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ホーンズ 角



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【この小説が収録されている参考書籍】
ホーンズ 角 (小学館文庫)

ホーンズ 角の評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)
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悲劇なのに爽やかなのはなぜ?

ジョー・ヒル待望の新作。傑作短編集『20世紀の幽霊たち』以来だから実に4年ぶり。
日本での訳出は逆だったが本国では前作に当たる『ハートシェイプト・ボックス』から5年ぶりの新作である。

いやあ、さすがはジョー・ヒル。どのジャンルにも属さない素晴らしくも奇妙な味わいの作品を読ませてくれる。

朝起きると角が生えていたというカフカの『変身』を思わせる発端から、角が生えたイグに逢う人物はことごとく腹に溜まっていた悪意の言葉を口にすることが解る。
これがもうとても聞きたくない話ばかり。普通の隣人や知り合いが実は腹の中でどんな風に思っているのか。それが制限なく毒を垂れ流すが如く溢れ出る。なんというか、まともな人間はいないのかとまで思わされる。
そして触れた者の秘密事が一瞬にして解る能力も授かる。この秘密事も知られたくはない性癖だったり悪事だったりする。しかしこんな能力は願い下げだ。

そして彼らよりも輪をかけて悪いのはイグの友人リー。とにかく今回はこの敵役のリー・トゥルノーの下衆野郎ぶりに尽きる。なんとも自分勝手な利己主義者であることか。
他人の善意を利用し、全てを自分の都合のいいように解釈する。友人は全て利用する物、全ての女性は自分に抱かれたいと思っている、そんな傲慢な性格の持ち主だ。

日本の小説ならばここまで書くと…というブレーキがかかるところをジョー・ヒルはとことん描く。人間の嫌な部分をあからさまに謳う。
この辺の筆致はクーンツに出てくる唾棄すべき悪役に似ている。

物語はイグに角が生えた現在と、イグが恋人メリンと出逢った少年の頃の時代の話、そしてメリンが殺された夜の話が交互に語られる。

イグ、兄テリー、そして親友のリーとの出会いと日常を語る過去の章は青春小説の趣があり、マーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』を髣髴させるほど色鮮やかでノスタルジックだ。実にアメリカ的な物語である。

特にイグとメリンが最初に会話を交わすシーンなんかは眩しくて美しすぎるくらいだ。本当にこういうのを書かせるとジョー・ヒルは上手い。

そして私が特にジョー・ヒル作品で好きなのは物語に挟まれるサブカル、特に音楽に関する薀蓄や冗談。突然歌詞の一部が地の文に挿入され、思わずニヤリとさせられるし(この辺は洋楽ファンの特権だ)、平気で物語の登場人物に実在のアーティストを絡ませたりもする(ちなみに今回はローリング・ストーンズのミックとキース)。
そしてその最たる物はやはりこの物語の要となる設定だ。頭に角が生えるという着想はさすがジョー・ヒル!と思わせる奇抜な発想だと思ったが、いやはやAC/DCのアンガス・ヤングだったとはね!そのネタが解った頃からイグの風貌はアルバム・ジャケットで角を生やしているアンガスのそれとなってしまった。やはりジョー・ヒルの作品と音楽は切っても切り離せない要素であるようだ。

しかし本書は哀しい物語である。
優しい者同士がお互いを強く愛するがゆえに起こった悲劇。
そうこの物語は悲劇から始まる。
そしてジョー・ヒルは悲劇から始まった彼らに対して安直な救いは用意しない。物語の結末としては苦い物ばかりなのだが、なぜかその喪失感こそが爽やかだ。
全てを燃やし切った彼らの心地よい徒労感が行間から漂う。
そして題名『ホーンズ』のもう1つの意味が最後に解る、この演出もまた憎い。

もう少し削ればこの物語は傑作になりえただろう。ジョー・ヒルの長編を読んで残念に思うのは全てを語らんとする冗長さだ。この辺をもう少しそぎ落とし、行間で語れるようになればもっとすごい作家になるに違いない。


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Tetchy
WHOKS60S

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