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刑事たちの三日間
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刑事たちの三日間の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.50pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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アメリカ人作家アレックス・グレシアンが2012年に発表した “The Yard” の邦訳。 舞台は1889年のロンドン。前年に「切り裂きジャック」が街を混乱に陥れ、解決できなかったスコットランドヤード(ロンドン市警)に対して人々が不信を抱いており、また、その翌年には組織拡張による庁舎の移転を控え、大幅な組織改革が行われようとしていた時期です。19世紀末のロンドン住民の三割は貧困層であったとも言われており、1887年には失業者たちがトラファルガー広場に集まった「血の日曜日事件」が起きています。 それを反映して作中では、「切り裂きジャック」と同じく猟奇連続殺人事件が起き、名誉を挽回しようする警察官たちの姿が描かれます。警察組織の改変に取り組んだエドワード・ブラッドフォード卿といった実在の人物も登場します。くわえて悪質な児童の労働、劣悪な社会福祉、犯罪率の高さなど、その時代の社会問題がテーマにすえられています。 1887年に連載が開始された『シャーロック・ホームズ』に象徴されるように、そのころは科学捜査の黎明期であり、じっさいに同時代に導入された指紋照合技術が作中でも重要な鍵を握ります。司法解剖、二人一組での捜査も作中では新しい概念として登場します。そうした着眼点はおもしろいと思いました。 登場人物たちの道徳観は良くも悪くもかなり現代的。表向きは非常に保守的だったヴィクトリア調にしては進歩的でリベラルな価値観をもつ人が多く、感情移入しやすいものの、ファンタジーっぽさが強くなっています。 物語は群像劇のような形式で進みます。殺人犯の視点も描かれるだけでなく、謎解きする前に殺人犯が明かされるので、ミステリーというよりもサスペンスに近い。 けれどプロットはツッコミどころ満載。二種類の猟奇殺人事件とひとりの子どもの事故死が物語の動因となり、様々な登場人物たちの行動がからみ合っていくのですが、その結びつけ方が偶然に頼りすぎです。 警察官を狙った猟奇殺人事件では、サイコパスとはいえ知能指数が高そうな殺人犯は、自分の生活を守るためという動機にもかかわらず、遺体を見せしめのように置いたり、自分から警察官にアプローチする。とってつけたように警察に復讐したいというような心情を語られても、わざとヘマをして事件解決に導くために動いているようにしか見えません。しかも主人公刑事の妻にちょっかいをかけるエピソードはまるまる不要でしょう。凶器を血のついたまま捨てるのも、それを拾われてしまうのも不自然で、ご都合主義的でした。 もうひとつの猟奇殺人と、子どもの事故死をめぐる顛末はさらにひどく、展開が非常にお粗末なうえ、どちらも動機や心理がテキトーすぎます。ある人物をつけ狙う男が尾行の最中に簡単に色じかけに引っかかったりと、登場人物たちが露骨に物語の都合で動かされています。事故死をめぐるパートは私刑を容認する結末でしたが、そこだけ浮いており、強引さがいなめません。 結局、ふたつの猟奇殺人事件はともに最後は犯人のほうから姿を現しボロをだすので、指紋による捜査方法も生かされていませんでした。 人物造形も全体的に薄っぺら。みんな「いい人」「悪い人」といったていどの色分けしかなされていません。作者はとりあえず登場人物にまつわる過去のエピソードを挿入しておけば、キャラクターに深みを与えられると勘違いしているように見受けられます。 それらも解説で作者がグフィックノベル出身と知って納得しました。作者は絵に頼らず、文章だけでイメージをふくらませることができていません。比喩などのレトリカルな表現もほとんどなく、シンプルで読みやすいですが、散文的すぎて無味な文章ばかり。 小説とグラフィックノベルとでは、(質の優劣ではなく)リアリティの基準が異なることがわかっておらず、グラフィックノベルのリアリティで小説を書いているとも感じられます。「ミステリー」という以前に、「小説」として非常に雑な作品だと思います。 | ||||
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