。なお、第1作、第2作を引き継ぐエピソードが多いため、絶対にシリーズの順に読むことをオススメする。
ラスト・トライアル (小学館文庫 ヘ 2-3)
ロバート・ベイリーラスト・トライアル についてのレビュー