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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数359件
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気軽に楽しめた群像劇でした。
同著者の『悪夢の観覧車』も群像劇でしたが、このシリーズはそういう系統でしょうか?好みなので他の作品も読んでみたくなりました。 あらすじは、女子高生が交通事故に遭遇し、轢かれて瀕死のサンタクロースから身代金を託される所から始まる。 誘拐犯からの指示、意図しないアクシデント、主人公と読者は同じ目線であり、何が起きているか翻弄される物語は先が気になる面白さでした。章を変える毎に視点が変わり徐々に全貌が分る構成も面白い。コンパクトな群像劇ながらミステリ仕掛けの真相もあり気軽に楽しむのに良い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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異世界転生×本格ミステリ 第2弾。
2作目も相変わらず面白かったです。 1作目のような登場人物・舞台紹介の必要がない為、本書は本筋に集中した物語が楽しめました。 舞台は「帰らずの地下迷宮」。ダンジョンもの。 ファンタジー小説としてダンジョン内を進む冒険ものとして楽しめました。さらにミステリとして、ファンタジー特有の一方通行の壁の中の室内で起きる密室・消失事件、毒殺もの、疑心暗鬼、と多くのガジェットを盛り込んだ作品。読者への挑戦までのワクワク感は見事ですし、解答編もそうきたか!と物語の作り方の巧さに驚きました。 ファンタジーだから作れるダンジョンものの新しさ。 そのダンジョンという特性を十二分に活用しミステリへ昇華した素晴らしい作品だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学園ラブコメミステリ ☆7+1(好み)
タイトルと表紙の雰囲気からTheラノベを感じさせますが、中身は謎解きありの学園ミステリ。殺伐さがない各事件の内容と、読後感が非常に良い作品でした。 まずミステリとして面白いのは2話目の『史上最薄殺人事件』。 絶版となって入手不可能になってしまったミステリのシリーズ最終巻。その謎をカバー情報から解き明かすもの。あらすじ・登場人物の設定の情報を元に、ミステリの作法を用いて推理する話。ノックスの十戒や安楽椅子探偵というワードもでておりミステリ好きの読者の心をくすぐります。 キャラクターものとしても男主人公+双子姉妹の三角関係的なトリオも良い感じ。ラノベとラブコメの定石然り、3人で謎を解く探偵仲間の雰囲気がとても読んでいて楽しかったです。 ミステリの謎解きだけに注目すると物足りないですが、ライトに楽しむミステリとしては非常によい作品。 個人的な評価ポイントとして、死なないミステリで、可愛い双子姉妹の学園ラブコメ、事件の真相が悪意なく救済となっている点が好みでした。続編も期待。 |
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数年ぶりに東野圭吾作品を読書。
著者作品はドラマや映画化している有名どころ。これらは敢えて読まないでもいいかな。という心理が勝手に働いて未読でした。久々に読むと流石に巧すぎるという気持ち。やはり有名作品はそれなりに面白いという事を改めました。 事件の描き方、着目する視点が凄い。 ミステリの殺人事件自体を検証するのではなく、事件が起こった町の人々が主点。日本橋という小舞台の中で生きる人々。各々に接点はなくとも同じ町で暮らしていれば何かしら繋がりがでてくる。この繋がりが見えた所はミステリの謎が解けたような晴れやかさを感じました。 各章の登場人物達のエピソードには陰鬱さはなく、日常の謎と人情味を感じるエピローグで構成されており、読んでて悪い気分はしません。万人向けのミステリとして質の高さを感じました。 敢えて難をいうと、尖がったものがないので、面白いけど心に残ったり揺さぶったりするものがない印象でした。これは個人の好みの話。作品の質はとても高く久々の加賀シリーズとしても面白かった。 |
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『仕事とは何か?』をテーマに含む、野﨑まど流のSFエンターテインメント作品。
著者の作品傾向の中では『know』や『2』に近く、おふざけ要素もないSF作品となっています。『know』では知るとは何か?を扱いましたが、本書は『仕事』について哲学をも用いて感じる作品となります。『know』は少しラノベ表現がありましたが、本書のタイタンは近未来SFとした少し硬派寄りな雰囲気の作品です。 物語の舞台は人工知能が発達しあらゆるものがオートメーション化され、人類に仕事という概念がない世界。 この世界観の中で、人工知能に何が起きたのか?何が起きるのかとミステリのホワイダニット作品のような求心力で読ませます。近未来のシミュレーションや冒険ものを感じる飽きない場面転換もよく、仕事に対して帰結する解答もなるほどと思わせた所が見事でした。近年の流行りネタとなる人工知能やタイタンという存在要素も巧く活用している点が好感触。著者の作品がどんどん面白く進化していて、今後も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ最終巻。 北山猛邦の本格ミステリがとても活きており、シリーズ完結編として綺麗にまとまった内容でした。
本書はシリーズを途中で投げてしまった人でも楽しめる配慮を感じます。 1巻⇒2巻⇒3巻⇒7巻 と読んでも大丈夫。 ※シリーズを追わなくなったとしても名作2巻以降だと思われる為。 結末に向けてのおさらいとして、登場人物、探偵図書館、宿敵の犯罪被害者救済委員会の説明、行われるデスゲームの概要を改めて解説しています。また舞台は1巻のシリウス天文台で行われる館ものミステリでありシリーズ読者はワクワクの設定です。 ダンガンロンパのトンデモ設定の中だからできる本格ミステリとして、著者の特性が活きているのが楽しかったです。 霧切響子の過去の物語。五月雨結との関係。儚くも綺麗にまとまりました。 キャラクターデザインとしての霧切の三つ編みにとても深みを感じます。キャラクターへより良いエピソードを盛り込んだスピンオフ作品として満足の作品でした。 シリーズを振り返ると、1巻,2巻がミステリ成分強めで世界観とミステリのやりたい事をやった作品。3巻からはキャラや世界観の説明が混じってミステリとしてもキャラものとしても薄くなってしまった印象。6巻が終盤へ向けて面白さ。最終巻が原点回帰的なミステリと大団円。という印象。 シリーズが終わり寂しく感じますが、著者の新たな本格ミステリを楽しみにしています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ6作目。最終巻が出たためシリーズ読書再開。3~5作目にて物語が一段落した為、本書は最終章へ向けて新たな気持ちで読書。
個人的にはダンガンロンパおよび本書のシリーズ作品として楽しめた内容でした。 ただ本書の評判は悪いですね。その理由が明らかなポイントが2つあります。1つは単体作品ではボツネタになりそうな小ネタトリック集なミステリである事。2つ目は期待させておいて何もないというガッカリさせる要素がある事。 この2つは読書した人はわかります。で、この点が好みの別れ所でしょう。 ただこの2点は『ダンガンロンパだしなぁ。』で納得しました。ダンガンロンパのゲームやアニメの絶望に比べれば、それ系ですね。 本書をただのミステリとして作っても意味がない。シリーズ作品のダンガンロンパとして何ができるか。みたいな事を考えるとアリな気がしてくるわけです。 事前にトリックのヒントが明かされる『黒の挑戦』という存在自体を逆手にとっての探偵同士の攻防。トリプルゼロクラスの凄さ。形式島の2話目は期待させておいてアレな絶望的な落胆(苦笑)。残酷性。狙撃戦としてテーマをしっかり貫いた構成。良い点をみれば3~5作目の落胆とは違って楽しめた作品でした。最終巻まで続けて読みます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今の時代に読んでも気軽に楽しめるライトミステリ。
本書はドイツの古城を舞台としたユーモアある館ものミステリです。 シリーズ作品ですが本書から読んでも問題ありません。 やはり携帯電話のない時代のミステリは好みです。 古城の入り口となる橋が崩落し外部との連絡が途絶えた舞台。各人何かしらの目的を感じる怪しい関係者達。その中で発生する殺人事件。中世の処刑具まで現れて雰囲気は抜群でした。 シリーズ名にもなっている猫のバランスがいいですね。マスコット的な動き。皆が悩んだ所で示される猫からのヒント。こんな所に手がかりが!と、猫が見つけてくれる。雰囲気が壊れないヒントの出し方が巧いです。仕掛けや犯人や舞台の構成などしっかりミステリをしていて楽しめました。 |
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書店に大量に並べてあり、『隠れた名作ミステリ』という帯に釣られて読書。結果満足。
1980年出版なので40年前の作品。掘り起こし作品としての仕掛け販売で流行中みたいですね。 書簡体小説という手紙の文章で作られた短編集です。 手紙という性質上、第三者となる読者が得られる情報は断片的です。文章から人物・境遇・物語、手紙をやりとりしている人の間柄が好意なのか敵対なのかなど、徐々に見えてくる構造が面白い。短編集として、手紙を用いた多様な文芸を味わえます。そして意外な結末を感じる瞬間はミステリのどんでん返しの味わいを感じました。 現代のSNSやメールは直ぐに相手に文章が送れる為、短文を複数回やり取りする性質があります。 40年前の本書が今取り上げられて面白いと感じるのは、そういった現代的なやり取りとは違い、時間の掛かる手紙のやりとり、文章のフォーマット、書き方、相手に伝える文章など、手紙そのものが改めて新鮮に見えたからだと思いました。 おすすめです。 |
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なんというか、お手本のような綺麗なミステリ。
アガサクリスティのような雰囲気・サスペンスの展開。コナンドイルのワトソン&シャーロックホームズのコンビ模様。ミステリの古典作品を現代の世界観で楽しめた感覚でした。残酷な描写、心理的不快感もありません。万人向けです。 物語は自分の葬儀の手配をした当日に殺された資産家の事件から始まります。非公式で警察から依頼を受けている元刑事のホーソンと、そのホーソンから事件の模様を小説にしてほしいと依頼を受けた作家アンソニーを主人公として進みます。 正直な所、事件に奇抜さや惹き込まれるような特徴的な要素はありません。殺人事件が発生して、何が起きたのか?誰が犯人か?を捜査していく流れを作家の視点から綴られていく展開です。事件模様は地味なのですが、この作家視点は面白かったです。ホーソン主体で進む捜査に関わる心境。困惑する作者の頭の中。世の中や仕事の話。色々な思考が楽しめます。そもそも著者自身がTVや映画脚本などそれなりに実績がある方なので、自身の史実を踏まえた経験がリアルで面白いのです。 徐々に手がかりが得られるサスペンス感と作家の思考で、後半までは惹き込まれた読書でした。が、残り100ページの20章ぐらいからは駆け足で事件が収束してしまった印象でした。手がかりや真相も一気に溢れて解決してしまい、真相もあまり驚きがないものでした。なので、それまでどうなるのだろう?と気持ちがワクワクして期待値が上がっていただけに、なんだかスッキリしない読後感でした。 視点を変えれば、映像脚本として質が高いです。 手がかりを小出しにして視聴者を繋ぎ止めたり、作家主人公に同調できたり、映像に不快感がでない事件など。奇抜さはないが敵を作らない万人向け。その方向性だと感じました。翻訳もよく文章も読みやすかったです。 |
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シリーズ6作目。シリーズ内屈指の出来栄えではないでしょうか。惹き込まれるストーリーでとても良かったです。
3,4,5作目...と刊行ペースが速いが質が薄くなっていると感じて手に取るのを躊躇っていました。が、本作はそんな気持ちを払拭する出来栄え。著者の力量と幅を感じた1冊でした。 このシリーズは1作目以降は何処から読んでも大丈夫です。 本書はシリーズ作品とは思えない程、雰囲気が違い、重い話で進行します。 主人公は41歳の母親。シングルマザーとして仕事と家庭の悩み、反抗期の娘との関係。行方不明だった前科のある毒母親の影が身の回りに現れ暗雲が垂れ込まれます。この流れはイヤミスのように陰鬱な気持ちにさせていきました。今までのシリーズ作品のようにライトでサクッとしたイメージと違い、重く感情に響いてくる内容。ただ読みやすい文章は今まで通りなので、重い話で長編とはいえ一気に読めました。 事件の背景も込み入っており面白い。この規模を短編のページ数でやってしまうと手がかりと回答だけの薄いストーリーになってしまいそうなので、長編の作りは功を奏していると感じます。 今回の沙羅は人間にサービスし過ぎなぐらいよく喋り、閻魔のルールとしてどうなのかなと疑問を感じる所はあります。が、ツンデレのように沙羅は基本的に人間に優しい一面があると感じられ微笑ましく思えました。不幸な話の中での希望も描かれており、惹き込まれた読書でした。 このシリーズ気に入っています。読みやすさと物語の面白さは〇。今回は感情に響く話も書けるときたので、次はミステリとして沙羅もが驚くような意外な結末話を読んでみたいと期待してしまいます。 次回も楽しみになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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魔法が存在する世界でのファンタジー×ミステリ。☆7+1(好み)
ただし誰でも魔法が使えるわけではない。魔法全書に記された11種の魔法だけが存在し、それぞれの魔法が扱えるのは各魔女のみ。何でもアリの世界観ではなく、ある程度制限を設けた中での特殊設定ミステリでした。 扱われる事件は、祭りの中で発生した衆人観衆での密室殺人+炎の火災。 剣と魔法の雰囲気も然ることながら、魔女狩りの世界観が組み込まれている雰囲気も面白い。 密室ものでよく議論される、何故密室にするのか?についても、本書では、論理的に解釈できなければ、それは魔女による魔法が扱われた可能性がある為。と、この世界ならではの捉え方で議論されるのが新鮮でした。 本書はミステリというより、バトルファンタジーが主です。ミステリを期待するものではありません。 ただ、扱われる真相と仕掛けはミステリでは前例が思いつかず、本書の世界だから可能にする特有なものな為、とても刺激になりました。唯一無二のネタってそれだけで価値が高まります。 個人的に思う所として、 1000年越しの謎と見立ての事件ですが、『1000年』の扱いにもっと深みが欲しかったです。500年でも200年でも良さそうです。1000という時間。情景や歴史的な変化。もっと深みがあればと思いました。文字だけで"1000年"が頻繁にでるので薄く感じてしまいました。 ルドヴィカとエルシリアの関係について。そんな殺し合うような殺伐とした関係にしないでも良さそうなと思います。ここだけなんかのめり込めませんでした。騎士ウェルナーの成長やルドヴィカとの関係など、王道ファンタジーとしてとても面白く楽しめました。 11種の魔法の存在やキャラクターなどは続編を考慮した作りとなっており、続きの冒険が気になる所ですが、続巻がないのが残念です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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日本昔話を題材としたミステリ。
日本昔話の内容について新解釈を述べるようなものではなく、設定・小道具を用いた作り。 例えば、最初の物語は『一寸法師』が扱われます。小さな侍や、人を大きくしたり小さくする『打出の小づち』がある世界で殺人があったら?という作りです。 SFやファンタジーの特殊設定ミステリは世の中に沢山ありますが、本書の巧い所は特殊な設定を読者に説明する事無く認識させられる事。『一寸法師』『花咲か爺』『鶴の恩返し』『浦島太郎』『桃太郎』、どんな物語か説明せずとも読者はある程度の予備知識がある為です。さらに内容を伝えやすいので商業的にも宣伝し易いですね。中々巧いです。 さて、予備知識もあり物語を認識している中で、ミステリとしてどうだったかと言うと正直な気持ちは大きな刺激が得られなかった印象。ベースの昔話は認識出来ているのですが、そこから変化させた本書の物語が分り辛く感じました。『花咲か爺』『鶴の恩返し』に至っては昔話要素が雰囲気だけ活用されていて必然性はなく感じます。短編集として作品を揃えたような印象。ミステリとして考えなければ『鶴の恩返し』の構造は面白かったです。 『浦島太郎』についてはこの世界を活用したミステリとして見事でした。必然性もあり、これが一番良かったと思いました。 『桃太郎』については、鬼ヶ島での連続殺人CCもので、誰が犯人かのドキドキ感と真相の面白さは中々でした。難点は鬼の名前が把握し辛くて誰が誰だか分り辛い。鬼太(赤鬼)、鬼菊(桃色鬼)とかイメージし辛い。いっそ、赤鬼、青鬼と言った色だけで良かったのでは。 表紙とタイトルがいいですね。売りやすそうです。 |
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忘却探偵シリーズ2作目。1作目を読まずとも本書から楽しめます。
本書は3つの連作短編集であり、各話で扱うテーマは美術です。もう少し正しくいうと、美術の専門的な話ではなく、西尾維新のキャラクター属性が美術スキルを持つ者のお話。というのが正しいです。 話の構築も然ることながら、やはり西尾維新作品はキャラクターと言い回しの文章が魅力的でした。著者のデビュー作の『クビキリサイクル』にてすでに『絵画の天才』というキャラが出てきてしまっているものの、その分野での天才感を感じさせるエピソードを面白く感じました。 謎や事件はあるものの、その推理や結末の驚きに趣があるのではなく、忘却探偵や、関わる事件に登場する人物達の魅力が楽しい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイムトラベルを扱ったSF本格ミステリ。かなり好物でした。
過去の事件を解決する為に時代を遡る設定のミステリは世の中に沢山あります。特殊設定のSFミステリについても他の著者を思い浮かべる事でしょう。そんな中でも本書が光る要素は、しっかりとした硬派な本格ミステリである事と、ストーリーの面白さだと思いました。 病気の妻の呪いに関係する過去の事件。謎の砂時計の声に従い過去へタイムトラベルした夫。事前に調べてある事件の予備知識を参考にしつつ、探偵として事件に関り真相解明を目指します。 SF設定はある種何でもアリになってしまう所、本書は丁寧にタイムトラベルの条件定義を行っています。何ができて、できないのか。時間や移動先、転移可能な空間の量など、その設定のお話自体が面白いので把握しやすかったです。特殊設定系のSFやファンタジー要素と本格ミステリを合わせる作品においては、この条件定義の把握のしやすさがとても大事。ここは問題なく楽しかったです。 ミステリとして見ても、クローズド・サークル内にある館での連続殺人事件。見立てやバラバラ殺人の謎など、盛り沢山な面白さでした。 難点というか欲を言うと、終盤の解答編については、種明かしの演出や説明のわかりやすさが欲しかった所。 沢山の謎がありましたが、解答を一気に並べたような感じで、1つ1つの真相を把握して驚きを味わう間がなかったです。 『実は○○だった!』という演出ではなく『実は〇〇なので、その為こちらがこうなって……』という感覚。合っているのか検証できないまま、一気に答えが流れて次の話に進んでしまう感じなので、せっかくの仕掛けが勿体なく感じました。 デビュー作なので今後も期待。そして今まで応募していて落選してしまっている作品も読んでみたい。展開が読めない先が気になるストーリーと爽やかに閉める読後感がよく、他の物語にも興味が湧く次第です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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普段読まない時代劇もの。
本格ミステリ大賞2019年度受賞や最近のランキングに取り上げられていたので手に取りました。 幕末~明治初頭を舞台とした連作短編小説。実在する江藤新平と本書架空の鹿野師光のコンビによる推理帖です。 最初の1編は『佐賀から来た男』。この2人の出会いの物語。 60ページほどの物語の中、半分までは慣れない時代・歴史もの小説に苦戦の読書。読んでいて失敗したかなと思ったのが正直な感想でした。人物や時代背景が頭に入らない。が、ミステリとして滅多切りの遺体についての謎や真相が明かされるやこの時代にマッチした物語で素直に驚き納得しました。あれ、この本面白いぞと認識を改めた一幕でした。 先に伝えると読後の結果としては歴史・時代小説に詳しくなくても楽しめる一冊でした。登場人物色々いますが、江藤新平と鹿野師光の物語。この2人だけ抑えて置けば問題ないです。時代背景を知っているならより情景が浮かび楽しめるのかも。知らない自分でも楽しめたので苦手意識なくても大丈夫かと思います。 物語は『弾正台切腹事件』、ミステリーズ!新人賞を受賞した『監獄舎の殺人』、『桜』『そして、佐賀の乱』と続きます。 どれもミステリとして仕掛け云々というより、動機が凄い。そういう心情のもとのこの事件か。。。と時代ものと合わせた背景が見事でした。 また、江藤新平と鹿野師光の二人の視点による事件の見え方が様変わりするのにも驚きます。文章として描かれていないのですが、読者はそう感じる事でしょう。このバランスが凄いです。後味・余韻が沁みる物語の数々でした。普段読まないジャンルなだけに新鮮でした。 |
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☆7+1(好み補正)
ファンタジー×SF×ミステリ。 特殊設定ミステリの部類。その設定が隠されている為、モヤモヤの違和感を感じながらの読書。帯にある通り、終盤で明かされる秘密(設定)を把握した上で再読すれば話が理解できて複雑な試みが楽しめるといった作品。構成が複雑なので悪い意味で2度読みが必要。この点は好みが分れそうです。 正直、初回の読書では話が理解できませんでした。ただ理解できず違和感があれど話は面白く読めます。 物語は大きく2つのパートで進行します。 1つ目は石国と帝国の協定に関する物語でファンタジー寄り。協定に違法がないか世界樹を調査する話。<引き金屋>の異名を持つラインハルトが曲者で、戦争へ勃発しそうな緊迫感が漂う展開に手に汗握ります。 2つ目は別チーム視点で世界樹を調査する話。ただしこちらは世界樹の中で殺人(?)事件が発生するミステリパート。 この2つを同時進行で読むのですが、なんだかおかしいのですよね。この違和感の正体を読者はあれこれ想像しながら読む感じです。 特殊設定の秘密が分かれば、ミステリの真相や世界の姿も明らかになるのが見事。 そしてそれが何とも言えない心境になる。正にファンタジー×SF×ミステリな作品でした。 ファンタジー作品も許容範囲なら楽しめると思います。こんな複雑な構成にしないでも良さそうなのですが、初読の違和感と2度目の楽しみが面白さのポイントなのかも。 世界観共に好きな作品でした。 備忘録として自分なりの解釈をネタバレ側でメモします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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著者初読み。
最初の見開き2ページで惹き込まれました。文章はめっちゃ好み。舞城王太郎を感じさせる文章の圧力がとてもいい。 女子高生の主人公が喋り続ける文圧が魅力のライトミステリ……ん。これミステリ?いや、ミステリっぽい展開で駆け抜ける良い意味で不特定ジャンルになる作品という感じ。 主人公が大大大好きな沙紀ちゃんは冒頭で首無し逆さ吊りで発見される。しかも密室。ミステリ好きな展開。首無しと言えば入れ替わり含めて被害者が誰だかわからない。そんな事を思わせた所で、いやいや~首がないからって大好きな友達間違えないっしょ。とバッサリな主人公。 ボケとツッコミで例えると、ボケがミステリ的な要素。ツッコミが現実的な考え。設定だけ書くと東野圭吾の『名探偵の掟』を思い出します。ただ、学園もので女子高生の百合っぽく明るい雰囲気かつ文圧感じる喋りで展開されるととっても新鮮で面白い。ひとまず、彼女を救う為に推理開始!ん。死んでるのに救う? ぶっ飛んだ展開と設定云々も然ることながら、ミステリを用いた女子高生の駆け抜ける喋りの文章が魅力的。 小説として楽しめた一冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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深水黎一郎作品は1作ごとに個性的なテーマを感じます。本作は『読者が犯人を決める』というもの。
事前にネット上で問題編を公開し、誰を犯人にしたいか投票を行った企画作品です。 誰が犯人かを読者が考えるのではなく、投票された人物を犯人にする為に作者はどのような物語を作るのか?という趣旨。 誰でも犯人にできるという事から本書は7つの解決編が収録されています。 一昔前なら多重解決ものと呼ばれる作品ですね。そこを読者参加型にする事で新しさを生み出しています。SNSが一般的になった今の世だからできた作品であり、その着眼が見事です。 講談社は昔から読者を巻き込む企画が多く、金田一少年の犯人当てや最近のメフィスト賞なら木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』でもWEB投票をしています。読者に犯人を決めてもらうという応募企画と作品の実現は版元と著者が見事にマッチした結果だと感じました。 一方この企画に参加していない人。本書単体で楽しむ人にとっては、誰でも犯人になる事からミステリにおける推理や驚きを楽しみ辛い作品となります。一番のネックは、各解決編はご都合主義が多く、ルールに沿った上で何でもアリだと感じてしまう所。指定の人物を犯人する物語を書けばよいので追加設定が多いのが敬遠されそうです。またバカミスのように笑って誤魔化せるような軽い雰囲気で描かれるので好みが分れる事でしょう。 プラス面でみれば、各解決方法は人物の性格が様変わりしミステリの趣旨も変化するのが凄まじい。よく考えられており、かつ作り上げる技巧の凄さが味わえます。先程、追加設定が多いのが気になると書きましたが個人的にはアリです。 過去作の多重解決もの『ミステリー・アリーナ』の作者側の視点に読者を立たせた作品であるとも感じます。著者は過去作でもクラシックのオペラにおける解釈の多様性を述べていることから、1つの物語の中にいろんな可能性を生み出す事に一貫していると思います。これはとても好みです。 という感じで、本書はミステリを読み慣れた人向き。さらに著者の過去作品に触れている程楽しめる作品です。 初めて触れる方でも、どの結末が自分の好みであるかで好きな作品傾向が分る性格判断テストになっているのが面白いと思います。自分は開陽界の意外な流れや玉衡界の〇〇ものになる流れが好きでした。今回選択肢がなかったですが個人的には建物が犯人みたいなトンデモ話が好きなので、自分が想像していない所から答えがくる刺激がやはりミステリの面白さだと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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館もの+数学のミステリ。堂シリーズ3作目。
五感を表現したという五角形の五覚堂。そこで起きた密室殺人。 冒頭で示される館の機構は、「館は動き」そして「回転する」という事。講談社から出版される館もの作品の傾向として、3作目は動く事が多いのでそれに沿ったテーマだと感じます。この奇妙な館と壮大な仕掛けが本作の面白さです。そしてそこに数学を絡めたミステリとしてとてもワクワクします。前作までの評判で苦手とされていた数学話も今作ではエッシャーやフラクタルと言った専門科目ではなく高校・大学辺りで触れるものなので大変読みやすくなっています。個人的にはどちらも好きな話だったので本作は苦なく楽しめました。 惜しい点としては、トリックや犯人特定の消去法について、とても凝った仕掛けを行っているのですが、伏線がないというか唐突に明かされる為に衝撃度が弱く、読者の記憶に残る名作になりそうでなり辛い勿体なさを感じます。仕掛けだけみたら島田荘司の御手洗潔シリーズみたいな大仕掛けで同じ傾向なのに名作にならない。本書の十和田も御手洗潔も変人なのに魅力度が違う。この感覚は何だろうと思う次第。キャラの心の問題だろうか。十和田は数学でドライな感じで近づきがたいからかな。そんな事を思いました。 とはいえ、減点的な考えでは色々気になる事が多い本シリーズですが、加点的に考えればミステリの面白さや魅力が豊富に盛り込まれていて大変好物。続きも読んでいきます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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