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LAヴァイス
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LAヴァイスの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.25pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全11件 1~11 1/1ページ
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『v』をやっと読了して、難解な小説かと覚悟して読み始めたところ、スピーディーな展開でサクサク進めました。 映画化、納得です。 時代背景など難しい部分もありますが、キャラが立っているので勢いで読めちゃいます。 ピッピーブームがあった、くらいのことが分かればなんとかなるかも。 楽しかったです。 | ||||
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ロスの私立探偵「ドック」が主人公の探偵小説。傑作です。 「ドック」だけでなく、周りの人間のおバカの言動には何度も笑っちゃいました。 おバカが、まともで正常で、健常人が狂っているのかも。 殺されていなくなったと噂される悪者が生きていたり、 金の亡者が慈善事業を始めたり、 手足バラバラでコンクリート詰めで闇に消えたり、 何ともハチャメチャな展開。 事実を積み重ねて真実に迫り、事件の真犯人にたどり着く という、まともな探偵小説ではありません。 探れば探るほど、何が何だかわからなくなり、全体像が濃い霧に包まれていくような。 どいつもこいつも、大なり小なりの悪事を働いていて、嘘をついている。 手に負えん。 悪事と嘘にあふれているのに、悪人と嘘つきの人間の間には、不思議な連帯感、 と言うか、<お互いさま>みたいな、持ちつ持たれつの共通認識が本中に漂っています。 本書の登場人物たちは、こんな汚い世の中、世界の終りだと絶望するのではありません。 なんとか屁理屈をこねてでも、生き延びて行こうとするたくましいヤツばかり。 人間って意外と、しぶとい。 悪党たちと警察の、暴力と金をめぐるドタバタ劇が終わらない長篇小説。 悪党たちと警察の、なれ合いをめにする私立探偵。彼の目を通して描いています。 悪党がいなくなったら、警察は失業してしまう。どうしようもない、もたれ合い。 そんな腐った汚い世の中や社会は、病気だ。 そんな病気に立ち向かう正義の医者「ドック」! 残念ですが、本書は、そういう内容ではありません。 150センチに近い、背丈の低い小柄な「ドック」。 アメフト選手みたいな大柄の警官が道幅いっぱいに横になって向かってくると、 弾き飛ばされて横の側溝の中に転落してしまう、なさけない「ドック」。 がんばれー、と応援したくなる内容。 ドクター(医者)のふりをして、注射器を入れた赤い医者用かばんを持っているだけの 私立探偵「ドック」。 健康に悪いタバコは喫うし、ハッパやクサも大好きな「ドック」。 社会の病理を暴いて治療してやる、なんて大それたことは、考えたこともない「ドック」。 ロスでは悪党たちと警察のなれ合いみたいな関係が長年続いており、 悪党や私立探偵までも抱き込んで犯人逮捕の成績を上げようとするイカサマ刑事もいます。 もうもうのタバコの煙と霧の中での悪党たちと警察の駆け引き。 悪党は野球のバットで痛い目に合わせてやれと指導する警察刑事。 優しいドックは、インチキな医者用かばんを小道具にして、悪者を脅すだけ。 インチキ刑事のビッグフットは、せっかく貸してやったバットをなぜ使わなかった とドックを叱る。 どっちがバッドなのか。ビッグフットのほうが悪人たちよりバッドだぜ。 そんな話が、おもしろおかしく長々とダラダラと書かれています。 これだもの、巨大な警察機構があっても、社会から悪党がいなくならないわけだ。 そんな現実の社会状況がていねいに書かれているので、リアルに感じる小説です。 単純な犯人探しではどうにもならない探偵小説。 絡み合った現実社会への問題提起。 でもなさそうです。ピンチョンはただただ、ひたすら書き綴っているだけみたいです。 バカでアホで間抜けでなさけなくて、どうしようもない探偵の姿は、 実はピンチョン特有のカモフラージュだと思います。 ろくでもない、どうしようもない世の中で、 しょぼく生き抜く悪党たちの生きざまをまじかに見て学んでいるドック。 安易な問題提起は嫌いな作家のようです、ピンチョンは。 ピンチョンという人間の存在自体が、問題提起になっています。 全米図書賞を受賞したのに、わけのわからない言葉をつぶやくばかりで、 授賞式にも現れなかったピンチョン。 本書のドックそっくり、というか、ドックそのものみたいです。 ピンチョンだったら、ノーベル文学賞をもらったとしても、 <郵送してください> なんて言っちゃって、 もったいぶった授賞式のスピーチなんかはしないだろうな。 人間だれしも、表の顔と裏の顔があり、 それらが相反していることも稀ではありません。 本書の悪党たちや警察の背後には、医者とか弁護士のような社会の中枢の人間が、 FBIやCIAといった組織の人間の姿が見え隠れしています。 人間の矛盾した心は、善と悪のはざまで複雑に揺れ動きます。 根っからの善人とか、悪人はいません。 目には見えない心の揺れ。常に揺れ動いている心。 善人、悪人の二分論での犯人探しは間違いのもとです。 悪党たちも警察も、やばいな、と感じることは下っ端や部下にやらせます。 本当の悪人は、いつまでも無くなりません。 この本に登場する男と女の関係も複雑です。夫婦の間もややこしい。 多数の男女が絡み合っていて、読者はこんがらがってきます。 ドックと検事補のラヴまであって。 本書の帯にある「主要登場人物」リストだけでも、50名。 こんだけいて「主要」とは? 他にも、たくさんの主要でない人物が登場します。 本書を読むとき、この「主要登場人物」リストは手放せません。 主人公のドックは、おバカな探偵かと思いきや、なかなかのやり手です。 ドックの頭(勘)の良さは、警部や刑事や検事以上。 いつも彼らの先回りをして関係者に探りを入れています。 「ドック」と言うあだ名(077頁)は、 CIAも使っている自白血清を滞納者たちへ注射するぞと脅すための小道具 (皮下注射用の装備一式)を入れた赤いボックスから来たもの。 終始、おバカな会話のやり取りばかりです。 そんな会話の膨大な積み重ねの中から、裏社会のとてつもなく醜い実像が 霧の中からぼんやりと浮かび上がってくるようです。 500頁以上の長篇小説の最後だというのに、締めくくる言葉は、こんな風です。 「路肩につけて待たなくてはならない。何を? 何であれ。とにかく待つ。どこからか忘れていたハッパがヒョイと出てくるのを。通りかかったハイウェイ・パトロールのバイクが、彼を虐めずにいてくれるのを。スティングレイに乗ったブロンド女が停まって退屈しのぎにドックを載せてくれるのを。霧が晴れ、その後にどうしてか、今度は別の何かが出現するのを」(503頁) 「とにかく待つ」が結論かい? 暗中模索。理屈抜きの探りの霧の中から偶然、晴れ間が出てきて、別の展望が見えてくる。 行き当たりばったり。運任せのようでいて、結果的には事件の真相に近づいていくドック。 社会の深層に迫っていくドック。 不条理の事件を追う探偵は、行動も不条理。 筋の通った説明なんか、ありっこないのかも。 この世に真実なんかない。全部、嘘に見えてきてしまいます。 テレビの探偵もののドラマのように、一時間後に必ず解決する事件なんて、 作り話。嘘のホラ話。 なるほどと思える結論なんて、本当なのか? この本を読むと、そんな都合の良い、理屈に合った結論なんかいらないと思えてきます。 風の吹くまま流れていって、風任せの船旅のように、 ラリラリ、ラリのラリパッパと歌いながら、 時々晴れ間の霧の間から、垣間見られる醜い現実。 同時に、チラチラ浮かび上がってくる人間の善意。 捨てたもんではないな、人間。 悪人もいれば、善人も必ずいる。 健康な人も病人もいる。 みんなが程よくバランスをとりながら、社会を構成している。 この世が善人ばかりになるはずがないことは、歴史が証明している。 悪人ばかりにならないように、善人は知恵を絞ってきた。それでも、このありさまサ。 本書を読み終わって、ドックに癒されてリラックスしている自分を発見しました。 傑作で笑っちゃいました。でも、ただ笑ってていいのかな? | ||||
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非常にとどくのが遅いと思っていたところ、割と早く届きました。ビニールのカバーと帯も付いていて満足です。本そのものはこれから読みますが、きっと面白いと思います。 | ||||
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ピンチョンも日本語で全集とかでるようになってすごいなあ、って思いますけどいざ読もうとしてみると読み切ることができないですね、正直なところ。そんな中でこの本は難易度が競売ナンバー49の叫び程度というか、なんとか読み切ることができました。 僕が読めないなりにピンチョンを好きなのは目の前のバカバカしい世界とは別に、その背後に本当の世界があるんだけど自分には理解できないみたいな感覚が好きでその一瞬に会うために延々わからない文章を読んでるみたいなところがあります。それが何なのかを理解できないまま僕の人生も終わりそうだけど。 | ||||
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ラリラリヒッピー主人公だけに虚実不明な軽さ。だが国家の原罪を一地域に投影した主題は重い。 | ||||
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この本の前に読んだもの 車谷長吉 赤目四十八瀧心中未遂 夏目漱石 吾輩は猫である 太宰治 斜陽 豚に真珠とは、誰が言ったか? 1.あらすじ LAの私立探偵ドック・スポーテッロのもとへ依頼がくる。元恋人シャスタ、黒人過激派タリク、元ヘロイン中毒者ポープ、その夫でサックス奏者のコーイ、古楽器奏者トリリウム。彼らの依頼は曖昧で報酬もあったり、無かったり。(契約書の国アメリカという気がするが。)弁護士ソンチョも同様。また、LAPDのビッグフット、FBIのエージェントからも懐柔の誘い。それぞれの依頼が絡み合ったりしながら進む。 2.語り方 三人称。スポーテッロを中心に進行する。川、湖、雨、霧など水のイメージが肯定的に使われる。 3.構成、配置、対応関係 複数の案件の調査を通じ進行する。真ん中の11章で新約聖書が強く暗示される。復活、教会、奇跡、イエス、復活時の使徒11。そして、スポーテッロの移動が忙しなくなる。地中海沿いの地を南北に旅するイエスのように。また、自動車の名称が頻出するが、スポーテッロの車名は、ここでやっと登場する。宗教との関連で言えば、仏教の小乗、大乗というのは、教えを乗り物と喩え、人生や思想を運ぶものと捉えたものらしい。 帯にある人物で50名ほど。一度しか出てこず、スポーテッロと語り合う数名は重要なようだ。 シャスタ Shasta は、州北部の霊峰。また、その地の先住民シャスタ族からか。シャスタ山の水源はサクラメント川を辿り、サンフランシスコ湾へ注ぐ。水、湖も浄化のイメージだろうか、作中しばしば用いられている。 ウルフマンは、ドイツ系ユダヤ人。北欧神話では、狼は勇敢を象徴するようで、争い合う神々にあっては重要なようだ。 スポーテッロは、イタリア系であることから、ローマとキリスト教との関連でパウロ或いはピラトか。 キリスト教に関連させれば、ドイツはプロテスタント、イタリアはカトリック、そして、30年戦争、ウェストファリア体制。 キリスト教と先住民との関連では、南北アメリカ、アフリカ、プロシアも侵略された。 定住と放浪との差もある。新興不動産業者、フリーの住居、正しい場所。定住する律法学者と放浪するイエス。 4.共感、反感、疑問 「みんな」や愛に疑問を持ち、優しさには敏感なスポーテッロ、なるほど。 執拗なチャールズ・マンソンの名。ニクソンとレーガン、特にニクソンの「自由のためのファシズム」p.168それと連なる「州立の精神病院をほとんど閉鎖」したレーガンp.235 声高の反共ではなく、自己責任と協調の強要。「みんな」と「愛」を疑問視するスポーテッロと対立する。 グレン、ルーディ、エル・ドラノの死は、とってつけたような説明で釈然としない。ビックフットの相棒の死も誰が何故依頼したのか。また、トリリウムとボリスの経緯も曖昧だ。 5.特色、社会的・文学的関連 車名や映画、テレビ番組やポップミュージックとならび米大統領や過激派やギャングが登場するが、多くは実在する/したものだ。エピグラフはパリ五月革命の落書きを引用し、この言い回しとその背景は、LAヴァイスのみならず、ピンチョンの作風を暗示している。投石とビーチ。 文学的には、多くの挿話により物語の輪郭を浮かび上がらせるような、物語の虚構性を構成によって示すような初期の作風とは異なり(この物語に対する再帰的批判的観点は、歴史や因果律への批判へと導くだろう)、探偵小説のように読める。ここでは挿話の代わりに多数の人物が登場する。真実らしきものが明かされる場合もあるし、そうでないこともある。コーイについては、その錯綜した関係・経緯がかなり明らかにされ、ゆえに解決されたようだか、これは大海の中の孤島のように、まわりは曖昧なままのようだ。 フランス革命では三重の徴税から農民は逃れたが、公有地を奪われ皆徴兵制が布かれた。パリ五月革命では、学生たちは暴徒として鎮圧され、中産階級からは鎮圧の対象、管理すべきものと看做された。中国宥和政策、ドルショック時はどうか。 | ||||
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ロサンゼルス(LA)の私立探偵 “ドック” ことスポーテッロの事務所に、昔の恋人シャスタがやってくる。シャスタは現在、キナ臭い噂の多い大富豪ミッキー・ウルフマンに愛人として囲われていたのだが、彼女いわく、ウルフマン夫人が不倫相手と一緒にミッキーに対する策謀をめぐらしているという。シャスタに真相を突き止めてほしいと依頼されたドックは、彼女への未練から依頼を引き受ける。しかし調査を開始したドックは殺人現場に遭遇してしまい、殺人容疑をかけられてしまう。そのうえミッキーもシャスタも失踪してしまい…。 原題は “Inherent Vice”。意味は海上保険用語でいう「固有の瑕疵」で、海上保険会社が保険の対象にしたくないモノの性質を指す(たとえば、卵などの割れやすく腐りやすいもの、故障が疑われる船などの性質)。 本作は、美女に依頼を持ち込まれた私立探偵が殺人事件に巻き込まれる、というハードボイルドの定型を踏襲している。けれど異なるのは、舞台が1970年ごろのヒッピー天国のLA、主人公の探偵もヒッピー文化にどっぷり浸かったドラッグ・ジャンキー、という少しひねった設定だ。ハードボイルド小説に不可欠なワイズクラックもどことなくヒッピー・ライク。 “ ウォーターゲート事件 ” で有名なニクソンが大統領だった時代を舞台にしていることもあり、国家権力主導の監視社会に対する風刺もふんだんに盛り込まれている。たとえば作中で、インターネットの前身となったシステムによる情報収集の利便性に対して、ドックはいつかは国家からストップががかかるという。いわく、 「LSDで、オレたちに、連中のお気に召さないことが見えてしまったときどうなった。非合法化されただろ。情報だって同じさ、どこが違う?」(p.266) こうした皮肉のきいた社会風刺もハードボイルドの醍醐味だし、そのなかにもヒッピー的感性がふくまれているのが本作の個性といっていいだろう。 それでもやはり、国家機関のひとつである警察が権力を増してしまい、ハードボイルド小説を成立させていた土壌がやせ衰えていった時代である。そのことへの哀愁がうかがえるセリフもある。 「なんつっても私立探偵は消えゆく種族だ。何年も前からそうだ。映画やテレビを見れば分かる。昔は偉大な私立探偵が目白押しだった。フィリップ・マーロウ、サム・スペード、それに探偵の中の探偵、ジョニー・スタッカート。警官なんかよりずっと頭が切れて、プロ中のプロで、事件だって最後はきっちりきれいに解決した。そのあいだ警察は間違った手がかりを追っかけて足手まといになるばかりだ。」(p.136) 探偵から警察への「ヒーロー」の変遷を、ねじくれたかたちで象徴するのが、“裏” の主人公であるビョルンセン刑事、通称 “ビッグフット” だ。自称「ルネッサンス警官」であるこのインテリ刑事は、テレビの刑事ドラマにも出演する野心家でもあるが、どこか警察機構から外れてしまった存在である。そんなビックフットも、殺人事件がひとつの “見世物” であった時代が終わり、チャールズ・マンソン事件に代表されるように、陰湿で複雑化していく時代を嘆いてみせる。 「どいつもこいつもゲロい趣味に嵌りこんで殺人のフィールド全体が様変わりだ。バイバイ、ブラック・ダリア (中略)古き良きLAの殺人ミステリーの時代は終わったのよ。」(p.286) また本作では、映画、テレビ、音楽といったポップカルチャーや、実在の人物や事件などの同時代ネタが、脚注でもカバーし切れていないほどふんだんに盛り込まれている。自分も読んでいてほとんど知らなかったし、よほどサブカルチャーもふくめたアメリカ近現代史に明るくなければわからないであろうネタばかりなのだけれど、そうした細部へのパラノイア的なこばわりは、LAを中心にしてアメリカの暗部をえぐる作家ジェイムズ・エルロイに似ているようにも思える(そういえば、エルロイの処女作も『ブラック・ダリア』だった)。 本作のエルロイとの類似点はほかにも、アメリカ建国以来続く白人至上主義への苛烈な批判が挙げられるだろう。本作では薬物問題や黒人をはじめとする人種問題など、アメリカ白人史の暗部が激越なタッチで、しかしながらエルロイとは異なり滑稽さをにじませながら描かれているのだ。 そしてピンチョンにとって、その暗部を抱えるLAこそが “inherent vice” なのである。というのは作中で、海上保険関係を専門とする弁護士の友人と話しながらドックが、LAを船に見立てれば、カリフォルニアの地震源であるサンアンドレアス断層に乗っかっていることから、「固有の瑕疵」ではないかという。くわえて、その直前にドックが意味を勘違いして「それって原罪みたいなものか?」と問う場面があるように、 “inherent vice” を直訳すれば、「あるものに生まれつきから備わっている悪」である。したがって本作で描かれるのはアメリカ白人社会の抱える、LAという「固有の瑕疵=内在する悪」といってよい。 その描き方の偏執狂っぷりはすさましく、読んでいてヤク中の主人公ドックと一緒にピンチョンの世界にトリップしてしまうかのようだ。 といっても本作は人におすすめしたくなる小説ではない。長いし冗長だし、登場人物が多すぎるうえに頻繁に過去のエピソードが挿入されるので混乱しやすいし、ハードボイルド風味なわりに「ミステリー」としてのデキは悪い。けれど不思議な中毒性を持った作品だということは間違いないし、ハマる人には間違いなくハマる小説である。 | ||||
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シラフのときなんてほとんどない!しかも、会社の名前もLSD探偵社っておーい!というツッコミどころ満載のヒッピー探偵ドック。 そんな彼の元に来た小さな依頼を調査しているうちに、知らず知らずに大きな事件に巻き込まれていく。 ついページを急いでしまいたくなる気になる展開、軽快な文章が作り出すドライブ感、随所に張りめぐらされたユーモア、もうこれすいすい読み進めてしまう! ピンチョンでこんな本あったっけ?いや、ほんとピンチョンの長編小説の中ではいちばん読みやすいんじゃないだろうか。 終始おふざけコメディタッチのサスペンスなんだけれども、ここがやはりピンチョンと言うべきか、通底にはしっかりと社会を見据えたテーマがある。 「この世をほのかに照らすと思われたサイケデリック・シックスティーズの光も結局ついえて、すべては暗黒へ還っていくのか・・・ 闇の中から何やら恐ろしい手が伸びてきて<時代>が収奪されるというのも、マリファナ吸いから煙るクサを奪ってもみ消すぐらい簡単なことなのか。」 これ、『ヴァインランド』にも立ちこめていた空気。LOVE&PEACEが強欲な資本主義に呑み込まれていく。愛と平和が金と権力に屈していく。 70年代のニクソンで傾き、80年代のレーガンには息の根を止められてしまう。そう、アメリカの自由を失っていくプロセスが描かれているのである。 原題は "Inherent Vice" 訳すと「内在する欠陥」。これきいてなるほどと思ったね、ピンチョンはアメリカの「内在する欠陥」を描き続けてきてるんだな、と。 まあ、とても簡単に言ってしまうと「資本主義に対して笑いながらなんとかやってこうとおもうけどやっぱりつかれるよね」ってことかな。 2014年、ポール・トーマス・アンダーソンが映画化するんやて、こりゃ楽しみだ。 | ||||
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題名のInherent Viceは物事に固有の欠陥という意味。探偵小説なので一方に犯罪集団、他方に警察、司法組織が描かれ、どちらもInherent Vice に満ち溢れた存在。ただ、それを外側から声高に糾弾する訳ではない。何故なら主人公と仲間たちもInherent Vice であることに変わりないからだ。犯罪集団と警察司法組織に絡みつつ展開していくところが面白い。終盤にはInherent Vice が船、ロサンゼルス、アメリカそのものにイメージが展開していく。私はなぜ題名をLAヴァイスにしたのかがわからない。もったいない気がする。 | ||||
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「LAヴァイス」(トマス・ピンチョン:栩木玲子、佐藤良明 訳)を読んだ。この人の本は2冊目。どうもいまひとつ私はトマス・ピンチョンという作家の文学的価値について理解できずにいる。でもまあ今回は少なくとも「競売ナンバー49の叫び」よりは面白かったと言える。 私の好みから言えば無駄に饒舌だったり、センチメンタリズムが少々鼻についたりするけれど、登場人物(ちょっと多過ぎるけど)がいきいきしてる。特にLAPDの『ビッグフット』がすごくいいな。 82頁2行目がどうにも理解できなかったのだが、出版社に問い合わせをしてとりあえず納得。 読み出はあるけれど、お勧めです。 | ||||
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ピンチョンの小説がわかりにくく感じるのは所謂小説的な構造が明確ではなく「テーマ」「ストーリー」「主人公とその敵対者」があいまいだからだと思う。それでもこれはピンチョンとしてはストーリーが明確なほうだが。 ピンチョンの魅力とは何だろう?何かを構造的に語るのではなく、語ること自体で1つの完結した世界を生み出していること。生み出された1960〜1970年代のLAはパラノイアと妄想と謎とマニアックな細部に満ちたリアリティのある世界だ。 つい、この時代のLAに生きてみたいと思ってしまう。途方もなく魅力的な小説世界であると思った。 | ||||
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