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コミケ殺人事件



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【この小説が収録されている参考書籍】
コミケ殺人事件
コミケ殺人事件 (ハルキ文庫)

コミケ殺人事件の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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(7pt)

コミケに行ったことなくても楽しめます

その名の通り、オタク風味満載のミステリ。というよりも恐らく作者自身がオタクなのであろう、またもや彼の精通する身の周りのことを題材にしたミステリである。
とはいえ、前に読んだ『ローウェル城の密室』よりは特異ではなく、『バビロン空中庭園の殺人』よりもオーソドックスさからは一歩抜きん出た作品となっており、楽しく読めた。
『ローウェル城~』よりも特異でないというのは、刊行当時1994年の時点、私はまだ大学生で、オタクはまだキワモノであったが、現在ではオタクも一般的に認知され、さほど珍妙な存在として捉えられてはいない時代背景がコミケを舞台にしたミステリを受け入れるのに緩和剤となっているのは確実だ(そういう意味ではやはりあの『電車男』はブレイクスルー的な作品だった)。もしかしたら今のミステリ好き、少女マンガ好きの高校生が『ローウェル城~』を読めば、逆に面白いと思うかもしれない。

『バビロン~』よりもオーソドックスさから一歩抜きん出たというのは、物語の中心となるコミケ出店サークル「大きなお茶屋さん」の同人誌「月に願いを」が丸々1冊作中作として盛り込まれており、それがきちんと全て読めること、さらにこれが謎解きに絡んでいることが挙げられる。
作品の冒頭に挿入された『ルナティック・ドリーム』の密室殺人の推理が七者七様に、しかも論文体、ホラー小説、ペダンチック溢れる小栗虫太郎風ミステリ、やおい風味小説と、作者の器用さが横溢している。それがそれなりに読ませるのだから畏れ入る。特に傑作だったのはやはり小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を模した『黒石棺の殺人』だ。博覧強記とギャグは紙一重だということを実に上手く表現した好編だ。またメンバーの1人が原稿を落とし、アンケートを代わりに挿入させるなどの凝りようも作者ならでは。

で、ミステリとしての本作だが、なかなか読ませる。コミケという特殊な状況下での殺人をコミケに精通している作者が書いているので、非常に抵抗無く読むことが出来た。
例えば本作で起こる4つの殺人のうち、3つはコミケ会場で起こっており、しかも2つは衆人環視の中なのだが、通常のミステリと違い、衆人環視の殺人であるにもかかわらず、Howdunitに全く拘りが見られないところが面白い。これこそコミケ会場という特異な雰囲気を忠実に再現していることに他ならない。
つまり参加のほとんどがオタクであり、彼らは他人には興味がなく、自分の興味対象、そして同好の士以外、全く眼中に入らないのだ。だから隣りにいる人がいきなり毒殺されようが、刺殺されようが、それに至る被害者の接触者に全く注意を払っておらず、自身の同人誌の販売・購入にしか集中していない。それがこのコミケ会場での連続殺人を可能にしていると云えるだろう。そしてそれはオタクの実体が周知となった現在では無理なく了承できるから面白い。

さて私自身、かつてはオタクであったわけだが、コミケには一度も参加したことがない。だから本作で書かれるコミケの内容、会場の雰囲気は非常に愉しく読めた。
まず上手いと思ったのはこういうコミケに全く縁のなかった人物を通してコミケに出店する人物の有り様を客観的描写している事だ。オタクの一大イベント、コミケが正に今から始まらんとす、パンパンに膨らみ、はち切れんばかりになった風船のような期待感を秘めた参加者及び会場の雰囲気が素人でも解るように描かれている。その後、物語はコミケの常連であるサークル「大きなお茶屋さん」の登場人物の動きに進行が変わるわけだが、これも出店側から書かれていることでコミケの内容が密に語られ、愉しい読み物になっている。学園祭と物産展の中間のようなその稚気と打算が入り混じった出店者の思惑はコミケならではの物だろう。

で、逆にこのコミケの話とコスプレに興じる「大きなお茶屋さん」ら面々の雰囲気が良くて、題名にあるように殺人など起きなく、このまま物語が進んでくれればいいのにと思わせてくれるが、やはり殺人は容赦なく起きる。しかも彼ら彼女らのうち4人も殺され、そのうち3人はコスプレに興じていた女の子3人なのだ。
これはコミケに行った事がある人ならば結構強烈な展開ではないだろうか?思いがけなく感情移入してしまった私も、作者の非情さにちょっと戸惑いを覚えてしまった。

さてこの3人+1人の殺人の真相だが、当初考えて、捨ててしまった選択肢が正解だったのが驚きだった。これについては作者の周到な罠に嵌められたというのが妥当で、反論はない。
本作において3つの真相解明が成されている。で、個人的にその真相の面白さを述べると、第1の真相>第2の真相>第3の真相となってしまう。
第1、第2の真相はコミケ、同人誌という一般的でない情報・知識を知っている者でしか看破できなく、第3の真相は一般のミステリ読者でも解けることが特徴である。だから実は作品としてはフェアであるのだが、逆にそのシンプルさが作品としての魅力を半減させてしまったのは皮肉な物である。私も特殊な知識を要しないと真相に辿り着けない本格ミステリは通常は好きではないのだが、この作品に限ってはコミケという特長を活かした真相の方が面白く読め、こういうミステリではそういうケレン味を尊重すべきだなと考えさせられてしまった。


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Tetchy
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