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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数86件
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凄い傑作でした。
帯コピーは『すべてが、伏線』の強気な一文のみ。発売したてなのにネットで絶賛ばかりの評判。実は宣伝活動やステマを懸念していました。でもここまでされると気になります。 美麗な表紙に惹かれて購入。きっと版元も自信あるのでしょう。という気持ち。 結果、疑念も払拭される超絶面白い本格ミステリでした。 予備知識が無い方が楽しめるので、軽い感想を。 著者の本はマツリカシリーズを読んだ程度ですが、その感覚と大分違い、重い雰囲気の真剣な本格路線です。そこへ男性が好みそうな女性キャラ城塚翡翠が登場しライトな雰囲気を加えます。キャラも推理も読んでいて楽しい。文章もとても読みやすく、何故か苦手意識が芽生えていた著者作品への印象を改めました。 とはいえ、所々に現れる制服やふとももetc...著者らしさもバッチリ。特に何かは読書前に印象を与えてしまうので述べませんが、読後に思う事は著者の今までの要素の集大成で構築されたミステリです。 本書単体作品なので、初めて著者の本に触れる方も大丈夫。 近年珍しくなったコテコテの本格ミステリが楽しめます。本格好きならおすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『13・67』の時に感じていましたが短編のクオリティが物凄く高い。またまた贅沢な作品です。
正直な所、表紙とタイトルが凄く難解そうなイメージを与えます。私自身、手に取り読む気持ちがなかなか芽生えませんでした。が、読んでみると大変読みやすくミステリ初心者からオススメできる素晴らしい作品集だと思い改めます。色々な味が楽しめるのでとてもオススメです。 本書は『13・67』のような連作ではなくバラバラの短編集です。本格ミステリはもちろんの事、ホラー、スリラー、SF、世にも奇妙な作品と様々なジャンルが17作品収録されています。ジャンルとしてはバラバラですが、どれもこれも一筋縄ではいかない結末に魅了されます。いやもう、『13・67』が凄かったというより、もともとの作品の作り方からして基本が驚かせて楽しませる作風なんだと感じました。 本書300ページ台なのに17作品なのです。1作品短いもので10ページ台。たったそれだけのページなのに、惹き付けるストーリーを描き、事件等のイベントが発生し、驚愕の真相を与える作品が何作もあります。これは長編で読むような仕掛けでは……と思いつつも贅沢な読書を満喫できるのです。ページ数が少ないのでちょっとの合間に読むだけでも充実した気分になります。 まず最初の『藍を見つめる藍』。40ページ。ネットストーカー・SNS犯罪を扱います。現代的なサスペンスだなと思いつつ読むわけですが、結末を読む頃にはすっかりと本書に魅了され、次の短編も期待に胸を膨らませる事でしょう。掴みはバッチリです。 『見えないX』は推理小説をテーマとした大学の授業。授業に紛れ込んでいるXの正体を暴けという内容でしたが凄く面白い。こんな授業を受けてみたいと思いつつ、本格ミステリを堪能しました。 この『藍を見つめる藍』、『見えないX』は群を抜いたミステリ作品。『作家デビュー殺人事件』『いとしのエリー』『時は金なり』も好み。『習作1~3』と言った練習作品も収録されており、著者のアイディア作りの一端が見れたようで楽しいです。 改めますが、表紙とタイトルから受ける堅物印象とは違い、大変読みやすくバラエティ豊かな作品集です。とてもオススメ。 |
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下ネタに意味づけを行い本格ミステリとして昇華する稀有な作品。上木らいちシリーズ第4弾。シリーズものですが、1巻以降はどの巻から読んでも平気です。
今回はもう褒め言葉で変態。こんな奇想天外な物語を作り上げられる作者の想像力に脱帽。凄すぎる。 あらすじに偽りなく、前代未聞の真相。このネタがなんなのかはネタバレになるので紹介できないもどかしさがあります。 ま、ネタとして好みが分れる作品なので万人に薦められるものではないですが単純に個人的に好み。初めて体験したネタを加点して☆8+1で。 2匹の蛇の毒による密室殺人。第一印象は"蛇"で"密室"。紐かな?と古典を感じる。一方、シリーズ下ネタ系なので、2匹の蛇は隠語でアレかなぁとか勝手な妄想をする。が、全然違いまして猛省。本書はかなり特異な本格ものでした。 正直な所、真相はトンデモ話です。我に返ればこんな事起きないでしょ!って話ですが、島田荘司や京極夏彦のように、とんでもない世界観と真相を読者に納得させて読ませてしまうあの感じを体験した次第。本書を作るにあたり、真相のネタから思いついたのか、エロネタなのか、蛇のネタから考えたのか、どこからか分かりませんが、無駄なく全部繋がっている物語構築は本当に凄かった。 本書、他人が真似できない唯一無二の作品でした。 余談として。黒太郎の作家エピソードより。 自身はサドではない。サド小説なんて書きたくないんだ!という独白は、著者の下ネタに対しての事かなと感じました。著者は下ネタが好きで悪活用しているわけではないのですよね。デビュー1作目は仕掛けに必要な要素としての下ネタでしたし、3作目、4作目もテーマや真相の為に必須な事として下ネタが使われています。 世に望まれるなら下ネタを使う。ただしきちんと本格ミステリに組み込む。そんな志を作者から勝手に感じた次第です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは傑作。
ルポルタージュを用いたミステリとして素晴らしい完成度でした。報告文学のミステリを体験したい場合、本書は非常におすすめです。 『出版禁止』シリーズとして2作目となりますが、前作を読む必要はありません。本書単品で楽しめます。 シリーズ共通項は、"作者の長江俊和が実在する事件のインタビュー記事や資料をまとめて世に出した。"という体裁の作品です。1作目の『出版禁止』では報告書を読んでノンフィクションの事件を体験する怖さを味わえるのですが、真実が結局わからずモヤモヤするリドルストーリー作品でした。面白い試みでしたが、読者が深読みしてどれだけ楽しめるかという読み手の行動に委ねられる作品でもありました。そんな訳で2作目は敬遠していましたが、世の中の評判から読んでみると当たり。前作の不満点が解消され、真相が書かれていなくても、全てを読むと真実が見える作りとなっています。このバランスが巧いです。 個人的好みですと最終章『渡海』はカットするか袋とじにした方が謎の難易度が上がってより話題になっただろうなと思いました。ただ著者ファンを広げるにあたり、普段ミステリを読まない読者層を視野に考えると優しいぐらいが丁度良いかもしれないとも思う悩ましい匙加減を最後に感じました。 というわけで、前作読んでいるが結末が好きになれず2作目を躊躇している方は手に取って損はないです。 ルポルタージュ形式について。本書は必然ある作りに唸らされます。 小説における、作者=神の視点で正しい真実が書かれる約束が、他人の記事をまとめたもの設定により信憑性が薄まるのです。前作はノンフィクションを装う効果が主体でしたが、今作はそれプラス、ミステリの楽しさに繋がっています。読者はいくつかの記事を読んでいくと書かれていない繋がりに気づく事でしょう。作者=神の視点ではなく、読者=神の視点となる作品なのです。読んだ方はわかると思いますが、この感覚が非常に面白くて、どんどん謎が頭の中で繋がる感覚を得る為、読むことが止められず一気読みでした。 また、視点を変えて本書のルポ形式について感想を述べると、単体のルポだけでは真実が見えない危うさを感じます。世の中のTVや新聞で垂れ流されている日々の事件のニュース。それ単体は偏った報告であり真実とは限らないのです。そういう風刺も感じました。 雰囲気としては事件の記事なので重いです。そこだけは万人に薦められるものではないですが、必然的なルポ形式で完成されたミステリは他にパッと思いつかないのでこの手の作品を体験したい方へは非常におすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「嘘」をテーマとした青春物語として大変良かったです。総じて優しさを感じる読書なので「嘘」という騙しを扱うとしても嫌な気持ちがない読書でした。成長物語+ちょっとミステリーぐらいな感覚で読むとよいです。☆8+1(好み補正)。
主人公は嘘が分る青年。彼の視点では世の中は嘘だらけ。相手の偽りの言葉を目にしてしまう人生から少し卑屈になり、他人とは距離を置いた生活を過ごしています。そんな彼が気になる子は全く嘘をつかない少女。その少女から友人の自殺の真相を知りたいと相談を受けます。手がかりを握るのは学園のアイドル。ただし、彼女の言葉は嘘ばかり……。その彼女の言葉から真実を見つけようと行動していく流れ。 出版レーベルやラノベの雰囲気から、能力ものだったり賑やかなラブコメを予感させますが、そんな事はなく文学寄り。副題に"攻防戦"とありバトルを想像していましたが全く関係なし。実際は嘘をテーマとした現実的なちょっと重めなストーリー。嘘が見抜ける事で父親との面と向かった会話ができなくなっている家庭の悪い状況や友人との距離感といった暗澹たる心情を読ませます。そこから、嘘をつく/つかないヒロインと関わることで「嘘」についての色々な一面を学んでいきます。嘘が分る話なのに、相手の心の中の真実が見えない。登場人物達の心情の描き方がよくて惹き込まれました。事件の真実が徐々に見えてくるのと並行して、登場人物達の心情も見えてくる展開が良い。 葛藤や心苦しいエピソードなど、何度かわだかまりを残したままのエンディングを予感させつつ、大団円へ到達する流れも良い。これは恋愛アドベンチャーゲームのトゥルーエンドに到達したような読後感した。終わり方が素晴らしく好み。 ファミ通文庫からという事で、その層向けのイラストもよく、恋愛アドベンチャーも青春ミステリも好きな方へは特におすすめです。 |
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ゲーム世代のミステリ好きへはとてもおすすめです。
本作品は2016年にKindleで初刊行され今年2018年に加筆修正され書籍化したものです。Kindle版の初版時は誤字脱字が多かったみたいですが、書籍版を読んだかぎりでは気にならなかったので修正済みかと思います。ミステリの年末ランキングに載ってもおかしくない出来なのですがレーベル的に埋もれてしまいそうな勿体なさを感じます。これはとても好みの作品。☆8+好み補正+1。 ウィザードリー、ドラクエ等のRPGの世界を舞台とするミステリ。 空に浮かぶ天空城にて魔王討伐の為に集められた7名の見初められし者達。戦士、格闘家、魔導師、法術師、鑑定士、盗賊家、魔物使い。RPGお馴染みの4人パーティーを結成すべく、7名から勇者に同行する3名を選抜する試験を行う所、殺人事件が発生してしまうという流れ。空に浮かぶ天空城へのアクセスとなる魔法陣は機能が失われ空の孤島となるクローズド・サークル舞台。動機は?そして犯人は誰か? 本作の特徴的な点は各職業の能力と装備可能武器の設定を活かしたミステリであるという事。 ・戦士は全ての武器が使えるが魔法が使えない。 ・格闘家は武器が装備できず拳のみ。打撃可能。 ・盗賊家は短剣は装備できるが、剣や棍と言った重い打撃系武器は装備できない。 といった具合。 部屋の荒らされた状況から打撃系の道具を扱える者が容疑者であると推測したり、殺害方法から刃物が使われていると推測される為、刃物が使えるのは誰なのか?他に方法がないのか?と言ったミステリ模様の推理・検証をしっかり行われているのが面白いです。 また良い所はミステリ要素だけでなく、キャラクターも印象に残ります。文章量にして数ページだけなのですが、各キャラクターの背景・心情の入れ方が巧いです。主人公はもちろんの事、特に女格闘家のエピソードは心に残りました。連続殺人事件が記号的に扱われるのではなく、人を感じ、物語としても魅力的になっているのが良かったです。さらにRPGにおける世界平和とは何なのかを示したエピソードが心に残りました。 あえて難を言うなら、ミステリとしては後出し設定が多い事。完璧なミステリを求める人には手がかりが後で出てくる流れが引っかかると思います。RPGの世界だから何でもあるっちゃあるけどモヤモヤ。。。というのは多少あるでしょう。評価もミステリとしてみるか、物語としてみるかで評価は分かれそうです。自分は気になる所はありますが、RPG舞台でのミステリの面白さが純粋に楽しく、細かい事はおいておいて満足できました。終盤の展開と結末も見事です。 続巻の方も評判が良いので書籍化したら手に取りたいなと思います。ゲーム世代のミステリ好きへはとてもおすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは好みの作品。☆8+好み補正+1な感覚。
七不思議を題材とした学園もの作品。 本書の特性として、学園ミステリが好きな方でラノベや恋愛アドベンチャーゲームも許容範囲な人へはとてもオススメ。ゲーム的な感性で例えると、ハッピーやバッドエンドではなくトゥルーエンドのような読後感が味わえる素敵な作品です。 主人公は空気的な存在でひっそりと目立たず学校生活する中崎君。深夜忘れ物に気づき学校へ訪れると七不思議の長のテンコに出くわし、欠員のある七不思議の1つに選ばれてしまうという序盤はコミカルなラノベ。そして学園七不思議というファンタジー小説。ただ文章はしっかりしていて軽すぎない作風です。 七不思議の1つとなった主人公は他の七不思議たちの協力を得ます。序盤は誰もが知るトイレの花子さんから始まり、夜になると階段の数が変わる13階段、赤い目をした鳥と視覚を共有して遠くを見ることができるなど、これらの七不思議の能力を使って学校内で起きる事件に関わっていくという流れです。 目立たない子が正体を明かさず学校内の事件を解決する流れは、王道な主人公模様で面白い。もちろんヒロインとの出会いや青春模様もあります。ただ本作のメイン筋は主人公の成長物語です。友人達との会話の掛け合いが明るく楽しくて青春模様が味わえるのがいい感じ。 いやー……、序盤はよくある学園ライトノベルかと思いながら読んでいましたが、後半は惹き込まれてしまいました。 クスっと笑えたり、切なく悲しくなったり、驚かされたり、とても面白かった。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白かった好みのSFライトノベル。ループもの。
表紙やあらすじの印象に反してしっかりとしたSF。想いの人を助ける為に平衡世界や時間軸を超えてループを繰り返す。 著者コメントより、本書は『ロボットと女の子』がテーマの発端となった作品。はい、確かにそうでした。そうなのですが、"女の子"や"ロボット"から受けるインスピレーションから随分と良い意味で飛躍していく作品です。拡大する話の膨らませ方と綺麗に収束する展開が素敵。 本書をお薦めするターゲットは、ライトノベルに苦手意識がなく、量子力学やループ物が好きで、個性的な作品が読みたい人となります。 最初の物語は表紙の女の子『毬井についてのエトセトラ』。「人間がロボットに見える女の子」のお話。 この設定を見て勝手にアニメっぽい話かなとイメージしましたが、そう軽い設定ではない。人間がロボットに見えるという事をしっかりと考える。ロボットだから男女の判別が苦手、一方、あの人は足にローラーやバーニアが付いているから陸上部に向いていると才能や特徴が見抜ける。あーなる程、能力物として読む作品かな?と思えば、「赤」に関する考察で、私がみる赤と他人が見ている赤は同じなのか?という観測から、人間とロボットの違いは何なのか?結局の所、自分と他人が見ている景色が同じかどうかはわからない。その違いの差は?識別するのは目なのか脳なのか?と哲学や科学的な話に展開されます。 ふむふむと読んでいると猟奇的なバラバラ事件が発生します。TVのニュースで逮捕者が報道されますが、人間がロボットに見える女の子には、あの人が犯人ではありえないとロボットの特徴から断言可能なのです。そういう視点から事件が見えるのか、、、という感じでライトノベルのようなミステリのようなSFのようなと話の方向性が読めない面白さがありました。 ここまででも、まだまだ序盤の話ですが、1つの転換である『毬井の世界』の章に至っては、良い意味で展開に頭が追い付かず吐き気を催しながらの呆然展開。マネキンとか想像のさせ方が巧い。うーんそうきたか。表紙からこうなるとは想像できないぞと。 既視感ある設定は多々あれど、それらは良い意味で融合して300ページ台に収まっているのが凄いし、硬派なSF作品特有の読み辛さがなく、SFネタはライトノベル調で分かり易く受け入れやすい。キャラ視点でも毬井の「わ!わ。」と喋る会話文から感じるキャラがとてもかわいい。文章が巧いので綺麗にまとまり楽しめる。個人的に好みの作品でした。 |
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凄く面白かった。というかクオリティが凄すぎた。満足でもっと読みたい。ミステリは壮大。人物も魅力的でもっとエピソードを読みたい。香港の歴史に触れられる。翻訳もよく読みやすい。海外ミステリという感覚がなかったです。
読書前は、海外ミステリだし、中国でより馴染みがないし、何か難しそう。そして警察小説で社会派で堅そう。なんてイメージで敬遠してましたが、多くの良い評判を耳にして手に取りました。いやーこれは凄い。ミステリ好きは読んで損はないですよ!先に書いた読書前の億劫な気持ちな人もいるかもしれないので払拭すべく紹介です。 6つの中編集であり、それぞれの作品の時代設定は2013年、2003年、1997年、……という具合に時代を遡る構成になっています。 最初の作品、2013年『黒と白のあいだの真実』は安楽椅子探偵もの。まず探偵の存在がぶっ飛んでます。 末期がんの為、人工呼吸器で繋がれて昏睡状態の老人。動く事も喋る事もできない名探偵。これはジェフリー・ディーヴァーの四肢麻痺のリンカーンライムを超えたかと存在に驚きました。昏睡状態のクワン警視は頭脳明晰、検挙率100%の実績があり、"謎解きの精密機械"、"天眼"の異名を持つ名探偵です。もう、この登場シーンだけで読書前の堅そうな作品イメージが払拭されていきました。ラノベではないですけど、キャラ物として面白そうと惹き込まれました。昏睡状態のクワン警視の病室に集められた事件の関係者達も寝たきりの老人をみて驚きます。どうやって事件を解決してもらえるのか?クワン警視の弟子にあたるロー警部が皆に告げた内容は、耳と脳は機能している、事件の概要を語りかけ、YESかNOか脳波を測定して名探偵の判断を仰ぐという事だった。って設定が凄い!2013年という時代設定は現代医学的な要素取り入れ、名探偵の末期から始まるのです。事件の真相は壮大であり、これで長編書けるのでは?というぐらい濃すぎる。 1作目から強烈な印象を読者に与えます。でもこれは本書の入口にすぎず、このクオリティがずっと続くよという挨拶でしたね。 2作目は2003年で10年遡り、まだ元気なクワンとローが関わった事件が描かれます。どんな話かは読んでのお楽しみです。 6つの物語は名探偵クワンを共通とした逆年代で進みます。各物語は本格ミステリとして非常に高密度。1作目が安楽椅子探偵もので、2作目、3作目と、各物語はミステリとして"○○もの"といった異なる趣向となっておりバラエティ豊か。そして各作品は大長編でも遜色がないぐらい壮大な仕掛けを施した本格ミステリであり贅沢三昧。中編に圧縮しているので、文章1つとっても無駄がない。事件の話以外にも香港の歴史、人物達の想い、ちょっとした会話のやりとりでどういう関係かが見えてくる面白さがあります。 年代を遡っていくので、人との出会いや、人生の教訓、人の変化がどこで起きたのか見えるのも面白い。ミステリだけではない物語が味わえる為、各エピソードが非常に心に残りました。 読み終わった人は、もう一度最初から読みたくなると思います。 これはトリックがあったという意味ではなく、逆年代構成で歴史を遡って読んだ事により、時代や人の想いの起点に触れた為、その後の人や時代の未来にもう一度触れてみたくなる為です。再読の1作目はクワンやローの回想や想いがより感じられる読書でした。 著者のあとがきより、作品構成の巧さを感じました。書きたい内容は、「ある人物とこの都市とその時代の物語」。「本格派」と「社会派」ひとつの小説で結合するとどちらかの味が強くなる為、6つの独立した「本格派」推理小説を描き、6つの物語をつなげると社会の縮図が見えてくる試みをしたそうです。いやはや、、、そうなってます。凄い。。個人的に苦手で敬遠しがちな社会派・警察小説・歴史物を意識することなく、名探偵の本格推理小説を楽しんでたら、いつの間にか社会派を味わって香港の歴史に触れていた。という感覚なのです。 あと、短編集というとハズレ作品が混ざっている心構えが起きるのですが、本書はハズレなしでどれも凄く、当り作品を6つ読んだ気分で大興奮でした。 なので本書のあらすじで、堅そうだな。難しそうだな。と敬遠していたら勿体ないです。好みは人それぞれですが、こういう作品は中々出会えません。非常にオススメです。 |
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これは斬新で傑作。 大興奮の読書体験でした。
非現実世界での本格ミステリ。特殊設定のミステリはSFやらファンタジーやらで色々ありますが、本書はタイトルから察する内容のパニックホラーと結びつける事で斬新な内容に仕上がっています。読んでいてめっちゃ楽しかったです。 ホラー作品としての状況ならありがちというかド定番なのですが、ミステリを融合して見ると斬新なクローズドサークルものになっている事に驚きます。なんというか盲点で、ありそうでなかった。そしてただの思いつきのネタで終わるわけではなく、ロジック&トリックを絡めて、しっかりとハウダニット、フーダニット、ホワイダニットを検証していくコテコテの本格物なのが読んでいてテンション上がります。やっている事は懐かしいのに条件設定が新しいおかげで解が見えない。とても好み。 こんなに楽しめたのはアイディアだけじゃなくて、文章の読みやすさや、推理パートでの検証や謎の提示が巧くて先が気になる展開だからだと思う。 また、登場人物の作りがとても親切。人数が多くても把握しやすい。何故かというと例として、ホームズの愛称は明智恭介。美人な星川麗花。山荘オーナーの息子は七宮兼光(親の七光り)。山荘管理人は管野唯人。と言った具合で、キャラクターと登場人物名が一致しているので、この人誰だっけ?という心配が皆無。没入感を妨げず物語にどっぷりハマれるのが良かったです。 よくあるミステリはこうなるよね。というのを多く感じさせ、その展開を少しずらして新しくしているのも新鮮。 "斬新"という言葉を多く書いてしまいましたが本書はその要素の一発ネタではなくて寧ろ1つの要素なだけ。ミステリの舞台装置を整え魅力的な謎と丁寧な伏線や推理展開で楽しめる本格ミステリです。楽しいミステリを堪能できました。オススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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うぁぁぁ。。。。。なんちゅう物語を作るんだ……。これはヤバっ。
久しく忘れていたミステリの衝撃を味わいました。色んな意味で作者凄いわ。 文庫版あとがきより。 単体作品として終えていた前作『贖罪の奏鳴曲』を、出版社の強いリクエストによって続編化して生まれたのが本書との事です。 そこで感じるのが、ただ単に続編を作って商業的に作りました……ではなく、世界観・人物をきちんと掘り下げて意味のある続編にしている事。そして、読者を喜ばせようと、他シリーズである岬洋介のお父さんを対戦相手に添えたり、ここでは書けないあれやこれやが読者サービスやエンタメ性に繋がり、やれる事をやっちゃいました感がとても伝わる事が凄い。伝わり過ぎて愕然としました。。。 読みやすいのは相変わらず。 法廷ミステリの魅せ所もよく、検事vs弁護士の知的な戦いがよい。会話文で力量を感じさせるのも巧い。徐々に出てくる証拠や証言で読者が想像している事件模様が塗り替えられていく様も気持ちよい。もう、いろいろ凄い。 先人に習って『贖罪の奏鳴曲』→本書『追憶の夜想曲』と順番に読みましたがこれは必須で大事。 続編もあるんですね。楽しみなシリーズになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは凄く好みの作品。とても楽しい読書でした。☆9+好み1。
泥棒一族の娘が恋人の家族へ挨拶に伺うと……なんと警察一家の息子だった!この恋はどうなるのか!?土台としてのジャンルはラブコメである。家族紹介からとてもユーモアに描かれており、泥棒家族は豪快な父親やら峰不二子のような母親やらとても楽しい。登場人物が多いのにキャラ立ち抜群で分かり易い。雰囲気はユーモア溢れるドタバタ劇で、笑いあり涙ありで楽しませて貰いました。 では、ミステリとしてはどうかというと、殺人事件の被害者が泥棒一族の祖父であると判明し、この捜査の結末に至るまでが見事に決まり、ちゃんとしております。読後感がとても良くて、これは素直に素晴らしい作品だと思った。こういうの好みなのです。 点数については、ミステリとして事件解決の伏線が弱いなとか、驚きが少ないかな……とか、色々思う所もありますが、作品全体に流れる気持ちが良い雰囲気と、人に薦めたくなる本という事で個人的に満点で。 驚きとか推理に重きを置くのではなく、気軽で楽しいミステリをお求めなら、本作は万人にオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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帯コピーが "21世紀の『そして誰もいなくなった』"。
また釣られるかなぁという軽い気持ちで手に取りましたが、読後は帯に偽りなしで大満足! 『そして誰もいなくなった』、『十角館の殺人』といったクローズドサークル(CC)物。事件中と事件後の2つの時間軸をずらした物語が交互に進んで行きます。 もう出尽くしたと思われたCCの舞台設定は、80年代のSF空想世界を新しく構築。懐古主義な読者も楽しめる。これはとてもよいです。 ネタバレではない導入部からですが、事件後パートで提示される、現場は明らかに他殺なのに犯人不明の関係者全滅型というのがそそります。全員死んでる現場で何が起きたのか。もうこの設定だけでワクワクでした。 実際な所『十角館の殺人』が好き過ぎる気持ちが伝わるオマージュ作品な感覚を得ました。なので、この手の本が好きな人へはオススメ。 私個人が十角館からミステリにハマった口なので、それ系の再来を思わせる、読みたい本が読めた充実感でいっぱいでした。楽しかった。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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☆8+好み補正1。
予想を反して壮大なSF物語でした。読後感も素敵で面白かったです。 2人の主要人物は、文系大学生と理系コンピューターの天才美女。この設定から序盤はキャラ物ラノベ雰囲気。著者の他作品は、刑事もので硬派だったので意外でした。 そして始まりはクリスマスイブの夜、一人寂しくPCの監視バイトをしていた学生の元に、未来からの救難動画が届くわけで、ファンタジーSFものの作品かと思う印象を受けました。 ですが、直ぐに考えが改められます。 動画検証にて、ファイルスタンプは後から変更可能だし、そもそも800年という年月は人類の言語体系が変わり言葉が通じないからフェイクだ。など、検証方法や説明内容に専門用語が出て現実的かつ本格的。軽い作品かと思いきや内容がしっかりしているぞと、頭を切り替えて読書を進めていきました。 どんな話になるかはお楽しみとして、生命の起源や、命に関する哲学やら、黙示録の見立てやら、一途な想いなど、恋愛+SF+ミステリを巧く融合し、ライトに楽しめるよい作品でした。 余談で、 実写ではなくアニメーション映画として見てみたい。客層も合いそう。そんな事も思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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非常にシンプルで必然的な構成を200P台にまとめている本格ミステリ。
万人向けではない小説で、ドラマや人情を求める人には不向き。魅力的な事件や謎のガジェット、構成の面白さが好きな人には刺さります。個人的にとても傑作。 証拠隠滅を得意として完全犯罪を行っていた殺人鬼の佐藤誠。 自供された86件の殺人の中で、警察の目に留まった特徴的な事件が遠海事件。 この事件では、二つの離れた位置にいる被害者の首が切断されていた。 証拠隠滅を得意としている殺人鬼が、何故死体を隠匿せず、かつ首を切断したのか? タイトルにある通り、この1点のWhy done itで最後まで読ませる文章量が無駄なく良いです。構成が関係者によるルポルタージュで行われているのも特徴的な要素です。 理由だけに焦点をあてて期待させるとそうでもない事柄なのですが、この問題や、殺人鬼の印象、本書の取材を通して書かれたルポルタージュ形式。それらが合わさって生まれる本書は素直に巧い!と納得できる本格ミステリでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ0作目にあたる本作は従来の『雪の舞台+殺人鬼』テーマ+多重人格+倒叙物。
これはとても好みの作品でした。 二階堂黎人&黒田研二でのシリーズ作品は、殺人鬼におびえる被害者視点でのミステリでしたが、 二階堂黎人&愛川晶での本作は、主人公が殺人鬼の加害者側です。 主人公は多重人格者であり、体の中に主人格の普通の男性、副人格として女性とミステリマニアの三人格が混在しています。 副人格の目的は、主人格を精神的に追い詰めて体を乗っ取る事。精神的に追い詰める為には陰惨な殺人を目のあたりにさせてショックを与えればよい。ミステリマニアの人格の協力を得て旅行先で皆殺しを計画する非人道的な作品です。 殺人鬼視点で事件が描かれますので陰惨なシーンが苦手な方は注意。陰惨な内容もただの演出だけでなく、主人格にショックを与える理由付けになっているのも凝っています。 趣向としてはミステリというよりサイコものなのですが、ミステリの遊び心が豊富でとても楽しめた作品でした。結末も好み。真相を知るのは読者のみ。というのも良いです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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傑作。SFならではの驚愕の真相と着地。これはすごい。SFとミステリの見事な融合作品です。
20年前の作品なのに人工知能が流行った近年に読んでも遜色がないどころか、よりリアルに感じるのも凄い。 地球とよく似た惑星探査の為に1万人規模の宇宙大旅行。その宇宙船を制御・管理するのは人工知能のイアソン。人工知能イアソンが1人の女性を殺害するシーンから始まる倒叙ミステリです。 さらにクローズド・サークルとなった宇宙船の『舞台=犯人』という図式も特異なポイントです。全編が人工知能視点で描かれますが、館内カメラおよびマイクは自由にアクセス可能なので神の視点で登場人物達の会話・行動を把握できるのです。もう、この設定だけでも興奮でした。凄い事を思いつくものです。 SFや人工知能というと固い小説かな?なんて思ってましたが、人間臭いユーモアとちょっと抜けた感覚で軽く読める。それでいて犯人視点なので、何を考えているんだ?という不気味さのアナログ感もよい。 終盤の探偵役の人間と人工知能のバトルも見ものでした。 かなり特徴的な要素が豊富であり、SFミステリとしては外せない作品でしょう。 市場在庫が少ないのが難。たまたま見つけて入手できてよかったです。オススメ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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傑作でした。80年代の作品ですが、見落としている名作がまだまだあると痛感しました。
ジャンルとしてはミステリ仕立ての喜劇です。 喜劇というと低俗なギャグもの?と誤解が生まれそうですし、殺人事件が起きているので喜劇は無いだろうと指摘を受けそうなですが、文章・構成・会話がセンスある笑いを誘います。訳者あとがきにもありますが、実在するチャップリンが出てくるあたり、その雰囲気を狙っている本でもあります。 話の序盤は妻の尻に敷かれる40代の歯科医の夫が20代の患者女性と良い関係になっていき、苦悩や願望や人生の刺激などのロマンスが展開されます。ロマンス小説から妻殺害への犯人視点の倒叙ミステリとなり、さらには予想外の事が発生し探偵役に選ばれてしまうドタバタが混ざり、男性=犯人=探偵という不思議な構図になるのも魅力。この設定をどう味付けするかが作家の技ですが、クスっと笑えるやり取り豊富のユーモアな小説に仕上がっているのが良かったです。 実在するクリッペン事件やルシタニア号沈没やチャップリンといった時代の雰囲気が感じられるものの導入は作品にも関係しており効果的。 それでいてラストは見事な形での幕切れという、とても良い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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余命わずかになった時、何を感じて何を行うのか?系の物語。老人や病気を扱った作品はいくつか思い浮かぶのですが、若者が自ら寿命を縮めるというのが新しく興味がわきました。ライトノベルのテイストで若い世代向けの青春・恋愛物としても読めますし、テーマを重く突き付けて厳しく文学的にも読める。読者層が幅広い作品でした。とても面白く心に残る作品です。
これ系のテーマは現実で悲観している時ほど、もっと人生を謳歌しようとちょっぴり前向きになる薬要素が生まれます。その刺激も心地よかったですし、主人公が余命の中でやりたい事リストを叶えていくにつれて起こる過去と現実のギャップの真相も心に響きました。 バッドエンドなのかハッピーエンドなのか、受け取り方は人それぞれ。 最後の話の閉じ方がとても素敵でした。タイトルの扱いも見事。 読後に知りましたが、元は2chの掲示板に投下された創作だったのですね。いやーすごいな。 サイトの性質のミステリとはちょっと違うのですが、好みの作品なので☆9で。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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