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(短編集)

遠きに目ありて



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遠きに目ありての評価: 6.67/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

車椅子の名探偵

探偵が登場する本格ミステリはあまり好みでないですが、これは良かった。本格物は謎解きにばかり主眼が置かれるために、物語の背景や登場人物の心理がお座なりにされている傾向を感じずにはいられませんし、どうしても探偵はハードボイルドなイメージが拭えません。
ですが本作は本格ミステリであるにも関わらず、温かみのあるキャラクターが魅力的でした。一つマイナスなのが禅問答のような会話で、最後の解決の場面を読んでもわかりにくいです。はっきり言えよって思うはずです。

短編集ですが、短い中で二転三転し、どの作品も普通には終わりません。ありふれたトリックもありますが、2話目の「宙を飛ぶ死」には驚嘆しました。

陰気な私は地球を回さない
L1K3MG03
No.2:
(6pt)

アリバイ崩しの短編集に新鮮味はありません

それぞれのエピソードに登場する人物が多すぎました。謎解きは工夫されたものでしたが話によっては狡いなと感じるトリックもありました。

わたろう
0BCEGGR4
No.1:
(8pt)

今読むと古さを感じることが障害者への理解が進んだ証

くどくなるが、この作家も創元推理文庫で作品が出ていなかったら、全く手に取ることの無かっただろう。そしてその出会いは私にとって実に有意義な物となった。

本作は脳性麻痺で車椅子生活を強いられている信一少年が成城署の真名部警部が持ち込む捜査が難航している事件を明敏な頭脳で解き明かすという典型的な安楽椅子探偵物の連作短編集。しかし特徴的なのは安楽椅子探偵を務める信一少年が身体障害児であり、それに関する社会問題も提起しているところにあるだろう。収録されている短編の初出はなんと76年と30年以上も前のことながら、90年代になってようやく人々の意識が向きだしたバリアフリー不足の問題など、障害者が社会では生きるのには厳しい状況について触れられているのが興味深い。今その視点で読むと、既に使い古された内容と感じるかもしれないが、私が本作を読んだのは90年代の初めの頃だったので、このような内容は実に新鮮で、けっこう心に響いた記憶がある(まだ純粋だったのだね)。この信一親子にはモデルがあり、なおかつ天藤氏が当時から親交の深かった仁木悦子夫婦との付き合いも手伝って、身障者を主人公にしたミステリを書いたことが解説で触れられている。

で、それだけのミステリかといえばそうではなく、収録されている作品のレベルはなかなかに高い。単純なミステリになっていなく、読後考えさせられる内容もある。
どの作品か忘れたが、特に印象に残っているのは肯定できる殺人はあるかというテーマの作品。殺人は許されるものではないという通念を覆されるような思いをしたものだ。
あとどう考えても本当のような話に思えない証人を探す話は、なぜだか未だに記憶に残っている。

そして全作品に通底するのは天藤氏の人間に対する温かい視線だろう。前にも述べたが身障者に対する社会へのさりげない問題提起に、真名部警部と信一親子との交流(母親に対するほのかな愛情も含めて)と社会的弱者に対する優しさに満ちている。この感覚は宮部みゆき氏の諸作の味わいに似ている。数十年後、作者の写真を拝見する機会を得たが、その顔は優しき微笑を湛えており、この人ならばさもありなんと思ったものだ。
無論のこと、この作家の作品を追いかけることになるが、次に手にした彼の作品が私の読書人生において5本の指に入る傑作との出会いになったのだった。

Tetchy
WHOKS60S

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