■スポンサードリンク


双頭のバビロン



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

双頭のバビロンの評価: 4.64/5点 レビュー 14件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.64pt


■スポンサードリンク


Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(3pt)

高度

二段組みで小さい文字…読み応えはあります。
すごい描写が細かくて感心するのですが、私には少々難解
でも、読み進むうちに「あ、これはこれとつながっているんだ??」と
だんだん謎が解けてきました。
難解ファンタジー好きには良いのでは??
双頭のバビロンAmazon書評・レビュー:双頭のバビロンより
4488024939
No.1:
(3pt)

幻想・怪奇文学の巨匠が作り上げたこの豪華絢爛の迷宮をさまよう楽しさ

皆川博子氏、80歳の高齢であられる。 『開かせていただき光栄です』では英国流の本格探偵小説という洒脱な新ジャンルに驚かされたが、今回は 『死の泉』以来十八番の幻想・怪奇を装う壮麗な大浪漫であり、そのエネルギッシュな創作活動にあらためて頭が下がる。

冒頭は1929年の上海。フランス租界の一角にある最低辺のスラム街・「大観里」が描かれる。糞尿にまみれた道路には腐敗した死体の死臭が混じる。鴉片(アヘン)窟、淫売宿で快楽の果てに死を待つものたちのうごめきはぼんやりとした影絵を見るようだ。たまたま船戸与一の『満州国演義・雷の波濤』を併読していたのだが、ここには満州国「大観堂」の同種の情景が描かれている。船戸与一は凄惨なリアリズムで,、この状況を生んだ侵略戦争を指弾するのだが、皆川博子の場合、あえて社会性を排除し、人間の本質に潜む陰翳として描写しているように思われる。

そして舞台は一気に1892年、ウィーンへと遡る。肉体が癒着した主人公の双子が誕生する。ハプスブルグ帝国が崩壊する直前、最後の輝きを放っていたころである。

裏表紙のやや詳しい紹介によれば。
「爛熟と頽廃の世紀末ウィーン。オーストリア貴族の血を引は、ある秘密のため、引き離されて育てられた。ゲオルクは名家の跡取りとなって陸軍学校へ行くが、決闘騒ぎを起こし放逐されたあげく、新大陸へ渡る。一方、存在を抹消されたその半身ユリアンは、ボヘミアの<芸術家の家(癲狂病院)>で謎の少年ツヴェンゲン共に高度な教育を受けて育つ。アメリカで映画製作に足を踏み入れ、成功に向けて邁進するゲオルクの前にちらつく半身の影。廃城で静かに暮らすユリアンに庇護者・ヴァルターから課される謎の実験。交錯しては離れていく二人の運命はそれぞれへの戦場へと導かれていく。動乱の1920年代。野心と欲望が狂奔する聖林(ハリウッド)と鴉片と悪徳が蔓延する上海。二大魔都を舞台に繰り広げられる、壮麗な運命譚(グランドオペラ)」

物語は一章ごとにゲオルクとユリアンと、語り手を変えてすすんでいく。1892年から1931年くらいまで、激動するヨーロッパ、アメリカ、中国を舞台に二人の数奇な人生が語られる。

存在を否定されて育てられたユリアンの語りはひどく病的だ。幻覚、幻視、幻想、誰かにインプットされた偽りの記憶などが推測も含めて事実とないまぜに独白がすすむ。そして彼はヴァルター博士の実験の結果、ゲオルクとの記憶の共有、ゲオルクへの遠隔憑依も可能となっていた。
一方でゲオルクの場合、ほぼ事実を語っているようだが、双子同士の精神感応という不可思議現象を体験する。
交互の独白はその間の時間軸は大幅が大幅にずれているため交差しない。とにかく入れ子構造の組み立ても含め、読者はこの夢幻の世界に翻弄されるのである。

さらに後半になって両者の時間軸が一点に向けて接近し始めると、これまでとは全く異なる実相が見えてくる。
著者はこのように極めて技巧的なミステリアスワールドを展開させてみせる。

いわば叙述の意匠で精緻に組み立てた工芸品といえる作品なのだ。
これでハリウッド映画産業についての興味あふれる挿話がなかったら、わたしはあまり感心しなかったろう。
悲運にもくじけず、ハリウッドで映画監督を目指したゲオルク。トーキー前夜、映画産業の勃興期にあったハリウッドのディテール。栄光とスキャンダルの業界。彼は大衆迎合型の制作姿勢に反発し、ヨーロッパにあった映画芸術の道を切り開いていく。そして苦闘と成功と挫折。上海では京劇に刺激を受け、ドイツで復活するまで、映画史を背景にした波乱の人生。全編を流れる怪奇・幻想のムードとは異質にここだけがリアルに浮かび上がって楽しむことができた。

恋愛小説とするならこれはユリアンとツヴェンゲル、二人の少年の愛の物語であるのかもしれない。俗人の年寄りであるわたしだからだろう、二人の愛の形に薄気味悪さ、おぞましさをおぼえるのだ。著者の意図するところもそうだと思うのだが、これは背徳の行為を妖しく隠微に描いた耽美主義そのものであって、すなわち反俗の精神が横溢した文芸作品のはずである。ライトノベルであるはずはない。ところがどうだろう。最近では同性愛とかホモセクシャルと言わずに、「ボーイズラブ」だ。やれ背徳だ、反俗だ、デカダンスだなどとはお構いなし。あたりまえのように美しいものとして転化してしまっている………著者の意図が空回りしているのでは?………と感じるのは時代遅れなのだろうね。

ところでタイトルの『双頭のバビロン』だが。「双頭」は癒着型双生児のイメージだとして、はてこの意味深長な「バビロン」とは何を象徴しているのかな?ハプスブルグ家の紋章「双頭の鷲」を思い浮かべればウイーンあるいはオーストリア、その貴族階級の栄光と没落なのであろうか。コピーで二つの魔都とされている上海とハリウッドをさすのか。「栄耀栄華を極めた退廃と悪徳」のイメージはしかしこの双生児の物語との関連ではいずれもピタリとはおさまりにくい。「バビロン」を「捕囚」とか「流刑」の意味合いにつなげれば閉塞空間で育てられ、拘束されたままに生きた(捕囚)ユリアンを指すのかもしれない。そしてその反作用として名門家から廃嫡放逐され(流刑)、自由な世界に果敢に生きたゲオルクを対峙させたのだろう。

本来、もう一度念入りに読み返さないと著者の仕掛けた謎は解明できないのだが、それでは味気ないものになってしまいそうだ。

豪華絢爛の意欲作である。
双頭のバビロンAmazon書評・レビュー:双頭のバビロンより
4488024939

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!