(短編集)

キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿



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キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)

2018年09月11日 キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)

五十年間、家から一歩も出なかった老婆はいかにして毒殺された?動物園園長が残した死に際の伝言の意味は?他にも有栖川有栖氏絶賛のシリーズ中の白眉「曲がった犯罪」、レゲエ・バンドの見立て殺人「パンキー・レゲエ殺人」を収録。名探偵が実在するパラレル英国を舞台に、パンク刑事キッド・ピストルズの推理が冴える第一短編集が改訂新版で登場!(「BOOK」データベースより)




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キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿の総合評価:8.11/10点レビュー 9件。Bランク


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(7pt)

本格ミステリにおける不自然さを見事にクリアした本格ミステリ

最近光文社にてシリーズが復刊されたキッド・ピストルズシリーズの第1作が本書。
警察機構が腐敗し、堕落した世で探偵士の称号を与えられた民間探偵が活躍するパラレルワールドのイギリスを舞台にしたシリーズ。探偵士は警察よりも先に72時間だけ優先して捜査権を行使できる世の中にあって、キッド・ピストルズとその相棒ピンク・ベラドンナはロンドン警察庁の警官であり、奇妙な事件を取り扱う国家特異事件処理課(National Unbelievable Trouble Section)、通称<そんな馬鹿な(ナッツ)>事件処理課に所属するパンク警官である。つまり彼らは愚鈍と見なされている警察機構の人間でありながら、探偵士を出し抜く知能を誇る名探偵であるのだ。

そして本書に収録されている4編は全てマザーグースに擬えられているのが特徴だ。

第1作「『むしゃむしゃ、ごくごく』殺人事件」は≪むしゃむしゃ、ごくごくのお婆≫が擬るような事件をキッド・ピストルズたちが解決する。
キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナ初お目見えの本作は実にスマートな短編となっている。大食漢の女優が毒を盛られて亡くなったがその日に限って胃は空っぽだったという実に奇妙なシチュエーションを扱っている。
女優が引退し、50年間も家に閉じこもって食べるだけの人生になった背景、彼女を取り巻く人間関係、そして事件解決までに至るキッド・ピストルズやピンク・ベラドンナたちの行動が真相に結びつくようほどなく配置されており、実に無駄がない。
インプロビゼーションの妙がかえって奇妙な状態を生む面白さはカーの作品に通じるものがある。

次の「カバは忘れない」は≪ウェールズ人の狩の唄≫がモチーフとなっている。
部屋にある2つの死体。1つは人間、もう1つはカバ。
こんな奇妙なシチュエーションの殺害現場がかつてあっただろうか?
そして一見このおふざけにしか見えない状況がそれまでになかったダイイングメッセージ物の新機軸を生み出すことになる。
ダイイングメッセージ“H”を巡ってキッド・ピストルズたちは色々推理を巡らす。
本作は価値観の相違がテーマになっている。
こういう価値観の転換というのはやはり面白い。世界に出るとこういったその国独自の文化や思想に触れることができ、理解もしやすくなる。そういう意味では海外赴任した後に読んだこのタイミングは良かったのだろう。

3番目の事件「曲がった犯罪」のモチーフは≪曲がった男≫。
カーの某長編のパロディと思しき題名にヴァン・ダインを彷彿とさせる美術評論家の登場、そしてチェスタトン張りの逆説が炸裂する、まさに黄金期の本格ミステリのガジェットに満ちた作品。
芸術家の心理は芸術家にしか解らぬという特殊な論理展開で事件が解決されるかと思いきや、真相はまたもや不測の事態が起きることによって生じた完全犯罪の穴をキッド・ピストルズがこじ開ける鮮やかな展開を見せる。
特に冒頭のキッドが参加するポーカー勝負のエピソードが後半推理に重要な要素を秘めている展開は実に見事。

本書最長の最後の1編「パンキー・レゲエ殺人(マーダー)」のモチーフとなるマザーグースはあのクリスティの名作『そして誰もいなくなった』と同じ「10人のインディアン」だがもう1つのヴァージョンである黒ん坊(黒人)をモチーフとしている。
本書収録の各短編には作者による巻頭言が書かれているのだが、それによれば山口氏が今回マザーグースでインディアン版ではなく黒人版を採ったのが黒人が大勢登場する本格ミステリを書きたかったため。
云われてみれば確かに黒人が登場人物の大半を占める本格ミステリは記憶の限りでは読んだことはない。警察小説やノワールといったジャンルならばあるが。
一方で中国人に代表されるアジア圏の人々が多数登場するミステリは案外ある。それはコナリーの『ナイン・ドラゴンズ』の感想でも書いたように西洋文化と考え方も成り立ちも異なる東洋文化はエキゾチックな魅力を感じるようだからか。
さて前置きが長くなったが、本作では本格ミステリの花形とも云える密室殺人事件が扱われている。但し全てが鍵が掛けられた部屋ではなく、海に向いたテラスの扉は解錠されているが、そこには事件当時麻薬課の刑事が張り込みをして見張っていたという視覚による密室状態が設定されている。
そして本作では上にも書いたように黒人が多数登場しており、しかもレゲエミュージシャンばかりが登場する。つまり黒人と云ってもジャマイカンでレゲエ文化独特の論理が展開する。
レゲエ・ミュージシャンであるラスタファリアンたちはジャマイカ独自のラスタファリズムと云う旧約聖書に基づいた宗教の戒律に従って厳格な生活を守っており、ドレッドヘアは剃刀に対する戒めから髪を切らず、梳かさず、伸ばしっぱなしにしている。それが次第にラスタファリアンの誇りや勇気の印を象徴するようになり、神のエネルギーを具現化している風に考えている、etc。
そんな独特なジャマイカ文化の中で事件に対応する探偵士はこれまでのシャーロック・ジュニアではなく、カーの2大シリーズ探偵のうち、ギデオン・フェル博士を彷彿とさせるヘンリー・ブル博士。そしてカー作品の特徴であるオカルト趣味はジャマイカの伝承をベースにしており、しかも主人公のキッド・ピストルズたちはイギリスで発展したパンクスであり、いわばWhite meets Blackの妙味が味わえる。
レゲエテイストを横溢させながら、ジャマイカ文化をロジックの背景にした本作はまさに音楽に造詣が深い山口氏ならではの作品だ。


全4編が収録されたキッド・ピストルズシリーズ第1作はそれぞれ毒殺、ダイイング・メッセージ、見立て殺人、密室殺人と本格ミステリの本質的なテーマを扱っている。

そしてそれぞれの短編には古典ミステリをパロディにしたネタが放り込まれており、ミステリに造詣が深ければ深いほど愉しめる内容となっている。

少なくとも3人はシャーロック・ホームズと称する探偵士がいたり、S・S・ヴァン・ダインをパロディにした『《にやにや笑い》(グリン)殺人事件』や『蔵相殺人事件』を著しているS・S・フォン・ダークのペンネームを持つウィラード・ハンティントン・ライトならぬウィラード・カールトン・ライトが登場すれば、ヘンリー・ブル博士はジョン・ディクスン・カーの創作したヘンリー・メリヴェール卿とギデオン・フェル博士を彷彿とさせる。
更に一旦探偵士によって開陳される事件の解決をキッド・ピストルズシリーズが更に整然とした推理で覆す構造は複数の解決を駆使するアンドリュー・バークリーを想起させるし、またチェスタトン張りの逆説や形而上学的な観念的な論理展開は先に挙げたヴァン・ダインのそれだ。

それ以外にも古典ミステリの名作のタイトルをパロディにした、いやそのものズバリを物語のあちこちに施し、その都度ニヤリとさせられる。

そんなパラレル・ワールドの英国を舞台にしたキッド・ピストルズシリーズ。
警察が堕落し、腐敗したその世界では民間の私立探偵が活躍し、<探偵士>なる称号が設立され警察より優先的に捜査を行使できるその世界は一見破天荒に思えるが実はこのパラレル・ワールドを設定することで山口氏は本格ミステリに付きまとうある不自然さを見事にクリアしているのだ。

本格ミステリにおいて最も不自然なこととはいったい何だろうか?

密室殺人?
人智を超えた不可能犯罪?
まだるこしいほどに手の込んだアリバイトリック?

確かにそれは不自然さを感じるだろうが、世の中には色んな人がおり、また予想もつかないことが起きるのが世の常であることを考えれば、上に挙げた内容も許容範囲だ。

では最も不自然なものとは何か?
それは探偵が捜査に介入することだ。

この本格ミステリでは当たり前に起きている素人探偵や私立探偵が殺人事件を始めとする刑事事件の捜査に介入することは現実世界においてまず、ない。

従って世のミステリ作家たちは自ら創案した探偵たちを捜査に関わらせるために様々な工夫をして不自然を自然に見せることに腐心している。

難航した事件を偶々事件に関係した探偵が解決した。

警察の上層部が父親、もしくは親戚である。

警察の相談役となり、既に捜査に携わることを認められている、などなど。

しかし本書では無効化した警察の代わりに探偵士が捜査を行うという世界を設定することでその不自然さを見事にクリアしているのだ。

しかも事件を解決するのはそれら探偵士でなく、堕落した警官であるキッド・ピストルズであるというパラドックス。

つまり本来事件を解決すべき警察が、探偵が登場する本格ミステリにおいて道化役もしくは物語の進行役になっている不自然さを更に本書では探偵士ではなく道化役であるはずの警察が事件の謎を解くというあるべき姿になっているところに妙味がある。
あり得ない世界を設定したことであるべき捜査の在り方を描く。パラドックスに満ちながら、実は正統な事件の解き方を描くことになっていることが非常に面白い。

また同時にこのパラレル・ワールドを設定することで恐らく作者の嗜好であるパンクルックの警察官が横行する世界、それこそ山口氏が脳内で展開した新たな探偵小説、かつてないほどクールで破天荒な警官キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナを生み出すことに成功したのだ。

デビュー作では死者が甦る世界における殺人事件の意義を問い、そして本書では探偵が警察よりも権威を持つパラレル英国を舞台に、しかも作者自身のあとがきによれば世界初のマザーグース・ミステリ連作シリーズを著した山口氏。
誰も書いたことのないミステリを、もしくは自分だけが想像する世界におけるミステリを書く、孤高のミステリ作家山口雅也氏は極北のミステリを目指しているが、それが結果的に純粋に本格ミステリにおいて探偵の存在を不自然にならないようになっている。

そして探偵の存在を肯定しながらその実、事件を警察に解決させるこのシリーズは山口氏独特のパラドックスに満ちた作品であると云えよう。

本格ミステリの異端児が放つミステリは異端な世界を描くことで実は至極真っ当な世界を描く、つまり―(マイナス)に―(マイナス)を掛けると+(プラス)になることを証明した作品なのだ。

かつて山口氏は本格ミステリの巨匠島田荘司氏を本格ミステリ界のボブ・ディランと称した。

それに倣って私は山口氏を本格ミステリ界のなんと称しようか。それはもうしばらく氏の作品を読んでから判断することにしよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(6pt)

普通でした

山口雅也なので期待して読んだんですけど、普通でした。

わたろう
0BCEGGR4
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

No.7:
(5pt)

全編読み応えあり!

パラレル英国だからこそ許容できる大胆な構成が見事に嵌まっていて面白い。
かといってその奇抜さにおんぶに抱っこというわけでもなく、犯人や被害者の心理描写も巧みであり、意外性もある。ペダントリーも鼻につかない程度でちょうど良い。
また四つの短編のいずれにも偶然の要素が加わっており、少なからずそれらは謎を解く上での重要なキーとなっている。
事件を構成する偶然と必然の奇妙な関係性はのちの著者の代表作『奇遇』に繋がるテーマの萌芽が感じられる。
キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)より
4334777201
No.6:
(5pt)

本格ミステリの傑作

多元世界が舞台の本格ミステリ。一読の価値あり!
キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)より
4334777201
No.5:
(5pt)

並行世界上の英国で織り成すマザーグースをモチーフとした事件の数々

警察よりも探偵の力が強い並行世界上の英国・ロンドンを舞台に、マザーグースを
モチーフとした事件に挑むパンクファッションに身を纏ったスコットランド・ヤードの
捜査官キッド・ピストルズとピンク・Bが(シャーロック・ホームズ・ジュニアら
探偵士と)ともに挑む連作短編がまるで外国文学の翻訳のような文体で描かれている。

本作の作品世界はバタフライエフェクトにより現実世界と微妙に異なる並行世界上の
英国であるものの、警察よりも探偵の地位や力が強いのは、架空のおはなしでは
非常に愉快ではあるが、現実社会でこれが行われると、世間が探偵に十分な着手金と
成功報酬を支払うことができるほどの収入を得ている依頼人の捜査や推理が優先され、
貧しさゆえに探偵への依頼ができないか、できたとしても質の低い探偵にしか依頼を
することができず、貧しい犯罪被害者が報われないディストピアと化すことに
気付かなければならない。

なお、作中の『1839年制定の警視庁法(Metropolitan Police Act 1939)』は実在の
法律だが、実際の法律は作中のような警察官を私的に雇うことを認めるものではない。

『「むしゃむしゃ、ごくごく」殺人事件(The "Victual and Drink" murder case)』
第二次大戦前に女優として活躍したものの、度重なる不幸により50年間で
体重400ポンドにもなった巨漢の老婆が青酸カリにより殺害される。
完全に心を閉ざした彼女に生前直接接触できていたのは自分が雇った秘書という
名の世話係と資産を管理している弁護士のみで、唯一の相続人で彼女から
交際相手を奪った妹のみだったが、五十年間一度も接触することはなかった――が
あらすじ。
人生で大きな挫折を経験し、立ち直れないまま50年もの間、占いという希望的
観測や雑誌・小説による追体験によってカタルシスを得る姿は、ある意味本作が
発表された1991年において、近い将来同様の問題が表面化することを予言しているか
のようでもあり、如何にして着想を得たのか実に興味深い。

『カバは忘れない(Hippopotamus can remember)』
経営不振の動物園の園長で作家でもあるトマス・リヴィングストンが園長室で
ダイイング・メッセージを書きかけたまま刺殺された状態で発見された。同じく
刺殺されたカバとともに。
従業員のモシェシュと呪術師のンゴゴはキンシャサから戻ったばかりでシェラトンに
宿泊しており、動物の死体を売って糊口をしのいでいた日本人剥製師の工藤は
昨晩麻薬取引の嫌疑で警察に拘束され、三十歳年下の若妻は男と逢瀬を繰り広げ、
言い争いをしていた獣医のヘンリー・プリーストはソーホーのクラブでトランペットを
演奏していたというアリバイがあった。
行為そのものは同じであるにもかかわらず、ところ変われば聖なる行為が犯罪に
なるという妙が描かれるとともに、アフリカ系黒人に対して差別感情を抱いていた
白人が、同じく差別の対象であったはずの黄色人種である日本人を頼らざるを
得ないという関係性は一種のアイロニーとさえ思える。

『曲がった犯罪(The Crooked Crime)』
時代錯誤な選民意識の強いグレンヴィル伯爵夫人が経営するカラオケクラブで、
伯爵夫人、隣に事務所を構える美術評論家兼作家兼探偵のライト、
シャーロック・ホームズ・ジュニアそしてキッド・ピストルズの四人がポーカー
に興じていた。
二日後、マットという現代アート作家を支援していたフェントンが
スコティッシュ・フォールドを買い求めたペットショップのオーナーそして
フェントン自身が連続して殺害される事件が起きる。
現代アート作品とゴミは紙一重であり、ウ●コがアートになるのかならないのか
という会話を通じて、物の価値は物そのものがどうなのかではなく、
その物にいくら値段を付けたのかで決まるという現実を示唆していると同時に
一見すると自分には不可解に見える他者の行動には何かしらの理由が存在すると
いう教訓と戒めを与えている。
現実世界における例として、バンクシーを挙げることに異論を挟む者はいるまい。
世の中の全員がただの落書きだと断じたらそれはただの落書きだが、
一人でも値段を付けて買う人間が現れたらそれはもうアートになってしまうと
いう好例である。
また、作中に日本のビールが売られているビールの自動販売機という、
英国には存在しない(現実世界の英国では法律上の問題もありアルコールを
自動販売機では売らない。清涼飲料水やキャドバリー・チョコレートなら売って
いるが、そのすべては防犯上の理由から室内にしか設置されていない)ものが
登場するが、並行世界上の英国を描いている以上、それは存在するということに
なるのだろう。非常に便利なシステムである。

『パンキー・レゲエ殺人(The Punky Reggae Murder)』
冒頭の著者まえがきにも記載されているとおり、推理譚は中上流階級、
特に欧米文学では白人のものであるというイメージを覆すという目的から、
この話の舞台はレゲエとジャマイカン・コミュニティが舞台となっている。
1970年代まで英国のラジオといえば公にはBBCしかなく、BBC以外のラジオ放送は
非合法あるいは北海上の船の上から送信する脱法的な海賊放送であり、その背景と
して当局の取締がユルかったのと、BBCでは流れないようなマニアックな曲で
あったり、公序良俗に反するような曲を流す海賊放送に一定の支持があったという
背景を知っておかなくてはならない。
(一つの例として、QUEENおよびフレディ・マーキュリーの生涯を描いた映画
『ボヘミアン・ラプソディー』でも、3分以内でなければ楽曲は流さないという
BBCのポリシーに反発し、Capital Radioで曲を流したシーンは記憶に新しいだろう)
あと驚かされたのは、『左利き用の小切手帳』が存在すること。最初は前章の
ビールの自動販売機のこともあり嘘つけと思っていたが、調べてみると
現実世界の英国の大手銀行(バークレイズ、ロイズ、ナットウエスト、HSBC)の
ウェブサイトを調べてみたところ実在するらしく、自身が左利きで英国在住経験
そして小切手帳を所有していた経験があったにもかかわらず、それをリクエスト
しなかったのは不覚であった。
キッド・ピストルズの冒涜―パンク=マザーグースの事件簿 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:キッド・ピストルズの冒涜―パンク=マザーグースの事件簿 (創元推理文庫)より
4488416020
No.4:
(4pt)

端正にして論理的なマザーグースミステリー短編集

山口雅也氏の人気シリーズのキッドピストルズシリーズの1作目に当たる作品。 既に13人目の探偵士にてその世界観は確立されているが、それに英国の童謡のマザーグースをモチーフとして取り入れた短編連作作品となっている。 世界観は破格だが、そこで展開される事件と解決に至る流れはまごうことなき正統派の論理的本格ミステリーとして構成されている。 4編収録されているが、特に3話目の曲がった犯罪はこの著者が展開する逆説の論理により奇妙な状況が論理的に帰着する流れが最も端的に表現されたおり、一番の読みどころだろう。
キッド・ピストルズの冒涜―パンク=マザーグースの事件簿 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:キッド・ピストルズの冒涜―パンク=マザーグースの事件簿 (創元推理文庫)より
4488416020
No.3:
(3pt)

奇抜な推理の探偵士vs堅実に論理を組み立て、真相を見破るパンク刑事

警察官の質的低下のために探偵士の方が地位が高くなったというパラレル英国で、冴えない探偵士たちにこきつかわれるキッド・ピストルズとピンク・ベラドンナの凸凹コンビが活躍する連作短編集第一弾であります。
設定は大ボラなんですが、事件並びに解決は意外にオーソドックス。奇抜な推理に走りがちな探偵士に対し、何気ない手がかりから堅実に論理を組み立て、真相を見破るパンク刑事の名推理が冴え渡ります。
収録作中のベストは「曲がった犯罪」。ヴァン・ダインをそのままパクったみたいな登場人物に大笑いでした。
キッド・ピストルズの冒涜―パンク=マザーグースの事件簿 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:キッド・ピストルズの冒涜―パンク=マザーグースの事件簿 (創元推理文庫)より
4488416020



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