(短編集)

怪奇日和



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怪奇日和 (ハーパーBOOKS)

2019年09月17日 怪奇日和 (ハーパーBOOKS)

記憶を吸い取る“ポラロイドカメラ”を手にした謎の男が現れる『スナップショット』、森林火災が迫る町で起きた不可解な銃撃事件を追う『こめられた銃弾』、スカイダイビング中に不思議な雲に迷い込んだ男の追憶『雲島』、奇妙な雨が降り、あらゆるものが命を奪われていく『棘の雨』の4篇収録。デビュー作にしてブラム・ストーカー賞に輝いたモダンホラーの奇才が放つ、怪奇幻想文学中篇集。(「BOOK」データベースより)




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怪奇日和の総合評価:9.00/10点レビュー 5件。Cランク


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(7pt)

異常“気性”な人々

ジョー・ヒルの久々の作品集。
各編ページ以上のボリュームがある中編であり、4編が収録されているが、総ページ数730ページと実に分厚い。従って各編にヒル独特の世界観が濃厚に盛り込まれていると期待して巻を開いた。

最初を飾る「スナップショット」は1988年が舞台のある奇妙なカメラを巡る話だ。
昔写真機が出て間もない頃、まことしやかに写真に写されると魂が盗られると云われていたと聞くが、この作品もそんな噂話から生まれたのではないように思える。
フェニキア文字を刻んだタトゥーを両腕に施した男が持っていた“ソラリド”と聞いたことのないブランドが銘記されたポラロイドカメラはそれで写真を撮られた時に浮かんだ人の記憶が写真に吸い取られる災いのカメラだった。その人のある人に対する記憶が写真に“撮られる”ことで“盗られる”のだ。

デジタルカメラが生まれ、そしてカメラ付き携帯電話が生まれ、そして今スマートフォンで写真を撮り、ウェブサイトにアップする我々。それは“その時”を記憶だけでなく記録に留め、そして半ば自己顕示欲を混在させて世界に向けて発信させたいがために行っている。

しかしこのソラリドというポラロイドカメラは撮られることで記憶が無くなるのだ。記録は写真のみに留まり、その人の記憶からは消し去られる。

ポラロイドカメラというツールを使って認知症の老人が日々物事を忘れ、老いさらばえていく哀しさと消したい記憶を持つ男と記憶を残したいのに奪われる恐怖と哀しさを描いた本作はジョー・ヒルらしい切なさに満ち溢れた好編だ。

次の「こめられた銃弾」は本書で最長の物語だ。
何とも救われない話だ。

妻への家庭内暴力を振るった廉で差し止め命令が下され、妻と我が子と連絡を取ることと150メートル圏内に近づくことを禁じられていた警官志願の警備員が宝石店で起きた痴情絡みの殺人事件で、誤って人質を殺害したのにも関わらず、そしてそれを目撃した人間をも射殺したにも関わらず、一躍市井の英雄に祭り上げられる。

彼は湾岸戦争に従軍し、その後警官になろうとしたが選考から落ちて警備員に落ち着いた男。彼は白人でその時マイノリティ問題で警察が白人よりも黒人をはじめとする有色人種の国民を積極的に警察官に採用していた時期で、その余波を受け彼は落選した、と思っている。

それだけではなく、黒人であるだけで蔑み、そして虐げられる人々と白人との間にある深い溝が物語の根底にはある。

更に本作で頻りに飛び交うのは銃だ。誰もが銃を欲しがり、そしていつか憎たらしい相手にそれをぶっ放すことを夢見ている。そして銃がないと不安を感じて仕方がない。もはや銃なしで生きることに恐怖を覚えるようになったアメリカ人の病理がここには描かれている。

題名の「こめられた銃弾」とは即ちこのサイコパスがいつも抱えながらも社会生活を送るために忍耐強く秘匿していた殺戮への渇望を表している。しかし何とも報われない話だ。

さて次の「雲島」はファンタジーとセンチメンタルを孕んだ一品。
雲の中に現れた雲で出来た島。思わず不時着してしまった男オーブリー・グリフィンが孤独の中でバンド仲間の女性ハリエットとジューンとの出逢い、評判が良くなり、忙しくなる中、やがて恋い焦がれるようになったハリエットとの関係、そして亡きジューンが遺したアドバイスなどが断片的に語られる。それはまさに青春と呼ぶべき青さと若さと純粋さに満ちている。

そして物語の焦点はやがて雲島の正体とオーブリーがどうやってそこから脱出するかへと向かう。孤独なオーブリーの前に現れる雲で出来たハリエットは彼が望んだことをしてくれ、そして彼のことを気にかけてくれるが、それでもそれは本物のハリエットではない。

奇妙な漂流譚に若いバンド仲間の青春グラフィティを絡めるとは、ジョー・ヒルならではの発想だ。

最後の一編はまたもや怪異現象を扱った「棘の雨」。
タイトルが示すように突然棘が降る雨に見舞われたアメリカをデンヴァーに住むレズビアンのハニーサックル・スペックという女性の視点で描いた作品。

いきなり降ってきたのはただの雨ではなく棘の雨。主人公の女性ハニーサックル・スペックはレズビアンでその日彼女のヨランダが引っ越してくる記念すべき日だったが、その最愛の恋人は目の前で棘の雨に打たれ、亡くなってしまう。

そして彼女を送りに来た彼女の母親も同様に亡くなり、主人公は連絡の取れない彼女の父親に妻と娘の死を伝えるのと同時に安否を確認するため、デンヴァーへと旅立つ。その旅路で彼女は色んな人と出会い、そして別れる。

棘の雨に打たれて虫の息の愛猫を抱えて泣き叫ぶ総合格闘家マーク・デスポット。ハニーサックルは彼の代わりに愛猫の首を捻って安楽死させるが、彼の怒りを買ってしまう。

その後なぜか彼女をつけ狙う新興宗教<七次元のキリスト教会>の信者たちに襲われる。彼らは教祖エルダー・ベントが今回の雨のことを予言したこと、雨が降ることを知っていたのをハニーサックルがFBIに報せに行こうとしていると思い込み、それを阻止しようと彼女を付けていたのだった。しかしその窮地に先ほどのマークが現れ、彼らを一網打尽にする。

ハニーサックルが次に出逢ったのは大家を殺した囚人ティーズデイル。彼は亡くなった人々を乗せたトラクターに警官と同乗し、処分場へ着いた途端に隙を見せた警官を襲い、トラクターを強奪して逃走する。自由を掴むために。

しかし人間とは不可解な生き物ではある。
災害に巻き込まれた家畜の安否を気遣いながら、それを牛肉や豚肉、鶏肉を食べながらテレビで観るような矛盾を平気で行うからだ。このアーシュラの行いは自分がしたことで起こりうる無垢な人間の死には心を痛めるが、一方でアメリカ人全てを一つの悪として罰を与える断固たる決意を持ち、そして息子のシッターを頼んでいた隣人のハニーサックルが恋人の父親の許を訪ねに旅立つのを見て、自分の行為がFBIに発覚するのではないかと恐れ、新興宗教の信者に襲わせようとするのだ。
寧ろこれが人間の不可解さであることを逆に理解させてくれるアーシュラの行動原理だとも取れる。

雨が我々の生活を脅かし、そして死者まで出る。この棘の雨が降ることでアメリカ人が出くわす光景はさながら今我々日本人が出くわした台風19号、そして追い打ちをかけるように襲った豪雨によって被災した人々の境遇を想起させる。
彼らはお互いに助け合い、また時にこの非常時に便乗して罪を犯そうとする、もしくは平時では隠していた感情を爆発させ、本能の赴くままに行動する。気に食わない輩を殺そうとし、金品を奪おうとする。また困難に乗じて台頭しようとする宗教家が出てくる。少しでも平穏というバランスが崩れるとそこに本性が現れる。それはもはや少しばかりの理性を残した獣なのだ。
そして主人公のハニーサックルもまた人間として清廉潔白であろうとしない。自分の身を守るために彼女は相手を傷つけることを厭わない。殺すまでのことはしないが、後で自分を追ってこないよう戒めを施すまではする。
やったらやり返す。やられる前にやる。
ハニーサックルはデンヴァーまでの旅路で人の優しさと人の理不尽さの両方を知り、そして生きるためには容赦しないことを学んだのだ。

先に書いた台風被害の被災者たちの振る舞いを考えるとこの始末の付け方は隔世の違いを感じる。やはり我々は日本人であり、彼らはアメリカ人なのだ。そう、これがアメリカなのだ。


元々私は本邦初紹介となった短編集『21世紀の幽霊たち』に魅せられてヒルの読者になったが、その後訳出された長編はいずれもさほど高い評価が得られておらず、『このミス』のランキング外であった。

そして本書は好評価を得た『21世紀の幽霊たち』以来の中編集。ヒルの本領は長編よりも短編や中編にあると思い、そんな期待を込めて読んだ。

そのカメラで写真を撮られた人はその写真に写った人の記憶を無くすポラロイドカメラ、“ソラリド”に纏わる話を描いた「スナップショット」。

湾岸戦争帰りのサイコパスが出くわした事件で犠牲者を最小限に留めたとして英雄として祭り上げられ、その真相を探る地方紙記者の話「こめられた銃弾」。

ひょんなことで雲で出来た島に独り取り残された男が、もう1人のバンド仲間で恋をしてしまったハリエットとの関係を、バンド仲間のジューンが亡くなるまでの足取りを回想する「雲島」。

棘の雨により多数の死傷者を出す大惨事になったアメリカで引っ越して来た恋人とその母親が棘の雨によって亡くなったことを彼女の父親に伝えに行くレズビアンの女性ハニーサックル・スペックが遭遇する人々との出逢いと別れ、そして棘の雨の真相までを描いた「棘の雨」。

怪異譚、悲劇、青春恋物語にロードノヴェル。種類は違えどそのどれもにジョー・ヒルならではのテイストが満ちている。

被写体にカメラを向けるとそこには被写体ではなく、別の人物が写るがその人物の記憶が被写体から取り除かれるポラロイド・カメラに空に存在する雲島、そして突然降ってきて無数の死傷者を出した棘の雨。それら奇想のアイデアを用いてヒルは人間ドラマを紡ぐ。ありもしない、起こりもしない道具や現象に出くわした時の人の心の在り様を丹念に描く。だからヒルの小説は文章量も多く、そして長くなるのだ。

邦題『怪奇日和』は正確ではない。本書に書かれているのは怪異ではあるが怪奇ではないからだ。
各編に織り込まれるのは人の心の奇妙さ、生々しいまでの人間たちの本音。他者を犠牲にしてまでも自分を守ろうとする、もしくは自分勝手な理屈で他者を攻撃する人々の姿や心情だ。

原題は“Strange Weather”、即ち『異常気象』だ。
そう、ここに書かれているのは人々の異常“気性”なのだ。
ヒルはこれまでの作品で我々が心の中で、奥底で抱いている不平不満、本音を我々読者に曝け出してきた。それらはあまりにストレート過ぎるので時々目を背けたくなる。なぜならそこにある意味“自分”を見出してしまうからだ。

常日頃は仮面を被って隠している本心が非日常へと誘う出来事に直面することで仮面が外れ、剥き出しの自分が零れ出す。

例えば「スナップショット」では記憶を消去されるポラロイドカメラによって痴呆症のようになっていく妻のサポートを面倒見切れなくなった夫の嘆きが出てくる。その夫は妻を世界中の誰よりも愛して止まないが、愛だけでは克服できない限界を悟らされ、涙する。

「こめられた銃弾」は、もう人間の生々しい本性のオンパレードだ。
自分のミスで誤った黒人の容疑者を撃ち殺してしまった白人警官はあらゆる言い訳で自らの行為を正当化する。黒人への嫌悪を隠さず、彼らが対等に振る舞うことはおろか、過ちを犯した自分の行為を暴こうとする憎き存在として侮蔑し、嫌悪するサイコパスが出るかと思えば、街の警察署長は有色人種差別の中傷被害を免れるため、一般の黒人を警官と偽らせて積極的に多様な人種から警察官を採用しているかのように振る舞う。

「雲島」では仲間からやがて異性と意識する男女混成バンドのメンバー間のすれ違いが描かれる。まあ、これは典型的だけど、やっぱり男女の間は友情だけに留まらなくなってくる展開は痛々しいものがある。

そして「棘の雨」は未体験の災害に見舞われたアメリカ人の姿とそんな危機的状況で露呈する本性にレズビアンの主人公が出くわす。

本書におけるベストは該当作品無しだ。どれもがどこか哀しく、清々しさがないためだ。但しどの作品もなにがしか心に残るものはあるが、それらは喪失感であり、虚無感である。そんな感情が心の中を揺蕩う。

このモヤモヤとした心の中に留まるどんよりとした重い雲のような感慨を素直に文章にするのは何とも難しい。深い霧の中で一片のメモを見つけるような感じだ。
本書の感想を的確に示す晴れ間までしばらく時間がかかりそうだ。



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Tetchy
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No.4:
(5pt)

『怪奇』なのは ひとの心

認知症・黒人差別・LGBT・・・
『怪奇』と云うワードから 怪談のようなイメージを抱いたが オカルト感はなく じわじわと来る
怖さが 深くて たまらない
怪奇日和 (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:怪奇日和 (ハーパーBOOKS)より
459654123X
No.3:
(4pt)

初期の父親と同じ匂いがする作風

S・キングの息子さんの本と言うことで、興味本位で購入。

タイトル通り、初期のS・キングに似た作風です。似た作風であるものの、ストーリーの組み立て方は上手くサクッと読めます。

ホラー小説というよりは、不思議な話といった感じです。

個人的に1話だけ、うーん、というのも有りましたが、楽しめました。
怪奇日和 (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:怪奇日和 (ハーパーBOOKS)より
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No.2:
(5pt)

初め読んだ、ジョー・ヒル オモロカッタ~。

どれもこれも着地点が最後まで分からない。中編なので結構読み応えがある。読み始めるとなかなか途中でやめられなくなる。そうしてラスト。そう来ましたかって感じ。読み応えありまくり。初めてこの作者を読みました。別の作品も読んでみようと思う。
怪奇日和 (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:怪奇日和 (ハーパーBOOKS)より
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No.1:
(5pt)

秋の夜長に

4編のバラエティーに富んだ中編小説で纏められています。約740ページのボリュームですが、読みやすい文章と引き込まれる内容で先を知りたくなるのが止められない感覚でページを捲りました。 
 タイトルや、カバー絵、紹介欄(雲島)に興味を持ち購入しましたが全編それぞれ特徴があり素晴らしかったです。舞台が現代アメリカなので怪異な内容でもすんなりと導かれ、気が付けば恐怖の現場に立たされているかのような気分を味わえました。
 ざっくり作品を紹介すると、「スナップショット」は日本の昔のTVドラマ「怪奇大作戦」の現代版のようなSFライトホラーで、じわじわ引き込まれました。 「こめられた銃弾」は、銃社会アメリカの様々な暗部に、災害を交えて描いた ”リアル” ホラー。ページ数は最多ですがこれも早く先に進みたくなる内容でした。 「雲島」は、個人的にイメージしたラピュタ的な画像とは全く違った、不思議で怖い白い?SFホラー。高所のむずがゆくなる感覚は独特です。 「棘の雨」は、発想にセンスや才能を感じさせる、終末感漂うホラーサスペンス。個人的には一番のお勧めです
 読み進むと「こめられた銃弾」以外場面転換が少なく、主人公目線を維持しスムーズに感情移入できるのは著者の特徴であり、ホラーの重要なポイントだと思えます。そのため非常に読み易かったです。(訳者の仕事もすばらしかった) そして、細かな描写や比喩が非常に巧く、実在する政治家やショップ名なども頻繁に出てきて、よりリアル感を増していました。 また、音や音楽のイメージが各所にあってロックやクラシックが聴こえてきそうで、そうした部分も含め映像化したら面白そうな作品ばかりだと感じました。読み進めながら読者が簡単にビジュアル化出来、自分で配役等をイメージしてしまいそうになるのも作者の才能なのでしょう。
 次回作も楽しみです。
怪奇日和 (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:怪奇日和 (ハーパーBOOKS)より
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