スロー・ラーナー
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あらすじ
華氏37度で変わらぬ外気、階下では終わらぬパーティ。温室のような部屋でひそやかに暮らす男と女は終末の予感のなかで―鮮烈な結末と強靱な知性がアメリカ文学界に衝撃を与えた名篇「エントロピー」。“革命”を夢見る少年たちの秋を描く、詩情溢れる「シークレット・インテグレーション」、年間最優秀短篇として『O・ヘンリー賞作品集』に収録され、デビュー長篇『V.』の一章へと発展してゆくスパイ小説「アンダー・ザ・ローズ」など、眩いほどの才能に満ちた全五篇、著者唯一の短篇集を新訳。ダメキャラに熱力学、ゴミに機械に帝国主義、スパイ、神話、ポップ・カルチャー…。のちのピンチョン作品の萌芽を見るもよし、一篇たりとも読み逃せない作品群に加え、作家本人による仰天のこき下ろし自作解説、訳者による目から鱗の解説・訳註を収録。(「BOOK」データベースより)
外部リンク
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評判
スロー・ラーナーの評価:
0.00/10点 レビュー 0件。 C ランク
スロー・ラーナーの総合評価:
7.33/10点 レビュー 9件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
Amazonレビュー
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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最近、本屋さんでたまたま『スロー・ラーナー』という表題を目にしたとき、瞬時に間違いに気づきました。そして、手にした単行本のタイトルSlow Learner=「頭のとろい奴」とは、他ならぬ僕自身のことなんだとはたと思ったのです。
本書は2年前に刊行された新訳(佐藤良明)です。作者のトマス・ピンチョンは謎の作家(公式の場に現れない)にして寡作(時には10数年のブランク)、しかし待ちあぐねた作品はいづれも長篇(どちらかといえば超長篇)で期待に違わぬ良質なもの(彼の先鋭的な読者は失敗作という基準を放棄している)、ゆえに本書はピンチョンの学生時代(1959年代後半)の習作が読めるということで貴重なものとなっています。
処女作にはその後の作品で開花する要素のすべてが胚胎してると言われますが、解説によればピンチョンにとってこれらの小品は本番前のリハーサルのようなものだったそうで、事実、本書の最初に掲げられる「イントロダクション」(作者自身による言い訳)には、これらは徒弟による試し書きで、今読むのは当人にプライドにとってたいへん辛いことだ、と書かれています。「学習遅滞者」というタイトル自体が自虐的です。だからといって本書に収められた5つの短篇がダメで残念な作品ばかりというわけではありません。
「スモール・レイン」や「ロウ・ランド」は当時流行の実存主義的な香りのする文学志向の作品です。「エントロピー」は長篇を除けば、ピンチョンにとって最も有名な作品。訳者によれば、アメリカの名高き文芸誌に掲載(1960年春)され、後の年間ベスト・ストーリーの一遍にも選ばれたそうだ。この熱力学の概念は本短篇では効率のメタファーで、使える物がどんどん減っていくさなかに、役立たずの仕事ばかり積み上がっていくというような意味。ピンチョンの作品のを読むのに別に物理学や化学、情報工学、量子力学といった知識は必要ない。それらは他の多くのオタク的サブ・カルチャーへの言及と同じような扱いでよろしいかと思います。あくまでも記号として分っているつもりで読み進めばよろしい。
「アンダー・ザ・ローズ」はある国のさほど遠くない過去における出来事、スパイやエージェントがうごめく歴史の表舞台、錯綜する思惑、ゆえにことはシナリオ通りにいかず、しかし豊饒な物語の中、猥雑で過剰な語り口が行き当たりばったりに陰謀史観を吐き出してしまう。「シークレット・インテグレーション」はピンチョンにしてはビックリするくらい真面で正統な作品。凝っているのは題名くらいか。これは雇われ職人が注文に応じて作ったものらしい。雇い主は『サタデー・ナイト・イブニング』、他の四篇の媒体とは違って由緒ある歴史と大衆的な人気を誇る雑誌だそうだ。これを通俗と片づけるほど僕はシニカルにはなれません。素直に楽しめるし泣けました。イマジナリー・フレンドを中心とした少年たちの、ささやかな反抗のためのはかなき紐帯。僕にとってはスティーヴン・キングの「THE BODY(死体)」(映画スタンド・バイ・ミーの原作)に匹敵する思春期小説です。