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新・本格推理02 黄色い部屋の殺人者



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新・本格推理02 黄色い部屋の殺人者の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

素人らしさが薄まった分、期待感が高まったせいもあるのか。

今回は光文社から本格ミステリ作家としてデビューした東川篤哉氏、加賀美雅之氏両氏の作品も掲載され、初期の『本格推理』シリーズに芦辺作品と二階堂作品が掲載していた事を思い出させた。
さて今回収録された8編、これらが全て良作かといえばそうではなかった。前回は50ページから100ページへ制約枚数が増大した分、作品それぞれの物語性が上がった事を喜んだが、2巻目の今回はそれは既に必要十分条件となっている。つまり今までに比べてさらにプロの出来映えに近いくらいの完成度を読み手が要求する事になっているだろうし、実際、私がそうだった。

そんな期待値が高い中、8編中、傑作と思ったのは2編。「窮鼠の哀しみ」と「『樽の木荘』の惨劇」の2編だった。

「窮鼠の哀しみ」は松本清張氏など社会派作家を想起させる誘拐事件を扱った作品。ある鉄工会社の社長の息子が誘拐され、脅迫状の文面から当初は狂言誘拐だと思われたが、犯人からの電話からどうやら本物らしい。二億円の身代金に対し、社長は一億しか都合がつかなかったが、残りの一億は偽装して誘拐犯の要求に臨むことにする。誘拐犯は携帯電話にて色々場所を移動するよう指示した後、あるトラックにカバンを置くように指示する。警察が見張っているとピザの宅配が来て、その車に乗り込み、エンジンを掛けたところを取り押さえるが、犯人ではなかった。心配になってカバンを開けてみると身代金は本物だけが空っぽだった。トラックの側面とその隣の店のシャッターが空いており、そこから金を持ち出したらしい。その後犯人から再度身代金の要求はあるものの、接触は無く、息子は死骸となって発見される。
正にこの2時間サスペンスドラマを読んでいるような感じを与える作品は、最初どこが本格なのか終始首を傾げていたが、最後に哀しいトリックの真相が待ち受けていた。文体といい、警察の捜査の模様といい、この作者は「書ける」人であることは間違いない。警察が真相を暴けない結末は『絢爛たる殺人』で読んだ昔の本格探偵小説を思い出した。

「『樽の木荘』の惨劇」はあの加賀美雅之氏の手になるもので、なんとまたもや「わが友アンリ」の物語に繋がる作品。作者曰く、これと「わが友アンリ」と「暗号名『マトリョーシュカ』」と並んで三部作となるという。これは3作全てが採用されないと成されない偉業。そしてその偉業は単に選者である二階堂黎人氏の贔屓目によるものでなく、確かに確固たる実力に裏付けたされたことであることがこの作品を読むと解る。
物語の舞台は1942年、満鉄の大連駅から始まる。大連駅に降り立った仮面の男。樽の木荘と呼ばれるフェイドルフ老人邸では殺人事件が起こった。雪の降った後、足跡が一組しかないその屋敷の中で老人は殺害され、現場となった書斎の窓の外の向こうには仮面と外套が中身のないまま、放置されていた。しかもそこに至る足跡もないままに。
本作が書かれたときは加賀美氏はまだ素人作家。そして名前も本名らしい素朴な名前。その事を考えると、もはやこの時から素人の域を超えている。そして今回登場人物として出てくるのはなんと若き日の鮎川氏!存命の時の作品だから、ご本人はどのように思ったのだろう。もう、文句のつけようが無いくらい素晴らしい。あまり気にも留めなかった加賀美氏の名前は、しっかりと私の胸に刻まれた。

その他6編中、佳作だと思われるのは「湖岸道路のイリュージョン」ぐらいか。この轢き逃げ犯人を追う夜の追走劇に仕掛けられた車消失トリックは単純であるがゆえに驚かされる。こういうロジックは結構好きだし、書き方もフェアでミスディレクションが非常に巧いと素直に感心。小粒なのでどちらかといえば頭脳パズルの領域を出ないのだが、あまり大仰しい作品ばかりだと疲れるので、こういう作品も入っているのがいい。

その他は専門知識に難があり、作風が肌に合わなかったり、内容が浅かったりとところどころ瑕疵があった。
今や本格ミステリ作家として活動する東川篤哉氏の手からなる「十年の密室・十分の消失」は前回の「竹と死体と」で登場した素人探偵コンビが出ているが、やはりこの軽い作風は好みに合わないし、丸太小屋消失事件については作者の建築知識の無さが露呈しており、これもマイナス要因となった。
「恐怖時代の一事件」はフランス革命直後のフランスを舞台にした作品。やっぱり前回の「ガリアの地を遠く離れて」といい、一連のルパンシリーズといい、どうもフランスの耽美な世界が合わない。二階堂氏が評しているように登場人物それぞれの書き分けが甘いのも気になった。
「月の兎」はトリックと犯人が解った。バニーガールが登場し、色々奇妙な話をする御伽噺めいたつくりはまだ許せるが、全体的にレベルは他の作品よりも下と感じた。
「ジグソー失踪パズル」は全体的に叙述内容とかに仕掛けがあり、ミスディレクションもなかなか。でも全体的に印象が薄い。
「時計台の恐怖」は女子高を舞台にした消失トリックもの。事件の目的とかトリックとかは及第点だったのに橘高が探偵事務所の一員になる最後の終わり方があまりにもベタすぎる。もうこれはライトノベルの世界。

前述のように確かに読み手の要求するハードルの高さは高くなった。だからこそ次はどんな作品、トリック、世界を読ませてくれるのかが非常に気になる。
プロの作品の出来を求めないよう、こちらも気をつけなければならないのか。それとも商業として成り立つべき最低ラインをクリアしていなければならないと厳しい目で見るのか。難しいところだ。

Tetchy
WHOKS60S

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