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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数694件
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クーンツにしては、という云い方は失礼かもしれないが、複雑なプロットの物語でかなり読むのも苦労をした。タイムトラベル物の一つなのだが、とにかく複雑な構成。パラドックスに関してかなりの時間を費やして考察を行った節があるのだが、最後の敵クライトマンがクリーゲルのチャーチルとヒトラーに対して行った工作が成功した後にも存在していたのは何故?などという疑問もある。
先に読んだ『奇妙な道』にアイデアは似ていると思う。特に防戦に失敗して主人公が死亡した後に、別の手段でやり直しが効くところは正にそっくりだ―まあ『奇妙な道』の方は何度も何度も繰り返され、アンフェアな印象があったのだが―。 しかし、いつものクーンツ作品と違い、事件解決後の後日談があるのも珍しい。ここまでするのならもう一つサプライズがあっても良かったかなとも思ったが。しかしローラの半生を丹念に描くところなんかはシドニー・シェルダンの小説を読んでいるかの如くで、特に『ゲームの達人』が発表された年とこの作品が発表された年とを比較してみるのもまた一興だろう。 |
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プロットは及第点だろう。登山中の事故で瀕死の重傷を負って自信を喪失した登山家がある事件を切っ掛けに困難に立ち向かいその自信を取り戻していくというストーリーに加え、連続殺人鬼、事故の際に身につけた千里眼の能力など、クーンツの味付けが溢れているし、殺人鬼が1人ではなく、2人が同一の犯行を行うというアイデアも秀逸だろう。
さらにマンハッタンのビルを山に見立て、垂直降下するアイデアも主人公の設定と見事に呼応し、素晴らしい。 しかし、どこか響かない。 名作『ウィスパーズ』や『邪教集団トワイライトの襲撃』に見られる何処か神経を泡立たさせる何かがないのだ。有りか無しかといえば有りだが、文庫で十分だというのも事実だ。 |
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セイヤーズ初体験である。
本作は当初 “シャーロック・ホームズのライヴァルたち”と銘打った東京創元社の企画物の1つで独自で編んだ短編集であったらしい。それが長年に渡って繰り広げられ、そして今も継続中のセイヤーズ完訳の第一歩となるとは不思議なものである。 正直な感想を云えば、驚きました。島田荘司氏が本格の定義として提唱している「冒頭の怪奇的・幻想的な謎、そして後半の論理的解明」を正に実践しており、こんな本格が過去、西洋にあったのかと再認識させられた次第。ドッペルゲンガーに悪霊憑き、そして首のない馬車とゴシック風味満載である。色々読みこなした現代においてはそれらの結末は想像の範疇で瞠目させられるものではないにしろ、これほどのものがまだあったことが素直に嬉しい。 読書期間中、第1子誕生と忙しいこともあり、睡魔に負けてほとんど憶えていない短編もあるが、全体的に好印象だった。 |
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前作『奇妙な道』とは打って変わってこちらは純粋な短編集。クーンツ得意のモダン・ホラーからファンタジー、幻想小説とその趣向は様々。
全7作の内、最も印象的だったのは最初の「フン族のアッチラ女王」と表題作。特に前者は植物のような宇宙生命体の侵略物語がどう題名に結びつくのかが興味深く、その趣向に1本取られた感じだ(結局、内容的には大したことはないのだが)。後者は家に現れる地下への階段というモチーフが秀逸。つまりこれこそが主人公の心の闇の深さのメタファーとなっており、人の悪意の底知れなさを仄めかして終わるラストも良い。 その他特殊な両手を備えた男の哀しみを描く「オリーの手」、実験で知能を備えた鼠の恐怖を描いた「罠」、異世界から来た熊の私立探偵とその異世界と現世との比較が面白い「ブルーノ」など前述のようにヴァラエティに富んでいるがずば抜けた物がないのも確か。最終巻の『嵐の夜』に期待。 |
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天藤作品を連続して読む前は、『遠きに目ありて』、『大誘拐』、『鈍い球音』しか読んでないがため、それらに共通する宮部みゆき氏を髣髴させる温かみを彼の作品の特徴だと思っていた。しかし、『善人たちの夜』、『わが師はサタン』までの長編を読破するにあたり、意外にも人間の持つ欲望の意地汚さ、卑しさ、小賢しさを全面に表出させ、女性を凌辱する話も多いことに気付かされた。その傾向は『死角に消えた殺人者』あたりから顕著に見られるようになった。ここに作者の転機があるように思う。
なぜこんな話をするかというとこの短編集がどうもその時代あたりに書かれた片鱗を覗かせるのだ。その特色が表題作の「われら殺人者」から見られる。文庫の裏表紙にかかれた梗概からは天藤お得意の見知らぬ者達が力を合わせ、目的を成すといった奇妙なチームワーク物のように思えたが、意外や意外、何とも泥臭く、後味の悪い結末だった。 最後の2編、「崖下の家」、「悪徳の果て」はもう人間の最も厭らしい部分を見せ付けるような結末で正直、今でも震えが来る。いや、今にして思えばジュブナイル物だろう「幻の呼ぶ声」も結構児童向けにしてはシビアな内容であるから、ここからかもしれない。 結構次作を読むのが怖かったりする。 |
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久々の、本当に久々のレナードである。『ラム・パンチ』以来だから4~5年ぶりか。そしてやはりレナードは面白かった。
とにかく登場人物が洒落ている。活きている。どんどん引きずり込まれる。フォーリーのクールさは映画版のジョージ・クルーニーぴったりだし、キャレンの凛々しさは確かにジェニファー・ロペスだなぁ。本作ではフォーリーは50前、キャレンはどうやら白人という設定みたいだがこのキャスティングは素晴らしいと改めて思った次第。 まあ、観ていない映画の話はこれくらいにして、とにかく車のトランクの中に銀行強盗と女連邦官が一緒に閉じ込められるというワン・アイデアがこれほど面白く働くとは思わなかった。水と油の職業の者同士が恋に落ちるというパターンは山ほどあるが、これほど奇抜でしかも説得力のあるシチュエーションは初めて。ここから織りなされるそれぞれの思いの道行きが大人のムードを醸し出しながらも初々しさを持ち、そして再び出会った時に爆発的な化学反応を起こす、このストーリー・テリングはやはり超一流。スラングを多用し、また地の分に台詞を同化させたレナード・タッチもふんだんに織込まれ酔い痴れました。 ただ2人の恋の盛り上がり方に比べ、結末がドライで呆気なく幕引きになるのが残念。 あとやっぱり『ゲット・ショーティー』の奇跡的な構成が記憶に残っているのでそれを超えられるほどのものがなかったのも物足りなかった。 ともあれ、レナード作品の翻訳再開は非常に嬉しいし、どんどん読みたい。どうか作品紹介が今後も続きますように。 |
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上手いなぁ!たまにはハードボイルド物も書けばいいのに・・・。センスあるよ~!
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ミステリー色はさほど濃くなかったが十分楽しめた。安心して読める作品。
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各短編のクオリティは低くないものの、突出したものがないと感じる。次回に期待します。
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良い!と云える佳作。相変らずのアイロニックな文体が躍動している。
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最後の三冊目にしてやっと通常の読物として満足できるものが揃い、ほっとした。
「革の漏斗」、「サノクス令夫人」以外はどれも標準点である。特に最後の「ブラジル猫」は友人を地下墓地に巧みに迷い込ませた「新しい地下墓地」のパターンを応用し、ひっくり返させ、更に夫人の振舞いにダブル・ミーニングを持たせてアクセントをつけている。 異形物の「大空の恐怖」、「青の洞窟の怪」は『ロスト・ワールド』の作者である面がよく出ており、物語作家ドイルの面目を保った感がある。 これでドイルの作品は最後になるが、全般的な感想を云えば、世評の高い『バスカービル家の犬』、『緋色の研究』や短編「まだらの紐」、「銀星号事件」などよりもあまり巷間の口に上らない『恐怖の谷』の方が読物としてレベル的にも断然面白かったのが非常に印象に残った。やはりホームズ譚は世の中に紹介されすぎなのだろう、世評高いものはもはや手垢が付きすぎた感があり、新鮮味に欠ける。 そしてまた『緋色の研究』や『四つの署名』、『恐怖の谷』に挿入される犯人判明後の挿話がすこぶる面白かったのも新たな発見であった。この挿話では文体から既に別人と化しており、本質的にこの作者が何を書きたかったのかをあからさまに示しているようだ。 最後に最も残念だったのが悪訳の多い事。日本語で読みたいのだよ、私は。21世紀でもあるし、改訳するのが潮時でしょう。 |
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雑誌に投稿して佳作入選を果たした表題作に代表されるように初期の短編においてはミステリ色よりもオチのついた小噺といった方が適切な作品が多い。「なんとなんと」、「鷹と鳶」、「夫婦悪日」などは正にそれで「犯罪講師」に至ってはコントですらある。
本格的なミステリと云えるのは「塔の家の三人の女」、「穴物語」、「誓いの週末(これは秀逸)」の三篇だけだろう。 「声は死と共に」は天藤作品らしからぬ暗い作品でなんとも後味が悪く、結末も歯切れが悪かった。 先に出版された『遠きに目ありて』レベルの秀作がないのはまだ油の乗り切る前の初期作品であるから仕方ないが、最後の「誓いの週末」にその片鱗が窺えるのが収穫だった(ある意味、これはチェスタトンだよなぁ!!)。 |
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天藤真がオカルト!?というミスマッチのせいか、読み始めはなかなかノレなかったが、アスタロトから南郷講師へ主人公グループの指導者が替わる辺りからなんとかテンポよく読み進められた次第。ストーリーはその後も二転三転し、なかなか先を読ませなかったのだが、最後は、意外というわけでもなく、こちらの思ったとおりの犯人に落ち着いた。
しかし、『善人たちの夜』の時もそうだったが、いまいち主人公には共感できなかった。こちらが天藤作品に求めているのが主人公達が孤軍奮闘する爽快感であるように位置付けられている事が大きいのだろう。無論それは『大誘拐』や『殺しへの招待』などの天藤真の代表作が備えているテイストに他ならないからだ。 だから最後の田のぬけぬけとした女たらしぶりなどは読書の興趣を殺がれるし、何とも味わいの悪い読後感が残る以外何物でもない。 しかも女性名義で発表した作品という割にはセックスに関する叙述が多く、ろくでもない人間が多く出てくるのも気になった。もしかしたら天藤作品というレーベルとは作者自身も違和感があったのかもしれない。 |
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以前から云っているが、数あるクーンツ作品を傑作・駄作で分類する時、ポイントになるのは物語に使われる超常現象に対し、登場人物や設定において、ある特別な区別をされた際に何故彼(彼女)は他のみんなと違うのかというのがはっきり明示されているか否かが挙げられる。前者は『ファントム』、『ウィスパーズ』、『雷鳴の館』等、後者は『殺人プログラミング』、『闇の殺戮』等である。勿論後者についても読者を全く飽きさせない展開でぐいぐい引っ張っていくがいかんせん理由付けの部分が弱いと興醒めで魅力はそこで半減してしまう。
さて今回はどうだったかというとまずは及第点。悪くない。 本書に収められた2作の内、本書のほとんどを占める表題作は父親の葬儀のため、数十年振りに戻った故郷でいきなり20年前にタイムスリップする、それは現在の自分の人生を運命付ける正に人生の岐路の時であった、主人公は自分の理想とする新たな人生を取り戻そうとするという男の再生譚。今回の私なりの焦点は何故主人公がいきなり20年前に戻ったのかというのは実は主眼ではなかった。これは物語の設定として違和感なく入り込めた。 では何かというと事ある毎に、特に主人公が失敗する場面からいきなりリセットされ、失敗する前に引き戻されるという設定。それが1度のみならず2度、3度と繰り返される辺りに不満があった。クーンツの作品は結局ハッピー・エンドで終わるというのが通説だが、これはいくらなんでも酷すぎると思った。 しかし作者はそこに何ともロマンティックな理由を設けており、正直思わず微笑んだ。こういう手を使う所が、何ともクーンツの人生を反映しているような気がして憎めない。 もう1作の短編「ハロウィーンの訪問者」は他愛のない話で恐らくこれは児童向けの説教小説だろう。怪物を出すあたり、クーンツらしいといえばそうだが。 今回は以上よりやや傑作よりだと思うが小説としては小粒であることは否めない。次に期待。 |
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ミステリというよりもシチュエーション・コメディと云った方が妥当のような至極真っ当な物語。
危篤の床に就く親父のために偽装結婚を画策した所、思惑から外れて事は意外な方向に向かい、やがてそれぞれの本性が見え隠れしだし、最後は・・・と、何処に意外性を求めたらいいのか解らない物語で設定に凝る天藤にしては本当にオーソドックス。寧ろストーリーは単なる意匠で、描きたかったのは田舎の大地主の息子との結婚生活奮闘記のような日々苦闘する主人公二人の姿と非の打ちようがないほどの善人の弥左衛門とそれらを取り巻く気のおけない親戚どもの様子だろう。作者自身これを愉しんで書いているような節も散見する。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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冒頭の、関係のない4人の転落死、その事件を解決すべく結成される遺族会、そして一癖も二癖もあるいかがわしいそのメンバー、結末直前のどんでん返し、そして4人が同乗して死に至った経緯のコミカルさ、これらを取り出してみると正に天藤ワールドのエッセンスが詰まっているのだが、どこか空虚な感じが残っており、充実感がない。それは主人公令子の行動と共にストーリーが語られることにあると思うのだ。
今回の主人公は決して読者の共感を得る存在ではないだろう。勝ち気で考え方に偏りがあり、しかも厚顔無恥な所もあり、移り気が激しい。この移り気の激しい令子の行動がまた短絡的で探偵ごっこの域を出てないために、徒に時を費やしている印象が非常に強かった。 また、死んだ母親が令子の導き手として頻繁に出てくるのはどうしたことだろうか?こういう寓話めいた構成は今までの天藤作品には全く見られなかったのに今回に限って何故このような手法を取り入れたのだろうか?作者も年を取り、ある意味、独特の死生観を持つに至ったのだろうか。これが結末にも演出として使われていたのは逆効果で、温かい余韻を持たせようという作者の魂胆が見え、私にはあざとく感じたのである。 まあたまにはこういうのもあるんでしょうな。 |
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前回のシンプルな設定とは全く逆のジェットコースター的逃亡劇でとにかく先の読めない話だった。
『遠きに目ありて』の中の1編にもあったが晴耕雨読の生活をしていた事も一因だろうがなによりも山中の風景や場面を描かせると天藤真は無類に巧い。行間から土の匂いや草いきれ、田舎の生活臭が立ち上ってくるのである。山中における逃亡者と追跡者との一進一退の攻防はコミカルながらも真に迫っており、リアルである。 そして今回もまた人物設定が特異で、学生期のトラウマから女嫌いになったヒッピー青年と、同じく学生時代のトラウマから男嫌いになった赤軍派女性を逃亡のカップルに仕上げる辺り、心憎い。こういった設定では常に逃亡者同士のラヴロマンスが付き物だが、その一歩手前にそれぞれ異性に対する意識の革命があり、あくまでプラトニックな所が初々しい。涼風が心に吹くような爽やかな印象を与えてくれ、9割ほど読んだ時点では9~10星のはずだったのだが、最後の真相及び結末がどうにも消化不良。これは自分の好みの問題なのだろうが、こういう内容のものに真相に政治的陰謀などが絡むと何ともしらけてしまうのだ。更に最後のぼやけた様な終わり方もちょっとガッカリ。天藤作品にしてはちょっと凝り過ぎのような気がしてなんとも勿体無い気持ちで一杯なのだ。 |
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巷間に流布しているホームズ譚の短編集は『~冒険』、『~帰還』、『~思い出』、『~最後の挨拶』、『~事件簿』の5冊が通例だが、新潮文庫版においては各短編から1、2編ほど欠落しており、それらを集めて本書を編んでいる。従って衰えの見え始めた後期の短編集よりも実は内容的には充実しており、ドイル面目躍如という印象をもってホームズ譚を終える事になろうとは計算の上だったか定かではない。
本作においては冒頭の「技師の親指」など結構読ませる短編が揃っており、個人的には「スリー・クォーターの失踪」がお気に入り。最後の「隠居絵具屋」はチャンドラー、ロスマク系統の人捜しの様相を呈した一風変わった発端から始まるが最後においてはポーの有名作品を思わせる仕上がりを見せるあたり、なかなかである。 しかしホームズ譚を全編通じて読んだ感想はやはり小中学校で読むべき作品群であるとの認識は強く、少年の頃に抱いた輝かしい物語のきらめきの封印を無理に抉じ開けてしまった感があり、いささか寂しい思いがする。色褪せぬ名作でもやはり読む時期というものを選ぶのだ。 |
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島田荘司の御手洗シリーズでも吉敷シリーズでもないノン・シリーズである本書はなんと大胆にも島田荘司の切り裂きジャック事件真相論である。2002年でもパトリシア・コーンウェルが巨額の金を使って作家生命を賭けて真相を精力的に暴く活動を行っているこのあまりに有名な事件はやはりミステリ作家にしてみれば一度は手掛けたいテーマなのだろうか。
本編においてもその是非は別にして実に島田らしい魅力的な解決を繰り広げてくれている。しかもそれがあの島田特有の物語風に語るのだから実に面白い。これが実に巧い!!これ一つだけでも本にして纏めても売れるぐらいに面白い。 御手洗シリーズにおいても遡れば古くは『異邦の騎士』における手記から始まり、『水晶のピラミッド』の古代エジプト譚、『アトポス』の吸血鬼エリザベートの物語といった非常に残酷かつ一種の絶望感・喪失感を抱かせる物語を書かせたらホント島田の右に出る者はいない。昨今の作品ではそういった挿話が非常に面白く、事件そのものが実はさほどでもないといった主客転倒した感が連続しているが、本編は正にその兆候を示したような作品で、特に探偵役のクリーン・ミステリなる人物の造詣ぶり、ネーミングの情けなさには閉口した。 ホームズのパロディがまたもや繰り返され、なんともまあ、同感できかねる人物なのだ。従って採点の内訳を云うと(切り裂きジャック譚星9ツ)+(ベルリン事件譚△星2ツ星)=7ツ星といった具合だ。 ある意味これが島田らしいといえば島田らしいのだ。 |
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不朽の名作『大誘拐』の作者のなんと江戸川乱歩賞応募作である。文章を見るにデビュー作とは思えないほど卓越した力があり、その老成振りは現在、数多デビューを飾る新人達と比べると隔世の感がある。
鉄工所の社長が密室の中で殺害されるという純本格的なシチュエーションで始まる本書は終始殺人事件とは一線を画した農村の和やかなムードで進み、解決に至る終章もまたそのムードを一貫して結ばれる。応募作にて既に作者特有の温かみが溢れているのである。短編集『遠きに目ありて』中の1編にもやむにやまれない殺人を扱った物があったが、原点である本書も正にそのテーマが通底している。 何せ、登場人物が憎めないのが作者の特徴、というか美点であり本書もその例に漏れない。 正に「容疑者達、万歳!!」である。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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