■スポンサードリンク
バビロン 2 ―死―
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
バビロン 2 ―死―の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.62pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全21件 21~21 2/2ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「正」と「善」の二文字を冠する、まさに正義を体現する為に産まれてきた様な検事・正崎善が製薬企業の不正に纏わる捜査の最中で見付けた一枚のメモ 「F」の一文字が紙を埋め尽くさんばかりに書き込まれた不吉なそのメモの正体に探りを入れた事で一人の研究者の自殺に直面し、事件は幕を開ける 新自治体「新域」の主を決める選挙を巡る工作と、その裏で見え隠れする女の影、そしてパートナーであった事務官・文緒の謎の死、信頼してきた上司も 絡んでいた「国家の実験場」としての新域の裏構想、その表の主人公として造られた若き政治家・斎開化と全ての男を狂わせる謎の女・曲世愛、 そして新域長に選ばれながら姿を晦ましていた斎が発表した「自殺法」と新域庁舎からの集団飛びおり自殺…という所から話は始まる えーっと…取り合えず血の匂いがする描写が全くダメという方、この第二巻は結構キツい事になっております。諦めて我慢しながら読みましょう さて、物語の方は「自殺法」の発表と同時に発生した集団自殺を見届けた直後、正崎が新域の裏構想に関わっていたお偉方から斎の逮捕が可能かと 問われる場面から始まる訳ですが…この「逮捕が可能か?」という、そのまま「自殺は悪か?」、「自殺で人を罪に問えるか?」という問いに直結する疑問が この2巻のメインテーマとなっております。当然自殺そのものを罪に問えない現行法制の問題もあって正崎が頼みとするのは刑法二〇二条。即ち、 「自殺関与罪・同意殺人罪」の中の「自殺教唆罪」、即ち自殺の意思が無い人間を斎が唆して自殺に追いやったという事実の証拠を集めるというその一点 だけに絞られる事に。首を吊った文緒、新庁舎から飛び降りた奥田の代わりに正崎のパートナーとなったの若き女性事務官・瀬黒陽麻とともに「自殺法」の 是非を巡って世間が揺れる中、姿をくらましたままの斎の居所の捜索と斎の罪状を問える証拠探しに乗り出すが、斎は新域の議会の議員選挙を発表、 発表された選挙の為の域法は年齢制限も選挙資格の取得に必要とされる日数の制限も無いという超ヤバい条件設定の上、「自殺法」に対する所信の 表明を求めるという挑発的な代物。警視庁から抜擢されたメンバーで組まれた捜査本部を指揮して選挙までに斎を追い込めるか、というのが本作の主な 流れとなっている 「2」や「know」あたりから野崎まどが明確化してきた「人間という種の超越」、「人間にとって絶対的宿命である死の超越」というテーマの延長線上に 本作がある事は一巻を読んだ方なら既にご承知の事だと思うのだけど、これまでの作品が物語本編では個人とその周辺レベルでの動きだけを 追っていたのに対し、本作ではモロに社会全体に対して「自分の命を好きに扱う事は悪か?」と突き付けた点が大きな違いとなっている。新域の裏構想を 画策していた連中が「国家の実験場」を創り上げる事を狙っていたら、鉄砲玉にする筈だった斎にまんまとその計画を利用されて「人間の実験場」へと 仕立て上げられる展開は、国防族が元PKF隊員を利用しようとして逆に計画そのものを利用される「パトレイバー2」によく似ているかと この斎の計画の嫌らしい所は自殺という法で罪に問えない極めつけのグレーゾーンをフラフラと動いて、法の番人であるが故に法が及ばない所では 身動きが取れない司法組織や警察組織の捜査を封じ込めてしまっている所にある。で、あるが故に我らが正義の検事・正崎は「自殺教唆」というストーリー を構築してその証拠集めに走り回るのだけど、ほとんどが徒労に終わり、やっと見えてきたのは最初に自殺した六十数名が事件当日、国道十六号線を 新庁舎に向かって伸びる直線上で過ごしていた、という斎を逮捕するには何の材料にもならない情報だけ。元々が足りない時間を徒労に使い果たして 追い込まれていく正崎と捜査本部の面々の焦りの描写が続き、読んでいる側も息が詰まりそうになる展開が繰り返される その一方で、正崎は大切なパートナーだった文緒の死に絡む、もう一方の手掛かりになりそうな重要人物・曲世愛についての情報を集めるのだけど 京都にまで出掛けて探り出した曲瀬の過去があまりにもぶっ飛んでいた。精神科医である叔父がギリギリの所で探り出した、中学時代の曲世が起こした 「精神的凌辱」とでも言うべき奇妙な事件を通じて、曲世がいよいよ只者でない事が見えてくる中盤の展開を通じて終盤に向けての期待がムクムクと 湧きおこるのだけど… 斎が持ち掛けてきたNHC放送センターでの与党の大物議員にして怪物政治家・野丸龍一郎と野党のトップ三人を相手に繰り広げるまさに人類の倫理を 超える為の恐るべき仕掛けが展開される場面では読んでいる側も「あれ、自殺法ってそんなに悪く無いじゃん…?」と丸めこまれそうになるのが恐ろしい この法という「最小限の道徳」に縛られて、最も信頼してきた上司が新域の裏構想に関わっていた事を知った事である意味己の正義がぐらついていた 正崎だったけど、新域の裏構想の正体を明かして協力を求め続けた新しいパートナー瀬黒から向けられた「貴方にとって、正義とは何ですか?」という 問いに対する一応の答えは「正しいとは何かを考え続ける事」、「たとえ答えに辿り着いても、そこで考える事を止めない事」という代物。なんというか 90年代の傑作OVA「ジャイアント・ロボ」の名台詞「真実とは、問い掛ける事にこそ、その意味もあれば価値もある」を思い出す様な「答えを出さないから こそ正義は正義たり得る」と思考停止しない事こそが正義、という悟りに達する事に おー、これで遂に正崎は斎や曲世相手に戦う覚悟が出来たのか…と思ったんだけどねえ。斎も曲世も遥にその上を行っていた。特に曲世、こいつは 正真正銘の化け物。「アムリタ」の最原最早もかなりの化け物だったけど、曲世はその遥か上を行く。正崎が辿り着いた16号線を新庁舎に向かう 謎の直線の意味が明かされた時は、もう歯の根が合わなくなっていた。あの飄々としていた刑事・九字院が最後に伝えてきた曲世の恐ろしさは 一肇の傑作ホラー「フェノメノ」に出てきた「移動する悪意」に近い。こんな化け物とどうやって戦えと言うのか。そしてラストシーンで「点線が直線になる」 ある種のタイポグラフィが使われるのだけど「野崎まど劇場」では大笑いさせて貰ったタイポグラフィネタが、本作では血が凍る様な描写と化するとは… 野崎まどは悪魔的な才能を持っているのだと改めて思い知らされた。本当の恐怖というのはいきなり「バン!」と見せてしまうのではなく、微かに 見え隠れする「何か」の断片がジワジワと繋がっていった果てに全体像が見えてくる過程で味わえるものだと思うのだけど、今回野崎まどが見せた 恐怖はバラバラな点から成る点線が、繋がって実線と化し、曲世という女の本当の怖さを見せる様な見事な演出で読者に最高の恐怖を導くに至っている 作中で怪物政治家・野丸が語っていた「死を前に冷静に物事を判断できる人間はいない」という言葉を証明するかのように「正義とは問い続ける事」と 腹を括っていた筈の正崎が自らを「悪」と名乗り、その上で「私たちは似た者同士だから理解しあえる筈」と見せ付けた曲世の狂気によって遂に 最も忌み嫌っていた思考停止へと追い込まれて…いやはや、これは一体どうなっちゃうのだろうね?遂に誕生した斎が引っ張る最悪の新域議会と、 怪物・曲世、この二匹の化け物相手に正崎がどう再起するのか、それとも再起せずに堕ちて行くのか…どっちでも良いから早く次を!今度は9ヶ月も 待っていられない! | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!