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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数86

全86件 41~60 3/5ページ

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No.46: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

オンラインゲームを題材としたミステリ

『超巨大密室』の意味は、オンラインゲームの仮想空間の事。

このタイトルはミステリ読者宛への商業戦略でしょうか?見事に釣られて購入後の読書で困惑。中身違うじゃん!と思い期待が下がりつつもとても面白かったので結果は良かった。サブタイトル化するなど、もっと中身に合ったタイトルが望ましいと思いました。
ネットゲームに特化させたミステリ小説という点で、事件内容、登場人物の設定がとても巧く扱われているのが見事。著者自身もネットゲームを相当楽しんでいると思われます。

読者としてはネットゲーム何それ?という層も当然いますが、そこを補完する仁菜というキャラが読者目線の役割を担っていてうまいです。ネトゲ廃人に紹介してもらい、初アカウントを作り、ギルドに入り、顔の見えない相手との会話に触れていく様がよく描かれています。
ネットゲームに惹き込まれている人の考え方が極端なのですが、かえって分かりやすくて楽しめました。また、あまりに思想ばかりだと読者がポカーンとしますが、それに対して前述の仁菜が、住む世界が違う人なんだと読者目線で溢してくれるので、作品内のネットと現実をうまく区別する役割にもなっています。

ミステリ模様としては、チャットログの会話文章の癖や誤字の頻度から人物を推察したり、ログイン・ログアウトの時刻から生活習慣を求めたり、RMTやらネット特有の方法で捜査をする様が警察小説を思わせて楽しめました。意外な伏線や作品のまとめ方も面白いです。

登場人物が限定的な為、真相を予想できながら読めてしまい驚きを求める人には向かないライトな小説な感じがします。ただ、ゲーム系ミステリが好きな方にはオススメ。
2年前の本ですが、ランキング系の雑誌に取り上げられていないのが勿体ないと感じました。たまたま本屋でタイトルを見つけての衝動買い。まぁ、そういう意味ではこのタイトルでもいいのかと複雑な気持ち。

▼以下、ネタバレ感想
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超巨大密室殺人事件 (角川ホラー文庫)
二宮敦人超巨大密室殺人事件 についてのレビュー
No.45: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

多重解決もので名を刻む作品

とんでもない作品が出てきましたね。傑作です。

TV番組に集められたミステリ読みのプロ達が、早押し形式で事件の真相を言い当てる。
この仕組みが非常に効果的で、こんな事を思いつく作家の創造の凄さを感じました。

構成は、
問題編⇒早押し(回答編)⇒問題継続⇒早押し(回答編)⇒問題継続……
となっています。

問題編ではクローズド・サークルの舞台で殺人事件が起き、登場人物や手がかりが徐々に明かされる中、早押しで途中まで提示された手がかり+想像力で推理を組み立てます。ミステリ読みのプロ達の回答はどれも唸らされるものばかり。
些細な文章やエピソードから驚くべき想像力で事件の推理を組み立てるのですが、それが非常に面白い。間違えでもアリだと思わせる納得の推理。読者が想像しそうなミステリのお約束の回答をことごとく潰していく様も見事です。

問題編と回答編が進む中、新たな手掛かりで過去の文章やエピソードの内容が様変わりするのも面白く、何が正しくて、何が間違いだったのか、混迷してきます。細かい出来事がもれなく手がかりになっている作り。本書の全編が問題編でかつ推理パートでもある。ミステリ好きならワクワクする事、間違いなしです。楽しい読書でした。

また本書は、ミステリ読みならどこかで目にしている『後期クイーン的問題』も含まれています。全ての手がかりが保証されていない中での真相が真の解決とはならない。この問題を、クイズ形式+ミステリ読みのプロ(探偵役)の組み合わせで作品にしているのも見どころです。

多重解決ものは目まぐるしい推理に後半疲れてしまう傾向なので、好みが分かれがちなのですが、本書はこれでもかってぐらい要素を盛り込んでいるので、疲れはするけど面白さが勝り、記憶に残る作品となりました。
こんなにもの多重解決の整合性を保ちつつ遊び心が満載な作品を作れるのが凄まじい。
著者の作品は、作品に対して何かしらテーマを盛り込み特化させているのが本当に素晴らしいです。今後の作品も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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ミステリー・アリーナ (講談社文庫)
深水黎一郎ミステリー・アリーナ についてのレビュー
No.44: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

卵をめぐる祖父の戦争の感想

傑作。久々に濃密で爽快な読書体験でした。

海外作品なのに読みやすく、かつ戦争物は堅苦しいというイメージを払拭するユニークな作品です。

正直、本書は意味不明なタイトルと戦争小説のイメージから記憶に留めていませんでした。
きっかけはハヤカワ・ポケット・ミステリの情報を調べていた時に、2010年のリニューアル第1弾として本書が選ばれている事を知り注目。何かが変わる時の作品は関わる人々の強い思いが込められた物になっているだろうと言う点と、世の評判が良かったので手に取りました。

祖父から当時の戦争の様子を語ってもらうシーンで物語は始まります。

舞台はレニングラード包囲戦。第二次世界大戦、ドイツ軍が大都市レニングラードを包囲し食糧の供給が断たれた飢餓地獄の街。食べ物が無い為、図書館キャンディと称する本を口にして糊付けに含まれる蛋白質を補給して栄養を取ったり、人が死んでいれば死体の持ち物を物色するなど凄まじい状況が描かれています。

主人公の青年が仲間と共にドイツ兵の死体から所持品を物色していたところ、運悪くソ連の秘密警察に見つかり略奪罪として捕まってしまう。射殺されてもおかしくない状況で、秘密警察の軍の大佐から5日後に行われる娘の結婚式にケーキを作ってやりたいから卵を1ダースもってこい。と命令を受ける。

卵はもちろん鶏も犬猫もいない飢餓状況の重苦しい状況において、ケーキを作るというなんとも皮肉でユーモアな目的が描かれているのが面白いです。邦訳のタイトルが逸品で本書はこの卵をめぐる冒険小説となります。
(全然違うのですが、『走れメロス』のタイムリミット感や『宝島』のワクワク感のようなものを感じました。)

道中は超お喋りな青年コーリャと旅をするわけですが、このコーリャがとても良い味をだしています。詩の引用をふりまいたり、思春期の男の子なので、女の事や下ネタ話など思うがままに喋りまくる。そしてこの会話文が非常に楽しく絶妙です。舞台設定は非情な戦争背景を描いていながら、物語の進行は主人公とこの青年コーニャのおかげで、とてもユーモアに仕上がっています。

戦争背景、残酷な描写、ハラハラドキドキな冒険、青年達の成長、バカ騒ぎ、ロマンス、活劇、etc……。これらが軽妙な文章で描かれていまして、小説ならではの面白さを堪能しました。しゃれた翻訳が素晴らしかったです。

死の緊迫状況があれど祖父が語る昔話なので、祖父はちゃんと生きているという安心感が根底にあるのも良いです。ミステリとしてどうなのか?と言われると、これは広義のミステリーですね。ポケミスが良質なエンタメ作品を扱っていくという思いや、質の高さを改めて感じました。

▼以下、ネタバレ感想
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卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)
No.43: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

タイム・リープ あしたはきのうの感想

これは傑作。そして読後感も好み。気持ちの良いものを読みました。☆8+1好み補正。

90年代のSFライトノベル。時間跳躍によって過去と未来を行き来する話ですが、特徴的なのは同じ時間を繰り返さない事です。既に行動した時間へは戻らずバラバラになった時間軸を飛び回る為、現時点で状況が分からない設定も後々過去に進むとそういう事だったのかと発見する楽しさが味わえます。
『本格ミステリ・クロニクル300』で紹介された本でもあるので、ミステリとして話が構築される楽しさや伏線の妙を楽しむ事ができます。

先にちょっと難を言いますと、古い小説なので見慣れた展開やテンプレ通りの流れで驚きを求める人には向かないかもしれません。ただ、その分非常に安心して楽しめる1冊であります。
女の子が急に時間跳躍に巻き込まれ困った所、学園内の秀才の和彦に相談。最初は冷たい反応だけど、徐々に相談に乗ってくれて頼れる男子になるわけですが、もうこのベタベタな展開が安心に繋がり、何とかなるんだと気持ちのよい読書が続くのがよいです。友人たちも良い子なので学園・青春小説としても気持ち良い本でした。

パズル小説として二度読みすると随所の作りに巧いなぁと発見があるのも楽しいです。
素晴らしい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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新装版 タイム・リープ〈上〉 あしたはきのう (メディアワークス文庫)
No.42: 7人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

楽園のカンヴァスの感想

素晴らしい作品でした。傑作。

いわゆる美術ミステリのジャンルなのですが、なんでしょう、薀蓄を語る系ではなく、自然と芸術世界の中に読者を連れて行ってくれるような万人向けの作品です。

絵画やクラシック音楽などの芸術作品は、その作品が作られた背景や作者の想いを読み解いていき、ミステリのように謎を明らかにしていく楽しみがありますが、事前に予備知識がないと楽しめない敷居の高さを危惧するところがあります。
ですが、それらは本書には杞憂で、美術を知らない人が読んでも楽しめる事に趣を感じます。

美術の知的好奇心くすぐる話も然ることながら、古書によるルソーとピカソの物語、織絵とティム2人の物語、ティム自身が上司になりすましたハラハラ感など、楽しみ所が豊富で夢中でした。これらが、堅そうな美術ミステリのイメージを払拭してくれます。

あとはなんと言っても美術に対する熱い想いがとても感じられる点。特に後半のピカソがルソーに投げかける言葉には熱いものが込み上げてきました。

さらに本書の素晴らしい所は、物語を読んで『はい、おしまい』ではなく、作中に出てきた絵画を知りたいと読者の未来の行動に影響を起こさせている点。今はネットがありますから作品名を検索してどんな絵画なのか調べてしまう事間違いなしでしょう。
物語を楽しみ、改めて絵画と向き合う。読者は本書と現実世界で再度体験できるわけです。これは凄い。

皆さんのレビューを見て、初めて手に取った作者でした。
よい作品を知り充実した読書でした。おすすめ。

▼以下、ネタバレ感想
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楽園のカンヴァス (新潮文庫)
原田マハ楽園のカンヴァス についてのレビュー
No.41: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ゴールデンスランバーの感想

傑作。
スタートから最後まで、読書中飽きがなかったのも凄い。

いわゆる巻き込まれ型の作品で、主人公の青柳雅治はただの一般人。目立つ要素もない彼が首相暗殺の犯人にされてしまう。何がどうなっているか状況が分からない気持ちを読者と共有しながらの逃走劇は、スピード感や先が気になる気持ちが相まって止め時が見つからない読書体験でした。

著者特有の軽妙なセリフ回しは健在で活き活きしており、本作では細かな箇所が後々になって伏線として活用されるのが凄い。もう、その箇所が多く、あれもこれも繋がるのかと驚きます。会話や描写以外にも、青柳雅治に関わった人々の些細な行動が影響を及ぼす、人の繋がりの面白さを感じた次第です。

毎回気にする著作特有の悪意の模様については、本作は全然気にならなかったです。結末は人それぞれの好みでしょうが、個人的には爽やかに気持ちよく終わった印象でした。

余談ですが、チュンソフトの「街」や「428」という好きなゲームがありまして、これは街の中の関係ない人々の行動が終盤繋がっていくザッピングシステムのゲームなのですが、その良い感覚を本書で味わえた気分もありました。

▼以下、ネタバレ感想
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ゴールデンスランバー (新潮文庫)
伊坂幸太郎ゴールデンスランバー についてのレビュー
No.40: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

天使の囀りの感想

これは圧巻の作品でした。
なんというか、読む前の先入観と読後の印象は大分違いますね。
単純にあらすじからの印象での『ホラー』では括れないですし、SFでもミステリでもアリです。

ファンタジー過ぎた『新世界より』は好みに合わずでしたが、『クリムゾンの迷宮』『黒い家』は好みなので、現実からホンの少しずれたリアルな世界での気持ち悪さは自分と相性が良いです。
『新世界より』は、こういう作品が存在した後で生まれた作品なので、別系統のファンタジー色が強いものが描かれる事になったのかと改めて感じました。

本作もありえそうなバランスが見事なのと、この舞台を構築している知識量が半端ない。
それが薀蓄だらけの衒学小説にならずに意味を持っているのが本当に凄かった。

作者が参考文献を載せなかったのは、本書の密度を担う為の文献数が多いのと、先入観を読者に与えない拘りだと思いました。
優れた作品に出会うと、凄いとしか言えず感想が書けない。本作はそんな作品の1つでした。

▼以下、ネタバレ感想
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天使の囀り (角川ホラー文庫)
貴志祐介天使の囀り についてのレビュー
No.39: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

作品テーマ、ミステリ要素、エンタメ性、好みが満載でした。

凄く好みで面白かった。テンションあがります。ライトノベルテイストの表紙で敬遠している読者がいそうな掘り出し物作品。
本年度末の各誌ランキングにどう影響するか気になります。☆9+好み補正で。

過去の事件を孤島で再検証する話は『七人の証人』を思い出したり、賞金獲得の件は『インシテミル』、裁判討論は『ダンガンロンパ』や『逆転裁判』などのノリを感じ……というか好きな作品の要素を個人的に感じ取っていっただけなのですが、色々感じ取れるぐらいミステリの要素が豊富です。

孤島での1日は、事件概要→自由時間→裁判開始→議論→判決。と、ゲームシナリオの様な謎解き展開でテンポよく進みます。が、軽いだけでなく、ストーリーの根底には、裁判員制度、冤罪、量刑や罪の意識、死刑問題などのテーマがしっかりと根を張っています。
加害者・被害者それぞれの視点からの事件の見つめ方。法廷で推理した事件模様が真実であるとも限らない。視点を変えるだけで変化する事件の全貌。口達者で皆を説得すれば有罪・無罪が変化する特性。そもそもの裁判員制度の意味など。社会へのメッセージ性も高いのが凄い。

著者は元警察官であり、あとがきで事件の被害者と加害者両方に接していたエピソードが納得で、被害者や冤罪者の虚無感や異常心理も魅力でした。

いきなり急展開する真相解明やちょっと悪ノリした雰囲気は好みではない人が多いかもしれませんし、リアリティや推理の粗さを気にする人もいると思われ万人には薦め辛い。ただ、私の場合は細かい所は突かず、読んでいて楽しかった点。テーマがしっかりしている点。意外でインパクトがある真相。ラストのスッキリ具合。読み返すと初読と印象が変わる伏線の数々。などを踏まえ、殿堂入り作品でした。サクっと読めるゲーム系ミステリが好きでしたら、とてもオススメです。

各事件の感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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罪色の環 ―リジャッジメント― (メディアワークス文庫)
仁科裕貴罪色の環 -リジャッジメント- についてのレビュー
No.38: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

魔法の鏡の使いこなしが最高でした。万人向けミステリ

これは面白かったです。
好みはあれど、児童や初心者も、ある程度のミステリ好きも楽しめそうな万人向けな作品だと思いました。
個性的で好みなので加点。

白雪姫をモチーフに、なんでも答える「魔法の鏡」が存在するファンタジーミステリ。

『鏡や鏡!真相を教えてちょうだいな』

と、鏡に聞けば、事件はどうで、動機はこうでと、絶対的な真実を教えてくれます。
まず、解答が先に提示されてしまう可笑しさがあります。
それでミステリとして楽しいのか?と言う点については、本作は工夫が凝らされていて、鏡を持つ女子中学生のママエの探偵業の設定が活きています。
依頼人から悩みを相談され、鏡で答えを聞いて、答えだけ依頼人に告げると、何でそんな事知っているの?実はグルだったの?と、真相は正しいのに、話の道筋が無い事で疑惑が生まれる悩みを抱えます。ここからミステリの面白さが生まれ、何故その真相に行き着いたかを導き出す所が、それまでの些細な出来事に深みが生まれ驚かされます。

よくあるミステリの、『事件発生→推理→真相』で真相がすごいと印象を受ける感想とは違い、『発生→真相→推理』の順序だてで、最後の推理に注目が集まり、過程や伏線に驚きを得るのが刺激的でした。

本書は、2部構成で上記の雰囲気が第1部。
読者が舞台の概要や登場人物達を把握した所で、悪い名探偵に鏡の存在がバレ、あらすじ通り命を狙われてしまいます。
第2部は、非現実の超アイテムの魔法の鏡と、超頭脳の悪役名探偵の事件模様に変わります。
漫画のデスノートをイメージすると伝わりやすいかもしれないですが、これがまた発想外で面白い。

入り込み易い周知の白雪姫のモチーフ。ミステリ要素、何でも知る事ができる鏡のアイテムなど、個性的な設定。
現実的な深みを求める人には合わないかも知れないですが、軽い雰囲気も好感触で読んでいて凄く楽しかったです。

▼以下、ネタバレ感想
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スノーホワイト (講談社文庫)
No.37: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

天使のナイフの感想

傑作。読後にズッシリとした余韻を得た作品は久々です。

『江戸川乱歩賞』『少年犯罪』どちらも個人的に肌に合わない作品が多くて敬遠してましたが、乱歩賞の中で数少ない好きな作品の『13階段』の高野和明が解説を書いていたのを知ったのと、評判の良さから手に取った所、とんでもない食わず嫌い本だったと思い知りました。

少年法により加害者の情報は保護される。被害者は事件で家庭が壊さたのに更にマスコミや大衆にさらされ精神的な苦痛も味わう。法による理不尽さを痛感しました。
そりゃ、加害者を見つけて殺したいとも思う気持ちもわかる。夫、桧山の暗澹たる心模様を感じながらのスタートで、冒頭の電車内で、はしゃぐ少年達を見る視線から『被害者』という存在を強く感じた次第です。

加害者の1人が何者かに殺された所から物語が展開していくのですが、その広がり方が凄かった。
『事件』と言う点の周りに存在する『被害者』『加害者』それぞれが事件後、どんな事を思い、過ごしているのか、何故その事件が起きて加害者になったのか。
少年犯罪の更生とはなんなのか。波紋が広がり全容が見えた読後、色々と感じ、得られるものがある体験となります。おすすめ。


▼以下、ネタバレ感想
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天使のナイフ 新装版 (講談社文庫 や 61-12)
薬丸岳天使のナイフ についてのレビュー
No.36: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

バイロケーションの感想

ホラー小説としての受賞作品ですが、中身はSFミステリ。
自身のコピーが知らない所で発生し、日常を活動されるというのはホラーとしての恐怖は存在しますが、いったい何故?何が起きているのか?と言った真実を知りたい欲求が恐怖より強く思ったのでミステリと感じます。

ミステリには双子ものがありますが、容姿だけでなく思考回路まで完全にコピーされたドッペルゲンガーが扱われるという新感覚な物語。
人間のクローンを扱ったSFミステリとして、西澤保彦『複製症候群』を当初思い浮かべながら読みました。複製症候群の方はコピーされた方はその存在がそのまま残り続け、本体との差が生まれていくのですが、本作の『バイロケーション』は、出現したコピーが一定期間で消失し、また出現する時はその時の本体の容姿・記憶を新たにコピーされて出現するという設定が一品です。

また、設定だけでなく、手がかりや違和感の小出しがうまく、早く真相が知りたいという欲求が強い読書でした。
著者の本は以前『リライト』を読んだのですが、読者の気持ちを考えられているような作りが良いです。
伏線や設定も良く考えられていて、とても印象に残る作品でした。面白かったです。
好みの話なので☆8+1で。

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バイロケーション (角川ホラー文庫)
法条遙バイロケーション についてのレビュー
No.35: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

リライトの感想

読み終わって、何だこれは・・・。と、放心。
あらすじにて最悪と銘打っていましたし、こんな事も起きるだろうなと思いつつも、読まされるとなかなかの衝撃です。

タイムトラベルもので、過去が変わってしまった所から始まり、同級生も謎の死を遂げていき、何が起きたのか?と、この手の本が好きな人にとっては見慣れた設定です。
ラベンダーの香りがする錠剤で時間を移動する設定など、筒井康隆『時をかける少女』を筆頭に、時間移動を扱う、いくつかの本を感じますが、それらとは違う独特の味がありました。

章区切りで、1992年、2002年、1992年、2002年…と時代を交差させて話が進みます。
小説で最後に収束するよくある構成と感じるのですが、本書の面白い所は冒頭より過去が変わってしまった謎を活かし、前後の話の辻褄が合わさっていないと感じる所です。読み進めても自分が理解していた設定と異なっている気がして、なんだか嫌な感じで混乱します。過去が変わっていく不安感を読者へ巧く体験させていると思いました。

伏線回収の良い点とは逆に、タイムパラドックスについて細かな設定や矛盾を感じる粗さがあります。
それを覆い隠すかのように勢いよく話を展開して力技で押し切られた気持ちもありますが、読了まで良い意味で呆然とさせられ記憶に残る作品となりました。

▼以下、ネタバレ感想
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リライト (ハヤカワ文庫JA)
法条遙リライト についてのレビュー
No.34: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

M.G.H. 楽園の鏡像の感想

これは好みの作品ですね。埋もれてました。

冒頭から始まる『無重力空間での墜落死』という不可解な状況の提示は魅力的です。
宇宙ステーションが舞台なのでSFとなりますが、何でもありの奇想のSFではなく、ほんの少し先の未来が舞台である現実的な世界を描いてます。

また、理系用語豊富ですが教養範囲。特殊なものは丁寧に説明されています。
ライトノベルも描く方なので、キャラの気持ちも入りやすい。
本書は初心者から楽しめるSFミステリだと感じました。
なんとなく、森博嗣『すべてがFになる』の設定や雰囲気を色々と感じましたが、
S&Mシリーズが好きな方には本書も好まれると思いました。

事件の魅力も然る事ながら、テーマ性もよかったです。
『ミラーワールド』と表現された、現代で言うインターネットのバーチャル空間においての相手との対話。
相手は人なのか人工知能なのか。人の死後、その人の情報はネット中にどのように存在し続けるのか。と、語りかけられるテーマに面白く触れられました。
2作目の『海底密室』にも話題として出てきましたが、ネットと言う新たな世界での『人の存在』を意識させられました。

SFを読みなれていないのもあって、宇宙での表現方法が新鮮でした。
気に入った所を引用しますと、
>舞依の瞳から、涙がこぼれた。地上に比べて、ほんの少しだけ、ゆっくりと流れ落ちるその透明な液体を、凌はとても綺麗だと思う。
重力の違う宇宙空間にいる事を感じさせる表現が素敵です。

シリーズをもっと読みたいのですが、無いのが残念。
よい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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M.G.H. 楽園の鏡像 (徳間文庫)
三雲岳斗M.G.H. 楽園の鏡像 についてのレビュー

No.33:

2 (メディアワークス文庫 の 1-6)

2

野﨑まど

No.33: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

もう、単純に著者作品にハマった

著者買いして作品一気読みなんて何年ぶりだろう。久々にハマってしまいました。

※本書の注意事項は、必ず過去作品を読む必要があります。

『[映] アムリタ』『舞面真面とお面の女』『死なない生徒殺人事件』『小説家の作り方』『パーフェクトフレンド』
これらの作品の続編をも意味するのが本書の『2』です。
『2』だけ読んでも意味が分からないですし、著者の作品の傾向に慣れておらず駄作に感じるかもしれません。
逆に言えば、ここまで順当に作品を読んできて著者の作品が気に入っているなら自ずと高評価になるものです。
デビュー作『[映] アムリタ』を読んで気になる作品だと思えば続けてくるでしょうし、
合わないなら本書に辿り着かず、途中で立ち止まっていると思います。

アムリタの作品の中で、
美しい糸で作った織物を、その状態を保ったまま糸にして、
さらに織物を作ったら、どんな美しいものができるでしょう?
と言うフレーズがあるのですが、過去作が糸。それらを紡いだ作品が『2』なのでしょう。
デビュー作から本書のような事をやりたいイメージがあったのかもしれませんね。

過去作品を読んだうえで、やっと本書のカタルシス味わう準備ができるという、
本書の敷居の高さは問題なのですが、他の方の感想で頻繁にでるぐらい過去作読書は大事な事だと思います。

さて、ライトノベルの文体で軽妙に話が展開される中に、
『面白いとはなにか?』『美しいとは何か?』と、創作における哲学が述べられたり、
ミステリのようでそうでなくてファンタジーかもしれないけどSF?いや、恋愛?
と他ジャンルに渡り、心地よく振り回され、斜め上を行く展開に放り投げられる楽しさは本当に凄い。

実の所、本書はやり過ぎ感が否めなず、アムリタの方が完成されていると思い、
8点ぐらいで感想を書こうかなと思っていたのですが、
本作や過去作の事を考えているといつの間にか夢中になって回想していて、
かなりハマってて好んでいる自分に気づいた次第でして、
『恐怖』も『笑い』も『驚き』もやり過ぎて『困惑』や『残念な気持ち』などなど、
それは、本書に出てくるキーでもある感動させられている事だと気づき、
これはもう、好みの上で満点大満足しかないと思った次第です。

ミステリ視点では破綻してめちゃめちゃで、オススメし辛い作品なのですが、
やり過ぎ感含めて、とても楽しい読書を得られた作品でした。

終わってしまったのが少し寂しい気持ちです。
中身についてはネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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2 (メディアワークス文庫 の 1-6)
野﨑まど2 についてのレビュー
No.32: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

[映] アムリタの感想

読後最初の一言は、うあ。何だこれ……っと、
個人的に衝撃を受けたので点数甘めで。

表紙と序盤の雰囲気やセリフ回しからは、まったく想像出来なかった展開。
ミステリと言えばそうだろうし、
青春小説ともSFともホラーとも恋愛とも哲学書とも好きなように感じられる。
過去にどんな作品に触れてきたかで、
類似作品をいろんなジャンルから思い当たるのではないだろうか。
それらがたった200数ページのボリューム内に混在している。

作中に出てくる二見が天才最原のコンテに触れた時の表現通り、
この作品は一気に読まされました。

題材の映画を論じる場面にて、
何千万人を感動させるには?そもそも感動とは何か?
どうやって伝えるか。興味深い話がでてきます。
メタ要素もありますが、読後に思った事は、
作者は読者がここを読んだらこんな反応になる。という事を
想像ではなくて確信をもってやっているような気がしました。

表紙やラノベのキャラ色が出ていたり、
ギャグが合わないと思うかもしれませんが、
それもそういう読者の感情を狙って引き出しているとしたら・・・恐ろしいものです。

ミステリと思ったり青春モノと思ったりと、
何かを希望し思いながら読むとその望みは叶わなそうです。
短い小説なので何も意識せず作品に触れてみるぐらいが良い読書な気がします。

作品の作り方、感じさせ方、読者が受け取る感情の多様性。
内容の外側に驚きました。

著者の『2』が読みたいのですが、
その前に過去作を読んでおくのが良さそうなので少し追っかけて読もうと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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[映]アムリタ 新装版 (メディアワークス文庫)
野﨑まど[映] アムリタ についてのレビュー
No.31: 8人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

現代でこの作風の本書が出てきた事に嬉しく思いました。

タイトルを初めて見た時の印象は、なんか捻りがなく地味で冗談かと思いました。
本格物という噂を耳にした事をきっかけに、あまり期待せず読み始めたのですが、
読み終わって見ると久々に推理本を読んだ満足感が得られました。

『体育館』の単語があまりに日常に馴染み過ぎて最初気づかなかったのですが、
体育『館の殺人』で、館モノですね。
広々とした体育館で起きる密室殺人。足跡ではないですが雨が降り、
残された1本の傘からロジックを展開していく流れなど、好み満載でした。

アニメオタクの探偵役によるアニメネタが随所にあったので、
ここは好みが分かれそうですが、
ライトノベルが流行っている現代では、このテイストで学園ミステリを扱う本書によって
本格推理の楽しさを若い世代に知ってもらえたら良いなとプラスに感じました。

ロジックの見せ所が豊富でありながら、所々探偵のノリで端折る荒を感じるのは確かですが、
私はそこまで問題にせず若い作者のデビューの勢いを感じる作品でした。

ベテランになるほど荒の出る作品が出し辛く穴を突かれ批判されやすくなる故、
結果こういう推理物の楽しさを感じる作品の出会いが少なくなり、
古典や新本格頃の作品に目を向けてしまいがちでした。
なので現代でこの作風の本書が出てきた事に嬉しく思います。

2作目の期待が高まってプレッシャーになりそうですが、
作者受賞の言葉にある通り、また好きな物を書いてもらいたいなと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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体育館の殺人 (創元推理文庫)
青崎有吾体育館の殺人 についてのレビュー
No.30: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

少女たちの羅針盤の感想

殺人者のアイドルが誰かに過去の事件を告発される現在のパート。
始まりの物語。演劇ユニット羅針盤結成の過去のパート。
現在と過去を章仕立てで入れ替える構成はよく見ますが、
本書は効果的で魅せ方がすごくよかったです。ミステリの謎や少女達の物語も面白く読めました。

過去パートでの少女達の前向きで勢いある青春物語を楽しむと同時に、
仲間として笑い合い助けあう4人の羅針盤のメンバーの中で
これから悲劇が生まれる未来が予め提示されているので、
一体誰が誰をどうして?と言った疑問が悲しく付きまといました。

沈む気持ちもあるのですが、
それを補える良さがたくさんある作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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少女たちの羅針盤 (光文社文庫 み 34-1)
水生大海少女たちの羅針盤 についてのレビュー
No.29: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

青の炎の感想

すごい…。話にのめりこんでしまいました・・・。

何というか、推理とか頭を使うような思考ではなくて、
とても感情的になりながら読みました。

絶対悪の存在を示した曾根に恐怖し、
秀一…上手くやってくれ。。と祈るような思い。

入念な計画、家族や友人との触れ合い、
得るものと犠牲にするものの選択の葛藤など、、
読んでいて色々と心を揺さぶられました。

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青の炎 (角川文庫)
貴志祐介青の炎 についてのレビュー
No.28: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

リピートの感想

好みの小説で満足です。

記憶を持ったまま10ヶ月前の自分へ戻れる。
前半はそんなことが本当に可能なのか?と、選ばれたゲスト達が疑心暗鬼にかられます。
ただ、疑いつつも実際に体験したいという人間の心理・欲望が見えるのが面白いです。
恋愛にしても競馬でのお金儲けにしても、物ではなく、
物理的には存在しない情報や経験の重要性を再認識しました。

カオス理論のお話が途中にでますが、
初期動作が変わればどんどん未来が変化していく。
そして何がきっかけか分からないまま、ゲスト達が次々と怪死を遂げていく。
この不安要素の作りが巧くミステリの謎となっています。

この手の小説での既視感はあるものの、
それが変に裏切らない安定した面白さで、結末に至ってもこれは好みでした。

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リピート (文春文庫)
乾くるみリピート についてのレビュー
No.27: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ダイナーの感想

強烈な読書体験で充実感を味わえた作品でした。
暴力的で読むのを躊躇わせるグロ表現が多いので、
耐性がある方向け。

ただ、いくつかの賞を受賞している通り、
グロだけの低俗な作品とは一線を画しています。

血みどろの数々に胸やけを起されたと思えば、
別のシーンでは、美味しそうな料理が作られお腹がすいてくる。
文章での表現力が凄く、いろいろと刺激的でした。

そして物語も面白い。
ミステリーなのか言われればそういう要素もありますが、
それとは別の次元にある強烈な作品だと思いました。

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([ひ]2-1)ダイナー (ポプラ文庫 日本文学)
平山夢明ダイナー についてのレビュー