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いたって明解な殺人



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【この小説が収録されている参考書籍】
いたって明解な殺人 (新潮文庫)

いたって明解な殺人の評価: 3.00/5点 レビュー 4件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.00pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

人間の利己心や異常心理を描き尽くす異端の作風ですがミステリーの出来は一級品です。

アメリカのクライム・ノベルの分野に新風を巻き起こす期待の新鋭ジャーキンスの現在映画化も進行している注目のデビュー作です。翻訳者の二宮磬氏があとがきで述べられている、特異な構成のミステリーで「心理サスペンス」「リーガル・サスペンス」「法廷ミステリー」を兼ね備えている点、2つの長いエピソードが作品にふくらみをあたえている、という意見はとても興味深く参考になりました。私は本書を読んで全編を覆う人間が内に秘めた利己心や異常心理を余さずにこれでもかと描き尽くす著者の異端の作風を強く感じました。
悩める夫アダムが帰宅して発見したのは、居間に転がる頭を割られた妻の遺体と傍らにいる知的障害の息子だった。この一見明解その物の殺人に疑問を感じたのがかつての検事補で今は閑職に追いやられながら心中密かに再起を狙う検事局のレオである。やがてアダムは殺人罪で獄中に捕われ、レオは昔の部下で今は立場が逆転した検事補ポーラに自分の手柄を横取りされて、それぞれの思いを胸に悶々としていたが、遂に始まった裁判の局面で二人の運命が劇的に交差するのだった。
本書を読んで低く評価された方の理由を私なりに考えますと、きっとヒューマニズムなどとは無縁の人間の醜さ汚さを前面に押し出すえげつない作風と、読後どうにもやり切れない気分になる結末の部分から受ける印象が大きなウエイトを占めるのではないかと思います。確かに完全な善人が全く出て来ない悪人だらけの物語は読むのがしんどいですが、私は全否定するのでなく著者の姿勢と動機を徹底した社会風刺と捉えたいと思います。法曹界に限らず出世主義がエスカレートする風潮は致し方ないとしても、その時の勢いによって判断がころころ変わり決定的な証拠が忘れ去られる事は現実の裁判では絶対に起きて欲しくないと強く思います。そして特に人間心理を利用したミステリーの仕掛けとテクニックは単純でありながらも実に効果的で素晴らしいと思います。一瞬ペリー・メイスンの世界の再来と思わせる展開で読み手を感心させてから、更にもう一捻りを見せる流れは独創的な鮮やかさでまさに一級品だと思います。また2つの長いエピソードが書かれた真の意図が最後に明らかになる辺りの巧さにも感嘆し脱帽しました。心理描写については薄っぺらにする事による風刺の効果とプロット上曖昧にせざるを得ない必然性から著者の姿勢が完全に理解出来ます。しかし唯一アダムの兄モンティの最後の態度だけは信じられない瑕だとは思います。
異端的な作風から孤高の作家という印象が強い著者ですが、今時にはない短さでコンパクトに長編をまとめる才能と鮮やかなサプライズ・エンディングの技を駆使して一作毎に違った趣向で勝負してくれる事を期待して今後注目して行きたいと思います。

いたって明解な殺人 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:いたって明解な殺人 (新潮文庫)より
4102178511

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