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(短編集)

息吹



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【この小説が収録されている参考書籍】
息吹

息吹の評価: 4.18/5点 レビュー 51件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.18pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全40件 21~40 2/2ページ
<<12
No.20:
(5pt)

現代SFの最先端にして最高峰

17年ぶりの第二短編集だと。期待にたがわぬ傑作ぞろいだった。特に印象に残る作品は、以下の通り。
『商人と錬金術師の門』アラビアンナイトの語りを借りた時間旅行もの。
千夜一夜は大好きでバートン版の翻訳を愛読していたから、懐かしくて新鮮だった。
『息吹』機械生命?たちの世界で、医師が命の神秘について考察する。
同胞たちはほぼ不死で、解剖はタブーとされている。知性と空想の極限を極めた逸品だ。

『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』
プログラムで作った仮想ペットに自我と知能を持たせることができる。
彼らはやがて自立し、可愛げが無くなってオーナーに嫌われる。開発スタッフは変わらぬ愛を注げるのか。
友人も恋人もネット内で足りてしまう日常は、すでに実現している。
人造人格が自立する未来には、何が待っているのだろう。
『大いなる沈黙』宇宙は沈黙に満ちている。
地球上に現存する、非人類の音声学習者が言語とコミュニケーションについて考察する。
小品ながら知恵のパズルのような佳作で、脳を程よくマッサージしてくれた。

『オムファロス』キリスト教根本主義が支配する世界の考古学者が主人公だ。
科学的事実と「神のご意思」が矛盾する場合は、どうすべきか。思考実験として面白い。
作者は無宗教だが、事象として興味があるらしい。なるほど。

外れなし、すべてが佳作または傑作だ。『三体』に続いてバラク・オバマさんの推薦文が載っている。
この人、SFファンなんだろうか。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.19:
(5pt)

感動

テッド・チャン最新の短編集。

「あなたの人生の物語」を読んで感激したのはもうずいぶん前のこと。その後,ハヤカワ文庫「SFマガジン700【海外編】収録の「息吹」を読んで大感激。挙句に,この短編作品についての作者自身によるインタヴューが掲載されているSFマガジン2010年3月号のバックナンバーを買ってしまったほど。本作が出るとすぐに購入したが,ハードカバーの単行本を通勤電車の中で読むのは(物理的に)少々辛く,最終的に Kindle 版を購入して iPhone 経由で読了。感無量。二重の出費もなんのその。それだけの価値はある名作中の名作と言いきってしまいたい。

他の作品も味わい深いが,何よりも表題作「息吹」の素晴らしさ! 自分がこれまでに読んできた(それほど数が多いわけではないけれど)短編SFの中でも確実に5本の指に入る名作。再読三読に値する逸品。

これから読もうという人のために,極力ネタバレせぬよう心がけて書くことにしますが…

…およそ起こり得るはずのない現象を究明する過程において,主人公が到達した認識の深淵さ…
…宇宙に生命が存在するという事実の本質に迫る認識の深化…
…いずれ避けようもなく訪れる終焉を前にしての主人公の「悟達」と,しかるがゆえの「希望」…

SFの極北に位置すべき一作,と言ってしまいましょう。
単行本65ページ9行目以降の記述を読むと,涙が溢れそうになることもあったりして…。
これほど儚く美しくしかも壮大なまでに物語を紡げる作者の力量には驚嘆せざるを得ません。寡作であるというのも無理はない。一作一作に魂がこもっているのもむべなるかな,という印象。
エントロピーだの熱死だのについて不案内な方は,感動の度合が薄いのも致し方なしとは思いますが,にしても,その辺りの理解はSF作品を読む上では必須か,とも…。

中国系アメリカ人という出自ではあるけれど,「中国的」な味わいをまるで感じさせないのは,ケン・リュウなどとは一線を画すところ(ケン・リュウの作品はめちゃくちゃ好きですけれど)。よって,チャンの作品を「中国SF」と見なすのは,筆者個人としては若干の違和感を禁じ得ません。

今後もテッド・チャンの作品からは目が離せません。これほどまでにSF読者を魅了する作家はそうそういないでしょうから。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.18:
(5pt)

ますます冴えわたるテッド・チャンの読者だましなのです

なのですが、○ビが読んだ5/9編に翻訳ミスがあり、原文のオチが消滅したのです。残りはわからないのです。ここでレスキューするのです。

「商人と錬金術師の門」
> yet I count myself fortunate beyond measure, for I was given the opportunity to revisit my past *mistakes*, and I *have learned* what remedies Allah allows.
×それでもわたしは、自分がはかりしれないほど幸運だったと思います。自分の過去のあやまちを再訪し、どのような癒やしであればアラーがお許しになるかを学ぶ機会が与えられたのですから。
○それでもわたしは、自分ははかりしれないほど幸運だと思います。自分の過去の数々のあやまちを再訪する機会が与えられて、どのような癒やしであればアラーがお許しになるかを学ぶことができたのですから。

「息吹」
> I feel I have *the right* to tell you this because, *as* I am inscribing these words, I am doing the same.
×わたしにはそう伝える権利があると思う。なぜなら、いまこの言葉を刻みながら、わたし自身がおなじことをしているからだ。
○わたしにはあなたにそう伝える正しさがあると思う。なぜなら、この言葉を刻みもって、わたしがおなじことをしているからだ。

「予期される未来」
> what's important is *your belief*, and *believing the lie is the only way to avoid a waking coma*.
×重要なのはなにを信じるかだ。そして、目覚めたコーマを避ける唯一の方法は、うそを信じることだ。
○重要なのはきみたちが信じることだ。そして、覚醒している昏睡状態を避ける唯一の道は、そのウソであることの信念だ。

「デイシー式全自動ナニー」
> But because I am Reginald Dacey’s son, I *have disproved* his thesis twice over, because my entire life *has been* a demonstration of the impact a father’s attention *can have* on his son.
×しかし、私 がレジナルド・デイシーの息子である以上、私は彼の主張を二度にわたって論破したことになる。というのも、私の全人生が、父親の関心が息子に対して与えた影響の大きさの証拠になるからだ
○しかし、わたしはレジナルド・デイシーの息子だから、彼のテーゼを二度も論駁してしまった。なぜならわたしの全人生が、父親の世話というものが息子に与えうる影響を実地で見せてきたからだ

「大いなる沈黙」
> But before we go, we *are sending* a message to humanity. We just hope the telescope at Arecibo will enable *them* to hear *it*.
×しかし、消え去る前に、われわれは人類にメッセージを送る。われわれはただ、アレシボの望遠鏡にそれが聞こえることを祈る。
○しかし、消え去る前に、われわれは人類にメッセージを送っている。われわれはただ、アレシボの望遠鏡がかれらに聞かせることができるよう祈っている。

つぎは解説なのです。

♡ ♡ ♡

「商人と錬金術師の門」に純然たる偶然は存在しないのです。
> バシャラートはにっこりしました。「偶然も故意も、一枚のつづれ織りの裏と表ですよ、お客さま。両方眺めてみて、どちらか片方をより好ましいと思うことはあるかもしれませんが、片方が真実で、もう片方が偽りだということはできません」
> 「相変わらず、あなたの言葉には考えさせられます」
純然たる偶然はないのです。そのことを読者も考える必要があるのです。

> 「悔悛と償いが過去を消し去るといわれております」
> 「それは聞いたことがある。しかしいままで、それが真実だと思ったことは一度もありません」
フワード・イブン・アッバスがそう聞いたのは
> 自分がしてしまったことをある識者(ムッラー)に打ち明けました。悔悛と償いが過去を消し去ると教えてくれたのはそのムッラーです。
ムッラーからなのですが、このムッラーは20年後の自分なのです。なぜなら純然たる偶然はないのです。

> 夜の帳が降り、外出禁止時間になってからも汚い服で通りをうろついているわたしを巡回の衛兵が見とがめ、誰何しました。名前とすんでいた場所を告げると、衛兵はわたしをそこに連行し、近所の住人にわたしを知っているかと訊ねましたが、知っていると答えた者はひとりもいなかったので、わたしは投獄されました。
「悔悛と償いが過去を消し去る」は、自分を知るものを失ってしまうことなのです。

> なにをもってしても過去を消すことはかないません。そこには悔悛があり、償いがあり、赦しがあります。ただそれだけです。けれども、それだけでじゅうぶんなのです。
この消せない過去は妻が死んでからのバグダッドの20年間のことなのです。なぜならここでは若い彼と年長の彼がおたがい知り合っているからなのです。

> それでもわたしは、自分ははかりしれないほど幸運だと思います。自分の過去の数々のあやまちを再訪する機会が与えられて、どのような癒やしであればアラーがお許しになるかを学ぶことができたのですから。
数々のあやまちなのだから、これはナジャをなじったことではなく、ここは20年前のバグダッドだから、「数々のあやまちを再訪」するのはこれからなのです。しかし「どのような癒やしであればアラーがお許しになるかを学」んだのは、すでに完了したことなのです。つまり、20年前の自分が年長の自分にしてもらったこと、自分が年若の自分にこれからすることはすべてアラーのお許しがあったのです。
さて、フワード・イブン・アッバスに&lt;門>をくぐらせたのは「20年前に戻り、夫となる若い男を盗賊から助け、彼の最初の女となり手ほどきしたラニヤの物語」なのです。純然たる偶然は存在しないのです。フワード・イブン・アッバスも若い自分を手ほどきしたのです。これがアラーの許しなのです。
> この二十年、高潔な人間として暮らし、祈りを捧げ、断食し、運に恵まれない人々に施し、聖地に巡礼しましたが、それでもなお、わたしは罪の意識につきまとわれています。アラーは慈悲の心に満ちていますから、すべてはわたし自身のせいです。
若い彼も自分が相手だと知っていたのです。純然たる偶然は存在しないのです。

「息吹」はゾンビホラーなのです。
> あなたの思考をかたちづくるパターンは、わたしの言葉を読むという行為を通して、かつてわたしの思考をかたちづくっていたパターンを模倣することになる。そしてわたしは、そのようにして、あなたを通じて生き返ることになる。
これは文字通り、銅板のメッセージを読んだ人は書いた人の思考に乗っ取られるのです。
別れの言葉
> 存在するという奇跡についてじっくり考え、自分にそれができることを喜びたまえ。
は、語り手が
> (語り手が)存在するという奇跡についてじっくり考え、自分(語り手)にそれ(存在すること)ができることを喜び
ながら銅板に刻んでいるので、それを読んだ探検家は思考を乗っ取られつつ
> (語り手が)存在するという奇跡についてじっくり考え、自分(探検家)にそれ(語り手を存在させること)ができることを喜び
ながら消えていくのです。乗っ取る語り手が乗っ取られて消えてしまう探検家に向けたものなので「別れの言葉」なのです。
the rightにはthe true account実際の記録といった意味があり(このメッセージもthis accountと表現されているのです)、語り手が実演しているから
> わたしにはあなたにそう伝える正しさがある(実際にそう伝えている)と思う。なぜなら、この言葉を刻みもって、わたしがおなじことをしているからだ。
となるのです。

「予期される未来」
短いけど難しい小説なのでブログを見てくださいなのです。ネイチャー読者相手のテッド・チャンの本気なのです。

「デイシー式全自動ナニー」
父親のテーゼというのはこれなのです。
> 『子どもたちは罪深く生まれるのではない。われわれが世話を委ねた者たちの影響によって罪深く育つのだ』
> 『まっとうな子育ては、まっとうな子どもをつくる』
このデイシーの子育て哲学の二つともを論駁したことを、「彼のテーゼを二度も論駁してしまった」と言っているのです。前者には、ナニーに育てられたけど*自分は罪深くない*、テーゼは間違っていると言っているのです。後者の原文はこうなのです。
> “Rational child-rearing will lead to rational children.”
すくなくともRational child-rearingのほうのrationalは「合理的」という意味なのです。こちらには、自分は合理的な子育てをした、*失敗したのは自分のせいではない*、テーゼが間違っていると言っているのです。
> ところがあるとき、ナニー・ギブスンは日常的に少年を打擲し、罰としてグレゴリーズ・パウダー(ひどい味のする強力な下剤)を飲ませていると知って、デイシーはショックを受けた。
ライオネルのこの性格はたぶんナニーのせいなのです。

「大いなる沈黙」もホラーなのです。
> We just hope the telescope at Arecibo will enable them to hear it.
The message is this:
You be good. I love you.
実はこれ全体がオウムの送っているメッセージなのです。themは宇宙人を指すのです。ヨウムのアレックスは「You be good, I love you」と言って死んだので、人類も宇宙人にそう言って滅びろと呪っているのです。いくらトリでも、自分たちを滅ぼした相手に「あなた、いい人。愛している」はありえないのです。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.17:
(4pt)

明るくも暗くもない未来

テッド・チャンを読むのは初めてで、なぜかハードSFだと思いこんでいて、
この本の最初の作品を読んで少し面くらいました。こういうのなら文系の人もすんなり読めると思います。
(グレッグさんと違って・・・。)
というか、SFだと思って敬遠しているのはもったいない。
将棋を指しているような、非常に構築的な物語。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」とか「不安は自由のめまい」を読んでいると、
あ、これは悲惨な結果になるやつだよね・・・というかそれしかないよね・・・
という不安な気持ちになるのですが、物語には奇跡も逆転劇も起こらないのに、
なぜかbad-endingに落ち込まない。
あれ? なんかいい感じで終わった? としばらく呆然。
慎重な手つきで縫合した傷をそっと押してゆくような話の進み具合に、
いつ血が噴き出すのかと緊張しながら読み進めていたというのに。
(不安がなくなったわけではありませんが。)
ドラレコのようなものを人体に装着する話「偽りのない事実、偽りのない気持ち」も、
現実世界でもじきにそうなりそうだなあと、思いました。
記憶はうそをつくってことで。
(忘れることで生きるのが楽になると思ってる人は、しないでしょうが。)
ということで、SFマガジン12月号を読んでから、遅まきながら一作目を読みたいと思います。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.16:
(4pt)

世界が絶賛する意味が分かる気がする。。。

これは面白いSFです。

生々しい未来を予見しています。

もっともっと読みたくなる一冊です。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.15:
(5pt)

隙がない

今更ですけど。こういうスゴイ作品集があるということが幸せ。読み手はただ文字を追えばいい。ここはこう考えておこうとか補完したりツッコミ我慢したりしなくていい。エンタテイメントとしてもとても優れているのに、走ったり暴れたりしない。読んだ後はふと立ち止まってわき見したり振り向いた瞬間にどこか何かを思い返して考えてしまう。貴重なお宝体験ができますね。
 ところで時計は振り子駆動とはいえ摩擦がないわけで無し、普通はぜんまいとか動力が要りますね。水銀の位置エネルギーを上げるのにも。でもこんなのも隙に見せないんだよね。ほんと透明ガラスのような文章とはよく言ったものだ。しぬまえにあと何冊読めるかわからんけど全部読みたい。そんな感じです。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.14:
(5pt)

今作も最高のSF短編集

2回目を読み終えた。前作に続いて今作もやっぱり最高のSF短編集。それにしても待ちに待ったり、17年。次作が出るまで生きているだろうか?次作を楽しみに、節制しよう。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.13:
(4pt)

待望の新作

テッド・チャンの17年ぶりの新作ということで、全面的な信頼で、サンプルも落とさずにいきなり購入しました。

作家の関心がはっきりと見える短編集で、タイムトリップものが2編、子育てもの(SFなので通常の子育て話ではありません)が3編入っていました。

私はタイムトリップ好きなので、2編を特に楽しみました。「商人と錬金術師の門」はアラビアンナイト的な形を取っていて、ワクワクしました。「不安は自由のめまい」はパラレルワールドの話。文句なしに面白い。また読み返すと思います。

長さが気になる話もありましたが(話がどこに着地するのかと不安になりました)、全体的には買って良かったと思っています。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.12:
(5pt)

前作が好きなら迷わず買いましょう

文庫化待つか悩んだが耐えられず購入、大正解
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル(120/430P)」と「不安は自由のめまい(80/430P)」が最高だった
どんよりとしたSFも読むが個人的には読後感のいい話の方が好みだということを再認識した
久しぶりに幸福な読書体験ができた
できれば次作は10年以内に読みたい
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.11:
(5pt)

いろいろ考えさせられるレベルの高い作品集

全9作のうちの4作は過去にSFマガジンに掲載された作品ですが、いずれも今回初読。数年前にやっと読了した「あなたの人生の物語」以来、久しぶりのテッド・チャンです。
 収録されている作品は、数ページほどの短いものから120ページをこえる長いものまでさまざま。個々の作品はどれも読みやすく、面白いのですが、読んでいる間も、読み終わってからも考えさせられることが多くて、どんどん読み進むことはできず、結局一冊を読み終えるにはずいぶん時間がかかってしまいました。逆に言うと、その間ずっと頭を働かせて楽しむことができたということでもあります。
 第一短編集「あなたの人生の物語」と同等、あるいはそれ以上にレベルの高い作品集だと思いますが、破天荒という点ではちょっとおとなしくなった気がします。
 なお、巻末に、前著と同様に著者自らが各作品について執筆の経緯などを記した作品ノートがつけられており、さらに訳者あとがきでも各作品について様々な情報が記載されていて参考になります。
 評者自身、作品を読んだ後、著者の作品ノートを読んで、自分の解釈と違っている点を教えられ、また解説を読んで、別の観点があることにも気づきました。どの作品も多くのテーマ、アイデアを含んでおり、様々な切り口で読むことができるので、多様な視点(公式)の提供は有難いことです。

 第一短編集を読んだ時にも思いましたが、とんでもない設定の話が多く、その発想と世界観にバリントン・J・ベイリーの短編を思い出しました。また、本書の収録作品には奇妙な器具や技術が登場するものが多いのですが、その説明を読んでいると、基本的な構造が古典的なガジェット・ストーリーと似ています。ただし、その後に語られる物語はパルプ小説の時代とは大違いで、そこがテッド・チャンたる所以。

 冒頭の「商人と錬金術の門」。第一短編集で言えば「バビロンの塔」のような導入部。アラビアンナイトの世界。物語の中で語られる物語の中で語られる物語。迷宮のようなその物語で語られる人生の真実。形だけまねることはできても、これだけ深い話を語れるのは著者ならでは。古典的な趣があります。

「息吹」。読んでいるうちに設定がわかってひっくり返る。第一短編集の「72文字」を読んだ時の感覚に近い。ベイリーに最も近いと感じたのもこれ。特異な世界の説明とエントロピーの置き換えが最高。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。ビメイダー(作られしもの)との関係性を描いた作品の中では知る限り最上級。ライフサイクルの展開も実際のコンテンツを思わせて納得。感心して読み終えたのち、作者ノートのAI育成に関する意見を読んで改めて激しく同意する。

「偽りのない事実、偽りのない気持ち」。新しい技術によって変わっていく生活。すべてが記録される時代。その中には不愉快な記録も含まれている。否応なくそれに向き合わなければならなくなった時、人はどうするのだろう。不都合な真実まで記録されるようになった時、政治家や詐欺師は?忘れっぽい世間やマスコミは?他人ごとではなく自分は?でも、インスタ、ドラレコ、動画投稿サイトなど世界は既にその方向に進んでいるのかも。一方で、正確な記録とは何なのか?ちょっと教科書的過ぎるような気がする。

 短い作品はその分切れ味が鋭い感じ。「大いなる沈黙」。人間の言葉をしゃべる唯一の異種生物。わかっているけど、一瞬本当のことかと考えてしまった。

「オムファロス」。これも読んでいる途中に現れる世界観に驚愕。どこに着地するのかと思って読み進むが、最後はここに着地するのかと愕然。どんな世界であろうとも科学を志す者の道は厳しい。光瀬龍の「たそがれに還る」のユイ・アフテングリの言葉を思い出した。「そこからたとえ何が現れてこようとも…」

「不安は自由のめまい」。読んでいるときから設定の凄さに圧倒されるが、ストーリーは一回読んだだけでは理解できない。複数の主人公、主観の切り替え等、様々な技法が使われていてややこしい。改めて読み直してやっと何がどうなっていたのか理解する。先の見えない不安の中でも前を向いて生きるための、あなたの人生の物語。優しい世界。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.10:
(5pt)

オムファロス

面白かった!
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.9:
(4pt)

中国SFヒット作!

中国SFの作品を読みたくて本書を購入した。第二話「息吹き」を読む。この短編は本初の表題作であるが、あまりSF小説という実感が湧かない。
①肺と肺に空気を補給するための給気所が登場し、空になった肺と満杯の空気を交換する。そこは社交場となっていて、人々はそれぞれに会話を頼む。
②ここから鈍なストーリーが生まれてくるかと思いきや、今度は著者が従事している解剖学の話に転換する。肺の交換により呼吸機能が維持されることによって、人々は不死になって、解剖に適した肢体が入手出来ないのだという。
③どうやら余りSF小説という実感が湧かない。これは半世紀前の科学小説ではないか?
④科学の先端をいくSF小説はどこにあるのか?このレトロ感が小説の面白さなのかもしれない。身近に場面がイメージ出来るように配慮されている。読者に分かりやすさを提示している。現実にできるだけ近くして、読みやすさを狙う。肺の交換と解剖学はSFの世界ではなく、現実的・近未来の世界に属する事柄である。したがって本書は近未来のSF小説なのである。しかし、こうした描写は現実の世界と異なる側面がある。この違和感が増幅されることによって、仮想現実(SF)小説が生まれてくる。このプロセスを読者はどこまでも楽しめば良い。現実との距離を出来るだけ短く(微分化)し、やがてその距離をマックスまで拡大すること。これが、著者が採用したチャレンジである。云わば、「差異と増幅」である。この世界を楽しめば良い。
こんなSF小説があっても良いのではないか?
お勧めの一冊だ。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.8:
(4pt)

この〈物足りなさ〉は何処から?

私も『あなたの人生の物語』を刊行当時に読んで、すごく感心した読者の一人なので、17年ぶりとなるこの第二作品集に期待する気持ちなら、他の人と変わらないはずなのだが、なぜだか「物足りない」という印象につきまとわれた。

この作品集について、出来が悪いと言いたいのではない。
そもそも、十数年前に読んだ『あなたの人生の物語』について、何にどのように感動感心したのか、まったく記憶していないので、それとの比較も不可能であり、はたしてテッド・チャンが変わったのか、読者である私の方が変わったのか、そこも今では定かではない。
いずれにしろ、十数年という歳月は、人を多少なりとも変えていて当然なのだから、それ自体は問題ではないのだが、それにしても何が変わったのかが、個人的には気になるところだし、そんな気分なのに、何も変わっていていないような顔をして、皆と同じように盛り上がるなんてことは、私には到底できない相談だったのである。

私が、本作品集収録作品について、一貫して感じたことは「良くできているが、引き込まれない」といったような不満だった。「非常に知的な、良く出来た作品」であるという評価は、たぶん多くの読者に共通するものだろう。私もそれには同感なのだが、しかし、それだけでは、私には不満だった。

本作品収録の作品が、単なるエンタメではなく、ハッキリとしたテーマ性を持って読者に思考を求めるものだという点で、それらはいずれも「文学的」な作品と呼ぶことができるだろう。
しかし、そのいかにも「文学的」な造りをはみ出すところのない、まとまりの良い完成度の高さが、その優等生的な行儀の良さが、私には物足りなく感じられた。もっと「著者の思考や倫理からはみ出していくような過剰性」を私は求めていたようであり、それが本作品集の作品には感じられなかったのだ。

例えば、本作品集冒頭の短編「商人と錬金術師の門」にも、そうした特徴がそのまま表れている。
私はSF者ではないので、本作のタイムマシンのアイデアの新しさという点については、もとから興味もなく、そこで感心することもなかった。だから、問題となるのは、そこに描かれた「人生」というものへの著者の「考察」、と言うよりは、「態度」ということになるのだろうが、いずれにしても著者のそれは、いたって真っ当で納得がいくものだと感じはしたものの、言わば、ただそれだった。
つまり「納得」はしたが、特に「驚き」もしなければ「打たれ」もせず、だから「深く考えさせられることもなく」、ただ「なるほど、そうだよね」と同意させられただけだったのである。

そしてそこが、私が「文学作品」に求めるものとしては、少々物足りなかった。評論やエッセイを読まされたのではないのだから、そんなにあっさりと納得できるような「理屈=人生論」を読みたいのではない。
むしろ、そうした真っ当なものを揺るがせるようなものを、私は読みたかったのだと思う。そして、自分の価値観を揺るがされたがために、嫌でも思考を強いられるような、そんな「嫌な作品」を読みたかったのであろうが、残念ながら、本作品集所収の作品には、そういう「文学的な嫌らしさ」が微塵もなく、非常に「上品に完成している」という印象ばかりが強かった。

また、私が本作品集所収の作品に感じたのは、そのいずれもが「寓話」的であるということだった。そして、ここで言う「寓話」とは、「現実」そのものと格闘するものではなく、「現実解釈」を変形して「象徴的に語った物語」というほどの意味である。だから、私が求めていたものはきっと、もっと生々しい「ワン・クッションおかない物語」だったのだろうと思う。

その意味で、「商人と錬金術師の門」を読んで、即座に芥川龍之介の「杜子春」を連想したのは、けっして的外れではなかったはずだ。そして、「杜子春」にかぎらず、芥川の「蜘蛛の糸」「鼻」「羅生門」といった多くの作品は、いずれも「寓話」的であり、かつ極めて「知的」であって、完成度の高い作品である。
私は、それらの作品に、とても感心するのだけれども、しかし、そういう作品が「小説として好きか」と問われれば、すこし違うように思う。

また、テッド・チャン自身、ボルヘスの名前を挙げているが、ボルヘスもまた芥川龍之介と同様の、「寓話」的で「知的」な作家であったことは周知のとおりであり、テッド・チャンは、こうした系譜に属する、SF作家の中では、極めて洗練された「文学的」作家なのであろう。しかし私は、その「洗練」が、どうにも物足りないと感じられたのである。

では、かつての私は、『あなたの人生の物語』の頃のテッド・チャンの、いったい何に感心したのであろうか。
私が変わったのか、テッド・チャンが変わったのか。それとも二人とも変わったのか。
それはよくわからないが、変わっていないということはない、ということだけは確かであろうと、私は思う。

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息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.7:
(5pt)

長年待ち続けた甲斐があった。

作品数が極端に少ない作家なので、SFマガジンに掲載されるたびに雑誌を購入して読んでいたのだけれど、当時から何年も経過して改めて読み返しても本当に素晴らしい作品群だった。
初読の物も含めて本当に、待ち続けた甲斐があった1冊。個人的には「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」を大勢の人に読んで欲しい。アプリゲームなどを追い掛けている人なら、見につまされる部分も多いと思うので。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.6:
(5pt)

洗練されていてほんとうに美しい

テッド・チャンの創作のありかたについて軽く分析してみます。あくまでもわたしの勝手な見方ですので、適当に読んでください。まず、彼の作品のおおかたに目を通して思うのは、作家自身の独白を覆うようにして物語ができているということ。 
 
 彼自身の独白は、文系と理系の知識の微妙なバランスのなかで構築されています。そもそもなぜ作家自身の独白と見るとかいうと、全ての作品のモチーフに共通項があって、それはあまりにも分かりやすいからです。 
 すなわち、自由意志の肯定、物理法則に支配されない現実の描写、宗教が現代科学に圧されて力を持ちえなくなった現代で、人間の生死を意味のあるものとして伝えること、といったテーマです。ようはヒューマニズムです。 
 
 面白いことに、主人公はたいてい女性なんですね。オウムが主人公の短編もあります。それから、身内の死、喪失というのが何度も出てきます。 
 わたしの勝手な推測では、やはり自身の思想を物語に包んで伝えようとしてそうなったのではないかと思います。必ずしも、作家のすべてのタイプがそうではありません。むしろ、自分をまったく出さない作家も多いですから。 
 
 独白の気分がまず前提としてあって、その上で、それを効果的に伝える場面設定をする。そうやって創作していったのではないかという痕跡があります。だから、文字量としても主人公の独白の部分が多く、どちらかというと人物造形や風景描写は至ってシンプルな印象を受けます。わたしはものすごく洗練されていて好きです。  
 作り手の目線でいろいろ考えながら読むと面白いです。参考になります。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.5:
(5pt)

テッド・チャン最高

長い間待っていた本だ。
SFマガジンで読まれた作品以外にも傑作が満載、思考実験の最先端にあるSFの楽しさに久しぶりにのめり込んだ。 個人的に一番良かった作品は「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」だった。 これは日本のSFファンの郷愁を刺激する、未来的な物語だったな。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.4:
(5pt)

これぞSF!

古き良きSFを想わせるシンプルなアイデアの短編集。
近年、こうした読み手を唸らせてくれる樣な作品があのりなかったのだが、本書の中はそうした作品で満ちている。
●「商人と錬金術師の門」
アラビアンナイト風で寓話的なタイムトラベルもの。
お伽噺旳でありながら、新しめのタイムトラベル理論を応用しているのがミソ。職人芸と云った感じに纏められている。
●「息吹」
人格を持つロボットだけが暮らす閉鎖空閒を舞台にした作品で、ロボットたちが現代工学の産と云うより異質な、どちらかと云えばスチームパンク的な存在でである処が面白い。
●「予期される未来」
人は何かを選択する時、本当に自由な意思でそれを行っているかどうか・・・逆説的に云うならば、自由な意思に依る選択でなければ豫言も可能と云う事に成るのだが・・・。哲学の方向へ向かいそうだ。
●「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
AIで人との会話可能な人工動物を作成販売する会社に入ったヒロインの眼を通して、人閒の友としてのAIの成長と、それを巡る社会の在り方を描いた作品。特に成長したAIのセックスドールへの応用についての議論は現実的でリアル。
●「デイシー式全自動ナニー」
トンデモ発明を巡る何処か懐かしいタイプの作品。
ナニーとは乳母の樣なものだが、それを機械にやらせようとした者が嘗て居た・・・と云う設定で、その過去を今日から振り返る
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.3:
(5pt)

やっぱりテッド・チャンは素晴らしかった!

実店舗で予約し、刊行を楽しみにしていたチャンの短編集。やはり今回も素晴らしかったです。

実現可能な理論やSF的近未来論をベースに、それがどのような世界をもたらすのか--テッド・チャンの思考の過程はいつもとても現実的・実際的に思えます。それでいながら思考の結果については過去の常識や感情・感傷に決してとらわれない...そのため、チャンの作る物語はどんなに感動的なものであっても、安っぽいセンチメンタリズムのかけらもないのです。

この作家らしいオリエンタリズムや旧弊な文明へのアイロニーを感じる作品群も、もちろん表題作も非常に良かったのですが、中編「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」には上に書いた現実的・実際的な面がよく出ていて、展開のブレのなさに感心しました。妥協のない物語、という印象です。

ところで、帯や作品紹介によると、チャンは映画「メッセージ」の原作者として一般にも名を知らしめたとのこと...いやいや、あの映画そのものは悪くない内容とはいえ、原作のメインアイデア--あの感動的な「あなたの人生の物語」の核となるアイデア--を取り去ってしまった映画から判断してしまっては、この作家の良さはほとんどわからないと思うのですが...
映画「メッセージ」経由でもいいので、「あなたの人生の物語」かこの「息吹」で、テッド・チャンの本来の作品を堪能してください。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.2:
(5pt)

前作にも増してよかったです。

近い未来に私たちの生活の中に起こりうる問題を題材にしていて、考えさせられることがたくさんありました。
最後のストーリーは終わりに胸が熱くなりました。
たくさんな人に読んで欲しい作品です。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996
No.1:
(5pt)

人間について、人生について考えさせられる、マルクス・アウレリウス自省録とある意味通じるかもしれない

各編の印象をいくつか記すことにする。”商人と錬金術師の門”、SFマガジンですでに読んでいたが再読。どこでもドアみたいなTime Machineの話だが、過去と未来について、つまり人生の意味について考えさせられるいくつかのエピソードの集まり。読後感は悲壮の中にあってもとても良い。”息吹”、宇宙の熱的死についての考察と機械人間の絡まる話。諸氏絶賛の一編だが、評者はそれほど乗れなかった、機械人間のイメージが19世紀的で少し古めかしいからだろうと思う、ハヤカワ文庫アンソロジーで既読。”ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル”、かなり長いが、読書中一種の違和感を伴うスリリングな感覚を味わった。本短編集で一番心を揺さぶられた。主人公は普通に見えるが、評者には一種の2次元に心奪われた壊れた人物に見えてしまった。しかし、このような偏愛は対象こそ違え、評者も含め多くの人にありうるかもしれない。PCやwebがどんどん改良される時代、便利ではあるが古いfileが読めなくなる問題を感じている諸氏も多いだろう。主人公は、その点について半端ない問題を抱えてしまう。”偽りのない事実、偽りのない気持ち”、父と娘の相克を扱うが、ある種残酷な結末に心震えた。”不安は自由のめまい”、全体に救いのない感じが多い本短編集作の中では、心温まるちょっといい話風なオチで救われた。残りの3作品は、10ページに満たない掌編でアイデア一発勝負という感じ。"オムファロス"評はSFマガジン掲載時のレビューで記した。

作者も前短編集の時よりも歳をとり、人生に対する見方が少々厭世的と言えるトーンを帯びてきているかのように感じた。SF的枠組みは、人生を考察するためのものというわけだろうか。
息吹Amazon書評・レビュー:息吹より
4152098996

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