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ヴェロシティ



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ヴェロシティの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

一気に読むべし!

久々のクーンツのスピード感と畳み掛けるサスペンスが冴え渡る良作だ。本書はクーンツの数ある作品の中で1つのジャンルを形成している“巻き込まれ型ジェットコースターサスペンス”の1つだ。

今まではとにかく訳が判らなくて命を狙われるという展開だったが、本書の主人公、突然の災禍の被害者ビリーの場合は、自身に被害が及ぶのではなく、警察に連絡するか、もしくはしなくても誰かが殺されるという脅迫を受けるのだ。つまり問われるのはビリーの良心なのだ。

最初は関係のない人たちが殺され、次のターゲットは友人のラニーに。そして自分にも被害が及びつつ、犯人は自らが行った殺人をビリーにかぶせようと周到な用意をする。やがてメッセンジャーが告げたのは自分に関係のある人の中から一人殺す奴を選べという衝撃の言葉。

真綿で首をじわりじわりと締めるようにビリーの生活は侵されていく。しかしビリーには気を休める暇もない。題名の“速さ”が示すように次から次へと犯人から残酷な要求が襲ってくるからだ。

さらに正体の解らぬ犯人が勝手に連続して殺しを行うだけでなく、全てがビリーを犯人だと示唆するかのように偽造証拠を残し、さらに犠牲者とビリーとの関係性が徐々に狭まっているところが恐ろしい。

しかし多作家のクーンツだが、よくもまあアイデアが尽きないものだ。彼の作品はワンパターンだという評価が巷間では囁かれている。確かに物語の構成は確かにそうだ。
絶望的なまでに強力な悪の存在に突然主人公が襲われ、それにいかに立ち向かい、勝利するかというのが物語の骨子だ。
しかしそのヴァリエーションの豊富さには目を見張るものがある。毎回よくこれほど悪意溢れるサイコパスを生み出せるものだ。これほどまでの人非人を考え付くものだと作者の創造力に恐れすら覚えるくらいだ。
実際の事件に題を取ったのか判らないが、彼の小説を見て同じ事を真似しようと考える犯罪者が現れないか心配すらしてしまう。

それは犯人だけでなく、例えば保安官のジョン・パーマーも同様だ。ビリーが14歳の時の彼との間のエピソードは人の悪意をまざまざと見せつける。しかもとにかく容疑者を犯人に仕立てようとする保安官なんて、こういう人間がいそうだから恐ろしい。

また物語の肉付けとなるエピソードの豊かさと小道具の良さにも注目したい。
腸卜なんていう占いがあったなんて知らなかった。これは作者の想像の産物なのだろうか?動物の死骸の内臓の配置から未来を読み取るなんて、実に奇抜で異色かつグロテスク。小学校の頃、よく食用蛙や猫の轢死体を見かけたが、あの腹を引裂かれて内臓が四方八方へ飛び散った死体を凝視するなんてちょっと想像するだに怖気が出る。
作者のオリジナルだとすれば、それもまたその創造力に感心する。

そして溶岩トンネル。これが非常によい。苦境に陥ったビリーの唯一の拠り所と云ってよいだろう。これがどのように使われるのかは作品を当ってもらいたい。

さらに物語のキーパーソンとなるビリーの恋人で植物人間のバーバラ。彼女が昏睡状態に陥った原因となるヴィシソワーズの缶詰が不良品だったというエピソードなど、当時の米社会で問題となった事件から材を得ていると推測されるが、食の安全を脅かし、明日は我が身である問題の身近さが忘れがたい印象を残す。

しかしこのバーバラの使い方は実に上手い。昏睡状態の彼女が呟く寝言の意味など、物語的にはさほど重要性はないと思っていたが、この意味が判明し、最後の感動的なエンディングに繋がっていくのだから、クーンツの物語作家としての余裕が感じられて非常によい。

本書と似たようなジェットコースターサスペンスに『ハズバンド』があったが、それと比べると断然出来はこっちの方がよい。あの作品は主人公が絶体絶命の犯罪者として仕立て上げられる状況がどんどん重なっていくのに、敵を倒したらいきなり何のお咎めもないエンディングを迎えるのに面食らったが、本書ではビリーを犯人とする偽造証拠を回収し、さらにあのハッピーエンドを用意している。
しかも今回のエンディングは読者の予想をいい意味で裏切る希望的な結末であるのがよい。最近の傑作『オッド・トーマスの霊感』と比肩すると云えば云いすぎかな。

まあ、でもクーンツに興味を持った読者が取っ掛かりとして読むにはバランス的にちょうどいい作品だろう。
クーンツはモダン・ホラー界のジョン・ディクスン・カーと個人的に思っているので、その出来は玉石混交。しかも昨今の作品ではその長大さとは裏腹な内容の薄さと回りくどい云い回しが目に付き、金額に見合ったパフォーマンスを見せてなかったと感じていたので、本書の物語のサスペンスの高さと長さ(総ページ数600ページ弱で上下巻なのが納得しかねるが)はお勧めだ。
クーンツ作品のスピード感(ヴェロシティ)を是非とも感じていただきたい。


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Tetchy
WHOKS60S

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