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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

ニコラス刑事さんのページへ

レビュー数154

全154件 21~40 2/8ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.134: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

読ませる警察小説

メモ魔の異名をとる刑事を主人公にした警察小説。こつこつ丹念に関係者を訪ねて証言を掘り起こしていく主人公が良く描かれている。
初動捜査で筋読みしたように、当時盛んに起きていた不良外国人による荒っぽい強奪事件だと思われた。しかし、捜査は行き詰まり二年が経過したが解決には至っていない。
そんな事件に継続捜査班にいた田川刑事に再捜査の指示が下される。縦社会の組織の中でキャリア組の思惑が絡むなか、田川は先輩の教えどおりに聞いた話のメモを手帳に増やしていく。
丹念な地取りで監を繋げていく過程が読ませる内容だ。意外な方向に流れていき事件の真相が徐々に明らかになっていくところが、急でもなく都合よく運ばないところが良い。
大人な人間たちの行動と会話が描かれていて社会性もそれによってしっかりとした内容になっている。
誇張が大袈裟過ぎるといった批判が出そうだがエンターティメントに徹するにはこれぐらいが丁度よい。
田川刑事というキャラクターがとてもよく出来ているので、他にも作品があるようだから読んでみようと思う。
初の作家だけれど、いろいろある警察小説のなかでもこれはこれで良く書かれている。
もう少し早く読んでも良かったと反省した。
震える牛 (小学館文庫)
相場英雄震える牛 についてのレビュー
No.133: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

タフでなければ読めない本

悪夢を物語にした本です。正体不明の男たちに追われ、逃げきれずに捕まり深夜山の中で穴を掘らされます。何の穴か考えるまでもありません。
昔、大藪春彦という作家がいました。彼の作品は主人公が拳銃、車、ファッション、料理などに拘り、鍛え上げた肉体を駆使して敵に立ち向かうという物語が殆どでした。
『汚れた英雄』、『野獣死すべし』、『蘇る金狼』といった作品が有名です。カーマニアがよだれを垂らすような車に関しての話しや武器としての拳銃の詳しさなどに驚いたものです。
ダークヒーローは読む者の分身で平凡な日常を忘れさせてくれました。

この本もそんな容赦ない血と暴力の世界に落とし込まれた女性が主人公になっています。 日々、命の危険に会うような異常な人間たちが食事に来るダイナー(定食屋)でウエイトレスとして働くことになります。
もっとも山の中で生き埋めにされるところを、料理が出来ると利用価値があると訴えてこのダイナーに売られたからでした。でなければ生き埋めにされ人生は終わっていたでしょう。
次々にイカレタ男たちが店にやって来ます。店を切り盛りする男の手伝いをしながらも散々な目にあいます。異常としか言いようのない男たちの殺しのテクニックや武器が見せられ
店のなかは血と肉片だらけです。
やって来る殺し屋たちと組織に起きている裏切り者探しの問題を絡ませてストーリーは進みます。
ハッキリ言ってお嬢さんの読む本ではありません。
タフな男たちとタフな女の物語です。
でも、ただの殺戮の物語とはなっていないのでそこは強調しておきます。
しかし、グロさは否めません。
そこを理解して読んでいくと一つのサバイバル物と見えるかも知れません。
ラストのロマンチックな甘さも口直し的な要素を担っているのかもです。本のカバーの意味は読んでいると分かります。
店の男が作るハンバーガーはよだれが出るほどの絶品です。 こんなバーガーを食ってみたい!

([ひ]2-1)ダイナー (ポプラ文庫 日本文学)
平山夢明ダイナー についてのレビュー
No.132: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

これであなたもミステリー通になれる

ミステリとは何ですか? という問いにこのようなものですよ、と教えてくれるひとつのハウツー本です。
ミステリ作家が読者を騙すためにいろいろ仕掛けるトリックや手法を教えてくれます。
そしてミステリにおけるお約束とか歴史、有名作品なども知ることが出来ます。
作者と読者の知恵比べというふうに捉えられますが、この本を読んだ後に別のミステリを読むとき、あなたにとっては幸せか不幸な事か微妙でしょう。
私の場合はメモを取りながら鵜の目鷹の目で読むということはしません。
純粋に騙されることを楽しみに読むからです。
ラストのカタルシスが大きいほど喜びは増加します。
テレビ番組という設定で、あみだくじのように回答者の推理をことごとく外していく展開は面白いです。
よくまあ考えたなぁと思います。それほどテキストはどう転ぶか分からない内容なんですが、事実を小出しにして各回答者の推理を読者に示していく過程は読み物として満点です。
裏にある思惑はまだ早いだろうと思われるところで読者に推理させます。その早いだろうというところがミソで、さらに捻りがあるという趣向です。
ま、この辺は読めますけれどね。
感じでは芦辺拓が書いた本かと思ったほどミステリに特化した楽屋落ちのようなものでした。
この複雑な筋を祖語なく書かれていることに拍手を送りたいと思います。
真実は必ず一つとは限らないのだよワトソン君。 !(^^)!
回答者が1、2、3、4、5と・・・・・・。 3のところで気付きました !(^^)! 
このあたりが弊害ともとれるところで、こういった本を読み込むのも痛し痒しです。( ´艸`)
ミステリー・アリーナ (講談社文庫)
深水黎一郎ミステリー・アリーナ についてのレビュー
No.131:
(8pt)

自らハードルを上げるのか?

過去に起きた誘拐事件の殺害された子供の父親が殺される事件が起きる。高速道路バス停付近で見つかった男の死体。その場所は過去に起きた誘拐事件の身代金受け渡しの場所だった。
殺害された男の身元が分かった時点で過去の誘拐事件との接点に気付く捜査陣。 このような出だしの物語。 初めて読む作家の本。いつ頃からかは分からないが警察小説というジャンルが
あって、その中で警察組織内での生臭い人間関係を描くというパターンが定着している。妬みや嫉み、そりが合わないことを隠しもしない態度で本音をぶつけあう警察官たちの人間模様や、
縦社会でのキャリア組とノンキャリア組との軋轢を描くといったものだ。自我を丸出しにして本音をぶつけ合う様子を描くことでリアルさを表す描写。
この本もそんなふうに書かれている。だがこのような書き方をする以上は警察組織の内部事情をキッチリ把握しておかなくてはならないと思う。その点この本はしっかり出来ているようだ。
さて、過去に起きた誘拐事件は未解決で終わっている。さらにあと一年で時効が迫った時期に県警のトップが自身のキャリアに傷が付くのを恐れ専従捜査班を作り再捜査を命じる。
現在の殺人事件と過去の再捜査班との動きを二軸に物語は進むという展開だ。ここで思うのは過去の再捜査班の動きをどうするのかということ。
未解決とはいえプロの捜査陣が徹底的に調べ上げた事件の資料をもう一度洗い直せという命令で再捜査班が動き出すという設定は書く作家自らがハードルを上げることに他ならない。

だってそうでしょう、シロウト探偵じゃあないんですから、全力で捜査に当たった誘拐事件ですよ。まったくのポカや見落としなんてあるわけがない。リアルな警察組織として書かれているのですから
そこはなおさらです。さて、そこのところをどうするのかがポイントでしょう。 違う視点で資料を見ろと再捜査のトップは言います。そして、小さなとっかかりを見つけて動き出します。
この辺は無理がないと思います。どう転ぶか分からない些細な点です。そういったところを丹念に洗い直すという動きです。この丹念な動きを追っていくのがメインとして描かれています。
結局はあるアクシデントで再捜査も失敗に終わります。現在の殺人事件の捜査にあたる刑事二人が、引退した再捜査班のトップだった男を訪ね当時の話しを聞くという形でこの動きが
語られるところは読ませます。 再捜査が突然終わりを迎えた事情も納得です。そして、その出来事を掘り下げていき、それが現在の事件の捜査に進展をもたらすというところは読ませどころです。
日本坂パーキングとかベンツを尾行するシーンでは、当然無線で本部とやり取りしながらの追跡です。ここで相手に撒かれそうになるところはどうなんでしょうか。
本部は追跡班に指示を出すお偉方ですから、普通に考えればパーキングの特徴などを把握して細かく部下に指示をするでしょう。ところが肝心の刑事はそのパーキングの特徴を失念していた
という有様です。緊迫したシーンを作るためだと思いますが、この辺がリアルな警察の捜査ということを描く上では甘さを感じてしまいます。
しっかり先読みをして回り込んだとした方が良いはずです。こういった少し甘い動きや再捜査班が気付くところがある証言などハードルを上げた分ちょっと苦しいかなと思います。
それでもかなり複雑なプロットで誘拐事件という一本の線ですべてがまとまり終わりを告げるというこの物語は読みごたえがありました。

真犯人
翔田寛真犯人 についてのレビュー
No.130:
(8pt)

食えないジジイ、バック・シャッツ

「おれはお前が好きじゃない」が口癖の元刑事バック・シャッツ。前作で撃たれて今は介護付き施設に入っており、妻のローズは住み慣れた家を売らなくてはいけなくなって真剣に怒っている。
厳しいリハビリを重ねてやっと歩行器を使って歩けるまでになったバック。前作ではミステリとしてアウシュヴィッツの亡霊と金塊を追い、殺人犯を探すというストーリーだった。
そのストーリーに無理なく入れるように主人公をユダヤ人という設定なのかと思っていたがどうやら違うようだ。根本にあるのは、作中に書かれているようにどんな時代でも
ユダヤ人たちはアメリカ社会では不安定な立場だということにメッセージがあるようだ。この辺は島国の中でノー天気に暮らす黄色い猿には理解が足りない部分なんだろう。
医者や弁護士といった上流社会にあっても、認めるが信用はしないといったことがあるのかも知れない。現にKKKなんてのも実際あるわけだし。
1965年と2009年が交互に描かれる。1965年のバックはまるでダーティ・ハリーだ。贅沢に金のかかった家具調度品とフカフカのジュータンが敷かれた部屋でも平気で
煙草の灰を落とし、わざとコーヒーをこぼす。セリフでは前作ほどクスクス笑いは出ない。それほど今回はシリアスというかハードボイルド感が強い。強烈な敵役のイライジャのせいだろう。
因縁の相手イライジャ。ここにユダヤ人としての宗教感みたいな物も入って来る。息子のブライアンの死に関することは少しは触れられているが、亡くなった様子などはまだ語られない。
一行、二行の書き方でそれに触れるということは考えていないようだ。そういったエピソードを絡めて一つのストーリーが予定されているのかも知れない。最後の解説のところに第三作、
第四作が2016年、2017年に刊行が決定しているとある。出るんでしょうね東京創元社さん (笑)
警報が鳴るとロックがかかり三時間は誰も開けることが出来ない銀行の大金庫。しかし、中にあった17万ドルが消えた。イライジャはどうやったのか。一人で捜査していたバックは
孤立無援だ。1965年の事件と2009年の今接触して来たイライジャの思惑とは?
口だけは達者な88歳の元刑事バックと78歳の元銀行強盗イライジャ。二人の因縁が疾走するハードなストーリー。
けっこう深い芯の部分があって、ありきたりのミステリ本とは違うといった印象だ。それは著者自身が語るように祖父がバック・シャッツのモデルだということだからだろう。




もう過去はいらない (創元推理文庫)
No.129: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

時代に合った等身大ヒーロー

オモシロい。一言一句目を通してしっかりと読んだ。ここのところ手にした本があまり面白くなく飛ばし読みばかりだったがこれはキッチリと読んだ。
時代に合った等身大ヒーローがまず良い。そして彼の皮肉ぶりが笑える。クスクス笑いながら読むのは久しぶりで気分がとてもよくなった。
高齢ゆえ活発には動けず、当節のIT端末なども使えない。携帯電話が使える程度だ。そんな元刑事が孫の手を借りて昔散々な目にあわされた元ナチスの男を追うと
身の回りで殺人が起き彼も事件に巻き込まれていく。そんな流れのストーリーだけれど、物語のとっかかりに対しての無理のなさを見せるためか主人公の元刑事は
ユダヤ人という設定になっている。そして息子がいたが何か不幸な出来事があったようで息子は亡くなっている。その子供、彼にとっては孫だがその孫と一緒に60年も
前にドイツから偽の身分証を持って逃げだした男の行方を探そうとする。男は金塊を持ち出していたと古い友人の話しだった。プロローグとしてはこんな感じで少し非現実感は
あるけれどそれはこっちが日本人だからかも知れない。主人公のキャラクターと妻のキャラクターがいいなあと思う。特に妻のキャラクターが良い。彼に対するセリフが秀逸だ。
調査の過程で孫が暴走して主人公も窮地に立たされることになる。暴走の一因は主人公にとって息子、孫の父親が亡くなる出来事に関して何かあったようだが詳しくは
書かれていない。元刑事といってもスラスラ情報が手に入ったりして楽に調査が進むようにはなっていないところが良い。良くあるパターンで警察関係者が捜査上の秘密を
やすやすと話す場面の多い物語があるがまったく勘弁してくれよと言いたい。その点これはそんなことはなくピースを繋ぎ合わせて調べていく様子がまっとうに見える。
最初から最後まで楽しめたので二冊目があるようだからそっちも読んでみよう。

もう年はとれない (創元推理文庫)
No.128:
(8pt)

けっこう本格ミステリだった。

ある日目覚めると、庭には昨日までなかった一本の木が植えられていた。引退したソプラノ歌手ソフィアはその木を見て怯える。隣家のボロ館に住む三人の若き学者たちに
ソフィアは木の下を掘ってみてくれと頼む。貧乏学者の三人は報酬につられ掘り返す。しかし、何も出てこない。そして穴を掘った16日目にソフィアは失踪する。
物語の出だしとして風変わりな謎を見せられると、もうこれは読んでみようと思うのです。( ´艸`)
思う壺に嵌まるわけですが、意味の分からない言葉を残して消えたとかそんなパターンよりかは何故か庭に樹が一本植えられていた、といった不可思議さを
強調された謎の出し方をされた方が面白いと感じるのです。
ポロ館に住む三人とは中世専門の歴史学者マルクと先史時代専門の歴史学者マティアスと第一次大戦専門の歴史学者リシュアン。この三人のキャラクターも面白く馴染みやすいように
書かれているのですぐに物語に溶け込むことが出来る。さらにもう一人マルクの伯父ヴァンドスレールという元刑事がこのボロ館に紛れ込んで住んでいるという設定。
歴史学者の三人ということから会話は比喩が多いですがユーモアに溢れていますから読みづらくはないでしょう。むしろエスプリに富んだ会話が楽しめるとした方が良いと思います。
ちゃんとアチコチに伏線が張られていますが、始めの方はストーリーの方向が読めないので伏線だとは気づきません。( ´艸`)
真相解明まで二転三転しますから最後まで楽しめます。ただ一点、何もしない人物がいるのが気になります。もっとも何もしないことが容疑者として捉えられるので、ミスリードの
役割を与えられた人物と思えますがそこは割り引いてもちょっと気になります。その他はまとまった内容で本格的な謎解きに挑戦する三人の若き学者たちの活躍を楽しみましょう。
この三人を登場させるミステリは他に三冊あるとの事なので機会があれば他の物も読んでみようかと思います。
最後に著者のフレッド・ヴァルガスは男性ではなく女性だとの事です。本名のフレデリックという名前は男女どちらでも付けられるそうで、縮めてフレッドとしているそうです。
ま、どうでも良い情報でした。
死者を起こせ (創元推理文庫)
フレッド・ヴァルガス死者を起こせ についてのレビュー
No.127: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

こういう人生を誤る男はいるだろうね

重犯罪じゃなくても法に背き悪事を重ねる男っているよね。
大抵は深く考えずにその場での思いつきといった短絡的な思考の末の犯罪ってことになるんだろうけど。
しかし、生まれ育った過去と現状を考えたら、この先自分にはいったい何が待っているのだろうと、鬱屈した気分でその日その日を過ごすのは間違いないところである。
主人公はそんな男。訪問販売で稼ぐしか今のところ他にやれることもない。売り上げの伝票を操作して金をごまかしては酒を飲むしか楽しみは無い。
しかし、彼の上司はなかなかキレル男。やっていることを見透かしたように嫌味をいう。そんな時一軒の家で老婆に品物を売りつけていると奥に若い女がいて老婆が妙なことを言いだした。
主人公のドリーは一目見てこの女モナに心を奪われる。それほどいい女だった。
ここからドリーは少しづつ道を踏み外していく。そこが面白い。だれだって男であればその辺は分かる。そこを大げさにではなくむしろ冷静に書いていく。
女には秘密があった。ドリーとモナ。破滅の物語だけれど共感する部分は多い。淡々と手を悪事に染めていくドリー。それもみんなモナのためだった。
死ぬほどいい女。それがモナ。無計画で行き当たりばったりの犯罪と言えば『復讐するは我にあり』がインパクトが強烈で今でも思い出すが、この本のラストはジム・トンプソンとしても
ただの安っぽいペーパーバックに小説を書きなぐっている作家じゃないぞと言っているような洒落て深いラストにしています。
ジム・トンプソンの作品の中では評価が高く知られた作品ですから読んでおいて損はないでしょう。

死ぬほどいい女
ジム・トンプスン死ぬほどいい女 についてのレビュー
No.126:
(8pt)

葬儀屋の未亡人の感想

法廷サスペンス、犯人捜し、陰謀に嵌まり窮地に立つ主人公の判事。そして、弁護士である妻との夫婦間のギクシャクとした問題。
これらをよどみのない文章で読ませるミステリです。逮捕起訴された上院議員の妻ははたして夫殺害の犯人なのか。高潔な判事はどう裁くのか。
敵対する上院議員の思惑は。飛行機で隣り合わせた女はいったい誰か。鑑識捜査で浮かびあがった現場の血痕の意味。中々飽きさせない展開が続きます。
そして何よりも最後の一ページ。ま、やってくれましたねと褒めておきましょう。物語の余韻に浸るには最高のエピローグでしょう。
二転三転する犯人捜しも辻褄があっており、刑事たちも良い仕事をしています。動機の面で少し弱いかなと思いますが犯人の性格がそういった気性であるとちゃんと書かれているので
ここは納得するしかないでしょう。サスペンスと謎解きとロマンスと言った豪華な内容の物語で、この時代のニューヨークあたりの知識人層には受ける要素をしっかりと
詰め込んだミステリということなんでしょう。でも今読んでも楽しめますから出来とすれば良い方だと思います。
葬儀屋の未亡人 (ハヤカワ文庫 NV (1001))
フィリップ・マーゴリン葬儀屋の未亡人 についてのレビュー
No.125: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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Yの悲劇の感想

意外な犯人を成立させるために周りの人物を特異な設定にして、ひとつひとつ積み上げていく物語の作り方は当時とすれば驚嘆に値すると思います。それこそ誰も書かなかったミステリと言えるでしょう。
当時の社会から見れば差別にあたる物言いや捉え方はそう問題とは認識していなかったのでしょうが、現代にこれを読むとやや心苦しい点があります。それはさて置いて、血脈というものに焦点を当てて大げさな問題として
事件の中に溶け込ませるこの手はクイーンが最初なんでしょうか。足跡、凶器、毒薬の存在、といろいろな謎を絡ませていながら大きなミスリードを誘う前半の事件が最大限の効果を発揮するところがこのミステリの胆です。
ここを書きながらダネイとリーはほくそ笑んだことでしよう。犯行や動機については一見無理筋のように思いますが、とにかく意外な犯人を作り上げるには致し方ないのかも知れません。
半分ほど読み終えてドルリ―・レーンに先駆けて犯人を指摘した人はどれほどいたのでしょうか。ホワイ、ダニットがこれほど悩ませるのも特筆です。
やはりエラリー・クイーンはミステリの神様です。
Yの悲劇【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンYの悲劇 についてのレビュー
No.124: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ダークナンバーの感想

「消失グラデーション」以降、何冊か読んでいる作家さんですが、キャリアを生かした映像についての拘りめいたものを入れつつ、その作業に従事する人物やアイテムとして使うシチュエーションを
設定した物語が個人的には好きでした。 この本はこれまでとはガラリと作風の異なる非常にドライな文章で書かれており、驚きつつもその新鮮さにすっかり参ってしまいました。
これまでの若い人たちをメインに据えたミステリではなく、警察組織の中で苦闘しながらも事件捜査に当たる主人公が非常に際立っており、そのクールな描写はストーリーにも疾走感を持たせています。
現代的な機器や装置を使う今の捜査機関の様子や刑事たちの言動にとてもリアルさを感じます。樋口真由も好きなんですがこの本に出てくる大人な人物たちもみんな好きですね。
都下で起きる連続放火事件と埼玉県で起きる連続ひったくり事件。交差していく二つの事件とその背景にあるもの。事件現場の生中継という前代未聞のあり得ない展開。
この作家さんの新境地として評価したいと思います。

ダークナンバー (ハヤカワ・ミステリワールド)
長沢樹ダークナンバー についてのレビュー
No.123: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

狩人の悪夢の感想

落雷という自然と偶然の産物が閉鎖空間を作り出し、その狭い空間で発見された死体。右手首が切り取られていたという猟奇さ。さて、犯人は誰でしょう?
その狭い空間にはわずかな人物しかいない。非常に危険な舞台設定。時間軸で証言の検証をしていけばあっさりと犯人が分かるのではと誰もが思うところ。
まるで短編小説のようなプロット。 ところが論理の展開においてもそう簡単には犯人にはたどり着けない。これが有栖川有栖のミステリ。
様々なガジェットが用意され、上手く機能し名探偵の眼を曇らせる。最後には名探偵が勝利するのは当然。しかし、それまでのプロセスをいかに楽しく読ませるかがミステリ作家の力量。
個人的にはこの火村という人物は好きではない。江神のほうが好みなキャラクターなのですが、そこは割り引いてもこういった長編を書きあげ我々を楽しませてくれる有栖川有栖という
作家に拍手を送りたい。

狩人の悪夢
有栖川有栖狩人の悪夢 についてのレビュー
No.122:
(8pt)

悲素の感想

ドキュメンタリー風に書かれている。どこまでが現実の出来事として読めばいいのかちょっとわからないけれど、当時の報道を少し思い出したりした。現実に今同じ和歌山で資産家が覚せい剤で急死する事件が起きている。この本に
書かれているように和歌山県警は再び大変な苦労をしょい込んだことになる。この本で犯人とされる女性はカレー事件が起こる10年以上も前から犯罪を重ねていた。夫が営むシロアリ駆除の会社で使っていた人間を借金を餌に保険を
掛け捲りヒ素や睡眠薬を飲ませていた。ぞっとする女である。密かに和歌山県警の依頼を受けた医師が犯人の会社で働いていた人物を診察し、警察が執念で集めた古いカルテなどを分析してヒ素を体内に取り込んでいる事実を解明していく。
本筋のカレー事件を追うのではなく、従業員が何人もヒ素や睡眠薬を飲まされ入院したことで、何社にも掛けた保険から驚くほどの金額の入院給付金を受け取っていたり、死亡した人もいて億の単位の保険金を手に入れていた事実を解明していく。
当時社会的にヒ素についてのモノを言える人物はいなかった。医師であり大学教授のこの人物が数少ないヒ素や毒物についての研究をしている人だったことで警察の依頼を受けた。当然従業員が診察をうけた医師なども症状からヒ素が関係している
等とは誰も気づかない。膨大なカルテを当たり証拠として採用される意見書を作成していく医師の苦労が始めから最後まで描かれている。合間に毒物についての人間の歴史とそれを使った遥かな昔の毒殺事件が書かれているのも興味深く読める。
淡々とした文章に見えるが怖い話でその浸透力は半端ない。


悲素 上 (新潮文庫)
帚木蓬生悲素 についてのレビュー
No.121: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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がん消滅の罠 完全寛解の謎の感想

医療ミステリということなので、一般読者としては業界用語には説明が必要ですよね。その点を最後のページにある選者の人のコメントではセリフが説明的で面白くない、なんてことを言っています。どうしてこんなことを言うんだろうと思います。
そんなことは言わずもがなのことでしょう。難解な医療用語がずらずらと出てきて何の説明もない、巻末に一括して用語解説してあるからそこを参照してくれ、そんなミステリ本を誰が読みますか?
物語の性質上セリフのやり取りでストーリーが進むのは理解できます。この点も選者は指摘していますが読んでいる私は気になりませんでした。文章も未熟さが見えるなんて云っている選者がいますが其処も私は感じません。
むしろテンポの良い会話と描写で、謎めいた現象に戸惑いながらも真相の解明に立ち向かう彼らの行動がすんなりと胸に入ってきます。人物の書き分けも出来ていると思います。そういった面で稚拙さは感じません。
挟み込まれる医療に関してのエピソードや人体の不思議さが書かれたところは興味深く読みました。今さらですが人間の身体の良く出来たデザインとプログラミングの凄さが分かります。本当に神が作り給うと思わざるを得ないほど一つ一つの細胞の素晴らしさに驚きます。がんが消える謎。どんなトリックが用意されているのかと思ってページを捲る手が止まりません。湾岸医療センターの野望は正直イマイチ分かりませんでした。ちょっと話を広げ過ぎなのではと思ったりもします。
しかし、クライマックスから最後の一ページの衝撃は楽しめました。動機に対しての二転三転の裏切りも中々です。私個人としては楽しく読めたミステリということになります。

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)
岩木一麻がん消滅の罠 完全寛解の謎 についてのレビュー
No.120: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さあ、地獄へ堕ちようの感想

ついて行けるかどうかが問題ですね。私は普通についていくことが出来ました。繊細な人や純粋無垢な人は嫌悪感で最後まで読めないかも知れません。ということは私はちょっと変だということでしょうか? いや、人生長くやっていれば清濁併せ呑む
ようになるのです。それが大人になるということです。決してオカシナ人物ではありません。トリッキーな世界と人物たちですが話を形作っているのは紛れもなくミステリの構図です。グロっぽさでミステリを書かれているのはあるでしょう。
その意味で云えばこの本は新鮮です。着想というか視点というか、賞に応募するのであればこのぐらいのImpactが無ければダメでしょう。散りばめられた伏線もキチンと回収され謎が解明されます。。ミステリ以外の何物でもありません。
その世界観が凄いというだけです。暗黒面を隠さず普通に生きている、都会というカオスにはそんな人たちがいっぱい蠢いているんでしょう。舗道にはゴミひとつなく明るい日差しに溢れた通り、そんな道ばかり歩く生活の人達には縁のない世界でしょう。
でも、ひとつ道をそれると暗くジメジメした日の当たらない世界があるんです。昼間でもカーテンを閉めて寝ていて、暗くなってから起きだし鎮痛剤をボリボリと噛み砕きながらビールで流し込む、そしてふらつく足で夜の闇の世界に出ていく。
決して勤め人がいっぱいの朝の満員電車などには乗らない違った世界に住む人たちの物語です。そのダークさがこの物語のウリなんです。その世界感に合ったトリックと登場人物の行動原理。良く描けていると思います。

さあ、地獄へ堕ちよう (角川文庫)
菅原和也さあ、地獄へ堕ちよう についてのレビュー
No.119:
(8pt)

完全記憶探偵の感想

中学、高校まではクラス一番の成績で皆から注目されていた。しかし、大学に入ると平凡で目立たない学生になってしまう。これってよくある話ですよね。デッカーはこのパターンでフットボール選手として
プロに入ってからはその他大勢の一員でした。しかし、努力して大きな体を生かした選手として試合に出る機会がそこそこありました。だがある試合中の事故によって脳がこれまでとは違った能力を持った
人間として瀕死の状態から蘇生します。日々の生活の中で見るもの聞くものすべてが脳内に記憶されます。決して忘れるということがありません。これはキツイ話です。人間は忘れる動物です。嫌なこと
辛い事を忘れるからこそ生きていけます。しかし、すべてが頭の中に記憶され決して忘れられなかったらどうでしょう。警察官から刑事になり妻と娘を持ち任務に励んでいたデッカー。ある日帰宅すると
家には義兄と妻と娘の死体がありました。その時のデッカーの記憶はすべて青い色で再生されます。この異常ともいうべき能力を持った探偵のデッカーという人間の内面もしっかり表されておりその人格も
読む側にすんなりと伝わります。事件は迷宮に入り警察を辞めたデッカーは落ちるところまで落ちます。薄汚れたホームレスからようやく探偵としての仕事をこなし日々の糧を得るまでに精神が回復します。
そんな時に元同僚の刑事から知らせを受けます。デッカーの家族を殺したと自供する男が現れたと。ここから物語が動き出します。文庫本上・下巻に別れたボリュームですが読み疲れるということはありません。
この特異な脳力を持った探偵を主人公にしたミステリですが良く書かれていると思います。事件の真相と犯人は無理のない設定でラストもそれ以外の解決では中途半端になってしまうでしょう。予定調和と云えば
そのとうりですが残虐な話からすればむしろその方が効果的と云えます。二転三転する展開からデッカーがすべての記憶を再生してピースを嵌め込むようにし犯人に迫っていく過程は読ませます。そして、デッカーの脇を固める人物たちも魅力あるキャラクターとして登場し活躍します。ボリュームの割にはスラスラ読めるので通勤の電車に乗っている時間などは頭を空っぽにして楽しめるでしょう。
完全記憶探偵 上 (竹書房文庫)
デイヴィッド・バルダッチ完全記憶探偵 についてのレビュー
No.118: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ルパンの娘の感想

設定だけを見ると昔の赤川次郎の世界だけれど、スピーディな展開と明るく軽妙な文体で書かれた内容はミステリとしてもしっかりしており読ませます。あり得ない設定の二人が恋に落ち結婚に至るまでの
プロセスをドタバタ調で描かれていて、そこに一つの殺人事件が絡んでくるのですが、事件の推移は展開が二度、三度とひっくり返る意外さも用意してあります。事件の謎の解明にあたるところは小出しにする伏線の妙もあって先行きが不透明です。事件の裏側は推測できる部分もあれば、何故なのかという所があったりと充分読む側の心理を計算した書き方でコチラをけっこう本気で
読ませます。ユーモアミステリの範疇ですがこういった系統のものが嫌いではない方には楽しめるでしょう。それぞれの家族の中でも、特に泥棒一家の方には特異な性格の人達が出てくるのですが、それらが上手く書かれており物語にあった良い味を出すキャラクターとして成功しています。漫画チックな設定なのですが二人の結婚への紆余曲折と殺人事件の謎が二人の家族の問題へと広がっていく面白さは練り込まれた
プロットの良さと云えます。ただ一点、五十年もの間・・・・・というところが引っかかりますが、それを言っちゃあお終いなのでそこはスルーということに。そこのところ以外は全体として面白いお話を書かれたと評価できると思います。他の作品は知りませんがこういった路線で行くのがこの著者には合っているように感じました。この二つの家族をメインにした次のミステリがあれば又読んでみようかと思います。
設定だけを考えればチープな内容と思ってしまうかもですが、読んでみれば意外と拾い物の一冊だったのではないかと、そう思えるミステリです。
ルパンの娘
横関大ルパンの娘 についてのレビュー
No.117: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

シンデレラの罠の感想

エンターテイメントだね。1962年にこのプロットを思いついた著者の勝利でしょう。あとは手にしたものがどう読むかで良いのではないですか。ミかドか答えがハッキリしなくては落ち着かない人には
これは辛い書き方ですね。一つ一つ拾って当てはめていくと誰を指しているか分かるでしょうが、それでも決定的ではありませんね。そこが良いのでしょうね。ラストに明らかになる本のタイトルの意味。
上手いなぁと思います。記憶喪失ネタはこれ以降沢山書かれたんでしょうね。でも、先に書いたものの勝ち。これ以上のものはあるんでしょうか?記憶にないなぁ。多分「さよならドビュッシー」もここからの発想なんだろうね。このようなオリジナルがなければ、あのようなプロットは生まれないだろうし。いろいろ影響を与えた作品なのは間違いないですね。語り継がれる作品であるからには一度は手にしておかなくてはいけないでしょう。満足するかどうかは別にして。( ´艸`)
シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)
No.116:
(8pt)

事件当夜は雨の感想

最初は意味すら分からない犯罪に思える。どしゃ降りの夜にドアを叩く音で眠りを覚まされたソレンスキー。異様な恰好の男はロベンズの家はどこかねと尋ねた。この先を400メートルほど行った先の
最初の家だと教えた。そして一時間ほどした後またドアを叩く音で玄関に出ると先ほどの男がまたやって来ていた。ロベンズの家に行ったが誰も出てこない。ブリッジボートから来たがロべンズに肥料代50ドル
を貸してあるがまだ払ってくれないんだと云う。怒りをこらえて庭に車があれば居るはずだと教えると男は姿を消した。そして二時間後またドアを叩く音で玄関に立つと、ロべンズの妻マータ・ロべンズが
ポーチに立っておりヴィクが撃たれたという。こうして不可解な事件が幕を上げた。コネティカット州の小さな町、ストックフォードで起きた奇怪な事件。フェローズ署長とウィルクス部長刑事の捜査が
始まる。緊急配備にも引っかからない正体不明の男。事件の背景がまるで分らず困惑する警察。動機は何か。そこから手探りであらゆる方向から調べ始めるフェローズとウィルクス。こつこつと一つ一つの
可能性を消していく捜査。地道な捜査の様子を丹念に描くウォーの筆。五里霧中の捜査の行方。読み終えてみれば大胆な伏線があったことに気づくがまるで眼中になかった。ウォーの代表作と評される
このミステリ。楽しませてくれました。
事件当夜は雨 (創元推理文庫)
ヒラリー・ウォー事件当夜は雨 についてのレビュー
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(8pt)

フランス白粉の謎の感想

国名シリーズの二作目にあたります。衝撃的なデビユー作から、それを上回るような、もしくは同等のレベルの二作目を書けずに消えていった作家は数多くあります。そういった意味では
エラリー・クイーンはやはり並みの作家ではなかったと言うことがこれで証明されます。センセーショナルな事件の始まり。動機は?アリバイは?関係者の証言と動き。閉じられた部屋が幸いして
手つかずの遺留品が山ほど。ともすれば見過ごしがちな品々をひとつひとつ吟味してその意味を考えるクイーン。暗号までも使ったパズルゲームに堪能させられます。何故そこに死体が?
調べたことをすべて繋ぎ合わせるとある一点を差す。論理的帰結の妙味。今の感覚で読むとこんな親子は鼻に付きます。時代の差ですからしょうがありません。でも、クイーンの思考の道筋を追っていくのは
楽しいです。関係者を一堂に集めて「さて、皆さん・・・・・・。」古き良き探偵小説を楽しみましょう。
フランス白粉の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンフランス白粉の謎 についてのレビュー