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海辺のカフカ
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海辺のカフカの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.76pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全345件 201~220 11/18ページ
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誰しも、心の中にある陰と陽。そしてそのメタファー。人生経験を重ねてからまた読んでみると、違う一面でもって迎えてくれる。そんな作品。 | ||||
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面白いかどうかは関係ない、 ただ一人の読者のために書くと 村上春樹が決心したであろう小説に違いない。 その一人とは、 酒鬼薔薇 君である。 そして同じように 人を殺したいと思っている15歳の少年ために 書かれた小説である。 だから、人を殺したいと思っていない大人たちにとっては 面白くないかもしれない。 それでも構わない、彼の心を何とか救わなくてはいけない との思いが漲っている。 人を殺したいと思わずにはいられない少年こそが読むべきである。 村上春樹は、 現実を軽くして、読みやすくPOPに書いているように 思う読者もいるだろうが、 特に『アンダーグラウンド』以降、 現実に思いっきり関わっていこうとの志を持っている 稀有な作家に違いない。 | ||||
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この本は、下敷きになっている話(オイディプス、カフカ、その他の古典)を知らなくても楽しめるが、知っている方が小説の構造を重層的に楽しめる。さらに、愛すべきキャラクターが出てきて、読んでいて楽しい。そして、読後にも、いろいろと謎解きが楽しめる(なるほど、あのとき、入り口が開いちゃって、そのときナカタさんが、、、とか、だから、今回も彼が、とか、少年も、あっちへ行く必要がね、とか)。 疑問点は、現在の読者層の少年・青年は、そんなに性的なものにとらわれているんですか?ということ、コミュニケーションの不可能な存在、かつ、救済を与える存在としての女性のモチーフが他の村上作品にも出てきて、関係を結んだり、ことに及んだりするんですが、その必要ってあるの?やや淡泊な世代に属す者としては、他の読者の感想を聞いてみたいと思う。こんな風にこの作品について、いろいろ他者と語り合ってみたいと思うのが、この作品の奥深さの証明なのだ。 | ||||
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2000年以降、村上 春樹さんにとっては初めての長編小説作品。 15歳の少年が訳あって家出をし、見知らぬ土地へ向かっていくとの、 基調となる筋立ては、決して奇をてらったものではないし、むしろその 平易な文体と相まって、非常にオーソドックスな印象を受ける。 その物語自体を純粋に楽しむこともできるだろうし、それで物足りない 人は、作品の中に込められた沢山の寓話性と象徴的な出来事から、 答えのない謎かけに、自分なりの想像を巡らすこともできる作品。 全体のトーンが、静かでありながらも何か不穏な空気に満ちている こともあり、特定の感情を刺激されるかもしれない。僕自身も、一度 体調が思わしくない時には、途中で読むのを止めたことがある。 また、主人公のカフカ少年もさることながら、個人的には脇役として 登場する登場人物の中で、「大島さん」と「ナカタさん」が何を言わんと しているのか、上巻を読み終わった今でも考えている。 大島さんは、攻殻機動隊のアオイ君を連想させる引用マシーンで、 物語全体の枠組みを形作っていく「語り部」の役割を果たしている。 その手法は、松岡 正剛さんの著作なども彷彿とさせる。 ナカタさんについては、村上さんがずっと書き続けている「失われた」 「損なわれた」ある種のイノセントさの象徴かもしれないが、それも また作中のある段階で再度「失われた」ように感じられる。 作品の中でも、実際にギリシア神話の引用が多数見られるが、 例えば近親愛・近親憎悪といった原初的なものが多く描かれて おり、好き嫌いは別として一人ひとりに語りかけるものはあると思う。 ▼ 本 文 引 用 ナカタさん、ここはとてもとても暴力的な世界です。誰も暴力から 逃れることはできません。(171) 痛みというのは個別的なもので、そのあとには個別的な傷口が 残る。(384) | ||||
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村上春樹得意のパラレルワールドが展開していく。 世界一タフな15歳を目指す「僕」は、昔から「カラスと呼ばれる少年」のアドバイスを受けながら抑圧された日々を送っていた。 そして、15歳になった彼は父親からの自立を目指して、一路高松を目指す。 たどり着いたのは個人が設立したとある図書館。 名前を聞かれ、彼が名乗ったのは「田村カフカ」。 彼は受付の大島さん、館長の佐伯さんと不思議な距離感を保ちつつ、図書館で暮らし始める。 一方、戦時中の小学生時代に不可思議な現象を経て、一切の記憶をなくしてしまったナカタさん。 彼は猫の言語を話すことが出来るために、家出猫を探すことでわずかな報酬を得ながら暮らしていた。 ゴマという子猫を探している時だった。 公園で黒い犬に先導され、とある屋敷を訪れたナカタさんは「ジョニーウォーカー」さんから、とあることを頼まれる。 ふと我に返ったナカタさんは、西へ向かうことにした。 自分でも理由はわからないまま。 道中、トラック運転手の星野青年と行動を共にすることになり、彼らがたどり着いたのもなぜか高松だった。 田村カフカは、佐伯さんが昔出したレコード「海辺のカフカ」と、壁に飾ってある「少年の絵」をきっかけに佐伯さんの心の中に入り込んでいく。 ナカタさんと星野青年は、「カーネルサンダース」の力を借りながら、「入口の石」を探す。 田村カフカとナカタさん。 これまで何の接点もなかった二人が、なぜか徐々に近づいていく。 ファンタジーの香りがするがファンタジーではなく、推理小説風だが、推理小説ではない。 荒唐無稽な現象が続発するものの、この物語の中ではそんなことが当たり前に思えてしまう。 読者はそうやって村上春樹に感化されながら、不思議な好奇心を維持し続けながら、最後まで読み続けてしまう。 やはりこの作品にも、村上春樹のテーマである「生と死」が根底に流れている。 死があることによって生が強烈に浮かび上がる。 しかし、生と死が対極的に描かれているわけでもない。 この描き方が村上春樹独特な雰囲気を醸し出しているのだと思う。 そういえば、田村カフカが森の中で入り込む世界は、「世界の終わり」の街に非常によく似ている。 | ||||
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相変わらず内省的で感傷的で自己愛に満ちた主人公(=村上春樹本人??)が紡ぎ出す、自己発見の物語ですが、非常に面白いと思います。主人公の愛の行方、その結末は近親相姦的で非常に胸くそ悪い感じではあるのですが、あえてその禁断の部分に踏み込んでみせたぜよ!って主張を感じて逆に潔し、って感じですね。村上作品群の中でも中々面白いと思います。 | ||||
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15歳の少年の家出。そこから物語の扉が開く。実はかなり不思議な話だ。最初は、現実的な話のように思える。それがすこしづつ、そうとは思われないエピソードが絡んで境界があいまいになってゆく。 主人公の少年。カラスと呼ばれる少年。ナカタさん。関係を示唆する2つの世界。中野区、山梨県、高松。細部の描写にこだわった平易な文体。神社、銀色の物体、猫、図書館、血、シューベルト、高知の森、ロードスター。 多くの謎と暗示。予感。効果的な小道具の配置。よく練られた写実的な表現力。静と動。細やかな心理描写。ありそうなこと、そうでないこと。いろいろなシーンが交差する。しかし、けして混沌とはしていない。そして、物語は少しづつ深みを増しながら展開する。 さくらさん、大島さん、佐伯さん、星野さん、ジョニー・ウォーカー。西洋の古典や近代文学からの引用。父が遺した予言。生霊。そして、海辺のカフカ。 読んでいて抵抗感や違和感は生じる。それも計算のうちかもしれない。とりあえず、この世界に身をゆだねてページをめくってゆけば、それなりに楽しめて、そしていつの間にかハマっている。個性的な作品だ。 厚さはあるようだが、活字は大きく、行間も広め。これを読むのに見た目ほどの時間はかからない。 | ||||
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いちおう小説という形態ではあるが、読み手の創造力によって物語にもなれば単に某大な文字を見たに過ぎないともいえる厄介な作品である。前半はカフカとナカタさんの物語が交互に意図的に配置され、どこで接点が生まれるのか読者の興味を高まらせてゆくが、後半(下巻)は読者の創造と想像力によってどうにでも解釈してよい作品である。この作品を読んだ読者は現時点で「村上春樹」が意図している地点まで到達しようと思わなくてもよいのだと思う。カフカは読者其々の真相心理の闇の中に潜んでいるかもしれないし、そんなものは潜んでいない人もいるかもしれないからだ。それにしてもこの小説には行間を読み説く箇所が全くない。まるで映画を見ているかのように上巻から下巻まで読み進んでしまう。それだけ描写が詳細なのか内容が不可解なのか?「本を胸にあてて登場人物の心理を考え込む箇所がないんですけど春樹さん!」と思わず言いたくなってしまう。 しかしこの小説には意図的にか単なる諧謔か魅力的に作られた面白いキャラクターが多い。中日ドラゴンズフアンの「星野」青年。猫とは話せるが人間(おそらくスポーツ・ライター等の類であろう)とは話さない(話せないか)中田さん。大阪では行方不明になったままなのになぜか四国に現れたカーネル・サンダース等々。 とりあえずこの小説は一度肩の力を抜いてさっと読み終えて、いつか読者の心に響くものができた時にゆっくりと腰を据えて読めば良いの類の物ではないかと思う。 | ||||
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村上ワールドがわからないとむずかしいかもしれないですね 田村少年の内面の世界とそれを取り巻く父や佐伯さん大島さん 一方のキーマンであるナカタさんとホシノさん 深く考えずに読み飛ばす感覚のほうが、15歳の主人公の理解に つながるとおもいます。 | ||||
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要は、村上春樹さんの創る作品が好きかどうかなんですよね。クセがあるのは事実です。村上春樹さんはもともとそういう方ですし、一般的な小説と比べたら、なんだこれと思う様な表現もかなーりあります。一見逃げのようにも見える、はっきりとしたもののないストーリーや人物、なんとも言えない読後感。人物描写にしたって、普通の小説には考えられないような表現のオンパレードですよ。なんかもう、気持ち悪いぐらいの変態的な描写もあります。 と、まあ「村上ワールド」とも言われるように、良くも悪くも独特なので、とにかく一回読んでみた方がいいでしょう。レビューを見るぐらいなら、図書館に足を運ぶとか、買ってみるとか、すべきです。こういう超前進的な、いわゆるアーティスト思考の作品は、内容がどうのこうの言っても、及ばないんですよ。あまりにも突飛しすぎているから、結局は自分の目で判断するしか無いんです。それで自分の中でウケたら良し。ウケなかったら処分するなり何なりと、ってところです。 どちらにせよ現代小説を語る上では、やっぱり外せない存在ですし、読書が趣味というお方は、一度は触れてみては如何でしょう?そんなに高い買い物でもありませんしね。 | ||||
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SF 青春 家族 思春期 バイオレンス 全ての要素を盛り込んで物語が一気に流れていく。 素晴らしいのめり方をさせてくれる傑作です。 それぞれの人間に語らせる言葉のひとつひとつが自己への対話を促すような気さえする。 本の分厚さをものともしない、読み終わりたくない面白さです。 | ||||
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この作品はとても構成をしっかりと考えて書かれている。 本質的には一人の少年が父親を殺して(あるいは乗り越えて)心理的に成長する話を カフカ少年とナカタさんの2つのストーリーを平行して語ることにより、再構成する 表現方法をとっている。 カフカでは、少年の内面を丁寧に描き心の成長を描いている。一人称で語られるのはそのためで 、内面の複雑さを強調できるようにするためかもしれない。また、ナカタさんでは実際の事実を 無機質にたんたんと描写している。暴力や外的なかかわりなどを。ナカタさんに心がないと作中で 表現がなされたのも、物語の外的な部分を担っていたからだ。 つまり、ひとつの事件を分解して再構成している小説ということだ。より、事象を丁寧に描写するため ではないかと思った。 | ||||
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家出したナイーブな少年と 奇妙な事故に巻き込まれて不思議な力を身につけた老人の 両面から語られるストーリー. 読んでいると全体に視野が狭く世界感に広がり感じられないが 両者とも社会的には弱者であり そういう目線を意識しているのかもしれない. 計算づくだとすれば高度な表現力である. 前半は少年の内面の描写と老人の半生の説明に多くを費やし なかなかストーリーが進まないが ある事件からストーリーは急展開し 2人の運命が接近し始める. 下巻に待ち受ける結末に期待が高まる. | ||||
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村上春樹『海辺のカフカ』上下巻、新潮文庫 久々に読み返してみました。2002年に刊行されて、すぐに購入して読んだように記憶しているから、ぼくが20歳か21歳の時です。ずいぶんと前のことのようにも感じるし、つい最近のことでもあるようにも感じます。 記憶というのはやはり不確かなもので、まるで新しい物語を読むかのように楽しむことができました。なんとも燃費の良い話です。もちろん大枠としては「読んだことのある物語」なのですが。 次に読み返すのは、きっとぼくが30代の半ばくらいにさしかかったころだろうか。楽しみだな。 はじめに読んだ時にも(たしか)感じたことだと思うのですが、ナカタさんとホシノ青年というふたりのキャラクターは、もちろんぼくにとってはということですが、村上作品における傑出した登場人物であるように思います。佐伯さんや大島さんのような深み(かげ)は感じられませんが、それを補って余りある魅力がふたりにはあるように思います。何と言えば適切かわかりませんが、広がりみたいなものが。 なにはともあれ、次は『少年カフカ』を読もう。実を言えば、今回『海辺のカフカ』を読み返したのも、この『少年カフカ』(村上さんと読者とのやり取りを記録したマガジン)を読むためのものだったのです。ああ楽しみだ。みなさんどのように『海辺のカフカ』を読んだのだろう? | ||||
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この小説は大人の童話です。あまり理詰めで読むと裏切られます。ありそうでもなんでもない【―実際には,このような時空の捩れは存在すると私自身は信じていますが―】,荒唐無稽なファンタジーです。しかし,死を悼む気持ちを持っている人ならば,結論部分は納得できるでしょう。ただし,結論部分は死者から生きる者に向けた素晴らしいメッセージです。 ところで,私は比較的熱心な村上春樹の小説の読者ですが,この物語の手法は,けっこう手が込んでいます。村上春樹にしては珍しく,精緻に筋を組み立ててから書いています。その点が新鮮でしたね。酷評もわからなくはないのですが,読む価値は大いにあります。他の小説以上に頁を繰りたいという気持ちが湧いてきます。というわけで,星は五つ星です。 (ここからは作者への注文。長野県で起きた集団睡眠事件前後の硬質な文章―たとえば,担任教師の手紙や軍関係の報告書の文章―がもたらす緊張感という手法を作品の要所要所に利用して欲しかった。後半はスピード感と詩的な隠喩に満ち満ちていて,それはそれで悪くはないのだが,もう少し,息の長い散文の魅力を表出して欲しかった。人物像の形容が中途半端な気分にさせられたのが,佐伯さんと星野くん。これは,想像力の貧困とこちらが指摘されそうだが,映像的なイメージが湧かない。もう少し書き込んで欲しいところ。徳島,高松の街の描写も余計な情報だから省いたのだろうが,星野くんの目を通じて,もう少し欲しい。リアリティー描写と夢幻世界の描写は必ずしも二律背反ではないのではないか・・。春樹君,生意気な事を申し上げてすまない。) | ||||
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自分自身を見つけられず、影を引きずったように生きている人たちの物語を 通じて、人間として生きていることの意味を問いかけている本でした。 答えは提示されていません。答えが無いためスッキリしない感じもします。 登場人物が悩みや苦しみ、迷いを背負った人たちなので、暗い感じもします。 それでも、人間として生きていることの意味を、たまには自問してみる価値 があると思われる方にはお勧めです。 生の意味だけでなく、日常の生活、勉強や仕事に明け暮れる毎日の中で、あ まり考える機会が少ない友情、血縁、愛情などの基本的な問題も考えさせてく れます。 佐伯さん、星野青年などの登場人物はそれぞれ異なる答えを持っており、カ フカ少年がたどり着く境地も他の登場人物とは異なっています。どれが正解か 明示的な示唆さえありません。解答の付いていない問題集を買ったような物で すので、イライラする人もいると思います。 ミステリー小説のように謎が解決することもありません。空から魚が降って くるような怪現象が起きても原因について合理的な説明や解明が無いままだっ たりします。他にも理不尽な現象が現実世界に起こりますが、その原因に対す る合理的な説明はありません。 解答や説明がが無いと落ち着かない人にはこの本は無理かもしれません。お まけに、登場人物が影を引きずっているので、トーンも暗いです。 それでも、良質の問いかけをしてくれる良い本です。 | ||||
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いわゆる「アンチ村上春樹」と自称する人達がいます。私はそうではなく、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を頂点とした氏の青臭くも緻密な80年代の作品群を愛好して来ました。ですが一方、こんなのはマトモな文学じゃないとする意見にも内心少しだけ同調も出来たのです。いわば、“自閉症のハードボイルドごっこ”とも言えなくもない世界観はお世辞にも外向きではないですし(逆に言えば「何か」を共有できればとても親密になります)、作品強度を上げるための“非常に緻密な描写/文学や音楽に関する豊富な知識の引用/謎掛けと焦らしによる巧みなストーリー・テリング”は、賞賛に値すると同時に、冗長というか読者を“なんだか解らないけど解ったつもり”にさせるような危険も孕んでいます。そして、意味がありそうで無いようなもどかしさ... 自覚的に読書している人達はここで“ちょっと待った”をしたくなるかもしれません。 さて、21世紀になって発表された本作。ここでは、今までとは少し異なる変化があります。さんざん謎掛けをしておいて、結局ろくに明かさず放り出すという手口はいつもと同じですが(笑:好意的に解釈すれば、読者に委ねるとなりますが)、その読後感は以前よりも解放感があります。閉塞感や諦観は少し後退して力強さが加わったか、と。生々しさを備え始めた性描写や振り切った残酷描写は、以前のイメージに対する挑戦とも受け取れます。それから、登場人物達の「顔」が見えるようになって来た事。ユーモラスな「ナカタさん」と星野青年のコンビは新鮮でした。その一方、主人公はまだ“のっぺらぼう”の印象が強い。しかも、家出をして目立たぬよう気をつけている少年の選んだ偽名が「カフカ」と言うのも... なんでもメタファーで切り抜けるのは少し苦しいような気もします。 そして、本作では自我/孤独/死(及び死後の世界)と言った従来からのテーマに加えて、一種相反するとも言える(疑似も含めた)家族=愛というものが大きく取り上げられています。そこでも、男女愛とオーヴァーラップする母子愛という表出がユニークです(この場合、前者は互いに一方通行になっていたというのが私の解釈です。もちろん、そうでないかもしれません(笑))。一方、皆さんはあまり触れていませんが、父性を媒介にしたもう一つの流れも興味深いです。この辺りの意図が明確なので、単なる謎解き(遊び)に終わらない手応えがあるのかな、と思います。 総じて作者の苦闘が垣間見える作品と思いました。ある部分は見事に成功していて新しい境地も開拓し、ある部分は不完全なまま放置されているようです。ですが、この作家がそういった自分自身を見せ始めた事に私は期待―そして、希望を感じました。なので、アンチの人にもオススメかもしれません。 | ||||
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評価が分かれるのも無理はないかな、と思う部分もありましたし、 明確な「答え」が提示されていないのにもやもやしたりもしましたが、 間違いなく傑作だと思いました。 ものすごく簡単に言ってしまえば、これはある少年の成長の物語。 だけど、とても切ない物語。それを魅力的に書き上げてくれています。 性的表現は露骨ですし、最終的によくわからないまま終わってしまった ふしもありますが、そんなことはどうでもいいのです。 ただ切なく、それでも美しい話でした。 星野青年は第3の主人公です。 彼の考え方は私の考えにとても近いので、非常に身近に感じました。 彼が喫茶店で考えるシーンがとても好きです。 | ||||
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私は、このような長編小説を読むのは、久しぶりでした。 リアリティーのないストーリー。ファンタジーとも、SFとも言えないような世界。だけど、そのストーリーには、リアリティがある。 読み進むにつれ、リアリティーのないストーリーに、真のリアリティーを感じました。普段のコミュニケーションでは、通じることのできないような、複雑な深層心理を小説に表現していて納得させるからだと思いました。ふたつの大きなテーマを感じました。『暴力の意味』、そして『記憶と喪失』です。 それから「メタファー」という言葉がキーワードになっているのか?と、思うほど、よく、使われています。私は、これを読者に対するキーワードのように考えました。この小説は、私の心、そして読者の心のメタファーなんだと。 語り得ないものを語るために小説はあると言うのなら、村上春樹さんの小説は、まさしくそれだろうと、思いました。 | ||||
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非常に興味深い作品でした。小説は本来前提とする知識を懇切丁寧に提示しないものですが、この作品には詳細すぎる引用がつき、しかも著者の解釈まで述べています。こうして、必要とされる教養を提示し、主題部分に入ります。教養の導入では絶対に誤読を許さない姿勢があるのに対し、主題部分は筋こそ丁寧に解説してありますが、メタファーが一義的には思えず、感覚的に分かっても、言語で説明するのは困難です。教養主義者と共に小中生にも開かれたテキストですが、知識に頼らずどこまで読めるかが測られます。教養人と呼ばれる虚飾を暴力的に否定している大作です。 | ||||
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