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マゼラン雲
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マゼラン雲の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.50pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全2件 1~2 1/1ページ
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この“なろう”系が跋扈する何でもアリな令和の最中に、果たして前時代の文学とも言えるポーランドのSFなど面白いのであろうか?購入前はそんな不安もちょっとあったし、2段組みで450P以上のボリウムにもやや躊躇したが、読み始めるとこれがまた全然止まらず、あっという間に読み終えてしまった。読後感もスッキリサッパリ清々しい。そして、私が近年小説、SFに夢中になったのは本当に久しぶりだった。 スタニスワム・レムといえば、私が小学校や中学校の頃、SFといえば図書館の片隅に置いてあった作家で、SFな幼少期を経た人にとってはポピュラーかもしれない。ナンセンスやシャレが効いた作風で、私も当時何冊か読んだ気もするがタイトルは覚えていない。 これから読む方もいらっしゃると思うので、核心のネタは避けるが、主人公は「ゲア号」という巨大宇宙船に乗って、人類史上初の太陽系外有人探査のため、ケンタウルス座α星に向かうというお話。時代設定は西暦32世紀というから、結構未来の話だ。 そして、本作品は、SFというジャンルが、極めて楽観的で希望的、そして新しい文学であったという匂いがプンプンして、遠い未来の話なのに、なんだか懐かしくなった。 | ||||
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1955年、著者二番目の長篇作品。 時は32世紀、はるか以前に共産主義のもと平和で理想的な社会を実現した人類は、科学技術の進歩によって文明の領域を太陽系全域にまで拡大している。主人公の若者は思春期に宇宙冒険の旅に憧れた医師であり、ケンタウルス座へ向けて人類初となる太陽系外への遠征をするゲア号の乗組員公募に応募する。片道でも10年の長きにわたる旅は、高速航行により地球ではさらに多くの年月が流れているはずであり、227名の乗組員たちは覚悟のうえでの挑戦となる。物語の長大な旅程にふさわしく、分量も上下2段組の約450ページの大作となっている。また、レムが晩年をのぞいて出版を禁じていた本書は初邦訳だけでなく、旧ソ連圏以外での翻訳出版自体も初だという。 (※以降、大まかなストーリー展開についても記述します。完全に新規の状態でお読みになりたい方はご注意ください。) 一冊の本としてはかなりのボリュームとなる本作は様々な要素によって成り立っている。物語の展開に沿って大まかに分類するなら、次のような三つのパートにも分けられそうだ。 「主人公の青春」 物語の序盤は主人公の生い立ちと成長、家庭環境、家族の来歴などに費やされる。進歩的で平和な未来社会の、ある暖かい家庭で育った主人公は、職業をとおして科学技術に貢献するおじや兄姉たちの影響を多分にも受けつつも、医師という職業に真摯に長年取り組みつづけた内向的な父の背中にも感化される。つづく青年期には、愛する人と出会いながらも思春期に抱いた夢を実現するために地球を離れる決意をする主人公の葛藤や、スポーツを通して成長する姿など、主人公の人間ドラマをリリカルに描写し、SFを背景とした青春小説といった様相をも呈す。この序盤についてはストーリーと並行して描かれている、32世紀の地球人類の進歩的な社会の様子も見どころとなっている。なお、主人公の姓名は最後まで明かされず、本作は主人公の視点のみで進行する。 「閉鎖された宇宙船内における社会実験」 恋人や家族を地球に残して巨大宇宙船ゲア号に乗船した主人公。227名の乗組員の一員として太陽系に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリを目指して出航する。このパートがもっとも長く、本作の半数以上を占める。多数の乗組員が登場し、主人公主体で進んでいた地球上での展開から一転して、小さな社会を舞台とする群像劇としての色合いが強くなる。様々な分野の学者たちや航海士たちを描く本パートでは、登場人物同士の知的な議論のシーンが多分に取り入れられている。 目的地に到達するだけでも10年近くを要する人類初の太陽系外遠征の旅は、宇宙船という閉鎖空間において乗組員たちの精神に及ぼす影響も大きく、本作の長い中盤におけるピークは特定の出来事というより、特殊な空間におかれた乗組員たちの心理的変化を描くことで人間社会を箱庭内で観察する点にあるかもしれない。そのうえで、旅の途上では突発的な事件や事故がときおり発生し、長い移動の過程に変化が加えられる。中盤以降はゲア号船内の状況や乗組員たちの様子を伝える狂言回しとしての役割が主となる主人公だが、船内でのロマンスについては人間的でSFに限らない小説一般にあるような内面描写を味わえる。 「未知との遭遇」 ゲア号が目的としていたプロキシマ・ケンタウリ圏内に到達したところで、ようやく本格的なSFとしての展開へと移行する。極端な話、未知との遭遇を扱う純SF的なストーリーだけを抽出して読みたいのであれば、「ユナイテッド・ステイツ・インターステラー・フォース」以降の約100ページだけでも目的は達せられるかもしれない。中盤までのほとんどが穏やかに展開したのに対して、終盤のストーリーは刺激的な出来事も多く起伏に富み、SF本来に期待される面白さを味わえるパートといえそうだ。ゲア号の乗組員たちはいくつかの事件と発見をきっかけとして、人類が初めて足を踏み入れたケンタウリ圏内における、ある可能性を議論しはじめる。 ゲア号が本格的に出航するまでの長さ(100ページ以上を要する)や、長い途上でのゲア号船内での人間社会や乗組員たちの会話を描く中盤の分量の占める割合の大きさによって、読書の過程では最後まで純SF的な展開を省いたトリッキーな作品かと疑うところもあった。しかし、終盤で期待したような側面も現れ、最終的には納得して作品の終局を迎えることができた(不満を抱いたまま途中で離脱する読者もいるかもしれない)。 本作の主な性格としては、代表作『ソラリス』にあるようなレム独特の、「未知の存在」とのあいだに成立するコミュニケーションへの懐疑や悲観主義とは対照的な、楽観主義のもとに描かれている。その背景として描かれる遠い人類社会もユートピアそのものであり、レムにしてはオーソドックスなSF小説として読める。このあたりの後年の著者作品との方向性の違いについては、著者にとって二番目の長篇という早期の作品ということ、そして巻末の三者による解説で何度も触れられているように、現実の共産主義の影響によって明るい未来が描かれることが要請されていたことが意識される。逆に言えば、本作はレムに親しみのない読者にとっても(長さに目をつぶれば)内容的には楽しみやすい万人向けの作品であり、前述のような環境にあったからこそ書かれた著者としては数少ないタイプの作品といえるのかもしれない。 前述のように、ひとつの作品のなかに青春小説、社会実験、純SF冒険ものといった多くの要素を取りそろえる本作は、全てを読み通した時点で満足できる作品だった。楽観主義的とはいってもレムの作品だけあってベタベタで甘々のエンタメではなく、描かれる人々の内面や事件の経過については抑制が効いた現実的なシビアさがあり、そのあたりの作品の性格もあって好感をもつことができた。また、巻末における三者による計40ページ超の解説のいずれもが充実して読みごたえがある。共産主義と本作の関係や出版の経緯については、とくに沼野充義氏によって詳しく解説されている。 本書の刊行に感謝します。 | ||||
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