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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数147件
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海外の文庫で600ページを超える長編ということもあり、話題作と知りながらも、手に取るまで躊躇していた作品でした
しかし実際に読み始めてみると、翻訳の美しさに引き込まれ、情景が詩のように鮮やかに思い浮かぶため、その長さを感じさせませんでした。 本作にはミステリーの要素はありますが、それ以上に、少女の成長や自然の描写が印象的な、文学的な作品でした。 一方、予備知識なく人気作という事で読み始め、ミステリー要素に期待して手に取ってしまった事もあり、そこは少し好みと外れた結果となってしまったのが正直な気持ちです。ただミステリーとしてわざとらしく考察すると巧みな設計が行われているとも感じた為、その感想をネタバレ側で書きます。 文学小説として非常に完成度が高く、とても素晴らし作品でした。きっと多くの読者が、主人公カイヤに心を寄せるはずです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『奇岩館の殺人』に続くシリーズ2作目。本書は1作目の読書を前提とした作りの為、前作の読書は必須です。
前作に続くリアル・マーダー・ミステリーを題材にしたミステリ作品。 マーダー・ミステリーを用いている為、事件の構造レイヤーが多層的で面白い。事件現場、それを演じる層、etc...といったかなり凝った作りになっているのが特徴。舞台の新しさだけでなく、そうした形式を巧みに活かした見事なミステリとして、とても面白く読むことができました。 一方で、やや複雑な内容であるうえに、事件の見立てに海外古典ミステリが題材として使われているため、これらにあまりなじみのない方には難しく感じられ、楽しみにくいかもしれません。かなりマニアックな要素もありますが、作中で取り上げられている海外古典ミステリを読んでいる方には、思わずニヤリとする見立てがあり、より深く楽しめる内容となっています。 帯にあるので書きますが題材は『Xの悲劇』 『黒死荘の殺人』 『ナイルに死す』に見立てた殺人です。 一番感銘を受けたのは、ネタバレ感想であっても古典作品の重大なネタバレになる為に書けない、ある題材が用いられていることです。気づかれなくても作品として問題はなく、古典読者にだけ気づける要素という遊び心で、それが何かは明言できないもどかしさがあります。何故この作品群を選んだのか。作中で脚本を手掛けた田中(もしくは作者)のこだわりの想い、ちゃんと気づけたと思います。作品内の登場人物達にミステリ好きの想いを語らせていますが、そのマニアックさがちゃんと活かされている構成が見事。ラストの真相も素晴らしいです。自分の好みに非常に刺さる、大変満足度の高い一作でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学園を舞台とした理系の「日常の謎」の物語。ミステリー要素は控えめで、科学を取り入れた青春小説です。
ミステリーの要素は控えめでしたが、作品全体に漂う心地よさや、物語の魅力がとても好みに合いました。高校生や学園ものが好きな方には、おすすめな一冊です。 まず、登場人物に嫌なキャラクターがいないのが良かったです。基本的に皆いいやつで、読んでいて気持ちがよい。理系の高校が舞台ということで、科学や数学に関する会話が登場しますが、その雰囲気も楽しく味わえました。物語は4月の入学から始まり、新入生と先輩たちの出会い、部活の勧誘といった、学園ものの王道の展開をたどります。そこに、理系ならではの「日常の謎」が加わり、独自の魅力を放つ作品となっています。 本書は『理学部ノート1』というタイトルからシリーズ化を見据えた作品のようですが、内容自体は本書単体でしっかり完結しています。あらすじ冒頭で高校生活のある結末を描いてますので完結している状態です。勝手な想像ですが、完成後に作品の出来が良かったため、出版社がシリーズ化を決めたのではないかと思うほどです。それほど本書単体でも満足感のある素敵な物語でした。またイラストも綺麗で可愛らしく作品の雰囲気にぴったりで、大事なシーンがより印象的に映りました。なかなか力の入ったシリーズになりそうな気配。次作も楽しみです。 |
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作者買いしている一人なので、新刊が出たことが素直に嬉しいです。点数には好み補正が入っています。
今回は「小説とは何か?」そして「読者」がテーマとなっている作品です。 作者はこれまでもテーマ性のある作品を多く手がけており、『know』では「知る」とは何か、『タイタン』では「働く」とは何かを描いてきました。本作では『小説』というタイトルで「読者」をテーマとして描かれています。『アムリタ』から『2』の頃は「創作」に関する作り手側の視点を描いていましたが、本作ではそれを受け取る側に焦点を当てた作品だと感じます。 本を読むことが好きな人ほど、心に刺さる言葉があるのではないでしょうか。 「そんなに本が好きなら自分で作らないの?」から受けるネガティブとか、「読むだけじゃ駄目なのか」という問いは、読み手側の心情を代弁しており、かつその問いに対して野﨑まど流の哲学的な考えが展開される物語です。今回も「解法」や「解放」となる考え方に触れることができとてもよかったです。小説に対する見え方が変わる一作でした。 |
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あまり期待せずに手に取った為か、予想以上にミステリーとして巧みに仕上がった物語に驚かされました。※誤解しないように言うと驚き系ではないです。
本作はシリーズ第2作目ですが、単体でも十分に楽しめます。1作目はYoutubeネタでミステリーとして小粒な感じでしたが、本書はミステリとしてしっかりとした読み応えがあります。 不動産ミステリーというユニークなコンセプトのもと、間取りを題材にした謎解きと推理が見事でした。間取りの不自然な違和感を手掛かりに、そこに隠された意図をホラーやドキュメンタリーの雰囲気で描き出しています。解釈がやや強引な部分もありますが、ホラー調の緊張感が物語に深く引き込んでくれるので、読書中は不自然なく読めました。 本作は短編集の形式で、11編の物語から構成されています。 どの物語も適度な長さで、謎解きと推理がテンポよく進むため、間延びすることなく最後まで飽きずに楽しめました。 そして間取りを用いた図解ベースの構成になっているため、普段読書をしない人にも楽しみやすい構造になっているのが作品の大きな魅力だと感じました。サクサク読める面白さがあります。 さらに、あらすじや帯に書かれている通り、11の物語を読むと、それぞれの繋がりが見えてくる構造が一品。 「実はこういう話なのではないか」、「あれとあれが繋がって……」と、最終章がなければ、深読み・考察系の小説としてネットで話題になれることでしょう。本書は最後にその構造の真相が丁寧に明かされるため、読後感も非常にすっきりします。 多くの伏線も然ることながら、『間取り』という題材を見事に昇華したミステリーが素晴らしかったです。 期待値としてはパズラー寄りの内容で、ストーリーの面白さよりも、間取りを活用した各物語の繋がりや伏線を楽しんだ作品でした。 一般読者を多く生み出した話題作になるのも頷ける作品でした。 |
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読書前は400ページ上下2段組みという密度に躊躇しましたが、今年の推理作家協会賞受賞作という事で手に取りました。
結果、濃密な読書体験を得られた嬉しい読書でした。ページ数が気にならないというか、この世界観にずっと浸って楽しみたい感覚。 要素はSFのサイバーパンクもの。人体改造、アクション、警察、スパイ、などなど近未来での描き方が豊富。でも物語中の時代設定は第二次世界大戦後という不思議な設定であり、我々のいる世界とは異なるパラレルワードを堪能できます。 個人的にサイバーパンクの小説をあまり読んだ事がなかったので、より一層新鮮な読書でした。 ゲームの『サイバーパンク2077』が好きなので、そのイメージもあったと思うのですが、読書中は体験したことのない世界観なのに、まるで画が浮かんでくるような魅力的なシーンと描写の数々に圧倒されました。 表紙の装丁も素敵。面白かったです。おすすめ。 |
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かなり個性的な作品で新鮮な読書体験でした。あまり経験していない部類の作品で、とても好み。
世の中には、登場人物になりきって事件を体験する「マーダー・ミステリー」というゲームがあります。本作はそれを富裕層の娯楽として実際に殺人が行われる「リアル・マーダー・ミステリー」を舞台に描いた作品です。物語は2つの視点で構成されており、1つ目は、この娯楽に巻き込まれた役割不明の主人公視点。もう1つは運営側の視点で倒叙ミステリ模様です。 娯楽としての「マーダー・ミステリー」を取り入れることで、密室トリックや見立てに対しての「何故それを行うのか?」という疑問が不要になり、すべてが演出として楽しむためという形で成立しているのが斬新で発明ものです。おかげで、お約束のミステリー要素を純粋に味わえる構造になっています。 読者がマーダー・ミステリーのゲームを体験した事がある場合、それぞれのキャラクターが持つ情報や役割の感覚がゲームで体験していると思うので馴染みやすく、楽しめる作品だと思います。一方、ゲームを体験していない読者にとっては、役割のキャラが不自然で「何でこんな行動をするのだろう?」と違和感を覚えるかもしれません。そのあたりの事情を、本作は巧みにコミカルかつユーモラスに描いているのが面白いポイントです。作品全体の雰囲気は主人公視点だと深刻ですが、運営者視点ではあえてユーモアが強調されており、これが本作の味の1つだと感じました。実際の殺人を行うという不謹慎なゲームが舞台でありながら、嫌にならないで楽しめる雰囲気が絶妙です。 話のネタが分っても、最後までどうなるのか楽しめるのも良い。結末はちょっと物切れ感ありますが、物語の着地点は好みでした。 |
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新鮮な読書体験でした。奇抜な設定による古代エジプトを舞台としたミステリー。面白かったです。
主人公は蘇ったミイラというのがまず面白い。古代エジプトの死生観が活用されており、ミイラとして保存された肉体は死者の魂が戻るとされている。なので、主人公が蘇っても普通に村になじんでいる奇妙さが印象的です。 ミステリーとしても、主人公の心臓が欠けている謎や、ピラミッドからのミイラ消失など、あまり目にしたことがない珍しい設定に惹き込まれ、興味津々で読み進めました。 登場人物が全員カタカナなので、最初は少し取っつきにくかったものの、物語が分かりやすく登場人物の配置も整っているので、すぐに慣れることができました。 あまり多くは語れないのですが、要素要素の設定が実はそうだったのかという驚きもあり、かなり満足のミステリーでした。物語としても読後感が良かった点が好みのポイントです。 他思う所として小言になりますが、タイトルに"密室"と書かれているので密室ネタに期待してしまう次第ですが、その密室については物足りなかったです。ミステリー好きに興味をもってもらうタイトルとしてはアリなのかな。応募作時点のタイトル『欠けのある心臓(イブ)』の方が好み。 本書をミステリーとして期待すると物足りなさが出てしまうかも。ただし古代エジプトを舞台とした物語を楽しみ、ちょっとミステリー要素があるぐらいの感覚で読むと楽しめると思います。個人的には物語の面白さを楽しみました。 そして装丁については、表紙絵がナイス。そしてタイトルや見返しに金の装飾を使ったり等、こだわりを感じる内容でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2024年度のメフィスト賞受賞作。
読書前にあらすじを読んだ印象では、転生もので、転生先がスピーカーという面白い設定だな~、ぐらいの気持ちでした。しかし読み終えてみるとラノベによくある転生ものとは違い、奥深いテーマを持った作品だと感じました。個人的に感じたテーマは「思春期の悩み」、そして「生」と「死」についてでした。 ミステリー要素はほんの少しですが、男子高校生の学校生活を舞台とした青春小説となります。そのぐらいの気持ちで手に取ると良いです。 小説の傾向としては、文学小説に近い印象です。 男子高校生たちのノリが面白く、下ネタやくだらない話、そしてテンション高めの会話が絶妙に味を出しています。ここは好みが分かれる部分かもしれませんが、個人的には大いに楽しめました。彼らがバカをやっている姿が日常パートとしての平和であり、毎日の普通が「生」であるという事をワザとバカバカしく描いていると感じました。声だけの山田視点による同級生達とのやり取り、独り言のラジオパート、描き方が文学的で普段読むことが多いミステリーとは違う文章で面白かったです。 本書、実は昔からよくある「幽霊もの」の作品だと感じました。スピーカーへの転生や、男子高校生たちの会話が今風の雰囲気を醸し出していますが、昔からある地縛霊による幽霊もの作品のジャンルであります。 山田はすでに死んでいる為、学校を舞台にすると、卒業などを通じて必然的に「別れ」が訪れます。幽霊作品における別れの描き方。ここをどうするのだろうと読書の序盤から気になっていたのですが、その演出や構成、そしてテーマを文学的なタッチで見事に表現していた作品でした。 読後に著者を調べたところ、純文学を志している方だと知り、非常に納得しました。 下ネタもばかばかしいノリも狙い通り。その後に訪れる「死」というテーマとのギャップが強い印象を与え、効果的に心に響きます。高校生達との「仲間」と「生」に対する、スピーカー山田の「孤独」と「死」。その間に若者の喜怒哀楽の叫びが盛り込まれている感覚です。いろいろな側面から深く考えさせられる読書体験でした。読後感としては、少し気持ちが沈む部分もありますが、だからこそこの作品が読者の心に深く残る、独特の魅力を持っているのだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイムループを用いたファンタジーミステリとしてかなり面白い作品でした。
物語は母の危篤を知った長男のヒースクリフが数年ぶりに生家となる永劫館に訪れる始まり。葬儀に絡む遺言状の公開、集まる親戚や胡散臭い者達、舞台は洋館で海外の雰囲気なのですが、どことなく日本の古典作品を思わせるフォーマットが馴染みやすいだけでなく新鮮に映り面白いです。そして大嵐で陸の孤島となった舞台で連続殺人が発生する流れ。 定番の面白いミステリ要素を用いつつも独自の世界を構築しているのは魔女のルールとタイムループ(死に戻り)の存在。この設定が加わることで、読者に馴染みのある密室や館もの、クローズドサークルといった装置が新鮮に活用されており、その巧みさが見事でした。 シリーズ展開が期待できそうな含みを持たせた終盤も好印象でした。続編が出るなら、ぜひまた読みたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今作も奇想に満ちた仕掛けを楽しむことができました。前作の3作目同様にAI探偵シリーズだから可能かつ納得できる大仕掛けです。前作は素晴らしい作品でしたが、今作もそれに劣らず奇想天外なミステリでした。作者の発想は本当に凄い。
あらゆるものが浮遊する館という舞台の斬新さや、魔法を用いた頭脳戦の様子など、一見するとなんでもアリなトンデモ設定ですが、しっかりとミステリーの面白さも兼ね備えています。推理に必要な手掛かりが散りばめられた謎解きと驚きが楽しめる作品でした。 初期の頃に『RPGスクール』という作品がありましたが、今回の作品はそれに比べて格段にゲームとしての面白さが味わえる読みやすくて楽しい作品でした。 人工知能やVRの要素として触覚による入力の扱いを取り入れているのが面白い。テキストや音声だけでなく未来では触覚による入力インターフェイスやフィードバックがユーザーに提供されるようになるでしょう。この作品はそうした未来的な要素も取り入れています。 今作では人工知能探偵の相以が体を手に入れ、初めて触覚を堪能するシーンがあります。その喜びがとても可愛らしく微笑ましいです。また相以と輔は今回ゲームクリアを目指すライバル関係でしたが、互いに信頼し合っている良いコンビで、その関係性がとても心地よく感じられました。 シリーズを重ねるごとに読者の期待を上回る作品が生まれてきます。今後の展開も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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扱われる要素の数々が無駄なく配置されており、完成度の高い作品でした。若い世代向けの表現がライトなクライムノベルであり、文章も読み易く面白いです。読後感が良いのもポイントです。
物語は崩壊寸前の3人組の地下アイドルのお話。メンバーの1人が人を殺してしまい、相談の結果、3人は死体を山中に埋める事を決意するという流れ。本書はこの犯人視点の倒叙ミステリです。 アイドルが犯人という倒叙ミステリにおいて、読者が犯人に共感できるように芸能の闇を扱う点が上手かったです。その闇の表現がドロドロしたものではないため、嫌な気持ちにならずに読めるのもよいです。また、感情の扱いや表現がとても巧みで、アイドルを応援したい気持ち、同情や共感したい気持ちが芽生え、3人組の物語に惹かれていくのを感じました。 ミステリー的な仕掛けを期待する作品ではないのですが、配役や設定や、ちょっとした驚きなど、作品のまとめ方がとても巧くラストの切り方も好みでした。 |
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かなり好みの作品でした。92年の作品ですが今も問題なく楽しめます。
冒頭は宗教施設や反対運動の過激なデモ模様がレトロな村を舞台とするホラーを感じさせました。そこから監視カメラで囲まれた宗教施設の火災の謎、教祖の死、そしてそれを切っ掛けに生まれた主人公の頭の中に入り込んだ意思。という具合にどんな物語に展開するのか予想できないワクワク感のある読書でした。 あらすじにある通り、SF、ミステリー、恋愛、など当時には珍しいジャンルミックスの作品です。所々に生まれる奇妙な違和感がホラーやSFでの演出と思いきや、ミステリー的な解法で巧く繋がるスッキリ感もあり、かなり巧妙な作品だと感じました。 恋愛要素についてはとても好みなのですが、惜しむべきはもう少し男性と女性が惹かれ合う切っ掛けを描いて欲しかったです。あまり説明がないので一目惚れ感が凄くて、そんなご縁でこの行動力は違和感です。ベタですが男性側に頼りがいがあったり、知的な要素があったり、女性を助けたとか何かしらのエピソードがちゃんとあれば個人的に非の打ち所がないと感じる作品でした。 |
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本書は事前の予習が必要な作品。
対象読者は野﨑まど作品が好きな人、そして野﨑まどが脚本を手掛けた『正解するカド』を視聴している人向けとなります。その内容を知っている人に向けて仕掛けられた予想外の展開の物語となります。狭い読者層向けの作品なのですが、該当する方に楽しめる作品です。ファンの期待に応えている作品と言えるでしょう。 本書はアニメオリジナル作品となった野﨑まどの『正解するカド』のスピンオフ作品を、野﨑まどファンである作者の乙野四方字が依頼を受けて執筆するという物語です。アニメのストーリーを小説化した作品ではなく、完全オリジナルの物語です。 物語の主人公は乙野四方字自身。大ファンの野﨑まど作品に関われる依頼に喜ぶ一面もあれば、その期待故にプレッシャーでまったく書けなくなる悩みが描かれます。登場人物や出版社とのエピソードが本当の事のようにリアルに描かれているのが面白く、どこまでが本当の事でどこから創作なのか不思議な感覚での読書でした。その雰囲気が続いていく中で、まったく執筆できずに病んでいる作者の前にアニメ作品に登場するキャラクターが現れるという流れです。 ジャンルとしてはSFメタフィクション小説。現実や虚構やその他いろいろな要素が入り混じる作品です。そして要素として何を混ぜているかというと、野﨑まどの作風や、アニメの『正解するカド』の内容なので本当に読者は限定的です。ただそれらを知っている人にはわかると思いますが、野﨑まどが最後にどんでん返しのように仕掛ける構成やユーモアを本書特有の世界で行われているのが見事でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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並行世界の存在が実証された世界におけるSF恋愛小説。☆8(+1好み)
2つの作品『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』で1セット。上下巻という意味ではなく、どちらから読んでも楽しめる作品です。 私の読書順序は『僕愛』→『君愛』の順で読んだ後、→もう一度『僕愛』を読みました。 どちらから読むかの参考として 『僕愛』の方は作品の構造を曖昧とし、登場人物達のドラマをメインで楽しめます。 『君愛』の方は作品の構造が明確になり、世界設定を把握して楽しむ作品となります。 ミステリ―好きの人は『僕愛』→『君愛』の順序が良いかと思います。普段から序盤は謎で最後に真相がわかるような作品を読み慣れていますのでこの順序の方で問題なく楽しめます。一方、よく分からない事が苦手で全容がわかった上で作品を楽しみたい方は『君愛』→『僕愛』となります。 時間ものの恋愛作品において、本書の特徴として面白いなと感じたのは、並行世界が全員に認識されている事です。その設定で恋愛要素が含まれると、違う世界線での恋愛に抱く感情はどのようになるのかが興味深く読めました。今の時間軸の恋人と、違う時間軸の恋人を大切にした場合、並行世界を認識している恋人の視点からは嫉妬や羨みの感情はどのような形で納得するのかとか、夜の関係や結婚の瞬間に対してはどうかなど、なかなか踏み込んだSF作品として楽しめました。表紙はライトノベルっぽいですがしっかりと早川書房のSFだなと感じた次第です。 全てを読んだあとでハッピーエンドなのか、そうではないのか、読者に委ねられます。読者がどの世界やキャラをメインで考えるのかで変わる事でしょう。恋愛アドベンチャーゲーム(ある意味平行世界)やSF作品、特に某有名なSF映画の結末に近しいものもあるので、この手の作品はそういう所に落ち着くのかなと感じる次第でした。何はともあれこの手の作品は好みなのでとても楽しい読書でした。 単体でそれぞれ2作品の結末を楽しみ、両方を読むとその関係性をメタ的に俯瞰できる面白い試みの作品でした。 |
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圧巻の作品でした。
単純なパニック小説かと思いきや、人類の進化論に関する著者なりの説を描いた作品。 デビュー作の『QJKJQ』は好みに合わなくて著者の作品を敬遠してしまっていたのですが、その後数々の賞を受賞している事から改めて作品に触れた次第。著者の作品イメージが変わりました。凄く面白かったです。 ジャンルはSF+パニック小説から始まり、その原因に触れる一端として、チンパンジーの霊長類研究やAIの研究まで範囲を広げていく流れ。知識的欲求が降り注いでくる物語なので文庫600ページの厚い本ですが飽きさせない読書でした。ただ万人向けではなく人により好みが分れるかと思います。人によっては論文に近しい固い物語を読まされているように感じてしまうかもしれません。 ざっくり傾向を他作品で例えると、軽いライト向けの鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』のような著者なりの新説を伝える中、描き方はジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』の様に帰結するイメージ。ちょっと誇大かもしれませんが、少しでも興味を持ってもらえればと。そんな新説をミステリとして体験できた内容でした。 人類の進化はこのように起きたのではないか。今のなお人間の無意識に起きている反応はこういう事でないか。神話の物語は実はこういう事ではないのか。などなど、著者なりの説とそれを面白く体験できる物語が素晴らしかったです。 読んだら誰かに話したくなる。そんなエピソードでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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冤罪事件をテーマとした社会派ミステリー。
これはとても圧巻の作品でした。「面白い」以上に「凄い」と思ったのが率直な感想。緻密なストーリー、社会的なテーマ、そしてミステリー仕立ての構成。完成度の高さに唸らされます。素晴らしい作品でした。 読後にシリーズ作品で2作目である事を知りましたが問題なく楽しめました。2作目から読んだ為、どの人物に対しても先入観なく疑いながらの読書。序盤は行方不明者の人探しから始まり、23年前に起きた事件に関係してくるのですが、ここら辺はまだ序の口。どこに着地するのか先が見えない展開が続き500ページ近い本なのに一気に読めた次第。1作目、3作目も上下巻の凄いボリュームで躊躇しますが早めに追っ掛けようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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有名な故に積読していた一冊。何となく内容を知ってしまっていた為読んでいなかったのですが、これはちゃんと読んで正解の一冊でした。
冒頭からの爆発事件がいきなりクライマックスかの如く盛り上がり、そこからどんどん謎や怪しい人物達が登場して先が気になる読書でした。キャラクターが本当によくて、主人公はもちろん周辺に出てくる人物達も人としてどんな姿かリアルに存在する感覚がとてもよい。 ミステリーとしての構造も世界の広げ方が想定外の所へ行くのも素晴らしいし、ちゃんと収束させる物語なのが見事。30年ぐらい前の作品ですが今読んでも楽しめます。 扱う内容がちょっと重めのハードボイルドなので好みが分かれそうな作品ではありますが優れた作品である事は確か。江戸川乱歩賞の作品群の中でも飛びぬけているなと感じます。とても面白かったです。 |
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2019年のCWA受賞作。
以前から気になってはいましたが海外もので580ページのボリュームに躊躇して積読状態でした。 読み始めてみると躊躇していた気持ちは杞憂でした。翻訳はとても読み易く、冒頭からは猟奇殺人模様が描かれ一気に作品に惹きこまれました。 読み終わってみるとページ数の多さは納得のボリューム。各キャラクターの魅力や警察組織模様、飽きさせない連続殺人、社会的な問題、などなど魅力的な要素が豊富であり、かつそれらが絡み合った本作の物語は圧巻の内容でした。海外ミステリの警察ものとしては個人的にオススメ。ただ注意事項としては陰鬱な事件内容なのでそういうのが苦手な方はご注意を。最後の終わり方も好みで満足でした。本書単体で完成されているのですがシリーズとして続きもあるのですね。どうなるのだろう。気になるシリーズになりました。 |
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凄く好みの作品で楽しい読書でした。
ライトノベルやアニメ系が好きなミステリ読者にオススメです。 まず特徴的な要素として【事件の手掛かりは、すべて太字で示される。】という作りになっており、ミステリーや推理小説は難しいという読者に対して読み所が提示されています。なんでこんなネタ要素が太字?と思う箇所も、後の推理でちゃんと活用されるのが面白いです。新しい読者獲得の実験にも感じました。 こういう仕掛けがある事から本書は推理ものに特化している印象が強いのですが、実の所謎解きよりも学園ラブコメのハーレムものとして楽しい雰囲気を味わいました。 例えば事件現場にプールがあるのもミステリで必要な要素としてではなく、水着を描きたかったのだろうなと感じる次第でして、ミステリよりも学園ラブコメの楽しさが強い。でもちゃんと仕掛けは施されている塩梅です。ここら辺は読者の好みが分かれる所なのでラノベやアニメ系が好きな方にお薦めというワケです。 キャラクターがどれも可愛く明るくてよい雰囲気。読後感も気持ちよいので次巻も楽しみです。 |
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