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愛の渇き
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愛の渇きの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点5.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全1件 1~1 1/1ページ
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アンナ・カヴァンの世界は、深く掘られた地底から横に長い漆黒の闇を通り抜けるトンネル のようだ。無意識の深層世界からの声である。非現実世界、現実世界、夢想世界など、と登場 人物に語らせているが、それぞれの境界がはっきりしない。 構成は、第一章から第七章である。登場人物は、「女王」と「悪魔のおばあさん」とも呼ば れるリジャイナ、その娘ガーダ、ガーダの恋人となるヴァルとルイ・モンベーロ、短期間では あるがガーダの養母モナ・アンダーソン、ガーダの入院する「熱病専門病院」の親切な看護婦 ジーン、リジャイナやモナの赤ん坊をとりあげる青年医師などである。 物語は決して複雑な内容ではない。意地悪ばあさんや魔女が出現する昔話、童話の類である。 資産家の娘リジャイナは若いころ、ある伯爵の子供を産む。ガーダである。しかし、子供嫌い で、自分の身体を傷みつけられることを極度に嫌い、「赤ん坊はここにつれてこないように」 と、夫伯爵を悩ませ自殺に追いやる。青年医師の仲介で極秘裏に、赤ん坊を亡くしたばかりの モナにガーダを預ける。リジャイナは青年医師をはじめ男遍歴を始めるが自分の身体に触れさ せず、「自分の身体は唯一の愛の対象」という「女王」の立場を貫き、男たちを側近として使 いこなす。 ガーダは、リジャイナから「だいたいあなたはここにいるべきではなかった」と言われ、そ のうえ病身で、熱病にかかったりサナトリウムで療養したりで、家族の愛情をまともに得られ ず、常に「愛に渇いて」いる。特に母親リジャイナの冷酷さに不安や恐怖を感じ「意識ある世 界に戻りたくない」と言う。彼女の夢想の世界、自分の別の世界、空想の世界、どのような世 界であろうか。具体的に夢が描けないほど心が冷え切ってしまっている。誰も信用できないし 信用しようとも思わない。人生はどうにもできないもの、それに翻弄されている犠牲者の意識。 不幸せなのは自分が悪いからだと思う。どうしてなのか分からない。親切な看護婦ジーンとの 約束も自分から破ってしまう。結婚したヴァルや彼の雇用者であるルイから見放され「人生の 終わり、生き続ける理由はない」と淋しく池に身を投げる。かたや、リジャイナは七十歳くら いまで贅沢で我儘な人生を送り亡くなる。 優しかった青年医師はどうしたのだろう。ガーダの夫ヴァルとルイは、なぜガーダを邪魔者 扱いしなければならなかったのだろう。ガーダに郵送されてきた匿名の手紙は、ヴァルとルイ にどのような影響があったのだろうか。読み進める中で、多くの人がなぜ自然消滅していくの か、その他さまざまな疑問点が浮かび上がってくる。しかし、これらは「作品には関係ないよ、 視点が違うよ」と著者は笑っているかもしれない。 著者の筆力の凄さをうかがわせるのは、作中人物にくどいほど心理描写の応酬をさせている ことであろう。決して読み解けないような複雑な描写ではないが、いつまで続くの勘弁してよ、 と言いたくなるくらい暗く憂鬱な表現が続く。また、深層心理が突如吹き出し、人物の本質が 表出される。簡単に言えば「好きだよ」と言いながら、心は「嫌いだ」と叫んで、それに応じ て態度までクルクル変化していく描写である。どちらも、お互いにもう少し話し合えばわかる ことなのに、という読者の論理は通じない。例えば、リジャイナと青年医師やアメリカ人の夫 と息子、ガーダとヴァルやルイとの心理描写のやり取りはうんざりする。また、ガーダが熱病 で夢想する光景は著者特有の表現であろう。 最終章で、少女スーザンが、リジャイナの死後、リジャイナが使用すべきだったクッション のついた椅子に揺られながら「魔法使いのおばあさん・・・・」とうたい、最後の夫が「野蛮な本 性を称える原始人」の声を聴く。ユングの集合的無意識ではないが、人間の有する無意識域の 不可思議な声が著者には聞こえるのだろう。 読者は、著者の非現実世界、無意識下の幻覚、病的妄想など、現実世界から遠ざかる世界の 描写を淡々と読み進んでいくしかない。決して楽しくはない。これがアンナ・カヴァンの作品 であろう。訳者の改訳版ということで、非常に読みやすくなっている。 | ||||
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