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ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編
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ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.08pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全10件 1~10 1/1ページ
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春樹さんはいつも、どれも面白い。違う世界へ行ける。 | ||||
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この3部は、いかにも後から付け加えたような構成で、少し戸惑った。奥さんを奪われた主人公が、邪悪な存在である、綿谷ノボルと対決して、と言うストーリーは続いてるのだけど、マルタとクレタの姉妹はいつの間にか姿を消し、代わりにナツメグとシナモンの姉弟が登場する。全巻通じての女性キャラとしては、意外にも笠原メイが浮上し、男性では、間宮中尉。そして汎用キャラとして牛河が登場し、この巻だけなぜ? と言う気になった。本当は2部までで完結の予定が、3部を付け加えた、と考えると、奇妙なキャラ構成に納得がいくのだ。 前巻を読んで、通俗的な人妻寝取られの官能小説みたい、と感想を書いた。この3部を読んでいて、まさか奥さんを取り戻してハッピーエンド? と疑ってしまった。さすがにそれはなかったが、キャラを使い捨てるだけでなく、不随する謎も未解決のまま終わるのは、純文学的だが、モヤモヤさせられる。エンタメ小説的に、伏線回収を望んでしまう、凡人の感想である。 | ||||
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主人公の内面的な世界を描写する場面が多いです。それらの場面が何を意味するのか…は,こちらが想像するしかないんですね。 「ストーリーを楽しむ」というよりも,「抽象的でもどかしい表現の意味するところを,想像力や感性で読み取る」ことが中心の小説です。 私にとっては,少々深すぎる?小説だったように思います笑 | ||||
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終わりかたも、混沌とした もやもや感が残る すっきりしないが、 それが魅力な作品なんでしょうね。 | ||||
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※ご注意 文庫は二種類あります。表紙は「ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編」の間に鳥マークのあるものと、鳥マークのないものです。前者は600頁で字が大きく、後者は509頁で字が小さいです。後者が古い版です。 72ページの「普通のかたちをした黒い電話機」は回転ダイヤル式で日本の家庭のどこにでもあったが、1980日本電信電話公社が日本電信電話株式会社 (NTT) へと民営化され、第二電電株式会社(現KDDI)をはじめとする参入の結果、電話機は多形態・多機能化し、電話局で引いてもらうのではなく、家電店などで買うものへと変化した。 第1部の冒頭に「一九八四年六月から七月」、第2部の冒頭に「一九八四年七月から十月」とあるが、第3部の冒頭にはない。が十二月までの話のようだが。 「やがてクミコの父親が電話をかけてきた。『何も絶対に離婚しないと言っているわけじゃないんですよ』と僕は答えた。『でもその前にクミコと二人だけで会って話をしたい。それで納得がいけば、離婚してもかまいません。それができないのなら、離婚はありません』」28 「しかし、家を出たクミコがそのまま実家に、あるいは実家の用意したどこかの場所に身を寄せるというのは、そして彼らを通して僕と連絡を取るというのは、納得できなかった。」30 「二月の半ばのひどく寒い午後に、僕は叔父が教えてくれた駅前にある「世田谷第一不動産」に寄ってみた。」36 「『僕がうかがいたかったのは、うちの裏手にある宮脇さんのお宅のことなんですが、あれは今のところ更地になっていますね』」38 「『実を言いますと、あの土地を買いたいと思っているんです』」42 「街に出るようになった八日目の午後に、一人の女性に声をかけられた。〜。去年の夏にやはり同じ場所で出会った中年の女だった。」52 「彼女は少し目を細めた。『結局またここに戻ってきたわけね』」53 「『どうやらお金が必要になったようです』と僕は言った。」54 「『明日の午後四時きっかりここにいらっしゃい』」55 「地下鉄の赤坂駅から飲食店の並ぶ賑やかな通りを歩いて抜け、緩い坂を少しのぼったところに、その六階建てのオフィスビルはあった。」67 「僕は602号室のブザーを押した。」68 「ドアを開けたのは若い男(シナモン)だった。」69 「ソファーに座っているようにと、青年が〜無言のまま示した。僕が指示にしたがってそこに腰を下ろすと〜、彼は〜ゴーグルのようなものを取り出した。」75 「青年はソファーの後ろにまわって僕にそのゴーグルをかけた。〜。完全な、そして人工的な暗闇が僕を包んだ。」76 「やがて一人の女が入口のドアを開け、足音を忍ばせるように部屋に入ってきた。それが女だとわかったのは、微かに香水の匂いがしたからだった。」78 「やがて彼女は撫でるのをやめ、〜。〜。その舌は巧妙に僕の肌に絡みついた。」80 「彼女は部屋に入ってきたときと同じように、静かに部屋から出ていく。〜。少しあとでドアが開いて、誰かが部屋の中に入ってくる。〜。ゴーグルを外してくれる。」81 「僕は知らないあいだに写生していたのだ。」82 「〜用意された清潔な新しい白いショーツをはく。〜。青年は外で僕を待っていた。〜。青年は〜。〜真っ白な封筒を取り出し、〜、それを僕のスタジアム・ジャンパーの内側のポケットに滑り込ませた。」83 「僕は少し迷ってから封を開けた。〜。中には一万円冊がきれいな束になって入っていた。〜。札は全部で二十枚あった。」85 「家に帰ったとき、猫が僕を出迎えた。〜。それは一年近く行方不明になっていた〜。」89 「スーパーで買ってきた生の鰆の切り身を皿に入れて、猫に与えた。」99 「よほどおいしかったのだろう。〜。この猫にサワラという名前をつけようと僕は思った。」102 「僕は電車に乗って新宿駅で降りた。それから地下街を抜けて西口の広場まで歩き、いつもと同じベンチに座った。その女は三時過ぎに姿を現した。」103 「『いらっしゃい』と彼女は言った。〜。僕は〜、言われたとおりあとをついていった。」104 「彼女は僕を表参道に面したデザイナーズ・ブランドのブティックに連れて行った。そして僕のためにスーツを二着選んだ。」105 「彼女は僕を近くのイタリア料理店に連れていった。」109 「『でも、どうしてあなたは僕のためにわざわざ服を一揃い買ってくれたり、散髪やクリーリングの費用を出してくれるんですか?』彼女は返事をしなかった。」110 「『あなたの名前が知りたいですね』と僕は言った。」115 「『ナツメグ?』『〜。それを私の名前にすればいいわ。〜』『〜じゃあ息子さんはなんて言うんですか?』『シナモン』」116 「僕らはいつもレストランで、同じテーブルをはさんで話をした。勘定はいつも彼女(ナツメグ)が払った。」144 「『〜、三つのとき両親に連れられて満州に渡ったの。お父さんは獣医学校の先生をしていたのだけれど、、新京に新設されることになった動物主任獣医として〜要請があったときに、〜名乗り出たの。〜。でも戦争の具合が悪くなって、まわりの情勢が不穏になってくると、お父さんは私とお母さんを日本に送り返すことにしたの。」145 「〜。そしてお父さんは一人であとに残った。新京の駅で手を振ってわかれたのが、お父さんを見た最後だったわ。〜』」146 「(一方)僕は長い時間をかけて、クミコのことを少しずつナツメグに説明した。なんとかクミコを救い出して、ここに連れ戻さなくてはならないのだと。」148 「ナツメグは微笑んだ。『ねえ、それってなんだかモーツアルトの『魔笛』みたいな話じゃない。〜『国じゅうに知らぬものなき鳥刺し男、パパゲーノとは俺のことだ』見たことある?』」149 「こんにちは、ねじまき鳥さん。〜。私(笠原メイ)は今のところ、「ある工場」で働いています。大きな工場です。日本海に面したある地方都市の、そのまた外れにある山の中にあります。」165 「ここで働いているのはほとんど女の子です。」166 「ここにいる女の子たちは地元の人、つまりこの地方の農家の娘たちです。」167 「高校を出て(中には私と同じように中退した人たちもいますが)、この工場に就職して、〜。〜結婚したら仕事をやめてしまいます。〜。〜、私はかつらをつくる工場で働いているのです。」169 「『〜。申し遅れましたが、わたしは実はクミコさんのお兄さんに使われているものです。牛河って言います。〜』194 「〜、さる週刊誌に掲載された『首吊り屋敷』(宮脇宅あと)の記事のことなんです。〜。世田谷の高級住宅地の一画にある因縁つきの土地。そこでは多くの人々が長年にわたって非業の死を遂げている。」200 「『〜、岡田さんがその『首吊り屋敷』なるものとのかかわりをすっぱりと切ってくれたなら、クミコさんとの復縁のこともひとつ真剣に考えてみようじゃないかと、早い話こういうことですね。いかがです、〜』」201 「朝の九時に玄関の門が低いモーター音を立てて内側に開き、シナモンの運転するメルセデス・ベンツ500SELが敷地の中に入ってくる。〜。僕は窓のブラインドのすきまからその光景を眺めている。」213 「<今日は午後の二時に一人お客があります。〜僕(シナモン)はここで一時間くらいかけて仕事を済ませて、それから帰ります。そして二時にお客を連れてまたやってきます。〜>」219 「『私(ナツメグ)は小さな(息子の)シナモンに潜水艦と動物園の話をしたの。〜アメリカの潜水艦が大砲をまわして私たちの乗った船を沈めようとしているあいだに、日本の兵隊さんたちがお父さんの動物園の動物たちを射殺して回ったことを。」224 「〜。言葉が少しわかるようになると、シナモンはその話を何度も私(ナツメグ)に繰り返させたわ。〜。そのようにして物語はどんどん大きく膨らんでいった。〜』」225 「輸送船は命令されたとおりにエンジンを停止し、ほどなく海上を静かに停止した。」168 「輸送船は潜水艦に向かって、当船は非武装の民間人を運搬する輸送船であり、軍需物資あるいは兵員はまったく積んでいない。〜、というメッセージを送った。」159 「〜輸送船に向けていた砲身をもとの前方位置に戻し、その不気味な黒い穴には蓋がはめられた。砲弾はハッチの中に戻され、乗員たちは駆け足で艦内に引き揚げた。」160 「現れたときと同じくらい理不尽に唐突に潜水艦が消えてしまったあとも、乗客たちは同じ姿勢で甲板に立ちすくみ、海面をじっと眺めていた。」161 「数日後には、遅くとも一週間後には、ソビエト極東軍の主力部隊が新京に到達するはずだった。」133 「動物園に向かった兵士たちも、自分たちが数日後にここでソ連軍と戦って死ぬのは避け難い運命と考えていた。〜。でもその前にとにかく彼らは、動物園の動物たちを殺さなくてはならなかった。」135 「中尉は命令書を彼らに見せ、園内に入った。〜。彼はもともとが、〜実践部隊を率いた経験はなかった。」136 「〜現在動物園が所持している毒薬はきわめて少量であり、馬一頭殺せるかどうかも怪しい〜。獣医は三十代後半の背の高い男で、顔立ちは整っていたが、右の頬に青黒いあざがついていた。」137 「彼らは道順の都合で、まず最初に虎を「抹殺」することになった。」139 「彼らは豹を殺し、狼たちを殺し、熊を殺した。」151 「結局象は殺さないことになった。」152 「射殺作業を終えた兵隊たちは司令部にひきあげ、最後まで残っていた二人の雑益夫が動物の死体を積んだ荷車と共にどこかへ消えてしまうと、動物園は家具を運び出したあとの家屋のようにがらんとした。」154 「夜の九時半に電話のベルが鳴った。〜『今晩は、岡田さん。わたし牛河です。〜』」239 「牛河は言った、『〜、岡田さん、あなたはあの土地を家付きである会社から借りていますね。『首吊り屋敷』の土地を。そのためにあなたは毎月かなりの額の支払いをしている。』」241 「『近いうちにまた連絡します。岡田さん。クミコさんとお話できるように手配を整えておきましょう。そいつは約束します。楽しみに待っていてくださいね』」251 「それは夜の九時で、僕は台所のテーブルに座って受話器を耳にあてていた。」269 「『〜。(クミコさんは)岡田さんと直接話すつもりはないって言うんですね。顔をあわせるのは論外だし、電話で話すこともできないって。電話もいやなんだそうです。〜』牛河はしばらく僕の反応を待っていた〜。」271 「『〜。クミコさんもコンピュータの画面を使ってなら岡田さんと話をしてもいいと、そうおっしゃているんですよ。〜』」272 「赤坂ナツメグは何ヵ月もかけて、その生い立ちを僕に語ってくれた。〜。赤坂ナツメグと母親は身につけられる宝石だけを財産として、満州から日本に引き揚げてきた。そして横浜にある母親の実家に身を寄せた。」284 「ナツメグは高校をやめ、洋裁学校に移ることにした。」287 「洋裁学校を出ると、〜。〜、服飾デザインの専門学校に通った。そこを卒業すると、ある高級婦人服の会社に就職し、希望通りデザインの部署に回された。」288 「〜二十七歳になったときに、ネツメグは業界の新年パーティで〜男性に紹介された。」289 「翌年ふたりは結婚した。〜、その翌年(東京オリンピックの年)の春に生まれた子供がシナモンだった。」290 「ナツメグと彼は結婚すると同時に勤めていた会社を辞め、独立したデザイン事務所を持った。」291 「〜、彼らが無一文から作り上げた会社は、一九七〇年には奇跡的といってもいいような成功を収めていた。」292 「夫が殺されたのは一九七五年の年末だった。そのときナツメグは四十で、息子のシナモンは十一になっていた。」295 「夫が殺された翌年の春、ナツメグは会社を〜大手の服飾メーカーに売却した。」298 「〜会社を売却した金を株式と不動産投資にまわしたが、好景気のせいで資産は年とともに膨らんでいった。」299 「〜仮縫いを待ちながらナツメグと世間話をしているときに、〜(客の)夫人は何の前触れもなく両手で頭を抱え、よろよろと床にしゃがみこんだ。ナツメグは驚いて彼女の身体を抱かかえ、右側のこめかみをさすった。」300 「〜、やがて夫人はゆっくりと起き上がり、ナツメグに侘びを言った。〜。何日かあとに、ナツメグは仕事の謝礼として、予想もしない金額を受け取って驚かされることになった。」301 「『その方はあなたが私にやったのと同じことをしてもらいたがっています。断ったりしないで。そして黙って謝礼をお受け取りなさい。〜』〜。『そして私(ナツメグ)はいつのまにかそれを仕事にするようになっていた』とナツメグは言った。」303 「指定された時間に僕はシナモンのコンピューターの前に座り、パスワードを使って通信プログラムにアクセスする。そして牛河に教えられた番号を画面にインプットする。回線が繋がるまでに五分ばかりかかる。〜。やがて回線が繋がり、相互受信が可能であるというメッセージが、軽いコール音とともに画面に浮かぶ。」311 「この画面の向こう側に、東京の地下の暗闇を這う長いケーブルの延長線のどこかに、おそらくクミコがいるのだ。」312「>〜たとえ私(クミコ)があなたに会いたいと思ったところで、会うことはできないのです。私があなたに会いたくないと思っていると、会いたいと思っていないと、あなたは思いますか?」320 「僕は牛河の事務所に電話をかけた。」338 「『〜綿谷ノボルとコンピューターを使って話ができないかな』と僕は言った。」339 「翌日シナモンが朝の九時に「屋敷」にやってきたとき、彼は一人きりではなかった。助手席には母親の赤坂ナツメグが乗っていた。」343 「〜、ナツメグは僕を「仮縫い室」に連れていった。そこには赤坂のオフィスの「仮縫い室」とまったく同じ体裁に作られていた。部屋の大きさもかたちもだいたい同じだ。窓にはやはり二重のカーテンが引かれ、昼でも薄暗い。」344 「〜、ナツメグは短いため息をついた。『今日の朝発売された週刊誌に、またこの屋敷のことが書いてあったわ。『謎の首吊り屋敷』シリーズ。〜』」347 「『〜。ところであなた(岡田亨)には義理のお兄さんがいて、その人は有名な若手政治家だとか誰かが私(ナツメグ)の耳に囁いてくれたんだけれど、それはほんとうかしら?』〜僕は言った。『僕の女房(クミコ)の兄(綿谷ノボル)です』」349 「『〜、ここに来るお客の中には政界と財界の関係者が何人かいるの。〜。その人たちのプライバシーは何かあっても守らなくてはならないし、〜』」350 「それからナツメグはやっと結論を持ち出した。『しばらくのあいだお客はここには来ないことになったわ。〜』」363 「夜の九時五十分に僕はシナモンのコンピューターの前に座り、スイッチを入れる。〜。そしてコンピュータの画面をはさんで僕は綿谷ノボルと向かい合うことになる。」355 「>〜。しかしいずれにせよ、もし君があそこにこのまま出入りを続けるというなら、クミコは永遠に君のもとには戻らないと思ってもらっていい。」357 「>〜。クミコが突然家を出て行った裏には、必ず何か僕の知らない大きな秘密がひそんでいるはずだし、その隠された本当の原因を解き明かさない限りクミコは本当には僕のところに戻ってこないだろうと。そして秘密の鍵はあなたがしっかり握っていると思うんです。〜」361 「>〜。君はそこで複数の信者だかクライアントだかに会って、彼らに何かを与え、その見返りに金を受け取っているらしい。〜」362 「暗闇の中で、〜白い光が浮かんでいるのが見えた。〜。コンピューターのスクリーンが放っている光だ。〜。画面に浮かんだメッセージを読んだ。あなたは今、プログラム「ねじまき鳥クロニクル」にアクセスしています。369 「今は一九四五年の八月で、ここは新京の街で、国境を突破したソビエト軍の戦車部隊が刻一刻と迫っている。」372 「昼前に昨日と同じ中尉が、同じ八人の兵隊たちを連れて動物園に戻ってきた。」379 「彼らは有無を言わせず、騾馬と荷車を引いて引き上げていった。」380 「兵隊たちは〜戻ってきた。〜。八人の兵隊は銃剣をつきつけるようにして、四人の中国人を連行していた。中国人たちはみんな〜、そろいの野球のユニフォームを着て、縄で後ろ手に縛られていた。〜。中尉は園長に向かって、シャベルとつるはしを貸してもらえまいかと訊いた。」381 「兵隊たちは〜空き地に中国人たちを連れていって、手を縛っていた縄をほどいた。伍長が〜、この大きさに穴を掘れと〜命じた。〜四人の中国人はつるはしとシャベルを手に、黙って穴を掘った。〜。一時間足らずで直径四メートルほどの穴が掘り上がった。深さは中国人たちの首のところまであった。」385 「それから中尉は二人の兵隊に荷車を引いてこさせた。〜、そこには四体の死体が積み上げられていた。その四人もやはり同じ野球のユニフォームを着ており、〜。中尉は〜、死体を穴に放り込むように命令した。」386 「それから彼(中尉)は伍長に向かって手短に、四人のうち三人を銃剣で刺殺するように命じた。」387 「中国人たちがすっかり死んでしまうまで予想以上に時間がかかった。」389 「どうしてこの男(背番号4)一人だけが殺されずに残されたのだろうと獣医は不思議に思った。〜。『この連中は満州国軍の士官学校の生徒でした。〜、昨日の夜中に日系の指導教官二人を殺して脱走したものです。我々は夜間巡回中に彼らを発見してその場で四人を射殺し、四人を捕縛しました。〜』」390 「『チームの主将の四番バッターで、この脱走計画のリーダー格だったようです。彼がバットで二人の教官を殴り殺しました。〜』」391 「『私はこの男を同じバットで殴り殺せという命令を上から受けています』、中尉は〜言った。」392 「中尉はそれから一人の若い兵隊を呼んで、バットを手渡した。」393 「兵隊は〜、そのバットを力まかせに〜殴りつけた。〜。頭蓋骨が砕けるぐしゃりという鈍い音が聞こえた。〜。中尉は、〜。〜獣医に言った。『御苦労ですが、あの男が死んでいるかどうか確認してくれませんか?』」395 「獣医は念のために手首をつかみ、親指を動脈にあてて鼓動を探ってみた。〜。ちょうどそのとき、中国人の四番バッターは目を覚ましたようにさっと身を起こし、〜獣医の手首を掴んだ。」396 「〜、獣医を道連れにするような恰好でそのまま穴の中に倒れ込んだ。」397「あの若い主計中尉はソビエト軍に武装解除されたあとで中国側に引き渡され、この処刑の責任を問われ絞首刑にされる。〜。顔にあざのある獣医は一年後に事故で死ぬことになる。」399 「ねじまき鳥クロニクル#8」はそこで終了していた。」401 「〜ぼくの選んだ#8が、母親のナツメグが以前僕に話してくれた、新京動物園の動物たちが兵隊たちに射殺される一九四五年八月の物語の続きであることはたしかだった。〜。話の主人公はやはりナツメグの父親であり、シナモンの祖父である名前のない獣医だった。」403 「翌朝九時半になっても十時になってもシナモンは姿を見せなかった。」419 「一時半に、僕はナツメグの赤坂の事務所に電話をかけてみたが、誰も出なかった。」420 「牛河の姿を見たのは品川駅のプラットフォームで電車を待っているときのことだった。」424 「僕らは田町で電車を下りて、駅を出た最初に目についた小さな喫茶店に入った。」428 「『でもわたし(牛河)の想像するところではね、あの綿谷っていう家にはもともとちょいとややこしい問題があります。どういう問題だか具体的にはわかりかねます。〜』」436 「『〜。それからクミコさんはひょっとして、かつて岡田さんが知っていたクミコさんとは違っているかもしれない。〜』」439 「家に戻ると、郵便受けに珍しく分厚い手紙が入っていた。〜。そんな立派な毛筆の字を書いて寄越す人間は間宮中尉以外はいない。」449 「モンゴル行きの長い話には、実を申し上げますとまだその後の続きが存在しているのです。」450 「私(間宮中尉)は通訳として、捕虜となって炭鉱の労働に従事している日本兵とソ連側の連絡係を務めました。」454 「工事の監督にあたっていた下士官が私を呼びとめ、通行許可証を見せろといいました。私はポケットから許可証を出して彼に渡しました。〜。彼は労働にあたっていた囚人の一人を呼び、許可証の文面を読み上げさせました。」458 「それは誰であろうハルハ河の対岸でモンゴル人に山本の皮を剥がさせたあのロシアの将校だったのです。〜。〜彼も私の顔をどうやら思い出したようでした。」459 「たぶんあの男は何かの事情で失脚し、囚人としてシベリアに送られることになったのだろうと私は想像しました。」460 「ソビエト軍の司令部にひとりだけ、私が親しく口をきくことのできる将校がいました。」461 「私は彼にあるとき、駅で労働に従事している一群の囚人〜のことをさりげなく尋ねてみました。」462 「皮剥ぎポリスの本名はボリス・グローモフで、〜秘密警察、NKGBの少佐でした。」463 「〜ニコライは声をひそめて言いました。『ここではボリスがいつか中央に復帰すると広く信じられている。〜」465 「だからここでは彼は腫れ物にさわるようなお客様扱いだ』 ある日〜軍曹が〜。〜。〜私に向かってすぐに駅長室に行くようにといいました。〜駅長室に行ってみると〜ボリス・グローモフが私を待っていました。」466 「〜君にその口ききをしてもらえまいかと頼んでいる〜。〜グルジア人の糞野郎の政治局員を、椅子から叩きだしてやることもできる。〜。君たちが部分的な自治を手にできるようにもっていくことも可能だ。」469 「私は収容所に戻って、その話を一人の男にこっそりと話してみました。」470 「(その日本兵の)中佐は今の政治局員を追放し、日本兵捕虜の自治を勝ち取るという可能性に興味を抱いたようでした。〜。私は数日後何とか中佐とボリスとが二人きりで人目を避けて会えるように場所を設定し、〜。」471 「およそ一ヵ月後に、ボリシが私に約束したとおりグルジア人の政治局員は中央の指示によってその地位を追われ、二日後にモスクワからべつの局員が送られてきました。」472 「我々は部分的な自治が与えられ、日本兵捕虜たちの代表によって構成される委員会が設置されました。中佐がそのリーダーになりました。」488 「もっとも〜。ボリスは日本人委員会のメンバーを一人ずつ、水面下で少しずつ彼の配下に収めていったのです。」491 「〜委員会の中心的な存在であった中佐が〜。〜ボリスと正面から対立し、その結果抹殺され〜。」492 「ある日突然、私はボリスが事務所として使っている建物に呼びつけられました。」494 「『〜、私は君をできれば部下として、手もとにおいておきたいと考えているんだ。〜』」495 「私はとにかく熱心に忠実にボリスの秘書の役を務めました。」498 「一九四八年の初めのことですが、日本兵捕虜がようやく帰国できることになったという噂が収容所の中に流れました。」502 「〜収容所をあとにし、列車でナホトカに運ばれ,〜、〜ようやく日本に戻ってきました。」509 「〜この話を岡田様にようやく引き渡せたことによって、私は少しは安らかな気持ちをもって消えていくことができるような気がします。」510 「僕は庭を出て井戸の蓋を取り、身をかがめて中をのぞき込んだ。」474 「〜、僕は井戸の底に下りた。」475 「〜、紐を引いて井戸の蓋を閉じた。そして膝の上で両手を組み、深い深遠の中で静かに目を閉じた。」476 「〜何かの気配でふと意識を取り戻したとき、僕は自分がべつの暗闇の中にいることを知った。〜。僕はあの奇妙なホテルの中にいた。」478 「僕は遠くに聞き覚えのある音を聞いた。口笛吹きのボーイだ。〜僕はすぐにボーイのあとを追った。」485 「彼のあとをつけるのはとくに難しい作業ではなかった。〜。〜、廊下を抜けて広いロビーに入っていった。テレビはNHKのニュース番組を放送していた。」513「『衆議院議員の綿谷ノボル氏が暴漢に襲われて重傷を負いました。〜」516 「〜、男は〜、バットを手にしたまま現場を立ち去ったということです。〜、犯人は〜、〜、顔の右側にあざのようなものがあり、〜と推察されます。〜』」517 「一人また一人と、人々は僕の方を向いた。〜。僕は〜意識しないわけには行かなかった。〜。僕の顔の右側にはあざがついている。〜。ここは早く引き上げたほうがいい。」519 「僕が廊下に足を踏み入れて、人々が僕の背後に迫ったときに、まさにその瞬間に明かりは消えたのだ。たぶんそこにいた誰かが、僕を危険から救おうとしたのだ。」521 「『岡田さん』とすぐそばで誰かが僕の名前を呼んだ。」522 「『〜あとをついていらっしゃい』」523 「やがて男は〜。〜、ペンシルライトでドアについた部屋番号を照らした。そこには208という数字が浮かび上がった。『鍵は開いています』と男は僕に言った。」526 「僕は念のためライトを消し、足音を殺してこっそりと部屋の中に足を踏み入れ、暗闇の中で室内の様子をうかがってみた。」537 「『私を照らさないでね』、奥の部屋から女の声が聞こえた。」528 「〜僕は言った。『実を言うと、僕は君のことをクミコだと思っている。最初は気がつかなかったけれど、〜』」533 「『あなたにひとつプレゼントがあるのよ』と彼女は言った。〜。それは野球のバットだった。」545 「そのとき、ドアにノックの音が聞こえた。〜。『逃げて』、はっきりとしたクミコの声が僕に言った。〜。僕の考えていることが本当に正しいかどうかわからない。〜。『今度はどこにも逃げないよ』と僕はクミコに言った。『僕は君を連れて帰る』〜。そしてゆっくりとドアに向かった。」547 「誰かが部屋の中に入ってきた。」549 「どこからかナイフがやってきた。〜。僕は〜バットを宙に振るった。〜。そのバットをもう一度相手の身体に叩きつけた。〜。息遣いの聞こえたあたりに。〜。三度目のスイングは頭に命中し、相手をはじき飛ばした。」553 「気がついたとき、〜。〜。僕は井戸の底に戻ってきたのだ。」556 「僕のまわりには水があった。それはもう涸れた井戸ではなかった。〜。〜水は僕の腰あたりまでの深さしかない。」557 「ゆっくりと、でも確実に水かさは上がっている。」559 「水面は既に喉もとまで達していた。」562 「水が僕の口を越えていった。それから僕の鼻に達した。」563 「『シナモンがあなたをここまで運んできたのよ』とナツメグが言った。〜。〜僕は自分が見慣れない紺色の新しいパジャマを着て「屋敷」の仮縫い室のソファーに横になっていることを知った。」575 「『この屋敷はもうすぐ処分されることになってるの』とナツメグは僕に言った。」579 「『綿谷ノボルさんは長崎で大勢の人前に講演して、そのあとで関係者と食事をしているときに〜倒れて、そのまま近くの病院に運ばれたの。一種の脳溢血だって。〜』」580 「〜、三日ぶりに鏡の前に立ってみた。〜。〜鏡の中の自分の顔をじっと見てみた。あざが消えているのだ。」584 『五日目の夜に〜。〜。〜シナモンの小部屋に行ってみた。〜。〜、コンピューターの画面に浮かんだメッセージを読んだ。あなたは今、プログラム「ねじまき鳥クロニクル」にアクセスしています。」585 「私はあなたにこれからいろんなことをお話ししなくてはなりません。〜。私はこれから彼(綿谷ノボル)の眠っている病室に行って、生命維持装置のプラグを抜いてくるつもりです。」586 「兄の綿谷ノボルはそれと同じことを、ずっと昔私の姉に対しておこない、そして姉は自殺しました。彼は私たちを汚したのです。」588 「私(クミコ)はあなたにあてた手紙の中である男の人と寝たと書きました。〜。私が寝た相手は一人だけではありません。私はたくさんのべつの男と寝ました。」589 「私は〜。〜兄の事務所の機械からこのメッセージをメイルで送っています。」591 「笠原メイは静かな顔で僕の顔をじっと眺めた。〜。『クミコさんは結局保釈されなかったのね?』」595 「『裁判はいつ始まるの?』〜『ねじまき鳥さんはクミコさんが戻ってくるのをまたずうっと待つのね?あそこの家で』僕はうなずいた。」596 | ||||
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長く、冷たく、詳細なマスターベーションの物語、或いは様々な暴力と死についての考察。 読後の感想をタイトルにすると、そんな感じがした。ロッシーニの『泥棒かささぎ』序曲やモーツァルトの歌劇『魔笛』について言及があるという、ただそれだけのきっかけで読み始めたら、なんだか大変な内容で驚いた。村上氏の長編小説を初めて読み、大いに戸惑い、感心もした。今さらながら少数意見の苦言を参考までに述べたい。 個人的に気に障った点は3つ。 1つは、長過ぎること。これだけの内容に3冊もの分量が必要だったのか?現代は19世紀のロシアとは違う。長編小説は長ければ良いというわけにはいかない。 2つ目は、文章に傍点が無闇矢鱈と付いていること。そんなに強調しなくても、読めばわかるし、重要な文章かどうかは読者が判断すればよい。頼んでもいないのに、バニラアイスクリームの上に白砂糖がどっさりふりかけられているようだ。歓迎する読者もいるだろうが、余計なことはするな、不味くなる、という読者だっているのである。 3つ目は、音楽の使い方。こういう不可解な小説に、ロッシーニやモーツァルトの音楽が登場することは面白い趣向だが、せっかく出しておきながら、使い方が唐突で、無理がある。小説の奥行きを増したり、見通しをよくするためにも、共に面白いオペラなのだが。 最近の流行で言えば、3D(3つのダメ出し)だが、以上の3点をクリアすると、もっと小説が立体的になるのではないか、と思った。 とはいえ、『小説家は多くを観察する』という著者の持論がよく実践されており、しつこいくらい具体的に説明・描写がなされている。凡人には到底書けない高度な文章だ。ただ、もう一つの著者の持論である『最終的な判断を下すのは読者』という点については、相当多くの判断が読者に託されており、読者にも訓練が要るようだ。本書は、疲れている人にはお奨めできないが、閑暇を愛する読書人には面白いのかもしれない。 | ||||
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「海辺のカフカ」や「ノルウェイの森」は,一気に読んでしまう作品。 だけど,これは何度も立ち止まりながら,時間をあけて再開してようやく読み終えた作品。 シナモンやクレタなど魅力的な登場人物はでてくるけど,やっぱり「皮剥ぎ」が 強烈すぎる。3部読み終えても,そこしか残らないぐらいインパクトが強い。 村上春樹がこんなに強烈に残酷な描写も書くのか驚いてしまった。 そこが彼の奥深さであり,魅力なんだと思うけれども。 | ||||
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日常の中に潜む些細な出来事が実は深い意味を持っている。その意味に気づくことは幸せなのだろうか?運命付けられているかのように受け入れるしかないいくつかの出来事。 透明な悪意に満ちた世界にパステル調の色彩のヴェールで紗をかける。そして人の心の奥底にそっとメスを入れる。独自の世界観を大上段に構えるわけではなく、静かに語りかけるように説き続ける筆者。 今、村上春樹を語る時に使われている此れらの修辞は、良きに付け悪しきに付けこの作品にこそ相応しいと思う。 しかし、いかんせん構成、展開ともに凡庸で最後まで読み通した充実感が無い。部分的には印象的なエピソードが多いだけに、はっきり言って途中で読むのを止めても読後感は大差無いかもしれない。 蛇足になるが、主人公がひたすらカタカナフードを飲み食いしているだけといった印象が残る。 | ||||
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これまでの作品を超えるモノとしての3部があり、村上作品の特徴のひとつである(レイモンド・カーヴァーみたいに!)短編を元にした長編作品という枠から、さらに超えて結末を模索するように感じました。2部までは確かにこれまでの作品と同じ村上春樹さんの特徴(あちらの世界とこちらの世界という2つの世界が出てきたり、自身に非は無いものの巻き込まれる事や、様々に魅力的な脇を固めるキャラクターたちや、スーパーナチュラルな何かを持った鍵になる人物、主人公に好意的な複数の魅力的な女性の登場、使用される楽曲の選曲の素晴らしさ、時々出てくる固有名詞を交えるのが絶妙な事とか、物語を終えた後の余韻の深さ等)を備えていますが、その中でも少し(「妊娠」という今までの村上作品にはない現実的重さ=責任を伴うもの、現実の名前の付く戦争=圧倒的暴力に繋がること)変化がありますし、さらに3部に至ると今までにない要素がさらに加わります。現実の日本の政治の世界への繋がりと、名前の付く戦争(圧倒的暴力)への暴力を介した繋がり、そして物語の終着点の新しさです。それ以前のままでなら、間違いなく2部で終わっていたと思います。しかし3部を作ることで物語の結末が新しいのです。自身の手を汚し、象徴としてでも、あちらの世界であろうとなんだろうと、主人公が暴力的解決策を実行する事は今までにないことです。今までの作品であるなら、一見平和に見えるこの世界は非常に暴力的な、理不尽な世界である事を示唆して、なお自分から暴力的解決策を取らない、降りかかるものに対しては必要最小限度の介入をする、あるいは第3者が助け出す、または既に手遅れ(だからこその諦念が《ニヒリズムとは似て非なるものなのに!》あるいは深い喪失感にリアリティを持たせる事に成功していた!と個人的には考えます)、というパターンだったのに。 ただより様々なキャラクター、事件、世界、時間、など村上さんの得意とする(あるいはいつもよりもさらに広い)世界と時間を扱った為と思われるますが、その大きさ故のリアリティが、説得力がなくなってしまっていると私個人は思います。例えとして良いか悪いかワカラナイけれど、「羊をめぐる冒険」に羊男が出てくる、彼は実際の人物に見えて実は存在しない、鏡には映らない「ナニカ」である、文章で書かれている。あちらの世界の人物(「ダンス〜」では実際羊男に会うには暗闇を通してドルフィン・ホテルからあちらの世界であるいるかホテルに行かなければ会えない)で私個人は納得できる説得させられる。しかし、「ねじまき鳥クロニクル」に出てくる【仮縫い】という行為に、井戸の底に下りる事で壁をすり抜ける行為に、顔に出来るあざに、文章で描かれていても説得力やリアリティを感じないのです。これだけ詰め込めば仕方のない事かもしれませんけれど。ですが、ここまで村上春樹作品としての世界を広げるならば(狭い、個人的世界で勝負していたからこその成り立ちみたいなものがかなり消えてしまっていると私は思います)それ相応の細かなものひとつひとつに対する入れ込む何かが足りなかったのでは?と思ってしまいます。 また、暴力的解決策を取らざる得ない程の自身と対比する「悪」を登場させるという構図を取ることにより、結局の所(もちろん自身を「正義」と表記する事は無いのですが)結果として自分を正義に置く行為になってしまっています。その遠因に「ダンス〜」の時と同じ様に「遺伝子」を使い、また、戦争の影を落として綿谷ノボルに「悪」を背負わせ、また「クミコ」にもその影響を与えることが、私にはちょっとアンフェアで納得できなかったのだと感じました。いままでの作品で出せていた、またはしつこく繰り返されていた、巻き込まれることで被害者的立場のモノが発する、受け入れるチカラ、強さ、が自身を信じ、暴力的解決を取ることで私には、説得力を、納得を得られませんでした。普通に生活する事で手を汚さない人間はいませんが、だからこそ誰もが進んで手を汚す必要は無いし、汚れに慣れてしまうことの恐怖、いつ自分が汚れそのものとして扱われても不思議ではないこの世界にいることへの配慮を思い出させる事の出来る小説として成り立っていた部分が抜け落ちてしまっているように感じられるのです。ま、それだけではどうしようもないのですけれど。「やれやれ」とつぶやくことでは何も解決しない!とアンチ村上春樹さんたちが言う気持ちも少しは分かりますが。 | ||||
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村上春樹の最高傑作「ねじまき鳥クロニクル」の完結編。彼の本は大体単行本で読んでいたんですが、初めて文庫で読んでみました。う〜ん。これは・・。あった方が良かったのか?なかった方が良かったのか?第一部第二部は良かったんだけど、これは苦しいか。という印象が拒めません。 登場人物から行くとシナモンという若いイケメンの動きのしなやかな男が白眉。ナツメグという彼の御母堂様はなんだか団塊世代の理想の女性。働き者で、自分があり、そして成功の暁には、滅茶苦茶スノッブになる女。そして、妙〜な小男、牛河(牛の皮を被った男?)の出現。この男こそ、これ以後の村上春樹を方向付ける特徴的な性格となっていると思います。この男の猥雑さが2000年以後の彼の作品を良くも悪くも多彩で騒々しいある意味ドストエフスキー的な小説に変えて行くようにみえます。 小説の纏まりからすると第三部は不思議な熱を放つこぶ?のようですが、小説家のスケールの展開という意味では、計り知れなく大きい意味を持つ里標なのかも知れません。 | ||||
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