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バカラ



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【この小説が収録されている参考書籍】
バカラ
バカラ (文春文庫)

バカラの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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No.1:
(7pt)
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Money, Money, Money !

金、金、金。金に狂い、金に惑う。金に魅せられ、ドツボに陥っていく人々。
服部真澄が今回選んだ題材は金にまつわるお話だ。

物語の主人公は週刊誌記者、志貴大希と明野えみるという2人の記者。
一方は自身がアングラカジノで借金の海に溺れながら、アフリカの小国ロビアの大使館で開かれている裏カジノの実態を調査し、それが政治家の裏金を追うことになる。他方はカジノ合法化を煽情する記事を書く取材を重ねるうちにIT業界の風雲児とされている「ゲートライン」CEOの日継育に迫り、彼の懐に切り込んでいく。

彼ら2人の取材に共通するのがこの日継という男ともう一人政界のフィクサーとされる小牧長次郎老。やがて彼らはこの2人が互いの金を有効に使うために海外へ流出したマネーと国内に極秘裏にプールしているマネーを自由に操り、大義を成そうとしていることに気付いていく。

今までの服部作品は香港返還に纏わる密約と陰謀、ある技術に関する特許戦争、巨大企業の買収戦争と利権を争うことをテーマにしていたが、その利権に隠されているのはやはり金。莫大な富、利益をもたらす手札の争いだった。従ってここまで明らさまに金に纏わる争いを扱ったのは本書が初めてだ。そのためか、書かれている人物たちはいつもにも増して生々しい。

題名にあるようにギャンブルに溺れ、借金を重ね、会社の金に手を付けながらもその魔力に絡め取られ、抜け出せない者たちばかりが登場する。
自営業が上手く行かず、そんな所に親の急病で呼び出され、生活費を切り詰めながらもなんとか生きていこうとする庶民。
その業界で生え抜きの存在と持て囃され、世界を股にかけた百戦錬磨のバイヤーだったはずが巧妙な詐欺に遭って、資金を丸々失って途方に暮れる者。
億単位の金を操りながらも日本の暴利とも云える税率で大半を毟り取られることに我慢がならず、どうにか脱税を画策する者。
政治資金を元手に株を買っては私利私欲に走る者。
かつての職業で得た人脈を利用し、政治家たちの裏金のブローカーとなり、無造作に金を貯め込む者。その甘い汁に縋り、ギャンブルに溺れる者。
金によって結ばれる縁もあれば、金によって失う絆もある。

誰もが必要としている金。それは我々日々の生活であればあるほど困らないいわば安心を約束する物であり、己のステータスを示すバロメータでもある。

しかし安寧を得ようと金儲けに腐心する野心家たちが情報を駆使して、司法の手の届かない地に辿り着いた時、それまでの縁が失せ、残ったのは金だけとなる。
果たして彼は本当の幸せを、安らぎを手に入れたのだろうか?

作中、主人公の志貴の独白で語られるバカラの意味。その言葉はゼロを意味するという。
一攫千金を夢見てカジノでギャンブルに興じる人々。その1つ、バカラにそんな意味があるとは、つまり勝ちの向こうにあるのは無ということなのか。日継が辿り着く境地はまさにそんな虚しさを表しているようだ。

相変わらず、様々な角度から色んな人物を登場させて、物語を重層的に語る作者だが、今回は非常に狭い人間関係で構成されているところが気になった。

しかし今なお持ち上がっては消えていくカジノ合法化案。以前都知事が唱え、大阪市長もまた同様の案を声高に叫ぶが実現しないでいる。
それはカジノが放つ煌びやかな光景ゆえに孕む闇の深さゆえか。私自身ギャンブルをしないのでカジノ合法化にはそれほど魅力を感じないが、実現することで県の財政が潤うと同時に犯罪の温床ともなり得る諸刃の剣。
本書が刊行された2002年から早くも17年が経ってなおこの状況ということは夢のまた夢の話なのだろうか。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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