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昏き目の暗殺者



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昏き目の暗殺者の評価: 4.00/5点 レビュー 11件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

意外と単純な“不倫メロドラマ”

650頁以上ある大部の小説。スパイアクションみたいな題名だが純文学作品で、2001年ブッカー賞受賞作。構造はまさに現代文学。三つのストーリーが交互に進行する。複雑だが、読んでみるとわかりにくくはない。

 基本のストーリーは語り手の老婦人が記す幼年期~結婚(戦前)から現在(90年代末)までの回想と老いの日常だ。語り手は実家の経済的危機を救うために新興企業家と政略結婚した。
 語り手の妹は終戦直後に若くして事故死し、死後に出版された唯一の小説がカルト的な評価を得ている。この恋愛小説の内容が別のストーリーとして並行に語られる。
 さらに、この恋愛小説の作中作として寓話が語られる。単独で読みたくなるくらい面白い話で、その主人公が〈昏き目の暗殺者〉。

 展開としては、妹の死の真相、 恋愛小説のモデルは誰か、寓話の意味、特に〈昏き目の暗殺者〉は何の象徴かという興味で引っ張っていく。ミステリ的な味付けの展開だが、終盤で著者は謎解きのヒントを示し、複雑な構造を採用した必然性がわかるようにしている。読者を突き放したりしない。

 推論すれば、すべてのストーリーが実は、語り手の老婦人の別々の回想録なのだ。ただし、恋愛小説は語り手の結婚生活の裏面(不倫)の回顧であり、寓話は語り手の結婚生活のカリカチュアだ。
 だから〈昏き目の暗殺者〉は語り手の不倫相手(スペイン内戦に参加した義勇兵)であり、助けられる〈舌を抜かれた生け贄の処女〉は語り手自身だ(政略結婚させられ何の発言権もないことの暗喩)。〈昏き目の暗殺者〉が破壊しようとする〈繁栄の都〉は、語り手の結婚相手が属する資産家階級とその生活の象徴だろう。

 終盤の謎解きで、なぜ地の回想録が必要になったのか理由が明らかになり、三つの回想録は一つに収斂する。そこにはある種の感動が用意されている。しかし、その感動は女性でなければわからない種類のものだと思う。多重構造を分解し、核となるメインの物語を取り出してみると、それは意外と単純な“不倫メロドラマ”だったのではないか。

 こんなに複雑な構造を作り出す著者の力業に感心したし、物語は興味深い「女の一生」だが、主人公が芯の強さを隠して受動的な生き方しかしないので、トータルでは感動的な読後感が得られなかった。
昏き目の暗殺者Amazon書評・レビュー:昏き目の暗殺者より
4152083875

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