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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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2021年発表の書き下ろし長編。構想10年という力が入った作品だが、ミステリーであり、性愛小説であり、女の一生であり、すべてに今一つ物足りないもどかしさを感じる作品である。
裕福な両親の愛情に包まれ健やかに育っていた百々子が12歳の時、何者かに両親が殺害されるという悲劇が襲ってきた。純粋無垢に生きてきた幸せな日々が突然失われたものの百々子は、信頼する家政婦・たづの家族やただ一人身近に感じる叔父の佐千夫らに支えられ、美しく聡明で芯の強い女性に育ち、恋を楽しむようになっていた。だが、そんな日々の裏側には常に殺人事件の影がまとわりついており、さらに犯人のどす黒い想念が百々子の周りから消えることはなかった……。 事件の犯人が信頼する叔父だったことは物語の早い段階から明かされていて、謎解き・犯人捜しの面白さはない。さらに犯人捜しに執念を燃やす老刑事が登場するのだが、犯人対刑事の知恵比べというサスペンスも中途半端。途中までは百々子に対する佐千夫の妄執が主題になっているのだが、最後にはあいまいな決着がつけられ、背筋を凍らせるような情念の強さは感じられない。なので、波乱万丈な女の一生を描いたものということになるのだが、これも「終章」の独白できれいにまとめられて終わってしまいやや物足りない。ミステリーとしては薄味だが、構想の面白さ、文章力のすばらしさから十分に読みごたえがあるエンターテイメント作品といえる。 小池真理子ファンにオススメする。 |
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イギリスの最北、シェトランド諸島を舞台にしたジミー・ペレス警部が主人公のシリーズの第7作。先の四部作「シェトランド四重奏」に続く新シリーズ四部作の第3作である。
ペレス警部と浅からぬ因縁のあった老人の葬儀の最中に長雨による地滑りが発生し、被害を確認していたペレス警部は土砂に流された空き家で女性の死体を発見した。身元不明の死体を検視すると地滑りの前に絞殺されていたことが判明し、警察は身元の確認と犯人捜しを並行して進めることになった。わずかな遺留品を基にした身元捜しは遅々として進まず、しかも死んだ女性の行動を調べていくとプロセスは、シェトランドの住民家族のプライバシーを暴くことになり、さらに第二の殺人事件につながってきた……。 物語の主題は、スコットランドから遠く離れた小さな島々の濃密な人間関係と、そこに隠されていた人間だれしも覚えがある小さな秘密、些細な嘘が巻き起こすドラマである。殺人事件の解明もきちんと進められるのだが、そちらはあくまでもサブ・テーマで、主人公・ペレス警部をはじめとする登場人物たちの悩みや苦悩から生まれるヒューマンドラマが主役と言える。さらに、舞台となるシェトランド諸島の特異な風土も読みどころである。 警察官が主役で地道な捜査の積み重ねで事件を解決するオーソドックスな警察小説のファンにオススメする。 |
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インドの女性作家のデビュー作であり、2021年度エドガー賞の最優秀長編賞受賞作。しかし、ミステリーというより少年冒険小説ととらえるべき作品である。
インドのスラムに暮らす9歳の少年・ジャイは、同じ地域の同級生が行方不明になったのに学校も警察も真剣に対応しようとしないことから、親友二人を助手に誘って探偵団を結成し、張り切って捜査に乗り出した。親から行ってはいけないと言われている地域にも出かけ、怖い人や親切な人たちに話しかけ、同級生を見つけようとするのだが、何の成果も上がらないうちに他にも子供が失踪する事件が相次いだ。事件の背景には恐ろしいたくらみが隠されており、やがては安全なはずのジャイの家族にも災いが訪れようとしていた……。 ジャーナリストとして教育や子供の問題の取り組んできた経験に基づき、インドの貧困がもたらす悲劇を追及した作品だが、9歳の少年の目を通すことで社会悪断罪一辺倒の書にはならず、子供の夢や希望にも目を配ったエンターテイメントに仕上がっている。通常の報道では目に触れないインド下層社会のリアルが読みどころと言える。 謎解きやサスペンスは期待せず、未知の世界に旅するような好奇心で読むことをオススメする。 |
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ヤングアダルトやロマンス作品では絶大な人気という、アメリカの女性作家の初サスペンス作。売れない女性作家がベストセラー作家(女性)の夫から共著者になるよう依頼され、その豪邸に行き資料を探していてベストセラー作家の自伝を見つけたことから疑心暗鬼にとらわれていくという、サスペンス・ロマンスである。
家賃にも事欠くほど困窮していたローウェンももとに、大ヒットシリーズを持つ作家ヴェリティの共著者になってもらいたいという依頼が舞い込んできた。高額の報酬は魅力だが、なぜ自分が選ばれたのか疑問を持ち、いったんは断るつもりだったのだが、交渉の場に現れたヴェリティの夫・ジェレミーの熱意にほだされ、ヴェリティの仕事部屋に泊まり込んで資料を整理することになった。そして訪れた豪邸の仕事部屋でローウェンが見つけたのは、事故で寝たきりになっているヴェリティが書いたらしい自叙伝の原稿だった。ヴェリティをよく理解するためにと思って読み始めたローウェンだったが、読むうちに恐るべきヴェリティの心の闇に触れ激しく動揺するのだった……。 自叙伝を書いたヴェリティはもちろん、そこに登場するジェレミー、さらに原稿に触発されるローウェンの三人がそれぞれに深い心の闇を抱えていて、それが重なり合うことで物語は全く先が見えないダークな世界に迷い込んでいく。そこがサスペンスフルといえばそうなのだが、あまりにもサイコ・ファンタジー的な展開で、ミステリーとしては白けてしまう。 ヤングアダルト、ロマンス・ミステリーのファンなら楽しめるかもしれない。 |
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作者が技巧を凝らして読者に挑戦した連作短編集。
収録された4作品それぞれに仕掛けがあり、各作品の最終ページの地図や写真で物語がひっくり返えるというのだが、いまいちよく分からなかった。それでも軽めのミステリーとして読むことができるのだが、仕掛けに引っ張られて肝心のミステリー部分がやや薄味なのが残念。 |
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ノルウェーの警察小説「警部ヴィスティング」シリーズの第13作、邦訳第3弾。死亡した大物政治家の秘密を解明する極秘捜査を命じられたヴィスティングが、娘・リーネの協力も得ながら難事件に挑む、正統派の警察ミステリーである。
大物政治家・クラウセンが急逝した。死因に疑わしい点はなかったのだが、故人の別荘から巨額の外国紙幣が詰まった段ボール箱が発見された。この金の出所はどこか、政治的な問題を含んでいることを危惧した検事総長はヴィスティングを呼び出し、極秘で捜査することを命じた。信頼する鑑識官モルテンセンと二人で段ボール箱を運び出した直後、別荘が放火された。さらに、検事総長からは「クラウセンがある未解決事件に関与している」と告発する手紙を受け取っていたことを知らされる。しかも、この未解決事件の再捜査を担当しているのが国家犯罪捜査局のスティレル(前作で因縁があった)であることが分かった。スティレルには複雑な思いを持つヴィスティングだったが、渋々協力して捜査を進めるうちに、未解決事件と隠された外国紙幣に密接な関係があることを突き止めた…。 隠された紙幣の謎、未解決事件(少年の行方不明事件)の二つが徐々に重なっていく複雑な構成の警察ミステリーで、謎解きのプロセスは合理的で面白い。ただ事件の背景、動機がややシンプルで全体的に深みがない。しかし、ヴィスティングとリーネの親娘、さらに孫娘を加えた家族の物語が読みごたえが出てきているのはシリーズものならでは。 本シリーズの愛読者、北欧ミステリーファンには十分満足できる佳作としておススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第14作。ワイオミング州の雪山を舞台に親友のネイトと対立することになったジョーの苦闘を描いた冒険サスペンスである。
州知事の計らいで猟区管理官に復帰したジョーはある日、知事から呼び出され、州北部の辺境にあるメディシンウィール郡に住む大富豪・テンプルトンが暗殺ビジネスを営んでいる疑いがあるので極秘に調査せよ、と命じられた。信頼するFBI支局長・クーンと連携し調査を始めたジョーだったが、赴いた現地は法執行機関も含めて完全にテンプルトンに支配されており、四面楚歌での孤独で危険な任務となった。さらに、ジョーが見たFBIの資料にはしばらく姿を消していたネイトが関与しているような記述もあり、ジョーはさらに不安を募らせるのだった…。 シリーズの持ち味として、不器用な正義漢・ジョーの愚直なまでの生き方があるのだが、その部分では本作も変わりはない。さらに、ジョーとネイトの関係も読者の期待を裏切らない熱いシーンが展開される。ただ、シリーズのもう一つの特徴である家族の物語の側面が、今回はいまいち。発生する家族間のトラブルや悩みも、その解決もどこか中途半端である。物語の最後は次作への興味をつなぐためだろうか、やや尻切れトンボ。 シリーズ愛読者にはオススメ。さらに大自然を舞台にしたアクション・サスペンスのファンにもオススメする。 |
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2014年に刊行された連作短編集。全6作品は一話完結ものだが登場人物、エピソードがつながっていて、全体としてふんわり、とらえどころがない、それでも印象に残る味わいの恋物語になっている。
恋に夢と憧れを持つ人にも、恋を信じなくなった人にも、何かしら響いてくる佳作である。 |
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6年ぶりに登場した、ガリレオ・シリーズの第9作。町の人気者の少女殺害事件で逮捕された男が起訴猶予で釈放され、再び町に現れたことから被害者の関係者が一緒になって復讐劇を企てるという、犯人捜し・謎解きミステリーである。
小料理屋の看板娘・佐織が行方不明になってから3年後、静岡のゴミ屋敷の焼け跡で遺体で発見された。家の持ち主の息子である蓮沼が容疑者として逮捕されたのだが、証拠不十分で起訴猶予となったばかりか、被害者・佐織の家族の前に現れ、自分が逮捕されたのはお前たちのせいだから賠償金を払えと脅かしてきた。町の人々は怒りを募らせ、司法が裁けないなら自分たちが罰を与えよう、天誅を加えようと計画を練り、準備を進める。そして迎えた年に一度のコスプレ・パレードの日、蓮沼が死んでいるのが発見された。草薙、内海たち警察は佐織の父親をはじめとする関係者を調べたのだが、彼らのアリバイを崩すことができずアメリカ留学から帰ってきた湯川に助けを求めたのだった。 佐織の殺害、蓮沼の殺害に加えて、23年前の少女殺害事件も絡んでくる、二重三重の謎解きミステリーであるが、蓮沼事件以外は単純な構造で、ガリレオらしいのは蓮沼殺害のトリックやぶりだけである。物語の主眼は、司法が信頼できない時に私的な報復は許されるのか、というところにある。これは古今東西を問わずミステリーでは常に繰り返されているテーマで、本作では法の論理より人情に傾いたエピソードに味わいがある。 ガリレオ・シリーズ愛読者には必読。東野作品の読者もきっと満足できるだろう。 |
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日本では「弁護士アイゼンベルク」シリーズ2作が先行し、それなりの人気を得ているフェーアのデビュー作。ドイツではすでに8作が発売されて人気が高い警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第一作である。
警察官のカーリング大会会場になる湖を下調べしようとしたクロイトナー巡査が氷の下にある少女の死体を発見した。鋭利な刃物で刺殺された少女は遺体にプリンセスの仮装を着せられており、さらに近くに名前と死亡日時を記載した木の十字架が立てられ、口の中には「2」という数字が刻まれたバッジが残されていた。ヴァルナー首席警部が指揮を執る捜査班は被害者家族への聞き込みから始めたのだが、何の成果も出ないうちに、今度はヴァルナーの家の屋根で新たな少女死体が発見された。第二の被害者も同じ衣装を着せられ、口の中には「72」と刻まれたバッジが残されていた。残虐なシリアルキラーの登場に衝撃を受けた捜査陣は残された証拠を必死で解明しようとするのだが、手掛かりは全く見つからなかった…。 派手な演出を加えられた死体という、サイコ・ミステリー的な始まりだが、次第に正統派の警察捜査ミステリーになり、最後はワイダニットの謎解きになる。犯行の動機、捜査プロセスなどはやや粗削りで不満が残ろものの、登場人物設定が巧みでヒューマンドラマ的な面白さがある。ヴァルナー&クロイトナー・シリーズと呼ばれ、二人とも警察官なのだが、通常の警察バディものとは違って、二人で力を合わせてとなっていないところがユニークで、この関係は今後の展開に期待を持たせてくれる。 北欧系警察ミステリーのファンなら十分に楽しめる作品としておススメする。 |
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御茶ノ水署生活安全課シリーズの第6弾。2020年末から21年にかけてWeb連載された4作品を収めた連作短編集である。
新しくできたバーに視察とうそぶいて入った斉木と梢田コンビが怪しげな女を見つけ、薬物取引の現場を押さえようとする「影のない女」、ラーメン店とタウン誌のもめごとに首を突っ込む「天使の夜」、夜の神保町で梢田が高校生女子に声をかけられる「不良少女M」、古い映画を一日一作品だけ、タイトル不明のまま上映する映画館の謎とは?「地獄への近道」の4作品。どれも事件らしい事件ではないものの謎解きの面白さが秘められている。さらに登場人物の人名をはじめ、随所に笑いを誘う仕掛けが施されており、楽しく読ませてくれる。 ユーモア小説のファンにオススメ! |
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文芸誌の新人賞に応募し続け、落選し続けてきた40歳の女性が、怜悧な女性編集者と出会い処女作を出版するまでの話。職業作家とは、どこまで現実を虚構化し、自分や周囲を突き放して見ることができるかが成功のカギになるという厳しさが伝わってくる。
作家の心情のリアルが描かれた意欲的で異色のエンターテイメント作品である。 |
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第36章から始まって第1章で終わり、その後に著者まえがき、目次、献辞が続くという完全倒錯?の実験的作品。物語自体は、ジェフリー・ディーヴァーらしいどんでん返し連発のサスペンス・ミステリーである。
6歳の娘を誘拐され、身代金と「オクトーバー・リスト」を要求されている投資コンサルタント会社のマネジャー・ガブリエラは知り合ったばかりのダニエルに助けを求め、ダニエルの紹介で危機管理会社のスタッフを雇い、誘拐犯のジョゼフとの交渉を依頼したのだが、吉報を待っていたガブリエラの前に現われたのは、銃を持ったジョゼフだった。というのがオープニングで、物語は時系列を遡って展開されて行く。犯人、被害者を始め次々に登場する事件の関係者は、その名前や役割りは分かるものの、どういう存在で、事件にどのように絡んでいるのかが不明なため、最初の内は何度も元に戻って確認しないとストーリーに入って行けず、かなりのストレスである。しかし、そこはディーヴァーの力業というべきか、最後の2章で真相が明らかにされると、なるほど、こういう仕掛けだったのかと膝を打ち、それまでの我慢が報われる。 いくつかのレビューに散見されるように、何も時間の逆回転で話を進める必要はないのではとは思うが、本作はディーヴァーが自らの創作力を確認するためにあえて挑戦した実験的作品として評価するしかない。その点で、好き嫌いがはっきりする作品である。 ただ、物語はサスペンス・ミステリーとしてきちんと成立しており、ガッカリすることはない。 我慢強く読み進められる人、意地でも途中で投げ出さないという人にオススメする。 |
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常に新しいジャンルで水準以上の作品を発表し続けるウッズらしく、本作はこれまでのウッズのイメージを破る、社会派の謀略サスペンス・アクションである。
身に覚えのない罪でアトランタ刑務所に服役中の元麻薬取締局捜査官・ジェシーのもとを訪れたかつての同僚が、大統領特赦と引き換えに「カルト教団への潜入捜査」を持ちかけて来た。自由を得るのに他の選択肢がないジェシーは引受けるのだが、それはすでに二人の捜査官が潜入に失敗し消されたという危険な任務だった。司法省が用意した巧みな偽装をまとって教団の根拠地に着いたジェシーだったが、そこで待ち受けていたのは猜疑心が強く、街も警察も支配している教団の執拗な身元調べだった。地元の製材会社に就職し、下宿先の母娘と心を通わせ、さらには教団にも受け入れられたジェシーは、任務を遂行して完全な自由を獲得するために単身で命を賭けた戦いを挑むことになった・・・。 邪悪なカルト教団のテロを阻止するというミッション・インポッシブルに若干の恋愛要素をプラスした、いかにもなアメリカン・エンターテイメント。この系統の作品がお好きな方にオススメする。 |
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2005年に刊行されたノン・シリーズの書き下ろし長編。島根県松江市、隠岐島を舞台にした軽めのアクション・ハードボイルドである。
松江市の底辺の私立高校で日本史を教えている28歳の池田は、部活の顧問を務めるボクシング部のマネージャー・タマキと不適切な関係を続けているぐうたら教師だが、担任するクラスの女生徒が誘拐され、しかも現場に残されていた死体が、池田の高校からの旧友・郡のものであったことから、事件に巻き込まれてしまった。郡はなぜ死んだのか? 疑問を持った池田は郡の部屋を訪ね、地元のタウン誌の記者・的場と遭遇する。先に家捜ししていたらしい的場は、郡殺害事件の背景を探っているようだったのだが、その時、4人組の男たちが現われ二人は襲撃された。その場を逃れた池田と的場は事件の真相解明で協力することになり、誘拐された少女のボーイフレンドで池田の教え子でもある泰輔も加わって、怪しい素人探偵団が誕生した。 誘拐された教え子を救うために悪の集団(カルト教団がらみ)に立ち向かうというミステリー・アクションが基本で、そこにダメ教師の挫折と更生、見えないところでつながった人情物語がミックスされ、不思議なエンターテイメントに仕上がっている。舞台は異なっても、ススキノ探偵、幇間探偵・法間に連なるノリの良さと多彩な軽口は健在で、安定した東直己ワールドを楽しめる。 東直己ファンにはオススメ。軽くサクサクと読めるアクションもののファンにもオススメする。 |
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退職刑事ビル・ホッジス三部作の流れを受けた、2018年の長編作。ホラー、ファンタジーの巨匠キングらしさが十二分に発揮された娯楽超大作である。
オクラホマ州の小さな町で住民を震撼させる猟奇的な少年殺人事件が発生。地元警察の刑事ラルフたちは数々の目撃証人の証言、犯行に使われた車や指紋、さらには残されていたDNAなどの証拠を固め、地元の教師で少年野球のコーチでもあるテリーを、懲罰的に衆人環視の中で逮捕した。地域社会の尊敬を集めていたテリーの逮捕は衝撃を与え、住民の間に怒りの炎が燃え上がった。ところが、テリーの弁護側が調査すると、事件当時テリーは数百キロ離れた都市での会合に同僚教師たちと一緒に参加しており、それを証明するテレビ報道ビデオも発見された。もしテリーの犯行だとすると、同一人物が同じ時刻に、別の場所にいたことになる。刑事ラルフはこの事実に違和感を抱きながらも、確固とした証拠を基に裁判に進めたのだが、裁判所の前には憎むべき犯人に罵声を浴びせようという群衆が密集して大混乱になり、テリーが射殺されるという事態になってしまった。事態に責任を感じながらも業務執行上のやむを得ない悲劇と割り切ろうとしたラルフだったが、弁護側と交渉を重ねるうちに増々違和感を強く持つようになり、ついには弁護側と協力して真相解明に乗り出すことになった。絶対的に矛盾する事態を検証し続けた結果、ラルフたちがたどり着いたのは、現実認識を一変させる、信じがたい出来事だった…。 殺人事件の謎を解く謎解きミステリーとしての本筋はしっかりしているのだが、事件解明の最大のポイントが人知を超える超常現象というところで、ミステリーとしてはいまいち。もちろん、ホラー、ファンタジー系統の作品としては傑作である。 「ファインダーズ・キーパーズ」の調査員ホリーが登場する(下巻では、ほぼ主役)こともあって、ビル・ホッジス三部作のファンにはおススメ。さらに、キングのホラー、ファンタジーのファンには必読とおススメしたい。 |
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家庭裁判所の調査官補という地味な主人公が、どこにもありそうな事案に誠実に対応し、悩みながら成長して行く連作短編集。著者の代表作である佐方シリーズほどインパクトや深みはないものの、いかにも柚月裕子らしいテイストである。
全5話は、それぞれ家庭と社会の間で生じる日常的な問題で、扱いようによっては重苦しいテーマなのだが、問題の社会性、普遍性を損なうことなくエンターテイメントに仕上げているところはさすが。これが果たしてミステリーなのかという疑問はあるが、人の心の謎を解こうとする主人公の行動はディテクティブそのものとも言える。 柚月裕子ファンにはオススメ。人情社会派もののファンにも安心してオススメしたい。 |
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スカダーが戻ってきた! といっても、アメリカでは短編集として発売された作品と最新作になる中編を、日本独自に合本したものである。
短編集は日本初登場時に話題を呼んだ名作短編「バッグレディの死」をはじめとする70年代から2010年代までの11作品。スカダーがまだ制服警官時代の話から親友・ミック・バルーが結婚し(!)、グローガンの店をたたむ話まで、ヴァラエティ豊かな小品ぞろいで、どれをとっても面白く、改めてブロックの短編名人ぶりを再認識した。 最新作である中編「石を放つとき」は、80歳のスカダーがエレインの友人に頼まれてストーカー対策に乗り出すというハードボイルドもの。ひざの痛みや物忘れなど、年相応の悩みを抱えながらの私立探偵稼業に、スカダーファンならジンと来る。それでも、ハードボイルドな生き方は変わっておらず、かっこいい。 マット・スカダー・シリーズは、今後新作が出るのかどうか不明で、ひょっとするとシリーズ最終作となることも予想されるため、シリーズ・ファンは必読の一冊である。 |
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リストラ寸前の若いサラリーマンが、「足の下に地雷が埋まってるわけじゃなし。何をしようが死にゃあしない」と腹をくくることで事態を逆転していくユーモラスなサラリーマン応援小説。パターンが確立されているジャンルの作品だが、完成度は高い。
池井戸潤がお好きな方にオススメする。 |
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美人キャスターの転落事故に偶然遭遇したニューヨーク市警の刑事が、警察を離れた後も捜査を続けて犯人を見つけるという謎解きミステリー。1991年の作品だが少しも古さを感じさせないエンターテイメント作品である。
深夜のマンハッタンを酔い覚ましに歩いていた刑事・ストーンは偶然、高層マンションから落下する女性を発見、すぐに部屋に駆け付けたのだが犯人を取り逃がしてしまう。落ちた女性は有名な女性キャスターで、救急車が到着した時には生きていたものの病院へ搬送されるときに救急車が衝突事故を起こし、その後行方が分からなくなった。彼女は生きているのか、死んでいるのか? 一向に事件を解明できず、非難を恐れた警察は強引に犯人を断定しようとし、これに反対したストーンは体よく警察から追い出されてしまう。それでも事件にかかわり続けたストーンは、女性キャスターを巡るさまざまな陰謀や不可解な事実をつかみ、華やかなテレビの世界の裏側でうごめく人間の欲望の渦に切り込んでいく。 ワイダニット、フーダニットの謎解きなのだが、話の舞台が華やかで登場人物が個性的、さらにストーリー展開が目まぐるしく、スピード感のあるエンターテイメント作品である。話の運びに強引なところがあるものの、気になるほどではない。 ハリウッド映画のようなアクションミステリーのファンにオススメする。 |
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