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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数210件
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初めて読む作家の本って、ある意味ギャンブル気分。当たりかハズレかどっちだろうと不安を抱えながら手にする。これは読んで正解の本だった。まぁ冒頭から謎全開で始まり家探しも説得力ある話で、フゥーンなるほどとしか云えない。
この辺の読者を納得させる筆力はたいしたもので物語への期待が膨らむばかり。ひとつの作品に散りばめられた謎も贅沢でこれは着地はどうするんだろうと心配になるほどいろいろの謎が提示される。収束も破綻無くまとめられていて緻密な プロットを構築しているのがすごいと感じる。ちょっと島田荘司に似た文章でしっかり読めるのには安心した。これほどのネタを使ったミステリを書く人とは思わなかったので万馬券とは云わないまでも高配当を手にした気分。 他の作品も読もうと思った。未読の人にはおススメ。難を云えば冒頭に出てくる弁護士の川路が妙な言葉使いをして戸惑ったがこの点に作者は何の説明も無い。これはシリーズもので川路弁護士はシリーズキャラクターなんだろうか? その辺が少し違和感があり最初はちょっと読みづらかった。しかし、ミステリとしは上出来で最後まで楽しめた。こんな作家が居たんだというのが素直な感想。 |
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ポイントを7にしたのは、この作者がお気に入りの人でないとちょっととっつき難いと言うか少し理解が得られにくいと感じるからです。元高校の国語教師という著者の経歴を示す文章はとてもキレイで美しい。
日常のなんでもない風景からチラッと覗く小さな謎。最後に明かされるその意味。円紫師匠と女子大生の「私」シリーズで充分満足させられたあの時間。九つの謎が収められているが「白い朝」がもうどうしたって 一番の好みとなるのは、これはもう誰もがそうだろうと。憎い物語とオチ・・・堪らないなぁ。楽しめる人は楽しめる、そんな九つの謎を収めた一冊。貴重なミステリ作家である。 |
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樋口真由消失シリーズよりは間口を広くしたというか、読者層を下げたような感じだけれど、少し笑いの要素を多くした青春ミステリとしてこれはこれでより多くの人に受け入れられる作品じゃないかと。五編が収められているが
それぞれ工夫を凝らした謎を見せて、あっさり答えを出す探偵役の眉目秀麗成績優秀の変態がオモシロイ。細かな点まで計算された書き様で安心して読める作者の力量が心地よい。ビギナー向けのようでもあるが、そこそこ毒もあり それほどノー天気なお気楽ミステリじゃないと。この作者のファンなら手にとって読んでみるべし。 |
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まず、訪問販売についてのいろいろな問題部分が書かれている。これは主人公が事件に入り込んでいくきっかけになるところなので、相手の手口とかずる賢さがしっかり丁寧に描かれている。要するにオレオレ詐欺的な犯罪を構成する
訳で、一般的な市民はキチンとした対処をしないと相手の思う壺にはまることになる。そうならないためにどうすべきか、そんな教えになる良い書き方だと思う。そして隣室のトラブルに係わった主人公は仕事としてアパートで餓死した親子の様子をリポートしているうちに、悪質な訪問販売を繰り返すグループが凶悪な殺人事件を起こしている事実に行き当たる。現実社会でもオレオレ詐欺や振り込め詐欺の犯罪をシンジケートを組んでやっている犯罪集団が居る。小説の中では騙され何もかも失った人が、復讐のため知恵を絞り用意周到に計画して相手を騙し失った物を取り返す、そんな内容が共感を呼び爽快感に繋がる訳だ。しかし、彼らは何の罪もない人たちをターゲットに大切なお金を騙し取っていく。ある意味とても許しがたい犯罪である。こういった犯罪に加わっているのが同じ人間であるという事実にやりきれなさ以外に何もない。ただ楽して人より金を手に入れたい。金を手に入れるためなら何も考えない。そんな人間の心の内は何がどうなっているのか非常に興味深い。脱線したがこの訪問販売のグループも主犯格は居るがメンバーがその度入れ替わり痕跡を残さないようにして捜査の手が及ばないようにしている。この連中も無機質な自分勝手な行動原理を見せ現実の詐欺集団と同じ描き方をしているので、読んでいると非常に腹立たしく、我知らず物語り世界に入り込んでいて苦笑する。けっこう展開の上手さ人物の動かし方の上手さがあり読みふける。ラストはともかく目の付け所が上手いなと感じる著者の姿勢で、ミステリとしてもこれはこれで面白い一冊と評価できる内容だ。 |
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閉じ込められた山荘。ゼミ仲間のメンバー4人全員に殺意があった。15年の時効寸前に現れた一人の男が語る言葉。あの時の真犯人は俺だ。そんなシチュエーションで始まるストーリー。
誰がどうやって犯行を?それがこのストーリーの核。大仰な文章がいただけない。もっと宮部みゆき氏とかの文章などを見習うべきだ。でも、手垢のついたジャンルに挑む精神には敬意を表したい。 ドンデン返しの連続になる後半は楽しみながら読んだ。トータルで云えば自分はこういったものが好きなので面白かったと評したい。 このトリックに先例があるかどうか分からないが良く考えられていると思う。 この手の話が好きな人にはお勧めできる。一読の価値はある。 |
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けっこう長い。文庫で上・下巻に別れている。行方不明になった同級生と同じ班だった六人のその後の人生がメインストーリー。かなり理屈っぽい文章で様々な人生を送る六人が描かれているが、そういった点が物語りに入り込みやすい。
この人の筆致はこの物語にあっている。何故同級生は消えたのか、何故二十年後に彼女から私を覚えていますか?などとメールが届くのか?ミステリが好きな人にはこのシチュエーションには食指が動くこと間違いない。 なかなか上手い設定で物語を作るという印象だ。六人それぞれに降りかかる災難。それは自然なのか必然なのか。消えた同級生の出来事を引きずっている六人。シンプルに云うと消えた理由と送られたメールはそのつながりは破綻無く こちらの胸に届く。誰もが秘密を守った結果であると言える。しかし、最後の章でそれが明らかになるまで少々長いと感じる。六人の人生を描きかったのだろうが、交差する事件にしても少しご都合主義的な流れが見える。 しかし、ストーリーテラーとしての印象を持ったのでこの他の作品にも興味を持った。機会が有れば読んでみたい。この作品に限って云えばミステリとしては、そう読んでいてワクワク感はないが面白い物語を読んだと言う印象でした。 |
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ただ家に一晩泊まってくれ。探偵は二人で。そんな奇妙な依頼を受け向かった家では家人は何も語らず二人は酒を飲んで寝てしまう。しかし、明け方大きな音で目覚めた二人が見たものは切断された四つの死体。床は血の海で部屋に入らず
一旦引き上げ探偵事務所の所長を連れて引き返すと、死体も無く部屋の床もキレイになっていた。殺害した死体を秘密裏に処理すれば犯罪は発覚しない。何故二人の探偵に見せその後隠したのか?これが冒頭見せられる謎。 興味を引く設定ではある。創元推理文庫の大幅改稿による作品で読んだ。ネタバレになる危険が多いのでアレコレ書けないが冒頭の謎の意味も犯行の動機も一貫した流れで、最後の真犯人の指摘も意外なところに居てサプライズ感が強いし、 伏線もいろいろ張り巡らせてありキチンとしたミステリではある。細かい点はおいといてけっこう楽しめた。個人的には好みの作風である。 |
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創元推理文庫で読んだ。上・下巻に別れていてけっこう長い。幻の絵画ロンドにまつわる連続殺人事件の物語。絵画と言えば花やポートレートのような人物画とか印象的な街並みを描いた風景画を想像する。しかし、その一方で
死生観を表わした宗教的な意味合いを持つ残虐でグロテスクな画もたくさん有る。時の権力者たちに依って描かされた、あるいはおもねって描いたその様な絵も歴史的に存在する。このロンドも狂気のような絵画として知る人がホンのわずかという 幻の絵画となっている。魅せられた人たちに起こる忌まわしい事件。謎の人物からの個展の招待状。そこには有名な絵画を模した死体が用意されていた。主人公もロンドに魅せられた若い学芸員。幻の絵画ロンドとは。 抽象的な表現が多いが絵画にまつわるエピソードをいろいろ語り、事件に巻き込まれた主人公の行動を追う展開が上手く描かれていて眼が離せない。 それほどまでに画に魅せられる気持ちがいまひとつ理解出来ないのはこちらが凡庸なせいでしょうが、熱くなるその世界の人間の気持ちは正確に描写されている。初めてのミステリとしては良く書かれていると思う。 異質の作家の異質なミステリという事ですか。 |
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雫井修介の『火の粉』に似たような内容。しかし、あれは読んでいる方は隣人の異常さが何となく分かっているが、物語の中の家族五人が気付かずにいて、途中で不審を覚えた一人が家族に訴えるが「いい人なのに何を言っている」と
取り合わずにいる展開が緊迫感を盛り上げ作品世界を作り上げているわけだが、でもこれは古くからあるスリラー映画などのひとつのパターンではある。この「クリーピー」も異常者が出てくるが、読者は主人公と同時進行で事件に遭遇する書き方なので不審者がハッキリ そうだと分からない部分が読んでいる方にあり、薄気味悪さが増幅されそのため余計に異常さが際立って感じる。でもひとつ残念なのは主人公の大学教授が読み始めのところにはキチンとした人物設定が書かれていないと云う事。 そのため曖昧な印象で彼の行動原理もよく分からない部分がありストーリーに素直に入り難い。このため良くある例のパターンかと深読みしてしまった。もう少し主人公であるならばどの様な人物なのか説明して欲しかった。 さて、異常者が起こす異常な犯罪。その結末はどうするのか。ありきたりに逮捕されてそこで終わりとしてはつまらない。ここが腕の見せ所である。結果からするとけっこう捻ってある。その落としどころが評価の分かれ目だけれど ホンの脇役だった筈の人物が最後に絡んでくる展開は、良くあるパターンとはいえ意外さが成功していると思うのでOKとしましょう。ラストも余韻があり良い幕切れと思う。「火の粉」とは一味違うストーリーでこれはこれで面白い。 |
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保険業界のことはあまり知らないことなので興味深く読んだ。調査員には何の権限も無いので人とのコミニュケーションが大事で信頼されないと何も話してもらえない。そんな難しい立場で何があって何が真実であるのかを調べる
ベテラン調査員村越を主人公にした物語。明確な遺書が無くても複数の状況証拠を積み重ねると一応の推定として自殺と認定される判例があるんだそうです。タイトルはそこから来ていますが、保険会社と残された家族の物語で 死因の本当の原因を停年間近のベテラン調査員村越が死者の行動を追う展開です。若いデスクワークしか知らない保険会社の社員と相棒になって調査会社の村越とのコンビが調べを進める課程がとても興味深く語られていて面白く感じました。 遺された家族には事情があり保険金を早く欲しい。しかし、保険会社は無責を勝ち取りたい。(無責、つまり自殺であれば保険金は下りない)二人の調査は二転、三転する。最後の真相が明るみに出るまで村越の人柄などもあり 一気に読み進んだ。面白い分野の物語でもあり読後感も良かった。ミステリ色は弱いけど面白さは有る、そんな本です。 |
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刑法第39条を扱った作品。中山七里の「連続殺人鬼カエル男」もこの刑法39条を扱っていたがこの「虚夢」の方が真正面から取り組んでいる。我が子を殺されたことから離婚した夫婦。そして社会に戻ってきた統合失調症の若い男。
その男と元夫婦の二人。そしてキャバクラで働く若い女。絡み合う人間模様が上手く書かれている。どうするのか?復讐なのかそれとも・・・。この先の展開にとても興味が惹かれる。簡単に犯人に復讐とはいかない。苦悩する被害者家族。 それらの縦軸に法的な問題や病理的な見解が書き込まれ問題の奥深さが浮き彫りになる。そして意外なファクターがあり物語が通り一遍な問題提起だけに終わらずミステリとしても成功している。なかなか読み応えのある内容で最後まで 飽きることなく読み終えた。タッチが雫井修介に似ているような気がするけれど気のせいかな。 |
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けっこう島田氏の作品は読んできた。読み疲れといった部分もあると思う。だから読んでいる途中でもあまりワクワク感は感じなく読んでいた。出だしは34階にいた人物が1階にいた人物を殺害したと告白する。わずか10分の犯行時間。
物理的に不可能なこの告白に御手洗潔はどのような答えを出すのか。そして都市の成り立ちや文明との係わりによって変貌していく過程が著者視点のウンチクをもって語られる。ネタのバックボーンとなる建築物がこの物語のすべてであるが 挟まれるひとつひとつの謎はそう興味を惹かない。窓に見えた怪人、姿が透けて見える怪人、どう解釈するのかと思ったらそのへんかといったところである。動機は端的にいえばそれでも良い。だから停電の夜34階にいて1階の人物をわずか10分 でどう殺害する。その答えを知りたくて最後まで読んだ。ひとつの都市伝説がミスリードの役割で抽入されているがこれは著者のいつもの手だ。鮮烈なデビューから数十年が経った。あの頃のドキドキはもう無い。 私にとって島田荘司は龍臥亭事件まででした。 |
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著者のデビュー作で、あれこれと事情があり73年双葉社から単行本として出版された。この時一部のミステリマニアで評判になった本でした。そして87年徳間文庫の一冊として世に出、2004年創元推理文庫で過去に加えられた加筆修正を再度
見直し決定版として出版されたものです。始めは「そして死が訪れる」のタイトルでしたが、その後「新人賞殺人事件」に改題され更に「模倣の殺意」に変わったと云うことです。一部マニアに評判になった時のタイトルは「新人賞殺人事件」なので世間的にはこのタイトルの方が認知度は高いかも知れません。この本はその特徴として本邦初の叙述トリックで書かれたミステリと云う事です。今でこそいろいろな作家から素晴らしい名作と言われる作品が生み出されていますが、すべては この本の後に書かれたものです。これがこの本の価値を高める理由です。絶対騙される。そう云える内容です。ミステリを愛する人は一度は読んでみるべきです。 |
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久しぶりの倉知淳氏の作品。短編はあまり読む気がしないので手にしなかった。これは久しぶりの長編で小さな町で起こる連続殺人を巡るお話。そう言えば本の装丁もなんでこんなのだろう、電車のなかではカバーをしなければ
とても読めないじゃないのと思っていたが、フフフそう云う事だったのね。本の装丁からして伏線なんてやってくれるよ。連続殺人の動機はなにか?被害者に共通するものは何か?それがこの物語の主題。壺中の天国の話。おかしな怪文書。オタクのモノローグ。被害者の日常のなかにあるさりげないある一点。散りばめられたそれらの伏線を読み解くのは正太郎しかいない。昼行灯と形容される正太郎が可笑しい。すべてのエピソードがある一点を指しているこの爽快感。読んで良かった。 さすが倉知 淳。もっと長編を書いて欲しい。猫丸先輩もいいけどね。 本の装丁のことですが、私が読んだのは角川書店の単行本です。 |
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女性らしい筆致で書かれた一人の女性を取り巻く環境を暖かい目線で綴ったミステリっぽい要素のあるハートフルなストーリーです。ゆったりまったりとした気分になります。たまにはこんな本も良いでしょう。涙腺が緩みそうに
なるほど真正面からひとりの女性の生きかたを描いています。暖かい隣人たちや触れ合う人たちのこころが素直にこちらの胸にも響きます。サヤを助ける幽霊の夫。トランジット・パッセンジャーとなった彼が不可思議な出来事の 解決に手を貸しながら、サヤが子育てにそしてひとりの女性としての生き方を見守る様子が清々しい。七つのエピソードが描かれているが個人的には待っている女がいいですね。人情話はやはり胸に響く。 |
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今読めば、クラシックなスタイルで書かれているミステリなのでゆるさを感じてしまうかもしれない。でも殺伐とした感じがないからこそ純粋に謎解きを楽しめると思う。当事流行ったようで巻末に作中の手がかり
一覧が示されている。なんと合計で29もの手がかりが物語の中に散りばめられているのだ。そういったお遊びは別にして肝心のミステリとしての出来具合はというと、けっこう本格的な味わいの物語で私自身は楽しめた。 館に滞在する8人。使用人を含めて11人。この中に犯人がいる。動機の見えない犯行。ミッシングリンクはあるのかどうか。誰がウソを言い、そのウソを暴くのは誰なのか。けっこう洒落た会話で謎解きに奔走する滞在客たち。 緊迫したゲームのような臨場感はなくても古き良き時代のミステリの趣を感じながら楽しむ一冊といえます。 |
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灰色の脳細胞私立探偵エルキュール・ポアロが16年前に起きた事件の真相を娘の依頼で調べていく物語です。運よく関係者5人は全員存命していたが16年というのには何か理由があるのかと思っていたが
それほどの意味はないようで、一人ひとりに会い話を聞いていくポアロの行動とともにその時の状況が再現されていく展開です。人が人を評するのにはそれぞれの感情が主に起因している部分が大で冷静に彼もしくは 彼女を分析する人間のほうが少ないでしょう。たとえその時の状況から有罪は間違いないとしても本当のところはどうだったのか。ポアロが話を聞き更に手紙で記憶を掘り起こし当事のことを知らせてくれる五人の関係者。 ひとつひとつの事象は彼女の有罪を示している。しかし、ポアロが辿り着いた結末は・・・。そんな物語ですが、表に見えている事柄も一歩裏側から見ればまた違った画に見える、そんな良くあるパターンとはいえ 当事ではこのスタイルは斬新だったことでしょう。さまざまな人間模様を描き事件に迫っていくポアロの調べ。予定調和ともいえなくもないラストですがすんなりと胸に入るのはそれまでの描き方が上手いと評する他にないと 思います。クリスティらしい一冊と感じます。 |
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ジヨン・ディクスン・カーが、カーターディクスン名義で書いた作品です。カーといえば密室です。この作品も密室状態の部屋で殺された男がいて、そのそばに一人の男が気を失って倒れていた。そんなシチュエーションで始まる
ストーリーです。多くは法廷のシーンで被告の弁護人であるH・M卿が検察側の追求を交わし徐々に真相を顕わにしていく展開となっています。法律家を志していたというカーです。法廷の裁判を進行させていく手順や検察、弁護側双方の やり取りなど読者を惹きつける描写はさすがです。密室トリックも中々よく考えられていて今読んでも納得のトリックです。時系列に犯行を見ていけばおよそ犯人の予想がつくものですが、そこはストーリーテラーのカーです。 そっちの方向には向かせないように法廷のシーンでの緊迫した状況を描き、読者をH・M卿の謎解きの行く先に興味を持たせるように書いており筆の上手さを感じさせます。 隠れた犯人、そして犯行方法。隠されていたスキャンダル。それぞれが絡まった事件。最後のH・M卿の事件を解き明かす話のところも納得でよく考えられたプロットと思います。 始めに派手な不可能状況をみせると最後の辻褄あわせに苦労するわけですが、この作品の場合はうまく着地していると思います。今読んでも楽しめる古典といえます。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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本格の謎解き小説である『歳時記ダイアリイ』。多根井理が読む作中作のミステリ。叙述トリックにアナグラム。そして、すべての人物が話す言葉が手がかりとなっており、それらを論理的に解きほぐしていくスタイル。
クラシックなスタイルではあるがひとつひとつのピースが最後にピタッと嵌まる快感。主人公の探偵役の多根井理(たねいさとし)。名前の由来はエラリー・クイーンの生みの親フレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーの 名前から作られている。余計な描写は極力省きミステリとしての面白さ楽しさだけを追求したストーリーであり謎解きに特化した本です。今時には奇異に映るかも知れませんが初めてコナン・ドイルの本に触れた時のような興奮を 覚えます。それがミステリの楽しさを知った最初の興奮だったことを思い出させてくれます。こういったスタイルの本はロジックパズルが好きな人には楽しめるでしょう。例えば問い。赤か白の帽子をかぶっている人が三人縦に並んでいます。自分の帽子の色は分かりませんが、前から二番目の人は自分の前にいる一番前の人の帽子の色が見え分かります。一番最後の三番目の人は前二人の帽子の色が見えて分かります。後ろを振り返るのはダメとします。この三人のなかで一人が赤の帽子をかぶっていることを告げます。自分の帽子の色が分かった人は言いなさいと告げると、少しの沈黙のあと一番前の人が自分の帽子の色は赤だといいました。赤と答えた彼の答えの根拠を示しなさい。 |
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鮎川哲也と十三の椅子1990年の最終候補四作のなかの一冊です。最後の解説に鮎川哲也氏が書かれていますが、有栖川氏ものんびりとは構えているわけにはいくまい。有望な新人が出現したものだ。と。しかし、この後この人はこの『記念樹メモリアル・トゥリー』の他に『歳時記ダイアリー』、『肖像画ポートレート』『夜想曲ノクターン』の四作と短編数作を書かれたあと作品を発表されていません。クイーンに傾倒する作者らしい論理でストーリーを構築する作品で物語のなかのすべてのエピソードが謎解きの手がかりとなっています。お約束どうりフェア・プレイで書かれていることを証明するために読者への挑戦をしますというページがあり、必要な手がかりはすべて提出されました。論理的に犯人を決定することが可能です。とあります。この本は密室がテーマで、物語に出てくる全員の云った言葉、行動、表情までもが解決へのヒントとなっています。本格ファンには充分楽しめる内容といえるでしょう。
大阪市役所職員とありますから市民のため職務に勤しんでおられるのでしょうが、ちょっと残念です。ミステリ作家として活躍してもらいたい人だと思いました。四作のうち三作は読みました。最後の一冊『歳時記ダイアリー』も近々読むつもりです。 とにかく近年の有崎有吾氏の『体育館の殺人』や『水族館の殺人』が楽しめたという人にはこの本も楽しめると思います。 |
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