■スポンサードリンク
緋い空の下で
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
緋い空の下での評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.20pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全5件 1~5 1/1ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
著者によると本書は、「実在の人物である主人公の経験に可能なかぎり沿った歴史小説」であるとのこと。 実際に読んでみると「事実に娯楽要素を肉づけした創作小説」という印象で、そうなるとどうしても、事実と創作の境目がどこにあるのかが気になってしまう。 もちろん、こういう形で世に出すことにも意義はあるけれど、個人的にはノンフィクションで読んでみたかった。 終盤で描かれる、ドイツ軍撤退後にイタリアで起こった出来事は初めて知る事実で、極めて衝撃的。 イタリアの人々がこの戦争をあまり語りたがらない理由が、ここにあるのだろうか。 アメリカが正義のヒーローとしてしか描かれていないところは若干気になったが、主人公にとってのアメリカはそうだった、ということなのかなと。 多言語をあやつり、ピアノをたしなみ、登山と車の運転の技術はプロ級で、強い正義感と大胆な行動力を持ちあわせた、純情純粋な少年ピノ。 第二次世界大戦中のイタリアを舞台にしたこの数奇な物語は、10代後半の彼の視点で語られる。 それゆえに文章は、深みや含蓄のあるものではなく、少年らしい、見たり感じたりしたことをそのまま描写する直截的なものになっていて、そのぶん読みやすいが、読書歴の長い人間にとっては少々物足りなくもある。 主人公のキャラクターとこの文体をあわせて鑑みると、本書は、ハイティーン向けの児童文学というカテゴリに分類することもできるだろう。 その点からも、すでに、様々なメディアによる多くのナチスの非道を伝える作品に触れ、知識もある大人の方よりも、それらについてあまり知らない若い人たちにこそ、おすすめしたい。 ただ、原題を直訳した邦題と、原著のものに近いおどろおどろしいイメージの表紙は、そうした本書の性格にあまりふさわしいものではなく、出版社は損をしているような気がする。 例えば、ハヤカワ文庫の「卵をめぐる祖父の戦争」などは、意訳した邦題と(原題はcity of thieves=泥棒たちの街)イラストを使用した表紙が、高い売り上げにひと役買っているはず。 もし、そのせいでこの本が、あまたの出版物の山に埋もれてしまっているのだとしたら、もったいないなと思うのだが。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
大戦時のイタリア、ミラノが良く知れて物語は最高でした。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
司馬遼太郎は『坂の上の雲』の執筆中に、「事実に即して書きすすめているこの物語を小説と言えるだろうか」と述べていますが、もちろん同書はすばらしい小説です。名場面のひとつとして、間もなくバルチック艦隊に対して丁字戦法をとる東郷大将らの艦橋の姿を、荘厳という言葉を用いて作者は描いていますが、日本海海戦に関する他の記録を読んでいると、「その時の艦橋は実は怒声が飛び交っていた」「丁字戦法の考案者は秋山真之でなく山屋他人である」といった指摘に出会うことがあります。こうした断片を真相と称するのは何か弱々しい精神を感じてしまい、小説家が創る世界にこそ真実はあると考えます。 本書も第二次世界大戦末期のイタリアで起きた実話をベースにしているとのことですが、作者自身が言うように事実を集めたノンフィクションではなく、読み応えのある小説となっています。現代の日本では、ファシストによる虐殺や、興奮した大衆が独裁者の死体を吊るすような事件は起きません。しかし、「誰でもよかった」という殺人事件や、いじめが目的である吊るし上げ事件の理不尽さを思えば、1940年代の歴史小説では済まない内容となっています。 この本を読んでいて、『坂の上の雲』のことを思い出したのは、そうした普遍的な人間の問題に取り組む作者の熱意と、訳者の方の優れた力によるものと思います。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
第二次世界大戦のイタリアが舞台という点で珍しい。 まだ10代なのにアルプス越えのユダヤ人脱出の手助けや、 ドイツ軍の将軍に対するスパイ行為など どの程度が史実かはさだかでないが、なかなかドラマチックで 一気に上下2巻を読了しました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「緋い空の下で<上・下>("Beneath A Scarlet Sky")」(作:マーク・サリヴァン 扶桑社)を読む。 作者は、おそらくノンフィクションとして書くこともできたのだと思いますが、このフィクションは「まえがき」にもあるようにピノ・レッラという主人公の成人前約2年間の冒険小説のような伝記小説と言っていいのかもしれません。 時代は、第二次世界大戦末期、1943-1945、舞台は、イタリア・ミラノが主になります。ナチスドイツの占領、ファシズム、力を失くしたムッソリーニ、戦うパルチザン。前半は、若き主人公・ピノが、ユダヤ人たちのアルプス越えの逃亡を手伝う姿が、繰り返し描かれます。カトリック教会の善意、それは想像に余りある酷薄な戦時下でも確かに存在したのでしょう。 そして、ピノはそれまでの活躍を見込まれて、イタリア人としてナチスドイツの少将レイヤースの時にダイムラー、時にフィアットの運転手として雇われることになります。ある<密命>を託されて。これ以上、詳細は書けませんのでお読みください。 フィクションとして見たときに、前半は少しストーリーが薄く、ストレート過ぎる印象があり、それはピノの年齢の若さに起因しているのかと考えたりもしましたが、後半は、波乱万丈、今まであまり描かれなかった("忘れられた戦線")、或いは私が知らなかったイタリアにおける対独戦争終結までの時系列という史実と、その中で語られる家族、友人、恋人たちへの思い、「愛」が螺旋状に描かれ、優れた歴史小説たり得ていると感じました。 ゲシュタポ、アウシュビッツ、連合国軍、無差別殺人、戦争は終結し、しかしたとえ生き残れたとしても、その戦争は生涯終わることはない。「誰も寝てはならぬ」が鳴り響き、警報のサイレンが重なり、爆撃を逃れたドゥオーモ大聖堂の聖母マリアが透かし彫りのように現れ、カーサ・アルピナが緋色に染まり、否が応でも「戦争」がもたらす深い喪失感に私たちは思いを馳せることになるのだと思います。 その喪失感は、大戦が異なるとは言え、あの「武器よさらば」がもたらす喪失感とも確かにつながっています。 ミラノ解放の日。枢機卿の前で深い哀しみを伝えるピノの独白にコミットする時、果たして本当に「信念」は戻ってくるのだろうか?と感じたことも確かですね。たとえそれが、何年も姿を見せない「はやぶさ」のようなものだったとしても。 | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!