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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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「ブルース」の続編となる連作短編集。ブルースの主人公・影山博人の義理の娘・莉菜が義父の亡き後を継いで釧路の街を制御しながらも、最後には街を出てゆく、ダークヒロインの半生記を描いたハードボイルドである。
自分のミスで義父を殺害されたという贖罪意識を抱えたまま莉菜は、父に代わって釧路の裏側に君臨し、ひたすら父の子である松浦武博を一流の政治家に育てることを目指す。目的のためには冷酷非情に振る舞い、信念を貫き通した莉菜は、武博が一人前に育ったのを目撃すると自ら釧路の街から姿を消した。 「ブルース」で強烈な印象を残した6本指の男・影山博人の後継者にふさわしい莉菜のキャラクターが、前半部分の読みどころ。後半は、アウトローの道を歩んできた女が自分で自分に決着をつける孤独とプライドが泣かせるハードボイルドである。 前作「ブルース」を踏まえた物語なので、先に「ブルース」を読むことをオススメするが、本作だけでも問題なく楽しめる。 |
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ドイツでは大人気の警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」の第2作。殺人事件被害者と過去の事件が複雑に絡み合う警察ミステリーである。
クロイトナー上級巡査は偶然、殺人の現場に居合わせた。被害者は顔見知りの男で、2年前に失踪した恋人にDVを加えていた乱暴者だっただけに、容疑者の数に不足はなかった。しかし、殺される直前に「ある弁護士が、失踪した恋人の行方を知っている」と告げられていたクロイトナーは、自分が事件を解決すると張り切って独自の捜査を進めようとする。一方、ヴァルナー首席警部は被害者の身辺調査から容疑者を絞り込もうとして、2年前の出来事が複雑に関係していることに興味を持った。事件の背景には弁護士の詐欺まがいの金銭トラブルが絡んでいたのだが、警察はその真相を知らず、捜査は混迷するばかりだった…。 デビュー作「咆哮」同様に本筋は犯人捜し、動機の解明という王道の警察ミステリーだが、肝心の警察の捜査力に難点があり、ミステリーとしてはやや物足りない。代わりに、被害者を中心にした人間ドラマの側面は複雑で面白い。また、シリーズ作品らしく登場人物の関係性が変化を見せていくのも読みどころ。特に、堅物・ヴァルナー首席警部が恋に陥るエピソードは今後の展開に興味を持たせるものである。 派手ではないが読みごたえがあり、北欧ミステリーのファンにはおススメできる。 |
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「ワニ町」シリーズの第4作。おなじみの湿地チームの3人がドタバタと難問を解決する、安定のユーモア・ミステリーである。
シンフルに潜伏し始めて三週間がたち、嫌な出会い方をしたイケメン保安官助手・カーターとも仲良くなり、初デートに臨むことになったフォーチュン。アイダ・ベル、ガーティに大騒ぎの末にデート衣装を整えられ、いざ雰囲気の良いレストランへとなったところでカーターに連絡が入り、フォーチュンの唯一の同世代仲間であるアリーの家が火事になったという。急遽、デートは中止。アリーは無事だったのだが火事の原因が放火と分かり、フォーチュンは燃え上がる。カフェの店員で人柄がよく、だれからも恨まれるはずがないアリーがなぜ狙われたのか? シンフルの平和を守る老嬢コンビのアイダ・ベル、ガーティとともに、フォーチュンは事件の解明に乗り出した。猪突猛進が信条の三人組は、カーターの警告を無視し、激しいアクションを繰り広げることになる…。 移り住んでから三週間で4つ目の事件とあって、テーマも展開もまさにマンネリそのもの。変化と言えばフォーチュンとカーターの恋物語ぐらいだが、それでも十分に楽しめる、安定のエンターテイメント作品である。アメリカではすでに20作まで刊行されたというのが、シリーズの魅力を物語っている。 どんでん返しやクリフハンガーの連続に疲れた方にオススメする。 |
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2018年から19年に雑誌掲載された4作品を集めた短編集。家族、友人、職場、地域社会など逃げ切れないことが分かっているものから衝動的に逃げ出す人々を描いた人間ドラマである。
4作品とも極悪人は出てこず、ただちょっとしたすれ違い、魔が差した瞬間にとらわれた人の愚かさと弱さがドラマを生む。じっくり読めば、人間に対する著者のまなざしの温かさが心に響いてくる良作である。 |
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「朽ちないサクラ」に続く、米崎県警・森口泉シリーズの第2弾。念願かなって警察官になった森口泉が仲間と力を合わせて警察組織と上層部の闇に挑む、熱血警察サスペンスである。
事件現場で収集した情報を分析しプロファイリングを行って刑事捜査を支援する機動分析係を志願した森口だったが、実技テストに失敗した。しかし、係長の黒瀬警部の引きで合格とされ、個性が強すぎる班のメンバーの最下位に加わった。するといきなり県警本部会計課の金庫から1億円近い現金が紛失するという事件が発生。警察内部の犯行という疑いが濃く、極秘の捜査が進められてたのだが、確たる証拠が見つからない内に重要参考人と考えていた元会計課長が死体で発見された。さらに、捜査の責任者だった黒瀬警部が不明瞭なタレコミをもとに謹慎処分をくらい、捜査から外されるという非常事態となった。黒瀬と行動を共にし、ある疑惑を追っていた森口は、事件の裏にとんでもない闇が潜んでいるのを知り、捜査を進めると命までかけなければいけないのではないかと危惧する。それでも、正義感に突き動かされる森口は信頼する仲間とともに、ひたすら事件を解明しようとする…。 現場の一捜査員が警察組織の悪を暴くという、よくあるパターンで物語の構成に新鮮さはない。さらに、場面展開や刑事の心理描写で同じような小技の表現が繰り返し登場することもあり、ストーリー全体がやや冗長。しかも、ヒロインをはじめとする正義の側が2時間ドラマみたいな薄っぺらさでリアリティがない。ただただ正義を追及するヒロインの熱量の高さが、物語を動かしているところが読みどころである。 柚月裕子の警察小説ではあるが、「虎狼の血」を期待してはいけない。検事・佐方シリーズのファンにならオススメできる。 |
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雑誌掲載された作品の文庫版。緊縛師が死体で発見された事件を題材にしたミステリーの体裁をとった観念小説である。
緊縛師の死体が発見されたアパートに残されていた品物は、刑事・富樫が心をとらえられている女性・桐田麻衣子につながるものだった。麻衣子を救いたい一心で富樫は現場を偽装するという暴挙に出る。さらに、偽の指紋まで提出して捜査の方向を麻衣子から逸らそうとしたのだが、同僚刑事・葉山に疑問を持たれ、富樫は追い詰められていく。そして、事件の裏側を探り続けた葉山がたどり着いた驚愕の真相は…。 ミステリーとしては犯人捜しの捜査もので、刑事による偽装というスパイスが効いているものの、作品におけるミステリーの重要度は高くない。作品の要点は緊縛やSMの世界で、常識を超越した個人の性癖、生き方の激しさと深さの追及にあり、官能小説、観念小説の側面が強い。 観念的ポルノグラフィのファンになら満足してもらえるだろうが、読者を選ぶ作品であることは間違いない。 |
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アメリカ占領期の混乱した東京の闇に分け入る「東京三部作」の完結編。戦後最大の謎と言われる下山事件を題材ににした戦後史ノワールである。
「小平事件」、「帝銀事件」、「下山事件」という、いまだに人々を引き付けてやまない事件をエンターテイメント性の高い犯罪小説シリーズに仕上げた作者の着想や力量は素晴らしいが、きわめて読みづらい文体なのが惜しい。その文体こそが作者の文学的技法であるだろうし、翻訳は実に懇切丁寧なのだが、それでも減点せざるを得ない。だが、事件の真相解明ができたか否かは別にしてノワール・ミステリーとしての完成度は高く、読んで損はない。 忍耐力のある読書家にオススメする。 |
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本邦初紹介のアメリカ人作家の作品。引退前の最後の仕事にする予定だった請負強盗を生業とする男が、もう一仕事を強制され、仲間とともに命がけで戦うアクション・クライム・サスペンスである。
ラスベガスのカジノホテルのアーケードに2台のバイクで突入し、超高級宝石店を襲撃したアレックスとその仲間だったが、居合わせた少年が犯行の一部を撮影した動画が世界中に広まってしまった。この仕事を最後に、身分を隠し続ける生活から引退しようと思案していたアレックスは、偶然出会った女性・ダイアンに心を惹かれる。二人がいい雰囲気になり、ダイアンの家に行ったとき現れたダイアンの息子・トムを見て、アレックスは凍り付く。トムは20数年前に亡くなったアレックスの親友・クレイの生き写し、つまりクレイの忘れ形見だったのだ。そのショックを乗り越えたアレックスとダイアンはトムも一緒に、休暇を過ごすためにメキシコのリゾートに赴き、離れて暮らすアレックスの娘・パオラや仕事仲間たちと平穏なバカンスを楽しんでいた。ところが、メキシコの麻薬カルテルが接触してきて、ある人物の誘拐を依頼される。引退を理由に断ったアレックスだったが、カルテルはトムとパオラを人質に任務を強制する。子供たちを救うために、アレックスは仲間たちと無理を承知で誘拐作戦を実行することになった……。 ドン・ウィンズロウやエルモア・レナードを思わせるケイパー小説との紹介もあるが、そこまでのレベルではない。話の展開の速さ、アクション・シーンの華やかさはなかなかで、ハリウッド映画になれば面白そう。ただ、物語のキーポイントになるアレックスとダイアンの出会いがあまりにも都合がよすぎるし、登場人物のキャラクターは立っているのだが心理描写が陳腐なため、イマイチ話に没入できないのが残念。それでも、最後のひねりは面白かった。 スピーディーなアクション小説のファン、アクション映画のファンにオススメする。 |
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ボッシュ・シリーズの第22作。さらにボッシュ&バラードものとしては第2作。それに加えて、リンカーン弁護士・ハラーも登場する豪華キャストのミステリー長編である。
新人刑事時代の恩師の葬儀に出席したボッシュは未亡人から、故人が自宅に持っていた殺人事件調書を渡された。恩師が20年以上も前の未解決事件の調書を隠し持っていたのはなぜか、その謎を解くべく、ボッシュは現役刑事であるバラードに協力を依頼する。同じころ、バラードはホームレスが火事で死亡した事件を担当し、事故死で処理しようとしたのだが、調べを進めるうちに殺人ではないかとの疑いを持つようになった。一方ボッシュは、犯行を自供した上にDNAが一致して有罪間違いなしと思われた判事殺害事件の被告弁護人となったハラーに頼まれ、被告側に有利な証拠集めを進めていた。時代も状況も背景も全く異なる三つの事件だったが、捜査が進むにつれ複雑な関係が重なり合い、絡み合っていることが分かってきた……。 それぞれに主役を務めるシリーズを持つ3人が共演するという贅沢な構成だが、裏を返せば、69歳になるボッシュ一人では厚みがあるミステリー・サスペンスにはならないということか。三つの事件は個々にストーリーが成立しているものの、小粒な感が否めないし、無理やり結び付けたような違和感がある。とはいえ、ボッシュ・シリーズとして合格レベルであることは間違いない。 シリーズはまだまだ続くようで、ボッシュ・ファンには読み逃せない作品と言える。 |
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2021年発表の書き下ろし長編。構想10年という力が入った作品だが、ミステリーであり、性愛小説であり、女の一生であり、すべてに今一つ物足りないもどかしさを感じる作品である。
裕福な両親の愛情に包まれ健やかに育っていた百々子が12歳の時、何者かに両親が殺害されるという悲劇が襲ってきた。純粋無垢に生きてきた幸せな日々が突然失われたものの百々子は、信頼する家政婦・たづの家族やただ一人身近に感じる叔父の佐千夫らに支えられ、美しく聡明で芯の強い女性に育ち、恋を楽しむようになっていた。だが、そんな日々の裏側には常に殺人事件の影がまとわりついており、さらに犯人のどす黒い想念が百々子の周りから消えることはなかった……。 事件の犯人が信頼する叔父だったことは物語の早い段階から明かされていて、謎解き・犯人捜しの面白さはない。さらに犯人捜しに執念を燃やす老刑事が登場するのだが、犯人対刑事の知恵比べというサスペンスも中途半端。途中までは百々子に対する佐千夫の妄執が主題になっているのだが、最後にはあいまいな決着がつけられ、背筋を凍らせるような情念の強さは感じられない。なので、波乱万丈な女の一生を描いたものということになるのだが、これも「終章」の独白できれいにまとめられて終わってしまいやや物足りない。ミステリーとしては薄味だが、構想の面白さ、文章力のすばらしさから十分に読みごたえがあるエンターテイメント作品といえる。 小池真理子ファンにオススメする。 |
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イギリスの最北、シェトランド諸島を舞台にしたジミー・ペレス警部が主人公のシリーズの第7作。先の四部作「シェトランド四重奏」に続く新シリーズ四部作の第3作である。
ペレス警部と浅からぬ因縁のあった老人の葬儀の最中に長雨による地滑りが発生し、被害を確認していたペレス警部は土砂に流された空き家で女性の死体を発見した。身元不明の死体を検視すると地滑りの前に絞殺されていたことが判明し、警察は身元の確認と犯人捜しを並行して進めることになった。わずかな遺留品を基にした身元捜しは遅々として進まず、しかも死んだ女性の行動を調べていくとプロセスは、シェトランドの住民家族のプライバシーを暴くことになり、さらに第二の殺人事件につながってきた……。 物語の主題は、スコットランドから遠く離れた小さな島々の濃密な人間関係と、そこに隠されていた人間だれしも覚えがある小さな秘密、些細な嘘が巻き起こすドラマである。殺人事件の解明もきちんと進められるのだが、そちらはあくまでもサブ・テーマで、主人公・ペレス警部をはじめとする登場人物たちの悩みや苦悩から生まれるヒューマンドラマが主役と言える。さらに、舞台となるシェトランド諸島の特異な風土も読みどころである。 警察官が主役で地道な捜査の積み重ねで事件を解決するオーソドックスな警察小説のファンにオススメする。 |
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インドの女性作家のデビュー作であり、2021年度エドガー賞の最優秀長編賞受賞作。しかし、ミステリーというより少年冒険小説ととらえるべき作品である。
インドのスラムに暮らす9歳の少年・ジャイは、同じ地域の同級生が行方不明になったのに学校も警察も真剣に対応しようとしないことから、親友二人を助手に誘って探偵団を結成し、張り切って捜査に乗り出した。親から行ってはいけないと言われている地域にも出かけ、怖い人や親切な人たちに話しかけ、同級生を見つけようとするのだが、何の成果も上がらないうちに他にも子供が失踪する事件が相次いだ。事件の背景には恐ろしいたくらみが隠されており、やがては安全なはずのジャイの家族にも災いが訪れようとしていた……。 ジャーナリストとして教育や子供の問題の取り組んできた経験に基づき、インドの貧困がもたらす悲劇を追及した作品だが、9歳の少年の目を通すことで社会悪断罪一辺倒の書にはならず、子供の夢や希望にも目を配ったエンターテイメントに仕上がっている。通常の報道では目に触れないインド下層社会のリアルが読みどころと言える。 謎解きやサスペンスは期待せず、未知の世界に旅するような好奇心で読むことをオススメする。 |
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ヤングアダルトやロマンス作品では絶大な人気という、アメリカの女性作家の初サスペンス作。売れない女性作家がベストセラー作家(女性)の夫から共著者になるよう依頼され、その豪邸に行き資料を探していてベストセラー作家の自伝を見つけたことから疑心暗鬼にとらわれていくという、サスペンス・ロマンスである。
家賃にも事欠くほど困窮していたローウェンももとに、大ヒットシリーズを持つ作家ヴェリティの共著者になってもらいたいという依頼が舞い込んできた。高額の報酬は魅力だが、なぜ自分が選ばれたのか疑問を持ち、いったんは断るつもりだったのだが、交渉の場に現れたヴェリティの夫・ジェレミーの熱意にほだされ、ヴェリティの仕事部屋に泊まり込んで資料を整理することになった。そして訪れた豪邸の仕事部屋でローウェンが見つけたのは、事故で寝たきりになっているヴェリティが書いたらしい自叙伝の原稿だった。ヴェリティをよく理解するためにと思って読み始めたローウェンだったが、読むうちに恐るべきヴェリティの心の闇に触れ激しく動揺するのだった……。 自叙伝を書いたヴェリティはもちろん、そこに登場するジェレミー、さらに原稿に触発されるローウェンの三人がそれぞれに深い心の闇を抱えていて、それが重なり合うことで物語は全く先が見えないダークな世界に迷い込んでいく。そこがサスペンスフルといえばそうなのだが、あまりにもサイコ・ファンタジー的な展開で、ミステリーとしては白けてしまう。 ヤングアダルト、ロマンス・ミステリーのファンなら楽しめるかもしれない。 |
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作者が技巧を凝らして読者に挑戦した連作短編集。
収録された4作品それぞれに仕掛けがあり、各作品の最終ページの地図や写真で物語がひっくり返えるというのだが、いまいちよく分からなかった。それでも軽めのミステリーとして読むことができるのだが、仕掛けに引っ張られて肝心のミステリー部分がやや薄味なのが残念。 |
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ノルウェーの警察小説「警部ヴィスティング」シリーズの第13作、邦訳第3弾。死亡した大物政治家の秘密を解明する極秘捜査を命じられたヴィスティングが、娘・リーネの協力も得ながら難事件に挑む、正統派の警察ミステリーである。
大物政治家・クラウセンが急逝した。死因に疑わしい点はなかったのだが、故人の別荘から巨額の外国紙幣が詰まった段ボール箱が発見された。この金の出所はどこか、政治的な問題を含んでいることを危惧した検事総長はヴィスティングを呼び出し、極秘で捜査することを命じた。信頼する鑑識官モルテンセンと二人で段ボール箱を運び出した直後、別荘が放火された。さらに、検事総長からは「クラウセンがある未解決事件に関与している」と告発する手紙を受け取っていたことを知らされる。しかも、この未解決事件の再捜査を担当しているのが国家犯罪捜査局のスティレル(前作で因縁があった)であることが分かった。スティレルには複雑な思いを持つヴィスティングだったが、渋々協力して捜査を進めるうちに、未解決事件と隠された外国紙幣に密接な関係があることを突き止めた…。 隠された紙幣の謎、未解決事件(少年の行方不明事件)の二つが徐々に重なっていく複雑な構成の警察ミステリーで、謎解きのプロセスは合理的で面白い。ただ事件の背景、動機がややシンプルで全体的に深みがない。しかし、ヴィスティングとリーネの親娘、さらに孫娘を加えた家族の物語が読みごたえが出てきているのはシリーズものならでは。 本シリーズの愛読者、北欧ミステリーファンには十分満足できる佳作としておススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第14作。ワイオミング州の雪山を舞台に親友のネイトと対立することになったジョーの苦闘を描いた冒険サスペンスである。
州知事の計らいで猟区管理官に復帰したジョーはある日、知事から呼び出され、州北部の辺境にあるメディシンウィール郡に住む大富豪・テンプルトンが暗殺ビジネスを営んでいる疑いがあるので極秘に調査せよ、と命じられた。信頼するFBI支局長・クーンと連携し調査を始めたジョーだったが、赴いた現地は法執行機関も含めて完全にテンプルトンに支配されており、四面楚歌での孤独で危険な任務となった。さらに、ジョーが見たFBIの資料にはしばらく姿を消していたネイトが関与しているような記述もあり、ジョーはさらに不安を募らせるのだった…。 シリーズの持ち味として、不器用な正義漢・ジョーの愚直なまでの生き方があるのだが、その部分では本作も変わりはない。さらに、ジョーとネイトの関係も読者の期待を裏切らない熱いシーンが展開される。ただ、シリーズのもう一つの特徴である家族の物語の側面が、今回はいまいち。発生する家族間のトラブルや悩みも、その解決もどこか中途半端である。物語の最後は次作への興味をつなぐためだろうか、やや尻切れトンボ。 シリーズ愛読者にはオススメ。さらに大自然を舞台にしたアクション・サスペンスのファンにもオススメする。 |
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2014年に刊行された連作短編集。全6作品は一話完結ものだが登場人物、エピソードがつながっていて、全体としてふんわり、とらえどころがない、それでも印象に残る味わいの恋物語になっている。
恋に夢と憧れを持つ人にも、恋を信じなくなった人にも、何かしら響いてくる佳作である。 |
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6年ぶりに登場した、ガリレオ・シリーズの第9作。町の人気者の少女殺害事件で逮捕された男が起訴猶予で釈放され、再び町に現れたことから被害者の関係者が一緒になって復讐劇を企てるという、犯人捜し・謎解きミステリーである。
小料理屋の看板娘・佐織が行方不明になってから3年後、静岡のゴミ屋敷の焼け跡で遺体で発見された。家の持ち主の息子である蓮沼が容疑者として逮捕されたのだが、証拠不十分で起訴猶予となったばかりか、被害者・佐織の家族の前に現れ、自分が逮捕されたのはお前たちのせいだから賠償金を払えと脅かしてきた。町の人々は怒りを募らせ、司法が裁けないなら自分たちが罰を与えよう、天誅を加えようと計画を練り、準備を進める。そして迎えた年に一度のコスプレ・パレードの日、蓮沼が死んでいるのが発見された。草薙、内海たち警察は佐織の父親をはじめとする関係者を調べたのだが、彼らのアリバイを崩すことができずアメリカ留学から帰ってきた湯川に助けを求めたのだった。 佐織の殺害、蓮沼の殺害に加えて、23年前の少女殺害事件も絡んでくる、二重三重の謎解きミステリーであるが、蓮沼事件以外は単純な構造で、ガリレオらしいのは蓮沼殺害のトリックやぶりだけである。物語の主眼は、司法が信頼できない時に私的な報復は許されるのか、というところにある。これは古今東西を問わずミステリーでは常に繰り返されているテーマで、本作では法の論理より人情に傾いたエピソードに味わいがある。 ガリレオ・シリーズ愛読者には必読。東野作品の読者もきっと満足できるだろう。 |
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日本では「弁護士アイゼンベルク」シリーズ2作が先行し、それなりの人気を得ているフェーアのデビュー作。ドイツではすでに8作が発売されて人気が高い警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第一作である。
警察官のカーリング大会会場になる湖を下調べしようとしたクロイトナー巡査が氷の下にある少女の死体を発見した。鋭利な刃物で刺殺された少女は遺体にプリンセスの仮装を着せられており、さらに近くに名前と死亡日時を記載した木の十字架が立てられ、口の中には「2」という数字が刻まれたバッジが残されていた。ヴァルナー首席警部が指揮を執る捜査班は被害者家族への聞き込みから始めたのだが、何の成果も出ないうちに、今度はヴァルナーの家の屋根で新たな少女死体が発見された。第二の被害者も同じ衣装を着せられ、口の中には「72」と刻まれたバッジが残されていた。残虐なシリアルキラーの登場に衝撃を受けた捜査陣は残された証拠を必死で解明しようとするのだが、手掛かりは全く見つからなかった…。 派手な演出を加えられた死体という、サイコ・ミステリー的な始まりだが、次第に正統派の警察捜査ミステリーになり、最後はワイダニットの謎解きになる。犯行の動機、捜査プロセスなどはやや粗削りで不満が残ろものの、登場人物設定が巧みでヒューマンドラマ的な面白さがある。ヴァルナー&クロイトナー・シリーズと呼ばれ、二人とも警察官なのだが、通常の警察バディものとは違って、二人で力を合わせてとなっていないところがユニークで、この関係は今後の展開に期待を持たせてくれる。 北欧系警察ミステリーのファンなら十分に楽しめる作品としておススメする。 |
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御茶ノ水署生活安全課シリーズの第6弾。2020年末から21年にかけてWeb連載された4作品を収めた連作短編集である。
新しくできたバーに視察とうそぶいて入った斉木と梢田コンビが怪しげな女を見つけ、薬物取引の現場を押さえようとする「影のない女」、ラーメン店とタウン誌のもめごとに首を突っ込む「天使の夜」、夜の神保町で梢田が高校生女子に声をかけられる「不良少女M」、古い映画を一日一作品だけ、タイトル不明のまま上映する映画館の謎とは?「地獄への近道」の4作品。どれも事件らしい事件ではないものの謎解きの面白さが秘められている。さらに登場人物の人名をはじめ、随所に笑いを誘う仕掛けが施されており、楽しく読ませてくれる。 ユーモア小説のファンにオススメ! |
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